キャンドルたかしのバトルアート

    作者:空白革命

    ●キャンドルたかしは戦えない
    「魅せるぜ――レインボウ・イリュージョン!」
     キャンドル使いのアンブレイカブル、たかし。彼は無数のキャンドルを指の間に挟み、虹のようなアートを振りまいた。
     恐ろしく美しい虹である。
     が、それが完成する前に……。
    「う、うぎゃあっ!」
     相手の男はナイフを取り落として逃げ出してしまった。
     自分をカツあげしようとしたチンピラだった。たかしはこれ幸いとバトルを挑んだが、この有様である。
     たかしはキャンドルを消して、頭をわしゃわしゃとかきまわした。
    「しまったぜい。俺のバトルアートは一般人にゃちいとキツすぎるんだぜい。これじゃあアートを完成させる前に相手が死んじまう」
     一般人に対しては強すぎる。同じダークネスに挑むのは論外だし、なにより事前に察知して逃げられてしまう。
    「ぬわー! 一体どーすりゃいーんだぜいちくしょー!」
     たかしは頭をわしゃわしゃやりながら、次の相手を探してさまよい歩くのだった。
     

    「何事にも美しさってのは伴うもんだ。美しい姿勢、美しい食事、美しい仕事に美しいバトル。今回のアンブレイカブルは戦いの美しさにこそ重きを置いていたらしいぜ」
     現在絶賛相手募集中のアンブレイカブル、キャンドルたかし。
     彼はキャンドルやオーラを使ったアーティスティックなバトルを得意とし、自らの中で『バトルアート』を模索している。
    「とはいえこのまま放置しておいたらとばっちりの被害者が増える一方だ。こういうケースの最善手こと、『灼滅者が相手になってやる作戦』で一旦のケリをつけようぜ」
     
     しついこいようだがキャンドルたかしはアンブレイカブルである。それも灼滅圏内の敵ではない。将来的には分からないが、今の自分たちで倒せる相手ではないのだ。
     とはいえ彼の目的はバトルアート。これを実現できる相手が灼滅者……それも武蔵坂学園のどえりゃー灼滅者でなければならないと分からせることで、今後の被害を回避しようという作戦だ。
     そのうえこちらもアーティスティックなバトルを見せつけ、バトルアートの可能性を更に広げることができればもう武蔵坂に釘付けである。一般人なんて目もくれなくなるだろう。
    「こういう純粋なスペックだけじゃ図れないバトルってのは、ある意味俺たちの十八番みたいなもんだ。頼んだぜ、みんな。魅せつけてやれ!」


    参加者
    久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)
    無常・拓馬(信頼と安定の外道・d10401)
    阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    日輪・真昼(汝は人狼なりや・d27568)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)
    只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)
    入須・このは(船頭少女・d31187)

    ■リプレイ


     線路下の道は昼間でも薄暗い。足音が反響し、はけのわるい水がしたたるさまはどこか彼の無念さを感じさせる。
     彼。『キャンドルたかし』とだけ呼称されたアンブレイカブルは、行く当てもなくぶらぶらと歩いていた。
    「俺はどうしたらいいんだぜい。アートを描けないアーティストなんて意味ないぜい……」
     ポケットの小銭を確認する。七百八十二円也。
    「牛丼でも食って考えるか」
     顔を上げ、そして本能的に足を止めた。
     模糊な少女、日輪・真昼(汝は人狼なりや・d27568)が出口の逆光を背に立っていたのだ。
     頭上を通り過ぎていく列車の音。
     たかしは目をこらした。バベルチェインごしにただならぬ格を感じ、首を傾げる。
    「灼滅者……か? 悪いけどかまってやる気はないぜい。俺は考え事で忙しいんだぜい」
     真昼をよけて横にそれようとした所で、真昼は横移動で立ち塞がった。
    「みせて、あげます」
    「――!?」
     たかしは反射的に飛び退いた。さっきまでいた空間が巨大な狼の影業に喰われる。影の狼は幕のように広がり、トンネルの一方を覆い尽くした。
     空中で放った無数のミニキャンドルが次々に影技に呑まれていく。
    「どういうつもりだ? 悪いが人殺しのシュミはないぜい! ちょっと痛くするから、帰ってくれよな!」
     懐から大きなキャンドルを取り出し、大きな炎に変えて放つ。
     が、それは真昼の両端へと吸い込まれ、そして大きな渦となった。
     渦は天井を焼くように上り、はじけて消える。
     渦の中から、久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)と入須・このは(船頭少女・d31187)がスピンしながら現われる。
     ブレーキによって姿勢をロックし、全く同時に腕を突き出す二人。
    「ごらくは後や。うちらと遊んでもらうで」
    「そうれば、わかってもらえるからねっ!」
     走り出す夏穂とこのは。たかしは新たなキャンドルを放つが、それはエネルギーシールドによって阻まれた。
     影業の幕を破って飛び出してくる只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)。
    「バトルアート――ミュージック、スタート!」
     葉子を中心に広がったエネルギースピーカーが直接振動をはじめ、どこからともなく回転しながらとんできたマイクをキャッチする。
     いかなるバランス感覚か、葉子は片足のつま先だけで着地すると、膝上げポーズのままウィンクした。
     否、これをウィンクと呼ぶべきか? 彼女は頭にすっぽりとコミックフェイスの書かれた段ボールを被っていたのだ。
    「聞いてください、『LOVE☆ダンボール!』」
     トンネル内を音符型のオーラが飛び散り、葉子の歌が始まった。
     その中を夏穂とこのはは疾走。燃え上がった炎に向けてビームと妖冷弾を発射し、爆発によってかき消した。
     爆発によってトンネルの反対側へ放り出されるたかし。
     道路をごろごろと転がると、周囲に満ちた灼滅者の気配に一筋の汗を流した。
    「パワーによる相殺じゃねえ。こいつは、アートによる相殺?」
     いかな灼滅者のフルパワーとて、たかし程のダークネスと同等のパワーは出力できない。サイキックエネルギー計算上の相殺ではなく、彼の感じたアーティスティックエネルギー上の相殺が怒っているのだ。
    「だったら、試してみる価値はあるぜい!」
     指の間に数本のキャンドルを掴むと、天空に七色の炎を描く。
    「あんたらなら、こいつをどうする!? レインボウ・イリュージョン!」
     避けるか。防ぐか。はたまた逃げるか。
     空中で七つに分裂した炎はしかし、空中で固定される。そこへ複数の砲撃がぶつかり、四方へはじけて雪のように散った。
     見上げると、街灯の上に下駄をはいた男が立っていた。
    「楽しい喧嘩にしようぜ。それが粋ってモンだろぉ!」
     跳躍し、コールドファイアを連射する型破・命(金剛不壊の華・d28675)。
     と同時に、反対側から阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)の黙示録砲が連射された。
     一方でたかしは自分を取り巻くように花火を爆発させた。花火と砲撃がぶつかり合い、より大きな花火になる。その様子に瞠目するたかし。
     木菟は武器を反転させると、ギター持ちにしてピックをとった。
     流れてくるアイドルソングが間奏に入り、木菟はアドリブでギターソロを演奏し始める。
    「拙者らのアート、魅せてやるでござるぜ!」
    「アート? あんたらのか!?」
     空からはらはらと雪が降ってくる。真夏の昼にだ。
     遠くから歩いてくる英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)。
    「正直アートはわかんねえ。けど、格好良さなら知ってるぜ。こうだろ!」
     カードを顔の高さに翳し、横一文字に切る。すると彼の手には一本の槍が握られていた。
     槍を氷塊が覆い、翼のようなものを広げていく。
    「オレなりに、やってやんよ!」
     槍を全力投擲。
     たかしは反射的にキャンドルの槍を作り、火花がついたままのそれを投擲した。
     空中でぶつかり合って爆発する二つの槍。
     爆発の中に、無常・拓馬(信頼と安定の外道・d10401)が降り立った。文字通り空から直接降ってきたのだ。
     彼はごてごてとしたベルトを腰に巻くと、スレイヤーカードを翳した。
    「俺は知っているぞ。アートとは、発露であると。町の壁に塗りたくられたペンキ。岩から削り出した裸体の像。ありもしない風景を描いた油絵。それらはただ美しいものじゃない。たとえばそう、このように!」
     バックルにカードを差し込むと、拓馬の衣服の全てがパージされた。
     代わりに紙袋とモザイクだけが装着される。
    「全裸・イズ・アート! ビコーズ――アイアム・アート!」
    「な……なんてやつらだぜい……」
     たかしは一筋どころではない汗を流し、周囲を見回した。
     八人の灼滅者に囲まれているこの状況。
     戦力で言えばたかしは圧倒的だ。全員を倒すことは難しくないし、撤退するのはごく簡単だ。
     しかしたかしは抗いがたい圧力を感じていた。
     たった八人しかいないというのに、この統一感のなさ。
     誰一人として同じ格好をしない。同じ行動をとらない。同じ思想をもたない。
     これぞ発露。自己の発露である。
     たかしは彼らに、強い心を感じていた。
     好奇心。
     挑戦心。
     冒険心。
     そしてなにより。
     アートの心を感じていたのだ。
    「見えるかもしれないぜい。俺のバトルアート……いや、その先にあるものが!」
     たかしはありったけのキャンドルを放り出し、両手を広げた。
    「殺しちまったらホントにすまねえ! けど今だけは、全力(フルアート)で行かせてもらうぜい!」


     蝋でかためた拳が鉄柱を破砕した。
     砕けた柱が飛んでいくが、それを夏穂はチェーンソー剣で切断する。
     剣は炎を帯びていた。
     夏穂はぐるんぐるんと回転し、炎の軌跡で螺旋を描いた。
     たかしの直前で回転をコンパクトにし、炎の回し蹴りへとシフト。たかしはそれを虹色のオーラで受け止めた。衝撃波が広がり、炎が渦となって流れていく。
     高所に陣取った鴇臣が機関銃を担ぎ、たかしへとロックオン。
    「バトルアートもバトル。なら、オレは負けたくねえ!」
     自らのエネルギーを機関銃に込めると、鴇臣はその全てを炎の弾に変えてたかしへと浴びせた。
     虹色のオーラが広がり、銃弾へ次々にぶつかっていく。
     オーラと煙が広がっていく中、木菟は逆方向からの突撃を開始した。
     ギターと携行砲を鳥の翼のごとく広げると、大地に炎の足跡を刻みながら加速する。
     やがて炎が彼を包み、火の鳥が如くたかしへとぶつかった。
     撥ね飛ばされるたかし。
     が、彼は大量の虹を生み出して解き放った。
     虹は幻影となり、夏穂や鴇臣たちへ巻き付いていく。
     そんな彼女たちを突然の霧が覆った。
     霧の中心に立った真昼が腕を翳し、各所を展開。無数のライトが天空に向けて放たれる。
     そして、真昼の背後がゆっくりとせり上がっていく。
     廃材を即席で組み合わせたステージが、氷やキャンドルによって更に大きなステージへと組み上がっているのだ。
     その中心に立っているのは、葉子である。
     葉子は手でハートを作ってハート型のビームを発射。
     虹色のオーラで相殺するたかし。
     葉子は一回転。手をピストル型にして更にビームを発射。
     それもまた相殺するたかし。
     相殺点は打ち上げ花火のように爆発し、幻影の炎が散っていく。
     そしてそれらは、着流しを大きく翻した命によって吹き飛ばされた。
     大きな盃を振れば、風が応えて荒れ狂う。
     天空に連続で繰り出された神薙刃が暴風となり、たかしの周囲で暴れ回った。
     風にあおられた炎の幻影はアーチ状に空を覆い、虹となる。
     それも蝋で作られた虹だ。拓馬はその上でブリッジ体勢をとると、力強く腰を天へと突き上げた。
    「全ての道は全裸へつながる! レインボウ・スレイヤー・イリュージョン!」
     彼のまき散らした冷却粒があたり一面を覆い、虹の光を乱反射していく。中央の彼はさながらミラーボールであった。
     乱反射の中心を穿つように落下するこのは。
     丁度その真下にいたたかしは、このはの縦回転キックを翳した腕で受け止めた。
     反転して飛び、着地するこのは。
    「満足できたけ? もう一般人に無理難題ふっかけたらあかんよ?」
     びしりと指をつきつけるこのは。
     たかしはその場で全土下座した。
    「はい! ほんとスンマセンっした!」
    「素直!?」
     たかしは顔を上げ、首を振った。
    「聞いてくれ。アートは一人じゃ完成しないんだぜい。二人以上いないといけない。なぜならアートは『伝わるもの』だからだぜい。けどオレはダークネス。バトルアートを完成させる……その使命感だけを残して全てが消えた存在だぜい。人間らしい感情も、人間らしいパワーもない。人間を相手にすれば殺しちまうし、ダークネスは勢力争いばかりで相手にしてくれない。けれど力は、壊したり奪ったりするためだけのモンじゃないぜい。それをみんな……人間もダークネスも灼滅者も、全然わかってねえ!」
     そこまで言ってから、たかしは立ち上がってその場の八人を見回した。
    「と、つい数分前まで思ってたぜい」
     目を細めて首を傾げるこのは。
    「力は伝わるものだぜい。伝わるものは、アートたりえるんだぜい! あんたらのアート、しっかり俺に伝わったぜい。だから俺も伝えたい! この力で伝えたい! 『世界はこんなにも輝いているぞ』!」
     たかしの全身からオーラがほとばしり、彼の髪が薄い蝋によって虹色に染め上がる。
    「ミュージック、カモン!」

     『タカナル→キャンドル→ダンボール(バトルアートMIX)』
     歌:只乃ハコ&キャンドルたかし
     詞:空白の人
     演:バトルアーティスト武蔵坂

     全裸の拓馬が大太鼓の前に立ち、バチを三拍のリズムで叩き込んでいく。
     筋肉の一筋一筋を抜けていく汗が一拍ずつに跳ねていき、足下へと落ちる。
     足下は濃密なスモークに満ちていた。
     スモークの下から、三方向に向いたままゆっくりとせり上がっていく真昼、このは、夏穂。
     三人が一斉に顔を上げて目を開けた。途端、背景を覆っていた暗幕がかき消えた。
     このはは日本舞踊、夏穂はアイドルダンス、真昼は独特のゆらゆら。と、三者三様の踊りを始めた。
     青空が無限に広がり、うずたかく積み上がったキャンドルと氷の山の頂上には葉子とたかしが背中合わせに立っていた。
     マイクを握って歌い始める葉子とたかし。
     近くを通った営業中のサラリーマンが、負け試合から帰る野球少年が、お家を追われたおっさんが、彼らを見上げた。
     最初の顔は驚きであった。
     サラリーマンの肩を叩いて微笑む木菟。
     野球少年の手を取って走り出す鴇臣。
     おっさんに盃を突き出す命。
     サラリーマンも少年もおっさんも、次の瞬間には笑顔で走り出していた。
     彼らだけではない。失恋に凹んだ女子高生が、婚活に疲れたOLが、余生に困ったババアがキャンドルタワーの周りへ駆け寄っていくる。
     古くさいダイナマイトのようにまき散らされたキャンドルが氷の槍で次々とはじけ、中身のラメが空中に拡散した。
     鴇臣や木菟が地面を蹴ると、周囲の鉄パイプが一斉に火を吹いてあたりを照らす。
     命が空に盃を放り投げると、風と共にラメと炎が巻き上がっていく。
     それらが地面へ落ちてきた時には無数のポンポンに変わっていた。
     夏穂や女子高生たちがそれをキャッチし、振りながらタワーをぐるぐる回り始める。
     タワーの一段上で逆方向に回り始めるこのはと真昼、そしてOLたち。
     全裸の拓馬が最下層でババアやおっさんたちと共にブレイクダンスをはじめた。
     タワーの中央で着々と巨大な筒。
     たかしの放つ無数のキャンドルスプラッシュと木菟たちの砲撃がぶつかり合った結果蝋や廃材が積み上がり、夏穂たちの手で筒状に編み上がっていく。
     球状に整えられたキャンドルが、野球少年や鴇臣やサラリーマンや葉子たちの手を経てタワーを登っていき、最後には筒の中へと放り込まれた。
     球は筒の中で最初の爆発を起こし、天空へと放たれた。
     天空で二度目の爆発を起こし、七色の花火となって散る。
     その姿を、たかしたちは輝く目で見つめていた。


    「完敗だぜい!」
     たかしは親指を立てて言った。
    「バトルアートは一人では完成しない。あんたらが八人で現われた時、八人の合作を見て可能性を感じた。それだけならまだ良かったが……俺の力とぶつけ合うことでより大きなアートにして見せた。何度も言うが、完敗だぜい!」
     たかしはつやつやとした顔で頷くと、自分のバイクに跨がった。
    「粋だな……」
     命の手にはパスワードの書かれたカードが収まっている。たかしのポケベルに対して一方的なシグナルを送るためのパスワードだ。
    「俺とあんたはお友達じゃない。だからあんたの利益にはなってやれねえ。けどもし俺のバトルアートがもっとおもしろくなる場所が見つかったら連絡してくれや。ついでに面倒みてやるぜい」
    「連絡だな、よし」
     まだ全裸の拓馬がカードを手に頷いた。
    「この場合連絡と書いて、『事後行動』と読むんだな。間違えてプレイングにしないように気をつけよう」
    「何の話をしてるんですか」
    「それじゃあまたな!」
    「まったねー!」
     跳ねながら手を振る葉子。
     たかしはバイクのエンジン音を高らかに、遠い道の向こうへと消えていった。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 7/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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