尾張名古屋は嬢で持つ

     小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
    「少し地味ではありますが、それでこそ飾り甲斐があるとも言えますね……」
     怪人の名前は名古屋嬢怪人。旧家の気品と最先端のセンスを併せ持ち、ファッション界をリード……したい女怪人だ。
    「お褒めいただきありがとうございます。安土城怪人様も、同じ『城怪人』として貴女様のお力を期待しております。共に難き天海を討ち滅ぼしましょうぞ!」
     背後に並ぶペナント怪人達には、例の盛り髪縦ロールのウィッグがペイントされている。あくまでペナントのマークがそれであり、ウィッグを着けているわけではない。
    「……私のどの辺りが『城』なのかは存じませんが、期待を受けたからには答えましょう」
     そして活躍の暁には、全ての女性の髪形を自身と同じものに……。そう、買い物も仕事もデートの時も、常にこの盛り髪縦ロールが正装であるとオシャレ革命を起こすのだ……!
     
     小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。先日も高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)を始めとする灼滅者達が、その内1つを潰している。
    「うんうん。あの戦いはお腹が減って大変だったよー」
    「いただいた情報は飲食系ではありませんので、今回はその苦労をせずに済みそうですね」
     情報を元に天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)が予知した怪人の名前は、名古屋嬢怪人。己のスタイルこそ至上とファッション界に打って出る予定だ。
    「この辺りは普通の怪人ですね。なので普通に灼滅が必要です」
    「任せといて! で、今度はどんなお城なのかなー?」
     城を与えられた怪人は、城に翻る旗によりパワーアップしているのだが、それを下ろせば弱体化して有利に戦える。城への潜入に際し、構造は重要な情報だ。
    「装丁は派手ですが特別な構造はありません。そして肝心の旗ですが……。周囲に似た物が何十本と並んでいます」
     部屋には縦8列横8列……合計64本のデコられた旗が立っているが、本物は1つだけ。しかも、1人1本より多く抜こうとするとバベルの鎖で気付かれるおまけ付きだ。
    「一度に纏めて抜く、サーヴァントに抜かせる、なども気付かれてしまいますので、任務に参加した人数分が限度です」
     前述のルールに違反、限度まで抜く、本物を抜く……の何れかで、怪人達が隣の部屋から駆け付けてくる。
    「も、もしかしてノーヒントで8分の1とか言わないよねー?」
    「……予知の際『名古屋ですし本物はあの場所に』と聞こえたので、これが何かのヒントになるかもしれません」
     まあ、外しても不利益は無く、弱体化させねば勝てぬ相手でもない。スッパリ諦めるのもありだろう。
     なお、部屋までは慎重に進めば見つからずに辿り着ける。
    「敵の戦力ですが、名古屋嬢怪人は回る度に威力を増す髪の毛ドリル、縦ロールから動きを制限する竜巻を放つ、ブランド品の後光で威圧する技が使え、クラッシャーに就きます」
     ペナント怪人達は、BS耐性付きパンチ、怒り付きビーム、応援して回復する技が使え、全員がメディックに配されている。
    「自分が一番前に出たいー! って性格?」
    「そのようですね」
     見た目通り、流石の自己主張である。
     
    「最後に聞いてみたいんだけどいいかな?」
    「ん? なになにー?」
    「……わたしがあの髪型したら似合うと思う?」
     問われ名古屋嬢ヘアーのカノンを想像する灼滅者達。
    「案外イケるかもね。何事もチャレンジだー!」
    「おーっ!」
     拳を突き上げる2人を前に、どう止めたものかと頭に手を当てる仲間達だった……。


    参加者
    香坂・颯(優しき焔・d10661)
    天草・水面(神魔調伏・d19614)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)
    空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344)
    空木・由姫(高校生七不思議使い・d33374)
    リリィ・プラネット(その信念は鋼の如く・d33874)
    兎珠・菊千夜(飢狼・d34971)

    ■リプレイ

    ●本家は11体の5列
     城内に潜入した灼滅者達は、派手に飾られた廊下を進み最上階まで辿り着いていた。
    「何と言うか、わりとアッサリここまで来られたな……」
     潜入自体の難易度は低いと聞いていたが、兎珠・菊千夜(飢狼・d34971)にしてみれば、気を張っていた分拍子抜けとも言える。
    「でも、本番はここからよね。正直どれ抜いていいか分からなかったし」
     眼前に広かる64本のデコ旗を、空木・由姫(高校生七不思議使い・d33374)は呆れ顔で見回している。
    「まあ、外して損はないし一か八かやるしかないッスよ。相談通り8列目を狙うッス」
    「名古屋撃ちってやつなんだよね!」
     整然と並ぶ旗と聞き、天草・水面(神魔調伏・d19614)が思いついたのは某有名ゲームの敵役達で、高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)の言葉はゲームの攻略法の1つだ。水面にも確信は無かったが、指標無しよりはとこれで挑むことになっていた。
    「じゃあ、1本目いくよ……」
     端から順番にということで、香坂・颯(優しき焔・d10661)が旗に手を取り力を込める。樽に短剣を刺すゲームのような緊張感の元旗を引き抜くも、特に何も起こらない。
    「次は私が行こう。この旗が私を呼んでいるに違いない……っ!」
     と、抜いた旗を頭上に掲げるリリィ・プラネット(その信念は鋼の如く・d33874)だが、やはり何も起こらない。
     そして、3、4、5本目と特に何が起きるでもなく旗は抜かれていく。
    「おー、すわんカッコいい! 似合うよ!」
    「あと2本、だな……」
     空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344)がライドキャリバーのぶらっくすわんへと旗を飾る後ろでは、アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)が6本目の旗を抜いてハズレを確認する。
     なお、これを含め灼滅者達の会話は全て小声で行われている。例え『!』が付いていても雰囲気としてそうであるだけだ。
     続いて、7、8本目と旗が抜かれたその時、部屋の扉が音を立てて開かれる。
    「嫌な予感がしたと思ったらお客様でしたか……。いいでしょう。城を得た私の力、存分に堪能させて差し上げますわ」
     現れた名古屋嬢怪人達の様子を見るに、正しい旗を抜くことはできなかったらしい。
     盛り髪の回転音を唸らせて、怪人達が灼滅者達に迫る!

    ●毎日セットにX時間
     名古屋嬢怪人は真っ先に飛び出してくると、頭突きの要領でドリル攻撃を繰り出す。
    「僕ちゃんばかりかと思ったら、良さそうな殿方もいて安心ですわ」
    「褒めてもらって悪い気はしないけど、その髪型は僕の好みじゃないんだよね」
     狙われた颯はドリルを受け止めると、ペナント怪人達へ向けて麻痺の結界を張り巡らせ、ビハインドの香坂綾に追い打ちを頼む。
    「ファッション界にも受け入れられると思えないわ。そうなればどうせ暴れるんでしょ?」
    「毎日あの髪型とか、普通に苦行ッスよね」
     由姫と水面の詠唱から裁きの光がペナント怪人達に降り注ぎ、続くビハインドのペケ太が名古屋嬢怪人へ霊撃を叩き込む。
    「あ、俺は凄いと思ってるよ! オシャレ感というか日本の伝統との融合というか嫌いじゃないし! むしろ今の激安ファッションを見せるのが気まずいくらいでー!」
    「うむ。髪の艶といい手間暇をかけられる女子力といい羨ましいほどだな」
     まだその技が使われていないのにブランド感に押される麦が雷を呼び出すと、縦ロールにするのは嫌だが努力は評価する菊千夜が白炎で、ウィングキャットの篠丸がリングを光らせ仲間達を援護する。
    「ああ、私も可愛いと思うぞドリルガール! ぜひ強敵(とも)になろうではないか!」
    「私、素顔も見せられない方とお付き合いはできませんわ。素性の確かな方でないと……」
     ライドキャリバーのユニヴァースと連携しペナント怪人達を攻めながら、違うベクトルで友好的な態度を試みたリリィだったが、良家の子女的な考えの前に無碍も無く断られる。
    「怯むな! 安土と名古屋の城に使える者の意気を示すのだ!」
     一方で狙われ続けるペナント怪人達も黙ってはおらず、拳にビームにと反撃をしてくる。そしてその内の一撃が、カバーに入ったぶらっくすわんを飾られた旗ごと撃ち抜いた。
    「あーっ! せっかく飾ったのに何するんだよ!」
     怒る朔和の帯とぶらっくすわんの機銃がペナント怪人を撃ち貫いていくと、アルディマがそれに続く。
    「君主のために力を尽くすか……。ならば私もそれに応えよう。そう、我が名に懸けて!」
     カウンターで放たれた魔法弾が命中し、1体目のペナント怪人が灼滅された……。

    ●明かされし真実?
     回復役を狙って攻撃を続ける灼滅者達だが、弱体化無しでサポート受ける名古屋嬢怪人の勢いは中々に侮れない。
    「どうも私を下に見ているようですが……、格の違いを教えて差し上げますわ」
     縦ロールから風を巻き起こし由姫を狙う名古屋嬢怪人だが、ディフェンダーの壁は厚く、今回はユニヴァースがこれを防ぐ。
    「格ですって? どうせ今まで、褒めてくれる人しか周りにいなかったんでしょう?」
    「それはいけないな。悪しきところは改善し合ってこその友情だぞ!」
     由姫が魔法の詠唱をし始めると、ペナント怪人達の動きを止めようとリリィがハンマーを地面に打ち付け、ユニヴァースが機銃を掃射する。
    「どうした? 動きが鈍いぞ! それでも忠臣を名乗る者か!」
    「ペケ太! 合わせて攻撃ッス!」
     痺れで動けぬペナント怪人へアルディマが気弾を放ち、仲間を回復する水面の指示を受けペケ太が霊波を放つ。
    「しっかりしろ! それでも名古屋城に配された武士(もののふ)か!」
    「ここは私が前に出る。我が拳を受けよ!」
     あるペナント怪人は傷付いた仲間を励まして回復し、別のペナント怪人は拳を握りしめて麦へと踊りかかるが、颯が割り込みガードする。
    「ありがとうございます香坂先輩。頼りになるー!」
    「お安い御用だよ」
     お礼を述べた麦がガトリングガンを連射すると、颯は微笑を浮かべて言葉を返し、続いてペナント怪人達へと話しかける。
    「ところでさ……。この怪人の名前は『城』じゃなくて『お嬢さん』の『嬢』なんだけど、本気で間違えてるのかな?」
    「ふっ、何を言うかと思えば……。名古屋嬢などという言葉なぞ聞いたことが……」
    「……知らなかったのですか?」
     その瞬間に場の空気が色々な意味で凍り付いたが、颯は冷静に綾とのコンビネーションでペナント怪人の1体を灼滅する。
    「ねぇねぇ! 帰りに味噌煮込みうどんを食べたいんだけど、オススメのお店教えてよ!」
    「お誘いは嬉しいけど、もう少しメニューを考えた方がいいと思うわ。今は夏よ?」
     朔和の質問を微笑ましく感じたのか、名古屋嬢怪人は微笑して言葉を返す。朔和としては会話に隙間が出来たので普通に店の情報を尋ねただけなのだが、聞けないなら仕方がないと切り替え、ぶらっくすわんと一緒にペナント怪人への攻撃を再開する。
    「……意外と冷静なのだな」
    「武の戦いも女の戦いも、心を乱した方が負けるのです。それに、魔王とまで呼ばれた方のこのような一面、逆に愛らしくも感じます。本気で第二の蝶を狙うのも良いですね」
     菊千夜の結界や篠丸の魔法が部下達を縛り上げる光景を背にしてもなお、名古屋嬢怪人は冷静だ。しかし、数を減らし続ける今、有利なのは灼滅者達に間違いない。

    ●尾張の名古屋で愛を叫んだ嬢
     その後に、1人、また1人とペナント怪人を灼滅した灼滅者達は、残る名古屋嬢怪人にもかなりのダメージを与え追い込んでいた。
    「私をこうも追い詰めるとは……。ですが、この家柄と品格は何人たりとも冒せるものではありません……」
     姿勢を正した名古屋嬢怪人の後ろから後光が差し込み前衛陣を照らし出すと、庇いに出たサーバント達の内、ユニヴァースや篠丸がKOされる。
    「こ、これが名古屋嬢のオーラ……!」
    「麦さん、しっかりするッスよ!」
     圧倒される麦を回復させようと、水面はペケ太の攻撃で隙を作ると祝福の風を紡ぎ出す。
    「ナ、ナイス回復だよー! よし、僕も頼ってばかりじゃいられないよー!」
    「牽制はこちらで引き受けよう」
     大技の構えを見せる麦を援護しようと菊千夜が攻撃を仕掛けるが、名古屋嬢怪人は蹴りを盛り髪で受け止める。
    「足元が疎かだな!」
     だが、そこにリリィが駆け込むと、ハンマーを低位置で水平に振り抜き、名古屋嬢怪人の体勢を崩す。
    「日光天然氷の……かき氷ダイナミィィィック!」
     ぐらつく名古屋嬢怪人の襟首を掴むと、麦はガイアパワーを炸裂させて吹き飛ばす。
    「きゃうっ……。アプローチにしては、少々激しすぎますわ……」
    「モテて良かったじゃないですか。多分、人生最期のモテ期ですよ?」
     由姫の冷たい一言とともに放たれた砲撃が、名古屋嬢怪人の体を凍り付かせる。
    「わ、私は常にモテ期ですわ……。そうね……もし見逃してくれたら、その素敵なバイクで一緒におうどん食べに行って差し上げますわよ?」
    「うーん……。女の子には優しくねって言われてるけど、やっぱり灼滅しなくちゃだよね。ごめんね、ドリルのお姉ちゃん!」
     サーヴァントを褒められて内心嬉しい朔和だが、ここで誘いを受けるわけにはいかない。銃口を名古屋嬢怪人へ向けると、容赦なく引き金を引く。
    「先に言っておくけど、僕はもう断ってるからね?」
    「人の上に立つ自覚があるならば、最期は潔く散るがいい」
     次に名古屋嬢怪人から視線を感じた颯やアルディマが先手を打って色仕掛けを封じると、綾も含めそのままの勢いで炎が、霊撃が、魔力が撃ち込まれていく。
    「安土城怪人様……。誤解されたままでも、一目お会いしたかったですぅぅぅぅぅぅっ!」
     安土城怪人への熱い想いを胸に、名古屋嬢怪人は爆散する……。

     カリスマ性だけでなく、流石のモテ力を見せつけた安土城怪人。彼の人脈戦術が続く今、彼に忠義を誓う者はまだまだ増え続けるだろう。
     しかし、絶望などしている暇はない。少しでも多くの城を陥落させ、安土城怪人の野望を打ち砕く使命を背負った灼滅者達は、正しい旗の位置や城の処理を気にしながらも、次なる戦いに備え学園に帰還するのだった……。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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