量産型クロムナイト・タイプ『雷』

    作者:空白革命


     海岸沿いにある喫茶店。常連客の通う小さな店だが、その面影は今やどこにもない。
     家屋は無残に破壊され、頑丈なカウンターテーブルも穴だらけになっている。
     店員の男はゆっくりとカウンター裏から起き上がり、この破壊活動の犯人を見た。
     人間ではない。かといって猛獣でもない。
     青い体と鎧。見たことの無いバケモノだ。
     バケモノは彼の姿をとらえると、どこからともなくエネルギーの矢を作り出し、弓へとつがえた。
     悲鳴を上げて逃げる男。
     無慈悲に放たれる矢。
     矢はまるで意志でもあるかのようにぐねぐねと軌道を曲げ、逃げた男の背中へと突き刺さり、その命を奪った。
     バケモノの名はクロムナイト。
     悪しきダークネス、デモノイドの発展強化型である。
     

    「朱雀門のロードクロムが強化デモノイドの実験を進めていることはもう知っていますか?」
     エクスブレインはこのように説明を始めた。
     デモノイドロードの一人、ロードクロムはデモノイドの発展強化型を作成して特定の人里で暴れさせるという実験を繰り返している。
     真の狙いはこれを阻止しようとする武蔵坂灼滅者とクロムナイトを戦わせ、戦闘データを蓄積・共有することのようだ。無視すれば当然人々が犠牲になる、とてもいやな作戦だ。
    「計画に乗りつつ思い通りにさせない。このためには、クロムナイトを速攻戦で灼滅するほかありません」
     
     今回のクロムナイトはいわゆる量産型のカスタムタイプ。
     通常の遠距離戦闘型クロムナイトに雷発生機能をもたせたものだ。
     これは雷のエネルギーを矢の形にして発射するというもので、一本の強力な射撃が可能なほか、拡散させることで百本近くの矢を同時発射できるという。
     勿論単体で複数の敵と戦うため回復機能や近接戦闘対応も十分に可能だ。
    「ただのデモノイドでも手こずるのに、強化されたデモノイドはもっと大変なはずです。それを速攻戦で倒すとなるとこちらの被害も大きくなります。どうかお気をつけて、本当に危なくなったら長期戦に持ち込むことも考えてください。一般人への被害に比べればまだ……」


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    楓・十六夜(蒼燐乖夜・d11790)
    ジョナ・ウィルキンソン(デモノイドスレイヤー・d16816)
    山本・仁道(大学生デモノイドヒューマン・d18245)
    リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)

    ■リプレイ


     中央線の通った一般的な車道を、道交法を完全に無視した形でデモノイドが歩いていた。
     ここにはバスはおろか自動車すらろくに通らないが、行政的な都合で舗装だけはされている。こういった道路は日本中にあって今も行政批判遊びの材料になっているが……今このときに限っては、あってくれて助かった。足場の安定した土地で、人的被害を気にせず戦闘ができる。
    「クロム、ナイト。許せません、のです……」
     糸を結んだ指先を微動だにせず、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は呟いた。
     クロムナイトの周囲には既に、彼女を含めた八人の灼滅者が身を隠している。相手がそれに気づいているかいないかは、こちらからは確認できない。
     息を潜め、待つこと十数秒。糸がピンと張り詰めた。
    「今……!」
     東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)は物陰から飛び出し、あえてクロムナイトの正面に陣取った。
     白いフリルの衣装とナノナノが重なり、二人はシャボンと弾丸を同時に発射。
     回避行動をとろうとしたクロムナイトだが、後方からライドキャリバー・龍星号に跨がった大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)が猛スピードで突撃していた。
    「手強そうだな。燃えるぜ!」
     キャリバーからジャンプし、クロムナイトに斬りかかる。
     突撃と斬撃、そして射撃がそれぞれ直撃し、更に高所に陣取っていた楓・十六夜(蒼燐乖夜・d11790)が銃剣を構え、オーラの弾を連射。
     それらの弾が頭部に辺り、クロムナイトはのけぞった。
     一拍遅れて飛び出してくるリアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)と蒼。
    「奈落へ、堕ちろ……」
     蒼が花のようなキャンドルを振りまくと、それぞれが花火になって爆発した。
     炎にまかれたクロムナイトめがけ、槍による突撃の構えをとるリアナ。炎の光を槍の金属面が赤々と照り返す。
    「見極めるわ。どれほどのものか」
     エネルギーを纏って突撃。
     槍が腹部へめり込み、そのタイミングで山本・仁道(大学生デモノイドヒューマン・d18245)とジョナ・ウィルキンソン(デモノイドスレイヤー・d16816)が両側面から同時に飛び出してきた。
    「変身!」
     仁道は自らの服も武器も目の色さえも変えぬまま、ただ魂だけを激しい炎に変えて殴りかかった。
     顔面にクリーンヒットする仁道の拳。
     一方でジョナは手のひらをブレード化し、クロムナイトの脇腹を切り裂いた。
    「デモノイド舐めてくれてんじゃねえぞてめぇ!」
    「……」
     デモノイドの背後に音も無く陣取る空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)。
     ライフルのスコープ越しに着弾地点を目測。フードを外し、引き金をひく。一連の動作が終了するまでに一秒となかった。氷の弾がクロムナイトの頭部を貫通。
     クロムナイトはその場にどさりとうつ伏せに倒れた。
    「やったか」
     と、誰かが言った。
     その途端、クロムナイトの背中がぼこぼこと盛り上がり、中から強酸性液体が噴き出してきた。
    「やべえ!」
     ジョナが陽太を守るように横っ飛びし、液体を身体に浴びた。
     一瞬にして肉体が焼け焦げる。が、ジョナは痛みをこらえて振り返った。
    「大丈夫か!?」
    「そっちこそ。距離をとるよ」
     陽太は薄く笑ってその場から後退。ジョナもにっかりと笑ってクロムナイトから離れる。その横を走りながら、夜好は指輪をあやしく発光させてジョナの傷口に当てた。傷口がみるみる修復されていく。とはいえ七割程度だ。クロムナイトの火力というものが窺える。
    「奇襲は成功した、のかしらね?」
    「どうだかな。見た目は変わらんが」
     リボルバー弾倉に別の弾を手動で込めていく十六夜。
     灼滅者たちのいう『見た目』とはバベルの鎖による命中率予想力を含んだものだ。ダメージ量まで測定出来るわけではないので、奇襲にどの程度の効果がでたものかは判然としない。そもそも奇襲として成立したかどうかもあやしいところだ。
     慎重に間合いをはかりながら構える仁道。
    「事前にバベルの鎖で察知されたが無視された、というパターンもあるというわけか」
    「強化体だからって舐めやがってからに……!」
    「でもその油断が好機になるわ」
     剣を構え、仁道とは別の方向を押さえるリアナ。勇飛へと目配せした。
    「三方から同時にしかけるわよ」
    「応!」
     リアナの鎖剣と飛勇の大剣が交差し、その隙間を縫うように仁道の蹴りが繰り出される。
     が、クロムナイトはそれらの攻撃が自らに触れるより早く跳躍し、天空で反転。弓を地上へ向けて構えると、エネルギーの矢を複数発生。
    「――避けて!」
     夜好が叫ぶや否や、何本にも分裂したエネルギーの屋が仁道たちへと降り注いだ。
     勇飛の危機をいち早く察した龍星号が突っ込み、彼を撥ね飛ばす。
     一方で夜好は急いでヴァンパイアミストを展開――している間に彼の目の前にクロムナイトが着地。
     エネルギーの矢をつがえた状態でまっすぐに向けていた。
    「絡め――」
     クロムナイトの足下から高速で伸びる影業のつる。
    「締め上げろ」
     蒼は開いた手をぎゅっと握った。影業が呼応するようにクロムナイトを締め付ける。
     陽太と十六夜が同時に銃の狙いを定め、オーラの弾を乱射。
     が、それらはクロムナイトの周囲に展開された見えない壁に阻まれて停止した。
     ぱらぱらと落ちた弾が僅かにスパークする。
     電磁力によって弾いたか、もしくはクロムナイトに備わったエネルギーの膜か。
     陽太は十六夜に目配せした。
    「操り人形になってもダークネス。雑魚とは違う、ってわけだね」
    「それでも倒せない敵ではない。戦闘データが蓄積されただけの量産品はえてして脆い」
     影業のつるを引きちぎって駆け出すクロムナイト。
     その方向は人里だ。陽太たちは駆け出した。
     けれどまだ、短期決戦は諦めていない。まだ手はある。


     この道路が使われていたのは昔のことで、当時は小さな神社を行き来するためのものだった。参道というにはいささか乱暴な坂道が、そこには続いている。
     坂道をずっと下っていけば海が見え、その先は『最初の被害者』がいる喫茶店がある。逃走を許せば終わりだ。
     陽太はスライディングしながらで上体を固定すると、クロムナイトの足を狙って撃った。
     フレシェット弾がおかしな軌道を描いて足首に突き刺さる――が、動きが鈍る様子はない。うっかり『人間めいた』射撃をしてしまったことに自嘲的な笑みを浮かべつつもボルトを操作。妖冷弾に切り替えて発射する。
     クロムナイトは反転し、氷の弾を弓で弾き落とす。
     それを好機に龍星号が突撃。クロムナイトをえぐるように通り過ぎていくが、一拍遅れて放ったエネルギーの矢がボディを貫通。スリップして転倒した。
    「龍星号! こんの――!」
     大剣にエネルギーを纏わせ、豪快に切りつける勇飛。
     その背後からスライドアウトしてきた仁道が脇腹めがけて拳を叩き込んだ。
    「ボディががら空きだ!」
     いや、拳を剣に変化させての突きだ。クロムナイトの肉体をえぐり取るように引き抜く。
     そんな二人の首筋を掴み、放り投げるクロムナイト。エネルギーの矢を発生させると、自らの背中にざくざくと突き立てた。まるで制御棒か避雷針である。
     怪訝そうに目を細める十六夜。
    「自然発生の雷じゃあるまいに、どうしてそんなものがいる? まさか――」
     十六夜は咄嗟にガード姿勢をとった。
     クロムナイトの持っていた弓がX字に開き、弓角の間をバチバチとスパークが走る。
     スパークの全てが矢の形となり、空中に解き放たれた。
     陽太の例ではないが、フレシェット弾といって金属製のダーツのようなものを放つ兵器がある。散弾のように大量にまき散らすものもあり一般市民への殺傷力が問題視されているが……クロムナイトのこれは『それどころ』のものではない。
     全ての矢が意志をもつかのように異常な軌道を描き、勇飛や仁道、十六夜たちへと一斉に襲いかかったのだ。まるで羊を襲うピラニアの群れである。
    「う――おおおおおおおおおおお!」
     リアナの前に立ちはだかり、弾を全て引き受けるジョナ。
     自ら皮布をプロテクターのように身体に巻き付け、更に手甲に刻んだ儀式文様を発光させて回復をはかるが肉体の損傷がそれに追いついていない。
    「みんな耐えて! ナノナノ!」
    「ノッ!」
     両手を強く組んで霧を展開する夜好。と同時に空へ飛び上がったナノナノがクロムナイトを中心に円を描くように移動。凝縮したシャボン弾を乱射する。が、クロムナイトは微動だにしない。
     相当ダメージを負った十六夜は、リカバリーを他人任せにしてまずは突撃。剣を突き立てると、エネルギー弾を内部にしこたま撃ち込んだ。
    「闇の彼方で夜明けを待て。夜が明ければ死出の旅路の始まりだ……」
     そこまで言って、十六夜の身体はぐらりと傾いた。
     意識が途絶える。
     蒼が、花模様の帯を空へ解き放った。
    「狂い、踊れ……」
     布がウミヘビのように飛び、クロムナイトの胸を貫通。
     身体がぐらりと揺れる。攻撃の手こそ緩まないが、明らかに消耗しているのが分かった。
     一方。立ったまま気絶したジョナを踏み台に、リアナがクロムナイトへと飛びかかる。
     全身に突き刺さる矢は、この際無視だ。
     まずは持っていた槍を投擲。クロムナイトの腕を貫き、攻撃が一瞬だけやむ。
     続けて鎖剣を放ち、クロムナイトの首に巻き付ける。
     着地した頃には、急接近した蒼がクロムナイトの顔面を異形化した腕で掴んでいた。
     腕を引くリアナ。
     手を握る蒼。
     クロムナイトは首から上を喪って、それこそ糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
     剣を納め、あたりを見回すリアナ。
    「ひどく消耗したわね」
     戦闘不能者複数。かなり前のめりの作戦だったとはいえ、味方の被害はかなりのものだった。
     それほどの高火力を、このデモノイドは発揮したということだ。
    「どこまで、強く、なるのでしょうか……」
     呟く蒼。一方で夜好は十六夜たちへとかけより、身体を抱き起こした。
     手が血でべっとりと濡れる。
    「そのうち、複合型やクロムナイト同士の連携テストが行なわれるかもしれない。そうなったとき、どう対処するのか……考えなくちゃいけないわね」
    「いつつ……できれば、そうなる前に事態を終わらせたいんだけどな」
     飛勇が体中から血を流しながら、痛みをこらえて立ち上がる。
     彼の手を借り、仁道も身体を起こした。
    「クロムナイト、か。俺(デモノイド)の力で……倒す」
     手を開き、強く握る仁道。
     ようやく仰向けにぶっ倒れたジョナに、陽太がゆっくりと歩み寄った。
     フードを頭に被り直して遠くを見る。
    「短期決戦とはいっても、わずかながらデータは渡ったはず。でもなにより……『起こるべき悲劇』が実現しなくて、よかったよ」
     口元だけは笑っているようだが、彼の表情は読み取れない。真意もだ。
     蒼が振り返れば、そこには海が広がっていた。
     ただただ広く、海が。

    作者:空白革命 重傷:ジョナ・ウィルキンソン(デモノイドスレイヤー・d16816) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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