武者アンデッド北へ~黄泉返りし古強者

    作者:天風あきら

    ●北へ
     薄暗い部屋の中、白の王・セイメイの前に、武者鎧姿のモノが平伏し、下知を待っている。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     セイメイの声に、武者鎧が言葉無く更に深く平伏する。
     セイメイは普段から浮かべている柔和な笑みを深くして、頷いた。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     武者鎧は頭を垂れながら、面貌の下で僅かに喜びを浮かべる──が、既に骸骨と化しているその表情は、非常に読み取りにくい。
     しかしセイメイはそれを理解し、武者鎧──アンデッドに軽く触れた。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」
     
    ●古強者との戦い
    「皆、集まったみたいだね」
     篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)は、教室に集った灼滅者達を見回して言った。
    「札幌でダンジョン事件を起こしているノーライフキングについては……知っているよね」
     首肯する灼滅者達。
    「実はそこに、白の王・セイメイが援軍を送ろうとしてるらしいんだ」
     白の王・セイメイ。その名に、教室の空気が張り詰める。彼が関わるところ、常に事件が大きくなる可能性を持っていると考えるのが自然だ。
    「白の王・セイメイが送り込む援軍は、鎌倉時代の武者鎧姿のアンデッド達。その中でも、ダークネスに準じる力を持つ強力なアンデッドのようだね」
     アンデッド達は源平合戦の古戦場など、因縁のある地域に封印されており、出現するまでまだ時間がある。
     しかし、出現後十分程度で今度は地に飲まれるように消え、北海道のダンジョンに転移してしまうという。
    「だから、アンデッドが現れる場所で待機して、現れたら、敵が消えるより前に灼滅してほしい。……厳しい依頼になるけれど、頼めるかな」
     ここまで聞いて、頷かない灼滅者はこの場にはいなかった。
     それを確認して、閃は詳しい説明を始める。
    「敵が出現するのは千葉県の山の中。時刻は夜半」
     戦いづらい地理と時刻。工夫が必要だろう。
    「武者アンデッドの元の経歴は、源平合戦に関与した武将の、配下に連なる武者だったみたいだ。生前の名を樋野・素明。この個体が、ダークネスにも準じる強さを持つ」
     そして、樋野に従う武者アンデッドが七体。いずれも、灼滅者より僅かに強い能力を持っている。
     武者アンデッド達は全員が守り手の配置。
     敵も強いとはいえ、連携と作戦で上を行くことが充分可能な灼滅者達だが、十分間の制限時間内に全滅することはないかもしれないけれども、全て撃破することも難しい。
    「十分以内に灼滅していなかったアンデッドは、転移後に回復してしまうから、一体でも多く、確実に止めを刺すべきだ」
     逆に、灼滅者側が逃走した際には武者アンデッドは追撃してこない。
    「彼らが手にするのはもちろん日本刀。樋野と配下とで能力値的には差はあれど、使ってくるサイキックは同じだよ」
     そして最後に閃は一言を付け加えた。
    「セイメイが援軍を送るということは、札幌のダンジョン事件も大きく動き出そうとしていると考えられる。セイメイ配下の武者アンデッドを出来る限り灼滅した上で、札幌のダンジョン事件の動きに備えないといけない。……頑張って」
     神妙な面持ちで灼滅者達を送り出す閃だった。


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)
    イリス・ローゼンバーグ(深淵に咲く花・d12070)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    樹雨・幽(守銭奴・d27969)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)

    ■リプレイ

    ●古強者達の復活
     エクスブレインの予測した地点を、灼滅者達が各々持参した地面設置型やハンズフリーの灯りが照らす。
     更にその場にイリス・ローゼンバーグ(深淵に咲く花・d12070)のESPが展開し、木の根や下草が押し広げられ土が露出する。その効果で、足場は大分整えられた。
    「なかなか強い敵みたいだけど、ろくに反応のないアンデッドの相手はつまらないのよね」
     しかしイリスはどこか、見下すような整った冷笑を浮かべていた。
    「まっ、セイメイにこれ以上好き勝手されるのは癪に障るし、少しでも邪魔しておこうかしら」
     その笑みは、人形のようにフリルたっぷりのドレスを着こなす彼女にとても似合っていたけれども。
    「一斉に札幌へ転送……セイメイは何を考えているのかしらね」
     東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が神妙な面持ちで顎に手を当てる。
    「札幌で大きな流れが来ている事は間違いないようだわ」
    「セイメイPプロデュース企画、『ドキッ☆ 北のダンジョンにホネホネだらけの鎧武者を見た!』がどうしたッて?」
     と、楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)が気だるげに鼻に指を突っ込みながら返す。
    「ただでさえ北海道にあれこれ集まってるんだから、これ以上増やさないで貰いたいわね……」
     一方、白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)はこめかみに指を押し当てていた。
    「地下鉄ダンジョン等とかの状況を考えると、北海道で大きな何かが起こりそうだから、少しでも戦力は削いでおいて損はないよな!」
     拳を反対の手のひらに打ち付ける中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)は、気合充分。
    「少しでも戦力、減らせると良いんですけどね」
     光源の位置と履きなれた靴の具合を確かめながら、桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)も呟いた。
    「北征入道がコルベインの配下なら、ボクの大嫌いな混濁王と関わりがあっても不思議じゃない」
     呟きながら思考を巡らせる比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)。
    「まぁ、このアンデッド達が混濁王の行方を知る筈もないけれど」
     半ば諦めたような、期待を感じられない声音。
    「──来るみたいだぜ。死んだ後まで、ご奉公とはご苦労なこった」
     樹雨・幽(守銭奴・d27969)の言葉に、光源が照らす中央を見やれば、尋常ではない瘴気が感じられた。それも、ダークネスか灼滅者、それに準ずる者しか感知することは出来なかっただろうが。
    「おおお……」
    「ふおおおお……」
     唸りを上げながら、顕現していくモノ。白い骨と骨を繋ぎ、どこからか現れる武者鎧を身に付け、ヒトと同じ形を成していく。しかし人とは似て非なる者、異形の存在。
     その間に、複数人が八分後に音が鳴るタイマーを起動。
    「おおおおお……!」
     かくして、武者鎧姿のアンデッドが八体、予言通り山中に現れた。
     その中でも、一段豪奢な鎧を纏った将が一体。
    「お前が樋野・素明か?」
     誰からともなく発せられた問いに、樋野は驚きも見せず仰々しく頷いた。
    「そなたらは灼滅者か。我らの存在を、こんなにも早く感知するとは……」
    「お館様、我ら死の覚悟はとうに出来ておりまする!」
    「いや、元から死んでるようなもんでしょ」
     樋野の配下に対しツッコミも飛ぶ。それ程、灼滅者達には余計な緊張は見られず、リラックスしていた。
    「兵無き将は雑兵に同じッてな。さァ雑兵になッて行くンだゾウ☆ヒョー!」
     盾衛が日本刀と妖の槍を携え、バトルオーラに身を包んでエアシューズで飛び上がる。それを日本刀で迎え撃とうとした樋野の前に、配下のアンデッドが立ち塞がった。
    「お館様!」
    「燃えてけオラァ! ッてもう燃えるトコ残ッてねェか」
     盾衛の飛び蹴りを喰らい、配下アンデッドが炎を延焼させられて吹き飛ぶ。
    「続きます!」
     夕月が放つ意志を持つ帯が、そのアンデッドを刺し貫く。
    「おのれ……!」
     その夕月に反撃しようとしたアンデッドを、夕月の霊犬・ティンが遮った。咥えた刀で斬りつけられ、怯むアンデッド。
    「頼りにしてるよ、相棒」
     夕月を振り返り、ティンは微かに頷いた。
     しかし、立ち上がるアンデッドもまた余裕を残しているように見える。
    「見た目通り頑丈そうね。でも邪魔はさせて貰うわ」
     幽香がマテリアルロッドを構える。
    「それじゃ、その鎧の守りを崩すとするわね……」
     鋭い視線と共に放たれた竜巻は、敵の大部分と山中の木々の一部を巻き込んで、武者鎧を傷つけ、大量の木の葉を揺らした。
    「ぐぉ……!」
    「しかし、我らの膝を付かせるには程遠い!」
    「硬すぎてやんなっちゃうわね。負けないけど」
     クールにむっとしながらも、幽香は尚も言い放つ。
    「まずはあいつを倒そう!」
     夜好がESPにより戦場の中でも遮られることのない声で、味方の攻撃を傷が一番深いと思われる敵へと誘導する。
     同時に自身もまた魔法弾を撃ち込む。白いフリルと金髪が風に舞った。
     が、アンデッドは未だ倒れない。
    「……く、強いッ! 一体一体が何て強力な……!」
     続いて夜好のナノナノがしゃぼん玉を飛ばす。弱音を吐きかけた主を奮い立たせるかのように。
    「……そうだよね、私達が負けるわけにはいかないもんね!」
    「ナノナノー!」
     微笑みかわす一人と一匹。
    「仲間を守りたいのは同じかもしれないけど、俺たちにも譲れないものがあるんだ!」
     翔汰も縛霊手で、指定された標的を殴りつける。放射された霊力が、アンデッドを縛り付けた。
    「所詮落武者、私達の敵じゃないわね」
     続いてイリスが、挑発的に禁呪を用いてアンデッドを爆破。
    「どこの誰に仕えてるかは知らないけど、この分じゃそいつも大したことなさそうね」
    「何を……!」
     思わず飛び出しかける配下のアンデッドを制したのは、樋野。
    「わざわざ死んだ後まで、働く必要はねぇだろうによ」
     幽がへらへらと嗤いながら、己の寄生体を変異させ、恐竜の咢のようになった銃口から液体を飛ばす。その強酸性の液体は鎧を腐食させた。
    「死人は死人らしく在るべきだろう?」
     無類のアンデッド嫌いでありながら努めて冷静に、柩は中後衛への射線を塞ぎながら、巨大化した腕で殴りかかる。その膂力に押し潰され、アンデッドは鎧を変形され骨をぱきぱき折られて圧死する。
    「ようやく一体、か」
    「ねえ、そんなにセイメイに仕えるのが大事?」
     イリスが挑発的に樋野に向かって言い放つが、樋野は至って平静だった。
    「我らが宿願は義を通し抜く事成り。成ればこそ……押して参る!!」
    「おおお!」
    「我らはお館様と共に!」
     配下のアンデッド達も奮起し、一斉に灼滅者達へ襲い掛かる。そこへ立ち塞がるのは護り手を担う者達──翔汰、柩、ティン。
    「おっと、邪魔させてもらうな」
    「ボク達を突破させはしない」
     それぞれに刀で斬りつけられ、しかし倒れる者はいない。上手く攻撃を分散して受け、流すことが出来たからだろう。
    「ふはは、良いぞ強者達!」
     しかしそこへ、最後に控えた樋野の一撃。三日月の如き弧を描いた一閃は、二人と一匹を跳ね飛ばした。
    「ぐっ……」
    「くぅ……!」
     後方へ飛ばされながら、何とか立ち上がる。
    「くはは、まさかここで、このような死合いとなろうとはな!」
     樋野が高笑いする。
     残り、七体にして九分。初手をとれたのが大きかったが、ぎりぎりの戦いかもしれなかった。


    ●あと二分! 一斉攻勢

     ピピピピピピ!

     古き者との戦場に場違いな電子音が複数、鳴り響く。
    「皆さん、残り二分ですよ!」
    「くぅ……!」
     既にアンデッドは四体が倒れている。あと一体倒せれば、札幌へ転移される戦力を相当削ぐことが出来るが……。
    「どうした、貴様等はその程度ではあるまい!」
     樋野が声高に言う。確かに、ここまでは防戦も踏まえ回復や庇いを含んだ戦いを展開していた灼滅者達だったが。
    「……一体でも多く行かせてたまるか!」
     翔汰が回復を捨て、蹴りかかる。そのエアシューズ『Daybreaker』は輝く軌跡を描き、炎を奔らせる。
    「ふむ、捨て身の戦法で来たか」
     樋野は感心したように言う。その口ぶりには、まだ余裕が感じられた。配下が札幌の地へ送られるのと自分が赴くこと、戦略的に見てどちらがより力となるか、わかっていると言ったところか。
    「ふん、私達の本気を甘く見ているのかしら?」
     鼻を鳴らしてイリスが斬りかかる。ざんっという音とともに、武者鎧に、その奥の骨に傷が刻まれる。
    「お、お館様……!」
     それでも樋野を守らんと立ちはだかる配下のアンデッド。
    「いい加減、諦めた方がいいんじゃね?」
     神話の神に準えられた名を冠す杖『カドゥケウス』を振りかざし、幽はアンデッドを殴りつける。その衝撃は普通、肉体の中で起こるものだが、ほぼ骨と化しているアンデッドに対してはその関節を破壊した。
    「ぐぅ……!」
     最早立ち上がることも容易にいかなくなったアンデッド。
     そこへ柩が裁きの光を放ち、追い打ちをかける。あと一息。
    「樋野・素明、キミはここで終わりだ」
     マテリアルロッドとクルセイドソードの二刀を構える柩。
    「それはどうかな!?」
    「我らはお館様と共に!」
    「応!!」
     樋野配下のアンデッド達が、一斉に攻撃を繰り出してくる。その剣閃は素早く、或いは重く、または月のように輝いていた。
    「くっ、傷ついているとは思えない一撃だね……!」
    「ぐぅぅ……!」
    「グルルル……」
     護り手達の身体が悲鳴を上げる、しかし声には出さない。
    「よくぞ耐えた。だが我の剣閃、受け切れるか?」
     樋野が追い打ちをかける。防いだとしてもずしりと重く、骨に響く一撃。
    「ぐぁっ……!」
     しかしよく耐えたと言えるだろう。次に繋がったのだから。
     その攻撃の隙に盾衛が、光源、整地のフォローがあって尚足場にやや不安の残る地面から飛ぶ。
    「何を……!」
     配下のアンデッドが、それを見上げる。まるで見当違いの位置へ飛んだ盾衛。刀を振り上げた……と思えば、その宙を蹴って方向転換。
    「脇がスカスカなンだよ、骨だけになァ!」
     アンデッドの骨を鎧の隙間から断ち切った。
    「全員ディフェンダーとか厄介この上ないな……」
     歯噛みする夕月だが、攻撃に不慣れな彼女には却って都合がよかったかもしれない。誰を狙っても大抵は誰かに当たるのだから。
    「行くよ、ティン!」
     ティンが頷くと同時に、夕月も影業を伸ばす。影でアンデッドを絡め取り、その隙にティンが刀を一閃。
    「ぐはっ……お、館……さま……」
    「くっ……よくもやってくれたな、灼滅者達よ」
     樋野は歯をぎりぎりと鳴らし、残った二体のアンデッドにも前に出るよう命じる。その二体もとうに心得ているようで、進んで樋野の盾となる。
    「傷だらけにしてあげる。八つ裂きになってくれてもいいのよ?」
     そんな忠義心に溜息を吐きながら、幽香は無数の刃を召喚し、彼らを纏めて切り刻む。
    「おおおおおっ!?」
     悲鳴を上げるアンデッド達。
    「まだまだ行くわよ!」
    「ナノー!」
     契約の指輪に緋色の輝きを宿し、夜好は光線でアンデッドを刺し貫く。更にそのナノナノが一時的に護り手のフォローに回り、盾となる。
    「ぐ……」
     サイキックエナジーを吸われ、足元がおぼつかなくなるアンデッド。
     そこへ翔汰が飛び蹴りをかます。
    「おらぁっ!」
    「……!」
     声もなく、ふらつき、そしてそのアンデッドも敗れた。がしゃん、と大きな音を立てて倒れ、首だけがもげて地をころころと転がる。ちょっとホラーなビジュアルに、翔汰は一瞬だけびくっとした。
    「あと二体……降参でもしたら? 見逃すつもりもないけど」
     イリスが煽るが、熱くなるのは最後に残った配下のみで、樋野自身はどこ吹く風、といった様子だった。
    「何……最悪、某だけでも札幌へ転移できれば良い。倒れた者達も……こやつもわかってくれておる」
    「は、お館様!」 
    「ふん、ご立派なこと。でも、私には忠義ごっこにしか見えないのだけれど?」
     言いながらイリスは意志持つ帯を放ち、その残った配下アンデッドへと死角から斬撃を浴びせる。
    「ちぃっ……」
     舌に相当する器官がなさそうなのにどうやってしているのかは不明だが、舌打ちする樋野。
    「そいつにゃ俺も同意見だな」
     幽がへらへら笑いながら、右腕に携えた杖を寄生体に呑みこませる。それは蒼い刀身となって、月明かりを弾いた。
    「とりあえず全滅しとけや!」
    「何の!」
     しかしその一撃はアンデッドの刀に受け流された。
    「けっ、諦めの悪い奴」
    「不屈の精神、と言って貰おうか」
    「どちらにしろ、ここまで戦力を削った以上、キミ達の負けだ」
     柩が翔汰に回復の光を浴びせる。既に勝利条件は満たした。
    「何の、まだ終わってはおらぬ」
     樋野が配下と共に、その翔汰へと斬りかかる。樋野は縦に、配下は横に刀を奔らせる。
    「ぐぉ……っ」
     避けるのが難しい剣閃に、翔汰はたたらを踏んだ。しかし先程の回復もあり、何とか踏みとどまる。
    「やりおるな」
    「だろォ? だったらお前らもここで倒れとけや!」
    「出来る事なら樋野まで倒したい……!」
     盾衛の斬撃、夕月の影が雨あられとアンデッドに降り注ぐ。
    「うぉぉぉぉっ!」
     耐え忍ぶアンデッド、更に後を紡ぐ幽香の斬撃。
    「硬すぎてやんなっちゃうわね。負けないけど」
     それでも未だアンデッドは倒れず。
    「これで……!」
     夜好が放ったのは、魔法弾。それは確かにアンデッドに着弾した。
     しかし。
     樋野がかたかたと骨を鳴らして笑う。
    「くくく……時間だ」
     すぅっと姿が薄れていく、樋野と最後の配下。転移が、始まっている。
    「待て!!」
    「今度まみえたなら、また死合おうぞ。灼滅者共……!」
     高笑いの残滓を残して、二体のアンデッドは消えて行った。

    ●武者は去りて
    「あああ、殴りたかった……時間的に厳しいだろうとは思ってたけど、配下全部倒したらボスも殴りに行きたかった……!」
     夕月が地面をどんどん叩く。余程悔しかったのだろう。
    「いやー骨のある敵だッた……もとい骨しか無ェ敵だッた」
     肩を竦める盾衛。
    「いくらかは、減らせたかしら……? 札幌で上手くやれるとよいのだけれど」
    「少しは敵の戦力を削れたかな……? それと近く起きるであろう戦いにも備えておかないと」
     夜好と翔汰は遠き地へ、近き未来へ思いを馳せる。
    「ご苦労さん。奉公の続きは来世でしてくれや」
     地に転がる白骨死体に、幽は言葉を手向けた。
    「相手が何企んでいるか考えても埒が明かねぇしよ。ま、とりあえず成功って事で、良しとすっか」
     確かにアンデッドの六体は倒した。後は、先の戦いでどうなるかだ。
    「もし、もう一度出会う運命だとしたら……樋野・素明、今度こそ倒してみせる」
     拳を握る柩。
    「苦労するわね……」
    「どちらにしろ、今度こそ叩き潰すだけよ」
     幽香が溜息を吐き、イリスが空を見上げる。
     そこに浮かぶ月だけが、彼らを見ていた。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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