真夜中。とあるビルの最上階。サーバールームに不穏な影があった。
獅子面に5本の蹄のある脚――ブエル兵。さらにそのうちの1体は異様なオーラをも纏っており、
「我、充分な叡智を主に送信せり。そして、叡智の持ち主はただ一人、我が主のみ。ゆえに、今より、この地の知識を破壊する」
そのブエル兵がそう言った直後、ブエル兵たちは一斉にビームを発射。サーバールームは破壊されてしまった。
「ブエル兵が、各地のサーバーから情報を取得していたようだね」
須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が少々深刻な調子で言った。
「全く事件らしい事件を起こさずに静かに作戦を行っていたから、いままで気づけなかったんだけど……もう少し調査しておく必要があったのかもね。とはいえ今回はカリルさんのおかげで、ブエル兵が日本有数のとあるスーパーコンピューターから情報を得たブエル兵たちが、サーバーを破壊する事件を予知することができたんだ。カリルさん、ありがとう!」
まりんはカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)と霊犬のヴァレンにぺこりと頭を下げると、説明を続けた。
「サーバーから多くの知識を得たブエル兵は、ダークネスに準じる程に強力になっているから、急いで灼滅する必要があるよ」
サーバールームへの入り口は1つで、室内にはサーバーが2列で並んでいる。ブエル兵たちがいるのはその間のアイル。外側にもアイルがあり、アイルの幅はどれも正面向きのブエル兵の幅1体分程度。長さは60メートルほどある。
「みんなならぎりぎり3人が並べるくらいかな。このブエル兵たちは飛行はしないけど、ふわっとジャンプしてみんなの身長くらいの高さをとびこえることはできるみたい」
天井の高さは十分にあり、明かりもついている。
オーラを纏った強化ブエル兵も普通のブエル兵も、バスターライフル相当のサイキックを使う他、5本ある足で蹴り飛ばしてもくる。強化ブエル兵のみがシャウト相当のサイキックも使用し、ポジションはジャマー、普通のブエル兵は2体ともクラッシャーだ。強化ブエル兵は前出の通り、ダークネスに準じる程に強くなっている。
「みんなが現場に到着するのは、ブエル兵たちが動き出す直前だよ。まだ収集していない情報がサーバーに残っている状態だから、ブエル兵たちがサーバーを攻撃することはないんだ。だからその点は気にしなくてよさそうだね」
もしブエル兵たちの灼滅に失敗するようなことがあれば、戦闘後、ブエル兵は残りのデータを収集して、サーバーを破壊してしまうだろう。
「ソロモンの悪魔ブエルが、サーバー上のデータを全て収集してしまえば、その知識をどのように悪用するかわからないし、サーバーが破壊されれば、サーバーに保存されていたデータなどが消失して多くの人が困ってしまう。そうならないためにも今回の依頼、絶対成功させてきてね! 頼んだよ!」
参加者 | |
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歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254) |
マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944) |
上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188) |
カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) |
ルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182) |
神成・恢(輝石にキセキを願う・d28337) |
リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802) |
深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058) |
●
「こっそり秘密をもちかえろうとしても、そうはいかないのです!」
声のした方向をブエル兵たちが揃って向いた。そこにはカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)とドーベルマン型の霊犬ヴァレンの姿。
「皆さんへのご迷惑を防ぐ為にも、ヒーローとしておあいてしますのですよ!」
生まれも育ちも京の都のご当地ボーイ。今日も元気一杯に敵に立ち向かう幼い主人を、しっかり者のヴァレンが見守っている。
「知識も人の財産。盗んではいけないわ?」
飴色の瞳に蜂蜜色の髪の少女の隣には、金の瞳の白い翼猫の式部。おっとりと、しかし手には聖剣を携えつつ、歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254)が言った。そして即座に光った式部の尻尾のリングは、前衛の仲間に付呪を与える。
「お勉強をするのは悪いことではないと思うのですけれど、知識を盗むのとサーバーさんを壊すのは駄目なのです」
『星霊術士の帽子』についた星と三日月が、星を模ったペンダントArcticaと一緒にキラリと光った。ルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182)は翼猫のクヤを伴い、
「サーバーさんを壊されると、皆が困るのです」
やはり聖剣を携え、白光を纏う。
(「皆のための情報を勝手に自分たちだけの物にするなんて……!それが悪用目的ならなおさら阻止しないといけません!」)
黒髪に大輪の撫子咲いて。深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)はブエル兵の注意が他へ向いている間に、リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802)と二手に別れて室内の構造を確認に走っていた。
(「ここのサーバーの知識って何が入ってるんだろう。ちょっと興味あるけどそう言う場合じゃないよね」)
リコリスは樹と通路の形を確認し終わると、スレイヤーカードを掲げ、
「『8の字』だよ! 変身!」
たちまちストレートの赤い髪が魔力に舞い上がる。黒ずくめのコスチュームの背には黒耀の片翼が生え、胸元では銀細工の十字架の中央、月の光で輝くアクアマリンが蒼い光を放つ、『正義の魔法使いアストライア』登場。戦闘に備え、銀の瞳にバベルの鎖を集中させる。そして同様、但しこちらは灰色の瞳を研ぎ澄まし、短期行動予測力を上げつつ回り込んだ狙撃手がもう1人。
「何でもかんでも齧ればいい訳じゃないって……」
背後のビハインドは双子の兄、玄。神成・恢(輝石にキセキを願う・d28337)は、
「時間掛けて、頭抱えて、資料こねくり回して。そうして学んで得たことこそ知識だろ」
と、恢を狙い光線が放たれた。恢はそれをサーバー側へ身を寄せるようにして避け、
「皆さんの苦労をブッ壊して美味しいトコだけ独占めとか……長生きしねェぞ??」
「グえ」
瞬間、玄が前衛のブエル兵に顔を晒す。続き、
「これ以上大事な情報は渡さないのです!」
カリルの放った帯群が、玄にトラウマを引きずり出されくるくると回りながら惑うブエル兵の1体へ突き刺さった。それを見た強化ブエル兵は、雑魚兵たちをとびこえて灼滅者たちへ迫ろうとするが、
「……お目当ての知識は、見つかった? それとも……知識なら、何でも良いの、かな」
その後ろ、部屋全体の構造を確認し、挟み撃ちの位置をとるマリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)。問いかけに答えがなくとも変わらない温度のない声と表情を、ぐるりと強化ブエル兵が振り返る。
「サーバーは、どうでも良いけど……」
「ぎゃギギギギイ!!」
強化ブエル兵が回転しながらマリアに向かおうとした。が、
「そうはさせないのです!」
マリアの前にとびこみ、蹴りを耐えるカリル。すぐにヴァレンが駆け寄って眼力を使う。さらに、
「ギャエえ!」
「悪魔の、思うようには、させない」
ボタボタと床にたまる気味の悪い体液。瞬時マリアのシスター服を取り囲むように浮き上がった帯の全てが、雑魚兵の顔面を貫いていた。
と、ヒュインヒュインと空を切って、円盤状の光線が前衛を薙ぎ払いにかかる。しかし一度は吹き飛ばされたものの、めろとルエニはすぐに膝を立て立ち上がり、聖剣を構えて駆け入る。そして上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188)は、前衛へ向かって黄色にスタイルチェンジした交通標識を掲げ、
「気をつけてください、跳びそうです」
後方からかかった声に、樹は縛霊手から祭壇を展開すると、雑魚兵2匹を同時に結界の中へ捕らえた。クヤも尻尾のリングをひとふり、重ねて動きを留める。続きもっとも弱った1体へめろとルエニの白光の斬撃が向かい、思い切り吹き飛ばした。
何とか起き上がったブエル兵はグルグルと目玉を回転させ、自らの傷をそれぞれ癒しに入る――ことも狙撃手たちにはお見通し。攻撃の手が止まった雑魚兵2体が、塞がりかけていた傷口ごと急激にピキリと凍りついた。リコリスの放った死の魔法が2体を確実に氷点下の世界へ叩き落としたのだ。
その間に狭いアイル、細長い注射器を手に駆け入る恢の動線を、皆が空ける。注射器の中に詰められた毒々しい蛍光の液体が、針先から溢れかけた。
「たまにはこういうやり方もアリでしょうかね??」
ダーツのように注射器を投げつけた恢の黒髪が流れ、耳元でピアスが光る。
「ぐゲ」
刺さったのは獅子面の額。じわじわと毒に侵されるにつれその顔は崩れ、支えを失った5本の脚はボトボトと床に落ち、消滅した。
●
数が減ったブエル兵たちは、今の灼滅者たちに挟まれている状況を打開し、逆に自分たちが挟みうつ状態にもっていきたいようで、隙あらば灼滅者を飛び越えようと試みる。が、灼滅者たちが事前に相談していた、声かけと連携を中心としたジャンプへの対策によって、なかなかうまくいかない。
「僕より背が高いからって、僕の上を飛び越えては駄目なのです」
足の分をいれれば確かにブエル兵はルエニより背が高い。ルエニは空中で二段跳び、ブエル兵はもちろんサーバーをこえるかというくらい高くとびあがると、流れる星のように重さと煌きをのせ、空中で待ち構えていたクヤと式部のパンチとともに、ブエル兵を蹴り倒す。そしてもう一方でも、
「行かせないのですよー!」
サーバーを傷つけないように角の部分を足がかりにしてジャンプ。カリルがふわり浮き上がろうとした強化ブエル兵の足にしがみついた。少々無茶な主人の行動にあわててヴァレンは六文銭を発射。さらに恢が走らせた影が強化兵を飲み込み、その隙カリルは床へトン、と降りる。恢の影に引きずり落とされた強化兵へ追い打ちをかける玄の霊撃。強化兵は不気味な声を発して状態を戻していくが、雑魚兵には単純に傷を塞ぐ以外の術はない。追い詰められ、半壊した雑魚兵は目から強烈な光線を発射した。
「させないよ?」
ロッドを構え、めろが軽やかに射線に入る。すると雑魚兵は横のアイル側に跳び逃げようとした。もちろんそれも狙撃手が見逃すはずはない。
バチン! と激しい音を立てながらもめろが光線を防御。その後ろロッドを掲げるのは死神か悪魔かと見紛う『正義の魔法使いアストライア』。魔力によって引き起こされた雷鳴にリボン付きのシルバークロスが呼応して光る。
わたしは魔法使い。昔は嘘だった。弟を守るため嘘ではなくなった。そして今は、
「悪者はやっつけるの!」
「ぎギアア!」
轟音ともに雑魚兵へ雷が落ちる。雑魚兵は一瞬にして焼け焦げ、グスグスとくすぶりながら消滅していった。とはいえまだ手を足を休めるわけにはいかない。
「きます!」
敦真の声。雑魚兵よりもはるかに強烈な勢い、大量の円盤状の光線が中衛を襲った。
「式部、大丈夫?」
白い毛並みと翼を光線に斬り刻まれた大事な相棒へ、心配そうにめろが駆け寄る。少々弱気になった主人を逆にニャアと力強く宥めて促す式部。めろも頷き、ロッドを構え直す。
と、傷を負った式部、マリア、樹へ天魔が舞い降りた。巨大なオーラの法陣を展開した敦真が仲間に刻まれた傷口を塞ぎ、さらには強化兵の付呪を打ち破る力をも宿らせる。
何を狙っているのか回転する強化兵を、多くの悪魔を灼滅してきたマリアが無言で見据える。使い魔とはいえ悪魔の目論見通りにさせるつもりはない。マリアは伸べた指先にはめられた指輪から、魔法弾を放った。魔法弾を避けようと狭い通路を浮かび上がろうとする強化兵。そこへ影の桜花が舞うように絡みついた。
贈り人が込めた護りの願いの通り、『星影桜舞』は樹の意志のままに幻想的にかつ容赦なく強化兵を縛り上げ、マリアの魔力の弾丸は麻痺を与える。
そこへ飛び込むめろとカリル。めろがロッドで思い切り強化兵を殴りつけ、5本の脚の先まで魔力が流し込んだところへ、カリルが縛霊手で重ねて叩きのめした。そして、ふわっと浮かんだ霊力の網が強化兵を包んだ瞬間、
「ぐガ」
めろの魔力が爆発。強化兵の脚は折れ、顔は欠け。だが再び不気味な声とともに、ブエル兵は自身に張り付いていた影の桜花を飛び散らせる。戦いはまだ続く。
●
「回復します!」
敦真が仲間への癒しと盾とするべく帯群を向かわせる。その隙をつくかのように光線が放たれるが、敦真はワンステップ、手に握った交通標識で叩き返し相殺。
逆にできた隙、強化兵の背後から、羽交い絞めにするようにまわされた腕と光るガンナイフの先。脚と脚の間に覗くは恢の両目と長めの前髪。ざくり一文字に獅子面を切り裂かれた傷口からはシュウウと湯気のように体液が抜けていく。そして恢が片脚で強化兵を蹴り飛ばし、そのまま宙で後転、ナイフを手に着地したところを狙いすまし、玄が強化兵へ毒の波動を浴びせた。
ダークネスに準ずるといわれるだけの攻撃力と体力を持ち合わせた強化兵ではあったが、灼滅者たちの回復効率と連携には追い詰められるしかない。回復役の敦真だけでなく、状況に応じ、カリルも彼らしい元気なギターのメロディを奏で、めろは胸に抱くスペードを具現化、闇の力へ魂を歩み寄らせては強固な生命力と攻撃力と手にいれる。恢は後衛であることを生かし、特に唯一の回復薬である敦真の状態に気を配り、こちらも機に応じて癒しのオーラを送っていた。
前半雑魚兵に攻撃を集中させた分時間は多少かかったが、勝利の時は確実に近づいている。
「!」
脚を回転させ、強化兵が樹に向かって動いた。飛び上がるのか蹴り飛ばしにくるのか。どちらにも対応できるよう、片脚で踏切り、後ろへ距離をとった樹は、指輪から魔法弾を撃ちこむ。ここまで命中率を落とさない工夫をしながら戦ってきた樹の一撃がヒット。が、強化兵は五脚を痺れさせながらも目玉を回転させ、治癒と命中の回復を狙う。
しかしすかさず、めろが非物質化させたソードの刃で付呪と霊魂を断ち切り、その後ろ、赤い髪の先だけが見えるほどのスピードでリコリスが強化兵の身体中を斬り刻んだ。
だらだらと体液を落とし、人とも獣ともつかない呻き声をあげながらゆらり浮き上がろうとした強化兵を、再び2段跳びからルエニが攻撃。身長差などものともしない高さから此度はロッドで強化兵を殴りつける。体内を巡ったルエニの魔力が爆発すると同時、カリルの走らせた影に飲み込まれ、トラウマにも翻弄されるブエル兵の前、マリアは片腕に装着した杭打ち機を稼働した。
ドリルのように回転する杭の勢いにシスター服の裾がそよぐ。直接の恨みはなく人を傷つけたわけでもないブエル兵。それでも悪魔の手下なら慈悲はない。
「……飼い主に、声が届くなら、伝えて」
「ガ! ……ギ、ギギぎぎえ」
杭で獅子面の中央をねじきりながら淡々とマリアが言う。
「いつか必ず、貴様を、殺しに行くと」
バギャン!!! と強化兵の『破片』が飛び散った。それでも明日、この部屋に入った者が、今日此処で起きたことの一端も知ることはないだろう。あちこちに落ちた脚や肉片は、全て静かに霧散していく。
「やったね、式部」
最後までがんばってくれた相棒をめろが抱きしめる。式部は少々呆れた様子ながらも、ぺろっとめろの頬を舐め、主人に応えた。
「あれ、ルエニくんどうかしたのかですか?」
そして撤収中。きらきらと星が瞬くような星空をモチーフにした文房具を手に、何やら落ち込んでいる様子のルエニにカリルが声をかける。
「ブエル兵さんが僕を飛び越えようとした数が1番多かったのです……僕ってそんなに低くて飛び越えやすそうでしたか……」
でも、とルエニは顔を上げ、
「サーバーさんが無事でよかったのです。これでビルの人もお仕事ができますよね」
「はい! みんなで力をあわせたおかげなのです!」
と言ったカリルの足元、ヴァレンも誇らしげに主人を見上げた。ルエニはふと持ち歩いている『★世界の人工衛星大百科★』に目を落とすと、
(「ブエル兵さんたちは、これからサーバさんの情報が増えるとは思わなかったのでしょうか?」)
百科事典と違ってサーバーの情報は変化する。
(「それとも、何かの情報を探してる?」)
又はマリアが言ったように情報なら何でも良いのかもしれない。どちらにしても今回は灼滅者たちの活躍により、スーパーコンピューターのサーバーと知識は守られた。今後もブエルの動きには注意していかなければならないだろう。
作者:森下映 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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