白の王セイメイの前に、武者鎧のアンデッドが平伏し、下知を待っている。
「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
セイメイの言葉に、武者鎧のアンデッドが更に深く平伏する。
「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」
灼滅者達が教室に来ると、すでに冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が着席して待っていた。傍らには湯気の立つ湯呑が置いてある。
「白の王・セイメイが、札幌のダンジョン事件を起こしているノーライフキングに援軍を送ろうとしているようです。転移する前にできるだけ撃破してください」
セイメイが送り込むのは、鎌倉時代の武者のような姿をしたアンデッドで、ダークネスに準ずる力を持っている。
「私の予知によると、アンデッドが現れるのは神奈川県、昔は相模国と呼ばれた場所の山中です」
ただし、出現してから10分ほどで地に飲まれるように消え、北海道のダンジョンに転移してしまう。
「ですのでアンデッドが現れる場所で待機し、出現したら転移する前にできるだけ撃破してください」
なお、山中なので周囲への配慮は必要ない。全力でアンデッドを攻撃すればいいだろう。
「出現する敵は、強力な武者アンデッドが1体と、配下が5体。強力な個体はダークネス並の力があり、配下も灼滅者より少し強い程度の戦闘力です」
アンデッド達が使うサイキックは日本刀及び天星弓のもの。ただアンデッド達は全員防御が固く、こちらが全滅する可能性は低いが、相手を全滅させることも難しい。
10分経過するとアンデッドは転移し、その先で回復するので、確実に撃破する必要がある。
「できるだけ多くのアンデッドを撃破し、敵の戦力を減らしてください。……セイメイにも動きがあったということは、札幌のダンジョン事件に何か進展があるかもしれません。札幌の事件の動向には気を付けてください」
そして蕗子は湯呑の茶を飲み、静かに灼滅者達を送り出した。
参加者 | |
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前田・光明(高校生神薙使い・d03420) |
識守・理央(オズ・d04029) |
霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
卦山・達郎(一匹龍は二度甦る・d19114) |
シェリス・クローネ(へっぽこジーニアス・d21412) |
西園寺・めりる(お花の道化師・d24319) |
人首・ククル(塵壊・d32171) |
●戦の前触れ
灼滅者達は山に分け入り、前田・光明(高校生神薙使い・d03420)が隠された森の小路を使用して仲間を先導、アンデッドが現れる場所へ向かっていく。
(「宗村、というと仙台藩主の伊達宗村が思い浮かぶが……」)
エクスブレインは鎌倉時代の武者のようと言っていたから、名前についてはおそらく偶然の一致だろう。セイメイの思惑も事件の真相も、未だ闇の中。だがここで1体でも多くあの世に帰すことが、灼滅者達の仕事だ。
「セイメイめ、しばらく見ぬと思っておったらまさかこんなことを企んでおったとはのう……」
シェリス・クローネ(へっぽこジーニアス・d21412)は顎に手を当て、いぶかしむような表情で思案する。各勢力が北海道に集結している今、これ以上戦力を補充させるわけにはいかない。この場で戦力を削ることが次の戦いにつながるはずだ。
「今日は張り切ってお化け退治です!」
拳をぐっと握り、やる気十分の西園寺・めりる(お花の道化師・d24319)。以前はアンデッドが怖かったが、今はもう慣れたもの。気をしっかり引き締め、魔法使いの力を存分に発揮してみせる。
(「アンデッドというだけでも十分に穢れ、罪の対象。ましてや彼の白の王の手の者とあらば……尚更、ですね」)
「ふふ……ああ、楽しみです。罪を裁く、その瞬間が……!」
人首・ククル(塵壊・d32171)は人を食った笑みを愉悦に変え、興奮に表情を歪ませる。森の中でも黒のスーツに白手袋という出で立ちが、余計にその異様さを引き立たせていた。
灼滅者達がエクスブレインの指定した地点に到着すると、禍々しい気が周囲に満ちていくのを感じた。間もなくアンデッドが解き放たれるだろう。
(「できれば全滅といきたいけど……やれるところまでやるだけだ」)
識守・理央(オズ・d04029)はアンデッドが湧き出ようとする地面を見つめ、殲術道具を構えた。今回は一分一秒が惜しい。出現と同時に攻撃を仕掛ける。
「さぁ追い込み一本のラウンド勝負! 開始だ!」
龍砕斧を携え、自信溢れる笑みを見せる卦山・達郎(一匹龍は二度甦る・d19114)。敵の数を減らすのが今回の作戦の目的だが、全滅させる気概で挑む。
「……」
居木・久良(ロケットハート・d18214)は地から出でようとするアンデッドを視界に収め、過去を思い返した。家族をアンデッドにされてから2年以上が経ったが、あの時の傷跡は憎しみとともにまだ胸に残ってる。だけど誰かの笑顔のために戦うと、いつでも夏の日みたいにカラカラ笑っていようと決めたから。そのために、全力でぶつかる。
「いくぞ!!」
「いざ、北へ!」
とうとう武者姿のアンデッド達が完全に姿を現し、灼滅者達が一斉に攻撃を開始する。
そしてシェリスがタイマーを起動し、ピッという電子音が戦いの始まりを知らせた。
●死人との戦い
「オレは居木・久良。あんたの名は?」
「死人に名前など不要。しかしあえて名乗るなら、宗村と答えよう!」
久良が地面にハンマーを叩き付け、衝撃波を放ちながら名乗りを上げた。装飾された兜を纏うアンデッドは宗村と名乗り返し、刀を抜き放つ。豪快に振り抜いた軌跡は横一文字を描き、斬撃となって飛んだ。
「僕はオズ……デッドエンド・オズ! あまねく悲劇と絶望に終焉を刻むΩとZ!」
相手は死者といえど武人。ならば憐れみも情けも無用。正々堂々、真正面から戦いを挑むのみだ。
「いくぞ、宗村殿ッ! あんたも武士なら、戦から逃げたりなんかしないよな!」
「左様。ゆえに我らは北へ征かん!」
理央が手をかざすと、不可視の術が起動して敵軍から熱を奪い取る。冷却された骨の表面にわずかにヒビが入り、脆くなっていく。
「攻撃を開始します」
霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)は淡々と魔導書を開き、術を発動。禁呪が直接アンデッド達に降りかかり、一斉に爆発に包まれた。光明がウロボロスベルトを振りかぶると、刀身が蛇のように伸びてしなる。加速を乗せて薙ぎ払い、アンデッド達を次々と切り裂いた。
灼滅者達の狙いは配下5体の撃破。広範囲を攻撃するサイキックで敵を巻き込み、効率良くダメージを与えていく作戦だ。
「見えるか? 俺の動きがよぉ! いくぞ卦龍!」
斧を構え、一瞬呼吸を整える達郎。大きく踏み込むと同時に達郎の姿が消え、次の瞬間には敵の眼前に現れて斧を薙ぎ払う。斬撃の波が龍の翼のように敵を呑み込み、同時に敵の注意を引きつけた。
「邪魔者を蹴散らすのだ!」
宗村と名乗ったアンデッドの号令により、配下のアンデッド達も反撃。ある者は矢を放ち、またある者は振り上げた刀を真っ直ぐに斬り下ろした。
「日本刀と弓ですか……お侍さんみたいですねー」
「みたい、というより昔は本物の侍だったんじゃろうな」
めりるが感心したようにこぼした呟きを、シェリスが拾って返す。シェリスは体に巻き付いたダイダロスベルトをほころばせ、翼のように展開。意思持つ帯達は敵に襲い掛かり、その四肢を拘束した。
「なるほど……毒をどうぞー!」
めりるはシェリスの答えに納得しつつ、長刃のナイフを振るう。ナイフから解き放たれた怨嗟と呪いは、空気に溶けて毒を帯びた風となり、渦を巻いてアンデッド達を包み込んだ。
「見事な射でした。ご苦労様です」
武者が空に向けて撃ち出した矢が、星の雨のように次々に灼滅者達に降り注ぐ。だがククルがすかさず夜色の霧を広げ、傷を癒すとともに能力を高める。そしてククルは皮肉とともに笑みを浮かべ、敵を嘲った。
●武死者の太刀
「いつでもオレは全力だ!」
久良の手の中に激しく燃える炎が生まれ、チリチリと空気が焼ける。敵に向けて解き放つと、波打つ炎の奔流がアンデッド達を呑み込んだ。
「これでやっと1体目、だな」
さらに光明が背後から忍び寄り、殺人注射器を突き立てる。サイキックエナジーが変じた劇毒が針から注ぎ込まれ、蝕まれた武者アンデッドがとうとう倒れた。
時間はタイムリミットの半分に差し掛かろうとしているところ。範囲攻撃によって敵全員の体力を削っているものの、敵が転移する前に倒しきれるか。
「時間制限つきってのがちと厄介だな。どいつもこいつも防御を固めやがって――っと!」
アンデッド達が刀を抜き、達郎に斬りかかる。範囲攻撃によって削る作戦は、敵の攻め手を減らし難い手でもある。
「卦龍!」
達郎が斧を構えると、竜因子宝珠が赤く煌めき、一瞬龍の姿が浮かび上がって傷を癒やしていく。いかに攻め手を守り攻勢を維持できるかも、この戦いの肝といえるだろう。
「凍えるですっ!」
めりるが聖剣をアンデッドに向け、周囲の熱を奪い取る。ナノナノのもこもこもしゃぼん玉を発射。体が凍る敵に泡がぶつかって弾けた。弥由姫の背からダイダロスベルトが翼のように広がり、アンデッドに迫る。帯の群れは生ある獣のように敵を追い、その体に絡みついた。
「まだまだこれからだ!」
理央が剣を振り上げると、刃が高速で駆動し始める。振動する剣を握りしめ、袈裟に斬り下ろして一閃。斬られたアンデッドの骨が切断され、バラバラの骨片になって森の中に散った。
「やるな。だが我らもむざむざ止められはせん!」
「こっちですよー!」
宗村が弓に矢を番え、理央目掛けて引き絞る。しかし放たれた矢は、めりるが咄嗟に跳び出して代わりに受け止めた。防御に回った灼滅者達のおかげで戦線は維持できている。後は時間内に押し切れるかどうか。
「地獄にお引き取り願いましょう」
ククルはナイフの刀身に手を沿わせ、炎を纏わせる。懐に飛び込むと同時に燃え盛る刃を突き立てると、刃は鎧を貫いて斬り抉った。
「そろそろ勢いを付けたいところじゃが……」
魔導書を開き、シェリスが禁呪を発動。広範囲の敵を直接爆破し、アンデッドの一体が爆散して消えた。
●死人、北へ
さらに1体のアンデッドを倒し、敵は宗村とその配下1体のみ。だが残された時間も少ない。
「はあっ!」
「後は、任せたぜ……!」
死人とは思えない、宗村の素早い斬撃。閃く刃が光明に迫るが、達郎が割って入って受け止めた。攻撃を受け続けた達郎がとうとう力尽きて膝を付く。
「ああ、任された」
しかし光明を守ったことでその役目は果たせた。光明は振り返ることなく駆け出し、攻撃を続ける。
ピーッ!
その時、セットしていたタイマーが鳴った。
残る時間は1分だけ。限られたチャンスに懸け、灼滅者達は一斉攻撃を試みる。
「北へはいかせないです!」
めりるが手をかざすと、その先に光が集まって矢を形作る。魔力の矢は光とともに宙を駆け抜け、アンデッドの鎧を貫いた。傷を目掛け理央がチェーンソー剣を振るう。鋸の刃は傷口を広げ、深く大きくさらに傷を刻み込んだ。
「さようなら」
ククルはエアシューズを滑らせて接近、近づきながらローラーに点火し、挑発的な笑みを浮かべて炎熱を帯びた蹴りを見舞った。手から迸る烈火をロッドに纏わせ、シェリスが駆ける。懐に飛び込むと同時、火炎渦巻くロッドを叩き付けてアンデッドを焼いた。
「終わりにしましょう」
弥由姫はロッドを携えて背後に回り、強烈な一撃を突き出す。打撃とともに魔力を注ぎ込み、内部で炸裂させてさらなるダメージを与えた。光明は自身の腕を鬼のそれに変えて踏み込み、岩石のような拳を力任せに叩き付ける。
そして久良はハンマーに点火、ロケット噴射でアンデッドに迫る。命懸けで気持ちの限り。みんなで笑い合うために。その魂を燃やす。
「おおおおっ!」
真上から振り下ろされたハンマーが、アンデッドを砕いた。鎧も骨も砕け散り、弾け飛ぶ。
「……いい勝負だったよ」
「こちらにとっては負け戦だ」
刀を収めた宗村が地面に吸い込まれ始めた。どうやらここで時間切れのようだ。
「覚えてろよ。あんたのツラは忘れない」
「それはこちらの台詞だ。部下達の仇は北で討つとしよう」
理央と視線とぶつけ合い、消えていく宗村。宗村の姿が完全に消え、死した武者達との戦いはここで一旦幕を閉じた。
「何か見つかるといいんだが……」
光明はアンデッド消えた地点を中心に、何か手掛かりになるものがないか入念に創作を始める。正直、宗村を討てなかったことは悔しい。だが遠くない内に、借りを返す機会もあるかもしれないと予感していた。
「まったく、死者を弄ぶような事をしおって……」
両手を重ねて祈りを捧げ、シェリスが呟いた。ノーライフキング、白の王セイメイ。生死すら捻じ曲げるその所業、いつまでも許しておくつもりはない。
「大丈夫ですかー?」
「おう、このくらい大したことねえ」
めりるの言葉に応え、達郎が豪快に笑う。途中で倒されてしまったものの、深い傷はなさそうだ。
「夏になったら、北海道に向日葵を見に帰ろうかな」
故郷を思い出し、北の空を見上げる久良。
だがその前に、避けて通れない戦いが待っていた。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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