尾張名古屋は味噌で持つ

■リプレイ

●潜入、名古屋味噌串城
　味噌串怪人の城に潜入した灼滅者達は、それに気づかれぬよう静かに歩を進める。
（「廊下には……誰もいないっすね」）
　鏡で曲がり角の先を確認すると、藤枝・丹（六連の星・d02142）はハンドサインで後続をリードする。ペナント怪人は全員上の見張りだが、味噌串怪人はどこにいるか分からない。
　警戒し進むことしばらく。灼滅者達は目的地の１階下にある階段前まで来ていた。
（「この上が目的の部屋ね。そぉーっと、そぉーっとよ……」）
　一呼吸して気を落ち着けると、篁・アリス（梅園の国のアリス・d14432）はゆっくりした足運びで階段を登り始める。
　音のたち難い靴選びの甲斐もあり、踊り場前まで無事辿り着いた灼滅者達は、突入の隙を窺い身を潜める。
（「よし、行ったね……」）
　ペナント怪人が部屋の前を通り過ぎたのを見計らい、御納方・靱（茅野ノ雨・d23297）を始めとして突入班が慎重に階段を登る。
（「状況開始……突入です」）
　そして部屋の前に来たアサギ・ビロード（ホロウキャンバス・d32066）が障子を開くと、靱が猫に変身した朝臣・姫華（姫番長・d30695）を部屋の中央へ向け投げ入れる。
（「もらったのじゃーっ！」）
　猫姫華の爪が一閃すると、支えていたロープが切れて部屋の中に旗が落ちてきた。
「むっ！　貴様等そこで何をしている！」
　それと同時に、角を曲がったペナント怪人が侵入者へと誰何の声を上げ、他の見張り達が部屋の周りへ集まって来る。
「何って、旗落としだよ旗落とし」
「ナイススローだったよ！」
　赤槻・布都乃（悪態憑き・d01959）や高沢・麦（とちのきゆるヒーロー・d20857）達が部屋に入ると、他の仲間達も続けて部屋に入り陣形を整える。
「旗が落ちたと感じて来てみれば……。成程、お客さんてぇわけかい……」
　そして障子を正面に陣を敷いた灼滅者達の前に、侵入者を察知した味噌串怪人が現れた。
「初めましてね怪人さん。せっかく一国一城の主となったところ悪いけど、今日で落城してもらうわ」
「旗を取ったくれぇで勝った気になるのは、気が早いってぇもんだ……」
　刀に手を当て構える桜庭・理彩（闇の奥に・d03959）に対し、腰の串を握る味噌串怪人。互いの抜刀をもって、戦いの火蓋が切って落とされた。

●勝者が全てを手に入れる
　先手を取ったのは理彩。刀に炎を纏わせると、味噌串怪人をガードするペナント怪人へと斬りかかる。
「まずは貴方から火を通してあげるわ。この時期加熱が甘いのは良くないしね」
「そうくるかい……。部下に手を出されて黙っているわけにゃあいかねぇな」
　燃え上がるペナント怪人を目にした味噌串怪人が、他のペナント怪人と連携し素早く串を突き出すが、ここで布都乃やウイングキャットのサヤがカバーに入る。
「この守り、簡単にゃ崩させねぇぜ？」
「目標確認。殲滅行動開始」
　結界と魔法で反撃する主従に続き、アサギの繰り出す帯が壁役のペナント怪人を貫くと、対するダークネス側も後ろのペナント怪人が仲間を回復する。
「しつもん！　名古屋の串カツは味噌オンリーなのかしら？」
　同じく壁役のペナント怪人を斬り付けながらアリスが訪ねると、味噌串怪人は首を振る。
「そうだと言いてぇがソースもあるのが実情。だからこそあっしが頑張らねぇといけねぇ」
　居酒屋等のメニューで『串カツ（ソース・味噌）』はありがちな表記だが、味噌串怪人はそこからもソースを駆逐したいようだ。
「そこまで言うなら味噌串カツの実食は無いんすか？」
「食う気満々で腹空かせてきました！　タレはたっぷりでお願いします！」
　こちらも壁役のペナント怪人をしばき倒しながら、丹と麦が味噌串怪人へ期待の眼差しを向ける。
「嬉しいねぇ……。この喧嘩で生き残ったらたらふく食わせてやらぁな」
　もちろんこれは命乞いではない。自分の勝利後に灼滅者達が生きていればという意味だ。
「何という無理！　せめて今生の名残に、リーズナブルで美味しいお勧めの味噌串カツ店を教えて下さい！」
「そりゃあ、あっしの作る味噌串カツが一番さぁ」
　前衛を支援しながらな靱の言葉も、無理というのは自分達の生存ではなく、味噌串怪人は見逃せないという意味だ。互いの真意を悟り、２人はニヤリとほくそ笑む。
「妾はカツよりこの城が欲しいのう。お主を倒したら貰ってもよいか？」
「もしもあっしに勝てるなら、あっしの許しなど関係無いと思うがねぇ？」
　回し蹴りで敵前衛を薙ぎ払う姫華に対し、できるものならという視線を返す味噌串怪人。勝てば官軍。それが戦国の世の理だ。

●お腹が鳴くから帰りたい
　その後も壁役のペナント怪人を攻撃し続けた灼滅者達は、徐々に敵を追い詰めていた。
「こいつでトドメだっ！」
　サヤの拳を受けて動けないペナント怪人の懐に潜り込むと、布都乃は至近距離から相手に逆十字を刻み灼滅させる。
「中々やるじゃあねぇか。なら、少しばかり見えなくなってもらうぜ」
「せめてタレだけでもっ！」
　味噌ダレをかけようと頭を突き出す味噌串怪人の前に、ペナント怪人へ炎を撃った直後の丹が立ち塞がり、そのまま攻撃を受け味噌まみれになる。なお、舐めてみると美味だった。
「くっ、そんな美味しそうな匂いを立ち昇らせながら戦うなんて……。ずるいわよ！」
　炎上するペナント怪人を斬り付けながら、理彩のお腹がくぅと鳴る。部屋に広がる味噌の香りは食欲を刺激して止まない。
「早く勝って食べに行こう！　行くよ、アリスちゃん！」
「お任せなのよー！」
　麦により地面に叩き付けられると、大爆発とともに吹き飛ばされるペナント怪人に対し、アリスはロッドを身構える。
「ボルトッ！　クラァァァッシュ！」
　落ちてきたところを真芯に捉えた一撃がペナント怪人を灼滅。これで２体目だ。
「色々な意味で支障が出てるみたいだし、食事汚れは落としておこうか」
　腹ペコ軍団を見て回復をかける靱だが、癒しの光で丹の体は綺麗になっても、一度部屋に充満した香りは如何ともしがたい。
「敵前衛残一体。強酸弾装填、発射」
　だが、誘惑に屈しない者もいる。アサギは冷静に敵を見据え銃口を向けると、最後の敵を葬り去った。
　全ての壁役を失ったダークネス達。残る回復役のペナント怪人も、灼滅者達の集中攻撃に２分と持たずに灼滅される。そして、次に狙われるのは当然味噌串怪人だ。
「ぬぅ……。旗がありゃあ、これくらいわけもなかったが……」
「ふふふ。妾達の作戦勝ちじゃな。それに、それが元々の実力であろう？」
　姫華の拳を避けきれず腹を押さえる味噌串怪人の動きは、キャスターにしてはやや鈍い。旗を落とした効果は攻防ともに中々のようだ。

●いざ行かん。キャベツとご飯おかわり自由
　最後の１人となった味噌串怪人は、時に油を振り撒き、時にタレを被せてと奮戦するが、灼滅者達を１人として倒せない。
「味噌の次は油汚れねぇ……。洗う方の身にもなってほしいよ」
　靱が清めの風をなびかせると、仲間達の手や武器から油が落ちていく。
「ここは当てていくっすよ！」
「くらえはらペコ……じゃない、ゆずビームっ！」
　丹の帯と麦のビームが味噌串怪人を貫くと、続けて理彩が走り込む。
「乙女のお腹を鳴らせた罪は……重いわよ」
　影に染まった刀で袈裟懸けに斬り裂くと、顔の容器にヒビが入りタレが流れ出る。
「くっ……。これじゃあ城までくれた安土城怪人さんに申し訳が立たねぇぜ……」
「城のことなら安心せい。お主亡き後は妾が存分に活用してやろう」
　姫華の手が妖しく動くと、串を支えに踏ん張る味噌串怪人の頭の串カツが切断される。
「あ、あっしのカツが……！」
「行くぜサヤ！　その味噌串を食っちまえ！」
　動揺する味噌串怪人に間合いを詰めると、布都乃は音波を、サヤは魔法を叩き込む。
「これで終わらせるのよ！」
「仰角調整。支援射撃」
　膝を着いた味噌串怪人にアリスがトドメだと飛び上がり、アサギの砲撃が退路を断つ。
「三千の梅の力を借りて！　今必殺の！　水戸六名木！　月影キィィィィィィックッ！」
「安土城怪人さん……。草葉の陰から勝利を祈らせてもらいやすぜぇぇぇぇぇぇっ！」
　最期の時まで安土城怪人への義理を通し、味噌串怪人は爆散したのだった……。

　こうして味噌串怪人を灼滅した灼滅者達は、城内で一息ついて……いなかった。
「名古屋味噌串怪人、成敗！　これで東西の串カツ怪人に勝ったのよ」
　ビシリとポーズを取るアリスの後ろでは、下ろした旗に姫華が何かを書き込んでいる。
「勝ったのじゃ！　これでこの城は妾の物！」
　どうやら本気で城を手に入れる気のようだ。
「ほっといていいのかあれ？　私物化とか学園が許可すると思えねぇんだが……」
　後で知って落ち込む前にと話を振る布都乃だが、
「終わったーっ！　これで味噌カツだーっ！」
「大賛成っす！　早く行くっすよ！」
　麦や丹の叫びがこれを遮り響き渡る。
「ここまで来たら食べて帰らないとね」
「せっかくだから有名店に行ってみたいわ」
「携帯、検索検索……」
　仲間達の様子にため息をつくと、布都乃はオレが行くしかないかと呟き真実を伝える。
　その後、皆で訪れた味噌串カツ店で姫華がヤケ食いしたりもしたが、概ね平和に食事会を終えると、灼滅者達は東京へと帰還した。

作者：チョコミント	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年6月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
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