殺人ホームセンター

    作者:邦見健吾

    「ホームセンターってホントいろいろあるよねー」
     少年が薄笑いを浮かべながら持ち出したのは、何の変哲もない金槌。ビュンビュンと音を立てて振り回し、少年はケラケラと笑う。
    「じゃ、殺ってみよっか」
     少年の視線の先には、四肢を拘束され、口をテープで封じられた男性。そして少年はニィと笑みを深め、金槌を振り上げた。

    「松戸駅の近くを調べてみたら、案の定密室が見つかったわ」
     比良坂・八津葉(天魂の聖龕・d02642)の調査によると、松戸駅の東南にあるホームセンターを中心として密室が展開されているらしい。
    「六六六人衆・リュウタが中で人々を殺害しています。密室内に侵入し、リュウタを灼滅してください」
     さらに冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が口を開き、詳細の説明に移る。
    「リュウタはホームセンター内にいるので、見つけるのは容易いはずです。凶器を物色しているところなので周囲に一般人もいないでしょう」
     ただし、密室の近くではMAD六六六に加わったハレルヤ・シオンの配下が警戒を続けている。見つからずに密室に侵入するには、松戸駅を使わずに東側から近づくこと、そして目立たないよう慎重に進むこと。この2点を守れば配下の目を盗んで密室に入ることができるだろう。
    「リュウタの武器はチェーンソー剣とバベルブレイカー、他にはシャウトも使ってきます」
     正確な序列は不明だが、六六六人衆の中ではそれほど強力な相手ではない。十分灼滅可能だが、相手は六六六人衆の1体であり油断は禁物だ。
    「ハレルヤ配下の六六六人衆に見つかった場合、すぐにその場を切り抜けて撤退してください。そうでないと敵の増援が現れます」
     ハレルヤ配下の六六六人衆の詳しい戦闘力や武器まで分からない。だが、決して倒せない相手ではないと蕗子は言う。
    「リュウタを灼滅することが第一目標ですが、ハレルヤの配下に見つかった場合は、その六六六人衆を灼滅して松戸を脱出することに目標を切り替えてください」
     密室を潰し続ければ、MAD六六六も何らかの動きを見せるかもしれない。敵組織に打撃を与えるためにも、密室を支配するダークネスを撃破したいところである。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    比良坂・八津葉(天魂の聖龕・d02642)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    アリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)
    結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)
    日野原・スミ花(墨染桜・d33245)

    ■リプレイ

    ●迂回路
     灼滅者達は松戸駅を無視し、遠回りして東側の駅で降りて密室へ。それぞれカジュアルな服装に身を包み、文化祭の買い出しに来た学生を装ってホームセンターを目指す。
    「わたしの所はかき氷をやる予定だから食べに来てね?」
    「いいですね、是非」
     守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が話しかけると、銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)が静かに頷く。
     結衣奈、紫桜里、アリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111)、湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)達はA班として行動。B班を目視できる距離を保ちつつ、物陰が多い道を選んで進む。
    (「ハレルヤさん……」)
     見知った顔であるハレルヤが関わっているとあってひかるの心境は複雑。とはいえ、表情が曇ることは普段から少なくないのだが。
    (「松戸の密室……警戒活動によって密室解消の苦労が増えちゃったけど、多くの無辜の命が六六六人衆の都合だけで奪われるなんて事は何としても阻止しないとだね」)
     演技が不自然にならないよう笑顔を浮かべたまま、密室の中の惨状に考えを巡らせる結衣奈。しかし密室を解放するには、まずハレルヤ配下の警戒網を掻い潜って侵入しなければならない。
     一方、比良坂・八津葉(天魂の聖龕・d02642)、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)、結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)、日野原・スミ花(墨染桜・d33245)達B班は、ある程度離れながらA班の少し後ろを付いていく。
     ダークネスから襲撃される可能性がある以上、戦力を分断するのは危険である。どちらかに異変があった場合、すぐに駆けつけられればいいのだが。
    (「あまり着慣れていない服だから緊張するわね……」)
     普段は和服を着用している八津葉は、窓に移った自分の姿をチェックし、不自然でないか確認する。自分では慣れないが、おかしくはないと思いたい。
    「学園祭の準備はどのくらい進んでいるの?」
    「うーん、ちょっと遅れ気味かなぁ。ま、何とかするぜ」
     八津葉が尋ねると、康也が頭の後ろで手を組みながら答えた。
    (「密室かぁ……よくわかんねーけど、キッチリぶっ飛ばしとかねーとな!」)
     密室殺人鬼が生み出す密室のことはよく分かっていないが、倒さなければならない敵がいることは間違いない。心の中で叫び、ぐっと拳を握った。
    (「ホームセンターの殺人鬼なんてホラー映画のようだ。フィクションに収まっている分は良いけれど、実際に人を殺すというなら捨て置けん」)
     康也の背負うリュックの中では、猫に変身したスミ花が身を小さくして隠れている。見かけの人数を減らすなら、動物に変身するのは有効な手段と言えるだろう。
    「そちらはどうかしら?」
    「似たようなものだ」
     八津葉はカイナにも聞いてみるが、カイナは素っ気なく答えを返す。その表情はいかにも渋々といった感じで、ある意味最も真に迫った演技だったかもしれない。

    ●潜入、接触
    「…………」
     女装したアリアーンが視線を巡らせて周囲を窺うが、敵の姿はない。そのまま学校の傍を通り過ぎ、灼滅者達は東から西へと進んだ。
    「ふむ、密室内はこうなっているのか」
     密室への侵入に成功し、スミ花が猫変身を解除して呟いた。スミ花は密室に関わるのは初めてだが、ざっと見た限り、人を全く見かけないことを除けばただの住宅街だ。密室の成り立ちには興味を惹かれるものの、今回の目的は六六六人衆の灼滅。探索をしている余裕はない。
     結局灼滅者達はハレルヤの配下とは遭遇しなかったが、作戦が功を奏したのか、運が良かったのかは判別できない。しかし今は密室事件の解決が先決、歩みを揃えてホームセンターへと向かう。
    「ん? 死にに来たの? 穴開けてあげようか、チュイイってね」
     灼滅者達がホームセンターに足を踏み入れると、そこには電動ドライバをおもちゃにして遊ぶ少年がいた。六六六人衆の1人、リュウタだ。
    「貴方の楽しみの為だけに命を奪わせないよ!」
    「なんだ、警戒するとか言って役に立ってないじゃん。まあいいけど」
     敵の姿を認め、結衣奈が殲術道具を解放。巨大な十字架を構えて真っ直ぐ突進し、その勢いを乗せて思い切り打撃をぶちかました。
    「……いきます」
     紫桜里は声を絞り出すように呟き、刀に手をかける。棚に隠れて死角をとり、すれ違いざま足を斬って敵の動きを鈍らせた。
    「azurite!」
     右手で持ったカードを左胸に当てて一瞬祈り、アリアーンも封印を解く。エアシューズでホームセンターの床を滑り、加速しながらローラーに着火。烈火を纏うシューズで回し蹴りを見舞った。
    「こんにちわ。何かお探しだけど心配ないわ……貴方が手にするのは冥府行きの切符だけだから」
     八津葉の瞳にバベルの鎖が集中し、未来を見通す目でリュウタを映す。自身の手で発見した密室、必ずこの手で解放してみせる。
    「良い趣味だな……逢えて嬉しいぜ、六六六人衆。無力な野郎どもより俺と殺し合おうぜ」
    「いいねいいね、そうしよう。密室ってけっこうヒマたからちょうどいいんだよね」
     潜入中と打って変わり、積極的な姿勢を見せて斬りかかるカイナ。黒い太刀を非物質化させて突き出すが、リュウタは嬉々として笑い、容易く避けた。
    「こっちからもいくよ?」
    「行くぜ、全員キッチリ守りきる!」
     リュウタの腕に巨大な杭打ち機が装着され、灼滅者に迫る。しかし康也が威勢よく飛び出して杭を受け止め、仲間を庇った。さらにひかるがダイダロスベルトで包帯のように包み、傷を癒しながら康也の防御力を高めた。

    ●激闘ホームセンター
    「楽しそうだな。だが弱い者虐めで強くなったつもりか?」
    「弱いって自分達のこと?」
     カイナは剣と腕をデモノイド寄生体に呑み込ませ、一振りの大剣に変えて駆ける。瞬時に懐に飛び込んで腕を叩き付けるが、リュウタも手にしたチェーンソーで反撃し相打ちとなった。
    (「あなたの考えていることは、私には分からない。堕ちたあの人のことも……」)
     ひかるは再びダイダロスベルトを伸ばしてカイナを回復。まだ名もなき霊犬も癒しの眼差しを送り、治癒を促す。
    (「……いえ、少しは、分かる。……でも」)
     戦いながら脳裏に浮かぶのは事件の裏にいるハレルヤのこと。喉から出かかる言葉を無理やり呑み込み、かぶりを振った。
    「道具は持ち手の心がけ次第と言うが、全くもってその通り。あなたに持たれた道具は浮かばれないな。すべて、手放して貰おうか」
     スミ花はリュウタに狙いを定め、後方からエアシューズで疾走。助走を付けて跳躍すると、自身を回転させながら頭上から跳び蹴りを見舞った。シューズがリュウタを打った瞬間、流星の瞬きが散る。
     連携して六六六人衆に立ち向かう灼滅者達。しかしリュウタもやられてばかりではない。
    「ほらほら、みんな殺しちゃうよ?」
     下卑た笑みを浮かべ、杭打ち機に点火。自身を高速回転させ、遠心力を加えたチェーンソーでアリアーンを切り裂いた。リュウタは確かに他の六六六人衆に比べて強くはない。だが比較対象を灼滅者に変えれば、圧倒的な力を持つ敵に違いないのだ。
    「調子に乗らないでくれるかしら?」
    「おっと危ない」
     八津葉は槍を構えて接近し、螺旋描く一撃を繰り出す。しかしリュウタは咄嗟に杭を撃ち出し、運悪く攻撃は相殺された。
    「……これで……」
     アリアーンが手をかざすと、その先に紫色の光が集まり、魔力の矢を形作る。矢は宙を飛んで敵に突き刺さり、さらに爆発してダメージを与えた。
    「絶対負けないよ!」
     ロッドを携えた結衣奈が踏み込み、鋭い打突と同時に魔力を注ぎ込む。流れた魔力が内部で炸裂し、大きなダメージを与えた。続けて紫桜里が長大な薙刀を振るい、氷柱を放つ。氷柱は敵を穿ち、突き刺さった肩を凍らせた。
    「お前はここでぶっ飛ばす!」
    「チッ、めんどくさいな」
     康也の足元から影が伸び、地を駆ける狼の形になってリュウタの足に噛みついた。対するリュウタも舌打ちして高速回転する杭を撃ち込んで反撃する。戦況は一進一退、どちらに軍配に上がるかは未知数だ。

    ●決着ホームセンター
    「おおおおっ!!」
     攻防を重ね、灼滅者もリュウタも互いに傷ついていた。康也は血を流しながら雄叫びを上げ、赤色に変化した交通標識を叩き付ける。
    「このおっ!」
    「させるかあっ!」
     リュウタはチェーンソーをけたたましく轟かせ、結衣奈目掛けて斬り下ろす。しかし康也は誰もやらせるものかと食い下がり、代わりに受け止める。意識を失ってその場に倒れるが、見事に仲間を守ることができた。
    「徹底的に潰す。無様に死ね」
     そして戦いは終盤に差し掛かる。デモノイド寄生体によって腕が砲台になり、カイナはリュウタに狙いをつけて光線を放った。死の光が、六六六人衆を捉える。
    (「私はダークネスと和平も考えている……だからこそお前の様な存在は許せないのよ」)
     八津葉は鋭い視線で敵を睨み、ロッドを握る。ロッドの先端を打ち込みながら魔力を流し、さらに内部を破壊した。ひかるも攻撃に転じ、自身の暗い想いで弾丸を形作って撃ち出す。
    「……もう終わり……」
     アリアーンはシューズに赤いオーラを宿して接近、速い蹴りを斬撃に変えて生命力を奪い取った。
    「観念しろ。ホームセンターは閉店だ」
     淡々とそう宣告し、スミ花は霊体と化した剣を深々と突き立てる。結衣奈もダイダロスベルトを矢に変え、間髪入れず追撃した。
    「これで……終わりです」
    「あ……え?」
     紫桜里は刀を上段に構え、殺気をリュウタへと収束させる。そして素早い踏み込みとともに全体重を刀に乗せて縦に一閃。瞬きより速い斬撃によって六六六人衆が真っ二つになった。

    (「私は、誰かを守れるほど強くなっているのかな……」)
     何とか戦いを終え、ひかるが安堵と疲労に溜め息をつく。確かに以前より経験を積んだ今でも、とても自分が強くなったとは感じられなかった。でもだからこそ、誰かを支えることで自分も支えられているのかもしれない。
    「さっきはありがとう。大丈夫?」
    「ああ、このくらいどうってことないぜ」
     自身を庇って倒れた康也の手を引いて助け起こす結衣奈。幸い康也にも大きな怪我はなく、康也は前髪を留める焼け焦げたクリップを触って確かめ、持っていたおでん缶に手をつけた。
    (「……密室を潰す事がアツシを追い込み、元灼滅者さんを救う道だと信じて進んでいきたいね」)
     いまだに密室の全容は知れず、アツシやハレルヤの所在は不明だ。それでも前に進むのだと、結衣奈は静かに決意を新たにしたのだった。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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