札幌テレビ塔強襲作戦~斬新なる増援部隊

    作者:真壁真人

    ●斬新なる計画
     札幌地下鉄、大通駅。
     時刻は既に深夜をまわり、最終電車も終わった駅は、始発電車が出るまでの数時間、静けさの中にあるはずだった。
     だが、静けさの中で、異変は生じる。
     大通駅に通じる線路の一角が、音もなく複雑怪奇なダンジョンへと変化を遂げたのだ。
     灼滅者達が対処して来た、札幌地下鉄の迷宮化現象。
     だが、ダンジョンと共に現れた存在は、これまでの事件とは異なっていた。

    「いやー、『ハルファス軍』『白の王』に加え、『贖罪のオルフェウス』みたいな大手まで計画に乗ってくれるとは! 僕達の『ラグナロク計画(プロジェクト)』も業界の注目を集めたみたいだねー」
     ダンジョンの入り口から、地下鉄東西線のホームを眺めながら言うのは、斬新コーポレーション社長、斬新・京一郎だ。
     社長の言葉に部下の六六六人衆達が斬新なポーズで賛意を示す。

    「多分、例の灼滅者達も計画の存在は知ってるだろうけど、そうそう防げるものじゃないでしょ。出張中に本社を潰されるという斬新な不幸体験もあったけれど、僕らの斬新な計画はこれからこれから!」
     パンと勢いよく手を打つと、斬新社長は明るい声で言った。
    「さあ、社員諸君! 君達の一日24時間の労働もいよいよ山場! もうすぐテレビ塔での作業も完了する。ラグナロク計画本格始動を、最前列で見届けられるなんて、君達は幸せ者だよ!」

    ●ラグナロク計画
     斬新コーポレーションが遂行している『ラグナロク計画(プロジェクト)』。
     エクスブレインの予知が突き止めた手掛かりは、敵が本格的に、この計画を始動させようとしている事実を示していた。

    「ダークネス勢力は、『ラグナロク計画』を実行する上での重要ポイントとして、札幌テレビ塔を利用しようとしているみたい」
     エクスブレインの遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)は、集まった灼滅者達にそう説明した。
     札幌テレビ塔の展望台には、HKT六六六最強のゴッドセブンの一人『アリエル・シャボリーヌ』がおり、さらに四大シャドウ『贖罪のオルフェウス』に闇堕ちさせられた天城・翡桜(アナーカード・d15645)が周辺哨戒を行っている。
    「この状況をさらに大変にしてるのは、戦闘を開始したら、『斬新コーポレーション』の増援部隊が現れるってこと!」
     増援部隊がテレビ塔での戦闘に加わってしまえば、灼滅者側の敗北は確定する。
    「みんなには、この増援部隊の、テレビ塔到着を阻止して欲しいの」
     鳴歌は真剣な表情でそう言った。

    ●奴らを騙せ
     問題の増援部隊は、斬新コーポレーション社長『斬新・京一郎』自らが率いている。
     構成する人員も、彼が北海道出張に同行させた精鋭の六六六人衆が中心で、人数も30人を越えている。灼滅者側の戦力を大きく上回っていると言えた。
    「知ってると思うけど、あの斬新・京一郎って見た目に似合わず凄い強いから」
     鳴歌が改めて警告する。
     斬新社長に率いられた六六六人衆達は、バベルの鎖に予知されるのを避けるための少人数で倒せる戦力ではない。

     増援部隊は、当初はアリエル・シャボリーヌによる『悪夢の波長の増幅』の邪魔にならないため、地下鉄大通駅が変化したダンジョンで待機している。
     しかし、翡桜からの連絡があるか、異変を察知すれば、増援部隊は地下街オーロラタウンを経由して札幌テレビ塔へと向かおうとする。
    「まともに戦うだけで、進行を食い止めるのは、ぜったい無理だと思って」
     戦力差からも、戦うだけでは敵の進行を阻止は出来ないと鳴歌は強調する。

    「斬新社長達は『悪夢の波長の増幅が失敗した』と判断したら撤退するの。だから何とかして『悪夢の波長の増幅が失敗したと思い込ませる』ことができればいいんだけど」
     鳴歌の歯切れが悪いのは、彼女自身、どうすれば良いか判断しきれていないからだろう。
     どのようにして『思い込ませる』かは、灼滅者達の判断に委ねられている。
     少数の灼滅者が斬新社長の元に現れる状況、相手側の作戦内容……利用できる周辺情報は幾つかあるだろうが、どのように演出すれば、相手を騙すことが可能だろうか?
     加えて、斬新コーポレーションと武蔵坂学園は完全な敵対関係にあり、増援部隊は灼滅者と遭遇したら、即座に攻撃を仕掛けて来る危険性が高い。
     騙すための演出は、戦闘の最中に行えるものでなくてはならない。

     困難な役割だということを、灼滅者達は改めて認識する。
    「危ない橋を渡ることになると思う……でも、テレビ塔で戦う人達が作戦を成功させられるかは、皆が増援部隊を食い止められるかにかかってるわ」
     鳴歌の言葉を受け、灼滅者達は作戦を練り始めるのだった。


    参加者
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)

    ■リプレイ


    「連絡ありました。接触するそうです」
     地上の灼滅者達が警備の指揮を執る唯識に接触したことを、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が携帯電話を手に告げた。
     栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)は杖を強く握ると、緊張から大きく息をついた。
    「……それじゃあ、行こう?」
    「分かった」
     弥々子に続き、風宮・壱(ブザービーター・d00909)が音響装置のスイッチを入れながら隠れていた場所から出た。
     ウイングキャットのきなこを伴って、斬新コーポレーションが現れるであろう地下鉄の改札口へと向かう。
     音響装置からは、今から5分程が経過した後から、徐々に録音してある戦闘音が流れ出すはずだった。天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)のサウンドシャッターによって、外部からの音は遮断され、人の気配もない。音は地下鉄の駅構内に、よく響くだろうと思われた。
    「敵が動き出すまで、何分かかるかな」
    「どうだろうな……」
     玲仁の疑問にセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)が羽毛に包まれた首を傾げた。
    「敵がダンジョンから動かないまま事が終われば万々歳ではありますガ……」
     霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)は、肩をすくめた。
    「問題は、異変を知る手段よね」
     神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)は考える。
     連絡を断てば増援が動かないのなら、テレビ塔への対策と、唯識と配下の淫魔への対策だけで済むはずだ。
     エクスブレインが対策が必要と言っているからには、敵はどうあっても何らかの方法で異変を察知し、確実に異変を察知して介入して来る。
     蔵乃祐が携帯を入れたポケットを軽く叩いた
    「唯識からの連絡は遭遇時に地上で確実に防いでくれるはずです」
    「だとすると、逆に『連絡が無い』事で動き出すパターンか」
     首を捻る風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)。唯識達が定時連絡等を送っているのならば、それが途絶えたタイミングで動き出すだろうが、推測するしか無かった。

     そして、5分後。
     戦闘音が鳴り出して間もなく、階段の下で殺気が蠢くのを灼滅者達は感じ取る。
    「来るぞ……」
     やがて殺気は集団が作る駆け足の音となり、凶器を手にした斬新コーポレーションの六六六人衆として姿を現す。
    「ヤッハァァァァ! 斬新隠密先行偵察部隊参上イェェ!」
    「どこが隠密裏だ」
     小次郎は、憮然としながら刃を構えた。壱が苦笑する。
    「まあ、今更だよね……」
     斬新コーポレーションが狂気の殺人集団である六六六人衆でも相当な奇人変人の集まりであることは灼滅者達も先刻承知だ。だが、それでも相手はダークネス。戦闘力は侮りがたい。
    「本社の皆の仇討ちですわ!! 本当は別にどうでもいいですが、六六六人衆なのに仇討のために戦うとか斬新ですわよー」
    「ねーねー、その鳥の被り物って斬新じゃね? ねーねーねーねー!!」
    「これは、自前だ……!」
     セレスは結界糸を放ち、騒がしくがなり立てる敵前衛を縛り付ける。
     続々と現れて来る斬新コーポレーションの社員達は、灼滅者達への攻撃の手を緩めようとはしていなかった。
     だが、今の時点ではまだ、灼滅者達には余裕があった。
    「私達が守りに徹しているから……でもありますが、敵の人数が少ないからですね」
    「さっき、先行偵察って……」
     刃物を手に斬り掛かって来る六六六人衆に指輪を押し付け、制約の弾丸を叩き込みながら弥々子は言った。音を聞き付け、駆け付けたのだろう。
     問題は、肝心要の斬新・京一郎さえまだ現れていない事だ。
    「……まさかダンジョンに引き籠って出て来ないなんて事は無いわよね」
     柚羽が不安げに呟くが、それは杞憂に終わった。
     最初に現れた六六六人衆が、階段の下へと声を向ける。
    「社長ゥゥゥー! 御報告致しますゥゥゥ! 改札付近にて灼滅者8名を発見ンンンー!!」
    「巻坂君、よくできました。あとで社員食堂の割引券をあげよう」
     新手を引き連れた尖ったサングラス姿の男──斬新コーポレーション社長、斬新・京一郎が、悠然と階段を上って来る。
     ここからの数分が、全ての明暗を分ける。
     声に出さず、灼滅者達はその事を改めて意識する。


    「コンバンハ、斬新社長」
    「盛り上がってるところゴメンね。本格始動って聞いて駆けつけちゃった。俺たちも混ぜてくれる?」
     ラルフと壱がまずは言葉を向ける。その間にも斬新社長についていた敵も加わり、社員達の攻撃は一層加速していた。飛びかかる社員をかわしながら、ラルフは続けた。
    「本日はプレゼンテーションに参りました。殺意を交わしながらプレゼンも斬新かと」
    「お互いにメリットがある話なら、歓迎するよ? ま、我が社的には殺意塗れのプレゼンとか、そこまで斬新じゃないんだよね。六六六人衆ばっかりだしさ」
     笑顔のまま、斬新社長の身を包んだダイダロスベルトが獲物を狙う蛇のように伸びた。咄嗟に数条を斬り裂いたラルフだが、完全に防ぎ切るとは到底いかない。
    「他とは別格ですネ……」
    (「……長くは保たないな」)
     人事部社員の放つ冷たい祈りを無心でやり過ごしながら、エクスブレインに忠告されていた通りの事実をセレスは自覚する。
     ディフェンダーとメディックだけという大胆な構成の甲斐あって、灼滅者側の受けるダメージは分散している。
    「その分、戦線が崩壊する時は一気に崩れるだろうけど……保たせる!」
     きなこの回復を受けながら、壱はWOKシールドで敵の攻撃を受け止めた。
     社長が加わったことを受け、社員達はいよいよ意気軒昂のように見える。その様子に、蔵乃祐は仲間達を癒しながら、ふと奇妙な感慨を抱く。
    (「弱者は強力なリーダーや英雄に憧れるものです。理想と現実が乖離していてもね」)

    「武蔵坂は既に作戦行動中だ。貴様達の目論見は把握しているのでな」
     小次郎は斬新社長へと、そう声を投げかけた。
    「じきに増援も到着する。ここにも、テレビ塔にもな」
    「仲間の救出の際は多数の人員を投入するからな」
    「わかりやすい場所に相手がいてくれる。そんな時に武蔵坂が動かないと、思う?」
     玲仁と弥々子が、除霊結界を展開しながら小次郎の言葉を後押しするように付け加える。
    「その割に、君達は随分と少ないんだねぇ」
    「何故8人しかいないと思う? 1、戦う理由が無いから。2、これから増援が来る。3、斬新な集団自さ……くっ!!」
     玲仁の言葉を遮るように、ロボット型装甲に身を包んだ社員達の指先から、前衛に立つ者達へと立て続けにミサイルが叩き込まれた。轟然と炎が上がり、
    「癒やしとなれ、刃の加護よ!」
     小次郎は言いざまにクルセイドソードから癒しの風を解放するが、炎の向こうから別の社員のミサイルが続けざまに飛んで来る。周囲に群がる六六六人衆の攻撃は確実に灼滅者達を追い詰めつつあった。

    「テレビ塔の方も御見通し、か……。流石というか何というか」
     斬新社長が口元の笑みを消し、サングラス越しの視線をオーロラタウンの方角へ向ける。
     サングラスへと何を考えているかは読みにくいが、
    (「こちらの狙いが分からないんでしょうね」)
     柚羽は、そう結論する。
     こうして待ち受けて、しかも劣勢が明らかにも関わらず後退しようとしない。
     本隊が本当にいたとして、足止めにしても少人数過ぎる。
    (「バベルの鎖が無ければ、大戦力を投入したいわよね……」)
     エクスブレインによって、バベルの鎖を避けていることを知らない斬新社長にとっては、想定は困難だろう。セレスがクチバシを開いた。
    「テレビ塔でオルフェウスやSKN666との合同作業、楽しみにしてたのか?」
    「オルフェウスの真の目的は、ラグナロク計画そのものを乗っ取り、成果を斬新コーポレーションから奪う事ですよ」
     蔵乃祐が偽りの言葉を告げる。斬新コーポレーションの同盟相手への不信を植え付けるように、彼は続けた。
    「悪夢の儀式と灼滅者は、あなた達に対する陽動と囮。元灼滅者の淫魔は、私達に対する餌……いわば捨て駒です」
    「かつて『病院』が受けたオルフェウスによる夢と現実の両面作戦は厳しかったぞ。お前達でも耐えられそうにない位にな」
     セレスが飄々と続けた。
    「此処で油を売っていて良いのです? 両軍が今、何処で、一体何をしているのか? 正確に把握していますか? 北征洞窟から総出で来たのは迂闊では? 北征入道との協定は、絶対に破棄されませんか?」
     不安を煽ることで撤退を促そうと、蔵乃祐は言葉を重ねた。
    「ダークネス勢力間の関係は、本質的には弱肉強食の競争相手でしかない筈。今すぐ帰還しないと社員共々路頭に迷いますよ」
    「……御忠告感謝するよ、とでも言えば良いのかな?」
     ダイダロスベルトが一瞬にして刃を形成すると、蔵乃祐へと一直線に伸びた。確実に心臓を貫く
    「やらせるか!」
     刃と化した布が割って入ったセレスを貫く。
    「そうそう。結果はともかくこの合同作戦スキュラの結界要塞の二番煎じに見えたぞ。斬新でない作戦なら対処の仕様があるという事だ」
     ダイダロスベルトを引きちぎり、さらに伸びて来る布を斬り裂りながら言うセレス。
     その背を狙い、六六六人衆が飛びかかる。
    「響華さん!」
     小次郎にとどめを刺そうとした六六六人衆の一撃を、玲仁のビハインドが身を挺して庇った。そこに飛来するミサイルを受け、彼女は炎の中に消える。立ち上がる小次郎をラビリンスアーマーで包みながら、ラルフは言った。
    「オルフェウスの計画、私達は勿論潰しにかかりマスが、どのシャドウも果たして諸手を挙げて賛成するでショウか? 特に、ソウルボードでの安寧を考えているようなシャドウなどはどうでしょうネ?」
    「結界要塞ねぇ……参考にさせて貰おうかな。それにしても君達って親切だよね。いやぁ、斬新だなぁ!」
     その口元には笑みが戻って来ていた。


    「親切?」
     何かボタンを掛け違えたような感覚を覚えながら、セレスは六六六人衆が付きだしてきたナイフを振り払う。敵を突き飛ばすようにして距離を取るが、不意に足に激痛が走る。
     床を這いずるように近付いて来た六六六人衆の攻撃だ。
     一斉に襲い掛かる六六六人衆、それを庇おうとする灼滅者達。
     壱のサーヴァント、きなこが、立て続けに攻撃を庇ったところにさらなる攻撃を重ねられ、弾けるようにして消え失せる。
    「これから多人数の増援が来て、僕を灼滅しようとしてるんだろう? なのに、わざわざ危険を教えて帰るよう促してくれるなんて、随分と斬新じゃないか」
     弥々子は傷の痛みをこらえながら、自信に満ちた笑みを浮かべて見せた。
    「そう思うならそれで、いいよ。斬新さん達がどう思っても、武蔵坂はもう動いてる、から」
    「何かあったら異変を伝える伝達者が来る筈だったんでしょ?」
     柚羽が指摘する。彼女の言葉の通り、ここに至るまで、地上にいる唯識からの連絡は来ていない。確信には至らないものの、オルフェウスの罠という可能性も捨て切れないのだろう、斬新社長は苦笑した。
    「そうだねぇ。不安があるのは否めない。……もう一人ぐらい寄越させて真意を確かめるか」
     斬新社長は、考えをまとめるように呟いた。
    「かといって、ここで尻尾を巻いて逃げ帰るんじゃ、それこそラグナロク計画をプレゼンした意味が無い。人事、8人ぐらい連れてテレビ塔行ってよ。状況確認したらTELで」
    「かしこまりましたでリリン、社長! よぉし、志願者先着順だリン!」
     人事部なのだろう社員が、灼滅者達の横をすり抜けオーロラタウン方面を抜けテレビ塔地下入口へと向かう。
    (「本来なら突破を阻止すべきなんだろうけど……ここで阻止したら、一層嘘だと裏付けてしまうことになる」)
     灼滅者達は覚悟を決める。
     こうなってしまえば、あとはテレビ塔にいる班がアリエル・シャボリーヌの妨害を既に成功させていることを祈るしかない。
     自分達に出来るのは、後続の増援が行かないよう、嘘を貫き体を張ることだけだ。
    「戦力を割るとは、バカな真似をしたね。もうすぐ増援が来るよ。本社潰されたこと、もう忘れたのかな。俺たちだけなら勝てても数百人相手ならどうだろう?」
     壱の言葉への返答は、一斉の攻撃だった。


    「最近の闇堕ちゲームの本来の目的は大量の死体集めで、その死体を白の王側が回収しゾンビにして兵力集めしてたんだってね」
    「へぇ、それは斬新な話だね。でも本当はあれ、ラブリンスターの仕業だって知ってた?」
     斬新社長と作り笑いを交わしつつ、柚羽はラビリンスアーマーで小次郎を包んだ。
     白の王セイメイと斬新コーポレーションの積極的同盟は灼滅者達が阻止し、最近ようやくアンデッドだけを送って来ているような状況なので、柚羽の言葉は現実と実情のずれたカマかけだ。
     対する斬新社長が返した、ラブリンスター云々も嘘八百だろう。
    (「……あちらにとっては、こちらの言葉も同様の扱いということ」)
     敵が自発的に望んで与えて来る情報を、物証も、予知による裏付けも無しに鵜呑みにはしない。
     当然の判断だろう。
     もっとも、完全に嘘と判断されたわけでもなく、迷いを生ませた結果が、一部だけをテレビ塔に向かわせるということだったのだろうが。

     その裏付けを取るためにテレビ塔へ送られた人数の分、攻撃の圧力が下がったとはいえ、灼滅者達に反撃に転ずる暇は与えられなかった。サーヴァント達は既に消え失せ、その主である玲仁と壱も戦闘不能に陥り、前衛の全滅は間近いと誰の目にも明らかだった。
    「けどまあ、少し見ない間に随分強くなってないかい? 本社を潰してくれたり、若者の成長は怖いねぇ」
     斬新社長は呆れ半分、感心半分といった様子だ。
    「ぜったい……負けない」
     弥々子は血に塗れた顔で毅然と前を向いた。
     撤退するならば、地上に出れば済む話だ。社員達も、追撃までは仕掛けて来ないだろう。
     だが、斬新社員達の包囲された今、出口まではあまりにも遠い。
     事前に定めた撤退条件を満たす状況では、もはや完全に撤退不能に陥っているだろう。
     それを理解し、ラルフは意を決し、息を吸い込んだ。
    「突破口を、開きマス」
     赤茶の髪が毛先から徐々に金色に変わっていく。闇堕ちの始まりに、灼滅者達が息を呑んだ。
    「クハハッ!」
     哄笑と共に、階段への道を遮る社員を鋼糸が絡め取った。次の瞬間、その社員は見るも無残な血達磨と化す。急激な力の上昇を警戒するように、斬新社長が感心したような声を上げた。
     血の臭いを感じると共に、ラルフは己の意識が次第に闇に融けるのを感じた。
     殺戮を求める精神が首をもたげる。喜悦が自然と顔に浮かんで来る。
    「サア、愛しあいまショウか、ヒトゴロシども」
     この場で斬新社長に次ぐ強さの六六六人衆の出現に、社員達が緊張を顔に浮かべる。
    「良いね! じゃあ幹部候補生の面接と行こうか。斬新な自己アピールを頼むよ」
     携帯電話を社員に放り、斬新社長はラルフと向かい合う。
    「今のうちです!」
     敵の注意がラルフに向いた瞬間、蔵乃祐と柚羽が倒れた玲仁と壱を担ぎ上げた。前衛達がそれを庇い、そのまま灼滅者達は、階段を上へと駆けていく。
     追わんとした社員達を、ラルフが、糸の結界を張り巡らせ、その行く手を阻む。

     その時、斬新社長の携帯電話が鳴った。携帯電話を預かっていた社員が、
    『社長ー!! アリエル嬢を保護しましたリン! 潜入した灼滅者達のせいで作戦は失敗しましたリン!』
    「OK、面接中なんでこっちに連れて来てくれ。……やれやれ、これはさっさと撤退してた方がマシだったかな?」
    「クハハハッ! あまり情けない姿を見せると、内定辞退してしまいマスよ?」
     地下から響くラルフの哄笑を背に、灼滅者達は撤退していく。

    作者:真壁真人 重傷:風宮・壱(ブザービーター・d00909) 天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424) 
    死亡:なし
    闇堕ち:霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884) 
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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