狂いし紅蓮纏いし者

    作者:幾夜緋琉

    ●狂いし紅蓮纏いし者
    『……ゥゥ』
     人外の獣の咆哮が鳴り響くのは、一切の人の気配を失った八王子某所の廃村。
     炎に身体を包まれた巨大生物、幻獣種。その前進に灼熱の炎を纏いし獣「イフリート」は、その廃村で唸り声を上げながら、その廃村へと向かう。
     その目的は……破壊、の一つ。
     このままイフリートが辿り着けば、イフリートは廃村を燃やし尽くし、破壊し尽くし……そして、次の破壊へと向かうだろう。
    『……ゥゥゥ』
     再度聞こえる呻き声……そしてイフリートは、その獣の如き素早さで、廃村に向けて駆けていくのである。
     
    「……っと、お、お前達集まった様だな? よし、時が来たようだぜ!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・bn0002)は、集まった灼滅者達を見渡し、説明を始める。
    「今回皆にはダークネスの一つ、幻獣「イフリート」退治をしてきて貰いたいんだ! 勿論ダークネスはバベルの鎖の力による予知があるが……この俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)から導き出した生存経路があれば、ヤツを仕留める事が出来るんだ!」
    「無論ダークネスは強力で、危険な敵ではある。それに恐怖を覚えるのは居るかもしれないが……しかしお前達は灼滅者。ダークネスを灼滅する事こそ使命。つまり、だ……厳しい戦いになるかもしれないが、戦士達は退くわけにはいかないのだ! 勇気ある皆の力で以て、ヤツらを倒してきて欲しい!!」
     そう言うと、続けてヤマトはイフリートと、状況について説明を加える。
    「イフリートはさっきも言った通り、強力な相手だ。今回相手にするのはたった一体だが、その実力は皆よりも上だ。しかし俺の言う生存経路を辿れば、イフリートを迎撃する形で仕掛ける事が出来るんだ!」
    「皆はイフリートを廃村にて待ち伏せる事が出来る。勿論廃村に既に人の姿はないが家の柱などの構造物は残っている。これらをバリケードや、視界を遮る物として使用可能になる」
    「また大がかりなものでなければ持ち込み、罠の様な物を仕組むことも可能だ。とは言え幻獣の体躯は大きく、力も強い。小さなワナの類いであれば、力尽くで破壊されるかもしれないから、そこらへんは良く頭に入れておいてくれよ?」
    「後は……そうだな。イフリートを突き動かしているのは圧倒的な破壊力と殺戮欲……死ぬまで暴虐の限りを尽す様に動き回るから、下手に前に出ると大ダメージを受けることにもなりかねないから注意してくれ!」
     そして最後にヤマトは。
    「状況としては決して余談を許さない状況だ。しかしお前達ならきっとダークネスを灼滅する事が出来る筈……そう俺は信じてる!! 宜しく頼むぜ!!」
     と皆を激励して送り出すのである。


    参加者
    神代・楓弥(楓焔・d00069)
    藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)
    平良・衣虎(高校生ストリートファイター・d00878)
    大神・月吼(戦狼・d01320)
    御柱・烈也(無駄に萌える熱血ヒーロー・d02322)
    不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)
    天護・総一(唯我独尊の狩人・d03485)
    射干玉・闇夜(中学生ファイアブラッド・d06208)

    ■リプレイ

    ●怒り狂う影差して
     東京都は八王子市某所……既に人が居なくなり、寂れてしまった廃村。
     ヤマトから事件解決の依頼を受けた灼滅者達は、そんな寂れてしまった場所へとやってきていた。
    「ここに……イフリートが来るのか……イフリート……俺が墜ちたらなる姿……か……」
     神代・楓弥(楓焔・d00069)が、ぐっと拳を握りしめながら紡ぐ一言。
     彼らの退治すべき敵はイフリート……ファイアブラッドが闇へと墜ちた、その先の姿。
     ……そう思うと、例え怪異たる姿をとっていたとしても、見過ごせない。
    「……このイフリートも、誰かに闇墜ちされちまった被害者なのかもしれねーんだよな?」
    「そうですね。その可能性は十分にあり得る事でしょう」
     射干玉・闇夜(中学生ファイアブラッド・d06208)に、天護・総一(唯我独尊の狩人・d03485)が頷く。
     ……闇墜ちした先に待つのは、果たして幸か不幸か……それは解らないけれど。
    「……ま、ともかく、だ。被害者を出さねーために、いっちょがんばろうかね!」
    「ん、ああ! すっげーやつが居るらしいけどよ、敵は強い方が燃えるってもんだろ。俺様がぶっ倒してやるよ、ハーッハッハッハ!!」
     闇夜に、声たからかに笑う平良・衣虎(高校生ストリートファイター・d00878)。
     それに呼応するかの如く、楓弥も。
    「イフリートなんかに絶対ならねー。皆連れて帰るのぜッ! こいつを倒して、俺は『俺』より強くなるッ!」
     と、威勢の良い声を上げる。
     そんな仲間達の力強い言葉に、御柱・烈也(無駄に萌える熱血ヒーロー・d02322)、不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)、藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)らも頷いて。
    「では、精一杯楽しませて貰うとしよう……早速だが、バリケードを作るぞ。材料は此処にあるモノだけで、だ」
     大神・月吼(戦狼・d01320)が、皆へ振り返りながら告げる。
     イフリートが来るまで、そんなに時間が残されて居る訳でもない。
    「ん、OK! んじゃ周りのモノかき集めてくっからな!」
    「んじゃ俺も集めてくるな。少しでも人手が多い方が、かき集めるのも楽だろうしな」
     衣虎、烈也がそう言って、村の中へ。
     そしてその他の仲間達も村の中を探し、バリケードになりそうな廃材や、木の板等々……色々な物を見繕って、月吼の所に集積する。
     そして集積した道具……例えば家の心棒にも使えるような柱は、地中深くに突き刺して立てる。
     そしてその周りに木の板やら、ガラクタやらを連ねることで、壁のような所を作る。
     数分程度の工作時間ではあるが、どうにかバリケードはできあがる。
    「……ん、まぁ、これくらいが限界でしょうか。結構頑丈だが……相手が相手ですしね……」
    「そうだなぁ……んじゃ、コレも追加しとくぜー。うまくいきゃ、相手の不意打ちも成功しやすくなるしな」
     と闇夜は、足下の辺りにピンと張ったヒモ。
     これですっころんだりすれば御の字ではあるが……まぁ、正か否かは、間もなく知れる事だろう。
    「よし……んじゃそろそろ来る時間だ。皆、隠れようぜ」
     と響哉が言うと共に、月吼を残してそのバリケードの裏へと姿を隠す。
     みんなの姿が、前方から見えないのを確認すると共に……月吼も、そこに半身を隠すのであった。

    ●紅蓮者
     そして、バリケードを立ててから暫し。
     ……周りが微かに夕焼け色に染まり始めた瞬間。
    『…………ウゥゥゥウゥ……』
     そんな呻き声の様な……唸り声の様な……どちらとも付かぬ音が聞こえ始める。
    「……どうやら、来た様ですね」
    「みたいだな……さぁ、この作戦が吉と出るか、凶と出るか……」
     総一に悠二郎が、軽く拳を握りしめながら紡ぐ一言。
     ……そして……それから更に10分程。
    『ゥウゥゥ……』
     今度ははっきりとした唸り声。そしてその唸り声に続けて、ドカン、と大きな破壊音が聞こえる。
     視線を向けると、そこには幻獣種、イフリートが廃屋を体当たりでぶちこわしながら、突進を仕掛けてきている姿が見える。
    「来たぞ……皆」
    「了解……囮、宜しく頼むぜ」
     衣虎にコクリと頷くと、すっ、とバリケードの狭間から姿を現す月吼。
    「よぉ、大将。元気だな? そんな元気なら、ちょいとばかし遊んでかねぇか?」
     そんな挑発の言葉を放つ月吼に、ギロリと睨みつけるイフリート。
     イフリートの視線……僅かに心震えそうになるが、それをおくびにも出さず。
    「ほら、こっちだぜ? その力、見せてみろよ?」
     更に挑発する月吼。
     ……そのタイミングで、静かに悠二郎はスレイヤーカードを口元に寄せ。
    「……ノヴィルニオ」
     と、静かにささやく。
     他の仲間らも。
    「……現われろ、俺の武装……体操着じゃ、ちと締まらねーか」
     闇夜がそんな事を呟いてみたりしながら、いつでも攻勢に出れるよう準備。
     ……そしている間にも、イフリートは。
    『ウゥゥゥ!!』
     鳴動と共に、そのまま特攻。
     その動きに、即座に月吼はバリケードに身を潜ませ、残る仲間達も……タイミングを合わせる。
     ……イフリートの強力な攻撃力の前には、やはりバリケードはほんの僅かな抵抗にしかならず、バリケードは崩壊する。
     ただ、それでその勢いは止められた様である。
    「ほら、こっちだぜ!!」
    「喰らえ!」
     衣虎と楓弥の二人が、前線に立ち地獄車とオーラキャノンで迎撃。無論月吼も、敵の攻撃を受け止めながら。
    「ふん。少しは楽しませてくれよ? じゃなきゃ、この学校に来た意味がねぇしな」
     と、微かに笑いながら、己にブラックフォームの回復。
     そして、中衛のジャマーに立つ悠二郎が黒死斬で斬りかかると、後衛のスナイパーに立つ総一、闇夜の二人がそれぞれ数歩離れた位置から、ご当地ビームと、抗雷撃でそれぞれ攻撃。
     ……ご当地ビームの結果、元々怒り狂っている様なイフリートは、更に怒りのバッドステータスも付与される。
    「おや。暴れているだけしか脳の無い獣如きが怒りを覚えるのですね。これは愉快です」
     そんな総一の挑発めいた言葉が、更にイフリートの怒りを誘う。
     その間に、烈也、響哉の二人は壊れたバリケードを伝いながら、敵の両サイドに展開し。
    「好き勝手になんかさせねえよ!」
    「オラオラオラァ!!」
     両サイドからの螺旋槍と抗雷撃の一撃を食らわせる。
     そんな一ターン目の灼滅者達の攻撃で、イフリートの身体に僅かな傷が生じるものの、まだ大した傷ではない。
     そして二ターン目。
     イフリートのターゲットは……総一には届かぬ為、月吼へ。
    「やっぱりこっちに来たか……ま、予想通りだがな」
     そう言いながら、ディフェンダーの能力で敵の攻撃を受け止めながら、己自身にブラックフォームで再回復。
     そして衣虎、烈也、響哉のクラッシャー三人が行動。
    「行くぜ。幻獣でも投げられたら痛いのかね? いっちょ試してやらぁ!! ……あ、でもなんか名前からして掴んだらちょっと熱いっぽい……ほんとうぜーな!」
    「確かにうぜー奴だぜ。そんな奴は……死にさらせってんだ!!」
    「……てめぇはここから先には行かせねぇ!! 確実に当ててやるぜ!」
     閃光百裂拳、抗雷撃、鋼鉄拳のコンビネーション。
     イフリートは攻撃を受けて確実に被害を受けるものの、大きな被害には至らない。
     そして、悠二郎、総一、闇夜三人も雲櫂剣、黒死斬、ガトリング連射で次々と攻撃を加えながら、確実にイフリートへのバッドステータスを蓄積していく。
     ……イフリートは怒り狂いながら、甚大な攻撃力で以て、月吼、楓弥の二人を中心に猛攻。
     大きなダメージを受ければ、シャウトやブラックフォームでの回復を各自で行う事で、決してダメージを後に残さない様に立ち回る。
     ほぼ一進一退の攻防が繰り返されていき……十ターン経過。
     イフリートに蓄積したバッドステータスもあるが、灼滅者達に蓄積しているバッドステータスと、死に繋がるダメージも多い。
    「イフリート……確かに強力な敵だぜッ! しかし負けて溜まるかなのぜッ!!」
     しかし決して諦めることはない……寧ろ、その戦いに対し、更なる意欲を沸かせている者すらいる。
     ……イフリートと、ファイアブラッド……己の血に燃えたぎる灼熱の炎こそは同じだが、それを本能のままに解放せし彼を野放しにしておけば何もかもが焼き尽くされてしまう。
    「……絶対に倒さねぇと……ほら、もっと行くぜ!! 無駄無駄無駄無駄ァァッ!!」
     声を上げながら、戦艦斬りで斬りかかる烈也、響哉もヒットアンドアウェイで、アクロバティックな動きと共に攻撃。
     ……イフリートの炎の体躯が、僅かに揺らめき始めていく。
    「ん、どうやら後少しみたいなのぜッ!」
    「そのようだな。ならば……」
     楓弥に頷きながら、悠二郎が動き、イフリートへ居合い斬りを混ぜ込み攻撃。
     それにイフリートの攻撃が仕掛けられると。
    「……そんなに俺を殺したいか? いいだろう。けど、そう簡単に殺されてやる訳にはいかない」
     そのメガネを軽く整えながら、サイドステップでその攻撃を回避しつつ挑発していった。

     ……そして、イフリートと戦闘を開始して、数十ターンが経過。
     灼滅者達も、イフリートも、共に体力は大幅に疲弊している。
     そんな疲弊状況下であっても……灼滅者達の方は、その目に光を失っては居ない。
    「……手強いとは言え、たかだか獣如きに背を向けるなど、私としてはとうてい出来かねない事です。だから……倒します」
     総一の何気なく紡いだ一言だが、それこそが灼滅者達の意思。
    「よーっし、後もう一息だ。一挙にぶっつぶすぜッ!!」
     楓弥が威勢良く、そう叫びながら、レーヴァテインで、刀に炎を纏わせる。
     そしてその刀と共に斬りかかると……イフリートの炎と背反し、一層の炎が燃え上がる。
     身体が炎に包まれるイフリートは、その一撃に苦しみの呻き声を上げる。
    「よし、今だぜ!!」
     衣虎も声を上げて、タイミングを合わせての連携攻撃。
     前衛、後衛共に一気に包囲網を気づいての猛攻は、確実にその体力を削り去って行く。
     そして。
    「これで終わりだ。残念だったな……俺の勝ちの様だな?」
     微かに笑いながら、悠二郎が放つ黒死斬に……イフリートの身体は、炎の中に燃え尽きるのであった。

    ●狂いしより解かれし者
    「……ふ。終わったな。俺様に勝とうなんざ百年早いってもんだ、ハーッハッハ!!!」
     イフリートの身体が消え失せるのを見届け、勝利のVサインをしながら笑う衣虎。
     そんな衣虎の言葉に響哉は苦笑を浮かべつつ、周りの皆を見渡しながら。
    「ああ。どうにか終わったな。皆、お疲れさん」
     と労いの言葉を掛ける。
     そんな労いの言葉に、衣虎は。
    「しっかしよー……もう暫く熱い奴はちょっと勘弁だな。色んな意味できちぃぜ」
     うんざりとした表情を浮かべる。
     ……確かにイフリート……燃え盛る炎に包まれた奴を倒すのは、骨が折れた。
     とはいえ無事に倒した事で、一応この場は平和が保たれたという事になるだろう。
    「さて、それじゃ後片付けするぜ。放置してて、火事になったりしちゃ困るしよ」
     楓弥の言葉に、バリケードの後片付けをする灼滅者達。
     そして全て終わるときに、総一が。
    「しかし……あなたは最後に、どのような感情を抱いたのでしょう。それを知る事は出来ませんが……獣如きが辿る末路としては、むしろ必然の長柄だった、と断言しておきますよ」
     そう、イフリートの無き影に向けて紡ぐ。
     ……闇墜ちの末路……イフリートとして欲望のままに殺戮をし続ける。
     ……それは獣としての末路としては正しいのかもしれない……そう思う。
     そして。
    「……さて、それでは帰りましょうか。もう此処に用はありませんしね」
     と、総一の告げた言葉に周りの仲間達も頷いて、灼滅者達は帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ