キリングファイア

    作者:邦見健吾

    「ぎゃあああ!」
     燃え盛る炎が、男を焼いた。
    「あはは! ゴミみたいに燃えてやんの」
     特攻服を着た女が笑う。その手には火炎放射器があり、背にはタンクを背負っていた。
    「灼滅者対策ねえ……ホントに役に立つのかよ。ま、んなもんなくてもアタシが焼いてやるけどな!」
     女は一瞬退屈そうな表情を浮かべ、しかしすぐに不敵な笑みに変えてまた火炎放射器のトリガーを引いた。

    「松戸市のごみ処理施設を中心に密室が形成されているのを発見しました。ですが……」
     九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)の調査の結果、アツシの密室を発見することができた。密室内では六六六人衆が一般人を支配しているが、問題はそれだけではない。
     そこで、緑茶を飲んでいた冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が口を開く。
    「闇堕ちしMAD六六六に加入したハレルヤ・シオンによって、警戒態勢が敷かれています。密室内に侵入するには、ハレルヤの配下の六六六人衆に見つからずに行動する必要があります」
     ハレルヤ配下は周辺を見回っており、見つからないためには目立たないように、慎重に動く必要がある。密室の近辺は住宅街になっており、狭い路地を選んで進むといいだろう。
    「密室を支配する六六六人衆の名前はエンカ。火炎放射器を武器にするダークネスです」
     エンカは気まぐれに密室内の人間を燃やして処刑している。序列は高くないが、相手は六六六人衆。油断はできない。
    「ただし、途中でハレルヤ配下の六六六人衆に見つかると、そちらと戦闘になってしまいます」
     その場合、灼滅者の襲撃を察知したハレルヤにより、新たな六六六人衆が増援として現れる。撤退するためには、素早くその場を切り抜けねばならない。ハレルヤ配下の六六六人衆の戦い方や武器などは不明だが、できるだけ速攻で片を付けるのが望ましい。
    「密室を支配するダークネスを灼滅するのが第一の目的ですが、ハレルヤの配下に見つかった場合は、その六六六人衆の灼滅及び松戸からの撤退を目標にしてください」
     残念ながら、ハレルヤ配下の六六六人衆に見つかった場合は撤退を選ぶしかない。
    「密室内のダークネスを倒していくことで、ハレルヤやMAD六六六が動きを見せるかもしれません。複雑な事件ですが、よろしくお願いします」


    参加者
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)
    九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)
    人首・ククル(塵壊・d32171)
    絢藤・さくら(桜の下に埋めた愛・d34031)

    ■リプレイ

    ●密室へのルート
    「おびき寄せられてるのかな? でも、行かないわけにはいかないよね」
     蛇に変身した合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)と絢藤・さくら(桜の下に埋めた愛・d34031)を服の中に隠しつつ、フェイ・ユン(侠華・d29900)が呟く。ハレルヤの配下が待ち受けているとはいえ、密室を放置することはできない。一刻も早く囚われた人々を解放したいところだ。
    (「ハレルヤ・シオンか、オルフェウスの悪夢がとことん祟るね。武蔵野学園の生徒だったからこそ此方の嫌がることが分かっているとは皮肉なことだ」)
     ただでさえ厄介だった密室殺人鬼だが、更に灼滅が難しくなってしまった。松戸での戦いは更に難しさを増すだろうと鏡花は予想する。
    (「密室を作って何をするつもりでしょうか?」)
     さくらがふと思うが、六六六人衆がやることなどどうせ決まっている。精々丁度いい隠れ家を手に入れたとでも思っていることだろう。
    「密室の内外に敵がいるとは、中々に面倒だね」
     山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)が少し呆れたように肩をすくめ、用意してきたポーチに蛇変身した人首・ククル(塵壊・d32171)が入る。ただでさえダークネスは灼滅者より強大、戦いに集中するためにも複雑な仕掛けはやめてほしいものだ。
     動物に変身するESPを使い、見かけの人数を減らして住宅街を進む灼滅者達。九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)と槌屋・透流(トールハンマー・d06177)は猫に姿を変え、先を歩いて仲間を先導する。
    (「しかしまた、趣味の悪い密室が続きますね……。まずは1つずつ開放していきましょう、大元を断つ為に」)
     黒猫の額には赤毛が少々。皆無が周りを見回し、人通りがないことを確認して首を縦に振る。合図を確認して、ユン達が素早く後に続いた。
    (「ハレルヤ・シオン……未だにあの者が堕ちたとは信じられません。笑いながらひょっこり戻って来そうな気がしております」)
     御印・裏ツ花(望郷・d16914)は仲間達から少し離れ、しかし互いに目を離さないように付いて歩く。
    (「しかし笑えぬ悪戯に付き合ってあげる心算はございません。わたくし達が止めて差し上げましょう」)
     かつての仲間とはいえ、いやかつての仲間だからこそ、その行いを見過ごすことはできない。いずれ闇に身を隠す彼女を引きずり出し、力ずくで止めてみせる。
    (「あれは……」)
     猫となった透流の毛色は橙に近い茶色。物陰から様子を窺っていた透流が道の向こうからやってくる少年を見つけた。着ているのはHKTのものに似た、MADのロゴ入りのシャツ。尻尾を振って仲間に知らせ、通り過ぎたのを確認して頷いた。

    ●襲い来る炎
     灼滅者達は家々の間を素早く移動し、順調に密室に近づいていく。
    「ハレルヤちゃんはいないのかな? ……ちょっと気になるけど、今はこっちに集中しないとダメだよね」
     もしハレルヤの警戒網に引っかかれば、ハレルヤ自身が灼滅者の迎撃に現れる可能性は否定できない。だが今は密室に巣食う六六六人衆を倒すことが先決、ユンは頬を軽く叩いて意識を切り替える。
    (「あともう少し……」)
     敵が見えなくなり、周囲を注意深く確認して皆無が頷く。灼滅者達は一気に駆け、とうとう密室への侵入に成功した。
    「さて、ここからが本命ですね」
     密室の内部に入ったことを確かめ、ククルがポーチから這い出して変身を解いた。口元には挑発的な笑みが浮かんでいる。
     変身していた灼滅者達は人間の姿に戻り、全員でひと塊となって敵を探す。いつ敵に攻撃される分からない緊張感を覚えつつ、周囲に気を配りながら歩みを進めた。
    「燃えちまえ!」
     道幅の広い道路に差しかかったところで、乱暴な声とともに火炎の波が灼滅者達に襲いかかる。声と炎の主はこの密室の支配者、六六六人衆エンカ。
    「まったく苦労するよ、コソコソと隠れる臆病者の相手は」
     しかし襲撃も想定内、霞が咄嗟に立ちふさがり、自身の分厚い胸板を盾にした。
    「ふふ……焼殺ですか、中々趣味の良い事で。これは私としても大変腕が鳴ります」
     すかさずククルが縛霊手で霞を指差し、霊力を送って傷を癒す。ククルはエンカを焼き滅ぼす瞬間を想像し、恍惚感に唇を歪めた。
    「こんなところで何がしたいんですか?」
    「決まってるだろ? 殺しだよ!」
     さくらは不敵な笑みを浮かべ、どす黒い殺気を自身の外へと吐き出してエンカを包み込む。続けてユンが飛び出し、巨大な手甲を打ち込むとともに霊力の網を放射した。
    「さあ、楽しませていただきましょう」
     裏ツ花は癒しの力を秘めた矢を弓に番え、皆無を打ち抜いて眠っていた感覚を呼び覚ます。矢を受けた皆無は跳躍して頭上を取り、落下とともに鬼の拳を叩き込んだ。
    「全力でいかせてもらおう」
     鏡花がウロボロスブレイドを振るうと、刀身が伸びてガラス片のような刃が光る。迫る刃はエンカの顔を映し、肉を切り裂きながら巻き付いた。
    「貴様を、狩りに来た。……ぶち抜いてやる、覚悟しろ」
     ぶっきらぼうな、とても少女らしくない口調で宣戦布告する透流。髪に隠れていない左目で敵を睨み、体に巻き付いたダイダロスベルトをほころばせる。意思持つ帯は自動で敵を捉え、矢となって突き刺さった。

    ●燃え上がる炎
    「少しずつ斬りさいていきます。楽しませてくださいね?」
    「アタシを舐めんじゃねえ!」
     さくらは断罪輪を構えて死角から斬撃を見舞い、鎖に縛られたビハインドの神父さまは、攻撃の余波で砕けたアスファルトを浮遊させて弾丸に変える。
    「燃えろよ、生ゴミみたいになあ!」
    「私達を燃やすにはちょっとヌルいんじゃないかな?」
     噴き出す炎を圧縮し、火弾に変えて撃ち出すエンカ。しかし霞が再び受け止め、光の壁を展開して反撃する。光に打たれ、エンカが数メートル退いた。
    「ふふふ……そちらが炎を操るなら、わたくしはこうしましょう」
     裏ツ花は敵の火炎に対抗するように、槍を横薙ぎに振るい、帯びた妖気を氷柱に変えて撃ち出す。氷柱はエンカの特攻服を貫き、体内から冷気を注ぐ。
    「松戸市のゴミ焼却施設は不吉な事件が過去にもあったりしますが……それも貴女の仕業なんですかね?」
    「ああ? 知らねえよ」
     皆無の問いに、エンカは小さく首を傾げるだけ。密室はともかく、松戸では他の事件には関与していないのだろう。しかしだからといって行いが許されるものではなく、皆無は錫杖を打ち、さらに魔力を流し込んだ。
    「燃えやがれゴミども!」
     灼滅者は次々に攻撃を重ねるも、エンカの力も侮れないものだった。構えた火炎放射器から赤く燃える炎を放ち、炎は灼滅者を呑み込んで辺りを火の海に変える。灼滅者でなければ熱された空気を吸うだけで絶命しているところだろう。
    「熱いけど、負けないよ!」
     だが灼滅者は怯まない。ユンはギターをかき鳴らし、軽快なサウンドを響かせて仲間達に活力を与える。ビハインドの无名は中華刀を振るい、火炎放射器目掛けて一閃した。ククルは火傷を負った仲間にダイダロスベルトを伸ばし、包帯のように包み込んで傷を治癒させた。
    「さ、大人しく退治されてくれよ」
     鏡花は芝居がかった口調で言い、エアシューズのローラーを滑らせて迫る。接近とともにローラーに炎を纏わせ、回し蹴りとともにぶつけた。霊犬のモラルも続き、魔を絶つ刃で一太刀浴びせる。
    「ぶっ壊す」
     間髪入れず透流が近づき、小さい体躯を活かして懐に潜り込む。縛霊手を叩き込むと同時に霊力の網を放ち、エンカを絡めとった。
    「死ねえ!」
    「あは、あははははっ!」
     烈火を纏った拳がさくらを襲う。直撃を受けて吹き飛ばされるが、さくらは炎に包まれながら、楽しそうな笑い声を上げて立ち上がった。

    ●火炎殺人鬼の灼滅
    「燃えろぉっ!」
     再びエンカの火炎放射器から炎が噴き出し、灼滅者達を呑み込む。一進一退の攻防が続き、灼滅者は皆例外なく体に火傷を負っていた。熱さに吹き出す汗も、炎の熱で瞬く間に乾く。だが灼滅者達は溶けたアスファルトを蹴り、屈することなくダークネスに挑み続ける。
    「燃やすしか能の無い単純なお方ですのね。そういう分かり易さは嫌いではありませんですが、わたくしの衣装を焦がした罪は重い。……万死に値する!」
     裏ツ花がエンカをキッと睨み、裏腹に軽やかなステップを踏んで踊る。燃え盛る炎を華麗に潜り抜け、螺旋描く槍で貫いた。
    「あともう少し頑張るよ!」
     ユンの言葉に无名が頷き、ともにエンカに迫る。无名が剣を薙ぎ払うと同時、ユンは自身を包むオーラを拳に集めて連撃を繰り出した。目にも留まらぬ速さで拳を振るい、無数の光がエンカを打つ。
    「そろそろ幕引きといこうか」
     モラルは銭の弾丸を連射し、エアシューズで加速した鏡花は助走を付けて跳躍。頭上から跳び蹴りを見舞い、流星のように敵を打ち抜いた。
    「挟撃しましょう。タイミングを合わせてください」
    「お安い御用だ」
     ここが決め時と判断し、支援役のククルも攻撃に回る。エアシューズを駆って接近すると、霞もバチバチと弾ける紫電を拳に宿し、反対側から肉薄する。烈火を帯びた蹴りと電光纏う拳が同時に迫り、エンカを襲った。
    「死ねチビが!」
    「……絶対ぶち抜く」
     透流は正面から被弾を浴びるが、火傷に構うことなく怒りを込めてエンカを睨む。足元から伸びる影が左右に分かれて翼のように広がり、無数の刃を生やして敵を呑んだ。
    「さくらさん、いきます」
    「わかりました」
     皆無の呼びかけに応え、さくらが影を走らせる。影は地を這って伸び、鋭い刃となってエンカを切り裂いた。そして皆無のマフラーが帯となり、炎を貫いて火炎放射器のタンクごとエンカを串刺しにした。
    「ぎゃあああああ!」
    「さよならですね」
     断末魔を上げ、炎とともに消えゆくエンカ。さくらは小さく笑みを浮かべ、殺戮者の消滅を見届けた。

    「灼熱地獄……とまではいきませんか」
     体に付いた煤を払い、息をつく裏ツ花。アスファルトは溶け、周囲は真っ黒な焦げ跡だらけ。もし周りに一般人がいれば地獄絵図になっていたことだろう。
    「ふう、熱かったぁ……」
     ユンが火照る体を煽ぎ、汗を拭う。苦戦の末六六六人衆を撃破できたが、敵がもう少し強ければ結果は逆になっていたかもしれない。灼滅者達は一旦休息をとり、慎重に密室を脱出した。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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