修学旅行2015~首里城に想う、琉球王国への旅路

    作者:SYO

    ●introduction
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
    ●introduction
     修学旅行のはじまりは、東京から飛行機で二時間半ほどの空の旅を終えて空港に到着して、貸し切りバスで向かう首里城だ。
     首里城を中心として広がる首里城公園。この旅の始まりで訪れる首里城公園では、九か所を合わせてひとつの世界遺産となる『琉球王国のグスク及び関連遺産群』の内の二つ、首里城跡と園比屋武御嶽石門を有する地である。
     これから始まる沖縄の旅の初めとして、かつて栄華を誇った琉球王国の象徴と言っても過言ではない首里城を存分に楽しむのも良いだろう。
     また、この地にある魅力は世界遺産のみではない。鮮やかな朱色に染まる守礼門は訪れた者を迎え入れここで一つ記念写真を撮るのも一興。守礼門を潜り抜けた先には園比屋武御嶽石門が待つ。
     更に先へと進めば歓会門、近くには龍の石像から湧き出る透き通った水を貯め、王宮の飲料水として使われた水場の龍樋が在る。そして、瑞泉門と漏刻門と続く門を越えていけば誰もが一度は写真や映像で見たことがある正殿へと辿りつくのだ。
     外から見るだけでも圧巻の正殿だが、中に入ればこの上ないほどの豪華絢爛な内装が広がる。一階は国王が政治や儀式を行う場でここに残る遺構こそが世界遺産であり、二階はその国王と高位の女官が過ごした場所となり葡萄と栗鼠の彫刻を始めとした煌びやかな装飾が随所に施されている。
     こうした王道のルートを楽しむだけではなく、正殿から少し離れた書院・鎖之間では琉球菓子とさんぴん茶を本土とはまた違った空間で味わうこともでき、
     また中心となる場所からはやや外れるが、西のアザナでは晴れた日には遥か遠くに在る慶良間諸島まで見渡せるなど、全てを回るには時間が足りないほどである。

    「うぅんと、どこを回ってみようかな……」
     修学旅行のしおりを脇に挟み、ガイドブックを広げた花見川・小和(高校生エクスブレイン・dn0232)は首里城公園のどこを回るかといった思案に沈む。
     旅の始まりとして、沖縄の歴史を学ぶも良し、琉球菓子とさんぴん茶に舌鼓を打つのもまた良いものだと、ダークブラウンの瞳の奥に好奇心を瞬かせて次々にガイドブックのページを捲らせる。
     ふと、一頻り悩んだ小和はガイドブックをぱたりと閉じて。行く先決まらずとも足は軽やかに歩みを始め、淡い栗色の髪を揺らしながらに進む道は気まぐれに風任せで。
    「ふふっ、皆さんはどこを回りますか? あの、もし宜しかったら一緒に行きましょう……?」
     これからの旅に期待を膨らませると自然に漏れる笑みを湛えて、修学旅行という大きな旅の中の小さな旅へといざ行かん。
     さあ、悠久の時を経てなお残され続け、琉球王国を想起させる首里城公園のどこを貴方は回ろうか。


    ■リプレイ


     青い空に白い雲。修学旅行で沖縄に来た灼滅者達を迎えるような晴れやかな天気が広がっている。
     そんな修学旅行の最初の地――首里城公園に入ってすぐの守礼門に並び立つ者達。
     その中心にはバンカラスタイルに下駄履いて、何故か説明口調で語る漢の姿。
    「なんとこの首里城は! 2013年修学旅行時より、人知れず、我らが吉祥寺駅の領土となっているのだーッ!」
     周囲の人々が何事かと振り返るほどの声。この一風変わった漢を中心とした集団こそ吉祥寺を守り、さらには首里城をも守りし『駅番』だ。
    「親愛なる駅番白虎隊諸君! 本日の任務だ! 各自、首里城公園内の担当箇所をしかと見回る事!」
     漢――『番長』と皆に呼ばれる大文字の指令が駅番白虎隊に下される。
     「もし脅威あらば即刻対処せよ! 安全を確保次第、我らの象徴である『草』を置き帰還すべし!」
    「以上!では、散開ッ!押忍!」
    「「「おしにん!」」」
     散開の合図に合わせた気抜けた号令を終え。白虎隊が各々目的地へと向かう。その姿を大文字は仁王立ちで見送った。
     指令が終わってすぐに駅番白虎隊の第一陣である善四郎は園比屋武御嶽石門へと辿りつく。
    「ここは時の王様が外出の安全祈願を神様にお祈りした場所……」
     かつて琉球王国の王が各地を巡航する旅に出るときに拝礼した聖地。これから多くの戦いが待ち受けるであろう駅番にとっても外すことは出来ないだろう。
    「この修学旅行の安全祈願をするには打ってつけっすよね!」
     その安全祈願はただの安全祈願ではない。沖縄に在る野良シーサーに襲われない為のものなのだ。
     昨年、一昨年の首里城を制圧する際も野良シーサーの脅威があったらしく、誰も視認したことはないのだが多分……おそらく、いや、きっと存在するのであろう。
     故に善四郎はこれよりの待ちうける白虎隊の戦いと、今後の旅の安全祈願をかつての王のように行う。
    「この修学旅行に参加してる皆が危険に見舞われませんように!」
     そうして、お祈りを済ませた善四郎は『草』を邪魔にならないように置いてこの地を後にする。


     続いて駅番白虎隊第二陣が御庭に到着。その一番槍は奏だ。
     一昨年に参加した際には制圧には成功したものの、入口付近で迷子になるという大失態を犯してしまった奏であるが、今年は一味違う。
    「今年の私はひと味違いますよ! 今年は! 見事! 迷うこと無く! 御庭に来ることが出来ましたよ!」
     かつての失態を過去にして。勝ち誇った台詞を周囲に気付かれない程度の小声で呟いて。
     メインであるこの地を制圧出来なければ駅番の勝利は無いと、野良シーサーに警戒しながら奏は進んでいく。
    「世界遺産すごい……! 大きい……めっちゃ赤い」
     どこか気の抜けた感嘆の声を上げつつも奏は次々に各地を踏破していく。その足取りは自信に溢れ、やはり今年は一味違う――はずだったのだが。
     目標達成の証である『草』を首里城正殿の隅に置き任務達成と安心した時。
    「――で、入り口にはどうやって戻るんだろうなこれ……」
     ――果たして奏は仲間達の元へ戻れるのか?
     そんな一番槍の新たな戦いが始まる少し前、同じく御庭に到着した実季。
    「野生のシーサーって目に見えないのですね。――もし野生のシーサーが襲いかかって来たら、このマタギ白虎が返り討ちにしてやりますよ」
     野良シーサーに注意を払い、現れれば撃退してみせる強い意志と駅番の誇りを見せる実季。その瞳に映ったのは赤く大きい首里城。
    「にしてもすっごいなぁ、これがお城なのですか。すげー赤いですね」
     中でも一際実季が目を奪われたのは装飾の大きな龍だ。
    「あ、あの龍かっこいい。写真撮ろ。うおー、結構テンション上がりますね」
     カメラを構え、パシャリと一枚写真を撮れば、心なしかテンションが上がっていく。そうして、目標を達成した実季も御庭の端に『草』を設置、番長の元へと帰還を開始する。
     実季がちょうど離れた直後、迷っていた奏が付近を通ったのだが不幸にも二人は入れ違ってしまい――。
     駅番の皆が戦っている頃、パンフレットを片手に持ち、学生然とした様子で御庭へと到着したのは法学部1年の一行である。
     勉学に励みながらも交流を深めることを目的とし、首里城のことを学びながらも楽しもうといった4人。
    「蒼い空。白い雲。そしてそれに映える紅い首里城。来て良かったですねぇ」
     そう言葉に漏らすのは一羽につられて法学部1年の面々は首里城へ眼を移す。
    「赤色と金色で豪華だな、綺麗な建物だ」
     首里城をじっと眺める緋鷺はふと、こんな風にのんびりとした時を過ごすことは久しいと感じ。病院に居た頃では考えられない穏やかで楽しい時間も悪くないと感じつつ歩みを進めて。
    「綺麗な赤色だぜぇ……どうやって作ったんだろうなぁ」
     琴緒も首里城の紅さに瞳を奪われる。と、琴緒と並んで歩いていた彩花がぱらりとガイドブックを開きながら真面目な表情垣間見せて。
    「簡単にガイドブックに書かれてますが、幾つかの王国が統治されてできたのが琉球王国なのですね」
     簡略的ではあるが、ガイドブックに載っている琉球王国の歴史。それを実地で見て学べるのはとてもいい学習になって。
    「明るいイメージがある琉球王国ですが、薩摩藩によって隷属化され苦渋の選択を迫られた時もあったみたいですね」
     彩花の語る琉球王国の暗い時代の話から続けて一羽も頷き、自身の知る話を皆に説明しながら理解を深めていく。
    「この建物自体は第二次世界大戦時に破壊された物を建て直した物らしいですね。それ故に世界遺産としての登録は首里城跡地、なのだとか」
    「それで、今見えている正殿は、建て直した際にも出来る限り当時と同じ材料・方法で行ったらしいな」
     緋鷺が補足するように視界に映る正殿を指差す。そんな皆の解説を聞く琴緒は相槌を打ちながら、興味深げに首里城再び見直す。
    「当時の姿そのものを見ているわけでは有りませんが、やはりこの彫刻や螺鈿は素晴らしいですね」
     一羽の言葉に同意する一同。――そんな時、ふと、零れるように彩花から漏れる言葉。
    「しかし、本当に首里城は綺麗ですねまるで色の宝石みたいです。――あ、失礼、私何か変な事言ってしまったでしょうか」
     溢れる想いが気付かぬうちに言葉になって、首里城のように顔を赤く染める彩花。気の良い仲間たちと過ごす時間、この修学旅行だけでなくこれからも皆との時間を作っていきたい。そんな思いを琴緒は胸に抱き、首里城正殿へと法学部1年の一行は入っていくのであった。
    「パンフによるとここが首里城だね」
     同じく正殿前にいるのは『小6椿』の3人。初夏の日差しに負けないようにと、熱中症対策万全で待ちに待った沖縄修学旅行を楽しもうと息巻いているのは咲桜だ。
    「け、結構道のりありましたし、途中の城門も、さすがお城といった感じでしたわね」
     そんなワクワクした咲桜の横で首里城に対する考えを改めている楓。守礼門を潜り抜けた時こそ、本土の戦国時代の城に比べて攻め……といった不穏な考えを一瞬巡らせたのだが、実際に奥まで行ってみればさすがに城と名が付くだけはあると。
    「……すごい、ですね。此処だけ、別の場所、みたいです……」
     と、静かに感嘆の声を出すのは蒼で。楓も「ここが、うなーですか」と興味深げに本土と違った城の形式をまじまじと観察する。
    「……うなー、と言う、のですか。不思議な、読み方、ですね」
     ふと、カメラを片手に咲桜が思いついたように言葉を出して。
    「あ、みんなで最初に首里城をバックにして写真を撮らない?」
    「写真、ですか……?」
    「あ、写真ですかっ! 撮りましょう」
     楓も蒼も同意すれば、偶然近くを通りがかった小和に声を掛ける咲桜。快諾した小和にカメラを渡すと3人並んで首里城の前に立って。
    「ほ、本当に、旅行に来た、という、感じ、ですね」
     と、小和の構えたカメラに視線を移しながら、蒼がどこか恥ずかしげに。対照的に咲桜は「はい、チーズ♪」と合図を上げながら笑顔でピースサイン。そんな二人につられて楽しそうな様子を見せる楓。パシャリと一枚写真を撮って貰えば3人は正殿へと進んでいく。
     中に入れば首里城の異国感溢れる装飾に目を瞬かせ。3人で琉球王国の出自や、本土の城との大きな違いを見て。
    「……なんだか、とっても、華やかな建物、なのですね。――同じ国なのに、違う場所に、迷い込んじゃったみたい、ですね」
    「ちょっとお寺っぽく感じたりするのは中国の様式も汲まれているからなのでしょうか?」
     蒼が興味深げに内装に目を移すと、楓も同意してどのような文化が取り組まれているのか思いに耽り。と、視線に映るのは王が下りてくる専用の階段『おちょくい』で。
    「2階から1階に移動して王座につくなんて、漫画の宇宙戦艦の艦長さんみたいです。……使ったらだめなのかしら?」
     楓の口からが思わず飛びだした言葉。聞いた二人が慌てて止めて、楽しく笑い合う。
    「帰りに土産屋でアクセサリーとか買っていこうよ!」
     そんな咲桜の提案に再び二人が頷いて、3人全員想うのは時間の許す限り楽しんでいようといった気持ちで――。


     白虎隊第三陣の火華とリーライナの二人が目的地の鎖之間へと向かう。
     こっそりと影に隠れるように進むリーライナ、対照的に火華は悠々と進んでいたが、二人とも直行するように鎖之間の中に入って。そして簡易的にも感じるパトロールを終えた二人は鎖之間にてさんぴん茶と琉球菓子を頼み始まるお茶会。
     注文を付けてすぐにやってきた琉球菓子とさんぴん茶の説明を店員から聞いてから二人は説明を受けた琉球菓子に口をつける。
    「あぁ、私ちんすこうくらいしか食べた事無かったですけど、他のお菓子も美味しいですねーさんぴん茶もおいしいですしー」
     火華が口にしたのは『ちいるんこう』というカステラのような琉球菓子で。リーライナはサーターアンダギーを口にして。自ずと出る話題は琉球菓子の話題。
    「この……さーだ? さー、さーざーだぎー……さーあんだーだぎー……? ……とにかくコレ美味しいですねー!」
     沖縄らしい名称に困惑させられるリーライナとまったりのんびりと過ごす火華。二人は外の風景を眺めて楽しみ、そして口で味わって楽しんでいる。
     そして、時間も忘れるほどのんびりして気付けば集合時間が迫っていて。のんびりし過ぎて若干当初の目的を忘れかけたが、思い出したように二人は机の上に『草』を置いて。
    「ふふふ、このパトロールによって我らの吉祥寺駅の力が高まっていくのを感じます」
    「ふっ……いいお茶でした。このお茶の力、確かに我々駅番のものとなりましたよ」
     高まる駅番パワーを感じながら二人は鎖之間を後に。
    「番長への報告はどうしましょうか、いっそ全員分のお土産でも買っていきましょうかね」
     去り際、リーライナの疑問に火華が任せてと答える。その報告内容は――『お茶がおいしかった』。
     仲睦まじい様子の二人組、リリィとエリーゼは首里城を観光し終えた後、鎖之間へと訪れる。
     首里城の形状や文化に強い関心を持って見て回ったリリィと首里城に興味深々……よりかは琉球菓子とさんぴん茶に心ひかれるエリーゼは本土とはまた一風変わった鎖之間で。
    「目で楽しみ舌で味わう……良いものね、これは」
     部屋の内装に外の景色と、視線を順繰りに映しながらエリーゼが琉球菓子に舌鼓を打つ。と、リリィがじっと琉球菓子を見つめて。
    「此の琉球菓子とやらは可愛らしく食べるのが勿体のう御座いますの……、まぁ、食べますけど」
     そんな風に冗談めかしてからリリィも琉球菓子を味わって。二人の時間はのんびり穏やかに流れていく。そんな時、あることに気付いたリリィの視線がエリーゼの口許に。
     琉球菓子の餡が口許に残ってしまっていると気付けば、浮かべるのは悪戯っぽい笑み。エリーゼがその笑みに気付くよりも先に、リリィは口をエリーゼの口許に寄せて。
     近づく口と口。突然に事態に反応できないエリーゼの唇にあわや触れるかと思った直前に少しずらし口許にリリィの唇がそっと触れて。
    「え、な、ぁ……~~~っ!?」
     首里城よりもずっとずっと真っ赤に思えるほどに頬を染めるエリーゼとそれを見て楽しそうに笑うリリィ。
    「折角のお菓子です故、食べ残しはダメですのっ♪」
     二人の旅行に忘れられない1ページを加えて、まだこれから修学旅行は続いていく。
    「こんにちわ、同じ武蔵坂の人ですよね?」
     正殿内を見終え、鎖之間にて休息していた小和に声を掛ける勇介。同席しても良いかとの問いに小和は笑顔で返す。
    「……男一人でお茶するの、ちょっと寂しかったんだ。お茶は大好きなんだけどね」
     互いに自己紹介を終えれば、そんな風に軽くおどける勇介を見て小和も思わず微笑んで、「私もです」なんて、おどけて返して笑い合い。
    「お菓子は……この『たうちぃちょう』ってのをお願いしてみようっと」
     注文を終え、琉球菓子が運ばれてくる間に広がるのは二人の予定の話。楽しそうな勇介の予定の数々を聞いてる内に楽しくなる小和に。
    「沖縄って、東京とかと違う文化や歴史があるよね? 感じたことの無いもの、いっぱい吸収したいなって、それが役者修行の一環になればいいなぁって」
     ふと、話の中で出た『役者』の言葉、思わず気になって問いかける。
    「勇介くんは役者さん、なの?」
     小和の問いかけに、勇介は明るく返す。
    「うん、実は役者志望なんだ」
     勇介の言葉から溢れる役者への強い想い。いつかお芝居見せてね、なんて話せば、いつの間に琉球菓子が机へと。
    「うわぁ、見た目も面白そうなお菓子が来たよ!」
     琉球菓子に目を奪われて。穏やかな時の中で琉球菓子に舌包みを打ちながら話を続けていく。


     西のアザナへ向かう第四陣である蓮次は階段を登りながら、かつても行われた野良シーサーとの戦いを思い起こす。
     多くの仲間を失い、その先で得た勝利だったような気もするが、そんなことはなかったような気もする。
     そんな空想に耽りながら階段を登りきり、振りかえった蓮次の目には首里城内が広がって見え。
    「うお、あッ、ここ城内見渡せるんだ!?いいじゃん!」
    「これなら敵が入り込んでもすぐ知らせられる。……鐘とかあればいいのに」
     と、案内版を読めばかつては鐘が在ったことを知り。
    「あ、昔はあったんだ。えーいいなあ、鳴らしてみたかった」
     そして、鐘に強く心奪われる蓮次。やや遅れて久遠も西のアザナに着き。久遠にとっては二年ぶり、そして二回目の西のアザナ。
    「2年ぶり、か。いつ来ても、この雄大な景色は心が洗われる」
     その風景に、心の泥を洗い流すような気持ちで息を吸って。
    「風は変わらず吹き続ける、か」
     鐘に思いを馳せていた蓮次もいつの間にか久遠に並び、共に風に包まれていく。
    「アーーそれにしても風が気持ちいい――すごいイイ景色」
     くるりと背面を見てみれば、何よりも存在感を見せつける首里城の姿。
    「それに、城はすごい赤い。――沖縄平和だ……吉祥寺とは大違いだ」
     平和で長閑な空気が白虎隊の二人を飲み込んでいく。いつしか時間も忘れて。
    「今までも、そしてこれからも訪れる者達の歓迎するようにこの風景はあり続けるのだろうか?」
     疑問は風に融けていく。だが、不思議と穏やかでありながら力強い風が肯定しているように感じられて。
     去り際、蓮次は城内を見渡した景色を撮り、久遠は手摺へ『草』を結びつける。
    「制圧完了。帰還する」
     白虎隊が西のアザナの制圧を行っていた頃、実も同じく西のアザナへと。
     実は首里城公園の端にある、第三十二軍司令部壕へと花を添えた帰りに偶然この場所へと辿りついたのだ。そこで実は同じ名前が付けられた摩文仁にある壕でかつて戦った笑顔奪われた六六六人衆のことを想う。
     きっと、あの壕へと花を添えたのも、ただ灼滅して『はい、そうですか』と流すことが出来なかったから。報告では、この首里城にもスマイルイーターの放った六六六人衆が居たこともあり。
     吹き抜ける風は何も答えてはくれないが、ただそこに在る者を包み込んでくれる。ひとしきり実はその地で静かに想いを温めた後。
    「――もう、昔のお前に戻っても大丈夫だぞ」
     紡がれた言葉は風に乗り、こことは違う壕で消え逝った六六六人衆へと届いた――だろうか。


     集合時間が近づいてくる。最初の地、首里城公園での時間ももう少しで終わり。
     大文字の元へは続々と駅番の勇士達が戻ってきていた。
     お茶が美味しかったという和やかな報告や高所に見張り用の鐘を設置すべきという有用な報告、龍の装飾がめっちゃ格好良くないとの問いに力強く頷く大文字。
     此度の首里城作戦も成功かと思われた時、急報が入る。戻ってくる部下の数が一人足りないのだ。居なくなった部下の名は奏。
     即座に行われる全員での捜索。幸運にもすぐ見つかり、野良シーサーの餌食になる前に奏は無事に救い出されて。
    「よし、ご苦労! 後は存分に旅行を楽しむがよい! 押忍!」
    「「「おしにん!」」」
     駅番の首里城での戦いは終わりを告げる。これで今年も吉祥寺駅は安泰と言えよう。だが、まだ駅番の全ての戦いが終わったわけではないのだ。そして、修学旅行もまだまだ序章である。
     旅は始まったばかり。まだ多くの出来事が皆を待ちうけるだろう。
     さぁ、旅を続けよう。 

    作者:SYO 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月23日
    難度:簡単
    参加:19人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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