バイオレンス魔法少女あーみん

    作者:氷室凛

     夜のオフィス街。蒸し暑い熱気が漂う中、一人のサラリーマンが自販機でジュースを買っていた。
     サラリーマンが缶コーヒーを飲みながら歩いていると、突然その先に一人の幼女が立ちはだかった。
    「魔法少女あーみん、参上!」
    「え……?」
     ひらひらのフリルがついたキラキラの魔法少女コスチュームを着た幼女は、笑顔でポーズを決める。だがサラリーマンはただただ困惑し固まっていた。
    「そういうわけで死んでもらうよっ♪」
     幼女はあどけない笑顔を浮かべたまま、その体に不釣合いなほど大きな機関銃を片手で軽々と構える。
    「えっ? ちょっ、待っ……」
    「問答無用! こんな夜遅くにお外を出歩いてる悪い子は、おしおきだよっ」
    「いや、いくらなんでも理不尽すぎるだろ! っていうか普通、魔法少女の武器って可愛い杖とかじゃないの? 何でそんな物騒なもの持ってるの?」
    「だってあーみんは、とーってもバイオレンスな魔法少女なの!」
     そして幼女は容赦なく引き金を引いた。

    「魔法少女って大抵は正義の味方の側だよな? 少なくとも俺はそう思ってたんだが……いや、ひとまずそれはどうでもいい」
     教室に集まった灼滅者を前にヤマトは首を横に振りながら話し始めた。
    「今回現れたのは魔法少女の都市伝説だ。外見は七・八歳の幼女だが、可憐な外見とは裏腹に性格は凶暴だ。すでに一般人が数人襲われている。一刻も早く倒してくれ」
     都市伝説が使用する技は『ガトリングガン』のサイキックに準拠している。
     ヤマトに指定された日時に夜のオフィス街を歩いていれば、じきに都市伝説と遭遇するはずだ。
    「それじゃ、頼んだぜ。こんなバイオレンスな都市伝説を野放しにしておく訳にはいかないからな。さっさと倒しちまってくれ」


    参加者
    緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649)
    リリシア・ローズマトン(真祖の名を冠す者・d17187)
    那梨・蒼華(蒼氷之華・d19894)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)
    天城・カナデ(ローザフェローチェ・d27883)
    ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514)
    頼導・駈流(珀騎夜煌パンプチェイサー・d33613)
    百目木・善之(一鬼夜行・d33786)

    ■リプレイ

    「魔法少女ってのはよく知らねぇが……ガキのくせに機関銃振り回すのは穏やかじゃねぇな。ガキはもう寝る時間だぜ? 寝れねぇってんなら俺が無理矢理にでも寝かしてやるよ、この拳でな!」
     都市伝説の出現が確認された夜のオフィス街を歩きながら、天城・カナデ(ローザフェローチェ・d27883)は不敵に微笑んで指の骨をぱきぱき鳴らしている。
    「あっ、あーみんちゃんは……あっ翠と、おっ同い年位、なのかあ……」
     少女と見紛うような中性的な容姿の緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649)が弱々しい声で呟く。気弱で優しい翠はこれから戦うであろう都市伝説に対して少しだけ親近感と同情の念を抱いている。だが今回の敵は可憐な見た目に反して凶暴だ。油断すればこちらがやられてしまう。
    「はた迷惑な女の子もいたものなのです。というか、魔法要素皆無なのです。火薬と硝煙の匂いは魔法少女というよりは軍人? アイデンティティは大事にしろなのです」
     ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514)はちょっと怒り気味に言うのだった。一体なぜ、よりにもよって魔法少女が武器に機関銃をチョイスしてしまったのだろうか。
    「あっ……そーいえば、魔法少女につきもののマスコット的な生物(なまもの)がいないのです!? まさかの黒幕は別にいる予感……なわけないのですよねぇ……?」
    「ヤマトからそのような話は聞いていないし、いないと思いたいな……まあ、いずれにせよ被害も既に出ている様であるし、早急に見つけなければだな」
     そう言って那梨・蒼華(蒼氷之華・d19894)はDSKノーズを発動した。
     それから灼滅者達はしばらく夜のオフィス街を歩き回った。やがて、ふいに蒼華が声を上げた。
    「匂うぞ。ここから半径三十メートル圏内に都市伝説がいるはずだ!」
     DSKノーズの効果によって早速敵の存在を察知したようだ。灼滅者達は気を引き締めて周囲に目を光らせる。一同の間に緊張が走った。
    「魔法少女あーみん、参上!」
     そんな中、突然ビルの角から都市伝説が颯爽と姿を現した。ひらひらのフリルがついたきらびやかな魔法少女コスチュームを着込んだ都市伝説は、愛くるしい笑顔でポーズを決めた。だがその右手には物騒極まりない巨大な機関銃が握られている。
    「出やがったな、都市伝説」
     百目木・善之(一鬼夜行・d33786)は相手を睨みつつ身構える。
    「見た目は子供でもとんでもない力を持ってる奴ってのは、妖怪にもよくいるな。子供の姿で相手を油断をさせるのは手段としては悪くねぇけど……こいつはどうだろうな」
     戦闘を始める前に善之はまず百物語で周囲の一般人を追い払った。続いて頼導・駈流(珀騎夜煌パンプチェイサー・d33613)がサウンドシャッターを使用する。人払いと音の遮断が完了し、周囲から一般人の姿が消え失せオフィス街は閑散となった。
    「魔法少女って夢と希望を与えるものじゃないのかなぁ……君みたいなバイオレンスな魔法少女は番組を視聴してる子供達の教育にも悪いから灼滅させてもらうよ。ごめんね」
     高坂・透(だいたい寝てる・d24957)は都市伝説を指差して言った。機関銃で一般人を虐殺する魔法少女などとてもじゃないが子供には見せられない。
    「ふっ……ごっこ遊びに興じるとは、しょせんは都市伝説といえども子供か……魔法少女などという下らぬ妄想、しょせんはまがい物に過ぎん。どうやって生まれたかは知らぬが、我が直々に葬り去ってくれよう」
     リリシア・ローズマトン(真祖の名を冠す者・d17187)は腕組みをして都市伝説を見おろす。
    「むーっ……なんでそんないじわる言うの? もうあーみん怒ったからねっ! 手加減しないよ? こんな夜遅くに出歩いてる悪い子は、あーみんがお仕置きしちゃうんだから!」
     都市伝説は不満そうな顔でぷうっと頬をふくらませている。するとリリシアは嘲笑混じりに言った。
    「クククッ、我は真祖だぞ? 夜の一族が夜に出歩いて何が悪い?」
    「えー……おねーちゃん高校生だよね? 高校生にもなって厨二病? その『真祖』って自分で勝手に作った設定なんでしょ?」
    「ち、違うしっ! 本当に真祖だしっ!」
    「なんか子供の遊びみたいだね……」
    「あ、あなたのだって子供の遊びでしょっ!」

    「盾役が最初に倒れちゃまずいからね」
     戦闘が始まった直後、透は守りを固めるためまず自分にソーサルガーダーを使用した。
     そして翠が、同じスナイパーの駈流に向けてヴァンパイアミストを発動する。
    「ところで魔法少女なのに魔法を使わないみたいだけど、いいのかなぁ? 今のままじゃ『ガトリング少女』じゃない?」
     透は挑発するように言って飛び出し、両手のナイフを交差させて黒死斬を繰り出す。都市伝説はすぐさま地面に転がって回避したものの、そこへ背後から翠が攻撃を仕掛ける。
    「ほっ本当は、こっ攻撃したくないんだけれど……」
     翠は閃光百裂拳を放った。光のオーラをまとった拳の連撃が次々と叩き込まれていく。都市伝説は避けとしたものの全ての打撃をかわしきることはできず何度も翠の拳をその身に受けた。
    「闇夜を照らす焔の使者! 珀騎夜煌パンプチェイサー見参!」
     駈流はそう叫びスレイヤーカードを開放する。パンプチェイサーの姿に変身した駈流はかたわらのキャリバーに声をかけた。
    「いくぜライドキャリバー!」
     キャリバーがエンジン音を響かせながら疾走し、搭載された機銃を絶え間なく発射し始めた。都市伝説が走り出して機銃掃射をやり過ごす中、駈流は首無しライダー奇譚を話し始めた。
     不気味な口調で紡がれる怨恨系の怪談が発したサイキックエナジーが、都市伝説に襲いかかる。
     一瞬息を詰まらせた都市伝説だったが、力を振り絞って何とか片手で機関銃を持ち上げた。
    「今度は、あーみんの番だよっ!」
     都市伝説が機関銃の引き金を絞った。銃声と共に大量の弾丸が撃ち出されて前列の灼滅者の元へと降り注ぐ。
    「おわっ……容赦ねぇな」
     善之は慌てて走り出す。アスファルトの地面に次々と弾痕が穿たれていった。あと少し反応が遅れていたら弾丸の雨に飲まれていただろう。
    「しかし……これが魔法なのか? というかこれ、普通の物理攻撃ではないか?」
     駆け回って銃弾の雨から逃れながら蒼華は都市伝説に走り寄りクルセイドスラッシュを放つ。邪悪な白光を放つ剣の切っ先が都市伝説の肩をかすめた。
     またも直撃とはいかなかった。都市伝説は小さいだけあってすばしっこい。正面からサイキックを直撃させるのは難しそうだ。
    「やれやれ、ちょこまかと……小ざかしい奴だな」
     リリシアはビハインドに目配せする。彼女が前に飛び出すと同時にビハインドは霊障波を放った。
     都市伝説が機関銃で応射して霊障波を消し飛ばすと、地面から漆黒の影の触手がうねりながら生えてきて足元にまとわりついた。リリシアの影縛りだ。
     都市伝説は足に絡みついた影の触手を蹴り払って高々と跳び上がり、触手の手から逃れた。
     そして都市伝説が空中で機関銃を放とうとしたちょうどその時、眼前にカナデが迫っていた。
    「ガキにはちっとデカいだろうけどよ……食らっとけ!」
     カナデは赤く巨大化させた異形の腕で都市伝説の腹部を殴りつけた。正面からの攻撃でも空中では回避しようがない。
     都市伝説は衝撃で後方に吹き飛ばされた。地面を転々と転がった都市伝説は素早く起き上がって体勢を立て直し、カナデに向けてブレイジングバーストを放った。
     淡い光を帯びたオレンジ色の弾丸が大量に射出され、着弾するたび爆炎が広がる。空中にいたカナデは全ての弾丸を体に受け爆炎に飲まれてしまった。
     やがて宙に広がる煙の中からカナデが落ちてきた。彼女は全身煤まみれになっていて服があちこち焼け焦げている。
     善之は落下してきたカナデを受け止めてそっと地面に横たえると、再び駆け出して都市伝説に斬りかかる。
    「魔法少女だが何だか知ったこっちゃねぇな。手前ぇが都市伝説ってなら斬るだけのことだ」
     彼は高々と振り上げた日本刀を打ちおろして雲耀剣を放つ。都市伝説は機関銃の銃身を掲げて斬撃を受け止めた。しばらく両者の力が拮抗していたが善之はあらん限りの力をこめて強引に相手を弾き飛ばした。
    「一旦下がってください、カナデさん」
     ルチノーイはシールドリングを発動した。分裂した小さな光輪がカナデに寄り添い、彼女のダメージを治癒していく。

     距離を詰めるべく翠が駆け出すと都市伝説はすかさず機関銃を撃ってきた。
    「わわっ!」
     翠は姿勢を低くして弾丸をやり過ごしながら距離を詰めていく。そして地面を蹴って跳躍し、炎の渦をまとった足で蹴りを叩き込んだ。いくら相手が幼女とはいえ手を抜くわけにはいかない。
    「いたた……でもそろそろ皆も疲れてきた頃じゃないかな?」
     都市伝説は機関銃を構える。だが突然都市伝説の体に深紅の逆十字が浮かび上がった。
     リリシアのギルティクロスだ。意表を突かれた都市伝説は動きが一瞬止まった。
     その瞬間、蒼華がDESアシッドを浴びせた。都市伝説が手にしている機関銃の一部分が酸に腐食されてバターのように溶けていく。
    「えぇっ!? あーみんの銃がっ!」
     都市伝説は驚きに目を見開いて機関銃を見つめている。とはいえ銃はまだ八割方無事だ。
    「……あっ、でも大丈夫。これくらいならまだ撃てるよ」
     都市伝説はにっこり笑いながらブレイジングバーストを放った。発光する光弾がルチノーイに向けて続々と発射される。
     飛来する弾丸がルチノーイの身に直撃する寸前、彼女の前に透が立ちはだかった。
     ルチノーイの目の前で火柱が上がった。透が身代わりとなって全ての弾丸を受けたのだ。
    「透さん!」
     ルチノーイが叫ぶ。爆炎が晴れると透はぼろぼろになりながらも何とか立っていた。すぐにナノナノがふわふわハートを発動し彼のダメージを癒した。
    「消耗しているのはお互い様なのです」
     ルチノーイは十分な助走をつけてから飛び上がり、都市伝説にグラインドファイアを放つ。都市伝説は機関銃を横にしてで受け止めたが、銃身に亀裂が走った。
    「うわーっ! なんてことしてくれるのっ!?」
     都市伝説が動揺した様子で距離を取ると、善之は影喰らいで追撃を仕掛ける。
    「逃さねぇぜ」
     黒い影が都市伝説の体を絡め取って飲み込んでいく。相手の動きが僅かに止まっている間に灼滅者達はさらに畳み掛けた。
     とどめを刺すべく距離を詰めてくるカナデに向けて、都市伝説は壊れかけの銃を構えて発砲する。
     迫り来る大量の弾丸を身をひねってかわしながらカナデは神薙刃を放った。激しく渦巻く風の刃が都市伝説の体を深々と切り裂いた。
    「終わりだ、魔法少女!」
     駈流は握ったライフルを両手で構えてバスタービームを放つ。閃光のような魔法光線が都市伝説の体を貫いた。
     この一撃が決定打となり、都市伝説は地面にぱたりと倒れ込んだ。
     灼滅者達は遠巻きに様子をうかがった。都市伝説の体が崩れ去り始めているのを確認し、彼らはほっと安堵する。張りつめていた緊張の糸が切れた瞬間だった。
    「彼女が魔法少女として正しい道に進むよう、ジャック・オ・ランタンが導くでしょう」
     駈流はしゃがみ込んで、仰向けに横たわる都市伝説の手を握った。次第に都市伝説の全身が塵のようにばらばらに崩れ去って駈流の手に吸い込まれていく。
    「七不思議使いが都市伝説を吸収するのを見るのは初めてだ。青年がいたいけない幼女を吸収……か。なんか犯罪のような感じがしなくもないな……」
    「い、いえ……別に私はそんなつもりは……」
     都市伝説の吸収を終えた駈流は苦笑を浮かべて手を振る。
    「こ、今度、生まれてくるときは……世界平和の為に、た、戦って欲しいね……」
     翠は消滅した魔法少女へ黙祷を捧げている。都市伝説は全てが人類の敵になるとは限らないので、発端となる噂の内容次第ではそのような都市伝説が生まれることもあるかもしれない、と彼は思うのだ。
    「あそこの自販機で缶ジュースでも買ってみんなで乾杯しようか。都市伝説の吸収のお祝いもかねて、僕がおごるよ」
     透はすぐ近くの路地に自販機があることに気づいたようだ。今は真夜中だったが辺りは蒸し暑い。戦闘後ということもあり喉がカラカラだった灼滅者達は皆引き寄せられるように自販機の前に集まった。
    「おごってくれるのか? 悪いな。じゃあ俺はこれで頼む」
    「わたしはサイダーでお願いします」
     善之とルチノーイが自販機を指差して言った。しかし透は自販機の前に立ったままうつむいている。
     不審に思った皆は透の顔を覗き込む。
    「……ぐーぐー」
    「もしかして寝てるのか?」
     カナデは引き気味に言いつつ透の肩を揺すってみた。それでも透は起きない。鼻ちょうちんをフワフワさせながら立ったまま眠り込んでいる。
    「何をしている。さっさとジュースを買うのだ。真祖である我を待たせるとは何事だ」
     リリシアが透の鼻ちょうちんを突っついて破裂させると、ようやく彼は目を開けた。
    「はっ――!?」
    「すげーな、本当に寝てたのかよ。立ったまま寝る奴なんて初めて見たぜ」
     カナデが呆れ半分に言うと、透はぼんやりした表情で首を横に振る。
    「いや……寝てないって、ちょっとぼーっとしてただけだよ」
    「嘘つけ、鼻ちょうちんまで膨らませてたではないか!」
     リリシアがびしっと指さす。透はあくびをしながら財布を取り出した。
    「あ~眠い……皆どれにする?」

    作者:氷室凛 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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