武者アンデッド北へ~高倉一族

    作者:長野聖夜

     ――真闇、とも言うべき暗闇に包まれた、廃墟と化した武家屋敷。
     人どころか、まるで生きとし生けるものすべてを拒むような暗闇に包まれたその場所に、『白』としか形容できぬ、けれども、その言葉とは決して相容れぬことの出来ぬ邪悪な声が、響き渡った。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     その声を聞くや否や場が歓喜と、平伏する様な、畏怖に満たされる。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者たちを呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」
     何所か厳かさを感じさせる『白』き声がそう告げると……真闇が、歓喜に包まれるかのように、激しく蠢いた。
     
     
    「……一気に動き出したな、本当に」
     教室の片隅で考え事をしていた北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) が思わずと言った様子で唸るように呟いていると、灼滅者たちが振り返り、彼のもとへと集まってくる。
     優希斗が、やって来た灼滅者達に軽く会釈をして、1つ、息をついた。
    「……白の王・セイメイが、アンデッド化した高倉一族と呼ばれた、とある強力な武家の一族を、北海道に援軍として送り込もうとしているらしい。場所は……すでに廃墟となって久しい、暗闇に包まれた、武家屋敷だ。……多分、高倉一族の住まいだったんだろう」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が思わず息を呑む。
     灼滅者達が驚愕から覚めるのを待つように時間を取ってから、でも、と優希斗は小さく息をついた。
    「彼らが出現するまでには、まだ少しだけ、時間がある。……戦力は、少しでも削っておきたい。……皆、何とかして来て貰えるかな?」
     優希斗の言葉に、灼滅者達はそれぞれの表情で返事を返した。
     
    「高倉一族は、全部で6人ほどの武家の一族。棟梁の名は、高倉・義時。刀捌きは見事なものだったという。実力的には、君達が束になって挑まなければ戦えないレベルの強さだ。そして……親族であり、家臣でもあった5人もまた、いずれも、君たち1人、1人より強く、しかも義時への忠誠心が強い。ポジションは全員ディフェンダーだ。普通に考えれば、君たちが勝つことは難しい。でも……」
     再び一つ息をつく優希斗に、釣り込まれるような表情になる、灼滅者達。
    「……この一族と戦うことが出来る時間は、10分位だ。10分を経過すると、地に飲まれるようにして、高倉一族が北海道のダンジョンに転移する。だから、君達には彼等が現れるまで待機してもらって、現れたら一体でも多く、彼らを灼滅して欲しいんだ」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が頷くのを確認すると、彼は、ちなみに、と軽く付け加える様に囁きかけた。
    「君達が逃げたとしても、高倉一族は追撃はしてこない。目的はあくまでも北海道への援軍だからね。だから、危険だと感じたら、逃げて構わない。……皆が生きて帰ってくることのほうが重要だと僕は思うから」
     灼滅者達が頷くのを確認すると、優希斗が深呼吸を一つ。
    「高倉一族は、いずれもが勇猛な戦士だ。弓の腕前も確かだが、それ以上に刀で切りあうことを望む。だから、彼らが使うサイキックは、日本刀か、バトルオーラか、ノーライフキングの持つサイキックのいずれかに似た技になるだろう。……皆、十分に気をつけてくれ」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は首を縦に振った。
     
    「……このタイミングで、白の王セイメイが援軍を送るということは、例の札幌のダンジョン事件が大きく進展する前触れだと思う。だから……無理をしない程度で構わないが、皆にセイメイの配下を可能な限り灼滅して、その戦力を削いで来て欲しい。……どうか気をつけて」
     優希斗の見送りに灼滅者達は首を縦に振ると……静かにその場を後にした。


    参加者
    ポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524)
    獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595)
    近衛・朱海(煉驤・d04234)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    水城・恭太朗(俗即物・d13442)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507)
    紅月・春虎(翼侯・d32299)

    ■リプレイ


     真闇、と呼ばれる程の闇に包まれたその屋敷の中は、空気が湿っていて、嫌な感じが拭えない場所だった。
    「これだけ暗いと怖い通り越して足元気を付けることで精一杯だな」
     高倉一族復活の予定地である、武家屋敷の最奥部に向かう途中で言葉通り足元に気を付けながら呟いたのは、水城・恭太朗(俗即物・d13442) 。
    「嫌な感じが拭えないっすねぇ。ラグナロクってだけで、ダークネスも自分達も大騒ぎのこの状況で、これっすからね~」
     同意するように呟くのは嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)  。
     周囲の状況を念入りに調べ、何処にどう灯りを配置するかを検討していた紅月・春虎(翼侯・d32299) が、程なくしてその姿を確認する。
    「あれが、高倉一族、ですね……強力で時間制限付き……最悪ですね……」
     同時にほんの少しだけ、春虎が高倉一族を見ていて、嫌な予感を覚える。
     ――それが、何かを察するよりも早く。
     真闇の中から不意に一条の光線が放たれ、獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595) を貫いた。
    「?!」
    「……気付いている?!」
     接近してきた武者から一太刀浴びせかけられながらも、殺界形成を展開しつつ、スティックライトを相手の左右に投げ放ちながら、緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507) が、思わず叫んだ。
    「くそっ! 止めるべきだったか……!」
     ヘッドライトを相手に向けながら恭太朗が状況を理解し、思わず舌打ちを一つ。同時に、周囲に灯りを展開する為に、キャンプ用の大き目のライトを置いた。
     ライトに照らされて映し出されたのは灯油。
     先程、永遠が投げ込んだものだ。
     元々、灯油に点火して、武家屋敷を火の海にして灯り代わりにするつもりだったのだが、準備をした段階で、バベルの鎖で高倉一族が察したのだろう。
     状況によってはドついてでも永遠を止めるつもりだったが、少しだけ読みが浅かったかと、微かに唇を噛む恭太朗。
    「これはしまったね。だが、とにかく灯りを展開するのが先だろう、君」
     ポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524) が状況を把握しながらも、不利を感じさせぬ様子で冷静に呟き、仲間達を動揺から立ち直らせる。
    「例えそうであっても……退くわけには行きません」
     武者が接近して放ったオーラを纏った連撃を受けながらも、携行していたLEDランプを周囲にばら撒き、闇による不利を打ち消すことを試みる高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272) 。
    「いきます!」
     接近して来る武者の手から撃ち出された光線に負傷しながら、春虎が反撃代わりに、カンテラを相手の周囲に投げつけ照らす。
     更に2体の内の1体が屋敷を火の海に変えようとした永遠に向けて連撃を叩きつけるが、これには無銘が割って入り、その攻撃を受け止めた。
     その間に、武者アンデッド達の中で、最も体格に優れた武者が、音も無く永遠に接近し、自らの腰に帯びた太刀を鞘走らせるが……その一刀の前には、近衛・朱海(煉驤・d04234) が立ち塞がり、鋭い太刀筋を受けながら、クリエイトファイアで周囲を照らし出す。
    「フム……タダのならず者かと思ったが……どうやら、お主は違うようだな。我が名は、高倉・義時。お見知りおき願おう」
     常人とは全く異なる只者ならざる武士の威厳を感じさせる深い声音に、朱海は、自然、深呼吸を一つ。
    「灼滅者、近衛朱海! 再び得た生で戦を望むならかかってきなさい。満足させてあげるわ!」
    「……良き戦士だ。ならば、その愚か者共々、遠慮なくお相手いたそう。我ら、高倉一族は、武をもって礼儀となす故に」
     居合の様に見えて何処か違う一太刀を浴びせかけた後、礼儀の様に太刀を構え直した義時の姿に、朱海は思わず生唾を飲み込んだ。
     
     ――真闇を打ち払う為に用意した筈の紅い光が、まるでこの先に待つ血の色を連想させて……灼滅者達の背に、嫌な汗が一つ流れた。


    「ほら、行くぜ!」
     鏖殺領域を、絹代と同時に展開しながら、恭太朗が叫ぶ。最初は、戦闘準備に時間を取られてしまったが、まだ負けたわけではない。
     ――逆境からの勝利なんて、光を浴びるチャンスだぜ!
     底抜けの強い意志が、彼等に諦めることを決して許さなかった。
    「制限時間、後9分……! でも、まだ! 深淵の先を逝く者達を救う聖光の加護を!」
     玲那が叫びながら、まるでイカロスの翼の様に前面にダイダロスベルトを展開し、一斉に高倉一族を覆う。
     其れは、太刀を構える義時と、彼女の前にいた武者の武器を絡め取るが、離れた所から光条を撃ち出していた武者が義時に隣接し、周囲のマナを集めて新たな力を供給させ、帯を拡散させた。
    「やはり『ヒト』には限界があるようだ……」
     久遠の力に自らの身を浸す、永遠。
     同時に、18歳の美しい少女へと外見を変えようとするが、其れよりも先に義時が動き、上段からその刃を振り下ろす。
    「させないわよ!」
     力を蓄える永遠の前に朱海が立ち塞がり、の刀纏旭光で義時の刃を辛うじて受け止めながら、癒しの風を周囲へと吹き荒らした。
     風が仲間達を癒し、同時に、朱海自身の刃の欠けた部分を癒す。
     だが、ほぼ同時に武者達の1人が、月光の如き輝きを帯びた衝撃波を、灼滅者達へと放った。
     久遠の人格を再び眠らされそうになった永遠や、敵の陣を翻弄する様に果敢に宿り木の突剣を振り回し、自らの力を高めていた紫姫を、玲那や、朱海が庇い、態勢を崩させることを遮る。
    「やはり手強いわね……!」
     永遠に向かって放たれた逆十字の光を無銘からの浄霊眼による癒しで負傷を最小限に抑えながら、称賛の意を隠さぬ朱海。
    「くっ……それぞれがかなり強力で、連携も取れているのは間違いない様だ……!」
     義時を癒していた武者に音もなく接近し、パイプ型マテリアルロッドを軽く叩き付けると同時に、発生した大爆発によって負傷を与えながら、冷静に敵戦力の把握に努めるポー。
     ――やはり、先手を切って攻撃されたことが、響いている様だね、君。
     口には出さず、逆境を乗り越える為の策を考え続ける、ポー。
     今は、自らの役割を果たすことこそが、一番重要であろうと結論付ける。
    「少しでもこれで手数が減ってくれればいいのですが……」
     ポーの攻撃に合わせて除霊結界を展開する、春虎。
     けれども、6体の武者達による列減衰効果の前で、其れを通すのは容易ではない。
     辛うじて一人の動きが僅かに鈍ったが、其れが何処まで通用するかどうか。
    「古の武門の家柄と見受けられる貴方達が、一族郎党で援軍に馳せ参じることを望む北征入道とは一体何者なのかしら?」
    「我ら一族が刀を捧げるに足る人物と言うだけだ、娘」
     敢えて真っ向から斬りかかり、朱海に浅くない傷を負わせながらも礼儀正しく答える、義時に、舌打ちを禁じ得ない。
     ――こういう相手程、手強いのだ。
     だからと言って……逃げるわけには行かないけれど。
    「フン……10分戯れるだけの仕事か……つまらんな」
     光線で撃ち抜かれた肩の傷を朱海に癒されながら、闇斬剣・キングカリバーを構え直す、永遠。
    「此処からが、本番っすよ!」
    「おっしゃぁ、行くぜ!」
     気合を入れて叫ぶ絹代に合わせる様に、喝采する恭太朗。
     其れと同時に、絹代が起こした竜巻が、次々に武者達を飲み込み、同時に、恭太朗が周囲を凍らせる様に温度を下げ……氷の竜巻を生み出す。
     まるで氷の棺桶の様なそれが甲高い音を立てて崩れ落ち、義時と、彼の傍に控えていた2体の武者を庇う様に前に出た2体の武者の装甲が砕け……剥がれた。
    「よっしゃあああー、ボインな淫魔ちゃんじゃないのが残念だけど、鎧削ったぜ―。ボコれボコれ」
    「紅き呪に眠りしヴァムピーラの血霧よ!」
     恭太朗の号令と、散らばった氷と自らの負傷で流れでた血を霧に変換し祈りを捧げる玲那。
     その間に、ポーがモコモコの腕を巨大化させて殴りつける。
     絹代が初手のポーの一撃で弱っていた武者を狙った為、傷ついた上で装甲も剥がれている武者に叩きつけられ、更に春虎が心を惑わせる符を撃ち込み、武者の足元をふらつかせた。  
     更に情熱を籠めた踊りで紫姫が武者達を打ちのめしながら態勢を整えている。
     間断なく放たれた連撃に、ポーや、春虎からの集中攻撃を受けた武者が、傷だらけになりながらも辛うじて立っていた。
     その武者に素早く永遠が接近し、キングカリバーを大上段から振り下ろし深手を負わせるが……武者は、僅かに意識を残している。
    「何……?!」
     驚きの声を上げる永遠を無限ともいうべきオーラを纏った刃で乱打する、武者。
     其れは彼女の複数の急所を貫き、たまらず彼女は致命傷を負って倒れる。
     賊の様な振る舞いをしていた彼女を倒した武者は、満足げな表情を浮かべたまま、体を覆う氷に残っていた体力を奪われ、ゆっくりと地に伏せ、消滅した。


     絹代が永遠を怪力無双で後衛に投げ、恭太朗が除霊結界で敵の動きを阻害しながら攻撃する。
     玲那が朱海や無銘と共に、春虎たちクラッシャーへの攻撃を防ぎ続け、ポーが絹代たちが与えたバッドステータスの効きが強い敵へと攻撃を集中させた。
    「こっちだよ、君!」
     状況に応じて声を掛けるポーに合わせて、紫姫と、春虎が連携して攻撃を続けていく。
     1体が落ちたことで、列攻撃による攻めが猛威を振るうが、一方で義時たちも、庇い合って負傷を制御し、更に義時を癒すことで火力を極力落とさぬ様にする等、見事な連携を取って灼滅者達に苛烈に応戦してきていた。
     6分が過ぎた頃には……更に武者を2体倒していたが、義時はまだ健在であると同時に、灼滅者達も激しく消耗していた。
    「……かなり厳しい状況ですね」
     導眠符で確実に弱っている敵に攻撃を仕掛けながら、玲那達の決死の守りによってまだ致命傷こそないが、彼方此方に傷を帯びている春虎が、小さく溜息をつく。
    「それでも……此処で逃げるわけには行きません……!」
     仲間達によって負傷した武者を縛霊撃での一撃で落とした紫姫を警戒したか、太刀ですかさず斬りかかる義時。
     肩から胸にかけてを深く切り裂かれて鮮血が飛び散り、焼けるような痛みを感じながらも、絹代とポーの攻撃が集中していた武者に炎の蹴りを叩き付けた紫姫が強い決意を籠めて呟く。
     そんな紫姫たちの様子を見て……義時が、ほんの僅かな慈悲を籠めた様子で問いかけた。
    「……お主たちの力は、大したものだ。どうだ? 退くのであれば、追撃はせぬぞ?」
    「残念だけど、其れは無理ね。貴方達の目的は、北征入道への援軍。……これ程の強さを持つ貴方達を合流させるわけには行かないのよ!」
    「ええ。此処で逃げるわけには行きません」
     誇りを帯びた射抜くような瞳で義時を見る朱海と、傷だらけになった体を少しでも癒す為、自らの血を霧に変換して仲間を癒しながら自分達を見つめる玲那の様子に、悟った様に……諦めた様に、そうか、と呟く義時。
    「汝らと我らは決して相容れぬ存在。なれば、その命尽きるまで戦うのもまた、修羅に生きる者達の宿命か……」
    「すでに死んでいるアンタには言われたくないけどな」
     からかう様に挑発しながら、再びフリージングデスを放つ恭太朗に、義時が1つだけ、息をつく様な仕草をとった。
    「……仕方あるまい。では、我らが大望の為、汝らには、礎となって貰うとしよう……」
     義時の号令に従う様に、まだ動いている武者たちもまた雄たけびをあげ、傷だらけの灼滅者達への攻撃を、更に強化した。
     
     ――それから2分後。
     
    「!」
    「落ちよ、娘……!」
     月光の如き衝撃波で灼滅者達の灯りを吹き飛ばし、そのまま目晦ましにした一瞬の隙をついて、義時が、傷だらけの玲那の至近距離に辿り着き、無限とも称せる『白』のオーラを纏った無数の突きを叩き付ける。
    「しまっ……!」
     負傷と疲労が限界に達し、玲那が遂にその場に倒れた。 
     ……その瞬間、だった。
     まだ、息を止めていなかったもう1人の武者が動き、凄まじい衝撃波を放つ。
     傷だらけになりながら、朱海と、無銘が咄嗟に紫姫と春虎を庇い、玲那の後ろから攻撃の隙を伺っていた絹代が彼女を抱え上げて後方へと逃がして辛うじて難を免れるが、もう一度同じことをされると、凌ぎ切れる保証はない。
    「役割は……果たしてみせます!」
     最悪の場合の闇堕ちの決意を固めた紫姫が、朱海の陰から矢のように飛び出しグラインドファイア。
     摩擦によって生み出された凄まじい炎を纏った蹴りが、玲那に止めを刺そうとした武者の腹部に叩きこまれ……内側から炎に燃やされ消えて逝く。
    「後は、あなたのみですね」
     呟きながら、逃がさぬ、とばかりに春虎が導眠符。
     義時は符を体に刻み込まれながらも、其れに屈する様子を見せずに果敢に刃を振るい、襲い掛かって来る。
     だが、これ以上はやらせない、と不退転の決意を抱いた朱海が無銘と共に、義時の攻撃を受け切った。
     ただ……其れは義時も同じだ。
     灼滅者達の最後の力を振り絞った全力攻撃を、義時は上手く凌いでいる。
     最初に一人が倒れたこともあり、手数が足りなかったのもあるだろう。
     程無くして、10分を過ぎた時。
     負傷しながらも義時が太刀を鞘に納めつつ後退すると……彼は地下に溶け込むように消えそうになっていた。
    「見事な郎党の働きだったわね……決着は北の地でつけましょう。貴方の名は覚えておくわ」
     死して尚、主を守り通す覚悟を持った、義時の家臣たちの働きに対して敬意を表して告げる、朱海。
     義時は、其れに1つだけ首を縦に振る仕草を取ると、まだその場に立っている灼滅者達を脳裏に刻み付ける様に一瞥した。
    「良き戦であった。また会おう、灼滅者達よ」
     咄嗟に春虎が護符を投げるが……それが付くか付かないか判別がつかぬうちに、義時の姿は掻き消えた。


    「全滅とはいかなかったか。まっ、でも作戦は果たしたから良しとするか」
    「そうっすね。まあ、十分じゃないっすか?」
     少しだけ残念そうにしている恭太朗に対して、あっけらかんとした様子で同意する絹代。
     一方、紫姫は戦いの最中、後衛に絹代によって運ばれていた玲那に寄り添った。
     肩を貸されて立ち上がりながら、玲那がそっと問いかける。
    「皆さん、ご無事でしたか……?」
    「はい。あなたがあそこまでずっと立っていて下さったお蔭です。……ありがとうございました」
     肩を貸して支えて礼を述べる紫姫に、淡く微笑む玲那に頷きかけるポー。
    「さて……いくらか減らせただろうが、之でどうなるか」
    「義時は逃がしましたが、全くの無意味ではなかったと思います」
     ポーの呟きに、返したのは春虎。
    「……それにしても、北征入道とは一体……」
    「今は分からないけれど……遠くない未来に、分かると思うわ」
     玲那の呟きに朱海が返すと、他の灼滅者たちも厳しい顔つきになって頷く。
     
     ――それは、予感ではなく、確信だった。

    作者:長野聖夜 重傷:獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 47
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