平成伊賀の乱

    作者:日暮ひかり

    ●scene
    「いやはや、感激でござるなあ……拙者のような一介の忍びに城をお与え下さるとは。わかり申した。この伊賀忍者怪人長門・半太夫、命をかけて安土城怪人殿にお仕えするでござるよ!」
     ここは三重県伊賀市。かの伊賀忍者で有名な地だ。
     そんな里に和風の小城が突如出現した。その最上階から周囲を一望する、牛の角を生やした忍装束の青年が一人。彼こそが伊賀のご当地怪人、長門・半太夫である――。
     
    「それは良かった。断られるかとヒヤヒヤしましたよ」
     外廻縁に立てられた、城主の印たる『NINJA』のご当地旗。配下として派遣された忍装束のペナント怪人達。ペナントの柄も、伊賀のご当地名物が盛り沢山だ。長門も大満足の様子で、ペナント怪人の言葉にうんうんと頷いた。
    「多少複雑な思いもあるでござるがな。そんな事より、この城と下忍達を使って憎き松阪市民と松阪牛怪人を一網打尽でござる。奴ら『松阪牛は三重が世界に誇るブランドだけど、伊賀牛は東海止まり』とか思って油断しきってるでござる。好機! 暗殺でござる!!!」
    「汚い!!」
    「その次は近江牛と神戸牛でござるな。この毒入りかた焼き手裏剣で三大和牛を駆逐しつつ、諜報術を駆使して伊賀牛がその地位をいただくでござる。そしていつのまにやら世界に誇るブランドへ!!!!」
    「さすが伊賀忍者怪人殿、汚い!!!」
     配下達のリアクションを見た長門は満足気に頷き、悪そうな笑みを浮かべた。
    「どのような剛の者であろうと、この最強の忍者城は制圧不能なり……おっと、ご当地旗も隠しておかねばな。我が伊賀怪人衆はもはや向かう所敵なしでござる。はーっはっはっは!!」
     
    ●warning
    「札幌での戦、御苦労だったな。お疲れの所に申し訳ないが、今度は三重県に向かって頂きた…………おい、イヴ君。起きたまえ」
    「ZZZ……は。はいっ! イヴ寝ていましたか? ちょ、ちょっと全力投球しすぎてしまいましたね……でもイヴはまだまだ元気ですよ! ところで、三重県ってどちらですか?」
    「正確な解答は俺にもわからん。東海なのか近畿なのかが常に曖昧な存在とされており、県民すら然程気にしていないとの噂。伊勢や鈴鹿、四日市や松阪など全国的にも有名な市が数あり、県庁所在地の津に至っては世界一短い駅名として認定を受けているにもかかわらず、場所を忘れがちな県の一つであるとも囁かれる謎に満ちた土地だ」
    「まあ。そんなミステリーゾーンが本州にあったなんて……!」
    「だがこう考れば納得がいく。全て伊賀忍者怪人の工作だったのだ!」
    「ええええええええ!?」
     
     鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)曰く、彼らは忍んで世界征服を果たすため日夜情報操作に暗躍しているらしい。効果の程は定かではないが。
     そんな伊賀忍者怪人が安土城怪人に城を与えられ調子に乗っている。まだ眠そうなイヴ・エルフィンストーン(高校生魔法使い・dn0012)を遠慮がちに起こしつつ、ただちに灼滅すべきだろうと鷹神は言った。
    「伊賀忍者怪人こと長門・半太夫は、一国一城の主となった事で通常時より強くなっているようだ。これを解除するため城に潜入し、最上階中心部の隠し部屋にあるはずの『ご当地怪人の旗』を取り上げたい所だが……」
     鷹神は灼滅者たちに説明用のプリントを配りながら、溜息をついた。
    「城というか、もはや忍者屋敷なのだ」
    「忍者さんのお屋敷ですか。イヴも聞いた事があります! カラクリがたくさんあって、とっても楽しいんですよね。ドキドキしちゃいます」
    「恐らく君が想像しているような愉快なテーマパークではないぞ……。まず上の階に昇る為の階段や、正しいルートに繋がる道が巧妙に隠されている。更に、道中には落とし穴や巨大ねずみ獲り、動く廊下など円滑な移動を阻むカラクリの数々が立ち塞がるのだ」
    「……イヴ、やっぱりちょっぴり楽しそうな気がしますけれど、時間はかかりそうですね」
     イヴはプリントを見ながら首を傾げた。
    「ああ。ゆえに、攻略を諦め正面から戦闘するという選択肢も提示させて頂こう。だが、正面から正々堂々カラクリに挑む必要もないぞ」
    「どういう事ですか?」
    「君達にはESPがあるではないか。使えばいい」
    「ああっ!! た、確かに、あれやあれを使ってしまえば楽々ですが……ズ、ズルなのでは?」
    「ふ。かの名将朝倉宗滴もこう言っている……例え犬畜生と罵られようと、世の中勝ってなんぼなのだ! はっはっは!!」
    「鷹神さん、忍者怪人さんと気が合いそうですね……」
    「……そ、そうか? まあ戦国かぶれには戦国の流儀で対応すればいいという事だ」
     怪人とはいえ彼も一介の忍び。里のため、恩義に報いるため、死力を尽くしてくる。
     卑怯な手を使ったからといって、恨み事を吐くような真似はしないだろう。
    「安土城怪人さん、何だかとっても人気があるみたいですね。人の心をつかむのがお上手なんでしょうか」
    「かもな。だが、これ以上勢力を拡大させはせん。伊賀の城は伊賀上野城のみで充分だと、奴に思い知らせてやるのだ。伊賀忍者怪人を成敗せよ!」


    参加者
    鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    服部・あきゑ(赤烏・d04191)
    南条・忍(パープルフリンジ・d06321)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)
    朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)
    土也・王求(天動説・d30636)

    ■リプレイ

    ●1
     風雲急を告げる伊賀の里。怪人が支配する魔城に、忍び寄る間者の影あり。
    「おおー! ここはBBQには絶好のロケーションじゃな!」
     城を見あげたエウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)は、物見遊山に来た姫の如くはしゃいでいた。何のボケかと思いきや、乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)が戦場でもおいしく肉が焼けると評判の携帯用炭火焼器(殲術道具)を取りだす。ガチだ。
    「こういう作業は慣れてないので手際が悪いのは勘弁してくれ」
    「これも文明の利器にござるか……」
     並べられる塩、タレ、ポン酢、もみじおろしを鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338) は不思議そうに眺めた。怖ろしい事に全て殲術道具である。
     肉の香りと共に、城の方へ流れる煙。城内の伊賀忍者怪人長門・半太夫は、壁の覗き穴から外を眺めた。
    「や、焼肉……? 面妖な。待たれよ灼滅者、拙者の領地はよいこの合宿所ではない!」
     慌てて出てきた長門達に歩み寄るは、伊賀のご当地ヒーローにして聖太、忍、エウロペアらを率いる忍者倶楽部の首領、服部・あきゑ(赤烏・d04191)。二人の間に熱い火花が――!
    「怪人とヒーローと立場は違えど、伊賀を愛する点では同じ! 皆に伊賀牛の美味を叩き込もうではないか!」
     いや、あきゑは忍者的なポーズで爽やかにウインクしていた。
    「ふむ、腹が減っては戦も出来ぬ。一理あるが……罠ではござらぬか? まずは毒見を……」
    「その必要はないよ!」
     あきゑは長門にぴったり寄り添った。そのままの状態で焼けた肉を一口食べ、怪人の口元に持っていく。
    「口を開けろ。ほら、あーん……」
    「え! で、では失礼……うまい!」
     くノ一色仕掛け作戦、成功。黙々と肉を焼く聖太を、エウロペアとイヴ・エルフィンストーン(高校生魔法使い・dn0012)が手伝っている。
    「イヴや、イヴや、こっちの方は焼けたでござる! ほれ、頂こうぞー?」
    「わあ、有難うございます! ではイヴも失礼して……」
    「……な、なんと!? この口いっぱいに広がる自然な旨味は一体……?」
    「タレにもぽん酢にもよく合いますねえ!」
    「幻惑されるが如き、この舌を浸す悦び……まさに、忍術! お、おかわりじゃ!」
    「随分と大袈裟でござるな。む……!?」
     肉を口に運んだ忍尽が、電撃を受けたように膝をつく。まさか、毒――という事もなく。
    「くやしいでござるが、甲賀流の拙者も此の味は認めざるを得ないでござるな。恐るべし、伊賀牛!」
    「はっはっは! そうでござろうとも!!」
     ちょろい。
     月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)は心の中でそう思ったが、口には出さない。
    「伊賀牛って食べたことないのだよねえ。松阪牛は一度だけあるのだけど、たとえば松阪牛とはどのような点が違うのかな?」
    「伊賀牛は伊賀忍が戦時に保存食として用いた干し牛肉を元祖とする、由緒正しき忍者飯でござる。とろける柔らかさ、旨みと甘みを兼ね備えた濃厚なる味わい! どのように食しても美味だが、ばたあ焼きが拙者の一推しで」
     以下略。そうなんだ、と適当に頷きながら、巴も肉を口にする。
    「ぬう。仮面を付けたまま肉を食すとは……!」
    「難しい事ではないよ。忍術と同じさ」
     そうかな。
     謎の盛り上がりを見せる灼滅者と怪人の懇親会。卑怯万歳と言っていた鷹神もこの作戦には驚くに違いない。イヴはふふと笑って肉を食べ、城の方をちらと見る。

    「くっくっくっ、ダンジョンマスターの血が妾にココを攻略せよと訴えかけてきておるわ。待っておれよ、金銀財宝に忍者の秘伝書! あとついでに旗!」
    「ついでじゃないよ!? 美味しい三大和牛を駆逐するなんて、絶対にさせるもんかっ!」
     本来の目的をほぼ忘れている土也・王求(天動説・d30636)を、南条・忍(パープルフリンジ・d06321)が忍者走りで追いかけていく。
    「私の故郷は三重の近くだけど、やっぱり何処って聞かれるよ……」
     紀州犬のかのこも心なしか元気がない。和歌山と三重は熊野古道で結ばれた盟友だ頑張れ朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)。たぶん。
     以上三人、ほか仲間達が忍び足で城内に忍び入っていく。そう、焼肉会は城を制圧するまでの時間稼ぎだった――電光石火の攻城戦が今始まる!
     
    「伊賀牛は昨年度初めて、アメリカデビューしたばかりだとか。ついに世界に進出したのだし、これから少しずつ広まっていきそうだねえ」
    「うむ、お主らも伊賀牛の諜報活動を宜しくお頼み申す!」
    「おっと、デザートはかたやきだ!」
     ……それにしてもこの人達、普通に楽しそうであった。

    ●2
     焼肉に夢中な長門の目を盗み、城門に押し寄せる灼滅者達。その光景に忍は妙な既視感を覚えた。
    「あっ! これ忍研ゼミで見たことある!」
     忍が皆を制止する。勢いよく突っこんでいった待宵・露香らの姿が消えた。
     三人は床板にあいた穴を覗きこみ、合掌する。
    「危なかった……不審な床板は抜き足差し足忍び足、だね」
    「長門め、あやつも忍研ゼミ受講者じゃったか」
    「私も申し込みしようかな?」
     玄関にいきなり落とし穴、忍者業界では常識だ。
     王求は落ちた誰かの頭を踏み台に穴を越えた。忍はダブルジャンプで跳び越え、穂純は壁歩きで避けて通る。先へ進もうとした一行を宵闇・月夜が引きとめた。
    「たぶんこの辺の足場を踏むと……ほらね?」
     床を探ると、かちりと音がし何か飛んできた。月夜は壁に刺さった毒矢を鋼糸でからめ取り、投げ捨てる。序盤からなんという歓迎だろうか。
     東西南北に散り、探索を進める灼滅者達。忍者倶楽部の仲間、緋梨・ちくさと共に北へ向かった忍だが、行き止まりのようだ。忍は壁を叩いて回る。外から見た時は、奥に道がありそうな様子だったのだが。
    「ひらめいた! 面倒だから放火しよう!」
     ちくさがマッチを取りだした時、彼女のビハインド、僕のヒーローが壁の不自然な窪みに手をかけた。
    「城は燃えるもの! 旗は奪うもの! 首は取るも……アバーッ!」
     なんと、引き戸になった壁から隠し通路が現れた。ちくさは戸に挟まれ、ヒーローは降ってきた金ダライで頭を強打し倒れる。
    「ここが階段に繋がる隠し通路だね。緋梨どのの死は無駄にしないよ!」
     穂純と王求を携帯で呼び出し、三人は駆ける。ところが、ちっとも先に進んでいる気がしない。
    「おーーー動く廊下じゃ!」
    「忍者屋敷すごい! ちょっとわくわくしちゃうよ」
     しかし事態は一刻を争うのだ。忍は素早く辺りを観察する。
    「うーん、緊急停止ボタンとか付いてないのかな? ……あそこだ!」
     今日こそ、日頃の特訓で鍛えた忍者的あくしょんが輝く時――!
     忍は地を蹴った。二段跳びで更に空を駆けながら、手裏剣を投擲し廊下の先の停止ボタンを貫き、着地。一行は廊下を風の如く駆け抜けた。
    「すごい、南条さん忍者っぽい! 師匠、私の忍術も見て下さい!」
    「そ、そうかな?」
    「お宝はどこじゃー……」
     まんざらじゃない様子の忍をよそに、王求は地べたに這いつくばっている。三人とも実に楽しそうだ。
     穂純は壁歩きで壁を伝い、外れそうな天井板を探した。上階から縄ばしごを下ろし、二階へ突入する一行。
     しかし。
    「廊下の向こうから大きな岩が!」
     これってニンジャ屋敷だよね――皆がそう思った瞬間、楯縫・梗花と蜂・敬厳が立ち塞がり岩を止めた。
    「くっ……皆、今のうちに進むんだ……!」
    「すべて、わしが受け止めてくれようぞ!」
    「すまぬ二人共……! 怪力無双とか妾は見なかった!」
     仲間を失う悲劇を乗り越え、進む灼滅者達。穂純とかのこは保護者の関島・峻と共に城の西側へ進んでいく。
    「かのこ、先を歩いてくれるの?」
     わん、と声がしたその時、かのこの足が廊下に張られた糸を引っ掛けた!
    「かのこー!!」
     一緒に上まで行こうって、言ったのに。
     かのこに落下する無慈悲なる棘つき釣天井――助けようと飛び出した穂純は、誰かに突き飛ばされた。がらがらと破壊音が轟き渡った後、恐る恐る目を開ける。
     無傷のかのこが瓦礫から出てきた。かのこを護り、天井の下敷きになっていたのは――峻。
    「穂純、振り返らず先に進むんだ……必ず旗を手に入れてこいよ」
    「わああ、関島さん死なないで! お小遣いもっと欲しいんだよう!」
    「…………」
     このまま息絶えた方が色々と心安らかな気がしないでもない。かのこにかすり傷を舐められながら、峻はそう思った。
     一方、別方面を探索中の王求は行き止まりに怪しい桐箱が置いてあるのを発見していた。
    「ダンジョンマスター的に、ああいうのの中身は秘伝書と決まっておるわ!」
     疑いもせずつっこんでいくダンマス(ダンジョン制覇経験一回)。しかし、後ろから来た四月一日・いろはが王求を追い抜く。
    「財宝は渡さぬううう……ぬおお!?」
     案の定発動した巨大ねずみ捕りに挟まれながら、いろははキラッとキメ顔を作る。
    「大丈夫だよ、きっとまた会え」
    「分かった!」
     超銀河的速度で桐箱だけ奪取した王求は鋭角的なターンを決めて走り去った。
     どんでん返しの壁を抜けてきた忍は、丁度その場面に遭遇し冷や汗をかく。
    「もしチーズケーキが仕掛けられていたら、と思うとゾッとするな……ん?」
     ねずみ捕り付近の天井をよく見ると、継ぎ目から紐がはみ出ている。もしやと思いひいてみると、上階への隠し階段が下りてきたのだった。

    ●3
     その頃、城外では未だに懇親会が続いていた……かと思いきや。
    「覚悟!」
     配下のペナント怪人達が不意に放ったかた焼き手裏剣が乱れ飛び、皆の口にイン。
    「か、かたい……ではなかった、毒でござる!」
    「ふははは! いつまでも仕掛けて来ぬので先制してやったぞ。隙だらけにも程がござる!」
    「くっ……! 悪い皆、あたしが未熟なばっかりに……切腹だ……」
    「止せ、あきゑー!! わらわも悪かったのじゃ、つい食欲に負けてしもうた!」
     あきゑとエウロペアが膝をつき苦しんでいる一方、すぐに態勢を切り替えた忍尽は『偽肉注意』の黄色看板を振りかざし、隙を作ろうと試みる。主人と並び立ち、きりとつり上がった眼を輝かせる土筆袴は、まさに忠実な忍犬といった所か。
    「先刻貴様が食べた肉には近江を忍ばせておいたでござる。……美味かったでござろう?」
    「な、何!? 美味しく召し上がってしまったでござる!」
    「ふ。ブランド牛肉に貴賤無し! にござる」
    「ぐう……かくなる上は、お主らも美味しく焼いてやるでござる。伊賀忍法、火遁の術!」
    「……どちらが喋っているのか思いの外解り辛いな」
    「拙者にござる」
     これ以上の追及は無駄だ。冷静にそう判断した聖太は、手甲に仕込んだ大量の手裏剣を左手の指に挟む。長門の投げた火薬玉で火の手があがる中、手裏剣は正確に飛び配下達の手首に突き刺さる。
    「手裏剣使いの怪人がいると聞いて来た。お手並み拝見といこうか」
    「ほう、中々の手練れでござるな。だがいつまで持つかな?」
    「な、なんの……空手裏剣ッ! そなたらのかたやきは全て撃ち落とぉす!」
    「ああ。併せ技で行くぞ、エウロペア!」
    「合点なのじゃ! ゆくぞエイジア、お藤!」
    「にゃあー!」
    「わん(主様の言いつけ通りに。だから後で美味しいオヤツを下さいな)」
     エウロペアは聖太の見よう見まねでエア手裏剣を投げながら、清めの風を巻き起こし毒や炎を打ち払う。あきゑの防護符が風に乗り、皆を庇って火傷を負った忍尽へ送られる。ウイングキャットのエイジアと霊犬のお藤も、尻尾を振りながら傷を癒し、戦線を支える。
    「な、長門殿、風で手裏剣が投げられません!」
    「どうせ初心者でござろう。数撃ちゃ当たるでござる!」
     下忍、もといペナント怪人達はともかく、今の長門は強敵だ。探索班は今どうなっているのだろう――配下の一体を槍で貫いたのち、巴は携帯電話の振動に気づいた。どうやら半分を突破したらしい。道化師めいた言葉を唇に乗せ、巴は端麗な笑みを浮かべる。
    「自を誇るのは素晴らしい。けれども、他を認めなければ、いずれ敵だらけになってしまうよ」
    「黙れ、松阪の回し者め。来るがいい……天誅でござる!」
     攻める怪人、防戦に徹する灼滅者達。彼らの忍道はまだまだこれからだ。仲間の勇気が城を落とすと信じて――!

    ●4
    「ヤバイ、今濃厚な打ち切り臭がしおった!」
    「早く旗を見つけないと皆が死んじゃう!」
     数々の犠牲を払い、最上階まで辿りついた探索班。壁、床、掛け軸の後ろ……探し回ってはみたものの、もう時間がない。どうする穂純!
     ――メリメリバキバキバキッ(破壊音)!
    「ズルは駄目って学校で教わったけど時には必要なんだね。覚えたよ」
     青空に峻の遺影を思い浮かべ、穂純はちょっと大人な目をする。鬼神変でそれっぽい壁を壊し、遂に隠し部屋への道が開かれた。
    「ここだね。ボクなら旗の手前に一階直通の落とし穴とか仕掛けるから気をつけ」
    「はーっはっはっは、これでダンジョン制覇じゃ! ……ぬわぁぁーーーーっ!!」
    「て」
     王求が穴に落ちた。
     …………。
    「暗殺により食の地位を得ようとするなんて、言語道断っ!」
     落とし穴をひょいと避け、NINJA旗を手にした忍は旗をへし折る。代わりにお子様ランチの旗を挿した彼は、満足気に瞳を輝かせ頷いた。任務完了だ。
    「さよなら土也さん、花火は私が受け継ぐよ」
     昭和臭漂う色とりどりの打ち上げ花火が、穂純の手によって次々と空へ放たれる。城外の長門は驚き、城の方を振り返った。
    「な……ぬ!? ち、力が入らぬ……!」
    「スピード、コントロール、回転……どれも甘いね。手裏剣の威力を1%も生かせていない。これじゃあ手裏剣が可哀想だよ」
     配下の投げた手裏剣を右手で捕らえ、投げ捨てると、聖太は足袋めいたスニーカーで地を蹴る。
    「目には目を、歯には歯を、手裏剣には手裏剣を。これが手裏剣ハムラビ法典だ」
    「ぐわーっ!」
     彼が回転体当たりで配下を葬った瞬間、皆の目の色が変わった。
    「――秘技、十字架手裏剣!」
     エウロペアはクロスグレイブを天高く掲げ――ぶん投げた。
     乱れ飛ぶ光線は配下を焼き、ついでに本体が長門に当たる(かすり傷だが)。
    「痛!」
    「そなたらの影は縫われた……もはや満足に動けぬ!」
    「お、おのれ……城内に隠密を放っていたでござるか!」
    「『お前より忍として劣るあたし達に負ける筈がない』――その油断が命取りだったな、宿敵」
     イヴの魔矢や、巴の杖を受け最後の配下が倒れる。盾を失った長門の背に、赤い影が音も無く舞い降りた。
    「ヒーロー様のお通りだぜ。――千枚通し」
     とすり、と。静かに背を貫き、腹から突き出た刃を長門は茫然と眺める。
    「……くっく。道化を演じておったか、宿敵」
    「格好悪い上等。それが本当の忍の仕事だろ?」
     互いにしか聞こえぬ囁きを交し、あきゑは長門の撃った鉄砲の弾を至近距離で受け止めた。
    「……仲間を死なせないのも、忍の仕事だよ」
     血飛沫を散らし、倒れかけたあきゑ。その背を支えに走ったのは忍尽だ。
    「隣地同士で切磋琢磨しあった伊賀忍者の名を汚す者は、甲賀者としても許せぬでござる。いざ助太刀でござる!」
     忍尽が素早く印を結ぶと、癒しの光があきゑを包んだ。彼は更に上空へ合図を送る。そこには、綾峰・セイナの箒に乗った王求。一階に落ちる寸前に辛くも救出されたらしい。バベルブレイカーを構えた王求が、ジェット噴射でミサイルのように急降下してくる――!
    「突貫じゃーーーーーーー!」
    「ぐうっ!」
     死の中心点を突かれ、悶える長門。続いて、壁を歩いて降りてきた穂純もかのこを抱いて現れた。じきに忍も合流するだろう。更に、何事もなかったように蘇った仲間達が長門を包囲する。
    「やあ、探索班の皆か。待っていたよ」
    「い、一体何人仲間がおる!」
    「さて。分身の術かもしれないね」
     攻め立てられ、狼狽える長門に底の読めない微笑みを返し、巴は夜色の服を翻す。手品のように長門の視界から消え失せた彼は、寸分の躊躇もなく長門の喉元を貫いた。
     おやすみ。柔かな声音が、月のように冷たく響く。
     長門が倒れながら投げた手裏剣の一つが聖太を襲う。彼は爆裂手裏剣でそれを爆破し、一帯が煙に包まれた。噴煙の中から現れたのは――宛ら、巨大な手裏剣。
     拘りの一撃。最後はやはり自らの身体を手裏剣とし、聖太は長門に引導を渡した。
    「悪いね。手裏剣の扱いなら、俺の方が上だ」
    「見事……用済みの忍びは露と消える宿命にござる。さらばだ灼滅者、いや、強敵(とも)よ。されど伊賀忍は不滅なり……!」
     武蔵坂史上稀に見る(であろう)忍者大戦が今、終わった。
     しめやかに爆散していった長門を、一行は涙ながらに見送る。敵とはいえ、何か通じ合った気がした瞬間だった。
    「平成伊賀の乱、これにて一件落着じゃ! 所でそなたの主人は今、何しとるんじゃろな?」
    「わふわふ(主様? ……あぁ、良い人でしたよ)」
     エウロペアに貰った伊賀牛を食べつつ、お藤は空を見上げる。
    「カラクリ楽しかった! ありがとう伊賀忍者さん」
     穂純も合掌し、空にお祈りする。前髪をかきあげる黒髪の青年の姿が、青空に浮かび、消えていった――。

    「……かのこ、長門さんってあんな顔だった?」
     忍者倶楽部の面々は、そういえば来ると言っていた両角・式夜を見ていない事を今更思い出す。
     数分後、城内の落とし穴で死んだように眠っている彼が発見されたという。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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