尾張名古屋はあんかけで持つ

     小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
    「こんなエレガントな城をミーに……。安土城怪人様には感謝の言葉もございません」
     怪人の名前は名古屋あんかけスパ怪人。イタリアの優美さと日本のわびさびを併せ持つ、一本筋の通った男だ。
    「これも貴方様の力を認めてのこと。我ら共々、どうぞ好きにお使いください」
     背後に並ぶペナント怪人達が、あんかけスパ怪人へと首を垂れる。その頭のペナントは、あんかけスパをフォークで持ち上げた図……。食品サンプルでよく見る形のイラストだ。
    「そうか……。この城とユー達がいれば『パスタ』イコール『あんかけ』となる日も近い」
     スーパーの棚や飲食店のパスタメニュー、子供達のお絵かきに好きなパスタランキング。全てでミートソースやナポリタンを追い越して、あんかけを日本パスタ界の頂点……いや、何れは本場イタリアを含め世界パスタ界の頂点へ……。
    「これから忙しくなりますね……」
     あんかけスパ怪人の夢は、この城から始まるのだ……。
     
     小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。先日も御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)を始めとする灼滅者達が、その1つを潰している。
    「で、集合がかけられたってことは、僕の予想が当たってたってことかな?」
    「うん。安土城怪人は、やっぱり他の名古屋めし系怪人にも声をかけてたみたいなんだよ」
     先日の依頼に続いて須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が予知した怪人は、名古屋あんかけスパ怪人。パスタ界の頂点を目指して活動を始める予定だ。
    「というわけで、怪人が事件を起こす前に灼滅をお願いするね!」
    「もちろんだよ。それで、今回の城にはどんな風に『旗』が置いてあるんだい?」
     城を与えられた怪人は、城に翻る旗によりパワーアップしているのだが、それを下ろせば弱体化して有利に戦うことができるのだ。
    「実はこの怪人、城内を迷路に改造していて、旗はその先の最上階にあるんだ」
     迷路攻略に時間をかけすぎたり、城壁登りや空飛ぶ箒で最上階にショートカットをするとバベルの鎖で気付かれ不意が打てなくなる。また、迷路の壁を壊すなどはこちらから侵入を知らせるようなものだ。
    「右手の法則的な攻略法では時間が足りない?」
    「だろうね。抜け道とか作ってるかもだし、時間切れだといつ襲われるかも分からないから気を付けて」
     なお、旗を諦めるなら城壁を登ったり箒で飛んだりもOKだ。その際は旗や怪人達のいる階の1つ下から入れるため、壁を壊してでも速攻で上に攻め上がればいい。
     失敗に備え全員で攻略に挑むか、合流方法を用意した上で別れるか、始めから旗を狙わず戦うのか……。選択は灼滅者達次第だ。
    「悩ましいところだね……。敵の戦力はどうなのかな?」
    「あんかけスパ怪人は部下に前衛を任せて、自分は後衛から狙い撃ちって戦術だね」
     フォークにエナジーを込め突き刺す、多数の赤ウィンナーをけしかける、ピーマンの種を機関銃の如く掃射する、コショウでドーピングと4種の技を使いこなす。
    「ペナント怪人は前回と同じスペックで、ポジションが違うのか……」
     クラッシャーとディフェンダーが2体ずつ。技はBS耐性付きパンチ、怒り付きビーム、応援して回復の3種だ。
     
    「それじゃあ今回もバシッと灼滅、お願いね!」
     親指を立てて灼滅者達を見送ろうとしたその時、靱がまりんに声をかける。
    「ところでさ……」
    「ん? 何か質問かな?」
    「いや、イタリアの優美さって話だけど、『ミー』や『ユー』って英語だよね?」
     そういえばな靱のツッコミだが、まりんを始めその問いに答えられる者はいない。
    「……怪人相手に真面目に考えてたらキリないし、スルーしよっか」
    「……そうだね」
     恐らく、それが最も冴えたやり方だと言えるだろう。


    参加者
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)

    ■リプレイ

    ●迷路を巡る赤と青
     城内で携帯電話が使えると確認した灼滅者達は、連絡先を交換すると赤組と青組の2組に分かれ迷路攻略へ挑む。なお、組の名前はマーキングに使うペンの色からだ。
    (「迷路は嫌いじゃない。時間いっぱいまで全力で挑ませてもらうとしよう」)
     初めの分岐点で仲間達と別れると、比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は警戒しながら迷路を先へ進む……が、少し歩いた先の行き止まりにあるのは、2階へのハシゴだった。
    (「いきなり2階へご招待、ですか……」)
    (「突き当りを上……」)
     ハシゴを見上げるソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)の横で、赤ペンを手にした湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)が不安げな表情で壁に上矢印を書き入れる。階が変わるというのは、何となく未知の領域への不安がそそられる感じがするものだ。
    (「ハシゴや周辺に罠は無いか」)
     安全を確認した御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は、青班に2階へ向かうと連絡を入れると一番手でハシゴを登り始める。

     一方の青組も、赤組と分かれてから再びの分岐点に差し掛かっていた。
    (「さて……、どちらに進もうか?」)
     と、御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)がハンドサインを送ると、仲間達はそれぞれに思う方向を指差す。相談する時間は惜しいため、とりあえず票の多い方へと進むことにする。
    (「進んだのはこっち、と……。でも、なんで迷路なんだろ?」)
     矢印を書き入れながら、笙野・響(青闇薄刃・d05985)はふと疑問に思う。わざと城内の廊下を複雑にした城は多いが、本気の大迷路というのは珍しい。まあ、5人しかいないので生活空間は最上階で足りているのだろう。
    (分かれ道を直進、と……)
     その後ろでは、上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317)が手にした紙に地図を書き記す。迷路といえばマッパーは欠かせない存在だ。
     そしてしばらくの間、進んだり行き止まりから引き返したりと一進一退という状況の中、蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)の携帯に赤組からの連絡が入る。
    (「向こうも中々苦戦している様子ですね……」)
     メールには、ハシゴの先は全て行き止まりだったため、引き返し青組の通らなかった道を探索中と書かれている。
     いつ来るともしれぬ制限時間が刻一刻と迫る中で探索を続ける灼滅者達。迷路の攻略は、果たしてどうなるのだろうか……?

    ●最も簡単かつ効率的な合流法
     時に登り、時に降り、時に阻まれて戻る灼滅者達だったが、未だ襲撃を受けることなく、青組の面々は現在2階を攻略中だった。
    (「また分かれ道か……。まあ、迷路だから当たり前なんだけど……」)
     靱が今までと同じように意見を求めようとしたその時、美玖が少し待ってほしいとメモを見せる。
    (「今までの地図を合わせると……」)
     ここで右に曲がった場合、その上下は既に探索済みのエリアのみ。つまり、ゴールである4階へのハシゴも期待できない。
     その後左への道を進んだ青組の前に現れたのは3階へのハシゴ。
    (「このハシゴ、明らかに長いような……」)
     期待を膨らませる響がハシゴを登りきると、目の前には広々とした部屋が広がっており、中央には例の旗が翻っていた。
    (「赤組に連絡を入れませんと……!」)
     敬厳が連絡を入れ終わるのを待つと、靱は旗を抜いてこれを引き裂いた。

     そして連絡を受けた赤組も、合流へ向けて動き出す。
    「青組から迷宮を抜けたと連絡が入った。合流手段は相談の通りだ。行くぞ」
    「分かりました! チェンジ! カラフルキャンディ!」
     ここまで来れば隠密は不要と、白焔は手早く攻略の成功を周知、合流のためにとソフィを始めに赤組の面々はカードを起動させる。そして、このタイミングで『ゴォン……』という重い音が聞こえてきた。
    「右を狙ってください。城壁に近いはずです」
    「了解だ……。はぁっ!」
     ひかるの砲撃が迷路の壁を貫いて、その先の壁を柩のロッドが粉砕すると、赤組の面々は城の外へと飛び降りる。

     合流場所の入口では、一足先に到着した青組の面々が待っていた。
    「ミーの城をこんなにしたのはユー達ですね! 逃げようとしてもそうはいきませんよ!」
     しかし、合流の言葉を交わす間も無く響き渡るのは、名古屋あんかけスパ怪人の叫び声。部下のペナント怪人とともに飛び降りると、灼滅者達へと襲いかかってくる。
    「ミーの城と旗を穢した罪は、万死に値します!」
     種を乱射するあんかけスパ怪人に続き、ペナント怪人達もビームを放つ。
    「蒼穹を舞え、『軍蜂』!」
    「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
     敬厳やライドキャリバーのブランメテオールに跨るソフィが攻撃を受けつつ前に出ると、ペナント怪人を縛り踏みつけ蹴り飛ばした。
    「ザコに用は無い」
    「頭が布っぽいし、斬り甲斐ありそうだねっ」
     同じペナント怪人を白焔が蹴り上げ響が切り刻むと、そこへ柩が駆け込んで行く。
    「城壁と同じ目に合わせてあげるよ」
     そして振るわれたロッドは、宣言通りにペナント怪人を粉砕し灼滅させた。
    「何をしているのですか! 早く反撃するのです!」
     あんかけスパ怪人の号令で、まだ動いていないペナント怪人がビームを放つも、霊犬達が前に立ちはだかると、六文銭を乱射し反撃する。
    「いい動きよ紫。そのまま敵を引き付けて」
    「回復します……」
     そして傷付いた霊犬に、それぞれの主人である美玖やひかるが回復を回復をかける。
    「くっ……。もう少しで新作ミラカンが完成するところだったというのに……!」
    「それはぜひ食べてみたいですね! あんかけスパ初体験に宜しくお願いします!」
     異形化させた腕でペナント怪人を殴りつけつつ、靱が新作の名に反応する。
    「どの口が……! ハッ、もしやこれは挑発……? ミーとしたことが危うくエレガントで無くなるところでした……。迷路を突破しただけあり、ユー達も中々な策士のようですね」
     突然の襲撃に焦って怒りを顕にしていたあんかけスパ怪人だが、ここにきて少し冷静さを取り戻したらしい。このまま押し切るとはいかないようだ。

    ●敗北する美学など必要ない
     その後もコショウを振りかけ己を強化し戦うあんかけスパ怪人に対し、灼滅者達も一歩も引かない戦いを繰り広げる。
    「さあ、ユー達の血でミーのウィンナーを美しく染め上げるのです!」
    「残念ですね。ブランに血は流れていませんよ!」
     乗機を盾にし飛び交う赤ウィンナーを振り切ると、ソフィのビームとブランメテオールの機銃が2体目のペナント怪人を灼滅する。
    「この場合、染まるとしたらオイルにかのう?」
    「どちらにしても、そんな具の乗ったスパゲッティなんてお断りよ」
     敬厳がペナント怪人の持つ耐性を切り払い、美玖や紫が赤ウィンナーに傷付いた前衛陣を回復させる。
    「ふっ、ミーのエレガントなセンスに付いて来られないないようですね。やはり至上なるはあんかけスパ。ミラカンこそ至上の中の至上というところですか……」
    「う~ん……。あんかけスパが美味しいのは認めるけどねー……。至上にはなれないかな。カルボナーラとペペロンチーノのハードルは高いわよ?」
     悦に浸るあんかけスパ怪人に、3体目のペナント怪人を灼滅した響の言葉が突き刺さる。
    「た、確かに今はミートソースやナポリタン、ボンゴレやクリームパスタには及びません。しかし、だからこそこの城から逆転を計るのです!」
    (「まさか味方からも胃を刺激されるなんて……」)
     最後のペナント怪人へ炎を蹴り込みながら、靱の頭に色々なパスタメニューが浮かんでは消える。そして戦場に漂うスパイシーな香りが一層食欲をかき立てるのだ。
    「いつの間に被弾を……。回復要りますか?」
    「え? ああ、俺はまだ大丈夫だよ」
     心配した回復役から声がかかるほどの表情をしていたらしい。回復を断られたひかるは、霊犬とともに後衛から支援射撃を行う。
    「くっ、例え私1人になろうとも、あんかけスパ怪人殿、ひいては安土城かいじ……」
    「消えろ」
     長いセリフとともに己を奮い立たせて傷を癒そうとしたペナント怪人だが、白焔のたった3文字のセリフとともに殴り倒された。
    「セ、セリフの途中で攻撃するとは……。ユー達には美学というものが無いのかっ!?」
    「美学はあるさ。ただ、キミ達の都合に合わせる必要がなかっただけだ」
     部下のいなくなったあんかけスパ怪人へ、柩が剣を振るい強化を打ち砕く。さあ、最後の仕上げの始まりだ……。

    ●満足した時点で成長は止まる
     弱体化した状態で、回復の厚い灼滅者達を崩せるはずも無かったが、タダでは終われぬとあんかけすぱ怪人は渾身の一撃の構えを見せる。
    「これぞミーの奥義。受けよっ、フォークブレイクっ!」
     スパゲッティ状のオーラを纏わせ突き出されたフォークが、敬厳の体に突き刺さる。
    「なんの……これしきいっ!」
    「な、なにぃっ!?」
     だが、敬厳はフォークを引き抜くと、返す刀であんかけスパ怪人を斬り付け、その体力を奪い取った。
    「み、皆の衆。今が攻め時ぞ……!」
    「……任せろ」
    「あなたの野望もここまでです! 行くよ、ブラン!」
     反撃に驚き体勢を崩すあんかけスパ怪人に肉薄すると、白焔がその体に鉄杭を撃ち込み、ブランメテオールから飛び上がったソフィが必殺キックを繰り出す。
    「捕らえました……」
    「狙い撃ちにしてあげるわ!」
     次に、ひかるが霊犬の支援射撃を受け敵を霊力の網で捕らえると、美玖の気弾と紫の刀がその体を貫く。
    「その頭のパスタ、ショートスパにしてあげるからね!」
    「今日も名物を美味しく食べて帰りたいんでね。終わらせてもらうよ!」
     そして更に響の刃が切り刻み、靱が地面に蹴り倒すと、最後に迫るのは柩。
    「ぐっ……。この城があれば、パスタ界の頂点は約束されていたものを……」
    「城程度で頂点を取れると満足している奴が、本当の頂点、ましてや世界なんて征服できるはずもない」
     そう淡々と告げた後に、異形化した拳が振り抜かれる。
    「あ、安土妖怪人様……。どうかこのミーに変わり、必ずや頂点をぉぉぉぉぉぉっ!」
     柩の言葉に心を、拳に体を潰されたあんかけスパ怪人は、安土城怪人の勝利を願いながら爆散していった……。

     こうして再び名古屋めし系ご当地怪人の城を攻め落とした灼滅者達。例え次の城が建とうとも、必ずやその全てを落としてくれることだろう。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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