武者アンデッド北へ～北に向かいしもののふは

■リプレイ

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　灯りのともらぬその場所に、ぽつりと小さく灯りがひとつ。
「北国に向かう援軍の影有り……か」
　三國・健（真のヒーローの道目指す探求者・d04736）は言いながら何もない、誰も訪れないという場所を照らした。
　今回、灼滅者達がこの地に訪れたのは白の王・セイメイが送ろうとしている援軍を阻止する為。
「古戦場に武者の亡霊。出来すぎた状況ですね……」
　月雲・彩歌（幸運のめがみさま・d02980）は呟き見上げれば、箒に乗った各務・樹（虹雫・d02313）の姿があった。
　現れるのは武者アンデッド６体だが、ただのアンデッドではない。全ての敵が防御に厚く、しかもボスである大友・重貞はダークネスと同等の力を持つというのだ。
「ま、何があってもダークネスの企みなんて全部潰すだけだけどね」
　香坂・翔（青い殺戮兵器・d23830）は言い、エクスブレインの説明を思い出す。
　現れる武者アンデッド達は出現から１０分で北海道のダンジョンへと消えてしまうというのだ。援軍を減らす為にもアンデッドをできるだけ、可能であれば全て撃破するつもりである。
「北海道に沖縄に、他のダークネスの動きも活発だし気を引き締めないと」
　そう口にする海堂・月子（ディープブラッド・d06929）の気がかりは天峰・結城（全方位戦術師・d02939）。風に髪が揺れ、眼鏡の奥の双眸は不吉とされるこの古戦場をじっと見つめていた。
（「奴等に関する情報を集めると共に、先ずは目の前の謀の阻止に集中するのみだ」）
　その思いを胸にヴァイス・オルブライト（斬鉄姫・d02253）の銀糸がさらりと風に揺れ、
「播磨の旋風ドラゴンタケル、一致団結の力で死霊武者達を撃破！　だな」
　腕時計のアラームをセットしながら言う健の言葉に日本刀を握る三国・マコト（正義のファイター・dn0160）もこくりと頷き、灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）の瞳はエクスブレインが指定したその場所へ。
　そして時間は刻々と迫り――、
「敵出現を確認、作戦を開始します」
　緊張の中、フォルケの言葉にさわりと冷たい風が抜けていく。
　
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　ずず、ずずず……。
　地面がぼうっと光り、そこから『彼ら』は姿を現した。
　武者のアンデッド達は弓と槍を持っているが、その中に一人だけあからさまに様子の違う武者アンデッドが抜き身の日本刀を手に現れる。
　出現したばかりの彼らはまだこちらに気付いていない。
　一応人払いにとフォルケは殺界形成を展開させ、ヴァイスがブラックフォームを発動させると仲間達も動く。
「ここから先は行ってもらったら困るのよ」
　箒からひらりと飛び降り、ロッドを手に変化させた腕で弓兵を殴れば、樹に続くのは彩歌。
「溺れる夜を始めましょう？」
「ぬおお……っ？！」
　不意打ちに弓兵はうめき声を上げる中で彩歌は死角から切り刻み、解除コードを口に艶然と笑う月子は手にする槍を振るうと結城はイエローサインを展開させた。
「助かるわ」
　月子の言葉に頷き得物を構える結城の前を翔と健が駆けて行く。
「蒼の力、我に宿り敵を砕け」
「心頭滅却！　播磨の雪風、龍冷弾！」
　解除コードと共に放つ攻撃に槍を構える妖冷弾。集中攻撃に弓兵はよろめく動きにマコトも結城から指示され影を放つが――、
「何をしておる！」
　一喝と共に動く弓兵はその攻撃をするりとかわしてしまった。
　その動きに声の主へと視線を巡らせれば、日本刀を手にした武者アンデッド。
「不意打ちを受けるとはこの重貞、不覚なり」
　がちゃり。
　鎧を鳴らし、一喝した武者アンデッドは灼滅者達をぐるりと見渡し、言葉を続ける。
「だが、我等は此処では果てぬ」
　日本刀を手にした武者アンデッド――大友・重貞の声は低く、底から響くような声だ。
「封印から蘇って直ぐで申し訳ありませんが、もう一度眠ってもらいますよ」
「そうそう、もう一回眠ってもらわないとね！」
　彩歌と翔の言葉に重貞はにやりと不敵な笑みを浮かべたような。
「やれるものならやってみるが良い……！」
　ぎらりと刃が光り重貞の怒号と共に弓矢が放たれると、槍兵が灼滅者達へと襲い掛かった。
　
●
「１２時の方向、攻撃来ます」
　警戒監視を怠らないフォルケの言葉に仲間達は身構える。
　前衛に向く攻撃を各々が受け、払い、そしてヴァイスは構えるロッドで重貞の一撃を受けた。
「大丈夫？」
　振り向かずフォルケはちらりと視線を向ければ、頬に紅線を引いたものの大きなダメージを受けずに済んだようだ。
　その様子に安堵し、構える盾を弓兵へと叩き付けた。
　目指すは短期決戦。１０分の間に配下を全員倒すべく、灼滅者達は攻撃し続ける。
　ヴァイスが叩きつけるフォースブレイクに倒れ、まずは１体。
　やはり防御が厚い。
　灼滅者達と同じ程の強さ、しかも防御に厚い配下達を目にフォルケは内心で呟いてしまう。
　ただのアンデッドならすぐに倒れてしまうというのに、１体倒すのにも手数がかかる。限られた時間の中での戦いだというのに。
「貴方方程の手練が協力したいと望む相手……一体何者です？」
　そんな中、弓兵へシールドを叩きつける中でフォルケは重貞に問いかけた。
「相手……？」
　配下が攻撃を受けるのを目に重貞はさも意味ありげな含みを返すと、
「さて、何者であろうな」
　がつん！
　切り裂くはずだった刃は盾に阻まれる。攻撃を阻まれてもアンデッドの表情は変わらず余裕のまま。
「火力を集中して効率良くいくわよ」
　仲間達の攻撃に続きオーラを纏う月子の拳は弓兵を捕らえ、連撃。
「弓兵は全員倒したな！」
「次は槍兵だね」
　消える姿に健と翔は言葉を交わし、仲間達は攻撃を続けた。
　戦いは続き、最初のアラームが鳴ると５分が経過した事を灼滅者達は知る。
「ええい小癪な癒し手め！　目障りだ！」
　せっかく与えたダメージを癒し回復させる存在を重貞は疎ましく思ったようだ。その声に呼応し、配下達の攻撃は結城へと集中させた。
「……っ！」
「結城先輩、絶対無理しちゃダメだからね！」
　槍兵の動きを注視し翔は攻撃が通らぬよう動き防ごうとするが、全ての攻撃を庇う事は難しい。仲間達と攻撃をする中、ちらりと月子が見ればかろうじて得物で攻撃を捌いてはいるものの、押され気味。
（「……まずい」）
　腕を伝いぽたりと落ちる血を目に受けた傷を癒し、仲間達からも癒しを受ける結城は最悪の場合を胸に秘め前を見据えるが――、
「大丈夫か？　結城」
　和志の癒しに鈍い痛みは引くと、ぴたりと出血が止まる。
　振り向けば武者アンデッドとの戦いをサポートすべくやってきた仲間達の姿がそこにあった。
「おのれ援軍とは忌々しい！」
　その様子を目に重貞は低く呻く中、悠花もこれ以上ダメージを負わないようヴァンパイアミストを展開させて回復に努める。
「健、樹先輩助太刀にきたで！」
「武者震いしてる場合じゃ無いよなーって東当兄ちゃん？」
　彩歌へも軽く挨拶する悟を目に健が言えば、背中にバシッと叩かれる感覚。背を叩き敵の死角に回りこみ牽制に切り刻む悟に続くのは透流だ。
「この前力を貸してもらったぶん、今日は全力で支援させてもらう……！」
「お、ぐおお……！」
　彩歌へと向く一撃を防ぎ、助けてもらった礼にと鋼鉄拳がアンデッドに直撃！
「私達の出来る限りを、たたきつけてきましょう樹さん」
　彩歌の言葉に頷き樹はロッドを横薙ぎに振るい敵中心を指し示すと、サイキックを放つ。狙い通りのコンビネーションを受け、槍兵はばたりと倒れてしまう。
「動きが邪魔かな？」
　襲いかかろうとするアンデッドへとギルドールは影を放ち、その動きを縛り付けると狙いを定めたフォルケが獲物を手に切り刻んだ。
　あと一押し。ヴァイスが放つサイキックが致命傷となり、最後の配下ががくりと膝を突く。
「も、申し訳ありま、せぬ……！」
　他の配下同様にその姿は灰となり消える様を重貞が見つめると所へ樹と彩歌が動き、コンビネーション攻撃を仕掛けるがそれよりもアンデッドの刃は素早かった。
　刃はぎらりと閃き立て続けの攻撃を打ち払い、
「この技は見切れるかしら？」
　月子の攻撃を捌くと結城のレイザースラストをあっさりと避けてしまう。
「援軍禁足！　播磨の向風、龍星蹴！」
「素直に眠ってればいいのに！」
　健と翔の攻撃も捌き、マコトの攻撃を払うとすと構えたアンデッドの刃が閃き一閃！
「これしきの攻撃で我を屠ろうなど笑止千万！」
　灼滅者達の攻撃を捌き、払い、重貞はすと避ける中、アラームが鳴り８分経過した事を告げる。
　あと２分。仲間達は攻撃を集中するが相手は全員で戦って同じかそれ以上、ダークネスに順ずる力を持つ。
　だからといって怯む訳にはいかない。灼滅者達は持てる力をすべて使って重貞と戦いを繰り広げる。
（「せめてこの一撃を……」）
　攻撃をかいくぐり動くフォルケとヴァイスを目に月子はぎりっと得物を握り、見つめる先にいるのは１体のアンデッド。
　せめて、そう、せめてこの一撃を――！
「吹き飛ばしてあげる！」
　ぎいん！
　樹と彩歌に続く月子が自在に操る黒き槍が刀と打ち合い、火花を散らす。
「……なかなかやりおるではないか」
　にやりと笑みを浮かべ、アンデッドは灼滅者達の攻撃を受けては払い、捌き、そして――、
　
●
　その時間は長く、そしてあっという間だった。
　攻撃を受け血を流すも、重貞はその時間を凌ぎきる。
「おのれ小童共、我が配下ことごとく屠った事、決して忘れはせんぞ……！」
　地の底から這いずり上がるような、怨嗟を含む声を響かせぶん、と刀を振るう重貞の足元がぼうっと光るとその姿は徐々に薄れていく。
　輪郭がぼやけ、姿がぼやけ、
「覚えておれ、いずれ、いずれお前達は――」
　声もぼやけ、消えてしまった。
　武者アンデッドは北へと消え、さわさわと風が吹くこの場に残るのは灼滅者達のみ。短くも長い戦いに息は乱れ、流れる汗は頬を伝い落ちていく。
「転移されちゃった……？　あーあ、全部倒したかったなー」
　重貞が消えた場所を目に残念そうに言う翔。
　だが１０分という時間の中、防御に厚い、しかも灼滅者と同じ程の敵を倒した。ボスである重貞は逃してしまったが配下は全て倒した。戦力を削ぐという目的は十分に達成できたといえよう。
「怪我は無い？」
　全員の様子を確認する樹は心配そうに彩歌を見れば、戦いの傷はあれども大きな怪我はなく、心から安堵する。
「こんな存在が全国から北へ転移していくとしたら……恐ろしい限りです」
　彩歌は言いながら樹と共に出現した何か残されていないかと場所を調べていると、マコトの耳に入るのは腹の虫の音。
　どうやら緊張続きの戦いに気が抜け、鳴ってしまったようだ。見れば虫の主である健が少し恥ずかしそうな顔をしていた。
「何時か又、再戦の時来るのか……？」
　そんな健が口にする再戦、という言葉に月子の脳裏を過るのは、戦いが近いという可能性。
　恐らくは近く大きな戦いがあるに違いない。あの武者アンデッドだけでなく、様々な敵と戦う大きな戦いが。
　――そう、北海道で。
「これから先、どうなるのかな……なるようになるだけか」
「そうだな」
　口にする翔にヴァイスは言い、周囲を見渡した。
　まだ現れる可能性があるだろうかと注意深く見るが、その気配は感じられない。
「本作戦は終了、帰還します」
　獲物を手に言うフォルケの言葉に結城は頷くと、灼滅者達はこの不吉な場から去っていくのだった。

作者：カンナミユ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年6月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 1
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