●交通情報集積所
薄暗く肌寒い部屋の中、静かな音を奏で続けているサーバー。
交通情報が集いやりとりされている場所の隙間。不意に、獣のパーツを組み合わせて作られたような異形が出現した。
獅子のような顔を持つ獣はより深き闇を抱いたまま、サーバー群を一瞥する。
「我、充分な叡智を主に送信せり。叡智の持ち主はただ一人、話が主のみ。故に……今より、この地の知識を破壊する」
歪な声音を響かせた時、その背後から闇を抱かぬ同型の獣が三体姿を表した。
獣たちは闇を抱きし獣が導くまま、サーバーを破壊し始める。
――全ては未来の話なのだけれども……。
●夕暮れ時の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつもの笑顔を消したまま口を開いた。
「ブエル兵が、各地のサーバーから情報を取得していたみたいです」
全く事件らしい事件を起こさずに静かに作戦を行っていた為、今まで気づくことができなかった……そう、葉月は瞳を伏せる。
「……そして、充分に情報を得たブエル兵たちは、サーバーを破壊して帰還しようとしています」
サーバーから多くの知識を得たブエル兵はダークネスに準じるほどに強力になっているため、急ぎ灼滅する必要がある。
「皆さんに赴いてもらうサーバーはこの場所。交通情報を主として取り扱っているサーバーですね」
用意した鍵を用いて侵入し、力を用いながら進めば特に見咎められることなくサーバーまで到達できるだろう。
「そして、サーバーへと到達した段階では、ブエル兵が行動を開始しようとしている直前……となるかと思います」
幸い、そのタイミングならばまだデータを収集しきっていない様子。故に、戦闘が終わるまではサーバーが攻撃されることはないだろう。
全力で倒せば被害なくことを終わらせることができる、という流れになる。
敵戦力は闇のようなオーラを纏った強力なブエル兵が一体、その他のブエル兵が三体。総員合わせて灼滅者八人分程度の力量。
強力なブエル兵は攻撃面に特化しており、車の幻影を生み出し威圧する、自転車の幻影を走らせ加護を砕く、交通事故の幻影を相手にぶつけて数回傷つける……と言った攻撃を仕掛けてくる。
一方、その他のブエル兵三体は防御特化。技は、青い光による回復及び攻撃強化。黄色い光による行動制限、赤い光による麻痺。
「以上で説明を終了します」
地図や鍵など必要な物を手渡し、続けていく。
「ソロモンの悪魔・ブエルがサーバー上のデータを全て収集してしまえば、その知識をどのように悪用するかわかりません。また、サーバーが破壊されれば保存されていたデータ等が消失し、多くの人が困ってしまうでしょう。……今回は交通情報ですし、なおさらですね」
ですからと、顔を上げて締めくくった。
「どうか、全力での灼滅を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617) |
桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146) |
神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616) |
メルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367) |
笙野・響(青闇薄刃・d05985) |
月村・アヅマ(風刃・d13869) |
天神・緋弥香(月の瞬き・d21718) |
名無・九号(赤貧大学生・d25238) |
●道と道が集う場所
「……」
天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)が職員たちを眠らせる。
先行する月村・アヅマ(風刃・d13869)が、今は誰も居ないと手振りで伝えた。
階段近くに待機していた六名は素早く歩き出し、二人との合流を果たしていく。
六名は誰もいない倉庫部屋に隠れ、二人が再び先行。
偵察と進軍を繰り返し、灼滅者たちはぼちぼち後退の時間なのか帰り支度が始まっていくビルの中。運悪く遭遇してしまった社員を寝かしつけながら、交通情報を取り扱っているサーバールームを目指していく。
侵入から三十分くらいの時間が経っただろうか?
五階フロアの南端に位置するサーバールームへと到達した。
鍵を開け、音を立てぬよう中へと入る。
指先くらいしか見通すことのできない、薄暗闇。
腹に響く重ねられた駆動音。
肌寒いほどの冷気に混じる、熱。
ほのかな光を放っているサーバー群へと視線を向けたなら……その間に、獣の脚を発見した。
「ブエル兵発見、ですわ」
緋弥香は小さく告げた後、スッと瞳を閉じていく。
武装を整えた時、サーバーの隙間から獣の足の持ち主が……ブエル兵が姿を表した。
闇のようなオーラを纏っている個体が一体、その他の個体が三体。
前者がリーダーなのだろう。灼滅者たちの前に立ちはだかるとともに、歪な声音を響かせた。
「我らの邪魔はさせぬ」
●交通情報を吸収せしは
「さしずめ、ウイルス駆除といったところですか」
開幕を告げたのは、メルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)の放つ氷塊。
槍を兼ねた剣によって示された先へと向かう氷塊は、誤ることなく右側の個体へとぶち当たった。
即座に神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)が踏み込んだ。
「わたくしとしましては、久しぶりに見た気が致します」
言葉とともに放つは槍による螺旋刺突。
凍りついた右腕を砕かれたブエル兵がよろめいた時、その身体を一枚の布が包み込んだ。
担い手たるベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)はリーダー格を含む残る三体も布の内側へと戒めながら、告げていく。
「がおー、交通情報を壊したらアカンでー!」
知識は皆で分かち合うもの、一人だけが独占して良いものではない。
「戦う交通安全、思い知るとええで!」
思いを力に変え、ブエル兵たちを結界の内側に閉じ込めた。
桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)が同質の力を重ね、ブエル兵たちを強固な檻のような結界の中に閉じ込めていく。
攻撃を重ねながら、拘束や麻痺でがんじがらめにしたいと策を立ててきた灼滅者たち。
流石にまだ足りぬのか、三体のブエル兵は黄色い光を放ち始めた。
リーダー格は虚空を見つめ、自転車の幻影を創りだしていく。
間髪入れずに差し向けられた幻影を、メルキューレは一閃。
「ほんと、欲張りも困りものです」
霧散していく幻影を横目に踏み込んで、右側ブエル兵の腕を一本切り飛ばした。
今はまだ、消滅していく気配はない。
重ねていけば倒せるはずと、さらなる攻撃を仕掛けていく……。
軽い制止を心に刻む、黄色い光。
浴びながら、南守は声を上げていく。
「サーバーの破壊で、もしバスのダイヤが遅れてバイトに遅れたりしたらこっちは死活問題だっての!」
交通情報は、生活の安全に直結する。
破壊された際の混乱は、想像を絶するものがあるだろう。
「……サーバーエラーって遅延証明書貰えんのかな……はっ」
想像が明後日の方向へ剥き始めた時、南守は首を横に振る。
「いやいやいかん、戦闘に集中しなきゃな」
ブエル兵に赤信号を出しに行くのだと、再び結界を張り巡らさせた。
笙野・響(青闇薄刃・d05985)は深呼吸を紡ぎ、黄色い光に乱れる心を沈めていく。
「電子の妖精さんは、わたしたちが守る!」
おどけた調子で決意を語り髪をかきあげ、体に喝を与えていく。
ならばとばかりに、リーダー格が自動車の幻影を作り出した。
自動車を隠すように放たれた赤い光を浴びながら、慧瑠は扇子で口元を隠していく。
知識とはそれそのものが財産。また、昨今のIT事情からサーバーを破壊されるわけにもいかない。
だから……。
「悪魔の走狗、知識を貪るハイエナには、相応の報いを差し上げましょう。手加減は致しかねますのでお覚悟くださいませ」
微笑みながら、空いた手で右側配下を指し示す。
錐状に巻かれた帯が飛び出し、右側配下を貫いた!
消滅していく手応えを感じながら、慧瑠は左側のブエル兵を流し見る。
「さて、お次は……」
「左側、ですか」
名無・九号(赤貧大学生・d25238)が補足しながら、慧瑠に治療を施していく。
復讐だとばかりに黄色い光を明滅させ始めたブエル兵は、ベルタの結界が閉じ込めた。
「うんうん、うまく行っとるね。この調子でいこ!」
動けぬさまを見据えながら、結界に力を注いでいく……。
動きそのものを封じてくる、赤い光。
強い心で抗いために、響は思いを巡らせる。
サーバーから情報を集めるとは、作戦としてはかなり優秀。
地図は日常でも戦略でも重要だから、相手に情報を与えるのも危険。
だからこそ、成功させる訳にはいかない。
「……」
ぐっと左の拳を握った後、髪をかきあげ赤い光を振り払う。
深呼吸を一度刻んだ後、頬をほのかに染めながら歌声を響かせた。
心を駆り立てるような詩を聞きながら、メルキューレは中央のブエル兵に視線を向ける。
青い光を放っているさまを見て、剣を非物質化させていく。
「強化は常に砕いていきましょう」
踏み込み、左側ブエル兵に差し込んだ。
加護を砕いた直後、逆巻く炎がその配下を飲み込んでいく。
担い手たるアヅマは焼け落ちていく左側ブエル兵を一瞥した後、戦場周囲へと視線を送った。
ブエル兵たちにサーバーを破壊する意志が無かったのと、灼滅者たちが配慮していたことが重なったからだろう。
サーバーに被害はなく、部屋に刻んでしまった傷跡もさほどではない。
「大丈夫、この調子なら……」
治せると、アヅマは視線を戻し腕を伸ばす。
中央のブエル兵とリーダー格を、結界の内側に閉じ込めていく。
動きを止めた中央ブエル兵の懐に、緋弥香が拳を肥大化させながら踏み込んだ。
「さっさと倒れてくださらないかしら?」
殴り飛ばし、リーダー格へとぶつけていく。
ふらつきながらも、中央配下は青い光をリーダー格に浴びせかけた。
リーダー格は自転車の幻影を生み出し、緋弥香に向かって解き放った。
幻影とすれ違うかのように、三日月の如き斬撃が飛んで行く。
「……砕きました」
担い手たる九号は静かに告げながら、次のために篭手を嵌めた右手を握りしめていく……。
●今日も明日も明後日も
幾重にも重ねた拘束の力、麻痺の呪縛。
鎖のように絡みつき、自由な動きを封じ、通常ブエル兵の殲滅も完了し……開戦初期に比べ、灼滅者たちの被害は格段に減っていた。
満足に動けずとも抗わんというのか、リーダー格は車の幻影を二台作り出した。
車の幻影は南守を軸に正面衝突。
南守は顔を歪めていく。
「くそ……」
ライフルを横に薙いで振り払い、構え直した。
「こんな光景を無くす為の情報を、絶対に失わせはしない!」
銃口を突きつけ、放つはビーム。
抑えつけられていく光景を前に、緋弥香のは深い溜息一つ。
「ほんと、歯ごたえがありませんわね。この程度の攻撃しかできないのかしら残念」
ブエル兵をがんじがらめにした結果、受けるにも避けるにも容易くなった反撃の技。健常な状態ならば、少しは楽しめるくらいの攻撃はできただろうか?
「ま、構いませんわ。こんな弱いお方、さっさと片付けてしまいましょう」
思考を途中で打ち切り、踏み込んだ。
肥大化した拳で、リーダー格の中心を打ち据えた。
衝撃を和らげることもできなかったのか、リーダー格はよろめいていく。
「失礼! 手加減したのですが……効いちゃった?
反応がもたらされる前に、一本の帯がブエル兵を包み込んだ。
「ささ、もうここで決めちゃいましょ!」
担い手たるベルタは帯を引っ張り、ブエル兵を強固に締め付ける。
「ああ、終わらせよう」
呼応したアヅマが踏み込んで、肥大化した拳を撃ち込んだ。
揺らぎながらも、よろめきながらも、ブエル兵は帯を振り払う。
虚空にし視線を向け、新たな幻影を――。
「……」
――幻影は、半ばにて霧散した。
新たな結界を起動した九号が、ニヤリと口の端を持ち上げていく。
「今です」
「欲張りすぎると身を滅ぼしますよ。……まぁ、聞こえてはいないでしょうけれど」
メルキューレが踏み込み、剣を振り下ろした。
斜め傷を刻まれてなおもがくリーダー格の正面に、慧瑠が踏み込んでいく。
「この場所、この知識、それが人々にとって、どのような意味を持つかなどどうでもいいのでしょうね。悪魔の傲慢、許すわけには参りません」
告げながら螺旋刺突を放ち、貫いた。
リーダー兵は暴れることもできぬまま、ゆっくりと消滅を始めていく。
残されたのは薄暗い部屋の中、戦いの熱によって過度に暖められた部屋を冷やすために全力回転を始めた空調の音色くらいで……。
治療とともに、サーバールーム内の探索をした灼滅者たち。
床や壁に多少の傷はついているものの、サーバーや空調に異常はない。これならば、点検の際についた傷と認識してくれるだろう。
「壊れているものもないみたいね。それじゃ、帰ろっか」
総じて異常はないと判断し、響が笑顔で帰還を促した。
否を唱える者はいない。
灼滅者たちはゆっくりとした足取りで、サーバールームからの……ビルからの脱出を目指していく。
道中、寝ていた職員たちを己等の存在を気取られぬよう注意しつつ起こしていく。
日常を取り戻させていく。。
……もう、このサーバーが危機に陥ることはない。
これからも人々の交通安全を、流通を守り続けていく存在として、駆動し続けていくのだろう。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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