猫は我の糧なりや

    作者:幾夜緋琉

    ●猫は我の糧なりて
    『ニャ、ニャァアアア!!』
    『ニャァ、ニャァァー!!』
     幾重にも響き渡る、猫の鳴声。
     宵闇の街角に響き渡るその鳴声は、人によっては猫同士が喧嘩しているんだろう、と言った具合に感じるかもしれない。
     でも、それは違う……その声の元に居るのは、溶接マスクと溶接工の服を着た、小さな少女。
     そして彼女の左手には、大きなズタ袋が握られていて……その袋の中から、ニャーニャー煩く聞こえている。
     そして……少女はその袋をその場に置くと……袋の中に手を入れガサゴソ……そして、一匹の猫を取り出す。
    『ニャ、ニャァア!!』
     必死に、其の手から逃れようとするものの、少女の手は、確りと猫の喉元を掴んでいて、逃げられない。
     そして……悲鳴を上げる猫に対し、右手に持ったバーナーを……。
    『ニャア、ニャアアア、ニャーーー!!』
     火花が飛び散り、猫は……消滅。
     ……そして彼女は。
    「……」
     言葉はない。その溶接マスクの下の表情も知る事は出来ない。
     そして彼女は、そのズタ袋を背中に抱え、歩き始める。
     次の被害者……いや、被害猫を探しに。
     
    「皆様、お集まり戴きましてありがとうございます」
     深く頭を下げる野々宮・迷宵……その表情は、いつもに比べて笑みも無い。
    「最近、ダークネスによる猫さんの惨殺事件が、とある地域で立て続けに発生している様です」
     一瞬、耳を疑う灼滅者達。誰かが猫、なの? と聞き返すと。
    「ええ……猫さんです。その猫さんというのは、普通の猫さんの他……皆さんの仲間である、ウィングキャットさんもその猫の範疇に含まれている模様です」
     確かにウィングキャットも、猫。逆に言えば、一般人の被害は。
    「それが、このダークネスの特徴とも言うべき所だとは思いますが……彼女は野良猫さんを捕獲する程度で、一般人の方達には興味を示さない様なのです。とは言え猫さんを散歩させているような人が居るのも事実……その機会に遭遇すれば、一般人に被害が出ないとも限らないでしょう」
     と、そこまで言うと、迷宵は……一端瞑目して。
    「……ですが、この事件。それだけでは終わらないのです。この事件は、どうやら私達の仲間が起こした事件の様なのです」
     驚く灼滅者達……それに、野良・わんこ(すぴーどわんこ財団・d09625)の学生証の写真を差し出す。
    「この事件を起こしているダークネスは、先日の札幌迷宮戦で闇堕ちした一人、わんこさんの闇堕ちした姿の様なのです」
    「ある意味、彼女の猫さんをを愛する気持ちが闇に落ちた結果と言えるでしょう。猫さんが好きだからこそ……猫さんを捕獲して回る。そして、手に持ったズタ袋に猫さんを入れて行き……猫さんを、その手に持ったバーナーで溶接する……という動きをずっとずっと繰り返しているのです」
     そして迷宵は。
    「ダークネス化してしまった彼女……今なら彼女を救える可能性があります。皆さんには、彼女を何とか救出して戴きたいのです」
    「彼女を救出する為には、何らかの形で彼女を誘い込む必要があるでしょう。彼女は都内近郊の繁華街を夜な夜な徘徊しながら、野良猫さんなど、猫さんを捕獲して回っている模様です」
    「逆に言えば、猫さんの気配が無い所には、彼女は見向きもしません……彼女を誘い出すには、猫さんを活用するのが一番手っ取り早いと思います」
    「もしくは……彼女を知っている方なら、彼女が好きなモノとかも知ってると思います。ダークネスになったとしても、その深層心理はまだ人としての心が残っていますので、それを刺激してあげるのも、一つの手段になるでしょう」
    「ちなみに、彼女は猫さんを溶接する事で繰り出す、猫さんとバーナーを組み合わせた新種のサイキックを使用してくる様です」
    「袋の中には、今まで捕まえた猫さんやウィングキャットさんをバーナーで溶接し、その溶接したバーナーから繰り出される攻撃は、猫の種類によって様々なバッドステータスと威力が変わる様です。特にウィングキャットを溶接した時のサイキックは、全てのバッドステータスが付与されると共に、重傷レベルの攻撃を繰り出してくる模様です」
    「猫さんを溶接する動きは素早く、それを妨げる事は難しいでしょう……ですから、それらの攻撃をかいくぐりながら、彼女の心に語りかけ、彼女を闇堕ちから救い出して戴きたいと思います」
    「……もし、ですが。彼女を救えなければ、完全に闇堕ちしてしまう事でしょう。そうなれば……おそらく、彼女を救う事は出来なくなります。これが唯一無二のチャンスなのです。どうか皆様、力を貸して頂けますよう、宜しくお願いいたします」
     深く、また頭を下げる迷宵。
     ……闇堕ちした仲間を救う為に、灼滅者達は動き始めた。


    参加者
    竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)
    桐屋・綾鷹(紅華月麗・d10144)
    亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    所城・火華(伊達に紅くはないぜ・d20051)
    フェリス・ジンネマン(アルブスイドラ・d20066)
    中島・優子(飯テロ魔王・d21054)
    霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)

    ■リプレイ

    ●闇に墜ちて……
     繁華街に現れた、闇堕ちせし野良・わんこ(すぴーどわんこ財団・d09625)。
     猫を狙い、日に日に罪も無い猫達を溶接し続けている彼女……その手にはズタ袋を持ち、ズタ袋の中にはたくさんの溶接されていない猫達が詰められているという。
    「わんこちゃん……大丈夫かな……」
     不安げにぽつり呟くのは、亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)。
     何故、猫を溶接しているのか……それは知るよしも無い。でも、彼女を放置なんて、絶対に出来ない。
     帰りを待つ部活の仲間達が居る。彼女を闇堕ちさせたままなんて、できない。
    「……野良さんは私が此処に来たばかりの時にお会いした方、何としてでも連れ返さねば……」
    「うん。わんこちゃんの猫溶接は、なんとしてでも阻止しないと!」
    「そうだね。猫溶接マンになっちゃうなんて、絶対に許さないんだよ! わんこちゃんは、必ず連れて帰るんだよ!!」
    「うん……絶対に助ける。わんこちゃんが帰ってこないと、ゆいーつむにーの仲間達も、寂しがるしね!」
     桐屋・綾鷹(紅華月麗・d10144)、花火に中島・優子(飯テロ魔王・d21054)、所城・火華(伊達に紅くはないぜ・d20051)も力強く拳を握りしめると、それに同意するように。
    『ウウ、ワゥゥ!!』
    「そうだね、リオ。絶対に助けようね!」
     フェリス・ジンネマン(アルブスイドラ・d20066)が、霊犬リオライーシャの頭を軽く撫でる。
     ……そんな仲間達の会話に、竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)は。
    「……面識は無いんだけど、皆の話を聞く限り、面白そうな子じゃない」
     くすりと笑う彼女に、火華が。
    「ええ、凄く可愛い子ですよー。本当、その名の通り、わんこちゃんみたいだしね」
     笑う火華、優子も。
    「うんうん。まぁ、ちょっとイタズラ好き過ぎる所はあるんだよ。でも、いたずらした時のわんこちゃんの顔は、すっごく可愛いんだよ!!」
     と、二人の言葉に、と頷きながら。
    「まぁ名前の通りの印象を私も受けたんだけど、助けてあげて、遊び友達にしたいわね」
    「うん! 助けたら、今度は一緒に遊ぼうよ!!」
     花火の言葉に微笑む山吹。
     そして、杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)が懐からチョコバーを取り出し、ぱくり一口食べて。
    「……良し。それじゃ皆、野良さんの救出作戦、開始だ」
    「ああ」
     霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)が頷き、そして灼滅者達はわんこの出てくるという、繁華街の裏路地へと向かうのであった。

    ●一歩一歩、闇に近づき
     そして、裏路地へとやってきた灼滅者達。
     暗い暗い裏路地にやってくる……周りににゃー、にゃー、と野良猫の鳴声が聞こえてくる、そんな場所。
    「うん……ここなら良さそうですね。それではマタタビを撒くとしましょうか」
     と綾鷹がまたたきをばらまく……更に火華がお皿に霜降り肉を置いて、そして自分のウィングキャット、ひひるに。
    「それじゃひひる、宜しくね?」
    『にゃー』
     一声啼いて、マタタビに酔うひひる。
     他の野良猫たちも、甘い甘いマタタビのにおいに誘われ、一匹、また一匹とマタタビの所へと近づいてくる。
    『にゃー』『にゃぁー』『にゃぁーん』
     様々な野良猫たちの鳴声が、左から、右から響き始める。
     そんな野良猫たちの鳴声に、レイフォードが。
    「……救出の為とは言え、猫を囮にするのは心苦しいな」
     ぽつり呟く。
     とは言え、猫の居ぬ所にわんこは現れないのだから……仕方ない。
     そして、十数匹の猫達が集まった所で。
    「そろそろ良さそうですね」
     と、綾鷹がマタタビを回収、そしてすぐに猫変身して、にゃーにゃー啼いている群れの中に紛れ込む。
     そして、猫達の鳴声が鳴り響き続けて、十分程。
    『……』
     突如、辺りに漂う、不穏な気配。
     その気配に気付いた宥氣が。
    「色即是空、空即是色…硝煙弾雨ヲ求ム者也」
     目を瞑り、額当てを付け、スレイヤーカードを掲げ、変身。
     そして、次の瞬間。
    『……!』
     裏路地に現れたわんこ。
     溶接マスクと溶接工の服に身を包み、手にはバーナーと、猫とウィングキャットの詰まったズタ袋。
     無言で近づいてきて、彼女が裏路地の少し奥まで入ったところで。
    「……解き放て!」
     猫変身を解いた綾鷹が、紅蓮斬の一閃をそのずた袋に叩き込む。
     が……ずた袋は、思った以上に強靱に作られているようで……傷つく気配が無い。
    「っ……まずいですね。袋は無視で、野良さん本体に攻撃を!」
     と綾鷹の指示に頷きながら、火華、フェリスが。
    「猫さん達、ご協力ありがとう。さぁ、帰りなさい!」
    「猫さん、無事に帰って下さいね!」
    「六型三式『金剛破・響震撃』!」
     大きな物音を立てると共に、バイオレンスギターを掻き鳴らして野良猫たちを驚かせ、更に宥氣が過多なの強力な振りを地面に叩き込み、轟音を鳴らして、その場から退避させていく。
     勿論、それを逃さない、とばかりに捕まえようとするわんこだが、
    「昔世話になった恩を返す時が来たな、行くぜッ!」
     とレイフォードがライドキャリバーのゼファーに指示を出して、猫とわんこの間に割り込み、機銃掃射で威嚇射撃。
     そして、その威嚇射撃で数歩退避した彼女の後ろに、更にフェリスとリオ、花火らが構える。
     ……そんな灼滅者達の妨害に、わんこは。
    『--ッ』
     怒っている模様……溶接マスクを被っていて、実際の所は解らないが。
     でも、そんなわんこに、火華が。
    「……何してんですか? 猫なんか溶接して……それは猫大好きな私に対する挑戦ですかね?」
     と、ちょっと怒りを含んだ口調で語りかけ始める。
     そんな火華の言葉に咥え、花火、優子、フェリスが。
    「ちょりーっす。わんこちゃん、猫がかわいそうだからやめてあげて!! それにそんなマスクしてたら、美味しい物を食べられないよー? 戻ってきて、釣りとかスカートめくりも一緒にやろうよー!」
    「そうだよ! 無言の猫溶接マンなんて全然面白く無いから!! だからいつもの面白くて優しいわんこちゃんに戻ってよ! みんなでもっとわんこちゃんと遊んだり、美味しいものを食べたりしたいんだからね!!」
    「そうだよ。かわいい瑠璃ちゃんやイケメンなリデル先輩が、わんこちゃんの帰りを待ってるんだよ! もちろんわたしもね!!」
    「ねぇ、いっぱい遊んでくれるって言ったではありませんですか! 帰ってきて、遊んでくれなきゃ許しませんですよっ! 私達だけじゃなくて、本当にたくさんの人が、わんこ先輩が帰ってくるのを待ってますなのですから!!」
     そんな三人の言葉に対しても……わんこは、無言。
    「わんこちゃん居ないとすげー静かですよあそこ。みんな心配してますよ、瑠璃ちゃんも、リデル先輩だって! あの人達の心配まで無視しちゃったら、もうわんこちゃんじゃないですよ! スカートならいくらでもめくっていいですし、いくらでも無茶な遊びしていていいですよ!! だから、かえりましょう……罰ゲームが、待ってますから。ドロシーの時みたいに!」
     ……最期の火華の一言、余計な気がしないでもない。
     でも、その真摯な言葉で、彼女の人としての心に訴えかけていく。
     暫し、無言。
     でも、彼女は……ぐっ、と右手の溶接バーナーを握りしめ、構える。
     そして左手のズタ袋を脚元に置いて、袋の中に手を突っ込み、ガサゴソ……。
    『ニャ、ニャァァアア、ニャアアーー!!』
     悲鳴を上げる猫。
     そんな彼女に宥氣が。
    「なぁ、なんで闇堕ちしたん? というか猫に恨みでも!? 皆、心配してるよ?」
     と語りかけるが……そのバーナーを、猫の元へ。
    「っ……仕方在りません!」
     と、綾鷹がギルティクロスの一撃を、彼女が手に持った猫に放つ。
    『--ッ!』
     火花飛び散り、猫が彼女の手から振り落とされる……振り落とされた猫は、そのままにゃー、と悲鳴を上げながら逃げ去っていく。
     ……怒りのオーラが、彼女から一層漂ってくる。それに綾鷹が。
    「一人ではなく、皆でまた部活で遊びたいんです。だから、戻ってきて下さい。戻ったら、美味しいお菓子や料理が待っていますよ!」
     しかし、綾鷹の言葉に対して、彼女はそのバーナーを前に構え、炎を噴射。
     その攻撃から仲間をカバーするゼファー……強力な炎が、その車体の一部を溶かす。
     唯でさえその威力を持つ溶接バーナー……猫を溶接したら、これ以上の実力になるというのだから、恐ろしい。
     ……でも、それ以上に、仲間を攻撃してきたという事実。
     火華は……静かに。
    「……解りましたよ。それじゃあ決着つけましょうよ。そんな変なマスクなんてしてないで!」
     と火華の言葉に、そうね、と頷き。
    「ほら、帰ってらっしゃい。そしたらもっと遊んであげるし、美味しいお菓子が待ってるわ。良い子にするなら、これを上げてもいいのよ?」
     お手製のフィナンシェやタルトを見せる。
     美味しそうなお菓子に、と引き寄せられそうになる。
     更に山吹はくるりと周り、わんこの目の前でスカートふわり。
     ……手を掛けようとするわんこ。
    「ふふ。簡単にはめくらせてあげないわよ」
     とカウンターの十字架戦闘術を叩き込む。
     不意を突かれた一撃に、多少、ダメージ。
     しかしすぐに、わんこは体制を取り戻す。そしてまた、ずた袋の横に。
    「全く、猫は溶接する為にいるんじゃねぇ! 行けッ!!」
     と、レイフォードが彼女の脚めがけてレイザースラストを叩き込む。
     脚に傷を負わせる事で、動き辛くさせようと言う作戦……更にスナイパーで綾鷹、火華二人が、命中重視で紅蓮算と緋牡丹灯籠で連続攻撃。
     更に前衛陣、花火がティアーズリッパー、ディフェンダーの優子が抗雷撃と攻撃。
    「ほら、わんこちゃんのお気に入りだったごぼうだよ!」
     と、攻撃の際にも、彼女に語りかけ続け、その闇の心に飲まれたわんこの心に語りかけ続ける。
     また、ひひる、ゼファー、リオと、綾鷹の霊犬、義龍のサーヴァント陣も、彼女に対し鳴声を上げて攻撃していく。
     ……二ターン目、彼女がまた袋の中に手を入れ……取り出したのは三毛猫。
     同じように、宥氣がそれを妨げようとする……流石に今度は、彼女の動きが早く……溶接。
     猫を餌食にしたバーナーの炎は、金色に輝き……そして、灼滅者達に襲いかかる。
    「ゼファー!」
     レイフォードの指示に従い、またゼファーがカバーリング。
     しかしこの一撃で、かなり体力が削られてしまう……それにすぐ、フェリスがエンジェリックボイスで回復。
    「猫を溶接した攻撃は拙いわね」
    「うん……できる限り速攻で行った方が良さそうだね」
     山吹の言葉に、花火を始め、唇を噛みしめ、頷く灼滅者達。
     闇堕ちした一人に対し、灼滅者8人、彼女を救うために、全力を持って相手するのが、最良の手段。
     総攻撃で、彼女の体力を更に削り取っていく。
     そして三ターン目……彼女が袋から手にしたのは……翼の生えた、猫。
    「ウィングキャットか……! 皆、注意を!」
     綾鷹が叫ぶ……そしてウィングキャット溶接と共に、わんこの炎は、虹色に輝く。
     そしてそのバーナーの炎を、周辺に吹き付ける。
     業炎が灼滅者達の脚元に延焼し、バッドステータスが一気に付加される……すぐフェリスが、リバイブメロディでキュアを配るが、それでも間に合わない。
     だが……彼女もかなり参っている様にも見える。
    「こうなれば、押し切るよ!」
     宥氣の号令一下、フェリスに回復を任せ、他の灼滅者達は総攻撃。
     そして……四ターン目の頭。
    『ニャァア!!』
     猫の鳴声は後方から……棘突きメリケンサックを握りしめた、わんこのウィングキャット、キハールの不意打ち。
    「キハールまで……仕方ない。わんこちゃん。キハールちゃんと共に、絶対に元に戻してあげるからね!」
     ぐっと拳を握りしめ、優子が放つレッドストライク。
     大きく振りかぶったその一撃は、キハールとわんこにジャストヒットし……二人の身体は壁に叩きつけられ……がくっ、と気を失うのであった。

    ●お還り!
     そして……。
    『……う、うぅん……』
     倒れたわんこ……ちょっと呻き声を上げながら、身じろぐ。
     ……そんな彼女の雰囲気の変化は、いつも一緒に居た優子がすぐ解る。
    「うん……いつもの、いつもの……わんこちゃん……」
     ……その言葉と共に、自然と……一粒、二粒と涙が零れる。
     そして、優子の言葉に。
    「昨非今是、今是昨非…九年面壁ヲ是トスル者也……」
     深い深呼吸と共に、額当てを外し、スレイヤーカードを解除する宥氣。
     そしてヘッドホンをオフし、辺りに散らばっていたお菓子を纏めて、わんこの近くに置くと。
    「それじゃ……僕は先に失礼するね」
     と、宥氣はその場を先に、後にする。
     そして……それから数分後。
    『……うぅん……っ?』
     パッチリ目を覚ました彼女。そんな彼女の第一声は。
    『あ、あれ……戦争は?』
    「……もう、バカぁ……! 心配、心配したんだからぁ……!!』
     彼女をぎゅっと抱きしめ、大声で泣き始める優子。
     ……姉の様な存在の優子の涙に、あれ、えーっと……と、戸惑ってしまうわんこ。
    「どうやら戻って来れたみたいね。お還り、わんこちゃん」
    「そうだね、おかえり! もう戦争は終わったんだよ? わんこちゃん」
     山吹と花火の言葉、そしてリオも、わんこに近づいて、頬をペロペロと舐めて、親愛の情を示す。
     ……そんな仲間達のに、えーっと、と頬をぽりぽりと掻きながら、何を話そうか、と迷っているわんこ。
     どうやら、彼女は闇堕ちしている最中の記憶がすっぽり抜け落ちている様である。
     でも、彼女がこうやって戻ってきてくれた、それだけでも……。
     ……そして、わんことの再会の嬉しさを露わにした仲間達に。
    『ぐぅぅ……』
     と盛大に鳴るお腹。そして、わんこが掛けた言葉は。
    「ねぇねぇ、みんな。お腹空いちゃったよー。何処かにご飯、食べに行こうよ?」
     わんこの言葉に、涙を拭いながら優子が。
    「うん、そうだね。今日はわんこちゃんの大好きなものを食べに行こうよ。なんでもいいよ、今日は!!」
    「え、本当に!?」
    「ええ。わんこちゃんのお還りなさいパーティーをしましょう」
     綾鷹も頷き、そして火華が。
    「そうだね。帰ったらちゃーんと罰ゲームもこなしてもらわないといけないし、今日はしっかり精気を養って貰おうかな」
    「ばつ、げーむ?」
    「うん。猫にひたすら囓られたり、一人学園祭とか、色々あるよー♪」
     ウィンクする火華……フェリスや綾鷹、優子も。
    「まぁ……きっと大丈夫ですよ」
    「そうですね。きっとわんこさんならやり遂げてくれる筈ですよ」
    「大丈夫。わんこちゃんの事、応援してるからね!」
     三人の言葉に、一抹の不安を覚えるわんこ。
     でも、仲間達の笑顔に嬉しくなり、深く考える事はやめて。
    「うん、それじゃお肉、お肉食べたーい!」
     と、わんこの希望の通り、皆でステーキを食べに、繁華街を後にした。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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