ビーフティーチャー・米沢びーふ怪人!

    作者:相原あきと

     都内某所の洋食屋の扉が内側から勢い良く開け放たれ、そこから逃げるように飛び出していくのは、その店の店長や従業員たち。
     そして、誰もいなくなった店内で1人、スーツを着た牛頭の怪人が「嘆かわしい」とカウンターに両手を付く。
    「まったく、米沢びーふの歴史すら知らず、ただブランド牛だからと客に提供していたとは……」
     そう、先ほどの店主たちは、牛頭の怪人が出した質問に答えられなかった結果、怒りだした怪人に慌てて逃げ出したのだった。
     本当は追いかけてその命で解らせてやっても良かったが、その歴史を知らなかったショックの方が大きく追いかけるのを辞めた怪人は、ふとイスにかけてあった店のエプロンを着て調理場に入る。
    「こうなったら仕方が無い……この私が直々に、店に来る客達に米沢びーふの歴史を教えるしかあるまい」
     そしてなんだかんだあって米沢びーふにより世界を支配しようと考える。
    「もし知っている者がいたらどうするか……?」
     少しの間思案し、やがて牛頭の怪人はポンと手を叩く。
    「ふむ、ご褒美に米沢びーふの料理を振る舞うか。そして肉の味に感動した客は、それはそれで肉の噂を広めるだろう……ふふふ、どちらに転んでも世界征服の第一歩となる。悪くない作戦ではないか」
     そして、牛頭の怪人――米沢びーふ怪人は、ご褒美用の肉の調達の準備を始めるのだった。

    「ブランド牛肉の怪人が出たの! みんな、山形県の有名ブランド牛肉は知ってるかしら?」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が米沢のビーフよ、と言う。
     それは山形県米沢市で肥育された黒毛和牛で、特に一定の基準を満たした場合に呼称される銘柄牛肉だ。
     日本三大和牛または四大和牛に数えられる高級ブランド牛肉の1つと言って良い。
     つまり、今回の相手は『米沢びーふ怪人』である。
    「その怪人は、とある洋食屋を乗っ取って活動しているの。店の店長さんや従業員さん達はとっくに追い出されて、今は怪人が1人で占拠しているわ」
     怪人はスーツを着た牛頭だが、今はその上から店にあったエプロンをしているらしい。
    「怪人に接触するには、お客としてその店に行けば大丈夫。みんなが行くタイミングでは、ほかに一般人はいないから遠慮なく戦えるはずよ」
     怪人はご当地ヒーローと魔導書に似たサイキックを使いポジションはクラッシャー、気魄と神秘が高い2極特化型だと言う。
    「戦闘を開始するには……まぁ、普通に殴りかかったりすれば戦闘に入れると思うわ。ただ、このご当地怪人、どうも先生って言うのかしら? そういう意識が高いらしいの。簡単に言うと店に入って来たお客さんにそのブランド肉の質問をしてくるわ。それに間違えると激怒して何をしてくるかわからないけど、正解すればご褒美として米沢びーふの料理を好きなだけ作ってくれるみたい」
     もちろん、料理の腕前は一流との事だ。せっかくなので質問に正解して料理を堪能するのも……まぁ、別に問題無いだろう。
     ただし、出てくる料理は牛肉料理しか無いらしいので、そこはあきらめて欲しい。
    「ちなみに解答は『チャールズ・ヘンリー・ダラス』よ。誰か1人が答えればまとめて店に入った仲間も全員正解者だと認めてくれるわ」
     具体的な質問は不明だが、珠希が言うにはその名前を言えば正解できるらしい。
     珠希はそこまで言うとみなを見回して釘を指す。
    「一応言っておくけど、放っておけばいずれ犠牲者がでる未来予測も見えてるわ、だから油断だけはしないでね。牛肉料理を食べられるかもしれないけど、相手はなんせ、ダークネスなんだから」


    参加者
    長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)
    華槻・奏一郎(抱翼・d12820)
    十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    蛇目・千景(えらそうなちみっこ・d19530)
    御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)
    オルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)
    正木・高瀬(火難除ける狼・d31610)

    ■リプレイ


    「今日はいっぱい食べれるように朝ごはんを抜いてきたのだぞv 米沢びーふは初めて食べるので楽しみだなぁv」
     蛇目・千景(えらそうなちみっこ・d19530)が楽しそうに仲間達に話を振りつつ、やがて件の店が見えてくる。
    「『贈る言葉』ね……洒落てるというか、米沢びーふの歴史を語るには良い店の名前かもしれないね」
     店の看板を見上げ華槻・奏一郎(抱翼・d12820)が呟き、「そんじゃ、先生に贈る言葉を捧げに行こうじゃないか」と扉を開け放つ。
    「美味しいお肉、食べに来ましたー!」
     入店早々、正木・高瀬(火難除ける狼・d31610)が愛想良く挨拶するが、内心では気合いは十分である。
     ぞろぞろと入ってくる8人組に、カウンター向こうに立つスーツ姿の牛頭――米沢びーふ怪人が。
    「いらっしゃい。だが、無知なる者に肉は出せん。私の出す質問に答えられなければ帰って貰おう」
     怪人が先生っぽい口調で言い、教科書のような本をめくり始める。
     解答役であり最年少の黒鐵・徹(オールライト・d19056)が皆より一歩前へ。
     ゴクリと独特の緊張感が漂い、長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)もいざという時の助け舟を胸の中で用意。
     そして――。
    「藩校興譲館が招いた英語教師で、米沢びーふの恩人と呼ぶべき人物は誰か」
    「はい! チャールズ・ヘンリー・ダラス!」
     徹が挙手し目をきらきらさせて答える。
     怪人先生がニッコリと笑う(牛頭だが)。
    「正解!」
    「質問の答えがあらかじめ解るエクスブレインがチートすぎますよね……」
     ボソッと呟く御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)。
    「そこ、何か言ったか?」
     先生の指摘に龍は「いいえ」と素知らぬ笑顔で流し。
    「その人物、米沢びーふを広めるきっかけになった人ですよね」
    「その通り。良く勉強しているな」
    「つまり、俺たちが美味しい肉を食えるのも、チャールズ先生のお蔭だな」
     奏一郎の言葉に先生が深く頷く。
    「合格だ。好きな席に座りなさい。最高の米沢びーふを提供しよう」

    「先生、まずはステーキとビーフシチューをお願いします!」
     十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)が注文すれば。
    「ステーキを! とにかく肉を!」
     キランと眼鏡を輝かせた龍が追加すれば。
    「千景も、そして塩で楽しみたいのだぞv」
    「俺は最初塩胡椒で、次はソースで」
     千景と兼弘の言葉に先生が「わかったわかった。そう焦るな。ソースも各種用意しよう」と嬉しそうに頷く。
     高瀬や奏一郎、他の面々もステーキを頼めば、「焼き加減は?」と。
    「お奨めは何でしょう?」
     高瀬が聞けば、先生はニヤリとニヒルに笑みを浮かべ。
     ドドドンッ!
     小さなカップに入ったビーフシチューと各自の目の前に出されるステーキ。
     奏一郎と天牙、高瀬と千景と龍はミディアムレア。
     徹はウェルダン、兼弘はミディアム、そしてオルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)にはレアの焼き加減。
     誰も注文していないのに的確に好みの焼き具合でステーキが並ぶ
    「顔を見れば焼き加減ぐらい解る。もっとも、こだわりが無い者達には私のおすすめで提供させてもらったがね」
    『いただきます!』
     徹たちが揃って声をあげ、ナイフとフォークで肉を口に運ぶ。
     その瞬間、きめ細かい霜降りがアッと言う間に融けふわりと口の中に広がる。肉自体のうま味と香りが喉と鼻へ上下に通り抜けた。
    「このステーキはとろける様な舌触りが絶品ですね。、しっかりと肉の脂を感じますが、牛肉によくあるしつこい脂とは違う甘さと旨味。そしてビーフシチューは煮込み料理特有の肉の硬さが無く、スプーンでほぐれる位柔らかく他の具材にもにも肉の味が染み出し……これまた絶品!」
     天牙自身もトロけ、また煮込まれるようなリアクションを魅せる。もう少しで料理漫画の審査員も可能かもしれない。
    「わたくし、本で勉強したけど食べるのははじめてなの……」
     茫然とした顔からじょじょに輝くようにオルゴールが感動する。
     幼少期は碌に食べ物にありつけず普通の食事すらご馳走のオルゴールだが、これは本当に美味しい。
    「これは……世界征服できちゃうかもしれない美味しさなの。わたくし、もっと食べていっぱいお勉強したいな」
    「食べて勉強か……ふむ、君たちは勉強熱心のようだ。他に食べたいメニューがあれば私が作ろう」
    「ハンバーグもタタキも食べたい……あと、先生のオススメも」


    「……んっ、お口で溢れる肉汁につい声が出ちゃう。こんなに美味しいハンバーグ、僕はじめて。さすが米沢びーふですね!」
     徹が喉から広がっていく肉の味にトロけそうになる。
     そんな中、俺はステーキ一択だと、再度ステーキのお代りを注文する龍だったが、怪人の先生から「おすすめも食べてみなさい」とテーブルの上を少し空けるよう言われる。
     やがて七輪が各自の前に置かれ、その横に出された皿には大きく薄い一枚肉。
    「『焼きしゃぶ』だ。3秒ずつ両面を網の上で焼いて食べなさい」
     薄くも手の平より大きな1枚を、サッと焙ってタレにつけて食べてみる8人。
    「うん、美味い。本当に美味いな」
     一口で食べた大きな薄肉が兼弘の口の中で溶け甘さと肉味に即座に変わる。
    「さらに生肉ならこっちだろう」
     先生が続いて出すは牛肉の握り寿司だ。肉厚な霜降りがシャリの上で部屋内の明かりに照らされ僅かにとけた油が光っている。
    「とろとろ溶ける脂、すてき」
     レア好きのオルゴールがいの一番に感想を口にする。
     大トロを食べているような旨さに、生肉に挑戦したかった兼弘も大満足だ。
    「まぁ、食い物に限らずだけどさ……」
     焼きしゃぶをお代りしつつ奏一郎が語る。
    「折角人にもてなしたり、食ったりして経験するなら、歴史とかも知ってた方が更に美味くなる……っていうのは本当だよね」
     奏一郎の言葉に先生が腕を組み満足げに頷く。
    「お肉、うまうま……はっ!? 先生! 辛い料理はあります?」
     高瀬の注文に「テグタンスープならあるが」と鍋からよそろうとする先生だが、高瀬が「もっと辛く」との注文に何杯も追加の唐辛子を入れる。こんな辛くては……。
    「あふ、美味しいです!」
     幸せそうな高瀬。とりあえず鍋ごと高瀬の横に置いておく事にする。
    「あ、先生」
     おずおずと手をあげるはオルゴール。「何だね?」と促せば。
    「あのね、米沢びーふの良さをここにいない人にも広めたいの。だからね、皆の分のお弁当つくってほしいなぁ」
    「弁当か……」
     米沢びーふは時間が経てば霜降りの油が融け出し味は落ち――。
    「家で帰りを待ってる家族の皆にもこんな美味しいお肉を食べさせらたらな……きっと、にっこにこしてくれるのになー」
     オルゴールをフォローするよう、援護射撃する上目使いの千景。
    「……わかったわかった。保存が効く容器を用意してやる」
    「できればステーキが良いです」
     一貫してステーキを要求する龍。
    「焼肉弁当と未調理の肉を1人1ブロック……それでいいな」
     イエーイとハイタッチな気分の灼滅者達。
     やがて8人分のお土産も小型の箱に入れられカウンターに並び。別れの時。
     カウンターで一斉にお辞儀をして『ご馳走様でした』と声を揃える。
     だが――。
    「……とは、いかないんですよね」
     徹の声と共に次々に殲術道具を解放する灼滅者達。
     慌ててお土産を戦闘に巻き込まれないよう避難させる千景。
     米沢びーふ怪人が、少しだけ寂しそうな顔をしたようだった……。


    「とても素晴らしいお肉でした。きっと多くの人が虜になってしまうでしょう。だから、ここで死んでもらいます」
     戦線布告しつつワイドガードで列炎対策を味方に施す徹。同時、千景が「美味しいお肉の舞~v」と、美味しい物を食べてハイテンションのまま踊り先生を裏拳で吹っ飛ばす。
    「堪能させて貰った所で悪いとかおもうが……本当に悪いとはおもうが……ダークネスを許すわけにはいかない」
    「美味い米沢びーふの前に、ダークネスや灼滅者、人間の垣根が何の意味がある」
     ガラガラと椅子や机を投げ捨て立ち上がる先生。
    「それでも、ダークネスは……」
     死角から聞こえた声は高瀬、いつの間にか人造としてのスサノオ形態となり宙空にツララを作り出すと。
    「食後は運動――ではなく戦闘です。お肉を切り裂いて冷凍しましょう」
     射出され目前に迫るツララ。それを眼前でガッシと掴み止めると、バギャと握力で割り破壊する先生。
    「短絡的な……いいだろう。君たちには教育的指導が必要なようだ。私の折檻は厳しいぞ」
    「狙うならこっちを狙いな」
     兼弘がご当地ビームを放ちつつ挑発すれば、ギロリと牛の目が兼弘を睨み。
    「よかろう。まずは……」
     先生が手に持つ本を開けば炎の束がいくつも飛び出し前衛の灼滅者達に襲いかかる。
     カシャン。
     炎に嬲られると同時、甲高い音が床に響く。それは龍の眼鏡が落ちた音だった。
    「おい牛頭の先公、熱ぃじゃねーか……火傷したらどうしてくれる!」
     人格が変わったようにガラ悪く叫ぶ龍。そのままパイルランチャーを構えて先生に接敵、胴体に大きな一発を叩き込む。
     まるで先生と不良学生の喧嘩のようなシーンに、オルゴールが仲裁に入るかのように。
    「やめて! 米沢びーふが好きな人同士で争っちゃだめなの!」
    「ぁあんッ!?」
    「キミはどちらの味方だ」
     威圧してくる龍ときつい口調で問う先生。オルゴールは「わたくし、先生を攻撃するなんてできないの」と言いつつ徹をラビリンスアーマーで回復。
     その行為に怪訝な顔をする先生。
    「先生は強いから喧嘩が終わった後に回復させてあげるの」
    「そうか、優しく育てれば牛もわかってくれる。その優しさを忘れるな」
     頭でも撫でられそうなオルゴールだが、そんな雰囲気を出す先生に対して影を伸ばすは奏一郎。
    「先生のお蔭で、米沢びーふの味と歴史を良く知る事が出来たよ。だから俺は、そろそろ卒業させて貰おうって思う」
     咄嗟に飛び退く先生だが、影はその動きを読んだかのように刃となってエプロンごと先生に傷を付ける。
    「先生に贈る言葉が『灼滅』って形になって悪いけどさ」
    「くっ!?」
     切り裂かれた脇腹を押さえつつ、しかし膝すらつかぬ先生。
    「卒業だと? 米沢びーふの事を全て知りもせず――」
    「いや、知ってるさ」
     怒りに湧く先生に、天牙が冷静に言う。
    「米沢びーふは山形県の特産品で、日本三大和牛の一つ。国産の稲わらや大麦、とうもろこし、米ぬかなどを食べて育った黒毛和牛の中でも厳しい条件をくぐり抜けた最高級品」
    「お前……」
     淀みなく説明する天牙に呆然となる先生、天牙は穂先だけの槍に炎を纏わせクナイのように持つと無防備な先生の胸を横一文字に切り裂く。
    「これでも、先生に会う為にけっこう勉強して来たんだぜ?」
    「お、お前たち……」


     戦闘後半、明らかに逡巡するよう動きの鈍った先生に、高瀬は手加減して噛みついていた。ちなみに別に牛肉の味はしない……そう思った瞬間。
    「お前たちの気持ちはわかった……ならば、本気で来いっ!」
     頭を掴まれ壁に投げつけられる高瀬。
     その瞬間、カウンター気味に病院で学んだ執刀法を応用し、先生の腕の肉をかじり取る。
    「それでいい」
     どこか満足げな先生に、なぜかチクリと心が痛んだ気がした。
     高瀬が離れるとともに、今度は徹が不可視の盾を構えて突っ込んでくる。
    「命を頂く前の礼儀で勉強しましたが、百聞は一食にしかず、ですね」
     先生が盾を正面から受け止めつつ。
    「ならば、勉強した事を私にプレゼンしてみろ」
     盾で先生の腕を弾き、ロケットハンマーで弧を描きつつ「はい」と答えた徹が語る。 
    「米沢びーふ、それは米沢市を主とする3市5町産、黒毛和牛の未経産雌牛のみを指し、柔らかく豊かな霜降りが特徴」
     ドゴッとハンマーをモロに食らい壁に叩きつけられる先生。
    「正解だ」
    「いつか自分で稼いだお金でまた食べたいって思います。米沢びーふの味、教えてくれてありがとう、先生」
    「ふっ……さて、まだ勉強の成果を聞いて無い生徒がいるな……次は、誰だ!」

     次々に苛烈な攻撃を繰り出す灼滅者に対し、怪人たる先生はボロボロだ。
     しかし。
    「その程度では……卒業させるわけには、いかん!」
     先生が教科書を開くと全てを否定する光が放たれる。
     その射線上に割って入るは兼弘。
    「いや、俺らも卒業しないと行けないんだ、牛肉『だけ』から!」
     腕に装着したジンギスカン鍋(殲術道具です)で光を防ぎ。それでも防ぎきれなかった光で全身に傷を受け煙をあげる兼弘。
     ボソリ。
     何度も仲間を庇ったおかげで倒れそうになるも、何かをつぶやく。それは――。
    「ダ、ダラスが……心に描いたのはアメリカ……その思い出を知ってるなら、牛肉を押し付けるのは彼の望みではない」
    「………………」
     グッと背を伸ばし耐えきった兼弘はシャウトする。
    「来いよ先生! これがジンギスカンだ!」
    「ならば卒業試験だ! 私を納得させられる米沢びーふのPRをしてみせろ!」
     先生も叫び最後のサイキックエナジーが燃え上がる!
     アイコンタクト。
     天牙に皆の視線が集まる。コクリ、PRを担当すると頷く天牙。
     そして一斉に動き出す灼滅者たち。

     ――均質に入った霜降り。

    「正しい知識で布教はしっかりしとくから、安心してくれよ」
     腕を巨大な鬼のそれに変化させ奏一郎が真っ正面から殴りかかり、先生は腕を十字にそれを受け止める。

     ――肉に甘みを感じる上品な味。

     予備のメガネをかけた龍が「おいしかったです」と言いつつ、パイルランチャーでドリルのように突っ込めば、そのまま先生の背中に突き刺さる。

     ――上質な脂身。

    「きゃあ!? 手が……ううん、お肉、美味しかったからこんどはお友達とたべるね」
     途中で演技を止め、前後に挟まれ動きの止まった先生に流星のごとき蹴りを入れるオルゴール。

     ――まろやかな舌触り。

    「ご馳走様でした」
     千景が手を合わせて祈るとともに、先生の足下で影が起き上がりその両足に食らいつく。

     ――それは誰もがご飯が欲しくなる。それが米沢びーふ!

     高瀬がバスタービームを、徹が影喰らいを、兼弘がご当地ビームを放ち全てをくらった先生がゆっくりと倒れていく。
    「……ああ、そうだな……君達なら、十分米沢びーふの美味しさを、世の中に広めてくれるだろう……」
    『先生、ありがとうございます!』
    「卒業……おめで、とう……」
     そして、先生のような米沢びーふ怪人は、爆発としても消滅していったのだった。

    「この怪人は本当に倒す事しかできなかったのであろうか……この素晴らしいお肉を皆で分け合えば多数の人を幸せにできたであろうに……」
     千景の言葉は何人の灼滅者が共感しただろう。
     店を出た後、1人振り返った奏一郎が言う。
    「ご馳走様、本当美味かったよ」
     空を流れる雲の形が、どこか先生の顔のように見えた……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 5/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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