長崎ビワ怪人主催! 枇杷パーティーへようこそ♪

    作者:春風わかな

     長崎県内某所、かつて雑誌にも取り上げられたケーキ店『ラ・クォート』。
     今では当時の熱も収まり、近所の常連客によって愛されているお店である。
     だが、今日はいつもと勝手が違っていた。
     店内のショーケースに並んでいるのはいつも通りのおいしそうなケーキ類。
     ショートケーキにミルフィーユ、有名な定番からマカロンや焼き菓子系まで。
     だが、その全てが……。
    「イチゴよりビワよね!」
     イチゴのショートケーキはビワのショートケーキに。
    「パイ生地に重ねるのはビワジャムを混ぜたクリームしかないわ!」
     ミルフィーユのクリームもビワジャムクリームに。
     ……という感じでショーケースに並んだケーキのどれもこれもがビワを使ったケーキに代わっていたのだ!
     そんなビワだらけのケーキが並ぶショーケースの上に、その少女はどーんと仁王立ちする。年頃は10歳ぐらいか。お姫様のようなドレスを着ているが、模様や小物は全てビワモチーフというこだわりようだ。
    「さあ! あとはお客さんが来るだけね! ここのケーキを食べたお客さんが、ビワの味に感動して……なんだかんだあって、世界をビワが支配するのよ!」
     えっへんと得意気に胸をはり、可愛らしく笑う少女、いやご当地怪人びわプリンセス。
     その時、カランとベルが鳴り扉が開く。
     極上の営業スマイルを浮かべ、びわプリンセスは入口へと視線を向け嬉しそうに声をあげた。
    「あ、いらっしゃいませー! ビワにしますか? それともビワにしますか?」

    「ビワのご当地怪人が、ケーキ屋さんに、現れた」
     いつもと変わらない様子で久椚・來未(高学生エクスブレイン・dn0054)が淡々と視た内容を告げる。
     何でも長崎県内にあるケーキ店『ラ・クォート』にやってきたビワのご当地怪人が、お店にあるケーキを全てビワのケーキに変えてしまったと言うのだ。
     今は一般人に被害が出ていないが、このまま放置しておけばいずれ被害が出てしまうだろうと來未は眉をひそめた。
    「ご当地怪人『びわプリンセス』を灼滅して」
     ケーキ屋さんは朝の10時に開店するらしく、最初のお客さんとして入れば店内に他の客はいない。お客さんが他に入ってこないよう何かしら対策をしておけば良いだろう。
     戦闘になればびわプリンセスはご当地ヒーローとガトリングガンに似たサイキックを使い、ポジションはクラッシャーで襲ってくる。
     見た目は子供だが、相手はご当地怪人。油断は禁物だ。
    「ねぇねぇ、來未ちゃん。このビワのケーキ、どうなっちゃうの?」
     ツンツンと來未のマフラーを引っ張りながら、心配そうな顔で星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)が問いかけた。
     暫し考え言葉を選ぶ來未だったが、最後は正直に隠さず告げる。
    「多分、廃棄されると、思う」
     ケーキ屋さんの営業方針上、誰が作ったのかも不明な得体のしれないケーキを売るわけにはいかないだろう。
    「でも、このお店、カフェもある」
     ようするに、ご当地怪人を灼滅した後、お店に併設されたカフェスペースでビワのケーキを堪能してくれば良いというのだ。
     びわプリンセスが持ち込んだ大量のビワもあるので、興味のある人はビワを使って好きなお菓子を作ってもよいだろう。
     ビワゼリーやビワのパウンドケーキ、ビワジャムを使ったヨーグルトムースなど好きなデザートを作ってみてはどうだろうか。
    「わぁぁ、いいな、いいな。おいしそうだねぇ~!」
     傍らの霊犬・小梅と一緒にはしゃぐ夢羽を見て、來未もこくこくと頷いた。
    「ビワも、ケーキも、勿体ないから。食べて、いいんじゃない、かな」
     わーい、と嬉しそうに教室を飛び出してゆく夢羽の背に向かい、來未は小さく手を振り見送る。――気をつけて、と。


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    東堂・昶(赤黒猟狗・d17770)
    崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    八文・菱(菱餅姫・d34010)

    ■リプレイ


     午前10時。
     カランと扉につけたベルが鳴り、ケーキ店『ラ・クォート』へ客が来たことを告げる。
    「あ、いらっしゃいませー!」
     にっこり営業スマイルで入店者を迎えたのは、頭に白い花飾りを付け、ビワモチーフで彩られたオレンジ色のドレスを身に纏った少女――否、ご当地怪人びわプリンセス。
    (「何か、すごく可愛い……!」)
     仙道・司(オウルバロン・d00813)はびわプリンセスを思わずじっと見つめた。
     可愛いモノとちっちゃい子が好きな司にとってびわプリンセスは見ているだけでぎゅーっと抱きしめたくなってしまう。
    (「い、いけないボクっ、見た目に騙されては痛い目にあうです!?」)
     1人ぶんぶんと首を横に振る司は気にも留めず、びわプリンセスはショーケースのケーキを取り出して灼滅者たちに勧める。
    「ビワにしますか? それともビワにしますか?」
    「いいっすね~、ビワ、おいしいっすよね!」
     にこにこと笑顔で頷く空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)にびわプリンセスはまんざらでもなさそうな笑みを浮かべてこくこくと頷いた。だが。
    「生も缶詰も、どっちも好きっす!」
     無邪気に告げた朔羅の台詞にびわプリンセスの表情がピシリと凍り付く。
    「そ、そう……このお店のケーキは全て生のビワを使っているの。私の手作りよ!」
     びわプリンセスは見て! とばかりに自慢のビワのショートケーキをばーんと掲げた。
     そこへ他の客が入ってこないようにこっそりと貼紙を貼っていた織部・京(紡ぐ者・d02233)が、入店するなりピシリとびわプリンセスを指差し高らかに声をあげる。
    「そのケーキはすっごく美味しそうですが、無理矢理は良くないです!」
    「失礼ね、無理矢理だなんて。食べればみーんなビワの美味しさに気付くのに」
     びわプリンセスはぷぅっと不満そうに頬を膨らませ口を尖らせた。
    「確かに長崎の枇杷は美味しいが、一般の方々に危害が及ぶとなると残念ながら話は別だな」
     白石・作楽(櫻帰葬・d21566)の言葉に神妙な面持ちで頷くのは八文・菱(菱餅姫・d34010)。
    「地域の方々にご迷惑を掛けてはいかんからのう」
     と、言いつつ菱の視線はビワのケーキに向けられている。
     普段、菱は洋菓子を食べることは殆どない。故にビワのケーキがとても楽しみなのだ。
    「あー、まどろッこしい! コイツさッさとブッ飛ばして、ビワスイーツにありつくとしようぜー?」
     サウンドシャッターを展開し今にもびわプリンセスに襲いかかりそうな東堂・昶(赤黒猟狗・d17770)を「ちょっと待ってください」と夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)が慌てて制する。
    「あァ? なンだよ」
    「先にびわケーキを安全な場所に移しておきましょう。戦いに巻き込むわけにはいきませんからね」
     炬燵の合図で崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)と星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)が「せーの」と2人仲良くケーキを持ち上げた。
     2人はてきぱきとケーキを厨房へと避難させ、これで戦闘の準備は完了。
     では、改めて、と炬燵は咳払いを一つしてびわプリンセスを見つめる。
    「ビワを世界に知ってもらおうとする努力はいいことですが、他の人に迷惑をかけてはいけません。ですので――あなたを灼滅させていただきます」


     びわプリンセスは幼く可愛らしい容姿とは裏腹に強かった。
    「長崎びわビーム!」
     作楽に向かって放たれたビームからビハインドの琥界が身を挺して庇う。
    (「この小娘が!」)
     大切な愛娘を守った父は怒りを隠そうともせずピシリとキセルをびわプリンセスへと突きつけた。だが、次の瞬間、朔羅のナノナノ・師匠が飛ばしたふわふわハートで傷を癒すと同時に冷静さを取り戻す。
    「師匠、ナイスフォローっすよ!」
     コイン状のエネルギー障壁を張り付けた拳をぎゅっと握り、朔羅は力いっぱいびわプリンセスを殴りつけた。
    「仲間に手出しはさせないっす!」
     朔羅の攻撃を受け止めるびわプリンセスに、間髪入れず白い軍服に身を包んだ悠里の放った意思を持つ帯が襲い掛かる。
     辛うじて態勢を保ったところを狙い、今度は作楽が瑠璃水晶の祭壇を持つ巨大な籠手を振り下ろした。
     何しろびわプリンセス1人に対し、相対する灼滅者は9人にサーヴァントが5体。加えて回復手や護り手も十分に備えているので守りが厚く、結果として攻撃に専念できるものが多いという点も灼滅者たちに有利に働いていた。
    「ちょっと、可愛い女の子1人に対してこれはないんじゃないの!?」
     抗議の声をあげつつ嵐の如くビワを降らせるびわプリンセス。
     ばらばらと音を立てて大量に降り注ぐビワを見て京は「あぁっ!」と声をあげる。
    「ビワは世界に通用すると思いますが、傷まないように大事にしてあげないと!」
    「わかってるわよ! でも、これはビワの世界征服を邪魔する敵に対する粛清だから多少の犠牲は仕方がないわ!」
     ガドリングガン(弾丸はビワ)を手に胸を張って答えるびわプリンセスにやれやれと肩をすくめ、菱は手にした琵琶の弦をばちで弾いた。
    「回復はわらわに任せておけ、皆は攻撃を頼むのじゃ!」
     ベベンと琵琶を掻き鳴らし、菱は仲間を鼓舞する音色を奏でる。ビワの雨で傷ついた身体が癒され、無言の圧力から解放され身体が軽くなるのを感じた。
    「行け、源氏丸!」
     主の言葉に霊犬の源氏丸が素早くダッとびわプリンセスへ飛び掛かり、咥えた刀を勢いよく振るう。
    「美味しい枇杷の為にも気を抜かずにしっかり戦おうね、琥界!」
     そう――全てはこの後に待っているびわパーティーのため。
     激しく渦巻く風の刃を操る作楽の言葉はその場に集う者の共通の想いといっても過言ではない。夢羽も漆黒の弾丸を撃ち込み、小梅もまた咥えた刀を薙いだ。
    「ビワのケーキはオレ的にはマジでありがてェケド……流石にちょッとやり過ぎたなァ?」
     びわプリンセスへと昶の足元の影が伸びてゆく。刃のように尖った先端が敵に襲い掛かると同時に昶はパチリと指を鳴らした。それは相棒のライドキャリバーである朧火への合図。待ってましたとばかりに勢いよく飛び出した朧火は全力でびわプリンセスへと突っ込んでいく。
    「ご当地を愛する気持ちはわかりますが……こんなやり方は賛成できません」
     長刀を上段に構えた悠里が振り被った雲耀剣は早く、そして正確にびわプリンセスの右腕めがけて斬りかかった。厳しい表情を浮かべて敵を見下ろす悠里に司が同意を示す。
    「びわもスイーツも大好きだけど、強制は良くないのですっ!」
    「でも……っ!」
     反論しようと口を開きかけたびわプリンセスだったが、腕に絡みつく触手のようなもの――その正体は京の足元から伸びた黒い影【Urthr】を振り払おうと必死にもがいた。
    「あなたがしていたことはお店の人に迷惑がかかる悪いことです」
     きっぱりと告げる炬燵の腕は巨大な鬼の腕へと変化している。大きく振り被った腕で力いっぱいびわプリンセスを殴り飛ばした。
     ちゅどーん!
     控えめな爆発とともに爆ぜるびわプリンセス。
     消えゆく彼女に向かって炬燵はにっこりと笑顔で告げる。
    「……とはいえ、びわケーキに罪はありませんね。ちゃんと味わっておきますから、安心してくださいね」


    「お疲れ様っした!お怪我の具合は如何っすか?」
     朔羅の元気な声が戦闘の終わった店内に響いた。怪我をした者がいないことを確認し、てきぱきと京を中心に店を片付ければ、この後は――。
    「びわタイムです!」
     嬉しそうな京の声にわぁっと皆一斉に厨房へと駆けこんでいく。
    「この後ビワのケーキを食うコトも考えッと……びわゼリーあたりが手頃かねェ」
     スマホで調べておいたレシピを呼び出す昶に司も「同感ですっ」と嬉しそうに頷いた。
    「ゼリーやシャーベットを作る場合には、まずコンポートにしてから多かったです!」
     京のアドバイスにふむふむと頷きながら、司は枇杷の皮を剥いて種を取る。
    「じゃ~ん!」
     中央の種をくり抜いた枇杷を指にさして楽しそうに遊ぶ朔羅の傍らで夢羽は悠里の腕をツンと突いた。
    「悠里ちゃん、これなぁに?」
    「それはもみじ饅頭用の鉄板ですよ。ビワジャムを貰ってもみじ饅頭を作ろうかなって」
     にこやかな笑みを浮かべて夢羽に説明する悠里にと菱が嬉しそうに声をかける。
    「ビワジャムはわらわも欲しいのぅ。びわ大福を作りたいのじゃ」
    「どっちも楽しみ! 2人ともちょっとまってて。ユメ、ジャム探してくる!」
     ぱたぱたと厨房を駆け回って皆のお手伝いに励む夢羽を京が作るコンポートの甘い香りが包み込んだ。
    「なんだか、すごく良い匂いがするな……」
     甘い匂いに釣られてひょいと厨房を覗き込んだ作楽の動きがぴたりと止まる。と、同時に朔羅の悲鳴が響き渡った。
    「ぎゃー!! ちょっ!? 師匠何してるんっすか!?」
     お菓子に使おうと皮と種を取った枇杷が入ったボウルを抱え、師匠は美味しそうにぱくぱくと枇杷を食べている。
    「やめて、そのビワで今からお菓子作るから勝手にもりもり食べんでっ」
     慌てて枇杷を取り返そうとする朔羅だったが、師匠はボウルを抱えたままするりと朔羅から逃げていった。必死に師匠を追いかける朔羅を見て菱が口元を袖で隠して笑う。
    「良いではないか。枇杷はたんとあるので心配無用じゃ。心行くまで食べればよい」
    「そうですよ、大丈夫、いっぱい剥いてあげますよー!」
     張り切って枇杷の皮を剥きはじめる司を見て朔羅はほろりと涙を零した。
    「みんな、優しいっす……!」
     ビワのコンポートが出来たら、次はゼリー作り。透明のゼリー液にコンポートを入れて固めるだけ。急いでいるときは氷水で冷やせば早く固まってくれる。
     一方、器用な悠里はケーキの他にも持ち込んだ材料を使ってビワの種を使った杏仁豆腐も作っていた。
    「美味しそうな匂いですね」
    「ありがとうございます、夢代先輩」
     にこりと微笑む炬燵に悠里は嬉しそうに笑みを浮かべた。料理上手に兄に鍛えられた腕前はさすがだ。
    「そろそろかァ……星咲」
     昶に手招きされた夢羽が「なぁに?」とぱたぱたと駆け寄っていく。
    「味見するか?」
    「わーい!」
     ありがとう、と嬉しそうに差し出されたゼリーをぱくりと食べた。ほんのりと甘いビワの味に夢羽が嬉しそうに飛び跳ねる。
    「夢羽ちゃん、私のも良かったら味見してくれますか?」
     どうぞ、と京がくれたコンポートも柔らかく、いくつでも食べられそうな味。
    「おいしい~♪」
     このままでは味見だけで食べ尽くしてしまう。慌てて辞退する夢羽に京はにこりと微笑んだ。
    「よかった。何度も味見してたらよくわかんなくなるから困っちゃうね」
     ゼリーや杏仁豆腐は食べる直前まで冷やしておくとして、ちらりと時計に視線を向ければそろそろメインイベントを始めるに良い時間。
    「みなさーん、準備はよろしいですかー?」
     司の声に元気よく頷く。
    「さぁ、お待ちかね! ビワパーティですよー!」


     ビワのショートケーキにミルフィーユ。ビワクリームのモンブランにロールケーキ、ビワのムース。そしてビワジャム入りのシュークリーム。
    「甘味だ、甘味……!」
     幸せそうにびわプリンセスの作ったケーキを頬張りながら、昶は目の前に座った瑞穂に声をかけた。
    「つか、お前も遠慮しねェで沢山食えよー?」
    「勿論だ、何しろ俺は大食いだからな」
     不敵な笑みを浮かべ、瑞穂はあっという間にショートケーキをたいらげミルフィーユへと手を伸ばす。
    「あ、そういやさッきビワゼリー作ッたンだケドさ……口直しに食わねェ?」
     瑞穂の様子を伺いながら昶は遠慮がちに切り出した。頷く瑞穂にゼリーを渡し、昶は瑞穂の反応を見守る。味わうように一口食べた瑞穂は満足気に口を開いた。
    「なかなかいいと思うぞ。やはり旬のものは旬のうちに頂くのが良いな」
     まんざらでもないコメントに昶は「そッか」と嬉しそうに呟くとビワのシュークリームにかぶりついた。
     ――やはりまずは生の枇杷から。
     そういって枇杷へと手を伸ばす育と全だったが慣れない枇杷に苦戦する育を見つめ、ポツリと全が呟く。
    「……枇杷食うの下手だな、育」
    「へ、下手なんじゃなくて、慣れてないだけだもん……」
     思わず反論するが、だんだんと育の声が小さくなっていくのは全の言っていることが正しいと認めている証拠。
     まるで兄弟みたいな全と育のやりとりの見て京はケーキを食べる手を止め羨ましそうに呟きを漏らした。
    「先輩がお兄ちゃんみたいです。いいなぁ……」
     仲良しな二人に羨望の眼差しを向け、京は先程作ったコンポートをテーブルに置いた。
     甘いモノは得意ではない全だが、匙を伸ばして一口掬う。
     そっと全の様子を伺いながら、そろりと京は口を開いた。
    「あの、無理しなくてもいいですよ?」
    「いや、味見くらいは、な」
     ゆっくりと味わうコンポートは、控えめな程よい甘味とレモンの香りがふわりと口の中に広がる。
    「あ、味見ずるっこ。俺にもひとくちー!」
     ぱくりと食べた育の表情にも笑顔が浮かんだ。
    「……ゼリーで食えるのが楽しみだ」
     全の言葉に京はにっこりと微笑み「はい!」と元気よく頷く。
    「食べていただけるなら頑張りますよー!」

     枇杷の種を使った手作りの杏仁豆腐をそっとスプーンで掬い上げた。
     ぷるぷると揺れる柔らかそうな杏仁豆腐を見つめ、想希は悟の耳元で囁く。
    「君のほっぺにも負けない位ぷるぷるですよ」
    「 て、俺そんなぷにちゃうで?」
     むぅっと口を尖らす悟が愛しくて。想希は悟の口元にスプーンを差し出した。
    「悟、味見あーん」
     ぱくっとスプーンを咥える悟の頬をぷにっと想希が突く。
     お礼、と今度は悟が差し出したスプーンをぱくりと咥える想希の頬にぺたりと悟が頬をくっつけた。
     二人で作った杏仁豆腐はぷにっぷにの愛の味――。
     作楽の前にはタルトの載った皿、蓮の前にはショートケーキが載った皿。
    「そちらも美味しそうだな……」
     皿をじっと見つめる作楽に気づき、蓮はにこりと笑顔を浮かべてショートケーキを差し出した。
    「白石先輩、はい、あーんです」
     蓮が差し出したケーキを作楽はパクリと頬張る。
     お返し、と今度は作楽が差し出したタルトを蓮は幸せそうにパクっと食べた。
     この仲睦まじい二人の様子が面白くないのが琥界。
     蓮はちらりと琥界に視線を向けるとふふん、と勝者の笑みを浮かべる。
    「琥界さん? 戦闘はもう終わりましたよ」
     どっか行けと言わんばかりの蓮の態度に琥界は臨戦態勢。……だが。
    「もう、琥界ったら!」
     作楽に怒られてしゅんと身体を小さくする琥界を横目に蓮は霊犬のルーちゃんにケーキを差し出した。
    「ところで……同行者の皆さんが作った菓子もあるようだ」
    「それはぜひぜひ食べたいです」
     甘い幸せのお裾分けに期待して。
     作楽と蓮は空っぽの皿を持って立ち上がった。
     テーブルの上に並んだディーカップから甘い紅茶の香りが漂う。
    「ビワのケーキはどんな味か楽しみですね」
     炬燵はびわプリンセスが作ったミルフィーユをゆっくりと口に運んだ。
     すっきりとした甘さのびわジャムのクリームがサクサクのパイ生地とマッチして想像以上に美味しい。
    「これだけの物なら、無理強いしなくても皆食べてくれるんじゃないかな?」
     もぐもぐと口を動かす司も美味しいケーキに緩む頬を抑えるのに必死だった。
    「正々堂々、自分のお店開いて勝負すればいいのに……」
    「そうですよね、企業にアピールして製品化してもらえばいいのに残念ですね」
    「……ケーキの作り方、聞いてみたかったですね」
     ぽつりと呟く流美の言葉に悠里がこくりと頷いた。
     美味しいケーキを食べる手は止まることを知らず。
     さらにみんながそれぞれ作ったもみじ饅頭や杏仁豆腐、びわ大福とゼリー等も並び、それを見つめる作楽たちの瞳もキラキラと輝く。
    「あ、もみじ饅頭っす!」
     呉のご当地ヒーローである悠里と同じ広島のご当地ヒーローの朔羅はもみじ饅頭に声を弾ませた。
    「空本さん、良かったらどうぞ」
    「ありがとうっすー!」
     はしゃぐ朔羅の隣では、菱が神妙な面持ちで杏仁豆腐とコンポートを見つめている。
    「この白いものが『あんにんどうふ』、こっちは『こんぽーと』というのじゃな……」
     菱にとってはどちらも初めて目にするお菓子。どんな味がするのかさっぱり見当がつかないので――ぱくり、と一口食べてみた。
    「おぉ、これは美味しいのじゃ!」
    「菱ちゃん、ユメ、びわ大福たべてみたいな~」
     おねだりする夢羽に菱は気前よく大福の載った皿を差し出す。
     幸せそうな表情で大福を齧る夢羽に司が声をかけた。
    「夢羽さん、はい、あーん♪」
     司の声に合わせてあけた夢羽の口に甘いゼリーがちゅるんと入ってくる。
    「小梅さんも、源氏丸さんもどうぞっ」
     皆がお菓子を楽しむのに夢中になっている中。 
    「黒君、黒君」
     こそっと手招きをする悠里に呼ばれ、枇杷を食べていた黒はきょとんとした顔で近づいていった。
    「はい、あーん」
     悠里が差し出したケーキを黒は目にも止まらぬ速さでぱくっと食べる。
    「ん、うまいっす!」
     黒の言葉に悠里は今日一番嬉しそうな表情を見せたのだった。

     食べきれなかったケーキや余った枇杷はタッパーやクーラーボックスに詰め込まれ、皆のお土産に大変身。
     甘くて美味しいビワの日々は、もう少し続く――。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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