武者アンデッド北へ~鎌倉より続く病、木曾仲仁

     白の王セイメイの前に、武者鎧のアンデッドが平伏し下知を待っている。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     セイメイの言葉にアンデッドが更に深く平伏する。セイメイは少し考えた風を見せると、アンデッドへと言葉をかける。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     自らの願いが聞き届けられたと知ったアンデッドが、平伏したまま感激に打ち震える。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」
     
     教室に集められた灼滅者達に、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)は真剣な表情でセイメイ達の様子を語る。
    「セイメイが送り込むの援軍は、鎌倉時代風の武者鎧に身を包んだアンデッドだ」
     今集まっている灼滅者達に討伐を依頼する数は6体。その中でもリーダーと呼べる個体はダークネスに準じるほどの力を持っており、周りの部下達も1対1で灼滅者に勝てるほどの強さを持つ。
    「更に言うと、アンデッド達が封印を解かれてからの戦闘時間は10分しかない」
     それを過ぎると、アンデッド達は地に飲まれるように消え去り、北海道のダンジョンへと転送されるのだという。
    「だから、出現場所に待機し敵が現れたら1体でも多く倒す。という流れになるだろうな」
     敵の殲滅は難しいため、リーダー1体か部下5体全てのどちらかを倒せれば成功となる。いくら傷を負わせても逃げられては回復されてしまうため、確実なトドメが重要だ。
    「次に敵と戦場の情報だな」
     敵のリーダーは木曾仲仁(きそ・なかひと)を名乗っており、派手な意匠の甲冑を着て、攻撃の度に『我に眠る力よ……!』『我が刀に宿りしは雷神の怒り!』などと叫んでくる。部下は特に変わった所は無い。
    「しかし……。中二病というヤツが鎌倉時代からあったとは驚きだな」
     一斉に『どの口が言うんだ?』との視線が向けられたのは言うまでもない。
    「アンデッド達は、倶利伽羅峠……今でいう富山県と石川県の境にある山の峠に現れる」
     木曾一族から見れば戦いに勝利した場所ではあるが、木曾一族がにだって死者は出ていたことだろう。なお、現地は無人の山中だが、時間は夜のため明かりが必須だ。
    「それと、こんな言動の奴だがさっきも言った通り実力は高い」
     刀は振るう度に持ち主を状態異常から守り、必殺の一撃は凌駕を許さぬ鋭さ、その他にも炎や麻痺の視線を操ることも出来る。部下達も刀を使った遠近両用の戦いに加え、回復技を使ってくるやりにくい敵だ。
    「ポジションは全員ディフェンダーだ。逃げ切れば勝ちなんだから順当な戦術だな」
     なお、万一敗走する際に追手がかかることがない。これだけは救いだろう。
    「これ以上ダークネスどもに北海道で好き放題させるわけにはいかない。涼しい顔で策士面してるセイメイに、一泡吹かせてやってくれ!」
     彼が動いたということは、事件が大きく動く前触れの可能性は高い。1体でも多くの敵を灼滅し、ダークネスの陰謀を打ち砕くのだ……!


    参加者
    聖刀・凛凛虎(皆殺しの暴君・d02654)
    鴻上・巧(夢の守護者と欲望の王・d02823)
    村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    栗元・良顕(浮かばない・d21094)
    芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)
    七識・蓮花(人間失格・d30311)
    九賀谷・晶(高校生デモノイドヒューマン・d31961)

    ■リプレイ

    ●闇より出でし雷炎の武者
     時は夜。倶利伽羅峠の指定場所に到着した灼滅者達は、荷物から照明器具を取り出した。
    「ん~……。この辺りが丁度よさそうだな」
    「じゃあ、僕は向こうに置いてこようかな……」
     待機時間中に済ませておこうと、九賀谷・晶(高校生デモノイドヒューマン・d31961)や栗元・良顕(浮かばない・d21094)を始めとして設置作業に取り掛かる。
    「明かりはこのくらいでいいでしょう。そろそろ時間です」
     最後の照明器具をオンにし鴻上・巧(夢の守護者と欲望の王・d02823)が声をかけると、灼滅者達は武装を纏いその時を待つ。
    「アンデッドの手駒を集める……。何がどう関わってくるのか分からないことばかりだが、後々のためにもしっかり倒しておかないとな」
    「そうですね。それに、あのムカツク男の手下というだけで戦う理由には十分です」
     指定場所を見つめ語る七識・蓮花(人間失格・d30311)へ、セイメイへの感情を隠さずに八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)が軽口を返す。
     そして数分後、周囲が薄暗くなったかと思うと、1人……、また1人と、鎧を身に着けたアンデット達が虚空より現れた。
    「ほぅ……。出迎えかとも思うたが、貴様等の目を見るに違うようだ……」
     囲まれた状況に驚きもせず、黒地に炎柄の鎧を着た武者が灼滅者達を冷静に見回す。
    「へっ、聞いたんだけどあんたら強いんだって? 俺達と一戦ヤろうや?」
     斧を担ぎ大剣を武者達に向けると、聖刀・凛凛虎(皆殺しの暴君・d02654)がその言葉が正しいものだと言葉を返す。
    「ふ……。果し合いを挑まれては引くわけに行かぬな……。現世にて再び刀を振るえるとは恐悦至極!」
     鎧武者は感謝の言葉とともに刀を抜くと、灼滅者達に対し身構え名乗りを上げる。
    「我こそは木曾一族の名将、木曾仲仁! 雷神より受け賜りし我が愛刀『秋雨』の切れ味、とく味わいて黄泉路へ逝くがよい!」
    「上等さあ……。Kill me if you can!」
     名乗りへ応えた芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)のかけ声を機に、お互いが敵へと駆け出していく。
    (「始まったね……。必ず、間に合わせるよ……!」)
     それに合わせ村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)がタイマーのスイッチをオンにする。制限時間は10分間。狙うは大将、仲仁の首……。

    ●呪われし眼が汝の時を止める
     各々手近な相手に斬りかかる武者達の中、仲仁はまず優生に刀を向ける。
    「斬る身にいざ逝かんとは中々に面白き名乗り。汝を躯にし、我の配下とするも一興か!」
    「酷い空耳……って、もう耳はなかったなあ」
     まあ、鎌倉武者相手では英語が通じなくても無理はない。優生は斬られながらも間合いを外し、霧を振り撒いて仲間達を援護する。
    (「そう聞こえたとして、何が面白いのかな……?」)
     そもそも中二病って何だろうな小六の良顕だが、疑問は置いておき作戦通りに仲仁を狙い変異させた腕の一撃を叩き込むも、仲仁は微動だにしない。
    「強いねぇ……心が躍るってなぁっ!」
    「そう易々とは近づかせんぞ!」
     続けて仲仁に殴りかかる凛凛虎だが、部下の1人が割り込みこれを庇う。
    「やっぱり庇い合われちゃうから、中々歯がゆいね……!」
     武器に影を纏わせ攻撃する一樹だが、こちらはこちらで別の部下に攻撃を阻まれていた。
    「ですが体力には限界があり、庇い傷付くならそれもまた好機です。策もありますしね」
    「ああ、敵の攻撃はなるべく俺が引き付ける。皆は敵を倒すことに集中してくれ!」
     庇いに来た部下を宗次郎がそのまま巨腕で殴り飛ばし、晶の標識から青い輝きが迸る。
    「黄泉返りし我が身を灼く蒼き光の使い手か……。面白い! 次はこの炎神より受け賜りし鎧の加護を見せてやろう!」
     ……言動はアレだが一応上手く釣れたようだ。そして仲仁が動くよりも早く、巧の言葉が響き渡る。
    「ならばそれを破るまでです。金色の火食い鳥は、加護を焼き払う……」
     言葉とともに背中より吹き上がる炎が、仲間達に破魔の力を授けていく。
    「ふっ……。不死の鳥なぞ何するものか! 我等とて死を超えた存在よ!」
    「今は好きに言っていればいい。お前達はすぐに黄泉路とやらへ帰るのだからな」
     言い放ち殺意を振り撒く蓮花。ほとんど傷を与えられた様子は無く、避けた敵もいるが、目的であるエフェクト発動数の強化には十分だ。
    「フハハハハッ! そのような気概では赤子も泣かせぬぞ! 気概とはこう示すのだっ!」
     気迫の一声と共に、鎧の模様と仲仁の目が朱く光り輝く。仲仁と灼滅者達の策、果たして勝るのはどちらか……。

    ●時を告げるは機械仕掛けでも神に非ず
     次の1分も庇い庇われてという攻防の中、中衛陣のサイキックが火を……いや、氷と毒を吹き出した。
    「くっ……。何という冷気だ……!」
    「気を付けよ! この者達、刀の加護を封じてくるぞ!」
     策とは範囲攻撃による超多重の状態異常と、支援で宿した破魔の力による耐性打ち消し。中には味方を庇う者もいるが、それはより多くの状態異常に侵されることを意味していた。そして多くの状態異常に侵された部下達は、これは堪らぬと一斉に回復をかけ始める。
    「お前達怯むでない! 陣が乱れておるぞ!」
    「ねぇ、骨丸出しの恰好で寒くないの? 他の人達は寒そうだよ……?」
     回復中の部下達を横目に、良顕は風を操り仲仁の体を削り取る。
    「躯の身でも寒さを感じられるなど、寧ろ幸福よ!」
    「それなら暑さも感じさせてあげますよ。……戦輪よ回れ、地を焼く焔!」
     そこに続いた巧が炎を蹴り入れると、鎧に模様ではない炎が纏わり付く。
    「炎を操る術で我と競うか……ならば! 火は否と非に通じ、情にて定まる魂を葬らん! 行け、炎神の猛火よ!」
    「そうはいかないな!」
     仲仁が言霊を唱えると鎧から炎が吹き上がるも、晶が正面に立ちはだかり仲間を守る。
    「いけません。すぐに回復を……!」
     見る間に火だるまとなった晶を、一樹が癒しの歌で回復する。防御寄りでこの威力とは、さすがダークネス並と言われるだけはある。
     しかし、部下達の中でも庇うことが多かった者は、時を重ねるにつれ激しく崩れていく。
    「我が命の砂も残り一粒……。なればせめて一太刀でも!」
    「いいねぇ……お前の首で俺を満たしてくれ!」
     凛凛虎は捨て身で突撃してきた部下の太刀を斧で弾き上げると、大剣で首を斬り落とす。部下も倒せるならば逃さない。壁が減れば、仲仁への攻撃も通り易くなるのだ。
    「次は何方ですか? 手早く消えたい方は彼の前に、辞世の句を読む時間の欲しい方は……氷漬けになる前に頑張って考えてください」
    「怖いなあ。俺も負けないように怖がらせないと」
     にこやかに死刑宣告をした宗次郎の魔法が武者達を白く凍り付かせ、優生の怪談が恐怖と毒を振り撒いていく。
     その後も、味方を庇い、仲仁への回復を優先した部下から順に倒れていく。
    「さて……私達では赤子も泣かないと言ったが、赤子も黙るが正しかったようだな」
    「おのれ……。肉体に縛られた存在でありながら、我ら木曾一族をここまで追い詰め……」
     蓮花の魔法に耐えながら歯噛みする仲仁の言葉を遮り、戦場にある時を知らせる機械音が鳴り響いた。

    ●紡がれるは恨みか、それとも次の戦いか
     残る敵は部下2体と仲仁の計3体。そして、事前にセットされたアラームの時間は7分。鳴り響く音は、仲仁への一斉攻撃の合図だった。
    「さあ、これからの時間は、より紳士的に行こうか!」
     これより先は回復よりも攻撃と、一樹がチェーンソーを振り上げ仲仁に斬りかかる。
    「仲仁様! 時が来るまで後少し、何とか耐えてくだされ!」
     一樹の攻撃で広がった氷や毒に対抗し、部下2人は仲仁に回復をかける。
    「今更遅いのですよ。後はここを押し切るだけです」
     巨腕を振るう宗次郎を始め、範囲攻撃より火力を重視して仲仁を集中攻撃する灼滅者達。
    「ぐっ……。だが倒れはせん! 木曾一族の名将にして雷神炎神の加護を受けしこの仲仁。必ずや北征入道殿の元に馳せ参じて見せようぞ!」
    「名将って言うけど『仲仁』なんて聞いたこと無いんだよね。何で名将なのかな……?」
     好奇心から攻撃ついでに聞いてみた良顕だったが、仲仁の返答はそっけないものだった。
    「ふんっ。わっぱが聞くにはまだ早いわ!」
    「なるほど、語って聞かせられるような活躍をしていないのですね……」
     その態度に何かを感じ取った巧が、仲仁へ抉るような言葉と蹴りを叩き込む。
    「な、何たる侮辱! 我が必殺の一太刀にて目にもの見せてくれようぞ!」
     仲仁は腰溜めに刀を構えると、剣先に気を集中させる。
    「受けよ! 我が刀に宿りしは雷神の怒り! 一刀必殺、秋雨雷光斬っ!」
    「遅えんだよっ!」
     雷光の速さで振り抜かれる太刀が、一刀の元に割り込んだ晶の胴を薙ぐ。
    「ちょっとこれは無茶し過ぎたかな……。後は頼んだ……ぜ……」
    「……咄嗟に仲間を庇ったか!」
    「隙だらけだぜ……。その大将首……置いていけぇっ!」
     残心を乱した仲仁の背後から凛凛虎の大剣が迫り、今日2つ目となる首を刎ねる。
    「く……口惜しや……。この恨み、同胞と北征入道殿が、必ずや晴らしてくれようぞ……」
     首だけとなっても恨み言を残し消えていく仲仁。転送ではなく灼滅に間違いない。
    「な、仲仁様が……!」
    「死んだ相手のこと考えるより、自分達のこと考えたほうがいいじゃないかなあ?」
    「この場から1人として逃がしはしない」
     狼狽える部下に優生の氷弾が突き刺さり、蓮花の刃が頭蓋を斬り裂き兜を弾き飛ばすと、その部下に仲間達が連続攻撃を叩き込んでいく。
    「お、お主だけでも……、北征入道様の元へ……」
     灼滅直前に仲間を回復されるも、残る敵を後1体とした時だった。
    「……敵の体が!」
     最後の部下が地面に沈み始めるのにいち早く気付いた蓮花が刃を振るうが、部下はこれを太刀で受け止める。
    「灼滅者……。最後まで戦えぬのは口惜しいが、これで終わりと思わぬことだ……。同胞と仲仁様の無念、この私が確かに引き継いだぞ……!」
     怨嗟の言葉を残し、その部下は鍔迫り合いのまま押し込まれるように沈んでいった……。

     武者アンデッド達の主格を見事討ち果たした灼滅者達。殲滅には後一歩及ばなかったが、十分以上の戦果だったと言えるだろう。
     セイメイ、SKN六六六、斬新。そしてラグナロクプロジェクト……。近く起こるだろう北海道での激動をより大きく感じながら、灼滅者達は倶利伽羅峠を後にする……。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ