それゆけ貧乳派! おかわり!

    作者:空白革命


    「みんなー、貧乳はー!?」
    「「ステータスー!」」
    「貧乳はー!?」
    「「希少価値ー!」」
    「ありがとーう!」
     アイドル淫魔、通称『地方巡業ちゃん』にはコンプレックスがあった。
     なにかってそりゃ乳このとである。
     二年くらい前にそれが原因で所属話がこじれたこともあったが、なんやかんやで今日も元気にやっている。
    「それじゃあ皆!」
    「「いっただきまーす!」」
     大きなお鍋の前で手を合わせる巡業ちゃんとファンの皆さん。
     鍋の中にはぐつぐつと豆乳鍋が煮えていた。
     豆乳の中に豆腐と大豆を投入という、なんかもうヤケクソな鍋だったが、これをファンと一緒に囲むのが巡業ちゃんの営業スタイルである。こうみえてライブの真っ最中というわけだ。
    「巡業ちゃん今日も平たいね!」
    「やかましい殺すぞ☆」
    「背中のほうがまだ凹凸あるね!」
    「うるせえへこますぞ☆」
    「ところでそこに横たわってる芋羊羹なに?」
    「しらねえよ☆」
     などと、今日も楽しくライブかましていた、ところへ。
    「ウガンガー!」
     近くの窓をクロスアームでバリーンしながらデモノイドが突っ込んできた。
     そのついでに、いざ豆腐食おうとしていたおっさんの側頭部に膝が。
    「たわば!?」
    「いやー! ファンが殺されたー!」
    「このひとでなし!」
    「ウガンガー!」
     両腕を振り上げてドラミングするデモノイド。
     さあ大変なことになっちゃったぞっと!
     

    「わたしはひんにゅうではありません。このむねをみてください」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)が世にも清らかな目でンなことを言った。
     何言ってんだこの子と思わないでほしい。結構大事な問題なんだよ?
    「最近ね、ラブリンスター派のアイドル淫魔が頻繁にライブを開いてるの。バベルの鎖がバベッて無人ライブもざらだったんだけど、新たに加わった七不思議使い勢力のおかげで口コミ客が増えてね、一般人のファンを集められてるんだって」
     よもやそんな突破口があったとは、という話だが、今回注目すべきはそこではない。
    「噂が広まった結果一般人だけじゃなくダークネスまで来ちゃって、会場が大変なことになってるみたい。このダークネスをやっつけるのが、今回の目的だよ」
     
     乱入してくるというダークネスはデモノイド。
     何をどうしたらそうなったのか知らんけどやたらゴリゴリしたゴリノイドである。
     オーソドックスな解決手段としては、ゴリノイドがクロスアームでパリーンする予定だった所の前……つまり会場の外で待ち伏せして倒して戦闘に持ち込むことである。
     会場というのはオールウェイズ閑古鳥コーリングなショッピングセンター内である。細かい話をすると、以前巡業ちゃんがよそから勧誘を受けてそれを灼滅者チームが豆乳鍋で阻止した現場である。何言ってんだって言われても困る、事実だ。
     んで、オーソドックスでない解決方法としてはこのライブ自体を事前に解散させてしまって、一般人被害の危険性を元から消滅させてしまうことなのだが、これまで客にも胸にも恵まれずに目の色ダークネスにしていた巡業ちゃんがようやく手に入れた成功ライブなので、当然怒られると思うしバトル必至だと思う。そして当然デモノイドも乗り込んでくるので、結果めちゃくちゃな事態になっちゃう覚悟をせにゃあならんね。
    「いじょうだよ。あとわたしはひんにゅうじゃないよ」


    参加者
    英・糸子(仕合せ糸の紡ぎ手・d00575)
    エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)
    木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    巽・真紀(竜巻ダンサー・d15592)
    四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)
    ハチミツ・ディケンズ(無双の劔・d21331)
    睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)

    ■リプレイ

    ●ゴリライブ!!
     英・糸子(仕合せ糸の紡ぎ手・d00575)はガラッガラのフードコートに座っていた。
    「今日は巡業ちゃんのライブを邪魔しないようにしよう」
     組んだ足を組み替える。
     凹凸の激しい胸元に手を当てる。
    「折角成功したライブがパリーンされたら目の色ダークネスになっちゃうもんね」
    「その姿を見ても充分なると……いえ、なんでもないです」
     胸を凝視したあとで悲しげに目をそらす小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)。
    「しかし、ライブ……なんですよね? なぜ豆乳鍋パーティになったんでしょうか」
    「地下アイドルってそういうものなんじゃないかな。知らないけど」
     四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)は窓から鍋パーティの様子を覗き込んで頷いた。
    「なんにしても、これから来る邪魔なゴリラさんをゴリゴリすればいいんだよね」
    「そうなりますね」
     窓の縁からひょっこりとハチミツ・ディケンズ(無双の劔・d21331)と睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)が顔を出した。
     二人の視線は楽しく鍋をつつく巡業ちゃん……の、胸元に注がれていた。
     まな板かなってくらいの平坦さであった。
     はやり言葉をつかうならそう、巡業チャンの胸は平坦であった。
    「あの悩みは、分からなくもありません。私などもう絶望視されておりますから。ですが、そんな絶望を突破する力が食材には……」
    「うーん。鎖を突破する力……」
     ほっぺを膨らませる文音。
    「あの力を使えば私の動画再生回数もあるいは」
    「何かヘンなこと考えてませんか?」
    「いっ、いえ!」
     文音はぷるぷる首を振った。
     そのずっと後ろでカキワリ板を運ぶ木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)。
    「そんなことより手伝ってくれんか。家から運んでくるだけでもかなり手間だったんだぞ」
     ほれ、と言ってキィンは全景を指し示した。
     段ボールステージと等身大巡業ちゃんイラストと、ラジカセ(ラジオチューナーとカセットテープレコーダーが一緒になったナウいヤングにバカウケのガジェットだよ☆)から流れるラブリンなんちゃらが一体になり、どこまでも悲壮感をかもしていた。
     そんな光景の前に立ち尽くす知らないおっさんたち。
    「ドゥフフ田中氏ぃー、ここがライブ会場でござるか!?」
    「中山氏ぃ! どうみても違うでござるよぉ!」
     キィンが頭を撫でながらやってきた。
    「いやすまん。ここは今からゴリラの捕獲作業があって危険なんだ」
    「そんなことあるわけないでごさるよドゥフフー」
    「おぬしも巡業ちゃんのライブ会場にたどり着けない悲しみのあまり疑似ライブを開催しちゃったクチでござろうよドゥフウー」
     肩をたたき合う三人。
    「ウガンガウー」
     その三人の肩をつかむデカい手。
    「そうそうゴリラなんているわけ――」
     振り向けばゴリがいた。
    「ウガンガー!」
    「「いたー!!」」
    「みんな離れるの。これで気を引いているうちにー」
     ていやーとか言ってバナナを放り投げるエステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)。
    「そんなもので気を引けるわけが」
    「ウガンガー!」
     ダイビングキャッチするゴリノイド。
    「「ひいてるー!!」」
    「もっと投げるの。もっと持ってくるの」
     ヘイパスヘイパスするエステルに優雨たちはおずおずとバナナの房を千切って渡した。
    「あの、ところでプレイングに『轢きつけれたら戦闘開始』って書いてありますけど……軽トラかなにか用意します?」
    「してたまりますか」
    「っしゃあ! こっからは任せてもらうぜ!」
     巽・真紀(竜巻ダンサー・d15592)はバシッと拳を平手に打つと、両腕を広げて身構えた。
    「ゴリノイド!」
    「ウガッ!?」
     両腕を振り上げて身構えるゴリノイド。
    「「問題です!」」
     デデン!
     ハチミツと文音がうんしょと言って○と×のパネルを立ち上げた。
    「ゴリラのドラミングは求愛表現である。マルかバツか!」
     ぱたぱたと手を降る糸子と彩華。
    「だめだよ相手はデモノイドなんだから、話が通じるわけ無いよ」
    「そうだよ先制攻撃で襲われちゃうよ」
    「ウ――ウガァァァァ!」
     ばかにするなとばかりに全身にエネルギーを漲らせて突撃するゴリノイド――が、○のパネルをクロスアームでパリーンした。
     どろんこプールに突っ込んでいった。
    「ウガアアアアアアア!?」
     頭を抱えてのけぞるゴリノイド。
    「ま、間違えやがった! こいつゴリラじゃねえぞ! デモノイドだ!」
    「知ってた」

     一方その頃。
    「さーみんなたーんと食べてね☆」
    「今外で何か音しなかった?」
    「気のせいだよ☆ はやく食べよ、はいお豆腐☆」
    「そうだね、いただきます貧乳ちゃん!」
    「間違えんなぶちころすぞ☆」

    ●ゴリライブ二期!!
     キィンはねじりはちまきを頭に巻いて(ラビリンスアーマーです)目を光らせた。
    「ヘッ、俺渾身の偽ライブ会場にまんまと引っかかったようだが残念だったな。ここにいるのは灼滅者だけだ!」
    「拙者もいるでござるでゅふふ」
    「拙者もでござるでゅふふ」
    「帰れ田中山口! そしてお前は土に還れ、デモノイド!」
     キィンは空中に飛び立ち、高速回転をかけてゴリノイドに突撃した。
     クロスアームでガードするゴリノイド。
     彩華は光の向こう側から剣を抜き、翳した手のひらで刀身をゆっくりと撫でた。
     撫でたそばから剣が真っ赤に染まっていく。
    「序盤のネタと鍋パーティのために尺を削らなきゃ。一気に畳みかけるよ、糸子ちゃん!」
    「んっ、おっけー。かかってこいやー!」
     糸子は頬を両手でぱちんと叩くと、両手に鋼糸をぐるぐると巻き付けた。握った拳からスパークが走る。
    「ライブの邪魔はさせないんだからね!」
     ガード姿勢のゴリノイドに二人の拳と剣が炸裂。
     流れるように肘を入れると、二人同時に膝蹴りを叩き込んだ。
     仰向けにひっくり返るゴリノイド。
    「ウガンガ!」
     腕をばたばたさせ、腕を砲台化。
     うげっと顔をひきつらせたキィンの顔面めがけてゴリキャノンが乱射される。
    「ぐあ!?」
     吹き飛ぶキィン。彼を空中でキャッチする真紀。
     真紀は長いスポーツタオルをキィンに巻き付けて法被に変えると、後方へ放り投げつつ着地した。
    「フフッ、堂々とライブ活動で客を集めようなんてやるじゃねえか。オレも淫魔になってら案外こうなってたかも、なんてね!」
     案外身軽にネックスプリングで立ち上がったゴリノイドに、跳び回し蹴りからの裏拳を繰り出す真紀。踊るように回転ブレーキをかけたところで、ゴリノイドの両サイドからおふとん(霊犬)とババロア(ナノナノ)が同時に襲いかかる。
     同時に高速回転を仕掛けてゴリノイドの肉体をゴリゴリと削るのだ。
     指をぴんと立てて目を光らせるエステル。
    「ゴリゴリ削るの。ゴリラだけに」
    「……」
    「ゴリゴリ削るの。ゴリ――」
    「二回言わないでいいの! それ以上えぐらなくていいの!」
    「ふぇ?」
     庇うようにエステルを抱きしめる糸子と彩華。
     その一方で、明後日の方向から伸びてきた優雨の武器がゴリノイドの腕を貫通。強制的に縫い止める。
    「ウガ!」
     絡め取るように引っ張る。強制的に引き寄せられる優雨に、ゴリノイドはカウンターパンチを叩き込もうとする、が!
    「う――らァ、遅え!」
     繰り出した拳に自分の拳を横から叩き付けるという乱暴きわまりないフォローアタックを仕掛けるハチミツ。
     指が折れて血まみれになった手を振りながら、ハチミツは左右非対称に笑った。
    「しまいにしようか、さァ」
    「ウガッ!?」
     ひしゃげた腕を砲台化するゴリノイド。
     再びの零距離ゴリキャノンが発射される寸前、ハチミツを突き飛ばす形で文音が割り込んだ。
    「私ばりあー!」
     両腕をパーにして前に翳し、オーラの壁を作り出す文音。
     ゴリキャノンが拡散され、その一部が文音の頬をかすめていく。
    「いまです!」
    「終わりにします! 鍋パーティの尺のために!」
     優雨は光の渦から槍を浮かび上がらせると、ゴリノイドの胸めがけて投擲した。
     エネルギーを帯び、ゴリノイドを貫く槍。
    「ウ、ウガアアアアアア!」
     そしてゴリノイドはそういう撮影技法かなってくらい綺麗に爆発四散して消えたのだった。

    ●ゴリライブ!! ザ、ムービー!
     ――かくして!
    「さあ投入鍋パとしゃれ込もうじゃないか! でもって差し入れの唐揚げハイ」
     恐ろしきゴリノイドは灼滅され世界の平和は……ってあれ!?
     糸子はタッパーに入ったささみの唐揚げを持ってライブ会場へやってきた。
    「いやあ本当の会場はここだったんですなデュフフ」
    「危うくハゲに騙されるところでしたなデュフフ」
    「これはハゲじゃない。スキンヘッドだ」
     田中山口を引き連れて会場入りするキィン。
     他の仲間たちも差し入れ片手に会場入りである。
    「えーっと……」
     周囲の顔ぶれを見回して、巡業ちゃんの胸を見て、顔を見て、もう一回胸を見て頷く優雨。
    「お疲れ様です巡業ちゃんさん。お元気でしたか?」
    「胸で覚えてんじゃねえよころすぞ☆」
    「まあまあ。メシ喰うんだろ? 付き合うぜ」
     ぐっと親指を立てる真紀。
     同じくぐっと親指を立てるエステル(レア映像)。
    「ぺたんばんざい。たゆんはほろぶの。お豆腐たべてイソフラボンなの」
    「えっと……みんな、言いにくいんだけど……」
     彩華がもじもじしながら言った。
    「大豆イソフラボンで胸が大きくなるのは、迷信だよ?」
    「えっ」
     お椀が手から滑り落ち、カラーンと床ではねた。
    「じゃあ、私がやってきたのは……?」
    「筋肉の育成、かな」
    「アブドミナルゥー!」
     膝から崩れる巡業ちゃん。
     そんな彼女の肩を、がしりとハチミツが掴んだ。
    「諦めるには早いですわ! さあこれを!」
     言って突き出されたのはキャベツだった。
    「キャベツにはボロンという巨乳育成成分が含まれていますわ。食物繊維でお腹スッキリ。グラマラスボディが手に入りますわ!」
    「ああ、ボロン。なんて巨乳めいた名前……」
    「さあ一緒に!」
    「イエス!」
    「叶え、みんなの夢!」
     両手に五本ずつのサイリウムスティックを握った文音が飛び上がった。
     何でか知らんが大量の風船が浮き上がり、空へと飛んでいく。
     カメラが戻ると、広いフードコートの真ん中で巡業ちゃんがマイクを握っていた。
    「響け、私のデビューシングル!」

     『ススレ→トウニュウ』
     歌:巡業ちゃん
     詞:いつもの人

     だって豊胸って聞いたんだ。
     そうだ……すすれ!
     後悔したくない。胸の前に、ブラの隙間がある。
    「レッツゴゥ! 貧乳! HIN-NYU-HA!」
     (一斉に駆け出す文音とハチミツと巡業ちゃん)
    「イエスドゥ! 貧乳! HIN-NYU-HA!」
     (下り階段でつまずいて頭からいく巡業ちゃん)
     (車の通りが激しいエリアを軽やかなステップで通り抜けていく真紀)
     (頭から血ぃ流しながら立ち上がる巡業ちゃん)
     豆食おう、胸を揉もう、成長待たないで。
     肉食おう、サプリ飲もう、なんでもいいから。
     (ショッピングモールの道を踊りながらゆっくり歩いて行く糸子と優雨)
     豆乳煮えたって、豆腐を投げ入れる。
     さあ食おう、君も食おう。ススレ→トウニュウ。
     (ねじりはちまきのキィンが豆乳鍋の味見をしてキリッと目を光らせる)
     (胸に手を当てて目を濁らせるエステル。同じく胸に手を当てるがそれはそうでしょうという顔をする彩華)
     熱い豆腐。
    「頬張って」
     食べて走った。
    「食べ過ぎたんだ」
     みんなかこめ。
    「もちよって」
     寄せて上げて確かめたいタニマ。
    「「ハァイ!」」
     (おふとんに跨がったババロアが手を振る。ササミ串を両手に田中山口が天へ立ち上がる。中央で激しいオタ芸を始める文音)
     (全員が駐車場に飛び出して列を成して踊り始める)
     (一糸乱れぬオタ芸を披露するギャラリーたち。スキップで交差していく糸子や優雨たち)
     貧乳! 育たないおっぱいじゃない。
     それいけ貧乳派!
    「「HIN-NYU-HA!」」
     貧乳! 成長がある限り。まだまだ諦めない!
    「「HIN-NYU-HA!」」
     貧乳! パッドじゃない巨乳なら。
     それいけ貧乳派!
    「「HIN-NYU-HA!」」
     (イベントステージで全員手を繋いで掲げる)
     貧乳! 希望が見えてきた。
     貧乳が輝ける。僕らの需要がある。
     (引いていくカメラ。壁を抜けてどこまでも引いていくカメラ。周り田んぼと空き地しかないすっからかんのショッピングモールの全形が映り込んだ)

    「私の成長は、これからだ!」

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 12/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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