DENSETU NO OBATYAN

    作者:空白革命


     スーパーマーケット。庶民の場であるはずのそこは、時として戦場となる。
     戦火の到来を告げたのはたった一枚の紙切れである。
     各家庭に配布された『卵1パック20円(お一人様一個限り)』の布告だ。それで戦士たちには全て通じるのだ。
     趣味が筋トレというおっさん田中氏は、タンクトップから覗く筋肉を太陽に晒して朝の駐車場に訪れた。
     風と共にチラシが横切り、ライバルたちが振り返る。俊足の新聞配達おっさん山田。変幻自在のティッシュ配りおっさん中山。禿げた床屋おっさん内田。そんな誰がされだか三秒後には分かんなくなっていそうな彼らは、お互いの名前をできるだけ呼ばないようにしながら頷き会った。
     彼らの脳裏にあるのは一つの懸念事項である。
     口火を切るように田……内……山中? いや、えっと、おっさんのひとちが口火を切る。
    「今日は、『奴』が現われるという噂がある」
    「『奴』が? ばかな、奴は夫の転勤でこの土地から消えたはず」
    「かみさんが『奴』を見たと言っていたんだ。週7で嘘をつく奴だが間違いない」
    「だが本当に現われるのだとしたら……」
    「恐ろしいことになる。お一人様一人限りの卵を巧みな変装を使って全て買い取っていったという……伝説のオバチャン」
    「事態に気づいた俺たちが全ての力をあわせても、止めることはできなかった」
     戦いの記憶が呼び起こされる。
     合体奥義田中内山アタックをカート突撃だけで打ち払った悪夢の三十分。おっさんたちは本能的な震えにすくんだ。
     そんななか。
    「見ろ、あれは……!」
     開店時間をかなり前にした、まだ車もとまっていないスーパーマーケットの駐車場に、カラカラという音が響いた。
     風と共に大量のチラシが飛んでいき、そのなかをゆっくりと進んでくる。
     頭にカーラーをつけたままの、分厚い眼鏡とキツい口紅。そしてタイガーの顔そのものがプリントされたヒョウ柄シャツ。Lサイズ服だというのにそれがピッチピチになるほどの巨体。
     押してきたマイカートには『アイアムレジェンド』と刻印されていた。
    「奴だ……!」
    「奴が……!」
    「「伝説のオバチャン!」」
     オバチャンはカートを握りしめ、天空へと吠えた。
    「VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOW!!」
     

    「っていう都市伝説が実体化したんだよ」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)の話に、灼滅者たちは反応を選んでいた。
     雰囲気はすごかったが、平たく言うと古き恐ろしきオバチャンの噂話がサイキックエナジーで実体化したという話である。
     今回の役目は、そのオバチャン灼滅することなのだ。
     
     オバチャンはパワー型。カートによる突進と、威圧や迫力による攻勢防御が特徴だ。
     戦闘力は大したもので、こうして灼滅者を1チーム組むほどの脅威である。
     現場は早朝のスーパーマーケット駐車場。場合によっては戦場移動もありえるが、大きな違いは無いはずだ。
     現場に居合わせるオッサンズ4もシリアスな顔だけしてゆーっくり逃げていく筈なので心配は無用である。
    「それじゃあみんな、頑張ってね!」


    参加者
    佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)
    天衣・恵(無縫者・d01159)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)
    熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)
    メルディン・パナケイア(ミストルテウォーロック・d33071)
    恩情寺・亀麿(往古来今・d33306)
    鵠・裄宗(雪恋慕・d34135)

    ■リプレイ


     おっさんは無力である。女性に手を出せば犯罪者となり、口を出せば女々しいとされる。故にオッサンズ4ができたことと言えば、スーパーマーケットの前で反復横跳びをしながら可能な限り泣きそうな顔をすることだけだった。
    「くっ、ダメだ。オバチャンの勢いが全く弱まらないぞ!」
    「奴に人間性は無いのか!?」
    「こうなったら俺が前科を背負う……お前たちはその間に……」
    「無駄だ、警察の前に病院に担ぎ込まれるぞ!」
    「モウダメダァ! オシマイダァ!」
     おっさんたちが絶望の谷底へと落ちんとしたその時、かの者たちは現われた。
    「ちょっと待ちな!」
     文字通りの仁王立ちで割り込んだのはそう、咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)である。
    「一人で何人分も卵を買い占め酔うったってそうはいかないぜっ」
    「えっなにこの子、おつかい?」
    「危ないぞー! 何しに来たんだこんな所に!」
     千尋の左右を固めるように現われる熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)と鵠・裄宗(雪恋慕・d34135)。
    「卵を買いに来ました」
    「それ以外に、ここへ来る理由があるか?」
     ニヒルに言うと、二人はカードを翳した。
    「薄利多売で頑張る店長さんにこれ以上の打撃を与えるわけにはいきません」
    「独り占めはゆるさん。せめて三パックまでにしておけ」
    「いやそこは一パックにしとけよ!」
     佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)が携帯で家に電話しながら振り向いた。携帯に向き直る。
    「えっいやこっちの話。とりま母さんたち全員で来てさ、一人ずつ買う感じで……」
    「とにかく!」
     オバチャンを取り囲むように現われる天衣・恵(無縫者・d01159)。
    「人は分かち合わなきゃダメなんだ! だからアンタも、一パックで我慢しなあ!」
     そんな彼女の後ろできゃっきゃし始める恩情寺・亀麿(往古来今・d33306)たち。
    「スーパーにくるの、はじめてです。ちょっとわくわくします。カードは使えますか?」
    「かつて二十円のためにブラックカードを提示した中学生がいただろうか?」
    「それはそうと、卵一パックあればメニューが広がりますよねっ!」
     同じくキャッキャする桜川・るりか(虹追い・d02990)とメルディン・パナケイア(ミストルテウォーロック・d33071)。
    「卵焼きに目玉焼きに茶碗蒸しに玉子丼に……あっゆでたまご!」
    「卵かけご飯もいいよね。朝とか二個も三個も食べちゃう」
    「コレステロールなんて言葉に騙されちゃだめだよねっ!」
     徐々に話題がそれてきたところで、千尋はコホンと咳払いした。
    「とにかくおっさんたち。用が無いなら帰って欲しいんだけど……」
    「ばばばばかいうんじゃないよキミィ!」
    「卵買えずに帰ったら家庭で居場所を失うんだぞ! 社会的かつ物理的に!」
    「晩ご飯が自分だけ『炊いてない米』だった時の気持ちがわかるか!?」
    「だけど怪我はしたくないので俺たちは下がらせてもらいます!」
    「うん……なんかごめん……」
    「とりま伝説が塗り替えられる所を遠くから見とくがいいさ。ってことで行くぜ!」
     カードを掲げる司。
     八人の灼滅者が同時にカードを掲げ、それぞれの光に包まれた。
    「ヴォオオオオオオオオオオオオウ!」
     本能的に敵を察知したのか、オバチャンは咆哮と共に突撃を開始した。
    「画に描いたようなオバチャンっぷりしやがって、くらえ!」
     司はオバチャンの正面に立って大砲を連射。左右をフォローするようにダイダロスベルトも一斉に発射した。
     一方のオバチャンは砲弾や布やりを弾きながら突進してくる。
    「なにっ」
    「うおおおおお負けるかああああああ!」
     恵はカートをひっつかむと、オバチャンへと突撃した。
     正面から激突するカートとカート。
     しかし、恵のカートは段ボールのように拉げてしまった。
    「だめだ! オバチャンのマイカートはダイヤモンド製という噂があるんだ!」
    「ンなカートがあるかあ!」
    「可哀想に、あの女子高生はカートクラッシャーの餌食に……」
     目を背けるおっさんたち。
     だが禿げたおっさんが目と頭を光らせて叫んだ。
    「いや見ろ!」
     恵はカートを破棄し、素手でおばちゃんのカートを受け止めていたのだ。手にはバンテージがぐるぐると巻き付けられている。
    「うおお……なんてパワーだこいつう!」
    「そのまま押さえておけ。俺がやる」
     ウサミミつけた燕尾服というちょっと常識にない格好をした翔也が、オバチャンの側面へと回り込んだ。大口径のリボルバー拳銃を引き抜き、オバチャンへと叩き付ける。
    「いかに強力な突進でも、止まってしまえば側面がおろそかになるはずです」
     反対側へと回り込んだ裄宗が槍や帯を繰り出し、オバチャンを地面へざくざくと縫い付けていった。
    「このままなら、やれる」
     銃を指先で反転させ、ハンマーのように持ち直す翔也。
     流れるような連撃でオバチャンの頭部や肩を破壊しにいく。
     が、しかし!
    「ジョシリョクウウウウウウウ!」
     オバチャンのパーマにバチバチと電流がはしったかと思うと、突如ノーモーションから急激な速度で発進した。まるで大砲の弾である。
     恵たちは一斉に吹き飛ばされ、メルディンとシーナは横スライドで彼女たちをキャッチした。
    「元気なおばさまもいたものだねえ」
     機構手袋をがちゃがちゃと動かし、シーナと合同で儀式魔術を発動させるメルディン。
     オッサンズ4は目を剥いた。
    「見ろ、彼らの傷が光によって癒えていく!」
    「アリガタヤアリガタヤ」
    「ねえウサミミの人には突っ込まないの? 気になってるの私だけなの?」
    「おい見ろ、オバチャンがこっちに!」
    「イケメエエエエエエエエン!」
     目全体を紅蓮色に輝かせたオバチャンが炎の轍を刻みながら突進してくる。
     目を瞑ったおっさんたちの前に、立ち塞がる千尋。
    「このおっさんらのどこがイケメンだよ……」
     千尋は剣を叩き付けて勢いを動きを拮抗させた。火花がばちばちと飛び散る。
    「オバチャン、アンタだったのか。試供品の果物を食い尽くしたのは」
    「なんだって!? 神聖なる試食を食い尽くすなんて、こいつ人間ジャネエ!」
    「俺たちは手をつけることすら躊躇しているというのに!」
    「店員さんに謝りな!」
     勢いが僅かに減った所で、千尋の鋭い蹴り上げが襲う。
     オバチャンはたまらず進路を変えた。
     その進路上で、るりかがばさりと赤い布を広げる。
    「ボクに敗北という文字はない!」
     ひらひらと動かした赤い布――に目もくれずるりかを吹っ飛ばすオバチャン。
    「そんなー! オバチャンが赤いものに反応しないなんて!」
    「知ってた」
     るりかはブーツで着地すると、アスファルトを焦がしながらブレーキをかけた。
     すりむいた肘にふーふーしてあげる亀麿。
    「オバチャン、とっても手強いですね」
    「今のがレッドストライクと清めの風だっていう説明をする暇が無いくらいの激しさだよ」
    「こうなればオッサン最後の必殺技、入口土下座で侵入を阻むしか……」
    「馬鹿! そのまま『いらっしゃいませマット』のシミにされるだけだぞ!」
    「モウダメダァ! オシマイダァ!」
    「俺たちはどうしたら」
    「心配するな」
     絶望するおっさんたちの肩を、翔也が叩いた。
     同じように肩を叩く司。
    「まだ俺たちは負けちゃいねーぞ」
     同じく肩に手を置いて微笑む裄宗。
    「任せてください。その間、皆さんは後ろへ」
     はげた頭を叩く千尋。
    「あのオバチャンは、アタシらが必ず止める」
     その気概を買ってか、オバチャンはイノシシのように地面を足でかき、蒸気が出るほど熱い鼻息を吹いた。
    「バアアアアアアアゲエエエエエエエン!」


     風の吹き抜ける駐車場。
     メルディンは横へなびく髪をそのままに、両手を大きく広げて見せた。
    「たまごは譲らないよ。カート突撃も……私が受け止めるっ!」
    「ツメホウダアアアアイ!」
    「きゃふん!」
     メルディンが突撃によって吹っ飛ばされた。高速で回転しながらどしゃあって地面に落下した。
    「これが、日本のおばさまのぱわー……がくっ」
    「メルディン死なないでー! まだパート始まって五行だよ! まだ早いよー!」
     涙目になってメルディンをゆするるりか。
     メルディンは懐(懐!?)からシーナを取り出すと、るりかへと手渡した。
    「この子にメモをつけて……卵を買わせてあげて……一パックでも、多く……」
    「無理だよー! ネコは卵食べられないものー!」
    「……!?」
     こっちはこっちでウサギに変身してやり抜こうとしていた翔也が『なん、だと?』みたいな顔して振り返った。
    「待ってくれ。ってことは俺、一パックしか買えないのか? 明日までに最低二パックは必要なのに……」
    「ツカミドリイイイイイ!」
    「ぐはあ!?」
     戻ってきたオバチャンにまとめて吹っ飛ばされるるりかたち。
     両足でストンと着地するるりか。その両腕にすとんとキャッチされるメルディン。その胸にぽすんと落ちてくるシーナ。
     一方で片膝姿勢で着地する翔也。
    「こうなったら派手にいくしかない。パティシエの意地を見せてやる!」
     翔也はオバチャンに対して銃を連射。
     突撃するカートに光弾がカキンカキンはじかれるが構わず突撃した。
     ぶつかりざまに炎をあげ、体当たりをしかける。
    「シーナッ」
    「にゃ!」
     両手でシーナを掲げて増幅祭霊光を放つメルディン。
    「そういえば今日はダイナミックキャンペーン中だったよ」
     思い出したようにでっかい大砲を取り出し、オバチャンへ発射するるりか。
     鉄球が放物線を描いて飛んでいき、オバチャンに激突。
     よろめいた所で、裄宗が和紙箱に入った蝋燭を撫でた。箱からは火花が散り、火花は華となってオバチャンへ降り注いでいく。パーマがちりちりと燃えた。
    「アデエエエエエエジョオオオオオ!」
    「今です」
    「うっしゃ! 畳みかけんぜ!」
    「くらえ私の魂の、突撃!」
     司と恵が肩を並べ、オバチャンへと突撃した。
     巨大なシールドが広がり、激しい炎が尾を引いていく。
     オバチャンが三方向からの突撃をうけ、今度こそ動きを止める。
     剣を抜く千尋。
    「オバチャン。アンタだったのか。おつとめ品のシールを貼り替えていたのは。へこませたビールを奥にしまいこんでいたのは……!」
    「なんだって!? それはもう犯罪じゃないか!」
    「そんなの客ジャネエ!」
    「くらえ、半額時間前に回収したお総菜にシールを貼れと要求されて泣く泣く張るしか無くなったバイト店員の憎しみ!」
     千尋は膨大すぎる紅蓮のオーラを剣に纏わせ、オバチャンへと斬りかかった。
     胸にプリントされた巨大なタイガーの顔が切り裂かれ、悲鳴をあげるオバチャン。
    「アメチャアアアアアン!」
    「伝説のオバチャン。あなたは強かった。だからこそ……その力は、正しく卵をゲットするために使うんです」
     亀麿はスマホを天に掲げ、アプリアイコンを親指で押し込んだ。
     非物質性の剣が生まれ、大きく天へと伸びていく。
    「その力、いただきます!」
     大上段面斬り。カートごと左右真っ二つになったオバチャンは、両手を掲げて爆発四散した。
    「ジーザスクライシイイイイス!!」
     オバチャンはエネルギーの粒子となり、亀麿のスマホに座れていく。そして待ち受け画像となった。
    「ふたつめ。『伝説のオバチャン』をゲットです」
     スマホを両手で抱きかかえ、亀麿はにっこり笑った。


     かくして倒された伝説のオバチャン。
     スーパーマーケットは正常に開店し、正常に恐ろしきオバチャンたちが群がり、牙をむいたオバチャンたちにボロぞうきんみたくされたオッサンズ4が自転車置き場に積み上げられていた。
    「今回もダメだったよ……」
    「モウダメダァ、オシマイダァ」
    「ネコちゃん作戦も失敗だったよ。店員以前にオバチャンたちが許さなかった……」
    「まあでも一パックは手に入ったからいいんじゃね?」
     メルディンと司が、それぞれシーナとウサギ(翔也)を抱えて立っていた。
     同じく卵を一パックずつ抱えて身体を左右に揺らするりか。
    「帰ったら何作ろっかなあ。卵とお豆腐とだし汁を混ぜて焼くやつ作ろっかなあ」
    「それはそうと。よく吸収する気になりましたね、あの都市伝説を」
     スマホをぐりぐりしていた亀麿を、裄宗は横目に見た。
     目だけで見上げる亀麿。
    「欲しかったですか?」
    「いえ……何か恐ろしい気持ちになってくるので……」
    「ですかあ」
     ふうと息をつく一同。
     そんな中で、恵はビニール袋を手にぐっとガッツポーズをとった。
    「今日私たちは伝説のオバチャンに勝ったんだよね。ってことは、私こそが伝説の……」
    「ちょーっとアンタたち、駐輪場で涼んでんじゃないよ。店内で涼みな!」
     エコバッグとナップザックを完全に装備し、背中からネギを生やしたオバチャンが話しかけてきた。子供乗車用のオプションがついたママチャリを掴んでである。
     威嚇するように膨らんだパーマ。虎の顔そのものがプリントされたシャツ。そしてイノシシのごときふとましいボディ。
    「…………」
     お化けか何かを見たような顔で黙る一同をよそに、オバチャンは自転車のロックを外した。
     そして胸ポケットから飴玉をいくつか取り出すと、恵たちにぽいぽいと配った。
    「あんたら、まだ争奪戦には素人だね。鍛えて、またきな。次はいい勝負をしてやるよ」
    「あ、え、うん」
     チリンチリンいわせながらママチャリで走り去っていくオバチャン。
     その後ろ姿を見送って。
    「伝説は作るもの、かあ」
     恵たちは呟いた。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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