武者アンデッド北へ~武者が集いて何を為す

    作者:ねこあじ

     白の王セイメイの前に、武者鎧のアンデッドが平伏し、下知を待っている。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     セイメイの言葉に、武者鎧のアンデッドが更に深く平伏する。
     しばし考えたのち、セイメイは言った。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     武者鎧のアンデッドは身を歓喜に震わせた。一瞬のことであったが。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」


     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は教室に集まった灼滅者に向かって説明を始めた。
    「白の王・セイメイが、札幌のダンジョン事件を起こしているノーライフキングに、援軍を派遣しようとしています」
     先日、ソロモンの悪魔たちが北に向かうのを察知したばかり。
     今度は一体。
    「白の王・セイメイが送り込む援軍は、鎌倉時代の武者のような姿のアンデッドたちと、ダークネスに準じる力を持つ強力なアンデッドです」
     源平合戦の古戦場など、彼らは因縁のある地域に封印されており、出現するまで、まだ時間がありますと姫子は言った。
    「問題点はひとつ。アンデッドたちは出現してから10分程度で今度は地に飲まれるように消え、北海道のダンジョンに転移してしまうようです。
     ですから、アンデッドが現れる場所で待機し、現れたら、敵が消えるよりも前に灼滅して欲しいのです」
     姫子は地図のうえで指を滑らせ、とある地点を指した。
     福岡県、塩屋橋。
    「武者アンデッドが10体、それらを率いる武者アンデッドが1体です」
     計11体は塩屋橋の下に現れる。
     10体を率いる、将のアンデッドはダークネスに準じる戦闘力。
     配下もまた、決して弱くはない。
     そしてポジションは。
    「全敵、ディフェンダーなんだ……」
     日向・草太(小学生神薙使い・dn0158)が呟く。乱戦になるだろうか。狙う敵影を見失わないようにしなければならない。
     11体のアンデッドたちは、天星弓と妖の槍に似たサイキックを扱う。
    「出来る限りの数を、そして確実に止めを刺すことを意識してください」
     姫子が言った。
     1体でも多く灼滅し、転移してしまう数を抑える――それが今回の目的だ。
    「白の王・セイメイが援軍を送るということは、札幌のダンジョン事件が大きく動き出そうとしているのでしょう。
     セイメイの配下の武者アンデッドを可能な限り灼滅し、その上で、札幌のダンジョン事件の動きに備えていきましょう」
     どうか気をつけて、無事に帰ってきてください。そう言って、姫子は一礼した。


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    芥川・真琴(焔と共に眠るもの・d03339)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    エリス・メルセデス(泡沫人魚・d22996)
    難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)
    南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)

    ■リプレイ


     福岡県、塩屋橋。
     梅雨の晴れ間だが風はなく、じめりとした生温かな空気が灼滅者の周囲に停滞していた。ともに留まるように、静かに待機する。
    「鎌倉時代の武者アンデッドっていうと農民集団かな」
     南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)が橋の上で待機しつつそう言った。
     ここからだと指定されたアンデッドの発生地点がよく見え、飛び込める位置。
     まひるの言葉に、芥川・真琴(焔と共に眠るもの・d03339)はぼんやりと、アンデッドたちの死す前の日常に思いを馳せてみた。
     上方では欄干に、下では水深二十センチもない川の中で橋脚に、それぞれ物陰に潜む灼滅者たち。
    (「出来れば全部倒したいけど……」)
     御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)は十分間という制限を歯痒く思うのだが。
    (「より多くの敵を灼滅するぞ!」)
     決意は確固たるもの。
     エリス・メルセデス(泡沫人魚・d22996)はそうっと目を伏せた。流れる水の音は心地よく身に響き、灼滅者たちの緊張を程よく解してくれている。
     その時、川面に乱れが生じ、一層澱んだ空気が場に発生した。
    「……時間、ですね」
     目を瞬かせてエリスが先を窺う。
    「さ~て、ぽち。厳しい戦いになりそうだけど、力の限り頑張ろうねっ♪」
    「わうっ!」
     海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が霊犬ぽちの背中を叩いて、犬型のバトルオーラを展開させた。
     封印が解かれ、出現する十一体の武者アンデッド――同時に殺界形成が施され、虹真・美夜(紅蝕・d10062)が腕時計を弄る。
     欄干に立った難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)が槍を払えば、生温い空気に冷気が生じた。空へ一歩。
    「いっちばん前の奴! 氷漬け決定!」
     冷気のつららを下方に撃ち出し、自身も降下するナナコ。
    「ヒューッ♪」
     口で言いつつ、思いっきり敵を踏んで着地した。
     仲間前衛が敵の集団に切り込んでいく。一体を取り残し、敵陣は左右へ引き離されるが如くの動き。
    「螺旋を描き敵を貫け……」
     天嶺と歩の螺穿槍が続け様に。
     封印が解かれたと思った矢先の襲撃に戸惑いの動きを見せるアンデッドたち、対し、灼滅者の初手に迷いは無い。
     畏れを纏い、Scarlet Kissでアンデッドの胴に斬りこんだ美夜が返す刃ともども反転した。他方の敵へ牽制に動くその視界の隅で、虚空へ矢を射放つ敵。
     矢から発する笛のような鋭い音が周囲に響く。
     アンデッドたちから戸惑いの空気が消えた。
    「鏑矢だな」
     そう言う志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)の流しこんだ魔力が、武者の体内で弾けた。骨が砕かれようとも肉の一部が削がれようとも、アンデッドは損傷に構わず武器を手に。
     ガチン! と、長巻を交差させ鼓舞する音が周囲で響く。敵の一手にあたる行動は、半数にのぼる。
     肉迫する友衛の対角でエリスの炎纏う蹴りが放たれたのち、体勢を崩す敵の目前には入れ替わったまひるがナイフを一閃。
     連携をとる灼滅者たちと同じく、敵も連携を取り攻撃を始める。
    「オオ!」
    「……オオオオオ!!」
     長巻による斬撃、射抜く矢。
     真琴の手に光が宿る。
    「熱は命、ココロは焔……」
     仲間の身に走る熱い痛みを和らげるように、暖かな熱を持つ光を彼女は送った。


     敵二体が倒れ、損傷にも大小区別がつき始め、戦場の把握が少し容易となった。
    「中央の橋脚、上半身凍った奴。他の敵も寄ってきそう、気をつけて」
     場に行き渡る端的な美夜の声。彼女が相手にするのは灼滅目前の敵。
     敵の斬撃は避けるも、冷気を孕む風が美夜に吹き付ける。翻しの速い敵の武器、下方からの斬り上げに美夜は的確にガンナイフを叩きつけ、零距離で撃った。
     三体目、灼滅。続けて五分が経過したことを告げる。
    「死して尚何かを守らないといけないのは同情しないでもないかなー……」
     側で抑えに入っていた真琴が呟く。
     アリス(d03765)の剣に刻まれた祝福の言葉が風に変換され、戦場へと吹いた。
     ぽちとともに走り抜け敵を翻弄する歩が、目標に向かって接敵する。槍の間合いより、より一歩を踏み出し。
    「わっふ~、貫け~なのっ!」
     水を跳ね上げ、螺旋の如き捻りを加えた槍は、敵の甲冑を貫通し風穴をあける。跳躍したぽちが斬魔刀で一閃し着地した。
    「……グ」
     反りのある刃が槍を打ち、斬撃は一瞬歩の体勢を崩すも少年は二歩の後退で踏ん張る。
    「掃射がくるよ!」
     まひるの声と同時にあちこちから弦の音その数四。アンデッド二体とボスの惟久が灼滅者へと大きく斬りこんだ矢先のことである。
     とっさにエリスが歩への射線に入った。ぽちと同じく庇い手に位置するねこ・ざ・ぐれゐとがそれぞれ動く。
     一瞬の豪雨の如く降る矢と音、できうる限りに灼滅者たちは矢を払い叩き落とす。
     その間目標であった敵がまひるに刻まれバラバラに。倒れたアンデッドを覆うように、灼滅者の鮮血が筋を作り川を流れていく。
     日向・草太(小学生神薙使い・dn0158)が清めの風を前衛に、さらには真琴の放った帯がエリスの身を覆い防御を固める。
     御理(d02346)が祭霊光を撃ち出し回復の援護に入った。
     次に攻撃すべき敵へと、庇いの体勢から駆けるミルフィ(d03802)。彼女とアリスは敵の境遇を思う視線を投げている。
     接敵する天嶺と友衛に対し、庇うようにアンデッド二体が立ち塞がろうと――その時、リデル(d25400)の魔力光線が一体の足を貫き行動を阻害する。リリィが陽動へと動いた。
    「感謝する!」
     その隙を逃さず友衛が銀爪で敵の足を払い、距離をとらせた。
    「来な! アタイがバナナ漬けにしてやんよぉ!」
     祭壇を展開させたナナコが派手にぶんぶんと振る。
     呼びかけにもう一体がぎゅるりと頭を動かして方向転換。にぃっと笑むナナコが、敵全体を包みこむ結界で霊的因子を強制停止させる。
     無防備となったその身、ライフブリンガーで生命エネルギーを奪われるアンデッドが、天嶺の殲術道具を掴む。
    「隙は作ったので任せます」
     逆の手に持つ槍柄で敵の腕を打ち、がくんと体勢を崩させた天嶺が言った。
     友衛の拳が上向かせるように下から入り、二打、三打と続け様に打てば敵の纏う氷が散る。遠心力をきかせた最後の一打は敵の顎を砕き、千鳥足が如くの後退に追い込んだ。
    「メルセデス、その敵を頼む」
    「は、はい……!」
     多数の影がめまぐるしく動く戦場において視認の多くなるディフェンダーとメディックの負担は大きく、故に援護者と飛び交う声掛けのアシストが好転の機となる。
     重力を宿し、虚空に流星の煌きが走るエリスの蹴りにダメージの重なっていた敵が崩れ落ちた。
    「わふ~、五体だね!」
     歩の声に、一瞬だけほっとした表情を浮かべるエリス。
    「油断せずに、いきましょう……」


     七分経過。
     その声が届いた時、惟久と配下が残り四体。ボスにダメージは入っているものの、惟久の灼滅には残り時間プラス二分は最低でも欲しいところだった。
    「30秒本気出すよ」
     サーヴァントが消えたのち、そう言ったまひるが呼ぶのは猫又や羊、翼の生えた兎とかもふもふした鯨や西洋の聖獣など。七不思議の怪談は怪奇現象となり敵に毒をもたらす。
     配下を突き飛ばして惟久が割って入る――と、銀色が走った。
    「志賀野友衛だ! 椎木惟久、勝負!」
     銀爪を次々と弧を描くように振りまわし、惟久と配下を引き離していく。
     名を呼ばれたことに一瞬驚いた様子を見せた敵は、長巻でそれを受け止め両者拮抗した。
    「我ガ名ヲ呼ブカ。……成程、今ノ世ハ無作法バカリ為リト、我ガ考エ、改メヨウゾ――惟久、参ル!!」
     四体が鏑矢を放ち音が響く。一手は一手。灼滅者たちはこの隙を見逃すはずもなく、一斉に攻撃を仕掛けた。

    「武者だけにおカタい相手って奴ってやつか!」
     冷気のつららで配下を撃つナナコ。
     突然くるりと回り、もういっちょ! と残る冷気を使って惟久に向かって牽制を撃った。
    「前出過ぎ、フォローの届く範囲にいて」
     美夜が何事も見逃すまいと、そして抑えに入れる位置取りを考える。
     エリスもまた庇いやすい位置、惟久と配下の線上を意識して切り離すように。
     集中攻撃を受ける者を庇おうとするアンデッドへ真琴と天嶺が斬りかかる。
    「邪魔はさせない……」
    「グググ……」
     抑える天嶺に唸ることで応えるアンデッドの向こうでは、わんわんシャドウを走らせる歩。
    「わんわん影さん、ぱっくんだよっ♪」
     わんこ型の影が口をぱくっと開けてアンデッドに群がり、同じように駆けてきたぽちが刀で一閃すれば、犬影に呑まれ倒れるアンデッド。
    「キミ達が死者であることに、もう気が付かなきゃいけない時じゃないかなってまことさんは思うかなー……」
     真琴が武器に宿す焔は、苛烈な熱を持ち周囲を照らす。
     斬撃の焔は敵に延焼しその身を燃やし続ける。
    「炎には浄化の力があるんだ……焼き尽くせ!」
     天嶺のさらなる炎纏う一閃が敵を突き崩した。
     熱い熱いと言うこともなく、アンデッドは炎に包まれ灼滅されていく。
    「だから、おやすみなさい、よいゆめを」
     別の敵に向かう間際、見送るように一瞥した真琴はそう呟いた後、踵を返した。

     矢を番えるのは剣速と同等。
     後退し放つ惟久の鋭い矢群が前衛に向かって放たれ、ぽちが消えた。
     間近の友衛を貫き、なお数射。
    「……っ」
     既に残り一分の声は告げられ、あと三十秒もない。
     一手を残す仲間を庇ったエリスが膝をつく。背後では骨を砕く音――配下の……アンデッド、は倒せたでしょうか……。
    「汝、護ル者カ。命ヲ賭ス覚悟ト見受ケタ」
     凪風に手をやる。銀竜草の刺繍が入ったそれは命よりも大事で。
     彼女と友衛の意識が闇に吸い込まれていくのと同時に、惟久もまた地面に吸い込まれるように消えるのだった。


     二人の意識はすぐに戻った。ちゃんと身体も動く。
    「エリスさん、大丈夫ですか」
     と心配そうな御理の声に、エリスは涙ぐむ。
     まひるは復活したねこ・ざ・ぐれゐとに、がんばったねと言いながら頭を撫で回した。
    「次のひと、まことさんに傷みせてー……」
     どこかぼんやりぐあいの増した真琴が、回復役ついでに仲間の負傷具合をみていく。満身創痍とはこのことか。
     友衛は痛みに顔をしかめるも、暖かな光がじんわりと傷を癒すその感覚に浸った。
     敵同士を結ばせない連携などが活き、灼滅できた数は、
    「わふ~、十体倒せてよかったねっ」
    「ボスは逃したけどね」
     尻尾をふるぽちを撫でながらの歩の言葉に、こくりと頷く美夜。
     こそこそとし続けているセイメイ――彼女の言葉を借りるなら、陰気な男――には苛立ちも募る。
    (「見つけ出して今度こそ灼滅を……」)
     天嶺がくっと拳を握る。
    「ふぃー、ノルマは達成ってやつ?」
     ぱんっとナナコが元気に手を打った。
    「よーしバナナ食べようぜ! バナナ!」
     その香り、甘味、癒されるのは何故だろう。
    「ありがたく、いただこう」
     まじっとバナナを見つめる友衛に、にっと笑顔をみせてナナコが皮を剥く。
     不穏な空気が最近は続く。
     今は純粋に目前の勝利の味を噛み締めよう、そんな思いを胸に、灼滅者たちは帰路へとついた。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ