差し入れの悲劇、ミルクモッチア登場

    作者:聖山葵

    「さてと、広まるといいな」
     布教用のミルクもちを差し入れした優輝は、ちらちら後方を気にしつつも一足早く教室に向けて歩き出した。
    「朝練で疲れたところに甘いもの。食べればたちまちミルクもちのとりこ。まさに完璧な作戦だよ……ふふ」
     自画自賛しつつもその足が止まってしまったのは、やはり差し入れ先の反応が気になったのだろう。
    「うん、やっぱり少し待ってみよ」
     結局反応を早く知りたい欲求に逆らえず、体育館に続く渡り廊下の入り口脇に隠れてしまったのは、ミルクもちを愛するものとして仕方なかったのかもしれない。
    「いやー美味かったよな、あれ。乳原には感謝しねぇと。なんだっけ、あれ? べこ餅?」
    「な」
     十数分後、通りかかった少年の言葉に固まり、立ち尽くしたのも。
    「……ざけんな」
     それから、再起動までにかかった時間は二分。この時、優輝の体は異形へと変貌し始めていて。
    「べこ餅じゃねええええっ、ざっけんなもちぃぃぃぃ!」
     心からの叫びと共に立ち去った失礼な少年を追いかけるのだった。

    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回はミルクもちだな」
     君たちを出迎えた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は片手にミルクもちの箱を持ったままそう明かした。
    「ただ、一時は人の意識を残したまま踏みとどまるようでもあるのでね、君達には問題の一般人が灼滅者の素質を持つようであれば闇もちぃから救い出してもらいたい」
     もし完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を。さおれが、はるひからの依頼であった。
    「問題の人物の名は、乳原・優輝(うばら・ゆうき)。中学二年生だ」
     性別を明かすことなく名前と学年だけ告げたはるひは、この優輝が差し入れによるミルクもちの普及活動に失敗した結果、ご当地怪人ミルクモッチアと化すのだと話す。
    「正確には、一人に餅の名前を間違えられてだな」
     ともあれ、ところどころがくりぬかれ露出度の高い乳牛の着ぐるみ姿、といった感じの容姿のご当地怪人となった優輝は、放っておけば間違えた少年に制裁を加えた上、完全なダークネスになってしまうと思われる。
    「それを防ぐためにも介入すべきなのだが、バベルの鎖の影響を受けないタイミングを探すと、どうもご当地怪人に変貌した直後しかないようでね」
     声をかけたとしても声のかけ方次第では君たちをスルーし、間違えた少年を追いかけて行ってしまうと思われる。
    「そこでこのミルクもちだ」
     手にしていた箱を示すと、これを差し出して注意を引けばよいとはるひは続けた。
    「これは君たちに進呈するのでね、使ってもらいたい」
     告げつつはるひが渡してきたミルクもちで注意を引いた後は、説得するなり戦いを仕掛けるなりすればいい。
    「知っているとは思うが、戦いは避けられないのでね」
     闇もちぃ一般人を闇もちぃから救うには戦ってKOする必要があるのだ。また、接触した時、人の意識に呼びかけ説得できれば、弱体化させることもできる。
    「戦いを優位に進めたり、早期の決着を望むなら試してみる価値はあるだろう」
     優輝が闇もちぃした理由は差し入れまでしたのに差し入れした品を間違えられたことへの憤りとやるせなさなので、間違えないというだけでも十分効果があると思われる。
    「あとは良識に訴えるとかそんなところだな」
     ただし、たいていのモッチアはご当地怪人となった自分の格好には疑問を抱かないため、そんな格好で恥ずかしくないのか等の指摘は無意味だとはるひは補足した。
    「そも、バベルの鎖の影響を受けないタイミングで接触すれば、体育館周辺に一般人は居ないのでね」
     まともな感性があっても、君たち以外の目撃者がいないなら、説得として弱かったかもしれない。
    「まぁ、人がいないというのは、人除けの必要がないという意味でもあるのでね」
     こちらからすると都合がいいとも言える。
    「戦場になるのは、体育館へ続く渡り廊下だ」
     戦闘になればミルクモッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくると思われる。
    「さすがにこのまま放置はしておけないし、救える者は救いたいと私は思う。故に――」
     優輝のことよろしく頼むよとはるひは君達へ頭を下げるのだった。
     
     


    参加者
    秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    水島・佳奈美(シャドウスイーパー・d20264)
    田磯辺・倉子(爽やかな青空・d33399)
    八蘇上・乃麻(木俣の宿りし者・d34109)
    九重・朔楽(花を仰ぐ・d34203)
    矢田・百乃(電気羊の夢を見る・d34847)

    ■リプレイ

    ●朝から割と
    「ミルク餅にかけるのはきな粉や黒蜜が定番らしいけど、唐辛子はいけるのかしら」
     蝉の声をバックに中学校の敷地内へ足を踏み入れた黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)は首を傾げた。
    「ミルク餅…………美味しそうですね」
     はるひから渡された餅の箱へ視線をやる田磯辺・倉子(爽やかな青空・d33399)がポツリと呟き。
    「ミルクもちとべこ餅って全然違うのに間違えるなんてありえないよね」
     色も形状も完全に別物と知っているからか、水島・佳奈美(シャドウスイーパー・d20264)は若干呆れ気味に言う。
    「佳奈も救出された時も中二の夏だったな」
     直後に話を変えて少し遠い目をしたのは、聴衆を求めない蝉達のライヴに季節を再認識させられたのか。
    「モッチア現れる所にあたしあり! ……なんてね」
    「桜花ちゃん、と言えばいつも桜花ちゃんにべったりな感じだけどこの現場にいなくてよかったのかな?」
     ただ、ライドキャリバーのサクラサイクロンに跨って何やら登場シーンを演出している東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)を見てしまうと、思考は更に別方向へと寄り道を始め。
    「そろそろ着きますよ」
    「あ、うん」
     九重・朔楽(花を仰ぐ・d34203)に言われてようやく佳奈美は我へ返る。
    「いやー美味かったよな、あれ。乳原には感謝しねぇと。なんだっけ、あれ? べこ餅?」
     前方から声が聞こえてきたのは、その直後だった。
    「今、の」
     まさに闇もちぃの引き金になった言葉に違いなく。矢田・百乃(電気羊の夢を見る・d34847)はスレイヤーカードを取り出し。
    「頃合いやなぁ」
     声の方に向かいながら八蘇上・乃麻(木俣の宿りし者・d34109)もミルクもちの入った箱を開けた。
    「それがミルクもちか」
    「しっかり梱包してあるんやねぇ」
     普段から料理をしつつもミルクもちを食べたことのない秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)が箱の中身に興味を向けてしまったのは無理からぬこと。
    「きゃん」
     もっとも、中身はお土産のお菓子に良くあるようにビニールに入った上個別包装されており、まだ直接見ることは能わなかったのだけれど、それでも霊犬の花はミルクもちが気になったのか、誠士郎の足下でソワソワし出す。
    「気持ちはわかるけれど……あと少しだから」
     そんな花に同じ霊犬を従えた朔楽は声をかけ、視線を戻す。
    (「気持ちはわかるけれど、ですか。自分が好きな物を違う風に言われて悲しくって悔しい気持ちはわかるけれど」)
     だからといって人を傷つけていい理由には絶対にならないんだ、と胸中で呟き。
    「……ざけんな」
     一同が渡り廊下の入り口へたどり着く寸前で、視界に入ったのはポツリと呟き、ご当地怪人変貌し始めていた一人の少女。
    「べこ餅じゃねええええっ、ざっけん」
    「ちょっと待った!」
     桜花が飛び出したのは、まさに少女が元少女になった瞬間、走り出す直前だった。
    「な」
    「甘くてふわふわしとるのに食感はもちもちしとって、ほんまうまいわぁミルク餅」
     突然の乱入にご当地怪人ミルクモッチアの足が思わず止まったところで、ミルクもちを食べつつ乃麻はミルクモッチアの視界に登場する。
    「うん。差し入れしてあったミルクもち美味しかったね。一口サイズで食べ頃で、手に取るともっちもちでぷっにぷに~お口の中でとろける甘さ」
    「せやなぁ。あ、そこの人も一緒に食べへん? めっちゃうまいでー、はいっ」
     横に並んで同意する佳奈美へ相づちを打った乃麻が視線を元少女に向け満面の笑みでミルクもちを差し出せば。
    「まずは美味しいミルク餅の話しよう」
    「っ」
     このご当地怪人に桜花の提案を蹴ることが出来よう筈もなかった。

    ●まぁ、モッチアだから
    「実はミルク餅というのは食べたことがなくてな。餅というと団子や大福のイメージがあった為、気になっていたんだ」
    「そうもちぃか」
     餅特有の柔らかさとミルクの甘さが効いていてなかなか美味い、と賞賛されれば悪い気はしないのだろう。
    「きゃんっ」
    「食べるか、花?」
     自身の言葉に元少女が笑顔で応じる中、催促するかのような鳴き声に視線を下にやった誠士郎は、千切ったミルクもちを手にのせ、しゃがみ込む。先程と違って、流れているのは穏やかな空気だった。
    「あら、美味しい。私はミルク餅大好きです。このなんともいえないほのかに甘い味が優しいですね」
    「ミルク餅、恥ずかしながら初めて食べたのですがとても美味しいですね。僕、料理苦手なんですけれども、シンプルで作りやすそうだからチャレンジしやすそうでいいなって…………」
     倉子が口に入れたそれに目を丸くしてからコメントすれば、朔楽も苦笑しつつ感想を口にし。
    「そう言ってくれると嬉しいもちぃよ。む、もうミルクもちがなくなってしまったもちぃね? なら」
     顔をほころばせた元少女は、乳牛の着ぐるみの中に手を突っ込んで引っ張り出し。
    「もっちあっ」
     謎の気合いと共にもぎ取ったた胸の膨らみは大きなミルクもちであった。
    「ちゃ、着脱式?!」
     まさに逆転の発想というか、多分、そう言う無茶が出来るのはご当地怪人だからなのだろう。
    「ミルク餅ってすごいわ」
     それは、凄いですませて良いモノなのか。
    「布教の為にも実物は欠かせないもちぃ」
     一部の灼滅者が驚愕する中、ご当地怪人が得意げに張った胸はもはや元の豊かな胸へ戻っている。
    「絶壁+仕込みお餅……」
     ただ、元桜モッチアからしてもそれは想定外だった。
    「もちぃ? ひょっとして」
    「え」
     徐に近寄ってきたミルクモッチアへ服の中に手を突っ込まれたことも。
    「にゃあああぁぁぁ?!」
    「あ、服の中に何か入れてたわけじゃないもちぃ、ね。失礼したもちぃ」
     おそらく、餅族的な親近感から、誤解したのだろう。仕込みモッチアかを確認されて悲鳴をあげた桜花へご当地怪人は謝罪する。
    「そ、それは桜も乳とか言われたりしたことあったけど、どうして毎回毎回こんな目に」
    「桜花ちゃん……」
     るーと滂沱の涙を流す本日の犠牲者へ佳奈美は同情の視線を送る。桜花程ではないが、そう言う目にあったことが少なからずあったのか。
    「まぁ、モッチア補正を持つ者同士が出会った場合、高い方が被害を受ける側になるからその辺りは補正の高さ故の宿命もちぃな」
    「えっ」
     とんでもない新事実が明かされた気もするが、それはそれ。
    「そんなことより、問題なのは……ミルクもちの知名度もちぃ。色々やってみてるのに、うまく行かなくて。今朝も」
     顔をしかめたご当地怪人はこれまでのいきさつを語り始めるものの、それは灼滅者達がはるひから知らされた通りのこと。
    「あたしも愛する桜餅を、葉っぱあるからって柏餅に間違われたらキレると思うし、気持ちわかる。間違えるなんて失礼だよね」
    「ミルク餅を広めるために、朝練に差し入れをするというアイデアはいいわね。それに差し入れられた学生たちも味に満足していたんだし、まずは成功だと思うわ」
     大いに同情したのは、元モッチアの灼滅者で、一定の評価をしつつも「でも」と続けたのは、摩那。
    「手ずからのミルク餅がべこ餅に間違われるなんて、実に屈辱でしょう。ですが、世の中、ミルク餅がまだメジャーでないのも事実。一度ぐらいの失敗で闇落ちしてどうするのですか!」
    「好きな物を別の物に勘違いされたのは悲しいけれど、そこで暴力で訴えて何になりますか?暴力で話された事に誰が好意を持ってくれますか?」
    「も、もちぃ」
     朔楽が続き、二人がかりになった叱咤は耳に痛かったのだろう。
    「確かに誰かに食べさせてやりたくなる美味さはある。しかし、布教させるのにその力は必要あるまい。それよりも一緒に食べてこそ、ではないだろうか」
     萎縮するミルクモッチアへ更に誠士郎も追い打ちをかけた。

    ●救済を
    「……もちぃ」
    「名前を間違った人って名前を知らなかっただけじゃないかな? 別のものと間違えた訳じゃないと思うよ。ちゃんと説明してたら間違える事もなかったのかもね」
    「そうね。むしろ、次は差し入れにお品書きを付けて名前をアピールするとか、新しい工夫の種ができたと思うべきでしょう」
     項垂れる元少女へ佳奈美が疑問を提示すれば、同意したのは、摩那だった。
    「工夫の種……?」
    「ええ。乳原さん、気をしっかり。私達はミルク餅が大好きです嘘偽りなく、世の中にはミルク餅が好きな人沢山いらっしゃいます」
    「せやせや。こんなうまい甘味、淡路島だけに置いとくんはもったいないやんなぁ。もっと色んな人に知ってもらいたいやん」
     のろのろと顔を上げるミルクモッチアへ倉子が頷き励ませば、元少女の提供したミルクもちをもきゅもきゅ食べつつ乃麻は首肯し。
    「あ、うちの学園なー、日本中どころか世界中の人が数万人も集まっとるんよ。しかも依頼で日本全国あちこち行けんねん。うちに来たら色んな人に食べてもらうきっかけが手に入るんちゃうかなー?」 
    「……あ」
     更に乃麻が話し続ける中、ご当地怪人はぺたんと尻もちをつく。
    「さぁ、もう一度やり直しましょう」
     目に見えて威圧感の減退した元少女へ摩那は手を差し伸べ。
    「……っ、その手は食わないもちぃ!」
     呆然とした表情を苦々しげなものに変えたミルクモッチアが着ぐるみの手で摩那の手を叩いた、直後。
    「追いつめられてダークネスの方が出てきたと言うことですか。でしたら――」
     それまで途切れ途切れに話していたのが、嘘であったかのようにすらすらと話しながら。
    「燃やして、燃やして。貴方を灰に還してあげます」
     百乃が噴き出した炎を宿すオーラに包まれた拳をご当地怪人へ向け。
    「大和が桜守・九重朔楽…………いざ参る」
     朔楽もまた、表情を引き締めると、自らの影を嗾けた。
    「合わせるか、花」
    「きゃんっ」
     縛霊手で握り拳を作ってが踏み込めば、一声鳴いた花は斬魔刀をくわえて主のすぐ後ろを駆ける。
    「っ」
     多方向から殺到する連係した攻撃へ元少女が身構えたのは、ある意味当然のこと。
    「あ、せやせや、クラスの友達に実家が乳業やっとる子おったっけなー。あの濃厚で新鮮なミルク使うてミルク餅作ったらうまいやろなぁ。乳原さん、今度一緒に作らへんー?」
    「な」
     ただ、始まった戦闘にそぐわないのんびりとした誘い文句が、ご当地怪人の注意を一瞬奪い、大きな隙を作ったのだ。
    「よそ見とは余裕だな」
    「しま」
     我に返った時にはもう遅かった。
    「もぢゃあああっ」
     弱体化していることも相まって、足下からせり出した影を避けきれず下半身を飲み込まれたミルクモッチアへ叩き込まれる殴打と斬撃が悲鳴ごと影の中へとその身を押し込み。
    「伊勢」
    「がうっ」
     影の中に容赦なく撃ち込まれるのは、霊犬の伊勢が放った六文銭。
    「う、くっ」
    「待ってましたよ」
     蹌踉めきながら影から抜け出した所を、拳を振りかぶる百乃は出迎えた。ウィングキャットのリングが放つ光という支援を受けた状態で。
    「もちべっ」
    「少し冷静になって頭冷やそうか」
     更には触手と化した影が、別方向から拳を叩き付けられた元少女の足下に這い寄り。
    「もちゃ、あ、足が」
    「ふふふ、私綺麗?」
     足を絡み取られたミルクモッチアを見て、都市伝説口裂け女の姿へと変じた倉子は笑う。動きに制約がかかった姿は、まさに格好の獲物だった。
    「さあ、楽しませて」
    「あ」
     押し倒し、馬乗りになった姿勢で解体ナイフを振り上げる姿は、まさに恐怖の体現者。
    「ちょ、うみゃああっ」
     二人の頭上を、元少女の頭辺りを狙って跳び蹴りを放った誰かが通過するが、いつものことである。
    「もぢゃあああっ」
     始まる残虐描写の犠牲となるご当地怪人の悲鳴が上がり。
    「ぐ、うっ」
    「このまま畳みかけるわよっ」
     傷だらけになったご当地怪人を待っていたのは、黒槍『新月極光』を手にし摩那たの捻りをくわえた突きと、エンジン音を吹かせ突っ込んでくるライドキャリバーのサクラサイクロン。
    「もぢゃぁぁぁぁっ」
     突かれたミルクモッチアは、主を回収するついでに突撃したサクラサイクロンに轢かれ。
    「うぐ、よくもやったもちぃね」
    「きゃん」
     対抗しようとはしたものの撃ち出したビームは花に防がれば、後はほぼ一方的である。
    「餅が焼けたらいい感じになるでしょうね」
    「灰は灰に、塵は塵に」
    「ひ……どい」
     集中攻撃を受けたあげく、こんがり焼かれた元少女は、人の姿に戻りつつポテッと倒れ付したのだった。

    ●救出
    「目覚め、ましたか?」
     少女が意識を取り戻した時、最初に見たのは百乃を始め、自分を覗き込んでいる数名の灼滅者の顔だった。
    「……えっ? あれ?」
    「おかえり、優輝」
     まだはっきりと状況を理解出来ないのか、しきりと瞬きする少女こと優輝へ向けられたのはいくつかの笑顔。
    「救い出せて良かったです」
     無事少女を救い出せた倉子の顔はどことなく晴れやかで。
    「えっと」
    「すみません、怖がらせてしまったですか?」
     その顔が少し曇ったのは、戦いの時の自分を思い出したからか。
    「どっちかって言うと、事情を呑み込めずに混乱してるんじゃないかな?」
    「あ、だったら説明しますね? ここにいる桜花ちゃんをはじめとして様々なモッチアさんが学園にはおります」
    「説明するって、いきなりそこぉ?! あ」
     誰かの指摘にはたと膝を打った佳奈美が説明を始めれば、いきなり例にされて声を上げた灼滅者が約一名。
    「うにゃぁぁぁぁっ」
     そのまま何も無いところで躓いて転倒、、お尻と下着を曝すところまではいつも通りの流れである。
    「と言うか、上から退いて欲しいかな?」
    「ていうかごめんっ?!」
     救い出したはずの少女を下敷きにする辺りも。
    「……なるほど、お話は理解したよ。助けてくれたことも。だから、まずはありがとうございました」
     そんなアクシデントを挟みつつも説明を聞き終えた少女はまず一同に頭を下げ。はずみで豊かな胸が揺れる。怪人の時は絶壁に仕込み胸だったが、人に戻ると胸は自前なもっちもちのぷにぷにの女の子になるらしい。
    「きっとツッコミんじゃだめなんだよね」
    「え?」
    「ううん、何でもないよ」
     振り返る少女に頭を振ったのは誰だったか。
    「それで、武蔵坂だっけ? 助けて貰ったし、親とか説得しないといけないから、時間はかかるかも知れないけれど」
     前向きに考えるよと答えた少女は一旦言葉を句切ると、視線を堕ち尽きなく彷徨わせ。
    「で、知らない人ばっかりの学校ってのはちょっと気後れしちゃうし、良かったら――」
    「ええ、お友達になりましょう」
     言わんとしていることを察した倉子は微笑し。
    「ふふー、そしたらまずはわたしらと、わたしらの友達と一緒に、ミルク餅でティーパーティしよか。うまいもんは楽しい時間と一緒に食べると、もっとうまくなるんやでー」
     二人のやりとりを見ていた乃麻はにぱっと笑うと、手を差し出す。新たな仲間が学園へ足を運ぶ日、それはそう遠くない未来のことなのかも知れない。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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