時刻は深夜2時。どこかのマンションの部屋で、家主が寝落ちして消し忘れたテレビから通販番組が流れている。
「新生活から3ヶ月。慣れない生活や忙しい仕事の疲れから、つい二度寝してしまう……。そんなことはないかい?」
「ええ、実は先日も遅刻して上司に怒られてしまったわ」
清々しいまでのわざとらしさで肩をすくめる相手役。いかにも深夜の通販番組だ。
「そんな君には、この『絶対に二度寝しない目覚まし時計』がお勧めさ!」
と、語り部の男性が取り出したのは、一見普通の目覚まし時計。
「へぇ……。どんな風に二度寝を防いでくれるのかしら?」
「それはね……。二度寝した持ち主に襲い掛かって無理矢理起こすのさ!」
ここで、いかにも効果音ですという感じの笑い声が起こる。
「もう、人が真面目に悩んでるのに……」
「はは、ゴメンゴメン。で、この時計なんだけどね……」
と改めて男性は時計の機能を話し始めるのだった。
しかし、正しい機能説明の甲斐も無く、持ち主を襲う目覚まし時計は都市伝説となって、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)に予知されることとなる。
「で、これがその目覚まし時計。お値段3980円よ」
本来の機能としては、科学的に人の嫌がる音を鳴らし、音を止めるにはドライバーで蓋を開けなければならないという時計だ。
「都市伝説の出現条件は、この時計が鳴っていても二度寝をしようとすることね」
8人でも宿泊できる用に旅館の大部屋を予約したので、一泊した次の朝に作戦を決行して欲しい。目覚ましの音に耐え続け、都市伝説の出現を待つのだ。
「人払いのESPはこの時点から使った方がいいわね。特に隣の人が迷惑だろうし……」
隣の目覚ましが五月蝿いとトラブらないためにも、サウンドシャッターは必須だ。他にも殺界形成か百物語も忘れないようにしよう。
「次に能力だけど、音でトラウマを植え付ける、叩いて止められる恨みを増しながら殴る、いっそ永眠させようと石化させるという技が使えるわ」
ポジションは当然の用にジャマー。二度寝を妨害する役目に相応しい選択だろう。
「後はサービスで24時間入り放題の温泉が売りの宿を予約したし、都市伝説を倒した後でゆっくり入ってくるのもいいかもね」
もちろん一拍旅行なので、前日に入っても構わない。入浴後に卓球なども乙なものだ。
「最後に念のため……。泊まり込みだけど、絶対に間違いを起こすんじゃないわよ」
灼滅者諸君には、灼滅以外にも学園生として恥ずかしくない行動を期待するものである。
参加者 | |
---|---|
巽・空(白き龍・d00219) |
三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716) |
中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) |
待宵・露香(野分の過ぎて・d04960) |
与倉・佐和(狐爪・d09955) |
分福茶・猯(不思議系ぽこにゃん・d13504) |
永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388) |
黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602) |
●Mission in NIDONE
時間は朝6時57分。例の目覚まし時計をセットし就寝していた灼滅者達の何人かは既に目を覚まし、布団の中で二度寝に備えていた。
(「後3分か……。こいつでどこまで対抗できるか」)
中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)は耳に入れた耳栓を指で掻くと、布団の中から仲間達の様子を確認してみる。
(「ふむ。わしは起きておるぞ」)
(「こっちも問題無いぜ」)
同じく既に起きていた分福茶・猯(不思議系ぽこにゃん・d13504)はその視線を感じると頷き返し、永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)は戦闘に備え就寝用に聞いていた曲の電源を切る。
(「ふ、5時半起きがデフォのうらりさんには目覚ましより早く覚醒するなど朝飯前!」)
そして黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)に至っては、布団の中にいるのがちょっと退屈になるレベルで早く目を覚ましていた。
(「眠い眠い眠いねむ……、はっ! ESP起動しないと……」)
一方で待宵・露香(野分の過ぎて・d04960)は二度寝する前にまず起きような状態だが、それでも何とかESPを起動する。
そして朝7時00分。セットされた時間を迎えた目覚まし時計は、その役目を全うせんと轟音とともに震え始める。正直、製作者は何をどう考えたらこんなものを作れるのかと言うレベルだ。
「うーん……」
既に騒音公害と呼んで差し支えない状況の中で、与倉・佐和(狐爪・d09955)は寝返りを打つフリをしながらタイミングを計る。
「ぐ……。意地でも二度寝してやるんだからっ……」
二度寝なのだからと、巽・空(白き龍・d00219)は今起きた演出を入れつつ時計から目を離さず布団を頭から被る。
鳴り止まぬ音に耐え続けること1分。体感的にはもっと長く感じられる拷問の如き時間が過ぎたその時、ふっ……と音が止まると時計が一回り大きくなり、横と下に手足が生える。
(「今だ……!」)
可愛らしいと言えなくもないシャドーボクシングをしている都市伝説の隙を突き布団から飛び出すと、三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716)はカードを起動させ飛びかかる。
今ここに、人間三大欲求の1つをかけた戦い(?)が幕を開けたのだ。
●起き上がれ、灼滅者!
そのまま先手を取った柚來は腕を異形化させると、都市伝説を殴り付ける。
「寝坊しなくなるのはいいけど、永遠に二度寝出来ないのはちょっとね……」
「仕事熱心なのは良いことだけど、やり過ぎは感心しないかな」
続く空の拳も受けた都市伝説の時刻表示部分が(><)の顔文字っぽく変化する。本来は当然付いていない機能なのだが、外見通り大分デフォルメ路線らしい。
「目覚まし時計のせいで永眠か。笑えないぜ」
黒い笑みを浮かべて紅鳥が状態異常に備えると、都市伝説は再び目覚まし音を響かせる。
「さっきにも増してきっつーい! でも、広い海は目覚ましの音ごときじゃ揺るがない! パシフィックバリアー!」
都市伝説となり殺傷力を得た目覚まし音が前衛陣へ襲い来るが、うらりは対抗するようにワイドガードを展開し、霊犬の黒潮号がトラウマを受けた仲間を癒していく。
「もー、こんにゃにうるさくちゃ寝りゃれにゃいれしょー……zzz」
「いや、寝てるのじゃ! というより起きるのじゃ!」
怪しい言語を発する露香が都市伝説に魔力を叩き込むと、猯はツッコミながら状態異常の対策にサイキックを展開する。
「よ、よし、次は俺達の番だ! 正義は守るものっ! 起こすどころか永眠させる理不尽な目覚まし行為、この中島九十三式・銀都が終わらせてやるぜっ」
「さぁ、お仕事の時間です……」
名乗りを上げた銀都が飛び蹴りを炸裂させると、狐の面を被った佐和が巨腕で殴り付け、都市伝説の顔文字部分を怒りの表示に変更させる。
とてつもなく迷惑な攻撃方法を持つ都市伝説だが、火力も体力もさして高い方ではない。状態異常の対策さえできていれば、後は一気に攻めきることが出来るだろう。
●眠るのはお前だ!
その後も石化光線を出したり騒音をまき散らす都市伝説だったが、積み重ねられた耐性と厚い回復の前に全く効果を現せない。
「さあ、狙うならこっちよ!」
前に出てうらりがシールドを叩き付け、主人に会わせ黒潮号が斬りかかると、都市伝説が凸マークを表示して殴り返してくる。
「その程度の攻撃じゃ、俺の与える鎧は砕けないぜ」
「思いっきり目覚まし時計を叩き潰すって、1回はやってみたいことなの……かな?」
だが、その傷を紅鳥がすぐさま回復し、柚來がショボーンな顔文字を表示する都市伝説にロッドを叩き込む。
「むにゃー……。わたしだいかつやくー……zzz」
「間違ってないけど色々間違ってるよっ!?」
遂に最後までこの調子だった露香が帯を不可思議な軌道で操ると、今度は空がツッコミを入れながら都市伝説に殴りかかる。
「二度寝の誘惑に勝てるか……、それは時計ではなく本人の精神力にかかっているのです」
「夜更かしは若者の醍醐味かもしれんが、根性が足りんなら生活習慣の改善が必要じゃな」
佐和に残っていた石化を解除してもらうと、猯は交通標識をフルスイングして都市伝説をぶっ飛ばす。
「俺の正義が真紅に燃えるっ、安眠を確保しろと無駄に叫ぶっ!」
そして、飛ばされた先に待ち受けるのは、殲術道具に炎を宿らせた銀都の姿。
「食らいやがれ、必殺っ! 今度はお前がお休みなさいだっ!」
振り抜かれた一撃に断末魔のブザー音を響かせると、都市伝説はバラバラに分解しながら灼滅されていくのだった……。
●温泉回と勝負の夏
都市伝説を灼滅した灼滅者達は、戦闘に備えて避難させていた部屋の調度品や家具などを元通りに戻すと、旅館の朝食を取り残り時間を満喫する。
まずは、温泉回として女湯の状況をお伝えしよう。
「朝ごはんは美味しかったし温泉で体もほぐれるしで堪んないわねぇ……」
温泉の気持ちよさは夏でも変わらないと顔を蕩けさせるうらりの隣では、仲間達も温泉をまったりと楽しんでいる。
「しかし、泊まり込みの間違いとは何だったんじゃろうかのぅ……」
同じく顔を蕩かせている猯は、事前に注意されたものの何の間違いも無かった点に疑問を抱いていた。まあ、これが思いつかないならその危険も無いだろう。逆に思い至らない点が危ないと言えなくもないのだが。
「おんせん……、ぽかぽか……zzz」
縁に頭を預ける露香だが、だんだん瞼が閉じてそのまま沈んでいき、口が水面より下まで来るとビクッと気付いて元に戻るを繰り返している。
そんな概ね平和な温泉シーンの一方で、卓球場ではアツイ戦いが始まろうとしていた。
「あんまりやったこと無いけど、やるからには全力で行くよ!」
「私も手加減はしませんよ」
1つ目の卓は空VS佐和。佐和が軽く放ったサーブに対し、レシーブエースを狙った空がラケットを勢いよく空振り、次のレシーブでは部屋の天井にホームランを放つ。
「も、もういっちょう!」
連続ミス以降は何とか際どいコースにも食らいつく空だが、最後は宣言通り手加減の無い佐和のスマッシュが勝負を決めた。
「あー、負けちゃったかーっ! 先輩、相手してくれてありがとうございましたっ!」
「私も楽しかったです。巽さんこそ慣れていないとは思えませんでした。次は危ないかも」
握手で試合を終えた隣の卓では、銀都と柚來の試合がクライマックスを迎えていた。
「ふははははっ、俺のローリングスマッシュに着いてくるとはやるじゃないか!」
「見た目で判断してると、痛い目見るよ?」
スマッシュ重視のパワータイプな銀都とカット戦術を駆使する柚來の戦いは、デュースを何度か繰り返した後、今は柚來がアドバンテージを取得していた。
「何の、これで再び取り返すまでだ! ローリングスマッシュ、セカンドぉっ!」
銀都のバックコースを強襲するストレートスマッシュに対し、柚來は卓から距離を取ると強い前回転をかけた球を撃ち返すも、返球はネットの上を跳ねる。
(「打ち負けた……っ?」)
ネットの上を軽く跳ねた球の着地先は……、銀都の陣地だった。
「間に合えぇっ!」
急いで回り込み飛び付こうとする銀都だったが、球は無情にも卓に2度目の着地をする。
「あと半歩及ばずか……。無念だがいい勝負だった!」
「うん。休んだらまた勝負してみたいな。向こうの2人ともしてみたいし」
漢の勝負を終えて語り合う2人の前に、コーヒー牛乳の瓶がコトリと置かれる。
「いい汗かけたみたいだな。どうだ、一緒に一杯?」
現れたのはコーヒー牛乳を手にした湯上りの紅鳥。向こうに目をやると、一足先に試合を終えた空や佐和を始め、女湯を出た面々が2人の勝負を観戦していた。
「ありがたく頂こう。そして飲んだ後は2回戦だ! 俺は誰の挑戦でも受けるぞ!」
一気にコーヒー牛乳を飲み干した銀都の宣言の後、卓球に温泉にと楽しんだ灼滅者達は、東京への帰路に就くのだった……。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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