修学旅行2015~トロピカルビーチでバーベキューを

    作者:天木一

     焼け付くような太陽の日差し。光をそのまま反射したような白い砂浜。
     その白の先には透き通るような青い海が広がっている。
     どこまでも続く海を眺めれば、溶け合い境界も分からぬような青空に繋がり、絵の具で塗ったような鮮やかな色が目に映った。
     宜野湾市にあるトロピカルビーチは大勢の海水浴客で賑わう美しい浜辺だった。
     6月23日から6月26日までの4日間、武蔵坂学園の修学旅行が行なわれる。
     行き先は沖縄。一足早い夏の南国を仲間達と一緒に過ごす日々は、きっと忘れられぬ楽しい記憶となるだろう。
     
    「今年も修学旅行の時期になったな」
     教室で熱心に旅のしおりを読んでいた貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が、楽しみを隠し切れないような朗らかな顔を上げた。
    「もうみんなは自由行動でどこに行くか決めただろうか? どこも楽しそうで目移りしてしまうが、やはり沖縄といえば綺麗な海に行きたいな」
     真っ青な空に、透き通るような海。沖縄の海は誰もが思い描くような美しい景色が広がっている。
    「わたしは3日目に宜野湾市のトロピカルビーチに遊びに行こうと思っているんだ」
     綺麗な海で泳ぐのも楽しいし、ビーチバレーをして友人と遊ぶのもいいだろう。
    「遊んでお腹が減ったらバーベキューをして腹ごしらえといこう。ビーチにはちゃんと設備があって道具を借りられるし、食材も用意してもらえる。もちろん持ち込みも可能だ」
     具材を串に刺して網に乗っけて焼くだけの簡単な料理だが、野外で賑やかに食べれば何故かそれだけで美味しいのだ。焼き目のついた玉葱は甘いし、とうもろこしには軽く醤油を振れば甘く香ばしい匂いが立つ。肉は塩コショウで焼くだけで炭火は旨みを閉じ込めてくれる。垂れ落ちる油の香りだけでお腹が空いてくるだろう。鉄板もあり焼きそばだって作る事ができる。
    「バーベキューはいいものだ。お腹一杯食べたらのんびりするのもいいし、また遊んでもいい」
     パラソルにベンチもあり、近くにはジュースやかき氷などが売っている売店もあるので、のんびり過ごすには最適だろう。
    「良ければ一緒に遊びに行こう。海水浴もバーベキューも大勢でやったほうが、よりいっそう楽しいものになるからな」
     イルマは楽しみで仕方ないと笑顔で皆を誘う。
    「わたしは海では水鉄砲やビーチボールで遊ぶつもりだ。何か持っていくものがある人は忘れ物がないように気をつけるといい」
     几帳面にイルマは必要な物を全てしおりに書き込んでいた。
    「今から修学旅行が楽しみだ。皆で沖縄を存分に満喫してこよう」
     わくわくした気持ちが伝わり、灼滅者達も頷いて何をして遊ぼうかと相談を始めるのだった。


    ■リプレイ

    ●トロピカルビーチ
     沖縄は快晴。砂浜には太陽が降り注ぎ、海は透けるよう。
     そこに水着姿の灼滅者達が現われた。
    「すげー! 沖縄すげー! 青い! 空青い! でも海は青は青でもエメラルドブルー!」
    「なんかこうあれだな! 海に来ただけでテンション上がるな!」
     武流と晃は今にも駆け出さんばかりに海を見る。
    「うーん、種子島の海も綺麗だけど沖縄の海もいいよねー」
     あるなも気持ち良さそうに風を感じる。
    「『海だー!』ってやつやろうぜ! せーのっ!」
    『海だー!』
     初季の掛け声に合わせて皆で一斉に駆け出した。
    「待たせたな、みんな。……あれ?」
     出遅れた和正は慌てて仲間を追いかける。
    「サンオイルなら用意してある。塗ってあげようか?」
    「えっ。天咲日焼け止め塗るの? 手伝うよ!」
    「いえ、自分で塗れるんでいいです」
     和正と晃の提案を断って初季は体に日焼け止めを塗る。
    「男の子ねー。ってアタシも塗っとかなきゃ」
     笑ってジェーンも体に塗り始めた。
    「わぁお、流石にみんなテンション高いなぁ。でも、とりあえず羽目外しすぎない様にね? と・く・に・男子」
     奏音が人差し指を立てて注意を促しておく。
    「すごい透明! きれーい!」
    「ん……っ、気持ちいい~」
     初季と奏音が笑顔で水をかけ合う。
    「射撃の腕はあるなが上だが、懐に飛び込めばどうかな?」
    「このこの! こっちくるなー!」
     武流とあるなは水鉄砲で撃ち合う。
    「ヤバッ……アキラ! よけて!」
    「え、何? ジェニーちゃん、ちょま、突っ込んでくんなって!」
     イルカのフロートに乗ったジェーンが晃を押し潰した。
    「ニア君もマシュー君も泳ぎ、余裕だよね? そういえば故郷で海水浴とかするのかな?」
    「そういえば、僕、泳げるけど、あんまり海で遊んだことないな。ニアくんは?」
    「僕は泳ぎは得意な方かなあ。故郷ではあまり泳がないけれど、夏はバカンスに行ってたからね」
     織姫が尋ねると、マシューとイーニアスは頷き。3人は海で遊び始めた。
    「沖縄のうーみー! きれーい!」
    「何度見ても素晴らしい景色だ」
     ふわりとイルマが海に足を入れる。
    「イルマちゃんイルマちゃん。ビーチボール入れてくーだーさいっ」
    「よし、いくぞ!」
     ふわりとイルマが仲良くボールを打ちあう。
    「水泳で競争だ!」
    「あの岩場まで先に辿り着いたほうが勝ちダヨ」
     マールが元気に海に入ると、有栖が大きな岩場を指差し一斉に皆が泳ぎ始めた。
    「手は抜かぬ、全力で泳いで行くからな!」
    「競争? いいね、負けんでござるよ?」
     為頼が本気で泳ぎだし、茶化しつつ朧も頑張って泳ぐ。
    「………すごい」
     維津は思わず見蕩れ慌てて後を追いかけ始めた。
    「あっあんまり沖に出ないようにね!」
     クロシェットが注意するが、誰も聞いている様子は無かった。
    「姉様直伝の超速犬かきで一気に距離を離すのよ」
    「ふふ、泳ぎはあまり慣れてませんけど、運動神経には自信アリ! ですの!」
     こころが前に出ようとすると、後ろにリィザがつく。
    「みんながんばれ、がんばれ」
    「どうぞ行ってらっしゃいませ」
     泳げないリゼは応援し、メイド服の明人が写真を撮った。

    「ねえねえ彦麻呂ちゃん、ビーチバレーやろうよ!
    「ビーチボール! やろーやろー」
    「僕も混ぜてくださいー」
     織玻と彦麻呂が楽しそうに砂浜を駆け、遥音も加わり遊び始めた。
    「女子は海辺でキャイキャイしてるみたいだけど……そう言うのは眺めてるだけで十分ね」
     百花が手元の作業に集中する。
    「ええと、これを組み立てて火をつけて……」
     侑二郎が何とか火をつけようと格闘していると、焔も手伝いに隣に並ぶ。
    「どうやら火をつけるのが男子の仕事らしい……ので火起こし頑張るぜ!」
    「あ、お手伝い痛み入ります……頑張りましょう」
     2人は汗を流しながらも何とか着火させた。
    「BBQ~、にく~、おにく~♪」
    「あ、アカツキさんありがとうございます」
     アカツキからクーラーボックスを火夜が受け取る。
    「はい、こっちは野菜一式よ」
    「女子の水遊びシーンを撮る仕事が……あ、だめ? そう」
     逢魔が女子の水遊びを眺めてサボっていた観月に押し付ける。
    「肉のせよう! 肉! いっぱいな~!」
     これでもかと織兎が肉を乗せていく。
     何とか準備が整い肉が焼かれていくと、女性陣も香りに釣られて戻って来る。
    「あって損なしこの一品」
    「逢魔ちゃんはおしぼりありがとう」
     おしぼりを受け取った織玻が手を拭う。
    「こないだもやったけど、美味しいもんよねー……暑いけど」
    「超食べるぞ~~!」
     百花は手で仰ぎながら美味しそうに食べ、織兎は両手に持った串を交互に齧りつく。
    「それはもう盛大に食いたい! 肉だ、肉!」
    「肉は最高なのじゃ~♪」
     焔とアカツキはかぶりついた肉を噛み千切る。
     観月がこそっと焦げた野菜を侑二郎の皿に移す。
    「なんだかしょっぱい、潮風のせいでしょうか」
     侑二郎はそれを苦い顔で咀嚼していた。
    「……野菜嫌いだったっけ?」
     カルビ肉を食べる遥音が黒い野菜を見た。
    「森村くんは何故にそんな黒い野菜ばかり食べているんですか。よく焼けているのが好きなんですか?」
     島カボチャを食べながら火夜が首を傾げた。
    「彼はね、よく焼けている野菜が好きなんだよ」
     そ知らぬ顔で観月は焼けた肉を回収していく。
    「お疲れ様。これでも食べたら?」
    「あぁ、貴方が百花先輩天使ですか、ありがとうございます」
     百花が肉の差し入れをすると、侑二郎は拝みながら受け取った。
    「あっ、魚介もいただきー!」
     彦麻呂が手を伸ばし、楽しそうに食は進む。
    「あーちゃん! こっちこっち!」
    「初めまして、御剣菖蒲っていうぜ、よろしく!」
     春希が菖蒲の事を皆に紹介する。
    「はろはろー。弥勒ことミルクにーさんでーす。ミルクとかみるくんとか適当に呼んでねー♪」
     笑顔で弥勒が挨拶を交わす。
    「……ホントにただの幼馴染だよね?」
     自分の感情に戸惑ったように鴇永が耳打ちすると、春希は嬉しそうに笑ってその腕を取った。

    「今日は我らが部長がいない! わたしが頑張って揉まないと……!」
     悠花が手をわきわきさせた。
    「!? 誰じゃ舞姫を揉むのは!?」
     驚いた舞姫が振り返る。そこには次の獲物を狙う悠花の姿があった
    「悠花、貴様か!?」
    「こらーっ?! こんなところに着てまで過剰なスキンシップはやめーっ?!」
     次の犠牲者となった桜花が足を滑らせて砂浜に倒れ込む。
    「もっちーってばお堅いよ~……ぶぎゅるっ!? お~も~い~。もっちー育ちすぎ! 胸とか!」
     巻き添えを喰らった杏子が胸に押し潰される。
    「ユウカもミラのテクニック、味わう覚悟、出来てるデスヨね?」
     お返しとミラが悠花に襲い掛かる。
    「おやまぁ、ここでも花園の皆はんは、大胆どすなぁ。ちょっと、うちも混ぜて欲しいんよ?」
     まり花も乱入しもみもみ合戦となった。
    「またやってる……ホントみんな好きだねえ」
     横目に楓はBBQの準備を行なう。
    「……よし、火もちゃんと起きたし、そろそろ良いかな? みんなー、焼く準備出来てるよー!」
    「ヒャッハァー! 肉だーーー!」
    「にょわー☆BBQだにぃ! いっぱい食べるにぃ!」
     我先にと岬とひかりが豪快に焼けた肉に飛びつく。
    「これがばぁべきゅ……海辺で派手ーにやるんは初めてなんよ」
     物珍しそうにまり花は焼けた肉を味見して目を輝かせた。
    「おお、肉の焼けるいい匂いがするのじゃ。食欲をそそるのう」
     疲れ切った舞姫が香りに釣られてやってくる。
    「本場のバーベキュー見せてやるデス! 肉を持ってくるデス!」
     ミラがアメリカ風に豪快に肉を焼く。
    「……って、ちょっとミラ、それ焼きすぎじゃない? ほらほら、みんなどんどん食べないと、こげちゃうこげちゃうっっ」
     桜花は焼けた具を次々に配り、自分もかぶりついた。
    「はい、楓さん、あーん♪」
    「って、悠花ちゃん!? ちゃんと自分で食べれるから!?」
     皆の世話を焼く楓に悠花が焼けた肉を差し出す。
    「ほらほら照れないで♪」
    「あ、う……あ、あーん」
     顔を赤くしながらも楓は口を開け、美味しそうに頬張った。
    「パインチャーハン完成! 一番いいのをあんこちゃんにあげるにぃ☆」
    「ひかりん、これ美味しい♪」
     ひかりから受け取り口にすると杏子は笑みを浮かべた。
    「お肉は美味しくとても眼福……! ここがパラダイスか!」
     岬は仲間達の楽しそうな姿を写し続ける。
    「よし! 一番だ!」
     岩に為頼が最初にタッチして、次にリィザが続く。
    「残念、負けちゃった」
     大きな胸を揺らしマールが最後にゴールした。
    「……ん、流されてる。困った」
     浮き輪のラハブは流され、クロシェットに助けられるまで彷徨っていた。
     二人乗りの浮き輪ボートに乗った紫は殊亜に沖へと向かう。
    「みてみて、周り全部海だよ。とっても綺麗だね~なんだか吸い込まれそう」
     そうだねーっと言いながら殊亜が背中を軽く押す。
    「きゃっ……殊亜くんひどいよー!」
     紫が振り返って頬を膨らませると、殊亜はごめんごめんと片手を上げた。
    「ボート引いてくれたら……許そうかなぁ。名前は高速船殊亜号なんてどうかな?」
    「しょうがないなー……ってやるわけないでしょ。じゃあ許してくれるまで離さない」
     そう言って殊亜は紫をぎゅーっと抱きしめる。
    「うぅ……ずるいよ。ゆ、許すから……」
     紫は真っ赤になりつつ、いつか殊亜号に乗ってみせようと心に決めていた。

    ●BBQ
    「よっしゃー! 思いっきり楽しもうぜ!」
     海に向かってレイジが叫ぶ。
    「さあみんな! バーベキューを楽しむわよ!」
     まぐろがてきぱきと準備を進める。
    「わ、私知ってるわ、こういうのをああ言うんでしょう、鍋奉行!」
     セイナが納得したように頷く。
    「ほら、これなんかいい焼け具合よ!」
     まぐろは次々と皆に焼けた牛や豚といった沖縄産の具を渡していく。
    「まぐろは食べている暇がある……ああ、なるほどね」
     どうするのかと沙雪が思っていると、すぐに氷解した。
    「相変わらずまぐろさんは世話焼きですねー」
     仲次郎があーんと肉を差し出しまぐろの口に運んでいた。
    「なんか体感温度上がった?」
     沙雪が他の仲間を見ると、皆も目を逸らしたり頬を赤らめたりしていた。
    「しかしこのお肉美味しいですねー」
    「ほんとうめーよな! いくらでも食えそうだぜ!」
     仲次郎とレイジは美味しそうに食べる。
    「こうやって皆でワイワイご飯を食べるのって、お屋敷ではなかなか無いことだから、とても楽しいわね」
     セイナは皆と食べる楽しさに自然と笑顔を浮かべていた。
    「あ、売店にジュースとかあるんですよねっ。イルマちゃん、買いに行きましょう!」
    「何があるかな、沖縄らしいジュースを買ってみようか」
     笑顔で2人はココナツミルクで喉を潤した。
    「みんなよく泳ぐわねえ。確かに暑いし、日差しもなかなかキツイから気持ちはわかるかもね。ふふっ」
    「……3年前も沖縄に来たが、相変わらず暑い。だからといって極寒の大地よりは幾分マシだが。ほら、ジュース買ってきたぞ」
     BBQを焼きながら海を眺める浅葱に紅がジュースを渡した。
    「それにしても、人間の文化ってやっぱり面白いですよね。肉を焼いて食べる狼なんてさすがにいないもの」
    「人間の文化、ねぇ……ただ、一番の理由は『美味く喰いたい』って事だったんじゃないか?」
     紅が野菜を乗せると、浅葱はしぶしぶ口をつけた。
    「こっちの焼けたよ……」
     プレデは淡々と焼いていく。
    「良い感じに焼けてきたのう……、どんどん食べんとでかくなれんのじゃ!」
     焼けた物を翔が次々と皆の皿に配っていく。
    「あっ、このお肉焼けてる! こっちのもっ!」
     ルオンは肉を狙って次々と箸を伸ばす。
    「野菜も食べないと! それは塩で喰うべきです」
     女物の水着を着た栄人はまるでオカンのような言葉遣いで現われた。
    「お、おう……新堂君、女物の水着ですか……。に、似合ってますね……」
     そう言いながら灯子は視線を逸らして肉を齧る。皆も視線がずれていた。
    「峰山君とフェルノさん、皆の分のお肉焼いてもらえるのはありがたいんですけど、お二人ももっと食べないと損ですよ損々。ね?」
     灯子はお返しにと肉や野菜をたんまり渡した。

    「で、そこの女バーバリアンが持ってるワイルド溢れる山羊肉の塊は何さ?」
    「私はせっかくの沖縄だからヤシガニとか食べたいなーと、思っていたらヤギ肉の塊を担いでいたんだ!」
     小次郎のつっこみに真樹が胸を張って担いだヤギ肉を置く。
    「うわすごいあの山羊肉、まだ原型を留めてる……し、新鮮そうだね?」
     霞はそっと目を逸らした。
    「いや確かに山羊肉食うっつったけどな? ちょっと多すぎねえか?」
     その肉塊を見て源治が首を捻る。
    「他の肉を圧倒する山羊肉の量……これが沖縄の洗礼……」
     アネラは真樹のイケメンっぷりにポッとしながらも、臭いに顔をしかめた。
    「あ、全然怪しいものではないです。どこにでもいる普通のBBQさんが好きなアメリカ人です」
     バフォメットのマスクを被るアイスバーンが肉を焼き始めた。
    「臭っさ! 何これ臭っさ! マジかよ! マジでヤギ肉なんか持ってきたのかよ!」
     六玖が鼻を摘まんで肉を見下ろした。
    「すごく香ばしい臭いがするんですが」
     言葉を選んで美歌が一歩退く。
    「獣臭を消すにはハーブが良いと聞きました」
     そう言って適当に採集したハーブもどきを差し出した。
     どんどんと臭いが立ち込め虫が飛ぶ。それを追い払いながら焼き上がった巨大な肉の塊がドンッとテーブルに置かれた。
    「……って、皆どんだけ張り切って焼いてるんだよ!? これ全員で捌ききれるのか?」
    「折角の機会なので参加と思ったが……まさか、こんなことになるとは」
     肉を見て一樹が驚愕し、誠士郎は遠い目をする。
    「な、なんてことだこれは予想以上に臭いよ! この臭いのが良いんだとか通ぶる予定だったけど……無理無理」
     肉塊を前に、真樹は首を振って男子の方を見た。
    「残さず食べてね!」
    「ちょっと待てアネラ俺の皿にも載せてんじゃ……臭い!」
     六玖が制止する間もなく、アネラが男子の皿に山盛りの肉を盛り付ける。
    「ったく……まあ乗せられちまったもんは腹の許す限りは食いつくす」
     こんな事もあろうかと、源治は用意しておいたメイド服に着替えていた。
    「山羊さん山羊さんおいしくなあれ☆」
     その姿を見ただけで皆は胸焼けしていた。
    「食べ物は粗末に出来ないしな。俺の帰りを待つ者が居る、頑張ろう」
     決死の覚悟で誠士郎は肉を口に運んだ。
    「あ、さっきので美味しくなってるの、凄い複雑かな……」
     霞はサバトでもしていそうな狂乱を自棄な笑みで見渡し、肉を喰らう。
    「俺は普通の肉が食いたいんだ! ヤギ肉を全部焼いてくれ!」
    「よくそんなペースで食えるなお前。なんか、そこに山羊の頭ついたの転がってるからそれじゃね?」
     ハイな気分で肉を喰らう六玖に小次郎が指差す。そこに居たのはアイスバーンだった。
    「わたし焼かれちゃうんです!?」
     慌てて逃げ出すと、面白がってそれを追いかける2人。
    「ぜーぜーなんとか蘇生しました。川の向こうでおじいさんが手を振っていました」
    「はい、烏龍茶どうぞ。これでさっぱりすると思うよ」
     息も絶え絶えな美歌に一樹が少しでも気休めになればと茶を配る。臭いに麻痺してきたのか、皆が獣のように貪っていた。
    「沖縄といえばアグー豚だよねっ! たのしみー!」
     春希は肉をちまちまと齧る。
    「沖縄そばを使った焼きそば作ろーっと」
    「わーすっごい気になる!」
     弥勒が炒め始めると、鴇永が目を輝かせた。
    「おー串焼き野菜も、アグー豚も美味しいな。焼きそばとかもあるのか、豪勢だなー」
     ほくほく顔で菖蒲は沖縄の味を楽しむ。

    ●食べて笑って
    「ファイアブラッドらしく炎相手に頑張らせて貰うぜ……あんま関係ねぇかな!」
     汗を流しながら信彦が火加減を見る。
    「沖縄は暑いけど、東京と違ってあんまり蒸してないのがまだいいかしら」
     樹が網の上で栄養に気を配りながら焼き始めた。
    「うーん、この匂いがまた食欲そそるんだよなァ」
     飲み物を用意した治胡は、香ばしい匂いに頬を緩める。
    「さあみんなー☆どんどんたべちゃってー♪」
     焼き上がった肉を智優利が皿に乗せると、遊がかぶりつく。
    「こんな綺麗な浜辺でBBQなんですげー贅沢だよな」
     七星は串を手に海を眺める。その景色は最高の調味料だった。
    「こういうのはどうですか?」
     美咲がバイトで培った技術で即席バーガーを作る。
    「美味しそー♪」
     肉を焼きながら智優利がバーガーにかぶりついた。
    「教育者を目指すなら子供の口に野菜をねじ込める大人にならないと……」
     紫王がこっそり野菜を載せると、遊はその野菜と睨めっこする。
    「野菜を食わぬものには容赦はせぬ……倍ブッシュだ……」
    「わーったよ! 食えば良いんだろ!」
     更に野菜を用意した嶺滋のプレッシャーに負け、遊は口に押し詰めた。
    「焼けたよー!」
    「こちらの方もできております」
     マールが焼けた肉を次々と皿に並べ、明人も給仕をして回る。
    「お肉お肉」
    「あら、その串はまだやけておりません」
     我先にと肉に手を伸ばしたラハブに、罰ゲームでメイド姿の為頼がすっと焼き上がった串を差し出した。
    「はい、追加ー。……野菜もちゃんと食べるんでござるよー」
    「お肉と野菜をバランスよく食べるとイイヨー」
     朧と有栖が野菜を置くが、ラハブは目もくれずに肉を食べ続けた。
    「お魚も美味しいね」
     リゼは美味しそうに魚介やトウモロコシを食べる。
    『マールさん、食べないのかな? 焼くのは代わるから、食べておいでよ』
     維津が提案すると、大丈夫とマールはお礼に山盛りのお肉を皿に乗せた。
    「ほらほら、為頼様も食べないとっ」
     リィザが焼けた串を差し出す。
    「食べてすぐ動くと体をいためるよ! いためていいのは野菜だけ!」
     クロシェットは食べるよりも世話を焼く。そんな楽しそうな皆を明人は写真に収めた。
    「ふふふ、私達はただバーベキューするだけじゃありません! 実は20日に純さんがお誕生日でしたので、それのお祝いパーティー! も兼ねてバーベキューです! いえーい! 純さんお誕生日おめでとでしたー!」
    「お誕生日おめでとう!」
     星がクラッカーを鳴らし、実季に続いて皆がおめでとうと祝う。
    「え? 僕の誕生日祝いですか! こ、こういうの初めてですから照れますね。あ、ありがとうございます」
     突然の事に純は照れ笑いしながら皆から山盛りのお皿を受け取る。
    「飲み物もありますよ」
     星がジュースを用意する。
    「純君、今日は楽しんでくださいね」
     星は焼き上がった串を手にして微笑む。
    「みんなで食べるバーベキューって、美味しいね♪」
     つばさは楽しそうに肉を頬張ると、口一杯にした純も頷いた。

    「たこ……いた」
     蓮がタコを抱えて持ってきた。
    「凛音お姉ちゃんこれでいいかな?」
    「ええ、これで準備の手際もバッチリよ」
     凛子と凛音が具材を並べた。
    「さて、しっかり焼いて沢山食べるっすよ! お肉も大事っすけど、お野菜もしっかり食べないと駄目っすよ」
     雅は世話を焼いて次々に串を焼いていく。
    「落しちゃったり、ひどく汚れたら替えがありますから、お声かけくださいね」
     薫が箸と皿を配っていく。
    「ちょ、食ってばっかいねぇで誰か手伝え……!
    「輝間の手伝いもするぞ?」
    「っと、サンキューな瑞穂! 助かる」
     次々焼くばかりの流を、隣に立った瑞穂が手伝う。
    「薫、そのとうもろこしはどうするのだ」
    「え、このとうもろこしですか? バーベキューには必須だと思って個人的に用意したのですが、よろしければどうぞ」
     包丁を操っていた凛の疑問に、箱詰めされたとうもろこしを少し薫が取り出す。
    「うん、焼けているからみんなもよく食えな」
     瑞穂が焼けた串を配っていく。
    「俺は焼いてくれてる人たちの分を取り分けておくね!」
     調理する人の分と郁が手元に良く焼けた串を確保した。
    「どうぞ、そば飯を作りました」
     慎悟朗がそば飯を並べると、肉をおかずにどんどん食べられていく。
    「お野菜もしっかり食べてくださいね?」
     一樹は肉ばかりの皿に野菜を盛り付けていく。
    「はい、あーん♪」
     凛子と凛音が串を持って、調理を頑張った男子達に食べさせてあげる。
    「ほらほら、肉食わないからそんなほそっこいんだぞー。もっと食え!」
    「輝間さん、流石に多いかなーと……」
     メルキューレは流が山盛りに置いた肉を前に苦笑した。
    「青空と青い海を見ながらバーベキューとはさすが沖縄と言ったところだ」
     満足そうに凛は焼き上がった肉に口をつけた。
    「一樹も、お肉たべよう?」
    「ええ、いただきます」
     蓮が肉をあーんと持っていくと一樹は口を開け、熱い肉に苦戦しながらも微笑んだ。
    「みんなで準備して、焼いて、一緒に食べて……ご飯がとっても美味しく感じるや。えへへ、何だか楽しいね!」
     肉を食べながら周囲を見渡し郁は嬉しそうに微笑んだ。
    「みんなはしっかり食べたか? 食休みができたら海で泳ごう」
     瑞穂がそう言うと何人も駆け出して楽しそうに水をかけ合う。
    「はは、すっげぇはしゃいでら」
     流は後片付けをしながらそんな景色を眺める。
    「こんな暑いのに元気ですね」
     メルキューレは海で遊ぶ仲間を眺め、スマホで写真を撮った。

    ●沖縄の夏
    「バーベキュー、楽しみにしてたんだ。みんなで食べるごはんって、美味しいよね」
    「マシューくんの言うとおり、みんなで食べればどれもおいしくなるね!」
     マシューの言葉にイーニアスが頷き美味しそうに頬張った。
    「なんかすごい熱気! これだけの人が集まってバーベキューだもんね。お肉からお肉までいっぱいある!」
     織姫は真っ先に肉に手を伸ばした。
    「はぁ~い♪ お待たせだぜ、子猫ちゃん達~! さぁ、俺が精魂込めて焼いた肉を食べてくれ! お礼にアーンしてくれたり。水着のまま浜辺で追いかけっこしてくれると嬉しいな~?」
     欲望丸出しで誠が焼いた肉を並べた。
    「流石まこっちゃんデキる男は違いますね! はい、ご褒美ですよっ♪ あーん☆」
    「熱ぢぃぃぃぃ!?」
     ひらりは熱々の肉をワザと狙いを外して誠の顔に押し付けた。
    「……どうやら教育的指導が必要みたいですね。良いでしょう」
    「ちょっ! タンマタンマ!? もっとキャッキャウフフな展開をお願いしま……アッーー!?」
     絶奈は誠を捕まえると錘をつけて海に放り込んだ。
    「それにしても流石ですね。焼き加減もお野菜の選択も絶妙です」
    「ほんと美味しいですねー! あとであれも釣り上げませんと」
     絶奈とひらりは美味しそうに食べながら、海に必死に顔を出す誠の姿を眺めていた。
    「楽しかった修学旅行も最終日ですわね。ミラ、ルリ、三日間お疲れ様ですわ! お肉たーっち!」
     肉の刺さった串を持ったエルヴィラの声に合わせて魅羅と瑠璃も串を交わす。
    「お疲れ様と一緒してくれてありがと! ミラは……初めてここに来て不安もあったケド、ここのクラブに入れて貰って、エルヴィラちゃんと瑠璃ちゃんとか皆と仲良くなれてすっごい幸せ!」
    「私も楽しかったです。でもまだ終わりじゃないですから、最後まで楽しみましょう」
     幸せそうな魅羅の言葉に瑠璃も微笑み、3人は肉を頬張り、お土産をどうするか相談を始めた。
    「というわけで俺は魚介を持ってきたよ!」
     蓮次がホタテにバター醤油を垂らす。
    「今の時代はそう、肉食系女子です。あ、でも魚介美味しそう……」
     肉を焼きながらも鶫はあれもこれもと皿に引き寄せる。隣の晶子の皿には一際大きな山が出来ていた。
    「あ、や、これはその、いつもはこんなにじゃないんです、よ?」
     晶子は手で隠す。食べながら蓮次の写真を見ていく。
    「あ、ねぇ、私たちも写真撮りません?」
    「あ、写真、良いですね、撮りたいですっ」
    「いいねー、このメンツでも撮ろ撮ろ」
     鶫の提案に晶子と蓮次も乗って海をバックに串を持つ。
    「お、貴堂さん。いい所に!」
    「んぐ、写真か。任せてくれ」
     蓮次が串を食べながらやって来たイルマにカメラを渡す。
    「ではいくぞ、はい……チーズ」
     パシャッと3人の楽しそうな写真が撮られた。 
    「腹ごしらえしたらビーチバレーだな!」
     信彦がサーブを打つ。
    「女子相手に本気でとか……いや、この学園にんなもんは関係ねえな! 全力だ!」
     七星がレシーブでボールを上げる。
    「いくわよ治胡ちゃん!」
    「男共には負けねー」
     樹がトスを上げると、治胡がスパイクを打った。
    「ビーチバレーかぁ、やったこと無いが」
     自身なさそうに嶺滋がレシーブをする。
    「オレの美技に酔いな!」
     そのボールを跳躍した遊が打ち返す。
    「頑張って下さい!」
    「のんびりもいいね」
     パラソルの下から美咲が応援し、紫王がカキ氷を口にした。
     日差しはまだ強い、日が落ちるまでには十分な時間がある。灼滅者達は存分に沖縄の海を堪能するのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月25日
    難度:簡単
    参加:104人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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