想い灯橙~鬼灯探し

    作者:一縷野望

     鬼灯市は毎年7月9日10日に開催されるお祭りだ。
     真っ赤な提灯の雷門をくぐれば、まず目に入るのは鮮やかな橙――鬼灯の群れ。

     風鈴連れた鉢植えは、ちゃんとお世話すれば冬も越えて、鮮やか橙は見る度に張りをくれる。
     鈴なりの枝はランタンのようで、ちょっと自慢したくなる。
     籠入りの鬼灯は手元に置けば日常に華やぎをくれる。

     鬼灯選びは、景気よく客引きする店員さんに見繕ってもらっても良いし、お気に入りを自分で探すのもまた格別。

     鬼灯以外にも、所謂お祭り屋台もずらり勢揃い。
     
     賑やかな雑踏と涼やかな風鈴の合唱の中、そぞろ歩くだけでも心が弾む。
     金魚すくい、かき氷、お好み焼き、射的と……基本どころは一通り。B級グルメの「あげもんじゃ」なんてのもある。
     お小遣いを握りしめて、楽しいばかりが詰まった遊びに興じるのも一興だ。


    「鬼灯には不思議な魅力があると思うんだ。みてると『がんばろう』って気持ちになれる」
     灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は、機関・永久(リメンバランス・dn0072)のスマホに映し出された橙の群れをちょんとつついた。
     毎年この市の度に買い集めた鬼灯の鉢がずらり庭に並ぶ。
     時が来て枯れてしまったモノは土に返し、また再び新たな灯を灯し続けるのだと、鬼灯に良く似た瞳を穏やかに曲げた。
    「120軒も鬼灯のお店……出るん、ですね」
     探すだけで大変そう、でもそうやって橙の中に迷い込むのこそが至福の時かもしれない。
     1人でのんびりも、大事な人と寄り添い歩くも、気の置けない仲間とはしゃぐもお好み次第。
    『46000日のご利益』
     それに手を伸ばす人達がきっかけのお祭りへ、よろしければあなたもどうぞ。


    ■リプレイ

    ●愉楽屋台
     浅草は浅草寺で毎年7月に催される『ほおづき市』
     今年は平日のためか、陽が傾いたこの時間からドッと人が押し寄せはじめる。
     そんな彼らを誘うように石畳の左右にて揺れる鬼灯達。
     赤、橙、緑……。
     一つとして同じ彩は、ない。
     それは此の地に訪れる皆と同じ、一人として同じ者はなく、みな唯一無二の灯りを携えてこの祭りを遊ぶ――。

     色白淡色髪の友人達を菖蒲や鉄線模様で飾り立て。
     からころり。
     白地に紫陽花、紺地に牡丹……銘子とまほろの艶やかさにほうと溜息、ミユと六華の熱は人混みに融ける。 
     乙女達の脇、陽を遮るテントの中広げられた和色の祭典。品の良さと気軽さの間の値に歓声あがる。
    「お揃いで簪、ほしいですね……」
     形あれば辿れる想い出、六華に頷くミユは鬼灯簪をつまみ上げた。
    「ころんとしてて可愛い」
    「根付けもあるのね」
     銘子は二つ、一つは杣へのお土産。
     会計済ましたまほろは、鬼灯を六華の髪にしつらえる。
    「ふふ、お揃いのお土産は素敵な思い出になりますね」
    「えと……ここで良いのでしょうか?」
     ミユが結び目にあてがう指を優しく包み銘子は見目良く飾ってやった。
     ――さて、お次は今宵の鬼灯求めるか。
     お揃いうさぎ、赤と青の帯ひらり。
     射的の前で手招く赤金魚歌音と青金魚雪緒に、太郎はほくほくと瞳を細める。
    「いくぜ!」
     勇ましい歌音のコルクは親父の頭にぺちん☆ 更に雪緒を掠めるも華麗に避け事なきを得る。
    「あちゃーごめんなー」
    「そっちのお嬢ちゃん筋いいねぃ」
     雪緒が渡されたのは首が解れ綿出た人形、呪いめいてるぞ?
    「フム、これはこれで」
    「そいじゃ、仇討ちといきますか」
     試し打ちで銃の癖を見抜き、太郎は豪華賞品打ち取ったり!
    「ふふ、お見事ですね」
     やってきたのはもっふりくまさん、抱えると前が見えないぐらいの!
    「うわー、食道の隅っこに座らせとく?」
     一抱え脇に置き、リクエストにお応えして総ざらえ!
     誕生花である鬼灯下がる屋台通りに勇介は手放し破顔。
    「そりゃテンションあがるよなあ」
     元気な橙実に緑葉……心安らぐ彼らが自分に関わるなら一塩だろと健は頷いて。
    「軍資金はここに」
    「ゆーちゃんにいっぱいおごってもらおーっと」
     3人が目を向けたのはクロワッサン生地の鯛焼きだ。
    「あ、陽桜さんの帽子おっしゃれ。あ、何味がい? 永久に頼むから」
     標は注文を永久に押しつけ三人に混ざる。
     サクサク、ほろり。
     小豆チョコ抹茶、どれも美味しい! さながら焼きたて菓子パンのようと輝く瞳達。
     お次はあげもんじゃを賭けてクマぬい抱えた太郎達に入れ替わり射手台に、五人で勝負開始だー!
    「スナイパーで鍛えた腕で」
    「俺も……スナイパーなら負け、ません」
     きゃいきゃい歓声あげて、はてさて誰のお財布が軽くなるのやら?!
     ――鬼灯にそそられるけどまずは、
    「「屋台」」
     被った部分に気が合うねと小太郎と木鳥は晴れやかに笑い合った。
    「うん、手は空けておかないとねっ」
     おねーさん九鳥も賛同。ご利益たっぷり祭り屋台の中、目的のあげもんじゃ発見。
    「ヤケドしないよ……」
    「ぅあっ……でも熱ウマ!」
     お次は木鳥的定番ベビーカステラ。
    「分けてもらうと何か味違う気がする」
     小太郎も九鳥もぱくぱく、大袋がなくなった。
     できるのわくわく綿飴。
    「きーくんあーんして」
     甘やかしおねーさんからの林檎飴。
     倖せお福分け。でもお土産の前にまだまだ三人は食べ盛りです。
    「っきたきたきよったぁ」
     苺氷にキーン♪
     こめかみ押さえる乃麻の脇でゆまが誘惑に負けてあげもんじゃゲット。
    「ダイエットなんて意外……大丈夫か?」
     舌焼いたゆまへ焔は慌てて水差しだし。
    「ありがとうです!」
     乙女としては、些細でもぷよっと見えれば気になるのですよ。
    「うまそうやなぁ」
     交換成立。
     うまぁ、ひんやり……ほくほくの二人へ焔はたこ焼きどうぞと差し出した。
     ころころに舌鼓、目に止まるはプールに浮かぶ色とりどりのゴム風船。
    「あれ得意なんよ」
     ピンと立った尻尾、釣り針手に袖まくり。
    「あの、青いの欲しいかも」
    「任せとき」
    「気合い入ってんのな」
     見事手にした蒼空鞠突き、仲良く鬼火の下へ向かう。

     ……砂利道に外れ、木陰で過ごす面々もいる。
     鬼灯花、黒と焦げ茶の額にぽっと咲かせ実と勇弥は笑み交わし。
    「あ、そうだ」
     じっとしてたご褒美。
    「よしっ」
     てんっ。
     空仰ぎ降るクッキー、クロ助お見事!
    「お、加具土もがんばるか?」
     のせたクッキー、あけた口元に当たり落下。励ますようにクロ助が咥えて渡す。そんな様子を二人ほくほく見守って。
     また共に来たかったとの勇弥に実は俯き、
    「俺は、いたかった」
     過去形、けれど問い返さずに勇弥は来年もと未来への約束。声は出ぬ、でも頷く面。
     寄り添いカキ氷掬う男女、見守る眼差し兄の瞳。
     何気ない日々綴じ唯一の『霧江』という本を編むように。妹を倖せにするとの誓い、桐人は46000日分の祈りに籠めた。
    「……」
     ふとスプーンが、止まる。
     苺紅の唇綻んだのは、幻想ではないと信じたい。

     言葉はなくともふれあう指先、さぁ今年も共に宵の路を巡ろう。
    「私ね、あの子っ」
     帯返す優雅な赤金魚、指さす儚に七星は腕まくり。
     ひらり。
     ひらりひらり。
    「捕まえたら可哀相だったから」
    「優しのねぇ」
     掬えずとも言葉遊び愉しむ二人にちゃぷり水音、金魚の頷き。
     からから響く笑声、去年と同じで何処か違って。
    「鈴虫」
     合い言葉、二人同時に唱える秘密共有が擽ったい。

    ●空茜いただき燃ゆる橙
     焼けるような彩だから夕焼けと言うのか、鈴なり橙透かす光は明瞭なり。
     赤味を増した鬼灯達は、連れて帰ってとねだるように風鈴鳴らし人足止める。

    「あんたの目……」
     華月より鬼灯になぞられた瞳を九里は光栄と眇め。
     夕日と言われた意趣返し、昨年買い求めた鬼灯、実だけは手元。今年はあんたがと問えば返るは「甲斐性は御座いませんので」との苦笑い。
     昨年の求めた鬼灯は、実として華月の手元にあるという。ならばその住処をと探すも、鉢だけは見つからず。
     だから。
    「あげもんじゃを食べるのは如何でしょう?」
    「……はいはい」
     花より団子は予想済みと肩竦め、二人して屋台を潜る。
     爽やか紺チェックの袖はたり「食べれるのか?」と宇宙は鬼灯をつつく。
    「宇宙……」
     眼鏡越し橙に見ていた翡翠は呆れ細く。
    「だって、丸っこい実がさ……」
    「これは観賞用だが、食用もあるはずだ」
     裾に咲く白花波打ち、結生は座り直すと鬼灯選びに集中。
    「デートだったのか」なんて軽口も飛び交う関係が心地よくて、宇宙は鬼灯背にした結生に、ふわり口元解く。
     式夜とエウロペアの後ろをお行儀良く歩くわんことにゃんこに、時々子供が手を振ってくる。
    「……ほう? 鬼灯とな」
     日本好きの知的好奇心、式夜の「お得な日」とシンプルな解説がまた気に入った。
    「よし、決めたぞ! わらわはこれを買う!」
     お藤とエイジアと揃いの簪。
    「お、お藤は良い物買ってもらったな。じゃあ、俺からは……」
     丸々とした橙鉢に吃驚。
    「おぉ、髪色の青と鬼灯の橙で映えるなぁ」
     鮮やかな贈り物にますます笑みが深くなる。
     そうするとますます橙に馴染む。
    「に、似合うかえ……?」
     生まれた国違えど和物好きの二人は同じ喜びに包まれる。
     繋いだ指離すの名残惜しみ。それもつかの間、鬼灯選びに集中しだしたスヴェンニーナが視界にある倖せを、流は噛みしめた。
    「こら」
     見てないで選んでと、じわり熱い頬隠すように膨れ。安らぎの住処飾る橙を探せば、水滴弾ける元気な鬼灯と目が合う。
     はなやかで、かわいい。
     流の心いやせるように――願いと橙携え花のように笑む彼女。愛しさ籠めて髪撫でて、彼は誓うのだ。
     ――その笑顔、決して絶やさぬ、と。
    「灯りみたい」
    「……華やかで可愛いね」
     浴衣姿を褒められたのだと気づき、郁の頬が鬼灯色に染まった。
     どちらともなく、今宵も繋がる指。どんな時でもはぐれぬように、過去もそしてもちろん未来も。
     軽装の修太郎に請われた鉢選びに郁は風鈴をちょん。
    「花火とか夏っぽい」
    「いいね」
     鉢を抱える年下の彼へ彼女は「ありがとう」と。
     ――今年も一緒に来れて嬉しい。
     そう、籠められた想いに彼も解け笑む。
     熱気に呑まれ迷わぬようにと朱彦が手を包めば、はにかむ初衣の面があがる。
     彼が招いた花も実もある橙選び。修学旅行の風鈴飾ったら……そんな言葉に、大切にされている倖せを噛みしめて。
     改めて顔をあげれば、左右彩る橙の群れがわっと視界に入り、
    「す、ごい、朱彦さ、ん、みた、い」
    「ふふ、俺みたい?」
     きれいと添えられ喉鳴らす甘く流れる紅に、ますます魅入られ初衣の頬も鬼灯色。
    「驚いた、綺麗……」
     望む言葉もらえた鬼灯色浴衣の静香、頬を夕日と同化させる。
    「誘ってくれてありがとう」
     暦は調べた花言葉に口元崩す。
    『私を誘って下さい』
    「なら……」
     潜む感謝を受け枝折り彼へ。
    「暦さんの魂と心を……」
     現世にこそ導くとこの橙に誓いを立てる。
     また共に出かけたい君が知りたいと口ずさむ彼へ橙つついて、
    「赤い袋に隠された、『ろくみん』ではなく『静香』の魂も見つけてくださいね?」
     そう、口元を解いた。
     淡夜袖翻し隣歩く彼女の頬が茜に染まる。
     樹が選んだのは、まだ殆どが緑の鉢。日々色づき愉しむのだ、二人で。
    「少しづつ赤くなっていくんだね。楽しみだな」
     間近の鬼灯は初めてで拓馬は相好を崩す。
    「ぜんぶ緑のでもいいんだけど少し寂しいでしょ?」
     さて、この子を飾る風鈴は?
    「……涼やかで鬼灯とは対照的な青でどうかな?」
     拓馬が選ぶ蒼空色に、伸ばした指先ふれあった。
    「あたしに似合うのあるかなっ?」
     ずらりの橙指さす麗。
    「これなんていかがでしょう?」
     くっきり色の鈴なり掲げる由布。
    「あたしがいなくなったら、ゆーくんは鬼灯をあたしのために飾ってくれるかな?」
     根無し草のあたしが迷わぬ標として。
    「いえ」
     返答は穏やかに、されど「待たずに探す」ときっかりと。
    「また遊びましょう……って」
     出来れば連れ帰りたい。
     そう。
     なくして仕方ない存在じゃないからと指に力込めれば、彼女もまた同じ力できゅうと結ぶ……照れの熱に胸をじわり焦がしながら。
     今年も盛況と笑み合う靱と詞水。ちなみに靱の手には既に鉢がある。
     真剣。
    「吹いて見せようか?」
     自然に言えた、リベンジの力みなんてなかったはずだ。
    「聞きたいです」
     拳握りこくこく。
     口に含みしばし――きゅぃ♪
    「やったのですよ!」
     会心の出来にぱっと破顔、手を叩く詞水に向く微笑まし気な視線。
    「む、詞水もやってみるの?」
     ……ぷヒ。
     むうと首傾げたりこちらに尊敬の眼差し向けたり、くるくる変わる表情に、靱はにこにこ。
    「藤、気に入ったのあるか?」
     偽り。
     花言葉辿る藤へ、宵路は橙の群れを指さし既に選んだ大きな実の鉢を示す。
    「風に揺れてふわふわして、風鈴みたいで風情がある」
    「主さま趣のあることも言えるんだね」
     気の抜けた笑いで胡乱げな宵路を躱し、
    「まるでオレも鬼灯みたい」
     でも想いに偽りはないと嘯けば眉根が寄った。
    「ほんとだよ?」
     重ねる毎に偽り臭くて惑い首を鬼灯の如く傾けて。
    「……ま、疑ってねえよ」
     主従より友と思う彼へ鉢選び促す。
    「ふふー、永久君とデートだー」
     なんてね。
     永久と標の間に入って手繋ぎ矢宵、三人で鬼灯選び。
    「……美味しそう」
    「確かに……サラダ、とか」
    「お洒落かも」
     鬼灯前に食い気全開、でもおきにの子を見つけてバイバイ。そうそう、今度は浴衣で、ね? なんて笑い合って。
     人出の多さに胸弾ませる柊慈は、呼び込みの声優しげな店へ腰落ち着ける。
    「小さな鉢で……長く楽しめる感じで」
     幾つかの候補の中三つだけ橙の鉢に一目惚れ。
     夕焼け色の鬼灯目移り、市を愉しみ歩いた優志も柔らかな声に惹かれ店員との会話を愉しむ。
     並ぶ小ぶりの鬼灯、優志は深く色付いた鉢を選び取る。祖父と両親が標とする橙、今年も選べて良かった。
     ……肩の荷下りた所で恋しい人へのお土産探し。
    「GBの蚤の市を思い出すわ」
     こんばんはと年長の友に名を呼ばれ微笑み返して鬼灯探し。
    「標さん、アドバイスくれない?」
     けれど選び上手なアリスはイメージ明瞭、籠入りがいいかと思い当たり。
    「籠入りならあちらの屋台」
     まだ宵のうち、彷徨うもよかろうて。

    ●夜闇の宴
     空と地、夕焼けと鬼灯の醸し出す茜に包まれそぞろ巡れば、やがて夜闇。
     電灯に照る屋台は昼のようで、一歩出るとやはり夜で――狭間がないのが不思議なぐらい、違う風景。

    「ほほつき」
     五角形の葉を矯めつ眇めつ橙選び。束ね髪の奈々は妙に大人びていて……その袖に朝顔浴衣がふわり。
    「子供が口にして鳴らす頬の形が語源なのよ」
    「へえ」
     自然に鉢を代わりに持って千景は繰り返した問いかけを。
    「なっちゃんが気に入るのがわからないとなー」
     少し遅れた誕生日プレゼント。
     和物屋にて鬼灯簪を彼女の黄金にあわせてみたり、はしゃぎ合えるのがなんだか嬉しい。
     小さめの鈴なり、風鈴頂く涼しげ橙……倭とましろ、選んだ鉢下げもう片方で熱分け合って。
    「ぁ、そうだ。交換して育ててみるのはどうかな?」
     大好きな人と思えば枯らさずより大切にできそうに、快く頷く倭。
    「綺麗に色付いてくれると、良いな」
     そんな二人の足は参拝所へ向かう。
    『46000日のご利益』
     互いに倖せを授け合える二人、であれば共に願えばきっともっともっと倖せになれるはず。
    「な、なんだか照れるね」
    「そうですね」
     由希奈といちご、浴衣にたくし上げた髪の生え際艶やか。見つめ合った後互いにそっぽ向けば目に入る鬼灯屋台。
     しゃがんで品定めの由希奈を見下ろすいちごは、口元押さえ赤面。
    「……見た?」
     解けた胸元整える姿がまた色っぽい。
    「見てないと言えば……」
     嘘になるとあうあう。そんな彼にぷっと吹きだす彼女。
    「今のいちごくん、鬼灯みたいっ」
     冗談口に怒ってないと胸撫で下ろし、でもカッと染まった頬はまだ収まらず。
     放課後のお祭りにうきうき、白幸が誘ったのは級友の梨衣奈。
    「選ぶポイントって……」
    「……わぁ、この鬼灯すっごく綺麗!」
     この子と愛でるように鉢を抱えた白幸を前に、梨衣奈は吹きだす。
    「白幸君って時々すごくマイペースだよね」
     屈託なさに頭掻き、白幸は「お詫びに」と風鈴を差し出す。
    「わぁ、いいの? すごくかわいいな」
     りん……。
     夏の音色に飾られた橙は掛け替えない想い出、枯らさず大切に。
     夜闇の橙、切れ目なき道標。
    「ほんとに鬼火みたいだけど綺麗……」
    「霊を導く提灯の代わりだって」
     雪音の語る祖母の思い出話は珈薫の胸に響く、珈琲にミルクが混ざるようにこの幻想と馴染む。
     折角来たのだ落椿への土産としよう。
     二人で選んだ橙、袋の持ち手を片方ずつぶらさげればこそばゆくも福禄なり。
    「今日はお誘い乗ってくれてありがとね、楽しかった!」
    「私こそ、素晴らしい時間をありがとう」
     素敵な友達と帰ろう、橙鈴を仲間にくわえて――。
     綿飴をお裾分けの京へ九音は姫林檎飴を。
    「あり……わっ」
    「ゆっくり食べるといいよ」
     フランクフルトをかぶり。やっと相好を崩した九音へ京も破顔。
     散々愉しんだ祭背に、
    「楽しんだ?」
    「……懐かしい感じ」
     隣にいるのはあの人ではないけれど、
    「寂しいことあったら言ってよね」
     空を掬うように振り上げた手、彼女の寂しさ飛んでってしまえ。
    「友達なんだから」
     繋ぐ手を握る感謝伝えるように。

     夕闇に結ばれた縁は夜の灯火。
     時に重苦しい昏闇征くような灼滅者達へ、日常彩る橙はきっとあたたかな帰り道の標となるだろう――。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月16日
    難度:簡単
    参加:59人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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