●ライブ会場
「みんなー、まだまだ元気かなー?」
「「「いぇああああああああ!!」」」
「うんうん、それじゃ、もっともっといくよー!」
アイドル淫魔ユカのライブには20人くらいの一般人が集まって盛り上がっている。
今までは通行人を魅了して、即席の観客を相手に路上ライブをやっていたので、会場を用意してライブができること自体の充実感が高かった。
ガラリ。
曲がAメロからBメロに移ろうとしていたところで、音を立ててライブ会場の入口の扉が開く。
そこに立っていたのは、長身で涼やかな表情を浮かべた執事服姿のアンブレイカブル。
突然の事態に、アイドル淫魔ユカも観客達も、曲の途中だというのに動きを止める。
曲が流れ続ける中、執事姿のアンブレイカブルは、ステージの前に向かって歩く。
観客がいるとはいえ20人くらいである。
最前列にも余裕がある。
急ぐでもなく優雅な足取りでBメロの間にアンブレイカブルはステージ前に辿り着く。
サビが始まると同時に、アンブレイカブルの交差させた両手には、それぞれ4本のウルトラオレンジの光。
執事姿のアンブレイカブルはサビに合わせて両腕を激しく振り子のように振り回す。
アンブレイカブルにとっては何気ない動きだが、暴風のような衝撃波が巻き起こり、周囲の一般人達が無惨にも吹き飛んでいった。
壁に衝突し潰れた果実のようになる者、将棋倒しになる者、死傷者が続出し、ライブ会場は地獄と化した。
●未来予測
「よく来て下さいましたね。大事なお話があります」
執事姿の野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)が役に入り切った様子で話し始める。
「ご存知かもしれませんが、最近ラブリンスター配下の淫魔が頻繁にライブを行っているらしいのです」
今までは、バベルの鎖がある為、ライブを開いても客が集まる事は無かったのだが、仲間になった七不思議使い達に噂としてライブ情報を流してもらうなどして、一般人を集めることに成功したらしい。
「……とはいっても、売れない地下アイドルくらいの人数なのですが」
ライブに来るのが一般人だけならば、問題は無かっただろう。
しかしこの噂を聞いて、ライブ会場にやってくるダークネスがいるのだ。
このダークネスは、ライブ会場に到着すると観客を蹴散らして殺し、そのままアイドル淫魔のところへと向かうらしい。
「ダークネスの目的は不明ですが、ライブ会場の一般人が殺されてしまう事態は、避けるべきでしょう。ダークネスがライブ会場に入る前に、灼滅して下さい」
今回ライブ会場に現れるアンブレイカブルは、何故か執事服を着ている。
「えっと、アンブレイカブルがなんで執事姿をしているのかは、わかりません」
説明している迷宵が、思わず素に戻ってしまうくらいに謎である。
「コホン、未来予測でアンブレイカブルがライブ会場に向かうルートはわかっています」
待ち伏せすれば、アンブレイカブルがライブ会場に到着する前に接触することができるし、未来予測に従えば戦闘中に一般人が通りかかることもない。
「あと事件を未然に防ぐ方法として、ライブを解散させるという方法もあります」
アイドル淫魔に説明している間に、一般人を避難させることは難しくない。
しかしアイドル淫魔ユカは、これまで二度武蔵坂学園の灼滅者に助けられているため、武蔵坂学園の灼滅者達に対して好意的ではあるが、一方でアイドル活動に対して命令だからではなく、前向きに楽しみを見出しているアイドル淫魔である。
一般人達の命を守るためという理由で、念願のライブを中止させることを納得させることは難しいだろう。
武蔵坂学園に友好的であったとしても、彼女もまたダークネスなのである。
「その場合は、アイドル淫魔ユカと戦闘になってしまう可能性があります」
素早くアイドル淫魔ユカを灼滅できなかった場合に、アンブレイカブルがライブ会場にやって来て、ダークネス2体を相手にしなければいけない事態になるかもしれない。
「アンブレイカブルを灼滅した後であれば、アイドル淫魔のライブを見に行ってあげるのもいいかもしれませんね。皆さんの無事なお帰りをお待ちしております」
参加者 | |
---|---|
古室・智以子(花笑う・d01029) |
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158) |
犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462) |
九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597) |
莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600) |
神無月・佐祐理(硝子の森・d23696) |
ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124) |
蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925) |
●
「いったい、この一連の事件はなんなのだろう……関連があるようで、そのくせ、それぞれの事件は独立していて、連携をとっている様子もないの」
疑念というよりは、事実に対する疑問を述べるように、抑揚のない口調で古室・智以子(花笑う・d01029)が述べる。
「淫魔アイドルのライブに現れて、サイリウム振って応援……しかも執事服で」
特に今回現れるダークネスは変わっている。というか言葉にしてみても意味不明である。
(「と言ってる私も、メイド服着てたら世話無いですか」)
ESPのためとはいえ、防具としてメイド服を着ている神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)が頭を抱える。
「純粋にアイドル好きなんか、それともライブに行くことで、淫魔の好感度アップを狙とる、とか……うーん、穿ち過ぎ?」
九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)も思ったことを口に出してみるが、まるで雲を掴むようだ。
「う、うーん、ライブに来た理由も、執事姿の理由も分からんけど、一般人の被害を出す訳にはいかない」
莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)の言うとおり、未来予測の通りになれば、一般人に犠牲者が出る。
「え、なんだ、このアンブレイカブル。もしかしたら周りが見えないだけで純粋にアイドルのおっかけをしたいだけなのか?」
未来予測の内容を振り返りながら、犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)は訳がわからないといった表情を浮かべた。
「恐らくこのアンブレイカブルの人は、純粋にファンの人……でもね。ファンだからこそ、してはいけない事があります」
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)は決然とした思いを込めて拳を握りしめる。
「それは好きな相手に迷惑をかける事、他のファンに迷惑をかける事。それをするなら、この人を放っておくことは出来ません」
ライブはファンと一緒に作り上げるもの。
たとえアンブレイカブルが純粋なファンとして行動していたとしても、ライブが台無しになれば、アイドル淫魔も喜ばないだろう。
「ダークネスとはいえ頑張ってるし、ライブは中止にさせたくないかな。ライブ見たいなら大人しくすれば良いのに……」
ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)は、アンブレイカブルの行動をやや冷めた様子で評する。
「案外アイドルを独占したい、みたいなアレだったりしてね」
蓋を開けてみなければわからないが、そうとでも考えなければ、アンブレイカブルの行動の動機は納得できるものではなかった。
●
「どちらへ向かわれますか? 執事様」
ライブ会場へ向かうアンブレイカブルの前に立ちはだかり、佐祐理はスカートの裾をつまみながらお辞儀をしつつ微笑んだ。
「ここ最近、貴方と同じようにライブを襲撃……なのかどうかはわからないけど、ライブの邪魔をするダークネスが度々事件を起こしているの」
灼滅者達を前に足を止めたアンブレイカブルに対して、智以子が一歩進み出て話し掛ける。
「貴方は、そのことを知っているの? そもそも、貴方は何をしに、このライブ会場に来たの?」
「それは物騒ですね。私は単にライブの噂を聞いて来ただけですよ」
物腰こそ丁寧ではあるものの、相手が灼滅者であり、急いでいることもあってか、アンブレイカブルは感情のこもらない声でそう答えた。
「提案なのですが、今回はこのまま帰りませんか?」
「むしろ貴方達が道を譲って頂けると助かるのですが」
えりなの言葉に対しても、アンブレイカブルは皮肉っぽく肩をすくめて聞く耳を持ってはくれないようだ。
「その格好、マネージャーにでもなりに来たん?」
「確かに、ラブリンスター様やユカたんにお仕えすることができるなら、それは僥倖でしょうね」
想々の質問にアンブレイカブルは少し関心を示したようで、そういう目的があって執事姿という訳ではないらしい。
「そこの執事さん、ちょっと遊んでいかへん? ライブもええけど、己を鍛える戦闘もなかなかとちゃう?」
「執事の鍛錬は人知れず行うものですよ。それにこれ以上時間を掛けてはユカたんのライブに遅れてしまいます」
枢の挑発に熱くなるでもなく、ただ押し通るためにアンブレイカブルは隙のない構えを取る。
「周りの迷惑を考えないでテメェ独りでお楽しみってのはいただけねぇな、無粋なお客様にはお帰り願おうか」
蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)の言葉を契機に、これ以上の問答は無用と、アンブレイカブルは地を蹴り、ライブ会場へ向かう路地は戦場となった。
●
最短距離をステップで踏み込み、アンブレイカブルのショートアッパーが雷速で繰り出される。
「アルルカン、防御よろしく!」
それをロベリアの指示を受けたビハインドのアルルカンが、前に出て肩代わりする。
体幹を捉えた剛拳に耐え切れずに、アルルカンが一撃で消滅した。
「咲け、初烏」
霧散するアルルカンの陰から黒いバベルブレイカーを振り被った智以子が、拳を振り抜いたアンブレイカブルに向かって突撃する。
最小限の体捌きでアンブレイカブルは杭打ち機を回避するが、道路に打ち込まれた杭によって派手にアスファルトが舞い上がった。
「貫くっ」
仮面を装着した沙雪が壁を蹴ってアンブレイカブルの頭上を取り、死角から突き降ろした槍が腕を抉る。
「お父さん、お願いします」
えりなが戦いの歌の前奏をギターで弾く中を、ビハインドのお父さんが疾走、霊撃が直撃してアンブレイカブルを吹き飛ばす。
「暑い中待った恨み、思い知れ!」
体勢を崩したアンブレイカブルに、枢が間髪入れずに肉迫、鬼神変で異形化した腕で追撃する。
「隙あり」
更に連携して想々のクロスグレイブから撃たれた砲弾が、狙い澄ましたようにアンブレイカブルの胸に突き刺さる。
轢かれたように跳ね転がるアンブレイカブルに向かって、即座に想々の緋色のオーラを宿したダイダロスベルトが強襲し、血色の軌跡を刻む。
「Das Adlerauge!」
メイド服から戦闘形態になった佐祐理が槍を手に急降下するが、アンブレイカブルは転がった勢いのままそれを回避。
「はいはい、キミの相手はこっちね」
跳ね起きたアンブレイカブルを狙って、ロベリアが魔方陣を描いたシールドを拳の前に展開して殴りかかる。
しかしそれはダークネスの凄まじい反射神経で、拳を横から受け流される。
「屈め!」
そう言いながら空は制約の弾丸を横一線に展開し、一斉に発射する。
転がるように屈んだロベリアの頭上を魔法弾が走り抜け、何発かがアンブレイカブルに命中した。
「お返ししますよ」
アンブレイカブルはナイフくらいのサイズの光の刃を次々と生み出すと、それを空に向かって連続して投擲した。
それをえりなのビハインドのお父さんが横から割り込むことで庇い、その体に光の刃が突き刺さる。
「こっちなの」
アンブレイカブルの側面に回り込んだ智以子が、その両の拳にオーラを纏いつつ、懐に飛び込んで乱打を浴びせる。
「黒死の一撃、見切れるか?」
続いて正面から距離を詰めた沙雪が、アンブレイカブルの直前でクロスグレイブを地面に突き立てて跳躍、背後に回り込みながら槍の穂先で黒死斬を繰り出す。
「もう、もっと暑なればええんやー!」
それを避けようと前方へダッシュしたアンブレイカブルを迎え撃つように、枢の炎を纏った回し蹴りがアンブレイカブルを打った。
「もう一発」
クロスグレイブを地面に設置した狙撃体勢から、枢の蹴りで仰け反ったところを狙って、想々がアンブレイカブルに砲弾を発射するが、アンブレイカブルは突然バク転することでそれを回避。
アンブレイカブルはそのままバク転を繰り返すことで、佐祐理の歌声、ロベリアの茨の影業を次々と避けていく。
「唸れエンジン! 最ッ高のハーモニーだぜ!」
その進行方向の先で待ち構えていた空のチェーンソーによる横薙ぎの一閃も、アンブレイカブルは後方跳躍することで飛び越えた。
「やれやれ侮っていたつもりはないのですが……」
アンブレイカブルは集気法で己の傷を癒すが、包囲されながら手数で負けている中で、一手を回復に費やさなければならない状況に苦々しげな表情を浮かべる。
「観念するの」
バベルブレイカーから噴き出すジェット噴射に身を任せ、一直線にアンブレイカブルに向かって突進した智以子のバベルブレイカーの杭が今度こそアンブレイカブルの肩を捉えて打ち抜いた。
「炎一閃!」
反対側から接近した沙雪の槍が炎を纏いアンブレイカブルの足を払う。
「そろそろフィナーレです」
癒しの歌で傷を負ったビハインドのお父さんを回復したえりなが、再びギターをかき鳴らしてアンブレイカブルを攻撃する。
「大人ししといて」
アンブレイカブルを殴った枢の縛霊手が展開、霊力の網がアンブレイカブルの手足を縛った。
「今度は逃がしません」
想々のダイダロスベルトが、緋色の軌跡を描きながら路地を縦横無尽に走り、拘束されたアンブレイカブルを切り刻む。
「捉えました」
佐祐理は爆撃するように、螺旋回転させた槍を投擲し、アンブレイカブルの太腿を貫いた。
「ところでその服どこで買ったの? まあ、もう答える余裕もないだろうけど」
ロベリアの拳の先に展開された魔法陣が、アンブレイカブルの顔面を叩く。
「悪いね、こういう喧嘩の仕方もあんのさ」
契約の指輪から放たれた空の魔法弾が、アンブレイカブルの行動を縛る。
身動きの取れなくなったアンブレイカブルに、既に勝機は残っていなかった。
●
「オタ芸っていうのをするわけじゃないんだな」
戦いが終わりライブ会場で、沙雪は最前列から少し距離を取った場所からステージを眺める。
サイリウムを振る観客達は、テレビで見るようなオタ芸を打つわけでもなく、お互いの邪魔にならないようにライブを楽しんでいた。
「うーん……また調子に乗りすぎないように、気をつけないと……」
そう呟くメイド服姿の佐祐理の手には大量のサイリウムがあった。
灼滅した後でアンブレイカブルの懐を漁ってみたら、大量の使い捨てサイリウムを回収することができたのである。
佐祐理はサイリウムを手に最前列に混じってライブを楽しんだ。
ユカの歌声や音楽を聞いている内に興奮してきた佐祐理は、最前列とステージを仕切る柵を掴んで身を乗り出したところで我に返る。
自分達の周りにいるのは一般人達で、自分達灼滅者の力であっても、ちょっとしたことで大怪我をさせてしまうかもしれない。
灼滅者である自分は、こうして一般人達のことを気遣うことができるが、ダークネスにそういった思考はないだろう。
或いはこれが今回の未来予測の顛末であったのかもしれない。
「……えと、ノ、ノリが良い曲……なんかな……?」
沙雪と同じくらいの距離から想々もステージを眺めていた。
普段アイドルソングを聴くことがないので、会場の熱気についていくことはできない。
しかし会場の楽しそうな雰囲気は、決して悪いものではないと想々は思った。
「曲だの振りだのはわかんねぇが、全力で盛り上げようじゃねぇの! 自分のやりたいことに前向いて取り組んでるヤツってのは間違いなく輝くもんだ!」
佐祐理からサイリウムを分けてもらいながら、空も最前列で可能な限りノってライブを盛り上げようと観客達と一体となった。
「お疲れさん」
「わあ、差し入れですか? ありがとうございます!」
やがてライブが終わり、楽屋裏にやって来た枢は持参したフルーツゼリーをユカや一緒に楽屋裏にやって来た仲間達に配る。
アイドル淫魔ユカはアンコールの時に着ていた物販のTシャツ姿で灼滅者達を楽屋裏に快く迎え入れた。
「おつかれさまなの。最近何か変わったことはないの?」
「変わったことですか? こうしてライブを開けるようになったことでしょうか」
智以子から赤い薔薇の花束を受け取るユカからは、ライブを開けることの純粋な喜びを感じることができた。
そこに営業だとか演技のような嘘っぽさはなく、心から嬉しいという気持ちが伝わってくる。
「素敵なライブでしたね♪ ラブリンスターさん、最近、どうされてますか?」
「ありがとうございます! ラブリンスター様ですか? 私も最近は自分のライブの準備とかで忙しくてよくわかりませんが、たぶんアイドル活動をされていると思います」
「そうですか。今日のライブ、本当に楽しかったです。またお会いしたいですね♪」
「はい、次のライブも予定していますので、是非また来てくださいね♪」
えりなの質問に答える様子にも、日頃ダークネスが向けてくる蔑んだ感じはなく、ユカは武蔵坂学園の灼滅者達に心を許しているようだった。
「やっぱアレだね、ライブはアイドルだけじゃなく見る人も一緒に盛り上がれなきゃダメなんだろうね」
大人数で押しかけても迷惑だろうと、ライブを見た後で一足先に会場を後にしたロベリアが振り返りながら呟く。
ビハインドのアルルカンを労うようにスレイヤーカードを一撫でしたロベリアの足取りは、ライブの熱気にあてられてか機嫌の良さそうなものだった。
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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