密室ビルを開放せよ

    作者:東条工事

     千葉県松戸市の、とあるオフィスビル。周囲を同じ高さのビルに囲まれた十階建てのそこは『密室』となっていた。
    「はい、皆さん。元気ですか? 死にたいですか? 死にたくなった人は言って下さいね。殺します」
     白衣姿の男はビルのオフィスの一つに入るなり、朗らかな声でその場に居た百人程度の男女に声を掛ける。
     その途端、恐怖の声が上がる。その声を聞きながら和やかな笑みを浮かべ一人の女性の手を取る。その親指の爪は剥ぎ取られていた。
     これから行われる惨劇に懇願するように涙を女性は流すが、白衣の男は笑みを浮かべたまま女性の人差し指に自分の爪を差し込み、ゆっくりと剥がしていく。
    「痛いですか? 死にたくなりましたか? 死にたくなるまでは殺しませんから、ちゃんと教えて下さいね」
     いたわるような声で、無慈悲な言葉を告げる。爪を剥がされる女性は痛みと恐怖に涙を流し暴れるが、白衣の男は微動だにせず丁寧に爪を剥がし終る。
     白衣の男は剥がし終った爪を口に放り込み呑み込むと、これまで繰り返した言葉を告げた。
    「最初に言いましたが、私は殺人鬼です。ですが、自主性は大事にしています。皆さんが死にたくなるまでは殺しません。
     でも私は皆さんを殺したいです。ですから、これからも少しずつ少しずつ皆さんを壊して行きますね。耐えられなくなって死にたくなったら教えて下さい」
     そして最後に応援するような口調で告げた。
    「まだ手の爪も足の爪も、歯も指も耳も鼻も、目玉だって2個もあるんですから。死にたくなかったら頑張って耐えて下さいね。私も頑張りますから」


    「このままやと、みんな殺されてまう。はよ、どうにかせんと」
     花衆・七音(デモンズソード・d23621)の言葉に、
    「ええ。幸いまだ死者は出ていませんが、このまま放置すれば確実に全員が殺されてしまいます。出来るだけ早い解決をお願いします」
     東雲・彩華(高校生エクスブレイン・dn0235)は返すと、集まってくれた灼滅者達に説明を始める。
    「花衆・七音さんからの情報によりゴッドセブンナンバーワン・アツシにより作られた密室が新たに発見されました。解決をお願いします。ただし松戸周辺では『灼滅者の襲撃』を予想する、闇堕ちしてしまわれたハレルヤ・シオンさんが警戒態勢を敷いています。ですので、彼女の配下に見つからないように行動する必要があります。彼女がそのような行動を取るのは、灼滅者から密室を守る事でMAD六六六での地位が向上し、彼女の目的に近づく事ができるからと思われます」
     そう言うと資料を配り更に続ける。
    「今回の密室は資料にあるオフィスビル自体が密室と化しています。ビルは十階建てですが、二階から十階までそれぞれのオフィスに百人前後の一般人の方達が捉えられています。今回の密室を与えられた六六六人衆、裂沼・悟史(さきぬま・さとし)はそこで、捕えられた方達が死にたいと口にしたくなるよう少しずつ体を壊しています。これを灼滅して頂きたいのですが、問題は二つ。ハレルヤ・シオンさん配下の六六六人衆がビルの周囲を見張って居る事と、裂沼との戦闘の際に一般人の方達の被害が出かねない事です」
     ここまで一気に言うと一息つくような間を開け、更に続ける。
    「周囲を見張っている六六六人衆ですが、問題のビル入口付近を遠巻きに見張り近付く者を警戒しているようです。ですので、皆さんにはビルの屋上から侵入して頂きます。幸い周囲のビルは問題のビルと同じ高さしかなく、距離も近いです。ですので屋上越しに跳び移って頂き、屋上入口から内部に侵入して頂きます。周囲のビル及び問題のビル屋上のカギの合鍵はこちらで秘密裏に作りましたのでそれを使って下さい。そして一般人の方達の被害を出さないやり方ですが、こちらは特に注意が必要になります」
     皆が資料を開き確認してくれるのを待って更に続ける。
    「必要なのは一般人の方達が居ないオフィスを一つ作り出す事です。戦闘はそこで行って頂きます。その為には、裂沼が他の階で一般人の方達を壊している間に、それよりも上の階の方達を屋上に一時避難させなければいけません。この時、裂沼は一般人の方達を壊している最中はそちらに集中するので多少の物音が出ても気づきませんが、それも限度があります。一般人の方達を一時的に屋上に避難させる際にパニックにならないよう注意する必要があります。裂沼がその時どの階に居るかですが――」
     僅かに言いよどんだ後、続ける。
    「裂沼に壊されている方達の悲鳴や泣き声で判断できます。この際は一時の感情で行動されないよう気を付けて下さい。下手をすれば裂沼に気付かれ余計な被害を出した上にビル入口を警戒している六六六人衆を呼びに逃げられる可能性があります。そういった状況になった際は、即座に一般人の方達に逃げ出されるように言って頂き、可能ならば少しでも多くの方達が逃げ出せるよう時間を稼ぐために増援で来る六六六人衆と戦って下さい。ですが皆さんの身の安全が第一ですので、無理だと判断されれば即座に皆さんもその場から離脱して下さい」
     そこまで言うと、敵の戦力について説明する。
    「裂沼は殺人鬼と解体ナイフに相当するサイキックを使ってきます。ポジションはディフェンダー。高い攻撃力と共に防御力を誇ります。裂沼は戦いの場となるオフィスに訪れた際、巧く一般人の方達を避難させていれば予想外の事に虚を突かれた状態になります。勿論すぐに我に返るのですが、巧く行けばその隙を突き不意打ちを与えられるかもしれません」
     最後に彩華は激励を口にする。
    「どうか皆さん、ご無事に戻られて下さい。皆さんのご武運を願っています」


    参加者
    長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)
    桜庭・翔琉(徒桜・d07758)
    流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)
    氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)

    ■リプレイ

     綿密に打ち合わせ灼滅者達は事に挑んだ。

    「大丈夫。行こう」
     ビル屋上から周囲の動向を見渡し的確に判断した氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)の呼び掛けに応え皆は密室と化したビル屋上に飛び移る。
    (「隠密侵入とはな……忍者の面目躍如といったところか」)
     忍びとしての技術を祖父に叩き込まれた風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)と同様、皆も極力物音ひとつ立てず内部に侵入する。途端、聞こえてくるのは苦痛と恐怖の声。灼滅者達の知る所ではなかったが、壊される者の声が他の階にも聞こえるようにされていた。少しでも死を望むようにする為に。
    (「一時の感情で動くのはあかん。わかっとる、わかっとるけど……くそっ!」)
     花衆・七音(デモンズソード・d23621)は怒りを押し殺し、冷静に聞こえてくる階下を特定する。それはかなり下の階、二階付近だと判断できた。
     即座に皆は動き出す。まずは最上階から可能な限り避難させていく。
     オフィスに入ると同時に不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)は王者の風を展開。これにより被害者達が気付かれるような声を上げる事を防ぐ。同時に長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)はサウンドシャッターを展開。その後も状況に応じての展開を心がける。
     サウンドシャッター自体は戦場内の音を遮断する効果なので単純な物音の防止には心もとなかったが、使用する事は意味がある。適時使用する事で、いつ戦闘になっても外部に音が漏れる事が無くなる為、周囲で警戒している六六六人衆に異常を気付かせない。密室は今回の敵である裂沼が任されている為、裂沼からの要請が無い限り異常に気付いても増援に来ることは無いが、万が一裂沼に逃げられ増援を要請された際に敵の動きが異様に早いという状況になりかねない所を未然に防いでいた。
     そうして細心の注意を払いながら避難を行っていく。
    「静かに、こちらへ……大丈夫、絶対助けます。絶対に」
     流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)は安心させるような声で、避難を促していく。その際はペインキラーを使い痛みを抑え動き易くする。既に片手の爪は全て剥ぎ取られ足の爪も一部剥がされていた為、それは効果を発した。同様にペインキラーを使用できる灼滅者達は次々使い避難を促していく。
    「助けに来ましたの。だから、安心して欲しいですの」
     シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は痛みを抑え、可能な限り被害者達の傷を癒していく。しかし状況が完全な治癒を許さない。裂沼に気付かれず可能な限り多くの被害者を避難させる為、最小限の行動しかとれなかった。
     どうしても人手が足りない部分は、侑紀がラブフェロモンを使い動ける被害者に協力を要請する。それは功を奏し、灼滅者達だけでは叶わない速さで避難を行えた。
     避難は順調に進む。しかし中には疲労感でまともに動けない者も。それを桜庭・翔琉(徒桜・d07758)はひょいっと抱きかかえ、
    「大丈夫。助けるから」
     物静かな声で安心させるように言い、避難させていく。そういったやり方は、怪力無双を使用した小次郎も使い避難速度を上げて行った。
     そうして避難する中、九朗は出来る限り階下に物音がしないよう音の元になるゴミなどの排除など細かい所まで気を付ける。そして他の灼滅者達も、階下から聞こえてくる音に裂沼の動向を意識し適時避難を止め、万全の態勢で裂沼に気付かれないよう避難を行った。
     灼滅者達の行動は的確であった。避難の方法や裂沼への警戒、更にその他不測の事態への対処に繋がる行動、全てが巧く繋がり進んで行く。
     やがて四階までの避難を終了し、それ以上階下を避難させようとすれば万が一とはいえ裂沼に気付かれる可能性も有ったので、そこを戦場と決め待ち構える。
     それは十数分の事ではあったが、その間も階下からは絞り出されるような苦悶の声が。それに兼弘は服に爪を立て耐え、他の灼滅視者達も必死に堪えながら対決の時を待つ。

     そして、その時はやって来た。

     裂沼が灼滅者達が待ち構えるオフィスに入る。入った瞬間、穏やかな表情は一瞬固まり、即座に異変に気付く。
     だが灼滅者達の方が速い。裂沼との対決前の行動が適切であった事が功を奏し、裂沼の対応しきれる反応を超え一斉に灼滅者達は動く。
     仲間への、或いは自己へのエフェクト付与、そして裂沼へのBS付与、更に、
    「ヴィオロンテ、封鎖をお願いしますの」
     シエナが自販機や椅子を動かし通路への出入り口を封鎖。そして逃走を防ぐ為にオフィス中央へ攻撃で裂沼を移動させると一気に囲む。
     不意打ちを食らいBSが付きダメージを受ける中、裂沼はゆらりと立ち上がり灼滅者達を見渡す。
    「ふむ、困りますね。さて、どうしますか?」
     囲まれているというのに他人事のように呟くと一気に殺意を噴き上げ灼滅者達の排除に動き出す。
     そして本格戦闘が始まった。


     戦いは初手の不意打ちがかなりの効果を見せた。不意打ちであった為、全ての灼滅者達の攻撃が問答無用で命中する事で付いたBSのお蔭で、裂沼は麻痺などにより時折動きが鈍り、回避が取れずに灼滅者達の攻撃を食らう。そうでなければ、戦いの初期では回避を数多くこなされその分灼滅者達の被害は大きくなっていただろう。
     戦いは灼滅者有利に進む。だがその中にあっても裂沼は時折攻撃を避け、確実に攻撃を灼滅者達に叩き込んでくる。狙いはクラッシャー。受けるダメージを減らす事を最優先にした戦法だった。

     裂沼は七音に一気に踏み込む。瞬時に間合いを侵食すると刃がギザギザになったメスを、闇が滴り落ちる黒い魔剣の姿となった七音に振るう。滴り落ちる闇が切り裂かれ飛び散る。微笑ましそうに笑みを浮かべる裂沼。その笑みを七音は斬り裂く。
    「気色の悪い笑み、やめさせたる」
     殲術執刀法により急所を斬り裂くと同時に顔にも傷を与えた。これまで付与され、七音により更に重ねられたBSにより裂沼の動きは麻痺する。そこへ灼滅者達は連続で攻撃を叩き込んだ。
    「何を余所見してる」
     未だ傷を与えた七音に顔を向ける裂沼に、翔琉はマテリアルロッドを手に踏み込み、不敵な笑みを浮かべながらフォースブレイクを叩き込む。流し込まれた魔力は体内を砕くように破壊。
     そこへ間髪入れず追撃が入る。
    「これ以上、誰かを傷付けさせないよ」
     守る意志を心に抱き侑紀はローラーダッシュで一気に踏み込み、摩擦で生まれた炎纏う蹴りを叩き込んだ。炎に包まれながら蹴り飛ばされる裂沼。そこへ小次郎が追撃で入る。
    「容赦はせん、蹴り砕く……」
     スターゲイザーを放つ。流星の輝き纏う跳び蹴りは裂沼の頭に命中。蹴りの威力で首を圧し折り床に叩き伏せた。動きを鈍らせながらも起き上がろうとする裂沼に、知信は間髪入れず炎纏う蹴りを叩き込む。
    「戦う力も無い人達にした非道、思い知りなよ」
     骨が砕かれる音と共に蹴り飛ばされ炎に包まれながら再度床に叩き付けられる。そこへ九朗は妖冷弾を追撃で放つ。
    「ここが君の終わりだよ、覚悟しな」
     強い怒りを心に抱き放たれた一撃は勢い良く肩に突き刺さった。
     炎に包まれ至る所に傷を負いながら裂沼はゆらりと立ち上がる。その顔には最初と変わらぬ穏やかな笑みが浮かんでいた。
    「ふむ、酷いですね。なぜこんな事をするんです?」
     挑発ではなく本意である事が伝わってくる声に兼弘は返す。
    「人殺しが、聞かれなければ分からないのか。そうなるまで一体何人殺したんだ」
     これに兼弘は軽く首を傾げると、
    「それはダークネスになる前の数も入れてですか?」
     本気で悩むような響きを込め返してきた。これに兼弘は言葉では無く攻撃で返す。盾のように構えていた自身の断罪輪・Genghis Khanを勢い良く投げつける。受け継いだキャプテンジンギスの象徴ともいえる武器は、罪を断ち切るような鋭さを見せ裂沼を切り裂いた。
     繰り返された攻撃に裂沼のダメージは蓄積されていく。それに、
    「いけませんね、これは――」
     裂沼はその場から逃げ出そうとするかのようなそぶりを見せる。それにディフェンダーに就いていた三人は逃がさぬ為に死を求める演技を告げる。それに裂沼は、
    「ごめんなさい」
     涙を溢れさせながら返す。
    「ごめんなさい、気付いて上げられなかったなんて。死にたいのですよね? 死にたいほど苦しいのですよね? なのに死ねないなんて――」
     その言葉は本心からの響きが滲む。けれど同時に、
    「かわいそうに。殺してあげないと」
     涙を流し壊れた笑みを浮かべ、愉悦に浸りながら濃厚な殺気を噴き上げた。その殺気は現実の脅威となって襲い掛かって来る。前衛、特に死の演技を告げたディフェンダー達に向け粘つく暗黒の如き殺気が襲撃する。クラッシャーの二人は辛うじて避けられたが、集中して襲われたディフェンダー達は避けられずまともに食らう。
     そこにシエナは即座に回復に動いた。
    「すぐに癒しますの」
     彼女のバイオレンスギター・リュジスモンチェロを介しリバイブメロディが広がる。『咆哮』を意味する名を冠したチェロ型殲術道具は、その名を表すように力強く遠くまで唸るような音を響かせた。
     これにより回復がされたが癒しきれない。そして裂沼は慈愛を滲ませるような笑みを浮かべ、死の演技をした三人を見詰め続けていた。

     そして戦いは更に続く。前半でクラッシャー後半でディフェンダーに敵が集中した事もあり被害は分散されていたがそれでも厳しい戦いの中、決着に向け灼滅者達は攻撃を叩き込む。

     翔琉は自身のエアシューズ・Bitter Chocolate Bootsを使いローラーダッシュで一気に間合いを詰める。それに裂沼は、
    「貴方も死にたいのですか? 楽に終わらせてあげますよ」
     迎撃するべく真っ直ぐに踏み込んでくる。激突する、その寸前、
    「お前が終われ」
     翔琉は弧を描き進路を旋回。裂沼の突進を避けると同時に炎纏う蹴りを叩き込む。蹴り飛ばされ炎に包まれる裂沼。そこへすかさず侑紀は動く。笑みを浮かべる裂沼。
    「死にたいのですよね」
     歓喜を抱き殺意を向ける。それに侑紀は静かな声で、
    「誰も救えず、守れないならね」
     自身を確かめるように呟き、自己を犠牲にするかのような勢いで距離を詰める。防御を捨てるかのような迷いの無さは裂沼の反応を超え間合いを侵食、同時に殲術執刀法により急所を切り裂いた。それにより裂沼の動きが止まる。その隙を逃さず小次郎は赤色標識に変化させた交通標識を手に踏み込む。
    「貴様の足を止めさせてもらうぞ!」
     踏み込みの勢いを乗せ勢い良く振り抜く。裂沼は頭を割られ床に叩き付けられた。
     裂沼は動こうとするもまともに動けない。そこに知信はローラーダッシュで一気に踏み込む。
    「僕を殺すんだろ? だったら僕の炎を消してみろ!」
     炎纏う蹴りが裂沼の腹に叩き込まれる。蹴り上げられ炎に包まれる裂沼。その身を焼かれながら涙を流す。
    「ああ、殺してあげないといけないのに。今すぐ、殺してあげますからね」
    「いいや。殺されるのは、お前だよ」
     そう告げた時にはすでに、九朗は攻撃の間合いに踏み込んでいた。全身から噴き出した炎が手にした妖の槍に宿る。裂沼が反応するより早く、焼きながら切り裂いた。
     その身を炎で焼かれながら裂沼は懇願するように告げる。
    「もっともっと殺してあげないといけないんです! 邪魔をしないで下さい!」
     たわ言に返したのは兼弘のご当地ビーム。
    「ワンインチだ」
     触れ合えるほどの距離に接敵していた兼弘は、拳を添えるようにしてご当地ビームを放つ。ビームの勢いに裂沼は吹っ飛ばされた。その隙にシエナはラビリンスアーマーで侑紀を癒す。今回彼女は攻撃に移れないほど回復に専念したが、それのお蔭でギリギリで危機的状況が回避できている。そんな彼女に呪わしげに裂沼は告げる。
    「何をしているのです……殺してあげる邪魔をするな!」
    「そんな事は許せませんの」
     シエナは自身の想いと在り様を込め裂沼を否定する。
    「無意味に傷つける上に死を望ませる……。修復者として許せませんの」
     この言葉に裂沼の顔が歪む。嫉妬めいた歪みを見せ、
    「癒す事など意味が無い!」
     絶叫と共に手にしたメスを振るう。そこから放たれた風は渦を巻きシエナに襲い掛かるが、侑紀が壁となって受ける。メディックを戦闘の要と意識し、そして誰かを守る事を心に抱く彼は、自らの在り様を示すかのように行動した。
     それに裂沼の顔は更に歪む。
    「邪魔だ……癒す事も治す事も守る事も、邪魔だ!」
     重ねられた攻撃に死の気配を濃厚にしながら、なおも裂沼は死を与えようとする。けれどそれは叶わず、代わりに七音により最期を迎えた。
    「今まで何があったか知らんけど、ええ加減終わりにしとき」
     七音は一気に踏み込む。それを迎撃するかのように裂沼は手にしたメスを振るい無数の毒の風を放つが、最早死に体の裂沼にまともに狙えるだけの力は無い。七音は全ての攻撃を掻い潜ると、
    「うちはあんたみたいなんと違って優しいからな。苦しむ間もなく、あっという間に終らしたる!」
     閃光百裂拳を放つ。叩き込まれる無数の拳打は裂沼の体を叩き潰す。声すら上げる余裕すらなく潰された裂沼は、床に倒れ伏すより早く塵と化し虚空に消えていった。

     かくして戦いは終わった。その後可能な限り囚われていた被害者達を癒しビル入口から解放する。
     それに見張り役の六六六人衆は気付くも、自分達に気付かれずに裂沼の灼滅と被害者の解放を実行したであろう手並みに、灼滅者達の戦力を見誤る。その場に居る灼滅者達以外の、伏兵や待ち伏せなどの罠の可能性も想定し、上役への報告も兼ねその場を後にした。
     それを利用し、灼滅者達もその場を後にするのだった。
     手順をミスれば重症化や、場合によってはそれ以上に拙い事になっていた今回の依頼を、最小限の被害でこなした彼らと彼女達の活躍が見事な依頼であった。

    作者:東条工事 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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