お土産にしょうゆ餅を貰ったのですか?

    作者:聖山葵

    「お土産にしょうゆ餅を貰ったのですか?」
    「ん? まーな」
     問われた少年はそう答えると手にしていたそれを少女へ向けて突き出した。
    「やるよ、お裾分け」
    「えっ」
    「好きなんだろ、これ?」
     驚く少女へ少年は笑みを浮かべる。
    「光くん……うん。ありが」
     そして少女は一つ頷くと感謝の言葉を口にしながら受け取ろうとし。
    「させませんわっ」
     掴みかけたしょうゆ餅は、声と共に割り込んできた手にかっさらわれる。
    「な」
    「私の目を盗んで光様から物を貰おうだなんて、まったく、油断も隙もありませんわね、この泥棒猫! さて」
     突然の乱入者は、事態に理解が追いつかない少女を罵ると、躊躇いもなく包装のビニールを破いた。
    「この香り、しょうゆ餅と言うだけのことはありますわ」
    「ちょ、何を」
     我に返った少女が声を上げるも、全ては遅すぎた。
    「はむっ、想像以上に柔らかいですわね」
    「あ、あぁ……」
     ネジネジとツイストした茶色のお餅は三分の一近くが乱入者の口に消え。
    「おーっほっほっほっほっほ、モブが調子に乗って光様と仲良くしようとするからですわ」
    「っ」
     勝ち誇る乱入者を前にして、少女の中の何かが壊れた。
    「っぐ、上等だぁ、その喧嘩倍額で買ってもっちゃぁぁぁぁっ!」
     異形化しつつ吠えた少女は、もうこの時、拳を握りしめ廊下の床を蹴って飛び出していた。


    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしている。今回はしょうゆ餅だな」
     君達の前に現れた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)はただ問題の一般人の少女は人の意識を残したまま一時的に踏みとどまるようだとも告げた。
    「よって、君達には、この少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
     もし完全なダークネスになってしまうようなら、その前に灼滅をとはるひは言う。
    「それで、問題の少女だが、高校一年の女子生徒だな。名は、醤野・ともえ(しょうの・ともえ)」
     クラスメイトの少年からお土産のお裾分けに預かろうとしていたところで乱入してきた少年に懸想する別の少女へお裾分けのしょうゆ餅を奪われ、目の前で食べられたことで、髪が半ばから戦端にかけてしょうゆ餅になったご当地怪人しょうゆモッチアへと変貌するのだとか。
    「髪以外の部分に変化がないのについては人の意識を残しているからかは定かでないがね」
     闇もちぃ、が起こるのは、少年がともえを呼び止めた放課後の渡り廊下。
    「人気がないタイミングを狙って渡そうとしたようなので、乱入者と少年を除けば近くに一般人は居ない。まぁ、部室や職員室辺りまで行けば教員や学生もいるかもしれないがね」
     バベルの鎖に引っかからずに接触出来るタイミング、つまり闇もちぃ直後に接触した場合、三十分であれば追加で学生や教員がやって来ることはないとはるひは言う。
    「闇堕ち一般人と接触し、人の心に呼びかけることで弱体化させることが出来ることはもう知っていると思うが」
     説得して弱体化させることが出来れば、時間内に事態を収拾することは十分可能らしい。
    「とりあえず、説得用に『しょうゆ餅』を渡しておこう。これを差し出せば、乱入した少女から注意をそらし、話を聞く姿勢にすることぐらいは出来るはずだ」
     逆に言えばしょうゆ餅に出来るのは、説得と居合わせた一般人保護の補助ぐらいにしかならないと言うことでもある。
    「戦闘は避けられない」
     闇もちぃ一般人を救出するには戦ってKOする必要があるのだ。
    「そして、居合わせた二人も戦闘に巻き込まれないようにお引き取り頂く必要がある」
     乱入者の方は謝らせることが出来れば説得が容易になるかも知れないが、性格と少年に懸想していると言う事情からESPでも使わない限り謝らせるのは難しい。
    「どちらかと言えば少年に乱入者を叱らせる方が簡単だろうな」
     理不尽にしょうゆ餅を奪われたこと+αが闇堕ちの原因なら説得の補助として効果的なのは言うまでもない。
    「そして説得の成否に関係なく戦闘になれば、しょうゆモッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくると思われる」
     もちろん、説得に成功していれば、攻撃の威力も減退してるとは思われるが。
    「私からはそれぐらいだな。助けられるものならば救いたいと思うのでね」
     少女のことを宜しく頼むとはるひは君達へ頭を下げるのだった。
     


    参加者
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)
    篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)
    フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)
    オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)
    渦紋・ザジ(大学生殺人鬼・d22310)
    比婆・麻菜(中華とお餅が巡り合う奇跡・d33097)
    新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)

    ■リプレイ

    ●介入
    「なんと言いますか……微妙な三角関係という感じですね~。いいですねえ~」
    「Sure」
     校門をくぐりつつポツリと漏らし青春ですねと続ける雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)へフレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)は頷いて見せた。
    (「多分、その乱入ガールも必死なのデショー」)
     甘いもしょっぱいも青春デスけどとしながらも、マーダーはノーセンキューとフレナは思いつつ口を開き。
    「とってもディフィカルトな問題デース。でも、ダークネスに邪魔されるのは問題外デース!」
    「状況だけ見れば、甘酸っぱい青春の一ページなのですが……怪人が関与してしまうのが問題ですね」
     夕日に染められる新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)の黒い影は、当人より先に学校の敷地へと侵入を果たす。
    「まぁ、今回はそういう訳ですから横槍入れちゃいますよ。色恋沙汰が血深泥になっては困りますしねぇ~」
     しっかり介入宣言をし、菖蒲が視線を向ける先は、事件の現場となると言われた渡り廊下。
    「好物のお餅の横取りでうっかり闇堕ちとは。彼女も数居るモッチアさんの例に漏れず、ですね」
    「お餅は美味しいから仕方ないヨ」
     隣でオリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)がため息を漏らした時、視線をそらさず弁護できたのは、比婆・麻菜(中華とお餅が巡り合う奇跡・d33097)がまだ小学生であるからか。
    「美味しいから、ですか。……しょうゆ餅って食べたことないかもしれませんね。みたらし団子っぽいなら甘いのでしょうか?」
     仲間の言葉を反芻した篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)ははるひから渡された現物に視線をやると首を傾げ。
    「……しょうゆ餅ですか。地域もいろいろですし、これでご当地というのは結構難しいところですね」
     一方で、柚葉もまた同じモノを見やって、別のコメントを口にする。
    「気になるなら帰りに探して買っていけば良いと思うぜ? もしくは、ソレを手に入れてきたはるひに聞くとかかね」
     マイペースに答えた渦紋・ザジ(大学生殺人鬼・d22310)の言は誘魚に向けてのものか。
    「まぁ、それはそれとして、馬に蹴られるのって嫌なんですが……やり過ぎちゃう性質が発揮される前に、押さえにいきますか~」
    「そうですね。まずは修羅場ともいえるお三方の現場に向いましょう」
     一時お餅の方に向けていた意識を幾人かは、夕焼けに染まる渡り廊下へと戻し、再び歩き出し。
    「させませんわっ」
    「今のは」
    「おそらく……乱入馬鹿女、じゃろうな」
     口元を扇で隠しつつ呟いたのは、神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)。
    「おーっほっほっほっほっほ、モブが調子に乗って光様と仲良くしようとするからですわ」
    「っ」
     実際、あと一歩のところまでくれば、一同の視界に勝ち誇る乱入者を含め三人の人間が見て取れた。約一名、人を辞めかけていたけれど。
    「っぐ、上等だぁ、その喧」
    「これ、落ち着くのじゃ」
    「しょうゆ餅ならここにもあるアルよ?」
     その人を辞めかけた少女が、飛び出す直前だった、美沙が声をかけ麻菜がしょうゆ餅を差し出したのは。
    「なっ」
    「ほら、遠慮は要らないネ」
     襲い掛かる寸前だったしょうゆモッチアの足は止まり、立ち尽くしたご当地怪人の手に麻菜はしょうゆ餅を持たせ。
    「こいつは……」
     手の中のしょうゆ餅をしょうゆモッチアが見つめポツリと漏らした時。
    「Hey,ボーイ! あまりのサプライズでオッタマゲかもデスけど、このままじゃトモエは怪物になっちゃいマース!」
     ご当地怪人の抑えに回った面々以外も動き出していた。

    ●説得のための説得
    「怪物?」
     フレナが声をかけたからか、居合わせた少年の方が我に返り聞き返してくるまでそれほど時間はかからなかった。
    「しょうゆ餅を横取りされた怒りで怪人化してしまうんです、見ての通りですが」
    「そこの乱入ガールのやりすぎアタックが原因デース……。お願い、トモエを助けるの手伝ってくだサーイ!」
    「助ける……か」
     勢いで説明してしまおうとする柚葉と補足説明しつつ要請するフレナの双方を少年は見て、この時決めたのだろう。
    「何が起きたのか理解できないでしょうけれど、ともえは私たちが救います。だから、あなたは原因をなんとかしてください」
    「俺は、どうすればいい?」
     誘魚の言葉へ即座に応じて見せたのは、先に口を開いた灼滅者達へでもあったから。
    「簡単に言うと、そいつを叱ってくれってことだ。やっぱ、人のもん横取りすんのは良くないと思うぜ。乱入女の言い分もあるだろうが悪い事は悪い事だからな」
    「ええ。彼女の横暴が引き金です。だから彼女を叱って。それを正して」
    「乱入ガールのやったこと、ワルいことデスよね? ワルいことワルい、ちゃんと教えてあげてくだサーイ!」
     乱入者の少女を示しつつザジが言えば、他の面々も続き。
    「ちょ、ちょっとどういうことですの、さっきから聞いていれば!」
    「あら? 事実ではないのですか?」
     視線やら周りの言葉から自分が非難され始めたと理解したか、灼滅者達へ噛みつこうとした原因の前にオリシアは進み出る。
    「な」
    「そも、他者を『モブ』呼ばわりする割には品がありませんよね」
    「し、失礼ですわよ! これでも皆にはお嬢様と」
    「本当にお嬢様だったのですか? ……申し分ありません、先程から所作事があまりにお見苦しいので何処の『雑種』かと」
     ESPの割り込みヴォイスを駆使し、反論を最後まで口にさせず被せてゆく様は何というか、一方的であった。
    「きゃんきゃん吠えるばかりで社会のマナーを全く知らないと見えます。人を育てず獣を育てるとは、是非とも親の顔が見てみたいですね!」
    「うぐっ、う……うぅ」
    「……俺が叱る必要あるのか、これ?」
     完全に言い負かされ、涙目になっている元凶とオリシアを交互に見て少年が呟いたのもある意味無理はなかったと思う。
    「いや、なんつーかこっちが手を出す前にやられてるように見えっけど、なんか違う気がするもちぃ」
     つい先ほどまで美沙や菖蒲達に宥められたり諭されたりしていたご当地怪人までもがしょうゆ餅片手に半ば呆然としつつ立ち尽くし、乱入少女バッシングを見ていたのだから。ただし、灼滅者側にも都合はある。
    「まぁ、それはそれ。さっきも言ったが悪いことは悪いことだ。男らしくバシッと注意してやってくれ」
     悩める少年へマイペースにザジは言い。
    「お願いします。部外者の私達があっちの人に諭してもなかなか聞かないでしょうから。それに――」
     柚葉は仲間の言葉を補足しつつ、説明する怪人となった少女を元に戻すには戦って倒す必要があることを。
    「っ」
    「できるのはあなたしかいないし、時間もありません。早く逃げないと」
    「解かった」
     ここが戦場になると聞き顔色を変える少年へ誘魚もまた主張すれば、少年は頷きを返した。

    ●説得と戦いと
    「取られまいとする焦りが極端な行動を呼んだのやも知れぬがの。人として許されざる行為には相応の報いがあったというところやもな」
     結局少年にも叱られて泣きながら走り去ってゆく乱入者の背を見て、美沙は呟く。
    「オリシアに色々持ってかれた気もしますけどノープロブレムデース」
    「まあ……そうじゃな」
     灼滅者達が今すべきは、元少女を救うことだったから。
    「よいか、よく考えるのじゃ。此度の事、どう考えてもあの馬鹿女が悪かろう」
     振り返り、美沙は言った。
    「じゃが、だからこそ怒りに飲まれるでない」
     と。
    「それに飲まれれば人をやめねばならぬ」
     とも。
    「人、を……もちぃ?」
    「今回は確かに彼女がやったことは些か目眩がおきそうでしたが……それを、力で解決するのは絶対にダメですよーそれはしちゃいけない手段ですよ?」
     半ば無意識にご当地怪人の口から洩れた言葉には答えず、菖蒲は仲間に続く形で元少女へ声をかける。
    「あの女のした事はよくないアルけど、ケンカは人のままでするアル。それに、その力はケンカじゃすまないアルよ?」
    「そ、それはそうもちぃが」
     便乗する麻菜の指摘に強く反論できなかったのは、元凶の少女がオリシアと少年にこっぴどくやられたのを見ていたこともあるのだろう。
    「ところで姉ちゃも彼の事好きアル?」
    「な」
     追加の問いに絶句したのは別の理由からだろうが。
    「彼に貰った物取られたからキレたアルか?」
    「い、いったい何のことを言ってるか解かんねぇもちぃな」
     追い打ちに声が震えている時点で語るに落ちている気もするが、問題はそこにない。
    「そろそろ、始めましょうか」
    「……そうですね」
     説得とは全く関係ない質問へご当地怪人の気がそれている間に、誘魚と柚葉は視線を交わし、それは始まる。
    「戦闘の音は遮断済みですから安心してくださいね。では……大いなる魔力よ、今ここに集え!」
     オレンジ色を黒く切り取る影の一部が触手に変わって元少女へと襲い掛かる。
    「うおっ、一体何するもちぃ」
     とっさに横っ飛びした元少女が反射的に叫んだ直後。
    「そのねじれた気持ちを叩き直してあげるわ」
     ご当地怪人の視界に飛び込んできたのは、手に持った妖の槍にひねりを加えつつ突きかかってくる誘魚の姿だった。
    「く、歌ご」
    「こんなカタチで終わったらモッタイナイデース! 戻ってきて、ちゃんと青春しマショー!」
     対処しようと身構えなおす間もない。美沙の歌声を知覚した時には呼びかけと同時に死角へ回り込んだフレナがウィングキャットのコンゴーと共に襲い掛かってもいたのだから。
    「もちぃ、これぐらい――」
     実力を十全に発揮できれば、しょうゆモッチアにとって大したことではなかったのかもしれない。ただ、迫る連携攻撃に、弱体化したご当地怪人の顔は険しく。
    「もちゃっ、もぢゃあっ」
    「あなたもあなたです。『道端の小石』に躓いたくらいで闇堕ちするな」
    「もべばっ」
     仲間たちの連携攻撃に加わる形で、オリシアは影を宿し悲鳴を上げたしょうゆモッチアを殴り飛ばす。
    「うぐっ、よくもやったもちぃな」
    「さぁ~お姉さんが憂さ晴らしに付き合ってあげましょう~掛かってきなさい♪」
     そこから呻きつつ身を起こせば、現地で吸収したご当地の力を開放する機会がやってきたとばかりに、菖蒲が構え手招きし。
    「もっちゃぁぁぁっ」
    「やあっ」
     ひねりを加えて突きを繰り出す菖蒲と元少女がすれ違う。
    「あ……う」
    「はっ、うぐ」
     堕ちかけで弱体してはいてもそこはダークネスか。一撃を貰いつつもきっちりと一撃を返し。
    「しっかし、自分から突っ込んできてくれるとはね」
    「もちぃ?! こ、これは」
     体へ絡みついた鋼糸を辿り、ザジを見つけて元少女は驚愕する。
    「驚くのはまだ早いネ」
    「何っ」
     そんなしょうゆモッチアが元モッチアだった少女の声に振り返ったとき、先端を刃に変えた一つの影が動いた。
    「アイヤー、見えたアルか?」
     前後してミニスカチャイナの裾がめくれ太ももがあらわになるが、それで済ませてしまえる辺りは小学生か。
    「にゃあっ」
     嘆息して見せつつも、ウイングキャット のユエが主の便乗して繰り出した前足の肉球が元少女を捉える直前。
    「もちゃああっ」
     影の刃はしょうゆモッチアの服を切り裂いた。
    「あ、きゃぁぁぁぁっ」
     結果として下着が露出してしまったことに気付き、もう一度悲鳴を上げたのは仕方ないことだと思う。
    「どうした、闇に連なる者よ。攻撃が鈍っておるぞ? たかが人間ごときに抗われて口惜しいか」
    「ぐっ、言いたい放題言いやがって、押さえてなきゃ見えちゃうだろうがもちぃよ!」
     続く戦いの中、服を片手で押さえたまま美沙に反論したことも。
    「生憎じゃが人というものは弱くない!」
    「いや、弱い弱くない以前に恥じらいは持つべきももちぃ?」
    「……モッチアで恥じらいに言及したご当地怪人初めてアル」
     更に美沙へツッコミを入れるしょうゆモッチアを見て元モッチアがポツリと漏らせば、そう言えばそうですねとオリシアが同意する。
    「と言うか、体を隠そうとしたところにデジャヴが」
    「モッチアの宿命アルな」
     答える元モッチアが遠い目をする中。
    「さぁ、そろそろトドメですヨ?」
    「ぐ、こんな展開……」
     元少女は追いつめられつつあり。
    「フォローは任せときな、お二人さん」
    「サンクス。では、ユズハ行くデース!」
    「わかりました。大いなる魔力よ」
    「納得いかないもちぃぃぃ」
     絶叫と共に一矢報いようと跳び蹴りを放つ元少女を迎え撃つのは、フレナとザジ、そして柚葉。
    「もっちゃああっ」
    「させまセーン、絶対守るデース!」
    「おらぁっ」
     迫る蹴りから仲間を庇うべくが進み出れば、ザジの繰り出す高速回転させた杭がキックの軌道を変え。
    「……今ここに集え!」
    「もぢゃばっ」
     契約の指輪から放たれた魔法弾が、明後日の方向に飛んでゆくご当地怪人を撃墜する。
    「べぶっ、ひ、ひどい……もち」
     愉快な姿勢で地面との抱擁を強制されたしょうゆモッチアは起き上がることなく突っ伏すと元の姿へ戻り始めたのだった。

    ●夕暮れと教室
    「大丈夫アルか?」
     夕日の差し込む教室で、麻菜は意識を取り戻した少女の顔を覗き込みつつ問うた。
    「……ここは?」
    「一年生の教室です。その格好で周りから丸見えの渡り廊下は問題がありましたし」
     ここは近かったのでと運び込んだ理由も告げた菖蒲は、そのまま説明を始める。ここまでの経緯や、自分達の事情についてなど。
    「闇もちぃ、ですか」
    「ま、ひとまずは大丈夫だけどな」
     灼滅者は闇堕ちの危機に晒された不安定な存在、そのことも含めて説明されたからこそ少女は背を向けたザジの言うひとまずの意味も理解し。
    「ありがとう……ございます」
    「ともあれこれで一安心アルな。なら仲直りに一緒にしょうゆ餅食べるヨ」
     一同へ頭を下げれば、笑顔を浮かべた麻菜は残っていたしょうゆ餅を少女へと差し出す。
    「えっ」
    「ワタシも助けて貰ったアル。その時お餅も貰ったネ。ほら……あ」
     良いんですかと問うような視線へは頷きで応じるとしょうゆ餅を握らせるべく一歩前に出て、机の脚に躓いた。
    「アイヤァァァ」
    「きゃぁぁぁっ」
     折り重なる元モッチア二人。片や切り裂かれた部分がずれて下着が露出し、スリットからこぼれた何かがほぼ丸見えになる中。
    「だ、大丈夫ですか?」
     寄り道することを考えていた誘魚は机やイスが倒れる音に振り返ると、慌てて二人に歩み寄る。
    「ううっ、高校には危険がいっぱいヨ」
     そんな光景を見て、カードに封印されていなかったユエが嘆息したとかしないとか。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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