武者アンデッド北へ~いざ、北へ

    作者:波多野志郎

     白の王セイメイの前に、武者鎧のアンデッドが平伏し、下知を待っていた。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     セイメイの言葉に、武者鎧のアンデッドが更に深く平伏する。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者達を呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     セイメイの言葉に、武者鎧のアンデッドの気配が増した。その武者鎧のアンデッドへ、セイメイは笑みと共に言う。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」

     武者鎧のアンデッドは、歓喜に震えた。恩義には報いる――セイメイは、そのための行動を許してくれたのだ。ならば、果たさなくてはならない。自身の恩義あるモノたちに、報いるためにも……。


    「白の王であるセイメイが、札幌のダンジョン事件を起こしているノーライフキングに援軍を派遣しようとしているらしいんすよ」
     湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)の表情は、厳しい。そのまま、現状を語りだした。
    「セイメイが送り込む援軍は、鎌倉時代の武者のような姿のアンデッド達で、ダークネスに準じる力を持つ強力なアンデッドのようっす。彼らは、源平合戦の古戦場など、因縁のある地域に封印されてんすけどね」
     だが、出現するまでまだ時間はある。そこに待ち構えて倒してしまおうというのが今回の作戦だ。
    「でも、まだ問題があるんすよ。出現してから10分程度で、今度は地に飲まれるように消えて北海道のダンジョンに転移してしまうみたいなんすよ」
     だからこそ、現れたら敵が消えるよりも前に灼滅しなくてはならない。が、相手もそのさるものだ。
    「みんなに担当してもらうのは、とある森に封印されているな武者アンデッド達なんすけどね?」
     時間は、夜。人払いは必要ないが、光源は必須となる。敵の戦力は、時茂と名乗る強力な武者アンデッド1体と、配下の武者アンデッド10体となる。強力な武者アンデッドはダークネスに準じる戦闘力を持ち、配下も一体一体が灼滅者以上の戦闘能力を持っているのだ。
    「……武者アンデッド達のポジションは全員ディフェンダーなんすよ。どう考えても10分間という制限時間内に灼滅者側が全滅する事は無いっすけど、撃破するのも難しいっす」
     なお、10分の時点で灼滅していなかったアンデッドは、転移後に回復してしまう――確実に止めを刺したのが、重要となるだろう。
    「もしも、こちらが敗北しても武者アンデッドは追撃はして来ないから、その分は安全っすから。もちろん、後々の面倒は残るっすけど」
     翠織は、そこで深呼吸を一つ、こう締めくくった。
    「白の王セイメイが援軍を送るという事は、札幌のダンジョン事件が大きく動き出そうとしているって事っす。セイメイの配下の武者アンデッドを可能な限り灼滅し、その上で、札幌のダンジョン事件の動きに備えるんすよ」


    参加者
    九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)
    遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)
    日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)
    土也・王求(天動説・d30636)

    ■リプレイ


     ――夜の森、戦場となるそこへ灼滅者達は集っていた。
    「武者でアンデッド。侍は結構怨念残しているのかにゃ?」
     悠々と気楽に呟く遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)の一方で、霊犬のバクゥは警戒態勢を取り続けている。クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)はそのバクゥの姿に、小さくうなずいた。
    (「この空気、確かに警戒に値する」)
     森に満たされた空気、気配にクラリーベルはそう思わずにはいられない。夏が近いというのに、空気が冷たい――否、冷たいと感じる明確な気配が、そこにはあった。
    「不穏な集団もいることだ。死んだのなら、そのまま死んでいた方が楽だろうに。まぁ、そうも言ってられないな。倒すべきは倒さねばなるまい」
    「源平時代の鎧武者……そんな存在が恩義を感じる相手が北に居る、と。思い当たるのは九郎判官義経の北方伝説くらいですが……さて」
     日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)が言い捨て、明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)が眼鏡に手をかけた瞬間だ。ガシャン! と硬いものがこすれあう音と共に、地面から無数の骸骨が姿を現わした。その身にまとうのは、武者鎧――その武者アンデッド達へスヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)が言い放つ。
    「どこにいくんですか? 絶対通しません!」
    『……何者ぞ?』
     ガシャン、と一歩踏み出して問うのは、明確に他の者とは力量が違う武者アンデッドだ。その問いかけに、土也・王求(天動説・d30636)は名乗る。
    「妾の名は地・球。時茂。お主の首、いただきに参った。北への行軍前に相手をしておくれ」
    『我が名を知るか……只者では、あるまいて』
    「……セイメイの手の内なら、叩き潰さないわけにはいかないね」
     ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)の言葉に、武者アンデッド達は刀を抜いた。それに、九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)は言い捨てる。
    「さて、泣いても笑っても10分の勝負だ。気合入れて行くぜ!」
    「さぁ、鮮血の結末を」
     眼鏡を外し、一羽は解除コードを唱えた。共に十字架を模した、白銀の剣と鈍色の槍を引き抜く。
    「来い、日輪の『金狼』が相手になろう」
    『しからば、推して参る』
     告げる義和に、時茂は月光と光源に光る刀を振りかぶり――薙ぎ払う。ゴォ!! と唸る衝撃、時茂の月光衝が戦いの幕を切って落とした。


    「……ふん、死者は大人しく黙していればいい」
     義和がその身から、魔力を宿した霧を展開する。それに続き、ウイングキャットのスヴィエが尾のリングを光らせた、その瞬間だ。
    「ちゃんと、いるべきところに送ってあげます!」
     ぼふ、と霧の内側からスヴェトラーナが時茂へと駆ける。それに他の武者アンデッド達が反応しようとするが、スヴェトラーナは一瞥さえしなかった。ヒュオン、と暁の聖剣《рассвет》を振るい、時茂の引き戻した刀を弾くと、破邪の白光を宿したрассветを横一閃に薙ぎ払う!
    「いつもは仲間を護るこの身、この力なれど、今宵は敵へ振るおうではないか!」
     そこへ、王求が跳躍した。空中で前転、その重圧を宿した踵が時茂の肩へと落とされる。ズゥ! という王求のスターゲイザーによる重圧に、時茂は地面を蹴って後退しようとした。
    「……逃がさない。北海道ではなく、ここが死に場所よ」
     その間隙を、ライラは逃さない。一気に間合いを詰めると、S-Rifle【ゲイ・ジャルグ】の輝く穂先で螺旋を描いて、時茂の鎧、その胸部を貫いた。
    『主ら、もしや――!!』
     時茂が、一つの事実にここで思い当たる――が、連携は止まらない。
    「頼んだよ、バクゥ♪」
     ヒュガッ! とレイザースラストを射出した雪の言葉に応え、バクゥは雪の傍らで緑色の炎を燃やした。バクゥの浄霊眼による回復を受けた龍也が、駆ける。
    「大将首、大将首だろ? 大将首だろ? お前!」
    『然り!!』
     直刀・覇龍を構えた龍也に、時茂も刀を構えた。互いに放たれる、大上段からの斬撃――!
    「どんな相手だろうと、ただ斬って捨てるのみ!」
     ザン! とその切っ先が届いたのは、龍也の雲耀剣だ。切っ先がずれた時茂の斬撃が、地面を抉る――その鋭さに、龍也の背筋に冷たいものが走った。本来であれば戦慄となる恐怖となったはずのそれは、龍也にとっては歓喜であり、笑みへと変わる。
    『狂いが――ッ!!』
     時茂の返した刃の切り上げ、それを龍也は後方へ跳んでかわした。入れ替わりで迫った一羽が、真っ直ぐに鈍色の妖の槍を繰り出す!
    『一人を除き、攻撃に偏るか!!』
    「当然だ、貴様を獲りに来たのだ」
     ギギギギギギギギギギギギン! と火花を散らした一羽の螺穿槍、すかさず迫った霊犬のスクトゥムが放つ金色の刃を、武者アンデッドがその身を盾に時茂を庇った。
    「やはり、そう来るか」
     クラリーベルは怪談蝋燭を掲げ、時茂を炎の華で包む。身構える灼滅者達へ、十体もの武者アンデッド達が刀を襲い掛かった。その斬撃は、ただの力任せだ――しかし、数が数である。義和とスクトゥムが庇おうと奮闘しようと、庇い切れるものではなかった。
    『その決意、見事! が、されどまかり通さん!』
     背から弓を手にした時茂が、夜空へと一矢を放つ。その直後、ヒュガガガガガガガガガガガガガガガッ! と星空が降り注ぐように、矢の雨が灼滅者達を襲った。


     夜の森の中で、激しい剣戟が鳴り響く――それは、あまりにも絶望的とも思える戦いだった。
    (「これほどか、全員がディフェンダーというのは」)
     クラリーベルは、至尊の青たる細剣を手に思い知る。時茂を狙って、灼滅者達は全力で挑みかかった。他の武者アンデッドに、目も向けず――しかし、武者アンデッドが行なうのは攻撃だけではないのだ。
    「ニャッハー! アンデッドは灼滅にゃー!」
     バクゥの浄霊眼による回復を受けながら、雪が時茂に迫る。しかし、その雷を宿した拳は、その身を盾にした武者アンデッドによって庇われた。だが、宙を舞う武者アンデッドをの下を、龍也が一気に駆け抜ける。
    「打ち抜く! 止めてみろ!」
     ゴォ! と龍也の間隙をついた抗雷撃が時茂の顎を強打、時茂が一歩後退した。そこへ、一羽が純白の十字架――クルセイドソードの刃を非実体化させて振り払う! その魂を断つ斬撃に、時茂は後方へと飛ばされた――。
    「いや、跳んだか」
     ガシャン、と着地した時茂に、一羽は己の手に残る手応えに言い捨てる。こちらが10分以内に倒す事を目的としているように、向こうもまた10分生き残る事を目的としているのだ。
    「一羽にいさま!」
     スヴェトラーナの言葉に、一羽がすぐさま横へ跳ぶ。その半瞬後、一気にそこを駆け抜けたスヴェトラーナの夢幻杖fairy taleの一撃が、構えた時茂の刀と激突――ガギン! と衝撃が、時茂の刀を弾いた。スヴィエがリングを光らせる、それと同時にスクトゥムの六文銭が射撃された。
    『ぬ――ッ!!』
     胴部に六文銭がめり込む、そして王求の駆け込んだ勢いを乗せた燃える右回し蹴りが、時茂の胸部へと更に叩き込まれる。
    「お!?」
    『構わず――!!』
     王求のグラインドファイアを受けたまま、時茂が振り上げた刀を王求へと振り下ろした。それを、強引に割り込んで受け止めたのは義和だ。
    『よく守る!』
    「……ふん、この程度」
     言い捨てる義和に、ライラが駆け込む。蒼くマテリアルが光らせたM-Gantlet【プリトウェン】による殴打が、時茂の巨躯を宙に吹き飛ばした。
    「……絶対に逃がさない」
    「……ふん。ここからが本番だ」
     ライラが凛と告げ、義和が言い放つ。ガシャガシャガシャガシャ、と身構える武者アンデッド達、立ち上がり時茂はからからと骸骨の身で笑った。
    『面白し、されど我を倒し切れると?』
    「死者は蘇らない」
     タン、とクラリーベルが舞うように間合いを詰める。その緋色のオーラに包まれたEdel Blauを優雅に振り払った。
    「アンデットなど許さん。死者は死んでおけ」
     斬撃の感触に、手の中で蘇るのは両親を殺した感触だ。クラリーベルは、静かに言い放った。
    「この身は薔薇。少女の血と肉と死を以って咲く青き華だ」
    『屍の上に咲くは、仇花と知れ!!』
     ――状況は、圧倒的に灼滅者達が不利に思えた。時茂は、ダークネスに匹敵するアンデッドだ。雑魚のはずの武者アンデッドでさえ、灼滅者達よりも上――邪魔までされては、時茂に届く可能性はあまりに低い、ライラは冷静にそう判断する。
    (「……百も、承知の上よ」)
     だが、ライラはそう受け入れた。この時茂を逃がせば強力な戦力となってしまう、それがわかるからこそ。
    「ニャハハハハ! 問題ないにゃ!」
     雪の楽天家振りが、この場では逆に頼もしかった。薄い、あまりにも薄いその線を――しかし、灼滅者達は強引に掴もうとしていた。
     最後の一分、一羽は呼吸を整え時茂の前に立つ。
    「応心念口言、如是畜生発菩提心」
     応に心に念じ口に言うべし。汝はこれ畜生、菩提心を発せ、と――畜生でさえ、目の前のアンデッドさえ死は仏にするのだ、と。一羽は、鮮烈なる戦士の闘気を両の拳に込めて時茂へと振るった。
    『ぐ、が――!?』
     がん、がががががががががががががががががががん! と上下に振り分ける拳の連打が、時茂を襲う。時茂が、ズズ……と後退したそこへ、スクトゥムの斬魔刀が肋骨を切り落とした。
    「死んじゃったのに、なんで戻ってくるんですか!?」
     続くスヴェトラーナの声にこもったのは、静かな怒りだ。死んだらしあわせなところにいくはずというスヴェトラーナの信念に反した存在への怒りを込めて、スヴェトラーナのクルセイドスラッシュが袈裟懸けに放たれた。
     だが、これを庇った武者アンデッドが斬り砕かれる。時茂には届かない、かと思われた。
    「聞いてるんですか!? 死んだらしあわせなところにいかないと、いけないんです!」
     再行動、スヴェトラーナの非実体化されたрассветの斬り上げが時茂を捉えた。そこへ、スヴィエの肉球パンチが時茂を殴打する――!
    『ぐぬ……!!』
     時茂が、退く。
    「させんのじゃ!!」
     そこへ、王求の豪快な龍砕斧の一閃が振り下ろされた。ガギン! という斬撃音、退こうとしていた時茂の足がもつれる。
    「ダークネスから民を守る為。みどもの信念の為ここで灰になれ」
     そこへ、クラリーベルの緋牡丹灯籠が鮮やかな炎を華を咲かせた。一歩、二歩、と時茂がよろめく――よろめいたそこへ、駆け込んだバクゥの斬魔刀が脛を斬った。
    『――ッ!?』
     よろけた時茂の腕を掴む者がいた、雪だ。咄嗟に時茂は腕を引き戻そうとするが、時既に遅し――視点が逆転する、時茂の巨体が宙を舞っていた。
    「慈悲はないにゃ!」
     バランスを崩してからの投げ、雪の地獄投げに時茂は地面に叩き付けられる! 立ち上がった時茂の元へ、龍也と義和、ライラが同時に迫った。
    「俺達の前からどっか行きたいんなら首置いてけや!!」」
     龍也が叫び時茂の前へ、合わせて義和が後方へ回り込む。カシャン、と同時に鞘へと納めた二人――そこへ、紫色の筋繊維、牙が多数生えた巨大な怪腕を振りかぶったライラが疾走!
    「牙壊!! 瞬即斬断!!」
    「……ふん。隙だらけだ」
     前後から放たれる居合い斬り、そして己に迫る巨大な拳に時茂の骸骨の顔がからんと笑った。
    『見事、しかし、残りの同胞が――』
     その言葉を許さず、ライラの鬼神変が頭蓋骨を粉砕する。胴を前後の斬撃に断ち切られ、頭部を粉砕された時茂がゆっくりとその場へ崩れ落ちた。
    「――――ッ!!」
     王求が、高らかに討ち取った勝鬨を上げる。それに、武者アンデッド達は、動きを止めた。ゆっくりと、その姿が掻き消えていく。9体の武者アンデッド達が消えた時、戦いが終わりを告げた……。


    「いや~、よく倒せたにゃ~。バクゥもお疲れ様♪」
     雪はバクゥの撫でて、慰労した。ようやく、緊張が解けていく。その中で、ライラが吐息と共に呟いた。
    「……北征入道にセイメイ。強大なノーライフキングが二人、何をたくらんでいるのだろうね?」
     ライラと仲間達の視線は、自然と北へ向く。あの武者アンデッド達が向かったであろう場所、それが脳裏をよぎった。
    「今度は北海道かにゃ? グルメが待っているにゃ!」
     雪のお気楽な言葉に、仲間達からも笑みがこぼれる。北海道――次の戦場がそこになるだろう、そう思えてならなかった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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