●北海道某所
とても愛想のいい熊が飼育されていた牧場があった。
この牧場の熊は檻の中で飼われていたのだが、餌を欲しがる時のポーズが愛らしく、『ひょっとして、中の人がいるんじゃねーか?』と言う噂が流れ、都市伝説が生まれたようである。
「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
今回の語り手は、神崎・ヤマト。
今日も髪型が決まっている。
今回倒す相手は、熊の姿をした都市伝説。
一見すると、本物の熊と見分けがつかないが、こいつの背中にはチャックがある。
その上、そこからチラリと何かが見えていたりするようだ。
もちろん、中の人などいない……、居ないはずなのだが、物凄く気になる所までチャックが下がっているのがポイントだ。
ただし、ここでチャックを下げようとすれば、すぐさまパンチが飛ぶ。
しかも熊並み。熊パンチ!
パワーだけは熊並みだから要注意。
それと、まわりの熊が『俺のオンナに何すんねん!』的な勢いで襲い掛かってくるから要注意。
どちらにしても、見物客がいない夜、特に深夜でなければ、面倒な事になるだろう。
とにかく、本物の熊を必要以上に刺激しないで、都市伝説を倒してくれ。
参加者 | |
---|---|
城山・壁也(守護者気取りの道化・d00187) |
沢渡・乃愛(求愛のギルティ・d00495) |
青水無・雲雀(姫告天子・d00708) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
レシィ・オルガー(影踏み・d02502) |
御門・良也(高校生シャドウハンター・d02800) |
片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647) |
羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166) |
●クマ牧場
「さーて、今回はニセ熊退治か! いっちょやったるか!」
自分自身に気合を入れ、片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647)がクマ牧場に向かう。
到着したのは、真夜中。
辺りに人気は全くない。
一応、警備の者がいるようだが、誰も来ないと高を括っているのか、それらしき影も見当たらなかった。
ただし、檻の中には熊がいる。
さすがに、ここで騒がれても困るため、クマ用のビスケットを持ってきた。
これさえあれば、クマを大人しくさせる事が出来る……はずだ。
「こ、怖くないわよ。怖くないんだから!」
必要以上に警戒した様子で、沢渡・乃愛(求愛のギルティ・d00495)が牧場内を歩いていく。
本当は暗いのが苦手なのだが、それを悟られないように強がっている様子。
だが、何か物音がするたび、誰かに抱きつきそうなほど怯えているため、まわりが心配してしまうほど、ピリピリとしたムードが漂っていた。
「それにしても、チャックって……。それ、着ぐる……まあツッコんだら、終わりな気がするな」
熊を刺激しないようにして光源を絞り、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)が檻に近づいていく。
背中にチャックがある時点で、クマでない事は間違いないようだが、相手が都市伝説である以上、あえて触れるべきではないだろう。
「そういえば小さいころ、遊園地に行って着ぐるみを見るたび、背中のチャックを下げて、中の人を暴こうとしてたっけ。……懐かしいな」
しみじみとした表情を浮かべ、御門・良也(高校生シャドウハンター・d02800)が昔を懐かしむ。
おそらく、あのまま中の人の正体を暴いていたら、辺りは地獄絵図と化していた事だろう。
……中の人などいない。
それが暗黙のお約束であり、触れてはいけない話題なのだから……。
「中の人がいるかも? ……そんな夢のないこと嫌……! ……こんなに近くで熊さんを見たの初めてで、ちょっと嬉しい……」
ようやくクマのいる檻に辿り着き、レシィ・オルガー(影踏み・d02502)がほんわかとする。
その途端、クマ達が時間外の来訪者達に驚きつつも、頂戴のポーズをとってアピールした。
「なんというか……、ニセ熊を殴る方が、ストレス発散できたわね……」
複雑な気持ちになりながら、青水無・雲雀(姫告天子・d00708)が拳を震わせる。
思わず、抱きしめたい衝動に駆られるが、相手はクマ。
こちらが油断したところで、必殺の右ストレートをお見舞いしてくるかも知れない。
それだけ、クマは危険極まりない存在。
「そもそもクマ君達が人間にも劣らない仕草でご飯を求めるのは、この箱庭のような小さな世界の中で生き抜くための処世術……! それを『中に人が入ってるんじゃね? かっこわらい』のような感覚で面白がるなんてナンセンス! 何よりそれが都市伝説として実体化して疑惑が広がるなんて事あってはならない!!」
クマについて熱く語りながら、羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)が檻の中に餌を撒いていく。
この餌は昼間のうちに大量購入しておいたクマ用のごはん。
そのせいか、クマ達にも評判よく、背中にチャックについたクマが、他のクマを蹴散らして餌に食らいついている。
「……ん? チャック!?」
ハッとした表情を浮かべ、城山・壁也(守護者気取りの道化・d00187)が背中にチャックのついたクマを睨む。
明らかに動揺した素振りで視線を逸らすクマ。
……間違いない。
都市伝説である。
●クマ
「なるべく本物のクマさんを遠ざけないと……!」
まわりにいるクマ達を退けない限り、都市伝説と戦う事が出来ないため、レシィが餌をやりつつ遠ざけようとする。
しかし、都市伝説までドサクサに紛れて餌に飛び掛かっていくため、なかなか引き離す事が出来なかった。
「こうやって見ると、本物と見分けがつきにくいわね。背中についているチェック以外は……」
何処から突っ込んでいいのか分からなくなりつつ、雲雀が呆れた様子で頭を抱える。
その間も都市伝説は『僕はクマだよ』的なアピールをしているため、正直言って鬱陶しい。
このまま、怒りに身を任せてドツキ倒してしまおうかと思ったが、そんな事をすれば間違いなくまわりのクマがブチ切れてしまうだろう。
しかも、都市伝説が円らな瞳で、こちらを見ている。
思わず『こっちを見るな!』と叫びたくなる衝動に駆られたが、それよりも今は他のクマから引き離す事を優先せねばならない。
「もしもクマ君達に危害を加えようとしたら、例え味方であっても怒るからね」
警告混じりに呟きながら、子羊が雲雀達に視線を送る。
だが、この状況では最悪クマを巻き込んでしまうかも知れない。
「悪いけど……、保証は出来ないわ」
もう少し作戦を練っておけばよかったと後悔しつつ、雲雀がグッと悔しそうに唇を噛み締める。
このままでは、確実にクマ達を巻き込んでしまう。
それでも、戦わなければならなかった。
●ニセ熊
「さぁ、ニセモンはこっちへ来やがれ。相手してやんぜ」
わざと都市伝説を挑発しながら、治胡が後ろに下がっていく。
都市伝説はつぶらな瞳をきゅるりんとさせ、不思議そうに首を傾げていたが、その瞳はケモノのソレ。
「……油断するな。熊の腕力は凄い」
少しずつ間合いを取りながら、秀一が仲間達に対して警告する。
次の瞬間、都市伝説が走り出した。
物凄いスピードで、その見た目を裏切るほどの身のこなしで!
「クッ……、着ぐるみとは言え、さすがクマ。いや、都市伝説と言うべきか」
真正面から都市伝説の攻撃を受け止め、壁也がワイドガーターを使う。
その途端、まわりにいたクマが『やっちまえ!』と言わんばかりに騒ぎ立てる。
「とにかく、この状況を打破しないと……」
一定の距離を取りつつ、乃愛が制約の弾丸を撃ち込んだ。
それと同時に都市伝説の動きが鈍くなったが、まわりにいたクマが『ウチのモンに何しやがるんじゃ!』と叫びそうな勢いで、乃愛達のまわりを囲む。
すぐさまナノナノのイーラが乃愛を守るようにして陣取り、威嚇するようにしてしゃぼん玉を飛ばす。
「時間がありません。急ぎましょう。俺達がクマの餌になる前に……!」
襲い掛かってきたクマめがけて、良也が勢いよく導眠符を投げつけた。
その一撃を喰らってクマが深い眠りにつき、そのまま倒れ込むようにして崩れ落ちる。
これには、まわりにいたクマも驚き、警戒した様子で唸り声を響かせた。
「てめぇの拳はそんなモンか? 俺が手本を見せてやんよ。オラオラオラァ!」
都市伝説を挑発しながら、治胡が抗雷撃で雷を纏う。
さすがに、都市伝説もこの状況では……、引き下がれない。
「向かってくるか。ならば、こちらも手加減はしない!」
都市伝説を迎えうち、壁也がシールドバッシュを仕掛ける。
それに合わせて、秀一が黒死斬を放ち、都市伝説を追い詰めていく。
その間もクマ達は動けない。
圧倒的な力の差を前にして、完全に戦意を喪失させていた。
少なくとも、今だけは……。
「……仕上げだ。地獄に墜ちやがれッ!」
都市伝説の背後から迫り、治胡が戦艦斬りを叩き込む。
次の瞬間、都市伝説の体が両断され、断末魔をあげて跡形もなく消滅した。
「こうして北国の平和は今日も守られた! まる!」
都市伝説が消滅した事を確認し、子羊がビシィッと格好よくポーズを決める。
……悪は滅びた。
完全に、二度と復活できないほどに……。
「結局、中の人がいるのか分かりませんでしたね」
苦笑いを浮かべながら、良也が都市伝説のいた場所を眺める。
結局、中の人などいなかったのかも知れない。
ただ、背中にチャックがついた風変わりなクマがいただけで……。
「さすがに熊さんを触るのは、無理そうだね」
仲間達を失って殺気立つクマ達を眺め、レシィがしょんぼりと肩を落とす。
だが、これでクマ達の……牧場の平和が守られたのだから、喜ぶべきなのかも知れない。
「熊達にとっては、家族のような存在だったのかもね。それがどんなに危険な存在なのかも知らなかったようだし……」
悲しげな表情を浮かべ、乃愛が檻から外に出る。
……熊達は追ってこない。
例え、戦っても勝ち目がない事を理解しているせいだろう。
「……行こう。少し騒ぎ過ぎた。流石に警備の連中も目を覚ましたようだしな」
警備室の方から誰かが駆け寄ってきたため、秀一が闇に紛れるようにして森の中に入っていく。
その手には、ビスケット。
結局、あげ忘れてしまった。
しかし、機会があれば……。
もう一度、この場所に行くのも悪くないと思った。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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