琵琶湖の近くにある宿で、昼間から1人の男が悠々と酒を飲み、旨そうに飯を食っていた。
「もうこの戦は負けだな。安土城怪人の方が圧倒的じゃねぇか。やめやめ、天海大僧正について負け戦なんてやるだけ無駄だわ」
男は首を振ると、頭に生えた角が揺れる。赤ら顔にビールをぐいっと喉に通す。
「勝ち馬に乗らにゃ損ってもんだ。さて、安土城怪人につくのはいいが……何か手土産でもないとなぁ。次に天海大僧正が動いた時にその情報を持っていくかな」
ニヤリと笑い、ちょうど焼けた牛肉をはふはふと口に入れる。
「か~! やっぱ近江牛は旨ぇなぁ! ビールに合うこと」
ぐびぐびとビールを飲み干し、仲居にお代わりを注文する。
「さーて、それまではしばらくのんびりするとするかねぇ。真面目に働いてもどうせ裏切るわけだし」
男が赤い顔で肉を頬張っていると、扉が開けられた。
「お、ビールが来たか……って何だお前は!?」
「脱走するだけに飽き足らず、裏切りまで画策するとは……許せぬ!」
そこに居たのは狼の顔をした人物。部屋に踏み込むとダンダラ羽織を着た男が刀を抜く。
「ち、違うんだ! 待ってくれ!」
「士道不覚悟なり」
テーブルをひっくり返して逃げようとする男に志士が刀を振り下ろす。ばっさりと袈裟斬りにされ男は倒れ伏した。
すると倒れた男に志士から放たれた畏れが纏わりつく。そしてゆらりと無表情のまま男は立ち上がった。
「手間を掛けさせるな、戻るぞ」
それを従え志士は部屋を後にする。すると廊下から悲鳴が響き、やがて血の臭いと共に静かになった。
「やあ、小牧長久手の戦いで敗北した天海大僧正の勢力に動きがあるようだよ」
能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者に向かい合う。
「天海大僧正側の末端のダークネス達が、不利とみて安土城怪人に寝返ろうとしているようなんだ」
ダークネス達は秘密裏に琵琶湖に向かっている。
「このままでは拙いと天海大僧正が配下のスサノオに造反するダークネスの捕縛命令を出したみたいでね。みんなにはそのスサノオを撃退してもらいたいんだ」
スサノオはダークネスを斬り、配下に作り直した後、道すがら一般人を斬り殺して帰っていく。
「ダークネスがどうなろうとも知ったことではないけれど、一般人が巻き込まれるとなると話は別だからね」
その通りだと灼滅者も頷き、スサノオの情報を求める。
「敵の情報はわたしから」
背筋を伸ばした貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が説明を代わる。
「敵はスサノオ壬生狼組と呼ばれる部隊の一員らしい。血に餓えた狼のような強力なスサノオであり、戦いとなると一般人も巻き込んで犠牲を生み出してしまう」
人狼のような姿で、刀を使って戦うようだ。
「一つ救いはダークネスを逃がさぬ為か、理由は分からないがダークネスを斬るまでは一般人に被害を出さないようだ。だから皆にはスサノオが現れダークネスが倒される前後で介入してもらいたい」
それより早すぎればスサノオが現れるか分からないし、遅ければ一般人への被害が考えられる。
「ダークネスが斬られてから戦闘になると、斬られたダークネスは配下として戦闘に加わる。斬られる前に戦闘になると、ダークネスは逃げ出してしまうので、こちらが有利に戦えるだろう。だがダークネスが逃げ延びれば安土城怪人の戦力となってしまう」
一長一短。どうするかは皆が相談して決める事になる。
「今回はわたしも同行させてもらう。血に餓えた狼など野に放ってよいものではない。犠牲者が出る前に仕留めよう」
よろしく頼むとイルマが頭を下げた。
「天海大僧正と安土城怪人の迷惑な戦いはまだ続いてるようだね。天海大僧正が劣勢のようだけど、戦力を拮抗させる為に斬られて配下となったダークネスだけを倒して、戦力が減り過ぎないようにするというのも有りだよ。どうするかは皆にお任せするね」
誠一郎の言葉に頷き、灼滅者達はどのように行動するのか、意見を言い合い作戦を練るのだった。
参加者 | |
---|---|
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779) |
式守・太郎(ブラウニー・d04726) |
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253) |
流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203) |
炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512) |
富士川・見桜(響き渡る声・d31550) |
カルム・オリオル(ヒッツェシュライアー・d32368) |
●羅刹とスサノオ
琵琶湖の近くにある旅館の一室で、刃傷沙汰が起こっていた。
角の生えた男が逃げようとすると、ダンダラ羽織を着た人狼が刀を抜き放ち上段に構える。
「士道不覚悟なり」
逃げようとする男の背に刀を振り下ろし、刃は深く背中を斬り裂いた。人狼の放つ畏れが倒れた男に伝わり、ゆらりと男は立ち上がる。
「手間を掛けさせるな、戻るぞ」
部屋を出ようとしたところで人影に気づく。そこには灼滅者達が待ち伏せていた。
「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
赤い色を纏った華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は腕を鬼の如く異形化させると、部屋に飛び込みながら正面から羅刹の男に向かって拳を叩き込む。不意を突かれた羅刹は顔に一撃を受けて吹き飛んだ。
「何奴!」
人狼が刀を振るう。凶刃が紅緋の首筋を狙って伸びた。
「御用改めである! ……なんてね。相手をしてもらうよ、犬のお巡りさん!」
軽く冗談を口にしながら流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)が入り口を塞ぐように立ち塞がり、背中から炎の翼を広げて仲間を包み込んだ。
「あなたのような、人に仇なす者の敵ですよ」
そこへ白マフラーを靡かせながら式守・太郎(ブラウニー・d04726)が割り込んだ。迫る刃を手にした刀で受け止める。人狼は押し切ろうと力を込める。だがその頭上に人影があった。
「一凶、披露仕る」
天井を蹴った叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)が腕を半獣化させて頭上から襲い掛かる。
「ちっ」
舌打ちと同時に人狼は地を蹴って間合いから飛び退く。宗嗣はその勢いのまま標的を変えて羅刹へと腕を振るい、その胸に4本の赤い傷跡を残した。
「ほな、はじめよか。まずは人払いをしとかんとな」
廊下からこちらに向かって歩いてくる人影に気づいたカルム・オリオル(ヒッツェシュライアー・d32368)が周囲を威圧する。すると角から現れた女中が手にしたお盆からビールを落としジョッキが砕けた。
「予定通り人々の避難はわたし達に任せてくれ! こっちだ!」
呆然とする女中を貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)は戦場に近づかないように誘導する。
「私達も避難誘導をサポートするぞ!」
友衛を先頭に手伝いに参加している灼滅者達も一般人の誘導へと向かう。
「頼りにしてますよ」
「スサノオは僕らに任せて。合流するまで持たせて見せるよ」
太郎は背中越しに声をかけながらも、人狼の動きに注視し、知信も軽く手を振り、油断無くダークネス達に向かい合う。
「敵ならば問答は無用、殲滅するのみ……やれ!」
人狼が指示を出すと、羅刹は腕を膨張させて殴り掛かってくる。
「……いきます」
自らを奮い立たせるように呟いた銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)がどす黒い殺気を放って周囲を飲み込み、羅刹の視界を埋め尽くす。
「ダークネス同士の抗争か」
音を漏らさぬよう結界を張り終えた炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)が、目標を見失って拳を外した羅刹の胸に魔力の弾丸を撃ち込んだ。
「敢えて操作してまで狙う何かが在る訳でも無し、全て纏めて斬ってくれる」
軛の手に影が纏まり一本の刀となる。
「やるよ」
早まる心臓を落ち着かせるように、胸に手を当てた富士川・見桜(響き渡る声・d31550)が呟き気合を入れた。口を開けて紡がれる美しい歌声は羅刹の意識を僅かな間奪う。
「操り人形の如くですね。今その糸を断ち切ってあげますよ」
太郎が刀を振り抜き、よろめいた羅刹の右腕を斬り落とした。それでも羅刹は残った左腕で殴り掛かって来る。
「鬼神変同士の正面激突。負けません!」
紅緋も拳を放ち、拳と拳がぶつかりあって両者が衝撃に後退する。紅緋の拳から血が滲む。そして羅刹の拳からは皮膚を破って骨が飛び出ていた。
「ちぇぇあっ!」
横手から人狼が横薙ぎに刀を振るう。その刃は紅緋の胴を狙っていた。そこに知信が飛び込む。
「この距離なら刀は振れないね!」
密着するように知信が懐に入って腕を止めた。
「しぇあっ!」
人狼は蹴りを放って知信を蹴り飛ばしながら間合いを開ける。
その間に宗嗣は壁を蹴り、羅刹の背後に回ると七尺を超える長刀を振り抜く。だが刃は羅刹の体をすり抜けた。振り向いた羅刹が腕を伸ばそうとする。
「無駄だ、既に魂は斬り捨てた」
刃は羅刹の肉体ではなく精神を斬り裂いていた。立ったまま羅刹は息絶える。
●壬生狼組
「ちぃぇあああああ!」
そこへ人狼は羅刹の体が死角となるように低い姿勢で反対側から駆け寄ってくると、全身を一本の矢のように躍動させ突きを放つ。平突きが羅刹の体を貫き、そのまま宗嗣をも串刺しにしようと迫る。咄嗟に宗嗣は身を捻るが、切っ先は左肩を貫きそのまま羅刹の体ごと体当たりするように壁に叩きつけられた。
「それ以上はさせへんで」
カルムが横から縛霊手で殴りつける。人狼は素早く刀を引いて絡みつく霊糸を斬りながら衝撃のまま跳んで距離を取る。
「ダークネスの世界も世知辛いんだね」
見桜は刺し貫かれた羅刹の死体を見下ろし護符を投げる。宗嗣の肩に張り付いた護符は傷を塞いで止血を行った。
「こういうのを見てると私がしてることが正しいのかも自信がなくなってきちゃうな」
見桜は次の護符を手にしながら不安の混じった声色で呟く。それは己の信じている事でも誰かを傷つけている可能性を、人狼の行動から想像したからだった。
「同族のにおいだ……わたしは炎帝軛。お前の名を聞こう」
鼻をひくつかせた軛が刃を向ける。すると牙を見せて人狼は嗤った。
「冥土の土産に教えてやろう、某の名は震九狼。全てを斬り捨てる一振りの刃なり!」
人狼は一気に間合いを詰めて袈裟斬りに刀を振るう。対する軛も横に刀を薙いでいた。人狼の胸に横に傷が奔る。だが軛の左肩も赤く染まっていた。
「くくっ……血が滾るわ」
人狼は胸の血を手で拭うと、ぺろりと舐めた。
「まずは……足を封じます!」
紫桜里は三日月の如き刀を抜くと青眼に構え、踏み込みながらすっと切っ先を下げて人狼の足を斬り抜ける。
「さすがスサノオの太刀捌きは鋭い、動き回られると厄介ですね」
紅緋の足元から赤黒い影が水溜りのように広がっていく。そして人狼の足を呑み込むように捕らえた。
「小賢しい真似を!」
人狼は影に刀を突き立てて戒めを解こうとする。
「そんな暇は与えん」
宗嗣は一気に駆けて間合いを詰める。
「ちぃっ!」
人狼が胴を薙ぐように刀を振り抜く。宗嗣は前傾姿勢となり身を屈めて躱すと片刃の短刀を逆手に引き抜く。擦れ違い様に刃が人狼の蒼い刃が人狼の太腿を切り裂いた。人狼はそのまま駆け抜ける宗嗣を追おうとする。
「刀は何かを守る為にある筈です」
だが視線が逸れた隙に間合いに入った太郎が刀を振り下ろす。
「ぐうっ」
肩口から人狼の白い毛並みが赤く染まる。
「我等壬生狼組の牙は天海大僧正様の為にある! 壬生狼の士道をみせてやる!!」
人狼は足元に転がっていた羅刹の死体を蹴り上げる。太郎の視界を封じるように体が覆い被さるように迫る。太郎は白きオーラを拳に宿して左拳を叩き込み押し返そうとする。だがそれと同時に羅刹の体が両断され、切っ先が太郎の左腕を深く斬った。骨が断たれ腕が千切れそうになる。
「っ……!」
太郎は痛みを無視して右手の刀を振り抜く。返す刀で首を狙おうとしていた人狼は刀で受けながら後ろに下がった。
「シドウフカクゴ、って確か日本語で、ブシのココロエがなってない、ってやつやんな」
「いかにも、士道を解せぬ者に我等が陣営で戦う資格無し!」
カルムの質問に答えつつ人狼が斬り掛かってくる。それをカルムは縛霊手で受け止めた。
「あっぶないなぁ……お返しや」
カルムが殴りつける。すると人狼は屈んで足元に刃を振るう。そこへ知信が光輪を投げ入れて刃を阻んだ。
「不安でも、今自分に出来ることをしないとね……仲間と自分を信じてね」
そうやって敵の気を引いている間に、見桜がすぐさま護符を投げて太郎の腕を接合して流れ出る血を堰き止める。それを見た人狼は見桜を狙おうと駆け出す。
「同族として、ヒトに害をなすならば、見過ごせはしない」
横から鋭く踏み込んだ軛が刀を振り抜く。切っ先が体を捻って避けようとした人狼の脇腹を裂く。
「……続けていきます!」
そこへ続けて紫桜里が反対側から刀を振り下ろした。人狼は刀で防ごうとするが、刃は頭にある片耳を切り落とした。
「おのれぇ! 許さんぞ!」
怒りに毛を逆立てた人狼が、紫桜里の脳天を割ろうと頭上から刀を振り下ろす。紫桜里は刀に手を添えてその一撃を受け止めた。だが人狼は片手を柄から離し、刃物のように鋭い獣の爪で紫桜里の腹部を狙う。
「許さないならどうするのかな?」
そこへ腕を伸ばした知信が盾を差込み攻撃を逸らした。
「こうしてくれるっ!」
人狼の横薙ぎの刀を盾で受ける。そのまま人狼は知信の体を蹴り上げて宙に浮かせた。
「これで逃げられまい」
人狼が切っ先を下げて逆袈裟に斬ろうとしたその時、魔法の矢が飛来した。
「ぬうっ」
矢を払いながら人狼は飛び退いて振り向く。出入り口に立っていたのはイルマ達だった。
「一般の人々の避難は終えた。ちょうどいいタイミングだったか」
イルマは室内を見渡して戦況を確認する。
「おや、早かったね。もう少しのんびりでもよかったのに」
着地した知信が口元に笑みを浮かべて冗談っぽく返した。
●剣客
「イルマさん達も戻ってきましたし、ここからが本番ですよ」
紅緋が赤いオーラを纏って拳の連打を浴びせる。人狼は刀で捌こうとするが、押し切られて被弾し身を投げるように距離を離した。
「どれだけ素早かろうとも、何度も見れば対応もできる」
それにタイミングを合わせ壁を蹴った宗嗣が背後から短刀を振るう。人狼の背中に赤い線が刻まれ、宗嗣は着地と同時に床を転がる。すると人狼の刃が通り過ぎ空を切った。
「やり返させてもらいますよ」
太郎が横薙ぎに刀を振るう。左腕に力が入らぬ為に、右手だけで勢いをつけた大振りの一撃。
「ふん、左手は死んでいるようだな、剣筋が粗いぞ」
容易く避けようと人狼が動こうとすると、その足に刃が奔る。
「1人では敵わなくても……こちらには仲間がいます!」
見れば紫桜里が背後より刀を振るっていた。
「ちぃぃっ」
僅かな動きの乱れが躱せるはずの攻撃を躱せなくした。太郎の刀が人狼の左腕に食い込む。
「ちぇああああぁっ!」
人狼は刃を食い込ませたまま太郎の首を狙う。
「末端だから、情報も期待できないだろうしね、ここで倒させてもらうよ!」
そこへ知信が横から盾を構えて体当たりするようにぶつかった。人狼は衝撃を逃すように吹き飛ばされるがままに力を抜く。
「次々に鬱陶しい奴等だ!」
舌打ちして人狼は壁を蹴って体勢を立て直す。
「そうか、わたしは心が躍るぞ。得物も同じとなればな」
そう言いながらも表情を変えずに軛は斬り込む。その一撃を人狼は刀を振るって弾く。軛は弾かれる勢いで回転しながら足元に振り抜く。
「いずこの剣客かは知らぬが、我等の邪魔をするのならばここで死ねぃ!」
人狼は跳躍して避けると上段から頭上目掛けて刃を振り下ろした。
「あいにくこっちにも譲れへんもんがあるんでな」
カルムが縛霊手を嵌めた腕を差し込む。刃は装甲を削り肉を斬り骨に達する。
「それ以上はさせん!」
イルマが魔法の矢を射ると、人狼は邪魔だとばかりに腕を振るって弾き飛ばす。
「よそ見しとる暇はないで!」
その隙にカルムは反対の腕にオーラを纏い、人狼の赤く染まった脇腹に拳を突き刺した。
「ぬぐっ」
顔を歪めた人狼は刀を引いて飛び退く。
「私の声が、私の言葉が力になるように、精一杯声を出すよ!」
仲間達の支えになろうと、見桜が心を籠めた歌声を響かせると、カルムの傷が塞がり痛みが引いていく。
ここが勝負どころと、サポートの灼滅者達も一斉に動き出す。
「頑張ってください! しっかりするです!」
聖也も傷ついた仲間にオーラを渡して活力を与えていく。
「剣の腕にはいろはも自身があるよ」
踏み込んだいろはが大太刀を鋭く振り抜き、人狼の首に傷を残す。
「斬り捨て御免、とは言いますが……一般市民を凶刃に掛けて何が士道不覚悟ですか」
続けて絶奈が巨大な杭を撃ち込んだ。
「お里が知れますね」
「某を愚弄するか!」
人狼が刀を振り上げたところへ、銃弾の雨が降り注ぐ。
「宿が壊れる前に決着といきたいね」
キャリバーが機銃を掃射し、その隙に近づいた殊亜が炎の剣で人狼の体に斬りつける。
「数ばかりは多い!」
苛立たしそうに人狼は刀を振るって灼滅者達を払い退けた。
「わたしの全力の一撃を、受け止められますか!」
正面から飛び込む紅緋は真っ直ぐに鬼の腕で殴りつける。
「どれだけ力があろうとも、速さと鋭さが足りぬ!」
人狼はその腕を刀を回して巻き込み跳ね上げた。隙だらけとなった胴に刀を振ろうとした時、その体が影の獣に呑み込まれる。
「今のうちに!」
影を伸ばしたイルマが声をかけると、頷いた紅緋が拳を叩き込んだ。人狼は床を転がり影を引き裂いて跳ね起きると、イルマ目掛けて駆け出す。
「先ほどからちょこまかと、邪魔をするな!」
「ちょこまかと動き回っているのはそちらでしょう」
太郎が横から刃を薙ぐように振るう。人狼は大きく跳躍して天井を蹴る。だが同時に天井に着地した影があった。
「ここはこちらの領域だ」
宗嗣は短刀を振るって人狼の足を深く斬り裂いた。バランスを崩した人狼は着地に失敗して膝をつく。その背後から紫桜里が上段に刀を構える。
「これで……、終わりですッ!」
全体重を乗せた一撃を人狼は左腕で受け止めた。刃が食い込み腕を切断する。だがその間に人狼は地面を転がって逃れた。
「犬なだけに尻尾を巻いて逃げるのかな?」
挑発するような知信の言葉に、人狼は牙を剥いて殺気を放つ。
「それほど死にたいのなら、まずはお前から殺してやろう……ちぇああああぁっ!!」
全身に力を漲らせ人狼が突っ込んでくる。右手に持った刀を寝かせ平突きを放つ。知信は盾で受け止める。だが切っ先が盾を貫き、知信の胸元に届く。
「ふむ、こうか?」
そこへ獣のように低く駆ける軛が刀を寝かせ、平突きを打ち込んだ。切っ先が人狼の脇腹に突き刺さり、反対の脇の下から抜けた。力が緩んだ機に知信は盾で刃を押し返す。
「き、さま!」
人狼が刀を振るう。軛は柄から手を離して飛び退いた。空振ったところへ知信が盾を叩き付けた。顔を強打されてよろめく人狼は憎々しげに顔を歪ませる。
「手負いの獣は手強いからな、最後まで油断無くやらせてもらおか」
カルムが縛霊手で殴りつけ、霊糸で人狼の体を縛る。
戒めから逃れようとする人狼に紅緋が拳を叩き込む。その衝撃を利用して人狼は壁を蹴って紅緋に刀を振り下ろす。
それを太郎が刀で受け止める。だが力負けして押し切られ右肩を抉る。
「私たちはまだ戦える ガンバレ!!」
見桜の声援が太郎の傷を癒し力を戻すと同時に、イルマが矢を放って人狼の体を射抜く。
「無関係な人間まで殺すあなたはここで切り伏せます」
力が緩んだところへ太郎が刀を振るい、人狼の右腕を斬り落とした。
「オオオオオオッ!」
両腕を失い、獣のように咆えた人狼は口を大きく開けて太郎に牙を突き立てる。
「執念だな……」
それを断ち切るように宗嗣は頭に短刀を突き立てた。既に致命傷を負っているのは誰の目にも明らかだった。だがそれでも噛み付く力を緩めぬ人狼の体に刺さったままの刀に軛が手を掛ける。
「楽しかったぞ」
一気に引き抜くと血が吹き出る。ぐるんと人狼は白目となり、噛み付いたまま息絶えた。
「すごい意思ですね」
その死に様に驚きながらも、紫桜里が刀を振るって牙を切り落とし、人狼の顔を引き剥がした。
●琵琶湖
「勝てて良かったな」
戦闘で高まっていた緊張を解く見桜は、ぐったりしたように肩の力を抜いた。
「脱走だけやのうて裏切りの画策は許せんのはわかるけどな、一般人に手ぇ出したらあかん」
カルムは人狼の顔を見下ろして言い捨てる。
「……誰も犠牲者が出なくて良かったです」
紫桜里がほっと安堵の息を吐く。
「お疲れ様でしたイルマさん。天海大僧正と安土城怪人、いつまで争い続けるんでしょう?」
「お疲れ様。安土城怪人が優勢のようだが、どうなるのだろうな」
紅緋とイルマは長く続く2勢力の戦いに終わりはくるのだろうかと、先の見えない戦いに眉をひそめた。
「……そういえば。なんで羅刹の天海大僧正の部下が、スサノオの壬生狼なんだろう?」
そんな疑問が浮かび知信は首を傾げる。
「無事何とかなりましたね」
一息ついた太郎は思い出したように痛みを感じ、顔をしかめてよろめく。
「肩を貸そう」
宗嗣が支えるように太郎の右手側に回った。
「よい勝負だった」
そこはかとなく満足そうな軛が刀を納めて背を向ける。ダークネスの体は靄に包まれたようにして消えていった。
灼滅者達は後片付けを軽く済ますと、騒ぎになる前にそそくさと宿を後にする。
「お腹すいた……何か食べて帰りたいね」
「それはいいね!」
知信がそう提案すると、疲れきっていた見桜が即座に頷き、皆も頬を緩めて賛成と手を上げる。灼滅者達は遠く見える琵琶湖に背を向けて歩き出した。
作者:天木一 |
重傷:式守・太郎(ブラウニー・d04726) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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