武者アンデッド北へ~雑木林発、札幌行き

    作者:泰月

    ●セイメイと鎧武者
     白の王セイメイの前に、武者鎧のアンデッドが平伏し、下知を待っている。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     セイメイの言葉に、武者鎧のアンデッドが更に深く平伏する。

    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     ややあって、セイメイは武者鎧のアンデッドに告げる。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」

    ●転移の定員削減へ
    「白の王・セイメイの動きが予知出来たわ」
     夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)はそう告げると、教室に集まった灼滅者達に話を続けた。
    「札幌地下鉄のダンジョン事件あるでしょう? どうやら、そのノーライフキングに援軍を出そうとしているみたいなのよ」
     セイメイが送る援軍は、鎌倉時代の武者のような姿のアンデッド達。
    「アンデッド達は、源平合戦や鎌倉時代の古戦場などの因縁のある感じの地域に封印されていてね」
     封印が解けたアンデット達は、北海道目指して一路ぞろぞろ――とはならない。
    「出現してから10分程で、地に飲まれる様に消えて転移しちゃう」
     転移先は、札幌のダンジョンと見て間違いないだろう。
     幸い、まだ出現まで時間がある。
    「だから今回の作戦は、アンデッドの出現場所で待機して、現れた所を襲撃。敵が消える前に可能な限り灼滅すると言うものよ」
     柊子が見つけた武者アンデッドの封印場所は、都内にある。
     多摩の方の大きな雑木林の中だ。
     かなり鬱蒼としているので人目に付く心配もないし、音もほとんど漏れないだろう。
    「出現する武者アンデッドは10体。いずれも皆と互角か、それ以上の力を持っているわ。中に1体だけ、ダークネスに準ずる力を持つ個体もいる。この一団のボス格ね」
     武者達は弓と刀で武装し、ボス格の1体は弓を持たないが他よりも長い刀を持ち、鬼火を操る力も持っている。
    「アンデッド達の戦い方は、全て同じ方針。防御主体よ。もし皆が撤退しても追撃して来ないくらいに、ね」
     まあ、当然だろう。
     向こうは転移までの時を耐えれば、今回はそれで良いのだ。
    「10分以内に全て灼滅するのは、難しいと言わざるを得ないわ」
     守りに徹する敵を、限られた時間の中でどれだけ確実に倒せるか。
     今回は、そう言う戦いだ。
     そして、白の王・セイメイが援軍を送ると言う事は、札幌のダンジョンの件に大きな動きが起こるのも遠い事ではないと思われる。
    「援軍を削るのも大事だけど、札幌のダンジョンの動きにも備える必要はあるわ。それは忘れないでね。それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい」


    参加者
    天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)
    七瀬・遊(烈火戦刃・d00822)
    シオン・ハークレー(光芒・d01975)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    二階堂・空(跳弾の射手・d05690)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    佐門・芽瑠(空の魔王に憧れるトリハピ・d22925)

    ■リプレイ

    ●待ち伏せ
     うっそうとした雑木林の中、灼滅者達の声が響く。
    「セイメイの動きは、いつも読みづらいよね。なんとか裏を掛けたら嬉しいんだけど」
     シオン・ハークレー(光芒・d01975)が眉をひそめて、1m近くまで伸びた雑草を邪魔そうに払う。
    「思惑を少しでも狂わす為に、1体でも多く葬りましょう」
    「多勢力の戦力を集中されたら厄介だしな。まったく悪魔もアンデッドも皆して北海道を目指そうとするなぁ」
     気づいた天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)と二階堂・空(跳弾の射手・d05690)が、前に出て邪魔な草木を掻き分ける。
    「ワタシも、此処で出来るだけ食い止めたいところね」
     女性のような口調で、西明・叡(石蕗之媛・d08775)が飄々と会話に混ざる。
     さらに数分、雑木林を奥に進んで、灼滅者達は足を止めた。
    「封印されてるのは、この辺りだね……Release」
     携帯電話の地図で目的地に着いた事を確認した空井・玉(野良猫・d03686)の口が、正しい英語の発音を紡ぐ。
    「来るなら来いですわ。チェンジ! カラフルキャンディ!」
     掛け声と同時に、七色のダイダロスベルトがソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)の腰に現れる。ボリュームアップし、ゴージャスに変化した衣装の上にマントを羽織り、いつものように決めポーズ!
     その直後、雑草の下から禍々しい光が溢れてきた。
    「さぁて、派手に行きますか!」
     それを見て七瀬・遊(烈火戦刃・d00822)をはじめ、他の灼滅者達も次々とカードを解除し殲術道具を構える。
    『現世か……久しいな。むっ!?』
     封印が解けて、姿を現した武者が気づいた時には、既に灼滅者達は仕掛けている。
    「行くよクオリア。いつも通りに轢き潰す」
     拳に幾重にも巻きつけた硬い血色の糸に影を宿し、玉が武者の列の端にいる一体に飛び掛ると、影を宿した硬い血色の糸を幾重にも拳に巻きつけて叩きつける。
     あとに続いた飾り気のないライドキャリバー・クオリアが武者に突っ込んだ。
    「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります! いくよ、ブラン!」
     押し出されるように他の武者から離れた1体へ、ソフィがロッドを向けて雷光を撃ち込む。続いて、今度はカラフルなライドキャリバー・ブランが武者に突撃した。
    「そういや、皐と肩並べて戦うのは久しぶりだね」
    「よく共に戦ってますけどね。今日もあてにしてますよ」
     空の軽い口調に皐が返し、2人の影が形を変える。影の刃と影の獣の牙が同じ武者を引き裂いた。
    「ぼくもがんばらないとだよね」
     シオンがくるりと槍を回す。放たれた鋭い氷は2つの影が斜めに交差した一点を穿ち、武者を凍らせる。
    「菊、美貌の策士の名を持つ矜持見せてやんなさい!」
     叡の指示で霊犬・菊之助が刃を咥えて斬りかかり、彼自身は歌舞伎の長唄を朗々と響かせる。
    『ぬぐっ』
     灼滅者達の猛攻を受けた武者が膝をつく。
    『あやつを庇え!』
    「対象補足……どこへ逃げても無駄です」
     他の武者のカバーが入るより早く、佐門・芽瑠(空の魔王に憧れるトリハピ・d22925)の機関銃が唸りを上げた。
    「学園一のトリガーハッピーを目指す者として、私の弾幕が最強である事を証明するのです」
     冷気の魔力を持った弾丸が弾幕を作り、武者達の周囲から熱を奪い取る。数体の武者が凍りつく中、膝をついた1体はさらに凍り付いていた。
    (「ボロボロでも鎧武者。良い相手じゃねえか!」)
    「何を企んでるのかは知らんが、ここから先は通行止めだぜ」
     歴史マニアな内心を押し殺して、遊が素早く九字を切る。呪法の力が破裂した衝撃で氷が砕け、膝をついていた武者はついに力尽き、消滅してく。
    『待ち伏せだと!』
    『封印を悟られていたと言うのか』
     早々に1人倒され、弓を持つ武者達がざわめき出す。
    『やあやあ、我こそは八郎! 横溝八郎なり!』
     だが、その中心にいる長い刀を持った武者が、名乗りを上げた。
     ざわめきが、ぴたりと止まる。
    『皆の衆、耐えよ。我ら、これより一人も欠ける事なく、蝦夷の北征入道様の元へと辿り着こうぞ! 弓を射て!』
    『『『応っ!』』』
     号令に従い、他の武者たちが一斉に弓を頭上に構える。鎌倉時代の頃の戦は大将が名乗りをあげた後に、弓の撃ち合いから始まったと言う。
     放たれた無数の矢が、まさに雨のように満遍なく灼滅者達の頭上に降り注いだ。

    ●堅固な布陣
    「3分経ったよ!」
     ブランの機銃の音が響く中、良く通る声で言ってソフィが武者に飛び掛る。
    「アメちゃんキック!」
     鮮やかな輝きを纏った跳び蹴りが叩いたのは、狙った武者ではなく割り込んだ別の武者の鎧だった。
    「くっ。届いてれば倒せたのに……!」
     狙った武者に別の武者から癒しの矢が届くのを見て呟くソフィの声に、僅かに焦りの色が混ざる。
     武者アンデッド達は、まだ9体が灼滅者達の前にいた。
     最初の1分間で1体倒せたのは、あれが奇襲だったからだ。もう、状況は異なる。9体の敵が防御を主体とし、互いに庇って癒していた。
    「やっぱり、庇われまくるのが難しいところね」
     割り込んで来た武者に柔らかな女郎花色の縛霊手の拳を力強く叩きつけ、叡もぼやきを口にする。
     態勢を整えた武者達は、消極的とも言えるくらい防御主体の戦い方をしていた。
     その上、互いに庇い癒しあうものだから、思うように狙った敵に攻撃が届かないのは避けようがない。
     とは言え、それも絶対ではない。
    「今のを庇ったコイツが、一番弱ってるぞ!」
     自身の炎を纏わせて遊が振るった槍は、上手い具合に武者達の隙間を縫って狙った通りの武者の鎧を焦がした。
    「うぉっ!?」
     直後、その武者の背後から飛来する矢。遊は咄嗟にのけぞって直撃は避ける。掠めた額が僅かに裂け、そこに銃声が響いた。
     一切の躊躇いなくぶっ放された無数の弾丸が弾幕を作り、武者達を凍らせる。
    「なあ、佐門。オレが矢を避けてなかったら、今の当たってないか!?」
     頭上に感じた冷気に、遊は思わず振り返って芽瑠に言っていた。
    「味方の動き? ちゃんと見えてます。誤射することは滅多にありません」
    「待て。たまにあるのかよ!?」
    「……バベルの鎖は便利ですが、弾道制御は自前ですので」
    「おい!?」
     無表情にしれっと告げる芽瑠と、面倒見の良さを良くも悪くも発揮してついつい突っ込み続けてしまう遊のやり取りに、空気が幾らか和らぐ。
     だが、このやり取りはそれ以上の意味が含まれていた。
    「大丈夫、私の弾が当たる物は全てダークネスです。味方が見えないようでは、本職スナイパーは名乗れません。まあ今日はメディックですけど」
     接近戦をしている味方からの不評は初めてではないのか、淡々と続ける芽瑠だが、癒し手である彼女が攻撃に参加して、戦線に影響がないのは大きい。
     戦線の維持は、今の所、芽瑠のウィングキャット・バステトの力だけで何とかなっているという事だ。
     武者達の攻撃は、警戒したほど激しくなかった。最初こそ一斉掃射があったが、後は武者達の弓から飛ぶ矢は、灼滅者達に向けられない事の方が多かった。
    「敵が強く、状況は面倒。失敗できない理由もある。全て、いつもの事だ」
     2体目を中々倒せない状況でも、どうという事はなさそうに言って玉は地を蹴り、空中で体を捻る。回し蹴りで起こした暴風が武者達を叩を叩いた。
    『させぬっ』
     八郎がついに抜刀。着地したばかりの玉へと振り下ろすが、これは飛び出したクオリアが機銃を射ちながら遮る。
    「集中して、上手く息を合わせれば敵の守りも崩せるよね」
     武者達の陣が僅かな乱れを見逃さず、シオンが足元の影に触れる。
    「ま、今回は跳弾はお預けかな、ははは」
     空は軽く言いながら至近距離から氷を撃ち込み、影に貫かれた武者を凍らせる。
    「敵も必死なのでしょうが、此方も負けるわけにはいきませんからね」
     そこに飛び掛る、黒き猟犬。
     そんな形を取った皐の影が喰らい付く様に武者を飲み込む。影が元に戻った時には、崩れゆく鎧だけが残っていた。

    ●迫る刻限
    「ふっ」
     短い呼気を残し、玉が縛霊手の拳を叩きつける。
    「8分過ぎたよ!」
     経過時間を告げながら、ソフィは霊力の絡みついた武者に飛び掛る。
    「これで……4人目!」
     5分程前と同じ光景。だが、鮮やかな輝きを纏った蹴りは、今度こそ狙い通りにトラウマで疲弊した武者の鎧を砕いた。
    『くっ……こんな所に木がなければ、間に合ったものを』
     部下を失い、八郎が悔恨の呻きを漏らす。
    「木? ……そうか。空、シオン。この場を利用してみましょう」
     それを聞き逃さなかった皐が、2人に呼びかけながら、敢えて木立を突っ切り武者達の間に飛び込んで、鋼の様に鍛えた拳を叩き込み、鬼火を散らす。
    「跳弾じゃなくて、俺が跳ねる事になるとはね」
    「わかりました!」
     いち早く気づいた空が周囲の木を蹴って他の武者を飛び越え、イブニングスターを模した白金が彫られた拳銃を叩きつけた衝撃が、残る鬼火を打ち消した。
     2人の動きで察したシオンも木の下を潜って飛び込み、武者の鎧にそっと触れる。
    『ゴフッ』
     直後、内側に流し込まれたシオンの魔力が武者の中で炸裂した。
    『させるか!』
     よろけて木に背中を預けた武者に、別の武者が癒しの矢を放つ。
    「菊とワタシの事を忘れちゃ嫌よ?」
    「殲滅します」
     そこに霊犬が咥えた刃を突き立て、叡と芽瑠が同時に放った意志持つ帯が木々を避けて武者に突き刺さる。
     凍った鎧が砕け散り、崩れ落ちた武者が消えていく。
    『おのれぇぇ! だが、刻限まであと僅か。これ以上はまかりならん!』
     鬼火を漂わせる八郎の下、武者達が集まり弓を構える。番えた矢が灼滅者達を狙ったものでないのは、これまでの動きを見ていても明らかだ。
     戦いの終わりは、すぐそこに迫っている。
     次が、この場での最後の攻防になる。
    「待ってりゃタダで北海道まで行けるとか、羨ましいゾンビ共だぜ!」
     力強く地を蹴った遊が、勢い良く足を振り上げ体を回す。回し蹴りで生じた暴風が武者達に叩き付けられた。
    「羨ましいね。その転移能力があれば、もっと色々な場所に散歩に行けそうだ」
     淡々と軽口を叩きながら、玉の顔には言うほどの羨ましさは出てない。変わらずに怜悧に見据えて、血色に輝く兇器で武者の鎧の隙間を縫って、斬り裂く。
     そこに突っ込んだ鋼の機体を別の武者が阻んで、斬られた武者に矢を放つ。
    「ここから先へは進ませないよ!」
     矢を放った武者を飛び越え、飛び掛ったソフィがロッドを叩きつける。
     鎧の内側で魔力が炸裂し、アメのようなカラフルな光が漏れた。
    「削れるだけ削っておかないとね」
     両手に拳銃を構えた空の手の甲に浮かぶ、雪華。足を止めずに撃ちまくる。武者達の出鼻を折る、続く仲間への援護射撃。
    「ノーライフキングの暗躍は見逃すわけにはいかないの」
     くるくるとシオンが回す槍から放たれた鋭い氷は、八郎の陰で援護射撃を逃れた武者が飛び出して遮る。
     だが、反対側で皐の影が再び黒き猟犬の形を取っていた。他に遮られる事なく、最も弱っている武者を影の中に飲み込む。
    「さあさ、纏めて魅せてあげるわ」
     放たれた六文銭を追いかける形で、叡は尾喰らう白蛇を思わせる細身の光輪をさらに小さく分裂させて、武者達の前に躍り出る。
    『させぬ!』
     ずいっと出てきた八郎に構わず、叡は舞うように白金の煌きを操り武者達に仕掛けた。「バステトちゃんも、魔法でも撃っといて下さい」
     武者達の側面に回り込んだ芽瑠が、機関銃のトリガーを引く。爆炎の弾丸が炎の弾幕となり、そこに猫の魔法も放たれた。
    『これほどやられるとはな……残った者よ、良く耐えた。いざ、蝦夷へ参らん!』
    『『『応っ!』』』
     炎が消えた向こう、灼滅者達の視線を受けながら、八郎を始めとした4体の武者アンデッド達は、再び地の底に飲まれるように消えていった。

    ●戦果
    「行ってしまいましたわね」
     息を吐いて変身を解くソフィの横で、芽瑠が黙って機関銃を下ろす。
    「蝦夷って言ってたわね。やっぱり北海道、行っちゃったのよね」
    (「向こうはお袋の故郷なのに」)
     続く言葉を胸中呟いて、叡は北に視線を送る。なかなか行けないでいたが、いずれ行く事になるのかもしれない。
    「全滅は難しいって言われてたし、6体はよしとするか」
    「被害と言える被害がこちらにない事を考えれば、上々でしょう」
    「皐さんも空さんも、お疲れさまなの」
     空と皐がともにサッパリと言って、軽く合わせた拳にシオンが下からコツン。
     半数以上に届いたのだから、戦果としては決して悪くない筈だ。
     その横で、玉は黙って今回良く使った鋼糸の調子を見ていた。表情は変わらないが、どこか満足げに見える。
    「特に何も残ってないな。異常なしって事で! お疲れ!」
     周囲に何も不審なものが残っていないのを確認し、遊が明るい声を上げる。
     行き先の目星は、付いている。今日倒しきれなかった武者達を倒す機会がある事を信じて、灼滅者達は雑木林を後にした。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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