「今度の土曜日。その……花火大会に行きませんか?」
ある日の放課後。
意を決したように掛けられた葵の声に、くるみは振り返った。
「花火大会?」
「はい。夏の初めの、花火大会です。……いかがですか?」
葵の提案に、くるみはパッと表情を明るくした。
「それええな! せっかくやから、皆にも声を掛けよか! 皆で行ったら、きっと楽しいわぁ!」
はしゃぐくるみに、葵は苦笑いを零した。
「そうですね。……でしたら、場所は僕が確保しておきましょう。ゆっくりできるスペースが、あった方がいいでしょうから」
「ええの?」
かくん、と首を傾げるくるみに、葵は頷いた。
「はい。知り合いのビルの屋上を借りましょう。……くるみさんの誕生日は過ぎてしまいましたが、お祝いも兼ねて」
「おおきに! ウチ、ほんま嬉しいわぁ! 浴衣着てこ、浴衣! 屋台も楽しみや! お好み焼きやろ、たこ焼きやろ、わたあめ焼きそばかき氷! 射的とかもあるやろか? 花火もきっと、綺麗やろなぁ」
指折り数えたくるみは、何かに気付いたように頬に手を当てた。
「……せや! この間テレビで見てんけど、屋上でバーベキューとかやってたで! おもろそうやけど、できるんか……な?」
不安そうに首を傾げるくるみに、葵はやれやれといった風に頷いた。
「手配しましょう」
「ほんま!? 言うてみるもんや! おおきに! ほんまおおきにな!」
くるみはにかっと笑うと葵の手を取った。
「当日、楽しみやなぁ。葵はんに誘ってもらえて、ホンマにホンマに嬉しいわ! 早速教室行こ、教室!」
「はいはい」
くるみと葵は教室に駆け込むと、そこにいた生徒に声を掛けた。
幼馴染達との待ち合わせ場所に向かいながら、青霞は自分の浴衣を検めた。
真黄姉が選んでくれた、藍色と白い小菊模様の浴衣。大丈夫。似合っている。だって……。
「着付けも、全部任せてしまったね。本当に有難う、真黄姉」
「せーかに似合う浴衣を、選んでみましたわ」
真黄は感情の起伏の少ない言葉の中から、感謝の気持ちを読み取って微笑んだ。
真黄自身は、淡い黄色地に緋色の小花が散る浴衣を着こなし、紫祈に貰った髪飾りを身に着けている。
「真黄姉の髪飾りも、すごく似合ってるよ」
「ありがとうございます! ……ほら、いましたわ!」
幼馴染たちと合流した青霞は、浴衣姿の男子陣に思わず呟いた。
「二人とも、浴衣姿が様になってるなぁ」
紫祈は、殆ど黒に近い黒紫の浴衣を緩く着崩し、少しだけ遊び心をプラスした洒落た浴衣だ。
緑雨は紫祈に着付けて貰った、深緑色の浴衣を窮屈そうに適当に着崩しているが、それがまた粋で似合っている。
二人の浴衣姿に、真黄はおずおずと紫祈に訊ねた。
「その。――如何でしょう? 似合ってますでしょうか?」
頬を染めてはにかむ真黄と隣の青霞の浴衣姿に、緑雨は素直に感心した。
「流石、セイはそういう格好も様になるな。それにマキも、あー……。悪くないっつうか……」
複雑な感情に思わず言葉が詰まった緑雨に、紫祈は思わず笑った。
「青霞の事はきちんと褒められるのに、真黄相手だと素直に褒められないんだよね、この子」
「うっせ! ほら、マキのことも褒めてやれよ」
緑雨に背中を押された紫祈は二人の浴衣姿に頷いた。
「真黄は華やかで愛らしいし、青霞は凛としていて良く似合っているよ。……うん、簪も思った通り良く似合ってる」
「嬉しいですわ」
褒められた簪に軽く手を添えた真黄は、照れ隠しのように緑雨に手を出した。
「さあ、行きましょう。りょー、はぐれてはいけませんわよ」
「いや、迷子になりそうなのはお前だろ……!」
「あら、わたくしの方なのですか? では手を離さないでくださいませ」
無邪気に笑う真黄の手を、緑雨はぶっきらぼうに取った。
幼馴染の目を気にしながら、手を繋いでビルへ向かう。
心臓が煩いのは、誰にも気付かれてない筈だ。
前を歩く二人の背中を見ながら、青霞はそっと距離を取った。
「……真黄姉達からなるべく距離を取ろう。出来れば二人きりにしてあげたいけど、それは流石に難しそうだし」
「あの二人、仕方ないなあ」
微笑ましげに真黄と緑雨を見る紫祈に、青霞は軽く息を吐いた。
「おー! 屋台いっぱい出てんじゃん! こういうの好きだぜ!」
甚平姿の虚空は、扇子をパタパタしながら、道の両端に並んだ屋台に歓声を上げた。
「えっへへー。また浴衣着れてうれしいな。屋台もいっぱいあるね! 花火も見れるし、すごい楽しみ!」
先日に引き続き浴衣でお出かけできた玲音は、お祭りみたいな屋台にきょろきょろと見渡した。
「凄い……。こんなに沢山のお店が出るんだね。美味しそうな匂いもするし目移りしちゃうな。リンゴ飴とか、どんな味なのか気になるかも」
星座の描かれた紺色の浴衣を着た歩は、はじめての花火大会で物珍しそうにキョロキョロと屋台を見て回っていた。
「こうやってお出かけするのは初めてで……。ちょっと実家を思い出してしまいますわね……」
梅の季節にはお祭りもあって、こうした屋台も出ていたものだ。
思わずしんみりした初梅は、気分を変えるように明るい声を上げた。
「皆さん、何召し上がります?」
「あ……。あれ、買っていいですか?」
浴衣を着て、下駄を鳴らして歩いていたあらんは、一言断ると通り向かいの屋台へ向かった。
わたあめを手に帰ってきたあらんは、嬉しそうに差し出した。
「あ、少し食べますか?」
「ありがとう!」
わたあめを一口食べた初梅は、口に広がる甘さに笑みをこぼした。
「何となく、いつもよりおいしく感じるから不思議」
「こういうときって買い食いとか、してもいい気がするのが不思議ですね」
あちこち歩き回るメンバーに、虚空は声を掛けた。
「って、お前ら迷子になるなよ! この人混みじゃ探すのが大変だ」
「はーい!」
少しだけむむっとした玲音は、どうしても気になるものを見つけて虚空の袖を引っ張った。
「わたし射的やりたい!」
「お! 射的とか金魚すくいとか結構得意なんだよな。俺に勝てたら何か奢ってやってもいいぜ?」
挑戦的な虚空に、玲音はにこっと笑った。
「勝負? いいよう? わたしだって負けないんだから! みんなも参加する?」
「ぼくも参加しますの!」
射的、の一言に、初梅は手を挙げた。
「以前はよくやってたんですから、負けませんよー?」
「私は観戦しますね。頑張ってくださいね」
「僕も自信無いから、あらん先輩とペアでいい?」
そっとあらんの傍に立った歩は、射的場で狙いを定める三人をじっと見つめた。
三人は真剣に狙いを定める。
射的の軽い音が、屋台に響いた。
「そういやかき氷のレモンとイチゴとメロン、だっけ……。何か同じ味らしいって聞いたんだけどマジかな」
熱い射的大会が終わり、クールダウンするようにかき氷の屋台前で虚空は立ち止った。
「そうなんだ。じゃあ食べ比べしてみよっか、鼻つまんで。私レモンー!」
玲音の提案に、初梅はシロップを見比べた。
「ブルーハワイも一緒なのでしょうか? 練乳は……違いますわね。どうせならその三種類買ってみましょうか?」
悩む初梅の隣で、話が聞こえて来たらしいくるみが、ぴょこんと手を挙げた。
「うち、いちご!」
「ではメロンを」
お金を払うくるみと葵に、あらんと玲音はくるみにお祝いを伝えた。
浴衣とぽっくり下駄を履いたエリザベスは、歩きにくい足元に壱爪の腕を掴んだ。
「Hehe……。わふく、まだなれまセン」
「離れないように気をつけましょうね、リズさん」
微笑む壱爪に、エリザベスは照れたように壱爪の腕を握る。
「いつもアリガト、せんせい」
転ばないように、はぐれないように。
屋上に着いてくるみに祝辞を述べた壱爪は、屋上の片隅にハンカチを広げてエリザベスを座らせた。
夜空を見上げたエリザベスは、楽しそうに金魚を見つめた。
「今日はアリガト、せんせい。金魚ももらって……嬉しいナ。なまえ、ヒトツメって付けちゃおうカナ? ……なんて! 冗談デスよ!」
わちゃわちゃと手を振ったエリザベスは、照れ隠しに夜空を見上げた。
「ハナビ、そろそろでショウか……。ワクワク」
「そろそろだと思いますよ」
エリザベスの隣に座った壱爪に、エリザベスは興味深々にりんご飴を指差した
「そういえばリンゴ飴、一口かじってみてもいいデスか?」
「どうぞ」
「ン、ン……、っ。美味しいデス、ヒトツメ♪」
美味しそうに頬張るエリザベスの唇が、赤く染まる。
思わずどきりとした壱爪の耳に、花火の音が響く。
「あ、花火、始まりましたよ!」
ごまかすような壱爪の指先で、花火が再び花開いた。
皆が屋台へ行っている間、シグマは焼き肉の準備に勤しんでいた。
「バーベキューは、いいよなやっぱ」
楽しそうに準備するシグマの前に、次々と肉が下ごしらえされていった。
カルビにロースの定番に、シグマの好物の牛タン。串焼き用にも色々と。
「まぁ、これだけあれば十分だろ」
「焼くだけがバーベキューと思うなよ」
キィンは特製の燻製窯から立ち上る燻煙に、にやりと笑った。
中では肉が、順調に燻されている。
「おー! 他に何あんの?」
「肉をハンバーグ状に焼いて、パンに挟むハンバーガーとか、肉以外だとマカロニにチーズを絡めたやつとか」
「黄と茶色ばかりだな」
「飲み物、買ってきました」
「おー、さんきゅ!」
屋台に飲み物を買いに行っていたユキトが、ビニール袋を下げて帰ってきた。
陽が落ちて涼しくなっても、飲み物は必須だ。
久しぶりの浴衣に、帯が少し苦しいが、とてもよく似合っていた。
「何買ったんだ?」
シグマの問いに、ユキトはビニール袋の中を見せた。
お茶と普通の飲み物と、ラムネが入っている。
ラムネは夏って感じがするのでやっぱり外せない。
「花火見ながらバーベキューって初めてで……。楽しみですね」
ユキトは微笑むと、飲み物をクーラーボックスの中にしまった。
人が集まってきた屋上で、シグマは肉を焼き始めた。
「どんどん焼くから好きに食えよ。あぁ、勿論俺の分置いとくように」
「ようさんあるなあ。食べきれるん?」
くるみは、下ごしらえ済みの肉を前に目を見開いた。
「余ったらタッパー持ってきてるし遠慮無く。それにしても暑いな……。ユキト飲み物一つくれ。できれば炭酸系」
ユキトはクーラーボックスの中からラムネを取り出すと、封を切ってシグマに手渡した。
「浴衣、汚すなよ」
キィンの声にユキトが頷いた時、花火が始まった。
夜空に開く大輪の花に、シグマはしばし手を止めて空を見上げる。
華やかな音が一拍止んでくる、腹の底に響くような重低音。
「腹に来る音があってこそ、だな」
「この音が割と、好きだな。音を追っていたら見遅れるがな」
次々上がる花火の音を背中で聞きながら、キィンはしみじみ頷いた。
花火が一段落すると、キィンはくるみを見た。
「未留来の誕生日祝いも兼ねてるなら、花を持たせてやるか。……と言っても、それらしいものが無いな」
キィンは焼いている肉串を手にすると、くるみの皿に置いた。
「肉串でも持っていくか?」
「誕生日祝いに肉ってどうなんだ。……とはいえ肉しか持ってきてないしな。せめて奮発してやろう」
苦笑いをこぼしたシグマは、上等な焼肉をくるみの皿に盛りつける。
肉で山盛りになったお皿を前に、くるみはにかっと笑った。
「おおきに! うち肉好きやさかい、めっちゃ嬉しいわ!」
「次の一年も、景気良く頼むよ」
「任せたってや!」
心から嬉しそうに微笑むくるみの頭上で、花火が打ちあがった。
夜空に咲く華やかな大輪の菊に、牡丹の炎花。
見事な花火が、夜空を彩っていた。
「初夏の星座にまで届きそうよねー」
瞳が鼻歌交じりに花火を見つめる傍ら、霊犬の庵胡は大きな丸い目を見開いて鼻を鳴らしていた。
食材の匂いを嗅いで尻尾を振る様子に微笑し、適度に冷ました肉を庵胡の前に置いた。
「ひお、お肉やお野菜焼くお手伝いするよ!」
瞳の隣に立った陽桜に、瞳は微笑んでヘラを渡した。
「ありがとー!」
「炭火で焼いたら、何でもおいしく食べちゃえるよね♪」
二人の鉄板の上で、次々に食材が調理されていった。
焼きそばに、お好み焼きにたこ焼き。コーンに帆立や、海老にホイル焼。
花火に見とれて焦がさないよう。次々仕上がる料理の匂いにつられるように、くるみが顔を出した。
「美味しそうやなぁ!」
「くるみちゃんは、おこのみ焼きとたこ焼き上手?」
陽桜がヘラを片手に、こくんと首を傾げた。
「今度本場関西の腕、見せたろか!」
微妙に偉そうに胸を張ったくるみに、葵が意外そうに言った。
「くるみさん、料理できたんですか?」
「葵おにーちゃんは、食べる専門?」
陽桜の問いに、葵もまた微妙に偉そうに胸を張った。
「料理とは、食べるものですよ?」
葵の言葉に、周囲で聞いていた幾人かが同意するように頷く。
「うふふ、こーやって、みんなで一緒に食べることできてすっごく幸せだよね♪」
「デザートには、お祝いスイーツピザ作ってみたわ」
「え! ホンマ! どんなんどんなん?」
「ピザ生地に、マシュマロやチョコ、苺や林檎にバナナやパインを乗せてフライパンで焼いたの」
「デザートまでお腹、残しとかな!」
ペース配分を考え始めたくるみに、瞳は飲み物を配った。
陽桜も、皆に飲み物を配って回る。
「くるみちゃん、改めてお誕生日おめでとうね♪」
「くるみちゃんの、おたんじょーびをいわってかんぱーい、なの♪」
乾杯の音頭に、皆がグラスを掲げた。
聞こえてくる花火の音に、桐香は夜空を見上げた。
「夏の夜の花火、風流ですわね」
桐香は視線を戻すと、串に刺した肉をひっくり返した。
隣では、いちごのビハインドのアリカが、串の肉をひっくり返している。
「……恋も花火みたいに燃え上がればいいのに、焼きあがるのはお肉ばかり、と……」
ため息をついた桐香は、席で待ついちごの隣へと戻った。
少し落ち着かない様子で焼き場を見たいちごは、戻ってきたアリカが差し出した串に口を開けた。
「では……いちごさん、あーん」
同時に、反対側からも串が差し出されて、いちごは思わず口を閉じる。
「ってアリカさん?! ま、負けませんわよ!?」
ぐいぐい差し出す桐香に対抗するように、アリカもまた串をぐいぐい差し出す。
「いちごさん早く口を開けて、ほら遠慮せずに!」
「どっちを先にといわれましても……。ええっと、仲良く食べましょうね? 二人とも争わないで!」
意地の張り合いになった桐香とアリカの串が、同時にいちごの頬に当たる。
「熱っ!?」
「あっ!」
同時に串を引いた桐香とアリカに、いちごは立ち上がった。
「二人とも! いい加減にしてくださいっ!」
叱るいちごの声に、桐香はしゅーんと身を縮めた。
「す、すみません……。うぅ……ちょっと大人しくします……」
うなだれた桐香に、串が差し出された。
「はい、あーん」
「……えっ!? いえ、あの、その……」
突然のことに動揺した桐香は、恥ずかしそうに口を開いた。
「あ、あーん?」
肉を一切れ受け取った桐香は、溢れる肉汁に口元に手をやった。
「美味しいですか? 二人とも」
「嬉しすぎて……味が分かりませんわ」
照れて頬を赤くする桐香の隣の隣で、アリカはアホ毛をピコピコさせて喜んだ。
大輪の花火には目もくれず、真黄は紫祈の横顔を見つめた。
紫祈は真黄の視線に気付く様子もなく、何か憂いたような目で夜空を見上げている。
そんな紫祈の藍色の目が、真黄に向けられる日は来るのだろうか。
何故、恋心は苦しく切ないのだろうか。
真黄の視線の先を見た緑雨は、隣の青霞にそっと耳打ちした。
「シキにぃも、いい加減鈍いよな」
「全くだね」
『でも分かりやすいのは、緑雨兄も同じだよ』
そうは思うが、心の中だけにとどめておく。
「……俺ならすぐに、気づいてやれるのに」
緑雨が溢した声は、花火の音でかき消されただろうか。
夜空を埋める大輪の花火だけが、その答えを知っていた。
「綺麗ですね……」
打ち上げられる花火を見上げながら、アリスは思わず呟いた。
隣で寄り添いながら、同じ空を見上げているのは、アリスの大切な霙。
花火が打ち上げられる中、アリスは霙をそっと見た。
霙は白地に紺の浴衣を着て、夜空を見上げている。
アリスは花火で照らされた霙の横顔に、思わず見とれてしまう。
アリスの視線に気付いたのか、ふと合った目に顔を真っ赤にして慌てて花火に目を戻す。
そんなアリスの手を、霙はそっと握った。
青基調の涼しげな浴衣が、アリスにとてもよく似合っている。
氷っぽい柄が入っているのは、霙をイメージしたから、とか思うのは考えすぎだろうか。
「綺麗だね。素晴らしい、夜空の華」
『……けど、君には敵わないな』
そんな思いは口には出さず。
再び合った目に、頬染め互いに俯いてしまう。
花火が打ちあがる。
花火が散ったその瞬間、顔を上げたアリスの頬に、霙はそっとくちづけをした。
きっと、今日のことは忘れられない思い出になる。
そんな予感に、胸を躍らせた。
くるみにお祝いを伝えた樹里は、友衛の浴衣の袖をそっとつまんだ。
「家族以外の人と、花火大会に行けるほどになるなんて……。去年までは想像していなかったんだよ……」
「そっか。じゃあ、これからは毎年、花火大会に行こうね!」
嬉しそうに微笑む友衛は、控えめに柄の入った紺色の浴衣に、やや濃い目の赤の帯を締めている。
下駄を履いて、綺麗な髪飾りがよく似合っている。
樹里の視線に、友衛ははにかんだように浴衣の袖をつまんだ。
「……に、似合うだろうか?」
「似合わない、という、選択肢が、そもそも、ないです」
こくりと頷いた樹里は、花火に映える友衛に目を細めた。
「……志賀野先輩、すごい、きれい、です……」
「風隼の浴衣も綺麗だな。色使いのセンスは流石だと思う」
樹里の浴衣は薄紫で、桜色の帯を締めている。
宝物の藍色のリボンでポニーテールにした髪が、夜風に揺れていた。
「ポニーテール姿は珍しいが、この髪型も可愛いな」
「ありが、とう……」
同時に打ちあがった大きな花火を見上げて、友衛は感動したように呟いた。
「こんな良い場所で、花火を見るのは初めてだ」
鮮やかな色、響く音。夜空を彩る花火は、見惚れてしまうほど美しい。
「……今年の夏は、始まったばかり。きっと、いろいろなことが待ち受けているのだろうけれど……」
夜空を見上げた樹里は、これから起こるであろう夏の出来事に思いを馳せた。
「……そうだな。今年の夏を皆で一緒に楽しめる様に、これからも頑張ろう」
「大好きな志賀野先輩たちとなら、きっと乗り越えられる……きっと」
決意を言葉にした樹里に、友衛は頷いた。
花火大会が終わり、大きなヒマワリ柄の浴衣を着たくるみは、ぺこりと頭を下げた。
「今日は来てくれて、ほんまおおきに! 皆は、楽しんでくれはった? そやったら、それが一番のプレゼントやわ!」
くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月19日
難度:簡単
参加:22人
結果:成功!
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