お土産に豆腐餅を買ってきたので

    作者:聖山葵

    「……まさか、ここまでお馬鹿さんだとは思いませんでしたよ」
     少女はじっと一人の少年を見据えていた。口の端を微かにつり上げているところだけを見れば、気づかなかったかもしれない。肩をすくめ頭を振る仕草もまた、呆れているだけのようにも見える。
    「あ、その……な?」
     だが対峙する少年は顔を引きつらせたまま、後ずさった。おそらくは、気づいたのだろう、少女が押しとどめているものに。
    「まったく、友達と食べようと思って買ってきたお土産の豆腐餅を勝手に開けて盗み食いするとは……」
    「あ、あれは、間違えたんだよ、自分の机と!」
     弾劾する言葉へ叫んだのは、身の危険を感じたのだと思う、だが。
    「ほう……間違えた? それは誰にでもあり得ることしょう。ですが、その机に自分の買った物でないものが入っていれば気づくでしょう、普通は」
     弁解はかえって失敗であった。
    「言い逃れしようと言うことは、反省する気もなさそうですね、なら」
    「え」
     次の瞬間、少女の身体は変貌し始める。肌は白く、そして、身体は膨らみ。
    「もちぃぃぃぃ」
    「あ、あ……」
     突然訪れる、非日常。
    「許さんぞ、この盗人がぁ! 思い知らせてくれるもちぃ!」
     受け入れられず後ずさる少年へ怒声をぶつけると、ご当地怪人と化した少女は地を蹴って飛び出した。
     
     
    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回は豆腐餅だな」
     集まった君達の前で、顔を上げた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は、開口一番にそう告げた。
    「ただ、この少女はご当地怪人に変貌しつつも一時人の意識を残したまま踏みとどまるようなのでね」
     もし彼女に灼滅者の素質があるなら闇もちぃから救い出して欲しい。もし完全なダークネスとなってしまうようであればその前に灼滅をと言うのがはるひからの依頼であった。
    「それで、問題の少女の名だが、豆腐谷・芝桜(とうふや・しお)。中学三年の女子生徒だな」
     少女は、友達と食べようとお土産に買ってきた豆腐餅を同級生へ勝手に食べられた怒りからご当地怪人豆腐モッチアへと変貌するのだと言う。
    「君達がバベルの鎖に捕まらず芝桜と接触出来るのは、芝桜がご当地怪人に変貌し、豆腐餅を食べてしまった少年へ襲いかかる直前となる」
     怨敵を前にして注意がそちらに集中するからこそバベルの鎖をかいくぐる余地が生じるのではないかというのがはるひの推測だが、一般人がご当地怪人に攻撃されればただでは済まない。
    「君達の誰かが庇おうと思えば間に合うタイミングでもあるのだがね」
     庇った後もご当地怪人は少年を狙おうとするだろうが、これについては何とか出来るともはるひは言う。
    「ここにその豆腐餅があるのでね、これを渡してやれば豆腐モッチアを沈静化させることはできるだろう。これは餞別代わりに進呈するので持って行くといい」
     尚、芝桜が闇もちぃするのは通学路の途中にある空き地で、少年以外の一般人は周囲にいない。
    「目撃証言から犯人を断定し、帰宅途中の少年を空き地の前で発見し、空き地に追い込んだというのが直前までの経緯のようなのだよ」
     時間帯は夕方、明かりも要らず、庇った少年を無事逃がすことが出来れば人避けも不要とはるひは補足するとさらに説明を続ける。
    「闇堕ちした一般人を救うには戦いが避けられないのはもう知っていると思う」
     戦ってKOする必要がある為だが、この時手加減攻撃は不要である。
    「また、芝桜の残された人の意識に呼びかけることで、弱体化を図ることも可能だ」
     戦いを有利に進めたり、早く戦闘を終わらせたいなら狙ってみるのも良いだろう。
    「戦闘になれば、豆腐モッチアはご当地ヒーローとバトルオーラのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     堕ちかけとはいえ相手はダークネス。戦闘力は決して侮ることが出来ないが、あくまで弱体化しなかった場合の話でもある。
    「救えるものであればできるだけ救いたい、私はそう思っているのでね」
     芝桜のことを宜しく頼むとはるひは君達へ頭を下げるのだった。
     


    参加者
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)
    遠野・潮(悪喰・d10447)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    風見・真人(狩人・d21550)
    紅月・美亜(厨二系姉キャラ吸血鬼・d22924)
    有坂・優奈(純血の最低娘・d25867)
    蔵座・国臣(病院育ち・d31009)

    ■リプレイ

    ●接触
    「もっちあの救出は初めての参加だな。知合いにも何人かもっちあの知合い居るけれど」
     殆ど表情を変えることなく、呟いて視線を向ける一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)から東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)は勢いよく顔を逸らした。
    「何回目のモッチアだったかな、そろそろ新ダークネス種族に認定できるんじゃ?」
     何故か暦の方を見ず、あたしはきっと宿敵枠だねと続ける間も暦の視線は桜花に固定されていた。
    「闇もっちぃとか何時の間にそんな言葉が」
    「だよな。なんだこの闇もちぃって」
     説得は得意という紅月・美亜(厨二系姉キャラ吸血鬼・d22924)もこれには同意するが、約一名は相変わらず、一行が進むことで目的地は近づき。
    「豆腐谷さんは、余程お友達と豆腐餅が食べたかったのでしょうね」
     この先にいるのは、豆腐餅を食べられたことで鬼じゃなくてご当地怪人と化す、少女。水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)は理解を示しつつも、それで怪人さんになってしまっては元も子もないと思いますと結末は否定する。
    (「豆腐餅か。実は豆腐餅って食べたことないんだよな!」)
     首を巡らせ、業の匂いを探しながら風見・真人(狩人・d21550)ははるひから渡された豆腐餅のことを思い出す。
    (「一体どんな味なんだろう」)
     味どころか形さえ包装に邪魔されて見えなければ、姿を含めて想像するしかなく。
    「駄目だな、業の匂いが嗅ぎ取れない」
    「今から闇もちぃすると言う相手に嗅ぎ取れる程の業は存在しないのでは、とユーナは考えます」
     集中力を乱されてポツリと漏らせば、有坂・優奈(純血の最低娘・d25867)がハイライトのない目を向け、無表情でツッコんだ。
    「あ」
    「まぁ、そんなことよりもお嬢様なのです」
     かと思いきやくるりと向きを変え向かって行く先は、お嬢様こと美亜の所。
    「今回は義妹の一人である優奈もいるのでいい所を見せねばな!」
     とお嬢様側からすれば、優奈の存在が発奮材料に鳴ったのは、ほぼ間違いない。
    「まったく、友達と食べようと思って買ってきたお土産の豆腐餅を勝手に開けて盗み食いするとは……」
     やがて、何処か呆れを含んだ声が前方から聞こえて来れば、一同は理解する。介入タイミングが近づきつつあることを。
    「善悪無き殲滅」
     だから、暦の口からはカードの封印を解く言葉が零れ。
    「許さんぞ、この盗人がぁ! 思い知らせてくれるもちぃ!」
    「すとーっぷ!」
    「がうっ」
     怒声をぶつけたご当地怪人豆腐モッチアが地を蹴り飛んだ瞬間、割り込んできたライドキャリバー、サクラサイクロンや霊犬の輝銀乃獣が盾となり。
    「ぐっ」
     保険の意味合いで同時に飛び出していた蔵座・国臣(病院育ち・d31009)の前で、一撃を貰った真人が微かに顔をしかめた。
    「大丈夫か?」
    「ああ、銀」
     真顔での問いに答えつつ霊犬に呼びかけたのは、ある程度こうなることを見越していたのか。
    「さて、始めるか」
     遠野・潮(悪喰・d10447)は一般人が寄りつかぬように殺気を放出し、タイミングを同じくして使用されたサウンドシャッターが戦場内の音を遮断する中。
    「……何だお前達は?」
     想定外の展開に一瞬呆然としていたご当地怪人はこの時ようやく息を吹き返して問いを発し。
    「まぁ、まずは落ち着け」
     豆腐モッチアへ返ったのは問いの答え以外の言葉だった。

    ●説明とか説得の時間
    「私達は少年を助けに来て、場合によってはあの少女だったモノを討伐しなければならない」
    「な」
     灼滅者達が為そうと思ったことは二つあり、内一つ美亜はが始めたような少年への事情説明とそれに続く説得であり。
    「戦いに勝つのは難しく無い。だが、それでは君は二度とあの少女に会う事はできない。そうならない為には、事の発端である君自身が豆腐餅を勝手に食べてしまった事に誠意を持って謝罪しなければならない」
    「君が誠意をもって謝りさえすれば、彼女もきっと元に戻る。今回は戻れるケースだ。ただ君がちゃんと謝らないと彼女が戻れるかは分からない」
     唐突な話へ驚く少年が疑問を抱いたり反論する余地を与えず、一気に本題へと到達した話へ、真人が加わる。
    「そこを退けもちぃぃっ!」
    「っ」
     むろん、それをご当地怪人が黙って見ていることも通常なら、ない。そう、例えば暦が行く手を塞ぐ形で立ち塞がってなど居なければ。
    「貴方は、軽い気持ちで盗み食いをしたのかもしれません。でも、それはれっきとした犯罪です」
    「盗み食いか……堅く言うなら窃盗。まあ確かに犯罪だな?」
    「うっ」
     説得に加わったゆまと国臣の言葉に少年はたじろぐ。
    「その結果、豆腐谷さんがあのような姿になってしまった。事の重大さが、お解りになりませんか?」
    「盗みってーのは人としてやっちゃならねぇのと食べ物の恨みは恐ろしいからなあ」
     少年を庇いはしたものの盗み食いを擁護する者は潮達の――灼滅者の中に居らず。
    「人の物を勝手に食べた上、謝りもせず言い訳とか、そりゃ相手も怒る。とユーナも右に倣います」
     仲間達の言葉に便乗して優奈も非難する。
    「君のしたことは君にとっては小さな悪さだったかもしれないが、彼女にとってその餅を友達と食べることはとても大切なことをだったんだ。俺達が守っているうちに彼女に誠意をもって謝ろう」
    「やった事は仕方ないけど下手な言い訳はダメ。まずはごめんなさい。できるよね?」
    「そ、そりゃ……」
     おそらく、ESPの出番もないだろう。
    「ま、取敢えず謝れ」
    「何、アレは多少暴れるが、心配はいらない。君の身の安全は保障しよう」
     数人がかりで畳みかけられ、ダメ押しまでされたなら。
    「わ、わかったよ」
     灼滅者達の説得に少年は首を縦に振り。
    「ま、こんな所か。これは、ついでだ」
    「なんだ、貴様も邪」
     説得の成功を見届けた美亜は仲間達の輪から抜けると、警戒も露わなご当地怪人へと豆腐餅を差し出した。
    「これは……一体、どういうおつもりですもちぃ?」
     口調の変化から見ても効果覿面だったのは明らかだった。
    「さぁ、お謝りなさい」
     今だとばかりにゆまは促し。
    「……その、悪かっ、すみませんでした」
     少年はご当地怪人へ土下座する。
    「ちゃんと謝ったし、許してあげよ、ね?」
    「……少々遅かった気もしますが、まぁ、いいでもちぃ」
     これに豆腐モッチアが許す姿勢を見せたのは、手の中に代わりとなる豆腐餅があったからか、桜花の取りなしもあったからか。
    「後は任せて離れ……あ」
     謝罪を見届けた桜花が少年を立たせようと手を伸ばした所で小石に躓き、少年へ倒れかかったのはいつものアレ。
    「うみゃぁぁぁぁっ」
    「わわわっ、ちょ、ありがとうございます、じゃなくて、えっと、何だ」
    「……とりあえず、あれは見なかったことにしてあげまもちぃ」
     突如出現したハプニングにも沈静化したご当地怪人は寛容というかお気遣いの人であった。

    ●説得からの
    「まずは之を、食べてみないか」
    「おや、また頂けるのですか? これは少々申し訳ありませんもちぃ」
     二箱目になる豆腐餅を受け取った豆腐モッチアは嬉しそうにしつつも、しかし、と続けた。
    「これで終わりという訳ではないのでもちぃ?」
    「もちろん、ここにも豆腐餅あるから一緒に食べよ?」
    「な」
     だが、三箱目は想定外だったらしい。
    「さっきのアンタの怒りは最もだ。ある意味全く間違っちゃねえよ」
     もっとも、灼滅者達からすれば不意をつく好機でもあった訳だが。驚愕から立ち直るよりも早く、潮はご当地怪人の憤りに理解を示し。
    「勝手に食べられたのは腹立つけど、仕方ないよね。こんなに美味しそうだし」
    「豆腐餅って美味しそうだな。実は俺食ったことないんだよ」
    「それはいけませんね、この美味しさを知らないとは。良いでもちぃ、これだけあることですし……」
     すかさず桜花が持ち上げた豆腐餅への興味と共に真人が告白すれば、「芝桜ちゃんに美味しい食べ方教えて欲しい」と続けるまでもなく、ご当地怪人は豆腐餅の箱を自ずから開ける。流れから行けばこのまま、夕食前という微妙な時間帯ながらおやつタイムに移行するかと思われた。
    「これが豆腐餅、か。福島の方か?」
     国臣が口を開かなければ。
    「もちぃ?」
    「調べてみたが、美味しそうだな。水分を抜いた豆腐をほぐして炒め、餅と絡める。味付けは出汁、みりん、醤油。炒めることにより豆腐の甘みが引き出されとか。土産のそれも美味しかろうが、そんなに難し」
    「国臣……それ、名前は同じだけど別物だよ?」
     言葉を遮る形で、ツッコミが入ると、沈黙が生じ。
    「……それは私への挑戦と受け取ってよろしいですもちぃ?」
     ようやく沈黙を破ったご当地怪人に、幾人かは説得が割と台無しになったことを察した。主にご当地怪人の身体から漏れ出す威圧感から。
    「他所のご当地モノと間違えられて闇もちぃする者も居たらしいからな」
     元モッチアな知り合いの居る者や、当人がモッチアだった面々からすると、まぁこうなるわなである。
    「そうなのか、それはすまなかった」
    「「誤った?!」」
     だが、良くも悪くも真面目らしい国臣はぶれない。真顔での謝罪に敵味方が声を揃え。
    「話を戻すけどさ、もう食べてもいいかな? 出来れば、芝桜ちゃんに美味しい食べ方教えて欲しいんだけどさ。俺の用意した餅をあげるから」
    「あ、そ、そうでしたもちぃね」
     すかさず真人が軌道修正すれば、ご当地怪人は乗ってくる。
    「ならばお嬢様のためお茶の準備をしなければと、ユーナは水筒を取りに行きます」
    「あ、やっぱり食べることになる流れなんですね」
    「まぁ、餅は此処に戻って来たんだしな。そこまで怒り狂う程だってんなら、その美味さを早く味わった方が良いだろ」
    「ほっほっほ、まあ夕日を眺めながらの豆腐餅タイムも悪くないと思いますもちぃ」
     結局夕方のお茶会という流れに移行しそうだが、豆腐モッチアの方でも異議はないらしい、ただ。
    「貴女はお友達と、美味しいお土産を分かち合おうと思ったのではないですか? 一緒に幸せな気持ちを分かち合おうと思ったのではないすか?」
    「な」
     その豆腐餅タイムで無防備になったところを再び説得されるとは思っていなかったようだが。ゆまが口を開いたのは、オレンジ色に染まる景色の中、豆腐餅がひと箱消費された後のこと。
    「そのままでは、それもできなくなってしまいます」
    「豆腐餅を待ってる友達だって居るんだろ?」
    「も、もちぃ……」
     潮と二人がかりでの呼びかけは、豆腐モッチアにとって一番痛い場所をついていた。
    「お餅は人に幸福を与えるもの。人に害を成してはいけないとユーナは申します」
    「っ」
    「思い出して下さい。貴女は何をしたかったのか。まだ、今なら戻」
    「黙れもちぃ!」
     優奈の言葉に怯んだところへ畳みかけるゆまの言を遮りご当地怪人は叫ぶが、説得が届かなかったのではなくむしろ逆。
    「豆腐谷芝桜でなく、怪人の方が表に出てきたか」
     状況から察した国臣は魔力を宿した霧を生み出し。
    「もっちあぁっ、がっ」
    「やらせぬさ……何も、な。それが私のやり方だ」
     豆腐モッチアが説得の物理的排除へ出た時にはもう、美亜が独腕に内蔵の祭壇を展開し、結界を構築していた。
    「お嬢様、お見事なのです」
    「な」
     そして、美亜を最優先で見ていた優奈も動いていた。結界につんのめったモッチアは押し寄せた殺気に包まれ。
    「その衝動に負けるな、芝桜。君の豆腐餅好きはこんな物じゃ無いだろう」
     殺気に埋もれたままに構わず声をかけ、暦はジェット噴射の力を借り、ご当地怪人のいた場所へ突っ込んだ。
    「もぢゃっ」
    「そらよっ」
     鏖殺する殺気から抜け出た直後の敵と味方がすれ違い。傾いだところを緋色のオーラを纏わせ、潮が斬る。
    「も゛」
    「いくぞ、銀」
     更にそこへ飛んだ強酸性の液体が決定的だった。
    「わうっ」
     元元ピチピチだった服に酸がかかり絶妙のコンビネーションで霊犬が六文銭を撃ち込んだ。
    「ゆくよ、サクラサイクロン」
     このタイミングで桜花が飛び出したのは、もう、そういうことだったのだと思う。
    「ま、待て今」
    「桜餅――」
     限界を迎えた衣服に狼狽するご当地怪人へ突っ込んでいったのだから。
    「やあっ」
    「もべちっ、ばっ」
     別方向から殲術道具を振り上げて肉薄してきたゆまには気づかなかったらしい。
    「え? またぁ?!」
     内側からの爆発で服がはち切れてしまったところに誰かは飛び込み。
    「にゃああぁぁ?!」
     絡まりながらキックの勢いで転がってゆく現と元のモッチア。
    「ぐ、ぎぎやっもべあっ べっ」
     何とかモッチア団子から逃れて身を起こしたご当地怪人は、連続して二台のライドキャリバーに轢かれ。
    「この豆腐モッチアさまがこん」
    「わうっ」
     霊犬に斬られるとポテッと倒れて元の姿に戻り始めるのだった。

    ●いつもの
    「皆さんには本当にお世話になってしまいましたね」
     優奈が提供したアウトドア用の天幕越しに、助けられた少女こと芝桜はまず礼の言葉を口にした。
    「ありがとうございました」
     と。だが、これに桜花が返したのは謙遜の言葉でも素直に感謝を受け取っての言葉でもなく、「おかえり」の一言と笑顔だった。
    「……ただいま」
     だから、暦から渡された豆腐の如き白のワンピースを着る手を止めて、芝桜が返事をしたのもごく自然なことだった。
    「うん、それでね……良ければあたしの餅屋で自慢の豆腐餅売ってみない?」
    「餅屋、ですか?」
    「そう、あた……あ」
     その後がいけない。餅屋のメンバー増やそうと言う気持ちに逸って少女に近寄ろうとした桜花はまたしても空地の小石に足を取られたのだ。
    「うみゃあああ?!」
    「わわっ」
    「いつも通り……だな」
     相手を押し倒すところまでがお決まりのパターン。桜色の下着を晒し少女の胸に顔を埋めるような形になった元桜モッチアを見ても知り合いの暦は驚かない。
    「……私はノーマルなのでそういう趣味はないのですが?」
    「あ、ていうかごめんっ?!」
    「大丈夫か?」
     天幕がなかったら大惨事になっていた約二名のやり取りを見つめつつ、手を差し伸べ。
    「おっと、すみません」
    「いや」
    「あの、さっきのお話なんですけど……」
     手を取る少女へ頭を振って見せ、会話へ入ってきたゆまと武蔵坂学園についての説明を始める。
    「……なるほど、そのような学園があるのですね」
    「あーー……ええと良ければお前の様な境遇の仲間のいる学校に来ないか。すぐに考えなくても良いけど」
     説明が終わり、天幕の外から声をかけたのは、潮。天幕がなければそちらを見ないように目をそらしている姿も芝桜から見えたかもしれない。
    「良ければ学園への編入を考えて見て欲しい」
    「私、一緒にもう一度豆腐餅を食べたいです」
     手渡されたパンフレットを開き何頁か見たところで手を止めた少女へ二人は訴え。
    「わかりました。このお礼をせずにそのままサヨナラと言う訳にもいきません」
     少女もまた、頷いた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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