千曲アンズ怪人、現る!

    作者:夕狩こあら

     長野県千曲市――全国屈指のアンズの産地は、旬に開催される『あんずまつり』を前に不穏な空気が流れていた。
    「遂に……遂に完成したぞ!」
     書き溜めたレシピと今しがた完成したアプリコットケーキを前に歓喜の声を挙げたのは、千曲アンズ怪人。
     夏を迎えるに相応しい、芳しいアンズの香りを肺一杯に吸い込んだ彼は、最後の隠し味に自らのご当地パワーを注いで納得の表情を浮かべる。
    「この香りを嗅ぎ、ケーキを食べた者は皆アンズ狂信者となり、全国の果樹園の木を切り倒してアンズを育てたくなるという……魅惑のケーキ!」
     せっせとレシピをブログに掲載したアンズ怪人は、
    「地道に作って売り歩くより、教室を開いて作り手を集め、自らの手で作らせるのも面白い……ふっふっふ」
     悪い顔に染まったアンズ怪人は再びブログを更新すると、
    『アプリコットケーキ教室、開催と生徒募集のお知らせ』
     という記事を配信した。
     
    「すごく、おいしそう」
    「それが奴の罠なんス!」
     アンズ怪人が更新しているブログに載せられた数々のアンズ料理に瞳を輝かせる鳥飼・砂羽(サンクトゥス・d29667)を押し留め、日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)はタブレット端末を掲げて説明を続けた。
    「奴は旬を迎えたアンズと、美味極まるケーキのレシピをエサに料理教室の生徒を募り、作ったケーキにご当地パワーを注いで狂信者化させようと目論んでるッス!」
     全国から集められた生徒はアンズ信者となって再び全国へ散り、あらゆる果樹園をアンズ園に変える活動を始める……そんな事が起こっては大変だ。
    「灼滅者の兄貴と姉御らには、奴が開催する料理教室に潜伏して、レシピを学ぶフリをして灼滅して来て欲しいんすよ!」
     幸い、募集直後とあって定員は埋まっていない。定員は15名とあるので、他に参加する一般人の安全も守った上での作戦行動となる。
    「アンズ怪人は、香り立つアプリコットビームをメインとしたご当地ヒーローと同じ攻撃技と、波刃のケーキナイフを解体ナイフのように使ってくる事が分かってるッス」
     戦闘時のポジションはキャスター。
     戦場は、野外の料理教室からそのまま戦闘に入る為、アンズ園となるだろうが、元々怪人はこの園の関係者なので、立ち回りも抜群に良い。地の利は敵にあるだろう。
     然し付け込む所はある、とノビルは続ける。
    「日本一のアンズ愛を自負する奴は、アンズに関するトークを必ず拾ってしまう気質の他、別の果樹と間違われると怒って攻撃が止まってしまうんス」
    「スモモ、は?」
    「完全に宿敵っすね……」
     敵のレベルは高いが、回復の手を厚くさせると同時に話術を駆使して攻撃を阻むのも大いに有効な戦術となる。
     暫し思案する灼滅者にノビルは更につけ加えた。
    「あと、戦場には沢山のアンズの樹が生えているんすけど、傷つけないようにお願いするッス!」
     コクンと頷く砂羽と灼滅者も、その意は勿論分かる。
    「毎年アンズの旬を味わおうと集まる人達の為にも、奴を灼滅し、アンズを悪の手から守って欲しいッス!」
     ノビルの敬礼を受け取り、一同は颯爽と席を立った。


    参加者
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)
    マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)
    類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)
    ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)
    鳥飼・砂羽(サンクトゥス・d29667)
    クリスタ・ラヴィン(つのうさ・d31020)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218)

    ■リプレイ


     澄んだ空気を運ぶ涼風に清々しい緑の馨りが乗り、見上げた空には雲一つなく蒼が広がる――屋外で料理をするには絶好の快晴だった。
    「皆さん、準備はできましたか?」
    「はーい」
     生徒達より返る声に嬉々と頷いたのは千曲アンズ怪人。彼の前には捥ぎたてのアンズがボウルに山を成し、より美味しく姿を変えるその時を今かと待ち侘びている。
    「最初はアンズの下準備からお教えしましょう」
    「宜しくお願いしまーす」
     早速説明を始めた怪人がえびす顔なのは、やがて忠実な僕となる生徒等に黒い嗤いが隠せぬからであろうが、この中に灼滅者が紛れているとは露知らず。
    「千曲市はアンズの産地なんだっけ」
    「そう、そして今は『あんずまつり』を迎えて街も旬!」
     無垢なる瞳を真剣に、丁寧にアンズを濯ぐ新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218)を熱心な生徒と見込んだ怪人は、
    「こう、ね」
    「こう?」
     生り口を竹串で除く手捌きを懇々と諭していく。
     それを隣で受け取った鳥飼・砂羽(サンクトゥス・d29667)は包丁を入れる係で、
    「前、ならった、ネコの手、できるよ」
    「ふむ。ちょっと怖いから傍で見ていよう。やってみなさい」
     まな板に転がったアンズを、会得した技で確りと押さえつつ刃を入れた。
    「にゃーん」
    「そうだ、にゃーん、で指は安全!」
     サムズアップし、彼女の奮闘を讃えるアンズ怪人。始終を見守っていた一般人達もホッと胸を撫で下ろし、微笑ましい光景に自ずと視線が集まる。
     然し、全員が料理に集中している訳ではないようだ。
    「アンズは傷みがはえーっつーから、フレッシュなうちに食いてーよね」
    「私達が作ったら、是非食べて下さい♪」
    「エプロン男子って素敵♪」
     マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)はアンズの香に紛れて芳醇な色香を密かに放ち、一般人らを魅了する一方、
    「青空の下で料理するのも楽しいですね。木漏れ日も心地良くて……」
    「あ、あなたの方が、素敵だ……」
     対角に据わる丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)もラブフェロモンを迸らせれば、人々は彼等に釘付け。
    「あの、この後の予定は……」
     ただ一言「帰ろう」と言ってしまえば、直ぐにも踵を返すであろう一般人を陰に見遣りながら、彼等を敵の意識から守ったのは、ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)。
    「ん、焼き上がりまであと少し」
    「アレンジにアプリコットティー等を入れるなら、どういう割合が良いでしょう?」
     怪人が生徒らに振り向こうとした瞬間に声を挟んだ彼女は、手製の焼饅頭を差し出して助言を乞う。
    「杏ジャムに、生地はアプリコットティーが練り込んであるのか。もみじ型がシャレオツ!」
    「お味は」
    「むむ……生徒と侮り難し……」
     一言ウマイと言うにも、師として面子が立たぬと思ったアンズ怪人は、彼女に適切な指導をすべく味を噛み締める。
     そこへ畳み掛けたのは、杏仁豆腐を手にした淳・周(赤き暴風・d05550)。
    「どこを改良したらいいか分からなくて」
    「お、仁から作るとは本格的な」
     学習意欲の高い生徒らに感動したのも束の間、
    「どうせなら、すっげえ上手い先生に教わった方がいいだろう、って」
    「先生……」
    「ケーキ食べた後だと、あんまりの美味しさに見劣りしそうだから、先に」
    「……!」
     胸を打つ言葉の連続にすっかり浮かれたアンズ怪人は、熱くなる目頭を抑えて試食した。
    「うま……いいいいいいい!?」
     後背に並べた電球を放射状に点灯するか、或いは声をエコーするか、兎に角感動に目を瞠る筈だった彼は、然し美味に顔を上げた瞬間、周囲を見て驚愕する。
    「生徒が、減ってる」
     キョロキョロと農園を見渡すも遅い。
    「この後が凄く長いって噂だし、ケーキは後で送るから」
    「手作りケーキ、待ってます!」
    「あの、サインもつけてくれますかっ?」
     見れば半数の生徒が少し離れた駐車場で車に乗り込み、クリスタ・ラヴィン(つのうさ・d31020)の声にウットリと頷いてハンドルを回しているではないか。
    「何で……帰って……!?」
     マサムネと愛里も彼等を誘導したのだろう。走り去る車に手を振って見送った3人は、慌てふためく怪人を捉えると、遠目にフッと微笑を注いだ。
     状況が飲み込めず暫し茫然とする怪人に、全ての解を与えたのは類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)の言。
    「アンズは確かに美味しいけれど、他の果樹園までアンズ園にするなんてもってのほか!」
     秘めた野望を暴かれたアンズ怪人は、凛然と殺気を放つ彼女に視線を繋ぐと、
    「きちんとお仕置きして美味しいケーキを頂いちゃうんだからっ!」
     その佳顔に禍々しく顔を歪め、敵か――と歯噛みした。


     7人は帰り、残った8人は灼滅者。つまり、収穫はゼロ。
    「なんて事してくれた!」
     罠と知ったアンズ怪人は憤怒し、香り立つアプリコットビームを俄かに放つ。芳しき光の粒子が大地を削って灼滅者に迫ると、衝撃に盛り上がった土を見た桃子が咄嗟に踏み出た。
    「園が荒れるよ! 場所を変えて――、ッ!」
    「黙れェ!」
     その激昂は激しく、シールドリングを展開した彼女の盾を食い破って光条が差し込む。ビームを頬に掠めた桃子は、手の甲で血を拭って細顎を上げた。
    「耕した土に、貴様等を肥しに入れてやろう!」
     怒り心頭といった処か、闇雲に放たれるビームが波立つ感情をよく示している。
    「杏の木に傷がついちゃう……!」
     凪流は果樹に迫る光の軌跡に身を差し入れ、スターゲイザーで相殺しながら物言わぬ命を守ると、
    「助六ちゃんもお願いっ!」
    「ナノッ!」
     魂の欠片も心得たもの。名を呼ばれたナノナノの助六は、彼女が案ずる別の方向――ケーキの盾となり、しゃぼん玉で光塵を往なした。
    「此処で戦闘すると、大事な木に傷が付きかねないが」
    「こちとら心はズタズタよ!」
     憤怒のままビームを乱射するアンズ怪人に、呆れとも言えぬ嘆息を零したヴァーリは、
    「カイリ」
     相棒の翼猫カイリの肉球で光矢を手折らせつつ、自らは帯の鎧を配って自陣を強化しながら冷静に敵情を探る。
     場を改められれば激情も少しは収まろうが、聞く耳持たずといった今は却って煽るだけ。説得は不可能と判断した彼女は、眼前で颯となって敵影に迫る白い双翼に言を任せた。
    「アンズ、色、ビワ、にてる。お友だち?」
    「友達なワケあるかいっ! 寧ろ敵だわ!」
     小鈴を振る如き声ながら、砂羽の無垢なる質問はアンズ怪人の耳を捕まえる。
    「よ~く見なさい! ほら、まずフォルムが違う!」
    「?」
    「ココと、ここ」
     小首を傾げる彼女に己の躯を指さして教える彼は、
    「成程、ここか!」
    「ぐぶェ!」
     灼眼を煌々と輝かせて炎拳を突き入れた周に気付かず、体をくの字に折って痛撃を吐き出した。
    「なる、ほど」
    「おまガフゥ!」
     そして砂羽もまた周の言を真似てグラインドファイアを被せれば、両者の焔に炙られたアンズボディは自慢の芳香を炭の如くさせた。
    「ぬ……っく……く」
     そうして敵が苦悶する間に一般人の避難を終えた3人が合流し、布陣は完成。
    「ただ杏の美味しさを広めるだけなら良かったんですが……ご当地パワーの悪用は許せません!」
     千曲の地で得たパワーを糧に鋭槍の如く疾駆した愛里は、エプロンの裾を颯爽と翻して間合いを詰めると、
    「何、をっ!」
     燕子花の色が差した刹那、敵の体躯は空を泳ぎ、その後一気に墜下して地に穿たれた。
    「アンズダイナミック!」
    「オウゥ、ッ!」
     爆風と轟音、そして苦しい体勢に絶叫を隠されたアンズ怪人は、受身も取れず激痛を甘んじる。
    「移動が適わないなら、アンズを傷つけない様に戦うだけね」
     寧ろ果樹に対する気遣いは怪人より灼滅者が行き届いているかもしれない。それは敵のみを精確に撃ち抜くクリスタの鏃も同様で、
    「ぬわっ!」
     大気を裂いて迫る彗星の矢は悪の果肉だけを貫いて汁を滴らせた。
    「クッ……やりおる!」
     樹木の間を擦り抜けたアンズ怪人は鋭い攻撃に歯切りしながらケーキナイフを構えると、凛然たる佳顔を崩さぬ彼女達に反撃の刃を振り翳した。
    「おっと、女子ーズに手出しはさせない」
    「ッ!」
     邪悪な銀光が閃いた瞬刻、それを異形の剛拳で掴んだのはマサムネ。鮮血が滴るのも構わず刃撃を包んだ彼は、鬼神の如き膂力のまま押し返すと、
    「、小癪な!」
     初めて後退したアンズ怪人は、屈辱に顎を上げて彼を凝視した。


     敵の攻撃を話術を以て封じ、届く攻撃も敢えて絞らせる事で杏園を守る――。
     彼等の戦術は見事ループとなり、敵は地の利を得ながら劣勢を強いられていた。
    「杏は春になると梅みたいな綺麗な花を咲かせて、夏になるとまた梅に似た実をつけるみたいですが……」
    「ウメウメ言うな! そもそも品種的には……」
     果樹を縫うように灼滅者の攻撃を交わしていたアンズ怪人は、風に運ばれた愛里の声に足を止める。彼が熱く語り始めるに合わせて『瑞枝~翠樹~』を構えた愛里は、隙ありとばかり妖冷弾を撃ち込んだ。
    「杏も大切ですが、他の木も大切です!」
    「のおををを!!」
     氷の楔が満身を穿ち、容赦なく活動熱を奪っていく。
     血飛沫の如く果汁を迸る体躯に間髪容れず殲術執刀法を施したのは砂羽で、
    「ウメ、みたい、ジュースも、できる?」
    「ウメじゃないんだって! やめて汁出る!」
     色白の華奢な手を躍らせて果肉を摘出し、敵を話術と痛撃で翻弄した。
    「ぐゥ……ッ、これ、しき!」
     堪らず木陰に逃れたアンズ怪人は、苦境を拒むように気焔を吐くと、今度は枝間より姿を現して竜巻を放つ。
     枝葉を激しく震わせる毒の風に動いたのはディフェンダー陣で、凪流はエアシューズ『軽妙やかな遁走曲』を駆って風刃の壁に婚星の軌跡を割り込ませ、助六が援護にたつまきを合わせれば、逆巻く暴風は両者の前に微風と変わった。
    「かかってきなさいっ! え~っと……スモモ怪人さん?」
    「ナノ?」
    「アンズだってば!」
     艶髪を風に遊ばせて悪戯に微笑んだ凪流に助六も声を重ね、アンズ怪人が苛立ちに拳を突き上げる。
     それを桃子は更に掻き立てた。
    「アンズってスモモと違うの?」
    「違う違う! 全然ッ違う!」
     宿敵の名を聞いた敵は篤と説明せねばと身を乗り出し、指を立てて口を開いた瞬間、可憐な踵が顔面を蹴り飛ばした。
    「いっくよー! せーのっ!」
    「はぶウ!!」
     食べ物は粗末にしない――その優しさが狙ったのは敵の鼻頭で、然し脳天を突き破るほど無慈悲な一撃に敵は踏鞴を踏み、遂に片膝を土に汚した。
     敗色を知らしめたのはマサムネのグラインドファイアで、彼と感情の絆を繋いだクリスタの連携も秀逸。
    「ここの品種って何?」
    「ん、これ?」
     アンズ怪人が躯を預けていた幹を指差し問うたクリスタに、釣られて視線を運んだ矢先、眼前は紅蓮に覆われる。
    「生でもイケるし、焼いても良いだろ!」
     彼女の縛霊撃が敵影を縛した処へ灼熱が飛び込み、瑞々しいボディに業火が迸った。
    「……直火焼きは駄目そうね」
    「ンがあぁッァ、加工向けなのにィ!」
     文句を言いつつ叫声を挙げたアンズ怪人は、愈々地に倒れて臍を噛む。
     回復に専念していたヴァーリが攻撃へと転じたのも、近付く終幕を予感させ、
    「怯んだ今のビームでは、杏1つも落とせないだろう」
     仲間を強化し尽くした彼女は、敵の弱体をも見定めた上でレイザースラストを割り入れた。対角からカイリが猫魔法を弾いて敵背を討てば、悲鳴の如き咆哮が蒼穹を裂く。
    「……ッ……ッッ!」
     アンズ怪人が眼前の灼滅者より眼を泳がせて退路を探ったのはほんの一瞬であったが、周は僅かな挙動も逃さず、最期まで彼を言に操った。
    「やっぱ杏仁、逃げ腰杏よりアーモンド使った方が良かったか……」
    「! それは絶対ダメ――!」
     嘆息に紛れた彼女の科白は、然し敵が喰い付いた時には好戦的な微笑に掻き消され、
    「悪の芽はきっちり摘ませて貰うぞ!」
     バトルオーラ『皐月』を集めた拳は閃光を散らして果肉を砕き、アンズ怪人を熾烈な連打で空に飛ばしていた。
    「嗚呼嗚呼アァ……爆散ンンン……!!」
     千曲の街に一足早い花火を上げた彼は、そのまま星となって黄泉路に消えた。


    「枝も折られてないし、根も大丈夫……お互い耐えたね」
     戦闘痕を確認し終えた桃子が漸く安堵に吐息した時、一同を呼ぶ軽快な声が園に澄み渡った。
    「美味しそうなケーキ! 皆で食べよ~っ!」
     見れば誰よりも早く卓を整えた凪流が、大きく手招きをしている。甘味に目が無い彼女は疾風の如くケーキの前に陣取り、いそいそと切り分けたそれを皿に配っていた。
    「彩を添えてみようか」
     そう言ってヴァーリが差し出したバスケットには、先程のもみじ饅頭。之に破顔して身を乗り出したメンバーの鼻を、更に芳しい癒しの香が擽った。
    「おちゃ、あいりの、アプリコットの、気になる」
    「疲れた身体に丁度良い」
     涼風に乗る芳香をすんすんと鼻で追った砂羽は、ほんのりと湯気立つアプリコットティーに瞳を輝かせると、ヴァーリも年相応の微笑を返してカップに注いだ。
     之に周の杏仁豆腐も加われば、卓は一気に華やぎ、麗らかな午後の一服のようで。
    「そういや再来月には20歳になるんだし、杏酒も美味そうだぜ」
     バリエーション豊かに姿を変えたアンズ達を眺め、フッと笑って呟いた彼女は、近いうちに活躍しそうなレシピを捲って胸に仕舞った。
     その隣には、頬を美味に膨らませたマサムネ。
    「やっぱりキャワイイ女子ーズの手作りスイーツはうんまい!」
     頑張った甲斐があったと、噛み締める味に倖福を感じた彼は、心の底から湧き上がる想いを立てた親指に託して言う。
    「旬のものは旬のうちに食うのがジャスティス!」
     残すのは勿体無いと、有り余るケーキを恋人に持ち帰る彼に、一同も続いた。何せケーキは16人前、食べるも良し、戦果として持ち帰るのも悪くない。
    「ケーキたちに罪はないもの」
     寧ろ怪人に悪用された被害者か、と犀利な瞳に優しさを滲ませたクリスタは、そっと手を合わせた後に美味を口に運んだ。その瞳が僅かに見開いたのは、彼等の奮闘に感謝したアンズの悪戯だったかもしれぬ。
    「……本当に杏が大好きだったんですね。美味しい……」
     愛里の言葉が染みたのは、戦闘中にも怪人の愛を知ったからこそ。深い味わいに瞳を閉じる彼女に強く頷いた仲間達は、全ての皿を平らげた後、
    「ごちそうさまでした!」
     空にも届く声で、食後の挨拶を揃えた。

     制勝に胸を、美味に腹を満たした灼滅者達は、晴天のアンズ園に平穏のみを残して去る。彼等を見送った千曲の地は『あんずまつり』で愈々平和に盛り上がり、旬を愉しむ人々の笑顔と、たわわに実ったアンズらが、彼等の勝利と任務の成功を何より示していたという――。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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