レプラコーン、甘い香りを携えて

    作者:飛翔優

    ●パティシエ服で就職活動!
    「安土城怪人、人員募集。パティシエ服携え私向かう……」
     フライングパティシエ服を連れたレプラコーンは、楽しげに裏路地を歩いて行く。
     腕の中には、裏表紙に安土城怪人の求人情報がカラーで掲載されている求人雑誌。
     瞳も輝いていた、頬も緩んでいた。
     呼応したかのように、パティシエ服もどこか弾んだ調子。
     安土城を目指し、異様な一組は歩き続けていく……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、真剣な表情で口を開いた。
    「フライングメイド服事件などの衣装を作成していた淫魔であるレプラコーンたちが、安土城怪人の傘下に加わろうと行動を開始したみたいです」
     恐らく、小牧長久手の戦いに勝利した安土城怪人の勢力拡大策の一つだろう。
    「そして、今回の目的はレプラコーンを灼滅することですね」
     葉月は地図を広げ、街中の裏路地を指し示した。
    「皆さんが赴く当日の午後二時頃、レプラコーンはこのひと気のない裏路地にやって来ます。おそらく、この裏路地を抜けて安土城に向かう予定だったのでしょう」
     故に、路地裏で待機し、迎え撃てば良いという流れになる。
     敵戦力はレプラコーンとフライングパティシエ服。
     レプラコーンはの力量は、パティシエ服がいる状態ならば灼滅者と十二分に渡り合えるていど。
     攻撃面に特化しており、ジャンプ唐竹割りによって攻撃力を削る、一瞬で十五メートル移動する早さを活かしたちょこまか走りで的に糸を絡ませ拘束する、力の源を開放する黄金覚醒によって自らを治療し防衛能力を高める、といった行動を取ってくる。
     一方、パティシエ服は治療特化。傷を癒やし浄化するお菓子を提供する、甘い香りを放ち複数人の心を奪う、生クリームに似たオーラを放ち複数人を拘束する……といった攻撃を使い分けてくる。
    「以上で説明を終了します
     地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「安土城怪人の戦力が拡充された後、何が起きるのかはわかりません。ですが、少しずつ遅らせる、あるいは減らすことで変わってくることもある……そう思います。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    不動・祐一(幻想英雄譚・d00978)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)
    アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)

    ■リプレイ

    ●路地裏にもたらされた甘い香り
     昼下がりなのに薄暗く、晴れているのに冷たい風が吹き抜ける、人目届かぬ路地裏。公道へ繋がる場所と横道に逸れる場所の二箇所に別れ、灼滅者たちは身を隠していた。
     公道側で身を隠しているアイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)は、今回の相手……淫魔レプラコーンを思い浮かべ、遠い目で路地裏を見つめていく。
    「レプラコーンって靴職人の妖精のはずなのに、実際には服の仕立て屋の淫魔とはこれいかに」
     答えなど出ぬ間に、軽快な足音が聞こえてきた。
    「安土城怪人、人員募集。パティシエ服携え私向かう……」
     目を凝らせば、二つの影。
     素肌にエプロンを身につけたような格好をしている女性……淫魔レプラコーンと、付き従うように浮かんでいるパティシエ服……フライングパティシエ服が、公道の方角に向かって歩いてくる。
     横道に逸れる場所を通り過ぎたのを確認し、アイリスの傍らで息を潜めていた久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)が飛び出した。
    「?」
    「始めまして……とは言いがたいですが。まぁ細かい事は良いでしょう」
     通せんぼする撫子、立ち止まり小首を傾げていくレプラコーン。
     さなかには花衆・七音(デモンズソード・d23621)が、横道に逸れる場所から飛び出した。
     立ち止まるなり解放し、闇が滴り落ちる黒い魔剣へと変貌する。
    「さ、始めようや!」
    「はい!」
     同様に、常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)は解放する。
     蛍光ペンが多節棍に、判子が防衛領域を放つ盾へと変貌し、レプラコーンとフライングパティシエ服をけん制するように身構えた。
     一呼吸遅れる形で、雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)も定められたワードを唱えていく。
     メガネ男子と言った風貌から、性別相応幼い顔立ちの女性へと。
     和を基調としたステージ衣装を身に纏い、ギターを構えるロッカーへと!
    「逢魔が時、此方は魔が唄う刻、さぁ演舞の幕開けに!」
     リズミカルにギターを爪弾き、戦場をライブ会場に見立てて盛り立てる!
    「今宵は其処往く服飾妖精様と飛行菓子職人服様! 聞けば安土に出向き機織りだとか! 道中お急ぎと言え休んで参られよこのにゃんこ一生懸命唄いますれば! さぁさ遠慮は要りませぬ!」
     調べに呼応するかのように、レプラコーンはピンクを基調としたオノを引き抜き微笑んだ。
    「邪魔だけれども楽しそう、就職前の一仕事……」
     激しく、軽やかに、安土城怪人の策を阻むための戦いが開幕する……。

    ●路地裏に調べは響く
     撫子は十文字鎌槍を構え、氷塊の精製を開始した。。
    「個人的な事情により、貴方には消えてもらいます」
     告げると共に、舞を描くように十文字鎌槍を振るい、フライングパティシエ服めがけて氷塊を放つ。
     袖で受けたフライングパティシエ服は、両袖を前衛陣に向け生クリームに似たオーラを放ってきた。
     合間を駆け抜けるレプラコーンは、口元を持ち上げながら跳躍。撫子に、大上段からの唐竹割りを放っていく。
     横道側、前線からは離れた場所に位置する不動・祐一(幻想英雄譚・d00978)が、すかさず赤いギターを爪弾く。
    「その程度の拘束なら、いくらでも消してやるよ!」
     言葉の通り、落ち着いた調子で響く調べは生クリームのようなオーラを消し去った。
     仮に足りなくても、アイリスが風に言葉を乗せて万全の状態を整えていく。
     前衛七、後衛四。
     前衛に偏らせながらもどちらが狙われたも概ね問題のない構成は、過不足のない治療をもたらし隙のない攻撃ができる状況を生み出していた。
     治療役であるフライングパティシエ服を、テンポよく削ることができていた。
     経過時間は、おおよそ三分。
     程なくしてフライングパティシエ服を倒すことができるだろう段階で、華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)は足に炎を宿しながら思考を巡らせていく。
     レプラコーン。
     黄金のありかを教えてくれる、というお話もある。けれど、ダークネスでは……。
    「それは無理、かな」
     苦笑しながら腰を落とし、オノを振り回し暴れまわるレプラコーンの隙をうかがっていく。
    「これでパティシエ服着たらどうなんのかな……」
     さなか、傍らに立つアイリスの呟く声が聞こえてきた。
     灯倭は小首を傾げながら、視線だけをアイリスに向けていく。
    「アイリスちゃん、パティシエ服、着たいの……?」
    「え、あ、イヤダナァ、ジッサイニスルワケナイジャナイデスカ、ハハハ」
     誤魔化すように笑いながら、レプラコーンが張り巡らせていく糸を消すため風に言葉を乗せた。
     前衛陣が拘束から説かれていくさまを、合間をくぐり抜けるように灯倭が駆けレプラコーンに炎の蹴りを放っていく光景を眺めながら、改めて仲間たちの状態を確認する。
     概ね、問題はない。
     フライングパティシエ服を落とせば、その状況も盤石なものとなるだろう。
     後は、速度だけ。
     ペナント怪人たちがレプラコーンを迎えに来る時間までに殲滅できるか……。
    「そのためにも、頑張らないとね!」
     決意とともに、アイリスは風に言葉を乗せた。
     呼応するかのように、ぼろぼろなフライングパティシエ服はレプラコーンにカップケーキを提供してく。
     レプラコーンがカップケーキを受け取り、食べ始めていく光景を横目に、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は影刃を解き放つ。
    「……One down」
     バラバラに切り裂いたフライングパティシエ服が消滅していくさまを横目に、フォルケはレプラコーンへと向き直った。
     カップケーキを食べ終わったレプラコーンは、唇を尖らせていく。
    「私の作品、壊した君ら。絶対に許さない覚悟してね……」
     言葉を、殺気を受け止めながら、撫子は十文字鎌槍を構えた。
    「貴方の存在のお陰でメイド服とか着るようになりました。和洋共に!」
     華麗な足取りで距離を詰め、リズムに乗るままにレプラコーンの横を抜けていく。
     すれ違いざまに振り向き、ふくらはぎを切り裂いた。
     姿勢を崩すことなく、レプラコーンは走り回る。
     瞳に怒りを宿しながら……。

     前衛陣の間を駆けまわり、糸を張り巡らさせていくレプラコーン。
     拘束されながら、七音は静かな想いを巡らせる。
     レプラコーンが行動を起こした動機。
     安土城怪人の求人募集。
    「……ベタ過ぎるやろ安土城怪人……でも、ホンマにレプラコーンがつれとるんやからええ作戦なんか」
     やっていることはアホっぽいと思う。
     けれども侮れないと、思考を切り替えながら力を込めた。
     風の、音の力を借りて糸を引きちぎり、ガトリングガンを構えていく。
    「ま、今は戦闘に集中……そこや!」
     ちょこまかと動くレプラコーンに狙いをさだめてトリガーを引けば、弾丸の嵐が肌をいくども掠め傷つけていく。
     動きを止める様子のないレプラコーンの進路には、一旦休符へと移行した娘子が立ち塞がった。
    「さあさあ、只今は次の演目に映るための休息時間。再び音色響く時、耳を傾けて下されば!」
     ブレーキを掛け方向転換しようとしているレプラコーンの脳天めがけ、ギターをおもいっきり振り下ろす。
     素早く走りだしたレプラコーンの背中をかすめていくさまを眺めた後、今度は灯倭が進路上へと踏み込んだ。
    「できたら情報を集めたいけど……今回は、少し難しそうかな」
     僅かに目を細めつつ、放つは炎のハイキック。
     右腕で受け止められながらも、熱量を増加させることには成功。
     表情を険しい物へと変えながら塀の側に飛び退っていくレプラコーンを、霊犬の一惺は威嚇する。
    「まだまだこれから戦いは……」
     レプラコーンは塀を足場に跳躍し、再び前衛陣の間を巡り始めた。
     すかさず、祐一はギターを掻き鳴らす。
     糸が消えていくさまを眺めながら、肩をすくめた。
     ダークネスは独立独歩ではなかったのかと。
     最近はどいつもこいつもやれ同盟だ何だ、めんどくさいと。
    「……ま、それを防ぐために戦っているんだが」
     戦場を観察する中、霊犬の迦楼羅がオノを受け止めた文具の治療を開始した。
     祐一も光を放ち、文具の感じた衝撃を和らげていく。
     受け取りながら、文具は踏み込んだ。
    「えいっ!」
     レプラコーンを掴み取り、塀に向かってぶん投げる。
     大きな音が響く中、霊犬の糊は文具の治療を開始して……。

    ●タイムリミット近づいて
     攻守万全、余裕のある戦い。
     七分の時が経過してなお、灼滅者優位が崩れぬ状況。
    「でも、油断はしないで行くよ!」
     万が一倒しきれぬという状況を消すために、アイリスは風に言葉を載せる。
     娘子はギターを掻き鳴らす!
    「少々お早いですが、まもなく終演! 服飾妖精様のお耳を最期まで拝借できたなら、最後までこのにゃんこ一生懸命唄いまするが故!」
     激しきビートはレプラコーンの体を揺らす。
     はねのけるように、レプラコーンは飛び上がる。
     七音に向かって振り下ろされたオノを、文具が間に割り込み赤い光盾で受け止めた!
    「ここは通しません!」
     宣言とともに押し返し、レプラコーンを塀へと押し付ける。
     一呼吸の間をおいた後、オーラを宿した拳を連打した。
     塀ごと打ち砕かん勢いで放たれた拳は、確実にレプラコーンを削っていく。
     さなかには糊が駆け寄って、文具の治療を開始した。
     攻撃を終えた文具が退き、守る構えを取った時、八分経過を告げるアラームが鳴り響く。
     灯倭は剣を非物質化さえ、身構えた。
    「もうすぐタイムリミット……でも、あなたの存在も……!」
     静かな言葉と共に跳躍し、体勢を整えようとしていたレプラコーンの持つ力そのものを切り裂いた。
     一惺の六文銭が畳みかけていく中、逃れるようにレプラコーンは跳躍。
    「一時方向、来ます」
     ファルケが一時方向にいる撫子に警告した。
     自身は確かな足取りで距離を詰めていく。
     能力を買ってくれる組織がある嬉しさは分からなくもない。しかし、お針子仕事で戦力増強される訳にはいかない。
    「……就職は諦めてもらいます」
     身をひねる撫子に唐竹割りを避けられたレプラコーンが着地した瞬間に合わせ、フォルケはナイフを振り下ろした。
     撫子は大きく姿勢を崩していくレプラコーンに再び向き直り、微笑んでいく。
    「時間的余裕はありますが、全力であなたを灼滅します」
     たおやかな弧を描くかのように振るわれた十文字鎌槍が、レプラコーンの両ふくらはぎを切り裂いた。
     こらえきれず膝をついたレプラコーンの首筋に、七音が刃を差し込んでいく。
    「終い……やな」
     静かな言葉とともに刃を引き、首筋を大きく引き裂いた。
     レプラコーンは衝撃に流されるままに倒れ、空を仰いでいく。
    「私敗北戦いに、就職叶わず消えていく……」
     言葉を途切れさせるとともに、娘子が祐一が最後の音を紡いだ時、甘い香りだけを残して消滅した。

     戦闘時間は、おおよそ九分弱。
     ペナント怪人たちが現れるまでには、時間があるけれど……。
    「んじゃ、ずらかるか」
     うまく偽装しつつ隠れる時間はなさそうだと、祐一が帰還を促した。
     ファルケは頷き、発煙手榴弾を取り出していく。
    「見つかってもことですし、さっさと撤収ですね」
     ピンを抜いた後、恐らくペナント怪人たちが来るだろう公道側へと投げていく。
     公道側が煙りぬ包まれていく中、横道へ入り込む形での帰還を開始した。
     見送るのは、路地裏に漂う冷たい風。
     迎えるは、初夏の気配を感じさせてくれる晴れやかな空。
     あるいは……そう、一体のレプラコーンの合流を防いだがゆえに訪れるだろう、少しでも良い未来の兆しで……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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