武者アンデッド北へ~朽ちし矢は未だ折れず

    作者:西灰三


    「北伐入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     白の王は目の前でこうべを垂れる――しゃれこうべだが――武士を前に確認の様に問うた。武士はなお頭を下げ白の王の答えを待つ。
    「……よろしいでしょう」
     僅かに武士の気配が上を向いた。
    「各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     面を上げた武士の眼窩が青白く光り、そして礼をする。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」
     白の王、セイメイは次の一手を打つ。
     

    「アンデッドナイトならぬアンデッドサムライだって」
     有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)はそう切り出した。
    「そのアンデッドサムライ、白の王・セイメイの配下なんだけど、札幌のダンジョン事件のノーライフキングの所に送り込まれようとしてるんだ」
     果たしてそれがどんな意味を持つのかは分からないが看過できる事態ではないだろう。
    「このアンデッド達は源平合戦の古戦場とかそういう因縁のありそうな所に封印されてるんだけど、封印が解けたら札幌のダンジョンにまで転移しちゃうんだ。ただ現れてから転移するまで10分くらい時間があるからみんなにはその間に灼滅して欲しいんだ」
     クロエは灼滅者達に言う。
    「このアンデッドは眷属だけど、ダークネス並みの力のある強い相手だよ。気をつけてね」
     クロエは改めてここにいる灼滅者の相手について説明する。
    「アンデッドは全部で11体。強力なのが1体と配下アンデッドが10体。この配下アンデッドもみんなより強いから全く油断ができない相手だよ」
     かなり厳しい戦いになるようだ、ただ状況上追撃される恐れはないのである程度防御は捨てる事も考慮には含まれるだろう。
    「敵の親玉は『音撃ちの重定』という名前のアンデッドだよ。弓の名手で流星弓とガトリングガンに似たサイキックを使うよ。ポジションはキャスターで戦場の中心にいるみたい」
     なお体躯も堂々として強弓の使い手と言った様相のようだ。
    「周りの配下は刀を持ったのが5体と槍を持ったのが5体。使うサイキックも武器に応じたものだよ。こちらのポジションはディフェンダーだね」
     クロエは説明を終えると灼滅者達に改めて向かい直した。
    「きっと札幌での事件に関係しているんだと思う。このアンデッド達を一体でも多く灼滅して。もちろんこの後の札幌のダンジョンの動きにも気をつけて。……これで終わりって事は多分ないと思うから。それじゃ行ってらっしゃい」


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    柳生・朱羽(閻魔の使徒・d01370)
    淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)
    安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)
    竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)
    ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232)
    黒鉄・無月(疾駆する影・d32531)

    ■リプレイ


     かつて古戦場であった山間の平地。現代では人が赴くことも少なく僻地にあると言っても差し支えない土地。管理されない木々が空を塞ぐ。
     そんな森の中に灼滅者達は踏み込んだ。梅雨時の湿った空気が肌にまとわり付き不快さを増長させている。
    「気持ちわるーいっ」
     淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)が肌に張り付いた草葉を払い落としながら呟いた。これから起こる戦闘には影響はないだろうがとりあえず不快だ。
    「植物の生育にはちょうどいい時期ですけどね。……あ、これ」
     竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)が道中にある毒草に目をつけた。そうこうしながら灼滅者達は木々の開けた場所にたどり着く。ここがアンデッド達が現れると言う場所だ。今は気配のみがあるだけで、姿は見えない。
    (「……セイメイ、また動くのか」)
     安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)の無感情にも見える表情の下で今回の事件の首魁についての思考が巡る。
    「何の目的で向かわせるんでしょう?」
     竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)もまたその理由を呟いた。これから戦うべき相手も、他所で同じ作戦で戦う相手も数が多い。それほどの戦力を送り込む何かが北海道にあるということに他ならなかった。彼女は灯りを地面に置きながら考えを深める。
     ふわり。生温い風が灼滅者を撫でていく。同時に足元から古びた甲冑に身を包んだ腕が生える。灼滅者達は即座に力を解放し備える。その間にも次々に腕の数は増え、先に出たものは既に足先まで現れている。それから数秒の間もなく古武士達は完全に姿を現した。即座に紗雪がタイマーをセットする。
    「目覚めたばかりで悪いけど、土に帰ってもらうよ」
    「北海道はこれから短い夏なの。アナタタチに荒らされていい土地じゃないのよ」
     黒鉄・無月(疾駆する影・d32531)と艶川・寵子(慾・d00025)が戦いの意思を向ければ古武士達も相対する様に陣形を取り相対する。
    「何者かは知らぬが邪魔立てする気か」
     槍と刀を持つ古武士の更に向こう、言葉とともに無数の矢が灼滅者達に襲いかかる。
    「共に耐えるぞ、影丸!」
     柳生・朱羽(閻魔の使徒・d01370)が剣を抜き矢の前に立ちはだかり即座に何本か叩き落とす、がその身に幾つか受けてしまう。
    「去るが良い、生者共よ。深追いはせぬ」
     威嚇射撃と言えども、確かに威力のある一撃だった。だが灼滅者達は怯むこと無く戦う意思を見せる。
    「お前たちの企みは、ここで防がせてもらうわん!」
    「ここで大人しく寝てるといいにゃ!」
     ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232)の手元でわんとにゃあが啖呵を切る。
    「良かろう。ならば目覚めの戦、肩慣らしさせてもらおう」
     そして灼滅者と古武士達はぶつかり合う。


    「まずは……!」
     伽久夜がしなる刃を嵐のように振り回し前衛を務める配下を切りつける。無論、相手も柔な相手ではなく互いを盾としてその嵐を防ぐ。嵐を呼んだ彼女もその勢いを受けるための攻撃だ。刃の嵐をやり過ごした兵に次に襲いかかるのは爆風。
    「いきますよ。わんさん。にゃぁさん。三重詠唱……禁呪!」
     ファムネルエルシスの呼ぶ力が、死者を滅ばさんと炎を巻き上げて破裂する。燃えがる炎の幾つかが兵どもに燃え移るが、意にも介さずに武器を振り上げて襲い来る。
    「侍か……!」
     眼前の敵の振り下ろす刀を受け止めて朱羽は膂力を込める。相手の上段から振り下ろされた剣撃は幾つもの実戦の中で育まれたようなものに思える。
    「剣の心得があるものとして、手合わせ願いたい!」
     相手を弾き返しすかさず刃を突き出せば、敢え無く返す刃で弾かれる。彼と影丸は兵たちの連撃を八面六臂で防いでいくが、彼らだけでは押しとどめることなど出来ない。
    「こっちは自力でなんとかするわ!」
     寵子が聖騎士の力を借りつつ炎に巻かれた槍持ちを切り払う。彼女に手には相手の身体を確かにとらえた感触が残るものの、かけらも止まる気配は感じない。舌打ちすると追撃を免れるために直ぐに間合いを取る。前線で激戦が繰り広げられている間、藍蘭が最も傷の多い朱羽の傷を癒やす。防具を相手の攻撃手段に合わせて来てはいるが、相手の攻撃の手が多ければそれだけ傷を受ける機会も増える。守り手ならばなおさらだ。
    「大丈夫ですか?僕がサポートしますので、安心して戦いに専念して下さい」
     彼女の放つ癒しの光が、彼の傷を癒やし不調を取り除く。彼女とは逆に敵に障害を放とうと無月が毒の風を呼ぶ。
    「蝕め……!」
     放たれた呪いの毒は竜巻となり兵たちを襲う、これもまた嵐や爆発と同じ様に互いに陣を組み兵たちは耐え切る。だが他者よりも多くその風を浴びた兵は文字通り骨にまで染みる毒を受ける。無月の相手の弱みを突いての業が状況を動かす。
    「このままおしこんじゃおうっ!」
    「……母さんも」
     紗雪と刻、そして彼のサーヴァントが一気に敵の一角を崩そうとする。紗雪の腕が、刻の刃物の如き帯が、ビハインドの衝撃波が兵に迫る。だがそれよりも先に兵に届くものがある。
    「そう易々とはさせぬ」
     重定の放つ癒しの矢が狙われた兵の存在を繋ぎ止める。そして他の兵が割り込み攻撃すらも集中しない。
     戦いが始まって一分と少し、最初から綱渡りな戦いを意識させる幕開けだった。


     波のように繰り返される互いの攻撃。だがそれらは岸壁にぶつかっても波のほうが弾かれるような、状況が変わらない様にも感じられる戦いが続く。
     互いに守り攻め、それが長く感じられるようになった矢先に戦場に電子音が鳴り響く。
    「もー5分っ!?」
     音の発信源である紗雪が叫ぶ。既に戦える時間の半分を過ぎてしまっている。にも関わらず重定どころか敵の兵の一体をも倒せてはいない。
    「できれば重定を抑えたいけど……!」
     無月は未だ崩れない敵の陣容を見て奥歯を噛みしめる。敵の頭数が少なければ重定に狙いも定められただろうが、そちらでも短い時間の中で前衛を突き崩し攻撃を当てるのは難しかっただろう。
    「邪魔しないで」
     刻が飛び蹴りを放ち兵の胴を打つ。だがそれは目的の相手ではなく別の敵に阻まれた結果だ。これまでの戦いの中で狙った相手に攻撃が届いたのは数えられる程しかない。だが前半の5分間で相手につけた傷は確実に入っている。
    「まだまだ終わりは見えないわね」
     寵子は口元を嬉しげに歪ませた。五分あれば目標の半分は達成できていたという考えだったが、どうもそう簡単ではないらしい。寵子は交える刃から活力を得ているよう様に表情が生き生きしてきている。
    「まだまだこれからが本当の勝負ということですか……」
     朱羽は口元に付いた血をぐっと拭って改めて武器を構え直した。幾多の攻撃を彼と影丸、そして刻のビハインドが阻んでいるが、そろそろ彼らにも治りきらない傷が増えてきた。
    「癒やしを」
     彼らを含む前衛に藍蘭が祝福の言葉を風に乗せて届ける。吹き抜けた風が彼らに課せられた悪しき影響を全て吹き飛ばす。
    「……そろそろ」
     伽久夜が何度目かの青い炎を呼ぶ。生じた小妖怪の幻影は兵どもの足にしっかりと噛み付いていく。それは灼滅者達の攻撃を静かに、しかし確かに支援していた。
    「いまだわん!」
    「いくにゃ!」
     ファムネルエルシスの手元で二匹が口を開く。そして彼女が呼び出すのは影の刃。
    「ゴドルテリアミリス家が長子、ファムネルエルシスの名において命ずる。……顕現せよっ!」
     犬の方から伸びた獣じみた刃が、足元の鈍った兵を袈裟懸けに切り捨てた。兵は即座に消滅していく。
    「ふむ。口ばかりでは無いということか」
     ここに来て初めて重定が驚いたような声を上げた。趨勢は未だ定まらない。


     敵の数が減ればそれだけ狙った相手を攻撃しやすくなる。当初は槍を持つ兵を狙うつもりでいた灼滅者たちだが、そもそも集中攻撃と言う行為そのものが阻害されている状態が故にとにかく弱った相手から狙うと言う作戦に変わっている。前衛を一体倒した事で一気に戦況を推し進めようとする彼らを重定が制そうと動く。
    「若武者達よ、そこまでだ」
     重定が矢をつがえ一矢を灼滅者の頭上に放てば、矢は周りに幾つもの同じものを即座に生み出して雨の様に降り注ぐ。
    「母さん……!」
    「影丸!」
     灼滅者達をこれまで守ってきたサーヴァント2体が他者の分の矢をも受けて消滅する。これで灼滅者達の中で守り手は朱羽だけとなる。その彼も限界が近い、戦闘が終了する頃には立ってはいないだろう。
    「……っ! つづいてっ!」
     紗雪が叫び攻撃を仕掛ける。懐のタイマーは残り何分だろう、4分? 3分? いずれにせよ全力で攻撃しなければ目標を遂げることは出来そうにない。彼女は出来る限り、他の敵が割り込まないタイミングを見計らって足元に炎を纏わせて蹴り放つ。
    「割り込まないでっ!」
    「……私が続きます!」
     紗雪が目の前に立った相手を横に吹き飛ばす、開けた射線に伽久夜の帯が鋭く伸び相手を深く貫き灼滅する。
    「僕も攻めます」
     これまで回復に当たっていた藍蘭も攻撃に参加する。宙に輝く十字架を浮かべて、更にそこから無数の小さな十字架をばらまく。
    「それ、この攻撃を避けられますか?」
     兵達に降り注ぐそれは力を封じ、そして払う。多少なりとも回復の抜けた穴埋めはできるだろう。総力戦に突入した灼滅者達に呼応するように古武士達も奮起する。それを援護射撃するのはやはり頭目である重定だ。
    「その力、ただの思いあがりでないとしかと見た。こちらも手を抜くわけにはいくまい」
     重定の手には無数の矢、それを一度に放てば灼滅者の攻撃の手は防御で緩まざる得ないだろう。そして矢は放たれた。
    「ただで札幌へ行かせるわけには行かない!」
     ここで攻撃を担う者達の手が止まれば敵兵を満足に倒しきれなくなる、そう考えた朱羽は矢が散らばる前にその前に立ち多くを受ける。無論これで彼は倒れるが、灼滅者達は振り向かない。振り向いたら彼の意思を無駄にする。ファムネルエルシスの猫から伸びる気弾が迫る兵達を迎え撃つ。
    「お祭りの終わりね。本気をぶつけ合いましょう!」
     まるでこの激戦が情熱に満ちたぶつかり合いの様に、使い古された言い回しなら燃え上がる愛のように。彼女は気合付に赤い組紐で髪を縛る、逢引前にまじないをかけるように。彼女は剣を横薙ぎに振り払い、守りに割り込んだ相手を打ち砕く。
    「……これで3。そして」
     刻が呟く、同時に杭をドリルの様に回転させて兵を狙う。もちろん敵もそれを阻み代わりに受けるが、かなり容易く深くまで穿つ。相手もまた長期戦の中で傷が深くなってきているのだ。そしてそこを無月が追撃する。
    「4体目、です」
     ジグザグに切り裂き敵は消滅していく。だが残りは後わずか。灼滅者達は防御を捨て全力で総攻撃を行う。刃が、炎が、影が振るわれる。そして矢がそれらを撃ち貫いていく。
    「………」
     もはや重定にも言葉は無い、代わりに放たれた矢が雄弁に物語る。守る者の居なくなった前線に降り注ぐ矢は刻を倒し、他の者も深く傷つけていく。
    「ぅ~、じゃまっ!」
     紗雪がその矢の雨の中を駆け抜ける。そして飛び上がり地面にいる相手に向かって流星そのものとなって高速で落ちていく、その先には無論敵。彼女の懐の中でカウントが1秒を切る。
    「いっけーっ!」
     そして、0。決着は着いた。


     紗雪は立ち上がる。目の前ではたった今蹴り倒した兵が灼滅されて消滅していく。
    「見事なり」
     重定の言葉で灼滅者はそちらを見る、重定と兵達は地面に吸い込まれるように少しづつ沈んでいく。
    「その首も貰い受けたかったところですが」
    「望むならば彼の地で会うこともあるかも知れぬ」
     伽久夜が朱羽に肩を貸しながら言えば重定は鷹揚に言った。
    「あの場所では素敵な思い出がいっぱい生まれる予定なのよ」
     寵子の言葉に重定は笑みを浮かべた。表情が変わった訳ではない、だが確かに笑ったのだ。そして重定は地面の中に消え、完全に気配も無くなる。
    「逃しましたね……」
     無月は相手の居なくなった地面を撫でる。もうすでに腐った草木と土しか無い。ファムネルエルシスもわんとにゃあ共に見るがもう何も残されてはいないようだ。彼らが確認している間に藍蘭が刻と朱羽を治療している。
    「北海道で何があるのか……何があろうと僕は自分の役割を全うするのみです」
     ダークネスの集う地、北海道は札幌。そこで何が起こるのかを彼らが知るのは程なくしての事だった。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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