環天頂トロイメライ―shining cirrus

    作者:那珂川未来

     少し前に止んだ雨。
     アスファルトに残った雨の名残を渡りながら口ずさむメロディは、雨音を聞きながらまどろむ様にゆったりと。あてもなく歩くなら、景色を眺める視点も細やかに。きらきらと、角度の低い陽の光が、葉に残った雫を黄金色に輝かせている。
     何処かで雫の中に花や景色を閉じ込めた写真を見たことがあったから。何気なく覗きこんだなら、そこにあるのは七色の弓。
    「――環天頂アークか」
     環天頂アークは逆さ虹とも呼ばれ、本来とは逆の方向に向かって弧を描く変わった虹。そんな天頂に向かい弧を描く姿を見上げながら、仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は思う。雨に濡れた逆さの虹の上に、指を滑らせたならどんな音がするのだろう。グラスハープのような音だろうか。それとも風鈴の様に涼やかな音だろうか、と。
     美しい水色に溶け込む様な色合いの環天頂アークの端。けれど絹雲の真っ白なキャンパスの上ならば、アークの輝きは美しさを増し、雲にもその色が零れたようにも見えた。青と白のグラデーションにクロスする絶妙な加減は、神秘的と言えばいいのだろうか。
     雨の多い月に生まれたから。虹との巡り合わせは割と多い方だよな、なんて。生まれた日に、珍しい虹と出会えたこの瞬間は何度目かとひっそり微笑零しつつ、沙汰は誰かへとメールを送った。 
      
     そして――。
     君は、環天頂アークが空にあるのを知った。
     乾き始めた大地の上、誰かを誘ってみてみようか?
     きっかけのつかめなかった話をしてみようか?
     雫の中に、虹を捕まえにいってみようか――?

     何気ない一日の、氷晶と太陽の魔法。見上げた空に浮かぶ逆さ虹のした、君なら何をする?


    ■リプレイ

    「へぇ……あれが環天頂アーク、か……!」
    「本当、に……、虹だ……!」
     天頂へと架かる虹を見上げながら、白夜は感激に目を見張れば、小夜はふわりと微笑んで、しばし奇跡の色に魅入る。
    「折角だ、し……用意してきちゃっ、た……の」
     紅茶やサンドイッチ、フルーツ、クッキー。小夜はひそかに用意していたバスケットを手に、空の軌跡を天蓋に、甘い香りの小さなお茶会を。
     いつしか流れるギターの音色は、白夜の指先が奏でたもの。
    「とても、平和……だね」
     ごろんと草むらに寝転がる小夜。草の露に虹が反射している風景と白夜の音色に囲まれながら。
    「そうだな……こういう、何も考えずにのんびりするのも、やっぱりいいもんだな」
     思うまま弦に指を滑らせていた白夜が、ふと小夜へと顔を向けたなら。
     零れる微笑。青く晴れ渡った空を仰ぐように、白夜も隣に転がって。
     虹から響くは、きっとまどろみのファンタジア。

     何気なく見上げた綺麗な青には、七色の輝きが映える夏の雲が膨らんでいて。
    「ほら樹、逆さ虹だよ」
     拓馬の声に、樹は空を仰いで。太陽に両手をかざしたなら、唇に零れる感嘆の声。
    「逆さ虹は普通の虹と違って色が重ならないからはっきりと色が分離してみえるんだって」
     拓馬は美しい色彩のラインを辿りながら片隅にしまってあった知識を披露したのなら、樹は感心を漏らしつつ、
    「私も、環天頂アークは太陽から手のひら2個分上って聞いたことがあるのよ」
     樹は確かめる様に目を細めながら。それを一緒に確かめられた今日は幸運ね、と。
     所詮知識は知識でしかなくて。けれど世界にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだと。拓馬は、二人寄ればもっと広がる世界を実感しながら。
     虹を渡る様に、家へとかえろう。

    「天気も……良いし……お散歩……日和だね」
     煌星が微笑と共に、真実へと視線を映したなら。まるで応える様に結びつく手。そんな真実の顔が真っ赤なのは、恋人のように手を繋げたらいいけど言えない恥かしさからか。
     どんな話をしよう――煌星がそんな事を考えていたら、真実の表情がぱっと煌めいて。
    「わぁ……虹……。ボク、こんな虹、はじめて……見た……」
     同じ方向を見上げたなら、天へと登る虹の端。白雲に輝く七色を見つめる真実はとても可愛くて。
    「……写メっていうやつ……撮りたい、かも……」
     手にしたばかりのスマホの使い方がよくわからなくて、自信のなさそうな様子の真実。一緒に撮ろうかと、煌星が微笑み浮かべながら、角度を合わせて二人でシャッター切れば。
    「うまく……とれたかナ……」
     中には七色の逆さ虹。
     再び歩きだす二人の指先が恋人らしく指をからめられたのは、きっと虹の導き。

     環天頂アークを追い掛けて、河川敷を駆けていた夏己の目に映った、誰かに似ている背中。
    「ヒナちゃん?」
     無意識に零れた名。振り返った彼女は、とても綺麗で。
    「もしかして、夏己?」
     妃奈子も可愛らしい顔立ちと呼び方ですぐに分かった。
     高揚しながら、夏己は妃奈子への元へと。
    「本当久しぶりね。それに昔よりボーイッシュになって」
     体の弱かった覚えのある夏己が元気そうだったから、妃奈子も感激を露わに。
     夏己は思わず苦笑い。過去の回想、あの時の自分は妃奈子の中ではシンデレラ。
    「あのね、ヒナちゃん、実はボク――」
     魔法が解ける時間。逆さまの虹が天頂を指したなら。
     真実に思わず固まる妃奈子。確かにじっと見つめれば、目の前にいるのは男の子。
    「ああ、私が知っていたのは魔法にかけられた夏己だったのね」
    「凄い綺麗な環天頂の下で再会できたのはきっと運命だと思うんだ」
     そして新しい二人の関係の始まる――。

     綺麗な景色した、勇騎と里桜はのんびりごはん。
     里桜の手作り弁当は、大葉と桜エビの混ぜ込みおにぎり、鳥の形に型抜きした人参入りの煮物や和え物など、彩り綺麗、お味はさっぱり。
     普段ハンサムレディな里桜も、感想求めドキドキしながら覗きこむ表情は愛らしい。
    「充分美味いから安心しろって。里桜が俺の為に作ってくれたもんが、まずいわけないだろ」
     美味しくて綻ぶ表情。感謝も添えつつ差しだす手毬寿司風のオムライスは、ソースは使わずご飯の味付けで変化を。
    「どうしよう、食べるのが勿体無い……!」
     型抜きで桜の形に白身を浮き上がらせて目も楽しめる出来栄えに瞳キラキラ。美味しい連呼で食べ進めていたら、ふと同時に見上げる逆さ虹。
     昨年の学園祭、虹モチーフのお菓子を配った思い出蘇り。
    「学園祭、またどこか遊びに行くか?」
    「よ、喜んで……というか、私も同じ事を考えてたから、さ」

     沙汰にお祝いを述べたあと、依子は珍しい景色の知らせに誘われ、ふらりカメラを手に。
     綺麗な色彩を収めながら、思うまま閉じ込めた景色。依子は見せたい人に、また見せれるようにと。
     願掛けというわけではないけれど。心のおきどころを確認するように。弧の先は何処に繋がっているのだろうと視線で辿りながら。
     雨は何時か止むってあの虹に願ったのなら。硝子の様な、あの時と同じ音が聞こえた気がした。

     お使いの帰り道で見上げた空は綺麗な青。雨上がりの道を陽桜が走りだせば、次は川風に靡く青を見つけて。
    「あ、沙汰おにーちゃん!」
     荷物を見て、買い物帰りと尋ねる沙汰へ、陽桜はいつものように、にぱっと笑って。
    「ねぇねぇ、あの虹、すっごく綺麗だね!」
    「ね。逆さ虹って、スピリチュアル的には意外な解決策とか諦めていたことが実現するとか、いい兆しらしいよ」
     わあと声を漏らす陽桜。
    「と、そーだ、沙汰おにーちゃん、今日、誕生日?」
     陽桜が取り出したのはアイスキャンデー。せーので箱の中から取り出せば。陽桜はオレンジ、沙汰はグレープ。突き合わせてカンパイみたいにして。
    「こーゆー日だったら、きっとすっごくおいしく感じると思うんだぁ♪」
     誰かとその瞬間を共有できたら、小さな幸せも美味しさも、何倍にも膨らむから。

     待ち合わせたように、土手に腰掛ける沙汰に錠は倣って。丁度良かったと差し出すのは、ペンダント状にしたサンキャッチャー。
    「ミニチュアのミラーボールみてェで活かしてるだろ? 別名はレインボーメーカー」
     沙汰が空を透かして見たのなら。多面に反射する光は魔法の様。感謝と一緒に身につける沙汰。目の前の奇跡よりは劣るけどなと、照れたような顔の錠。
     しばし駄弁りながら、ふと過る記憶。
    「虹を見る度に、これが俺にとって、『最期の虹』かもしれないと感じてたんだ」
    「つまんないこと言ってんなよ」
     小突くぞ、なんて沙汰は笑いながら。錠も大げさにリアクション返したりして。
     感傷だって生きているからできる。だからこそ、それはいつかの話にしようと。
     鮮やかな奇跡で塗り重ねて、一緒に笑い飛ばそう。

     青空に輝く逆さ虹。数分の奇跡の隣に君がいて。
     明莉は桜色の恋人へと笑顔を零したなら。心桜の面に波紋の様に綻ぶ笑顔。
     いつものように手を繋ごうとして、ふと。
    「そいや心桜も高校生だっけ? ……腕でも組んで歩いてみる?」
     多少なり大人っぽくね、と、照れ隠しに冗談ぽく聞いてみる明莉。
    「わらわ、大人っぽくなったからのう。う、う、腕くむ……」
     照れのあまり口ごもりつつ。手と足が一緒に出ちゃうほど緊張していたのはご愛嬌。
    「虹の端向こうには、亡くなった人や動物達の住む世界があるっていうけど、逆さ虹の端向こうには何があるんだろうな?」
    「虹の向こうはオズの国じゃなかったっけ? あれは竜巻の向こう?」
     虹に纏わる歌を口ずさむ心桜。回した腕の逞しさに沿いながら、いつしか足並みは整ってゆく。
     明莉は歌に耳を傾けて思う。何気ないこういう当たり前の一時を何よりも大切にしたいと。

     初めて聞いた環天頂アークの報に、糸子曰く裄宗をナンパ。
     目映い空に浮かぶ太陽と氷晶の七色の奇跡。虹というものを書物で知った裄宗だけれども。百聞は一見に如かずだとは、よく言ったものだと。
     巡らせていた想像よりずっと綺麗な虹に、言葉を失う程。
     虹が初めてな裄宗の反応は、糸子自身が感じている感動何倍もだろうと脳裏に感じながら。
    「まるで夢の中にいるみたいだね……きれい……」
     不思議な優しさに触れた様な気がして、自然と柔らかく綻ぶ口元。
     ふと、魅入っていた視界に伸びる裄宗の左手。
     糸子が首傾げながら「……もしかして、虹を捕まえたかった?」
     裄宗は自身の無意識に苦笑しながら「空にあるのだから、届きませんよね」
     柔らか笑顔に、穏やかな微笑を。
    「消えちゃうのが名残惜しいね」
    「はい……消えてしまうのは寂しいですけれど」
     優しい空と虹の下を、ゆっくり散策しましょうか。

     河川敷公園に残る水たまりを避けてゆく軽やかなステップと、ゆったりとした足音重なって。
    「恢くんは小さい頃に遊んだりした?」
     ジャングルジムの懐かしい感触に雨の残り香、童心に返るような。莉奈はそんな気持ちを抱きながら1マス登る。
    「訓練ならした覚えがあるかな。てんでダメだったんだけどね、ズルをしないと」
     恢は、今はズルをしているかのような口ぶりで、手も使わずに上辺へと器用に駆け上ってゆく。
     今まで見たことのない虹を、莉奈は様々な角度で見たけれど。何度見ても逆さま。まるで異世界にいるのかと錯覚して。
    「ほら」
     恢が遅れて上ってくる彼女に手を差し伸べたなら。安心したかのように莉奈が顔を綻ばせるから。
     頼りない立体の上を危なげなく歩き、手を引いて。
     ――あそこからなら、虹に手が届くかもしれないよ。
     本物の虹の端を掴むことはできなくても。
     君の温もりはこの手に掴んだままで。

    「虹、か。しかも逆さだ」
     こうして虹を眺める事って、今まで無かったなあと、黒斗は土手でのんびりと空を仰いで。
     沙汰へとメールで祝辞を返信したあと、昴は彼女へと視線を向けて。
    「黒斗、誕生日おめでとう」
     差し出されたプレゼントに黒斗は自分の誕生日を思い出し、そしてその素敵な色合いと細工に、綺麗と言葉零れて。
    「その艶やかな髪に、きっと映えると思う」
     涼しげな翡翠の玉簪を差してあげる。人の苦手な黒斗が、今年はお祭りに行ってみたいと言ってくれた。その気持ちを後押ししてあげたいという昴の想い。
     その思いを余すことなく感じ取った黒斗は、頬に、髪に心地良さを感じながら微笑んで、触れてくる手に自分の手を重ねて。必ず付けてくるからと、指先で約束かわして。
    「お祭り。絶対、一緒に行こうな」
     二人なら、きっと良い思い出になるから。

    「……わ! 見て見テ、あくたん!!」
     小さな手が指差す方角へ、芥汰も仰ぎ見たならば。雨に洗われた水色の空に美しく発色する七色。逆さまの虹がオーロラみたいで。
     芥汰は繋いだ手は離さぬまま。片方の手で器用にシャッター切っていたら、
    「逆様ジャ。宝物、発見不可能、かモ……」
     虹が繋いでいるのは雲の国、羽根が生えていたなら届いたかもしれないけれど。
    「虹の麓には宝物、か。夜深はものしりサンだな?」
     芥汰にそう言われて、夜深はえっへんと胸を張る。
    「……そういえば、その虹の麓の宝物の話。宝物は黄金や幸いとも言われてるらしいんだけど」
    「黄金トか、幸イ? 黄金ヨり、幸イ、良、な」
     芥汰を見上げる夜深。視界に入る、虹の端と彼の顔。
    「既、発見……宝物、近ク、有……」
     ぽっと赤らむ夜深が可愛らしくて、芥汰もつい微笑んじゃう。
     夜深が幸せ探しの約束、小指差しだせば。絡めた指は、まるで虹みたいに二人を繋いだ。

     律とシャルロッテ、久し振りのお出かけ。きらきら雨粒、太陽の光弾いて。澄渡る青、空気が洗われた様に気持ちいい。
    「食べながらふらふらあるきマショウ」
     おにぎり差し出すシャルロッテ。その笑顔に律も双眼細めつつ。
    「あ、ありがと先輩」
     触れ合う指先に、手ぇ繋ぎてぇなぁ……と思いながらもタイミングが掴めなくて。
     楽しげな様子の彼等の後ろの方では。
    「……なんで僕はここにいるんですかねぇ……」
     呼び出されたから、なのだが。まさかデバガメの共犯とは。龍之介は空を仰いだ。
    「しっ!」
     ゆまが小声でしかりつけると、何処かの姉よろしく物影から覗きこんで。あんな可愛い人よく見つけたなと感動しているものだから。
    「まあ見てて悪い感じではないですね、二人とも」
    「でも、余計にうかうかしてたら誰かに盗られちゃうかも!」
     あまり外野が言うのも野暮な気がしますけど。なんて龍之介が言おうと思ったら、しっかりしなきゃ駄目だよぅなんて具合に力み気味でゆまの声が大!
     振り返られ咄嗟身を隠すも、時すでに遅し。
     龍之介を電柱がわりに隠れる義妹を発見して、律は唖然。相羽君、助けてくんないかなーなんてチラチラ目で訴え。
     挙動不審になった律を見て、疑問符浮かべるシャルロッテ。ふと空を見上げれば、不思議な虹が。
    「ワァ……キレイなのデス……」
     逆さ虹に気付いた龍之介も、刹那の感嘆漏らしたあと機転利かせ。
    「ほら水瀬さん、上、上」
    「ほえ? 凄い! 虹が逆さになってる! ――ってりっちゃん達がいない!」
     つい魅入って、まんまと逃がしたゆまの図。
    「ま、しょうがないしここまでですねぇ」
     くすりと苦笑の龍之介。むーと唸る不満げのゆまだけど、仕方ないと割り切ってカフェのお誘い。
     そして――。
     ダッシュでかっさらわれて、まったく意味不明のシャルロッテだったけれど。
    「ホラ、虹が架かってマスヨ」
     一緒に見れてよかったデスと笑うシャルロッテ。自然と手を繋ぐにはいい雰囲気の中、律には珍しい虹よりも彼女が輝いて見えたから。
     結局、君に見惚れてた。

     治胡は天頂を見上げ、二年前に見た景色と今を重ねる。
     我武者羅に走り抜けたあの時に比べると今は落ち着いてる気がして――それはきっと、イイことだ、違いないと、音のない呟き一つ。
    「縁ってのは面白いモンだねェ……」
     すれ違いも含め色々あったなと感慨深く呟いたら、隣歩く七も記憶を辿る様に、そうね、と。
    「俺はらしくもなく結構な泣き言言ってたような気がする」
    「……泣き言、ね」
     七は空の涙の跡を辿りながら呟いた。言葉に含めた気持は、言いようもない重みと、けれど時を重ねて残った純粋な何かと。
     想うものが一緒で、とても大きかったから。だからこそ腹を割って話せた。
     後悔はしてない。それが二人の今の気持ち。共有する約束と、秘密。
     沙汰へとお祝いの言葉をかけたなら。沙汰は二人で出掛けているところを初めて見たよなんて言いながら礼を返して。
    「前もここで会ったよね」
    「ふっふー、写真ちゃんととってあるのよ」
     七の手には、その時の写真とカメラ。
     前の時みたく七も怪我してねーから被写体兼カメラマンでも大丈夫だろうと、治胡はにっと、沙汰は楽しげに笑って。
    「あ、ケガ……あは! よく覚えてるわね」
     虹に翳した手の平三つ。あの奇跡の欠片を受け止めるかの様に。

     今はお行儀なんてものは横置いて。千波耶は全身で緑の波の上漂いながら、ももいちごアイスを一つ齧る。
     虹の空を見上げていたら、頭の中は同じ様に澄渡っているかのよう。小難しかったり暗かったりすること、考えられない気がした。
     葉も、お行儀以前に無防備とも言える千波耶の隣で寝転がりアイスを齧る。
     逆さ虹を見ていたら、ふと二年前のことを思い出した。
     沖縄では虹が二色に見えると聞いたから、あっちでも見たかったなぁと思い出の中の空に想像巡らせていたら。かしゃり――スマホで虹を撮る千波耶。
    「少しは上手く撮れるようになったか?」
     葉が聞いたなら、千波耶はアイス咥えたまま、俯せ両肘立たせた格好で短くメールを。
    『ハローハロー そちらのアイスは美味しいですか?』
     返事はフリックで簡潔に。
    『まあまあ』
     つーか返答になってねぇし。なんて、葉がちらと視線向けたなら。くすり笑う千波耶から届いたのは、手に収まる程の七色。

     鈴が取り出しましたるは水風船。手に入れたなら、投げたくなるのが人の性。
     分からんでもないと千慶。そして始まる川辺のバトル。
    「まだちょっと冷たいな」
     水温に慣れさせるようにゆっくりと足を入れる千慶。鈴も足場具合を確かめながら、
    「若干苔でヌルってする、あぶねーこれ転びそォイ!!」
     押し出すような問答無用の投擲。後頭部に弾ける水!
    「つめったっ! このやろお返ししたる!」
    「ばかめ油断し……何その美しい投球フォーム」
     危い足場を思わせない流麗な投擲。千慶、女相手であろうとも容赦ない。しかし鈴も負けてませんよ。
    「死なばもろとも!!」
    「うわちょっと待って引――!」
     ヤベェ河に消えた……なんて感じで、沙汰が走ったら。
    「せんけー見て仙景のほうのせんけーいたよ」
    「お、ホントだ。苗字がせんけいのほうだ」
     仲良くずぶ濡れのままニヤリ。濡れたくなかったらちゃんと避けろよな、なんて千慶言ってますが、仙景一般人♪
     こうしてバトルは三つ巴になった。
    「いやー、ESPって超便利」
    「完全に魔法じゃない、これ」
     服もすっかり乾いて千慶ニカッ。沙汰も初ESP体験に感動!
     そして皆で鈴の手作り弁当食べながら、空を見たら。
    「見てみて。虹が笑ってるみたいになってるよ」
    「言われて見りゃぁ、確かに笑ってるっぽいな」
     鈴の指差す方向、千慶も見たなら。
     空からのスマイル。
     今日という日が、君にとって素敵な日でありますようにと。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月6日
    難度:簡単
    参加:33人
    結果:成功!
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