足抜けは豪刀に伏され

    作者:森下映

    「……さあ、ここからどうやって安土城怪人に繋ぎをとるかだが……」
     琵琶湖近くのとある宿。1人の羅刹が座卓の前に胡座をかき、考えを巡らせている。
    「これ以上天海大僧正に味方していては俺までどうなるかわからない。ここはやはり勢いのある、」
     そう言って羅刹が座卓の上の日本酒に手をのばそうとした途端、
     バキイッッッ!!!!!
    「なっ!!!???!!!??」
     部屋の襖が踏み倒され、現れたのは浅葱色の羽織を着た、狼男のような……スサノオ。
    「脱走するとは士道不覚悟なり」
    「う、ウワアアアアア!!!」
     叫び虚しく羅刹はスサノオの巨大な刀に斬り伏せられた。そしてその直後。スサノオが放った畏れが羅刹にまとわりついたかと思うと、羅刹はゆっくりと立ち上がった。
     もう羅刹の頭の中には安土城怪人のもとへ行こうなどという考えは微塵もも残っていない。羅刹は、スサノオの配下に生まれ変わっていた。

    「小牧長久手の戦いで敗北した天海大僧正の勢力で動きがあったみたいだね」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が言った。
     まりんの説明によれば、天海大僧正側の末端のダークネス達が、形勢不利とみて、安土城怪人に寝返ろうと秘密裏に琵琶湖に向かっているようだとのこと。これを許してしまえば、天海大僧正側の陣営は瓦解するかもしれない。
    「そこで天海大僧正は、配下のスサノオに、造反しようとするダークネスの捕縛命令を出したみたいなんだ」
     派遣されるのは、新選組のような衣装に刀を装備した剣士のスサノオ。隊名は、スサノオ壬生狼組という。スサノオ壬生狼組のスサノオによって造反しようとしたダークネスが倒されると、そのダークネスはスサノオの配下に作り替えられてしまう。
    「それで今回、そんなダークネスのうちの1人の羅刹が、宿に泊まっているところをスサノオに襲われる事件を、詠子さんの推理のおかげで予知できたんだ」
     まりんは、桐城・詠子(逆位置の正義・d08312)にぺこりと頭を下げる。
    「安土城怪人に寝返ろうとする羅刹を助ける必要は全くないよ。でも、スサノオ壬生狼組はダークネスだけでなく周囲の一般人も斬り殺す血に飢えた狼のようなダークネスだから、このままでは多くの一般人が被害にあってしまう」
     スサノオ壬生狼組も強力なダークネスではあるが、一般人が無残に殺されるのを見捨てる事はできない。
    「みんなには、このスサノオの撃退をお願いしたいんだ」
     スサノオ壬生狼組のスサノオは、人狼のサイキックに加え、無敵斬艦刀のサイキックを使用する。ポジションはクラッシャー。
    「スサノオ壬生狼組のスサノオは、戦闘力の高い強力なダークネスだから、十分に注意してね」
     スサノオが一般人を倒すのは、戦闘終了後。目撃者を消せという指令を受けているのか、スサノオ壬生狼組の隊規か何かかはわからないが、とにかく戦闘が終わるまでは一般人に手出しはしないようだ。そのため、一般人の避難については、あまり考えなくても良いのは幸いといえるかもしれない。
    「次に、戦闘を仕掛けるタイミングについて説明するね」
     戦闘を仕掛けるタイミングは二択。スサノオが羅刹のいる部屋に踏み込んできた直後か、スサノオが羅刹を倒した直後。
     スサノオが踏み込んできた直後に戦闘を仕掛けた場合、羅刹はこれ幸いと逃走し、戦場から撤退する。
     スサノオが羅刹を倒した直後の場合は、逃走することはないものの、スサノオ配下として戦闘に参加する。
    「つまり、2人のダークネスを相手どることになるね」
     戦闘を有利に進めたいならば、スサノオが踏み込んだ直後に戦闘を開始するのが良いだろうが、その場合、安土城怪人の勢力が増強されてしまうだろう。
     羅刹の名は『岩垂(いわだれ)』。スサノオ配下となって戦闘に参加する場合、神薙使い相当のサイキックを使用。ポジションはディフェンダーとなる。
    「どんな方針をとるかは、良く相談して決めるようにしてね。いずれにしても強敵相手だから気をつけて。じゃ、頼んだよ!」


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)
    レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)
    レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)
    クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)
    日輪・日暈(汝は人狼なりや・d27431)
    日輪・天代(汝は人狼なりや・d29475)
    九鬼・白雪(鏡の国のブランシュネージュ・d32688)

    ■リプレイ


    (「今回はどっちも見過ごせないのよね」)
     和服姿の神薙・弥影(月喰み・d00714)。壬生狼組との戦いは2度目、前回は歯痒い思いをしながらも、確実にスサノオを倒すため、羅刹は見逃すことを皆で選択した。強敵2体、厄介なことは十分わかっている。
    (「この場できっちり灼滅出来るといいのだけど」)
    「これより始まるは余にも恐ろしき百語り……」
     弥影が宿の死角で語りだす。
    「……先ずは何を語りましょうか。聞きたくない人はすぐに立ち去る事を勧めるわ」
     早速周囲の雑霊がざわめき始めた。
    (「知人の見つけてきた一件だ。彼女の代わりにも、役目を果たさねば、な」)
     別の一角。レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)。
    (「しかし、こうも次から次へと事件が起こるとは、ね。不穏な予感しかしないよ」)
     ダークネスとの戦いは、常に不穏との戦いであったとしても。今は闇に溶ける鮮やかな黒のロングコートに包まれ、機を覗う。
    (「2人相手だなんて……体がもつ、かしら」)
     クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)。顔の片側は仮面に覆われ、見ることのできる側の黒い瞳の目元の黒子が、長い睫毛と相まって魅力を醸し出す。
    (「二兎追う者は一兎も得ずとは、言うけれど、本当にそうならないようにしなくちゃ、ね」)
     慢心は命取り。数は多くても自分たちは所詮『なり損ない』だとクラウディオは考えている。けれど。
    (「……半端者にも意地がある、わ。見せて、あげましょう」)
     傍ら、黒い毛並みに炎のような尻尾。霊犬のシュビドゥビもいる。そのシュビドゥビが支援を指示されているのは、スサノオの抑えを担当する日輪・天代(汝は人狼なりや・d29475)。
    (「畏れは私が、滅ぼす。……けれど、スサノオ。どうして……」)
     古の畏れに異様な敵意を燃やす一方、その過去の為かスサノオに対しては複雑な思いを抱く天代。天代とは同族の幼なじみ、日輪・日暈(汝は人狼なりや・d27431)が後ろから見守る。
    (「配下が離反しようとするなんて、組織の末期のようなものね」)
     と、一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)。
    (「どこに移ろうともやろうとする結果はさして変わらないでしょう」)
    (「ダークネスも大変なのですね。同情する余地はありませんが」)
     隣、九鬼・白雪(鏡の国のブランシュネージュ・d32688)。ウイングキャットのイサも寄り添っている。
    (「出来ることならば両方とも始末してしまいたいけれど、どうなるかしら?」)
     考える祇鶴。何れにしてもしばらく後には結果は出る。
    (「オオカミはオオカミでも、群れている方の奴サンか」)
     対して例えるなら、一匹狼にならざるをえなかったともいえる過去を持つ人狼、レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)。いざという時の退路等を確認し終え、物陰に潜む。
    (「ま、どんな事情があるにせよ、面倒事は嫌いだ。さっさと終わらせるよ。その命、喰らい尽くしてやる」)
     斬魔刀をくわえた霊犬のギンとともに、地中で眠る畏れたちもレイン・ティエラに呼び起こされる時を待ち構える。
     そしてその時は近い。浅葱色が皆の目の端を横切り、襖が踏み倒され、
    「脱走するとは士道不覚悟なり」
    「う、ウワアアアアア!!!」
    (「誠を背負うに恥じない仕事っぷりだなァ、おい」)
     レイン・ティエラが呟く。
    (「まあなんにせよ、俺らの敵には変わりないか」)
     斬り伏せられた羅刹岩垂が、畏れを纏い、立ち上がった。


    「男は狼と申しましても、がっつきすぎると嫌われますよ?」
     氷雪の魔女を彩る白い髪。ルーンを刻み込んだ宝石を口元にあてて、白雪が言った。
    「スサノオが調子こいてファッション気取ってんじゃねえよ……!」
     ファッション決めてる。という理由で敵意をむき出しにする日暈。
    「何だ、お前らは」
    「えっと、こういう時なんて言うんだっけ?」
     レイン・ティエラが言った。突然の問いかけに首を傾げるギン。
    「あぁ、確か……御用改めである! だな!」
     獲物を前に笑みを浮かべたレイン・ティエラの足元から畏れが湧き上がり始め、その上へは全てを凍らせ無に帰す、雪の華が散り積もる。
    「まったく、倒されたのならそのまま滅せられてくれてれば楽なんだけど。『喰らい尽くそう……かげろう』」
     弥影が封印を解除。同時、漆黒の狼『かげろう』が姿を現し、
    「その闇を、祓ってやろう」
     レイン・シタイヤマがカードを解放するとともに出でた吼え猛る影の獅子に、ビハインドのモトイも並び立つ。
    「天海僧正から離脱するというのは賢明でしょうね。でも最も最適な答えは、部屋の片隅でジッと大人しくしていることよ」
     祇鶴はかけていた眼鏡を外すと、
    「さぁ、終わりを始めましょう。 サムライごっこもそこまでよ」
    「もえろ、ましろのこころ」
     天代もカードを解放。途端結われていた漆黒の髪がほどけ、白く染まっていく。それはかつての彼女のように。天代は蝋の白刃が黒鞘に収められた白蝋之太刀に手をかけつつ、身体の周囲に無数の帯を浮かべ、命中率を見極める。
    「……やれ」
     スサノオが言い放った。頷くでもなく岩垂は、鬼の腕を振り上げる。
    「いこう、ギン。サポートは任せるよ」
     畏れを纏ったレイン・ティエラとギンが駆け出す。
    (「羅刹はまるでただの人形のようね。畏れで操ってるのかしら?」)
     岩垂には懐から突如現れたかのように見えただろう。弥影は両刃の槍頭を持つ仕込み槍、陽皇の護の朱塗りの柄を握り、
    「忠誠のない相手を支配するのは士道に反しないのかしら?」
    「何?」
     スサノオがちらりと弥影を見た。
    「もっとも、」
     跳ぶ弥影。陽皇の護が激しく螺旋を巻き込んでいく。
    「ここで灼滅するのだから聞いても仕方ない事かしら?」
     弥影が着流しの裾をさばき、上半身のみを沈めた。舞い上がった黒髪の先を、岩垂の拳が掠め、その間に陽皇の護は岩垂の胴体を穿ちぬき、捩じ切っていく。
     当然の血飛沫。しかし、それは岩垂のだけのものではなかった。
    「ギン!」
     言いながらも、レイン・ティエラは岩垂へ斬撃を喰らわせた。ひらり跳んでいたスサノオが、かばいに入ったギンを斬り伏せ、床へ叩き落としたことで開けた視界。天代とスサノオが相対する。
    「天代、」
     スサノオ相手に動きが鈍る天代の前へ、日暈が出た。軟派で軽薄、女の子には馴れ馴れしい。が、身内を守る意気は本物。
    「俺がやるから下がってて。君に何かあったらこころが……」
    「ッ……うるさい、どきなさい……!」
    「わっ、突っ込まないで!?」
     見透かされたと走りこみ、天代は一斉にスサノオへ帯を向かわせる。天代の速い剣筋は身から離れて飛ぶ帯たちにも映され。が、岩垂がその前に立つべく動く。
    「ったく……! じゃ、お前の相手は俺な!」
     天代の帯をくぐり抜け、反り返した体勢から、日暈が岩垂を槍で貫いた。
     さらに上空。まるで寄り添う亡霊のように風を孕んで翻るGespenst に、カチリ祭壇の歯車が動き出す音。レイン・シタイヤマが縛霊手Difference Engine+を振るい、モトイが毒の波動を放つ。過去を多くは語らず、真っ直ぐに生きる少女は従兄の具現化であるビハインドの名前は滅多に呼ばない。己の、戦い抜くための一つの手駒。それもまた彼女らしいのかもしれず、サーヴァントも役目を果たし続ける。
     叩き潰され、毒に侵食された岩垂は庇い叶わず。天代の帯がスサノオの身体中に刺さり、浅葱色が、白い毛並みが紅に染まる。
    「ぬ」
     豪刀で帯を弾き飛ばそうとしたところをすり抜けられたことにだろうか、スサノオが笑みらしきものを浮かべた。
    「祇鶴、援護しますね」
     白雪は魔力を指先に集めると、勝利を意味するルーン文字を光で描く。鮮やかなルーンは白雪が放った矢に写し込まれて祇鶴を射抜き、彼女の超感覚を呼び覚ました。シュビドゥビはギンを癒し、白雪の矢とともに飛び込んでいったイサは勇敢に岩垂へ前脚を振り上げる。が、岩垂も殴りつけようと拳を握り、
    「猫如きが!」
    「前しか見えて、いない、のね」
    「な、」
     特徴的な声。対角、クラウディオが走らせていた影が岩垂を絡めとり、イサのパンチは岩垂の顔面に命中。続き、
    「邪魔な足も止めないとね。そのまま跪かせてあげましょうか」
    「グア!」
     いつのまにか死角に潜んでいた祇鶴が、岩垂の片脚を断った。祇鶴の宣言通り岩垂が膝をつくが、そこへスサノオの発した白炎が蜃気楼となって広がる。
     忠誠か畏怖か傀儡か。岩垂が立ち上がった。


     クラウディオが先立って展開した音の壁の中、戦いは続く。
    (「スサノオ……」)
     天代が黒鞘から白蝋之太刀を抜き、怪しき火を灯した。日暈の放出した白炎が前衛を包む中、緋色の炎の花が飛び、度々白雪の付呪を受けて命中を上げてきた祇鶴と、弥影のかげろうが岩垂へ駆ける。二方から迫る敵。しかし岩垂が見ていたのはそのどちらでもなかった。
    「!」
     天代が思わず目を見開く。祇鶴に身体中を斬り刻まれ、空虚なる眼を持つ影の狼が狂気に嗤うように取り憑くのも構わず、岩垂はスサノオの代わりに炎の花を全身に受けて燃え上がった。次いで岩垂の起こした突風がかげろうを主のもとへ吹き飛ばし、天井擦れ擦れ翻るは浅葱色。
    「後ろ、よ」
     クラウディオの声に一斉に盾役が動く。蹂躙するという言葉にふさわしい豪刀の振り下ろしに、間に合った盾役と庇いきれなかった後衛が斬り刻まれた。
     岩垂は確実に追い詰めている。だが双方の灼滅を完遂するなら1人でも多く最後まで立ち続けることを目指さなければならない。レイン・シタイヤマは状況から回復効率を優先、Difference Engine+を手にした。回復対象を絞るレイン・シタイヤマの考えは、強敵相手にその後非常に有利に働くことになる。
    「レインシタイヤマ、ワタシはレインティエラ、を」
     そう言ったクラウディオにレイン・シタイヤマが頷く。クラウディオは軽く握った手を胸にあて、指輪と『契約』を交わすと、魂の奥深く眠るダークネスの力をレイン・ティエラに注ぎ込んだ。
    「っ、助かった、」
     胸元に傷を受けたせいで軽く咳き込むレイン・ティエラ。ふっと視線を投げた先にギンの姿はない。レイン・ティエラは言葉のかわりにTELLUSを走らせる。この戦いが終わればまた会える。――彼が覚悟の上で挑んでいる、最悪の手段を選ぶ事態にならなければ。
    「黒いほうのレイン、あなたもですよ?」
     白雪は守りのルーンを刻んだ大量の護符を浮かべながら、仲間のために縛霊手の指先に集めた霊力を打ち出したレイン・シタイヤマに言った。そして白雪の操る帯の群れは、護符を絡めとりながらルーンのみを溶かすように写して、決して傷の浅くなかったレイン・シタイヤマの身体を包み込む。
     モトイは岩垂に霊撃を打ち込み、イサは尻尾のリングをキラリと光らせ、シュビドゥビも眼力で回復を補助。レイン・ティエラは獲物へ牙をむくように、銀の髪に白炎の尾を激しくなびかせ、宙をかけあがるように飛ぶと、炎あがるTELLUSで岩垂に蹴りを放った。身体中を炎に包まれる岩垂。しかしまだ倒れはしない。
     が、その肩の上。月の光が瞬間集まって輝いた。あと一撃と判断、跳んでいたのは天代。母から譲り受けた月狼の皮を加工したシューズ、月の足跡が岩垂を蹴り潰し、煌きの中に消滅させた。


    「イサ!」
     白雪が言った。豪刀の前に果敢に飛び込んだイサが消える。今も灼滅者たちが負傷の程度はあれど立ち続けることができているのは、的確な主の命と、それを実行するサーヴァントたちの活躍あってのこと。勝利の約束のように白雪は光で加護のルーンを描き、ひらりふわりと弥影を癒す、仄青い燐火が舞い踊る。
     対し、灼滅者に重く深い傷を与えながらも、盾役を失ったスサノオは、命中率の高い日暈の帯群や、弥影の振るうアンティーククラウンキーを模した杖『月后の冠』、レイン・ティエラの斬撃、レイン・シタイヤマの影の獅子の捕縛は身に受けるしかなかった。だが浅葱色と白い毛並みが朱を通り越して茶に紅にほろびはじめても、炎の花を何度となく戯れるように避け、死角から切り刻もうとする刃先は軽々と全て弾き返してみせる。
     格上。しかしまだ。
    「士道を語る前に、人道を外れている存在に手心など必要無いわよね。 悪いけれど、切腹の代わりにその臓腑抉らせて貰うわよ」
     バベルブレイカーの杭を高速回転、祇鶴が突っ込む。重ねて白雪の付呪を受けてはいても命中率は五分五分。が、スサノオには珍しく空いた背中へモトイの霊撃が命中した瞬間、祇鶴の杭がスサノオの腹を抉り抜いた。
    「介錯してあげるわ。 あら、この場合は腹ではなく首だったかしら、ね……」
     スサノオを穿ったまま、祇鶴の動きが止まる。
    「首にしておくべきだったな」
     スサノオが嗤う。広がる血だまり。スサノオの巨刀も、祇鶴の身体を突き通していた。咄嗟、止めを避けるため、クラウディオは冷静に指輪からスサノオの手足を麻痺させる魔法弾を放ち、白雪は氷の結晶の如きルーンの刻まれた宝石をスサノオの周囲に浮かべると、氷点下の死の世界へ突き落とす。その隙に白雪曰くの『黒いほうのレイン』は、自らの武器を影の獅子に喰らわせるとスサノオに叩きつけ、祇鶴を片腕で引き寄せた。
     トラウマに翻弄されるスサノオへ、今度は『白いほうのレイン』が、瞬時に雪の結晶のオーラを集束させた拳で連打を打ち込む。
     シュビドゥビの回復を得て蝋の刀を構え駆ける天代の足元からは沸き上がる畏れ。天代を守るように追走する、日暈の日輪影狼から生まれた漆黒の影狼。『鍵』を握り魔力を整える弥影。血をも流れず凍る中、スサノオも刀を前に自らの魂を燃やすかのような白炎を上げた。1番に喰らいついたのは影狼。さすがに跳ぶ力は無いか、刃を向け踏み込むスサノオ。が、
    「グ」 
     混濁した記憶に居座るものはあっても。天代の斬撃が影狼を追い抜き、スサノオを斜めに切り裂いた。逃さず弥影が月后の冠で殴りつけ、ありったけの魔力を注いで跳び抜いたところを、日暈の影狼が飲み込む。
     ゆらり。1秒、2秒、そして3。
    「此れが、最期とはな」
     言葉直後、弥影の魔力の爆発とともに、スサノオは塵となり、消えていった。
    「……終わりか」
     レイン・ティエラが言った。
    「長居は無用だ。さっさと帰ろうか」
     しばらくすれば、サーヴァントたちも復活するだろう。灼滅者たちは手当をした祇鶴を連れ、宿を後にする。
    「……ひがさ」
    「ん?」
     歩きながら、今は元通りの黒髪に戻った天代が日暈に言った。
    「……こころが、なに」
    「ああ……何かあったら、こころが一人になっちゃうだろ」
     日暈が答える。天代は少し間を置き、
    「……あなた、は?」
     日暈もまた『覚悟』をしていた1人。日暈は答えず、無言で前髪をかきあげた。

    作者:森下映 重傷:一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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