学徒夏の跡

    作者:幾夜緋琉

    ●学徒夏の跡
     海の日を過ぎ、夏間近のとある日。
     1学期を終えた学生たちは、夏休みという一大イベントに心踊り、弾ける。
     そんな心躍る学生達の一段がやってきたのは……怪談スポットとして有名な、とある旧校舎。
     夜な夜な、女学生の叫び声が聞こえたり。
     夜な夜な、屋上から悲鳴が聞こえ、次の瞬間、肉のつぶれる音が聞こえてきたり。
     夜な夜な、トイレから鳴き声が聞こえてきたり……と。
     勿論それらは全部、噂話。
    『なぁ、その噂話が本当か、確かめに行こうぜ!』
     と、とある男子生徒が言った言葉に、十人近くの仲間達が集まった。
     そして彼等は旧校舎へと立ち入り、肝試しをしている。
     ……しかし、中々そんな現象が現われることは無く。
    『なんだよー、やっぱりうそだったんじゃねーの?』
     と、その男子学生が吐き捨てた……その時。
    『うぅぅぅ……』
     突然響き渡る、呻き声。
     その呻き声の元は、通りがかった横の教室から……。
     ぴたり、足を止めて……その教室の扉を、そっと開く。
    『ウガァァァ!!』
     扉を押しのけて、現われたのは、ゾンビ達。
     ゾンビ達に突然襲われた学生たちは、旧校舎の中に散りじりになって、逃げ惑うのであった。
     
    「皆さん、お集まりいただけたようですね? それでは説明を始めます」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達を見渡すと共に、早速説明を始める。
    「今回、とある旧校舎に現われたはぐれ眷属のゾンビの灼滅と……ゾンビに襲われた学生達の救出をお願いしたいのです」
     と、差し出した写真には、何かおどろおどろしそうな校舎の写真。
    「とある旧校舎なのですが……どうやらここにゾンビが巣くってしまった様です。元々この旧校舎は、様々な学校の怪談が起こる怪談スポットとといわれており、その一つが実際に具現化してしまったようですね……」
    「そして、そんな旧校舎に、夏休み入りたての中学生達が肝試しとして、やってきてしまったようなのです。人数は10人……彼等がこのゾンビに襲い掛かられる場面を見ました」
    「恐らく皆さんが到着する頃には、この中学生達は旧校舎の中に散ってしまっており、それを探して救出する必要があると思います」
    「幸い、ゾンビは6体と数は少ない様です。ですが、ゾンビに見つかれば、中学生達が対抗する術は殆どありません。暴れることで、少しは逃げられるかもしれませんが、それも長くは持たないでしょう……」
    「つまり、この旧校舎の中に散ってしまった中学生達を救出しつつ、六体のゾンビを倒してきて欲しい……それが今回の依頼です」
    「ちなみに旧校舎は4階建てに屋上がある、5フロア構成となっています。1フロアに教室は6教室位、それに男女のトイレとかがある形なので、手分けして探せばそんなに時間は掛からないとは思います」
    「とは言え、灼滅者一人で対峙するのは、ゾンビといえども中々歯ごたえがある相手だと思います。そのあたりは、皆さんでよく相談して、作戦を立ててみてくださいね」
     そして、最後に姫子は。
    「中学生達は、夏休みという事で少し気分が大きくなってしまったのかもしれません。そんな彼等の気持ちをわからなくもあありませんが……こういったことをしないよう、しっかりと叱り付けるのも必要かもしれません」
    「何にしても、彼等を救うことが今回の目的です。皆さんの力を泡あせて、全員救出して頂けるよう、お願いします」
     と、深く頭を下げて、皆を送り出すのであった。


    参加者
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    クラウィス・カルブンクルス(依る辺無き咎の黒狗・d04879)
    龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    ジェノバイド・ドラグロア(穢れた血の紫焔狂牙・d25617)
    正陽・清和(小学生・d28201)
    九条・翼(灰燼の蒼鬼・d28342)

    ■リプレイ

    ●学徒の夏
     姫子からの依頼を受け、とある旧校舎へとやってきた灼滅者達。
     海の日を過ぎて、もうすっかり世間は夏休み。
     ……そんな夏休みのとある一日、薄暗い学校へと、肝試しと称してやってくる心境はまぁ、解らないでも無い。
    「しっかしまたまた生物災害ゲームの始まりかよおぃ!」
     と威勢良くジェノバイド・ドラグロア(穢れた血の紫焔狂牙・d25617)が言うと、それに。
    「まぁ、この季節、肝試しの一つや二つやりたいのは解るが……な……」
    「ええ。旧校舎での肝試し……にしては、随分と物騒な事態になってしまったようですねぇ……」
     と、龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)に紅羽・流希(挑戦者・d10975)が肩を竦める。
     と、そんな二人の会話に、びくっ、となるのは正陽・清和(小学生・d28201)。
    「き、肝試し……どうして……怖いところへ、自分から入っていくのかな……わたしにはよくわからないよ……」
     ……彼女にとって、肝試しのような怖い場所に好き好んでいくのは理解出来ない事。
     理解出来る人も居れば、理解出来ないのも当然居る。
     しかし、今回の守護対象になる者達は、肝試しが大好きという事のようである。
    「しかし肝試しだか何だか知りませんが、自己責任がとれないのであれば、馬鹿な真似はやめていただきたいものです」
     とクラウィス・カルブンクルス(依る辺無き咎の黒狗・d04879)が断じると、まぁなぁ、と九条・翼(灰燼の蒼鬼・d28342)と真白・優樹(あんだんて・d03880)、夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)が。
    「ま、肝試しは夏の風物詩とは言え、こういう状況に出くわすとは思わなかっただろうしなぁ」
    「まぁ、この時期の肝試しは定番とは言え、怪異が普通に実在する世界なのが困りものだよね」
    「そうですねぇ。せっかくの夏休みの肝試しも、本物が現れてしまっては、ホラー映画のようになってしまいますしね。ゾンビたちからなんとしても助け出しましょう~」
     炬燵の言葉に、清和、優樹、そして光明が。
    「う……うん……とりあえず危ない事は確かだから……先輩方のじゃまにならないようにしながら、がんばらないと……!」
    「そうだね。ま、、さくっと助けちゃおうよ」
    「そうだな……流石に、人数が多いから、苦戦はしそうだが……ま、手分けして行くとしよう」
     と光明の言葉に頷き、そして相互に連絡先を交換し合い。
    「これで良さそうですねぇ……では私は光明さんと一階を捜索しますねぇ」
     流希の言葉に、それぞれのフロアへと向かっていくのであった。

    ●学舎の闇
     そして、各フロアに散らばった灼滅者達。
     学生達の捜索と、ゾンビ退治の両立。
     ゾンビは六体、学生は十人……4フロアと屋上の5フロア構成の校舎の中に分散しているというから、各フロアに別れての捜索。
     3階を捜索するのはジェノバイドと炬燵。ひっそりと静まりかえった校舎の中は、現実世界なのに、異世界のような……そんな奇妙な感覚を覚える。
    「ん~……どこかにハーブ栽培とかしてねーかなー。もしくはでっけぇメダルとか」
    「メダルですかぁ~……それはそれで面白そうですねぇ~」
     なんだか微妙にかみ合っていない二人の会話。
     とは言え……そんな二人の会話が、静まりかえった校舎の中に響き渡る……と、その時、光明からメール。
    『とりあえず一部屋確保。鍵も掛かるし、とりあえず見つけたらこの部屋に叩き込んどこう』
     と言う文面と共に、部屋の写真。
     どうやら放送室の様だから……防音状況は万全だろう。
    「とりあえず収納は確保ですねぇ……それじゃぁ、学生さんを探すとしましょうか~」
     と炬燵が呟いた、その瞬間。
     ガタッ、と音が聞こえる。その音は、隣の教室から……。
     ドアをガラッ、と開けて……中を確認。
     人の影は無い……が、人の気配はする。
     部屋の中に入ると共に。
    「学生さ~ん。居るんでしょう。私達はあなた方をゾンビから救出する為に来ました。だから、姿を現してください~」
     炬燵が優しげな言葉を投げかける……と、ガタ、ガタッ、とまた音が。
     その音は、教室の掃除用具入れの中から。
     扉を開くと、中には、学生の姿。
    「おうおう、いたな。こんな所に隠れてたか」
     とジェノバイドはニヤリと微笑むと、それにブルブル震える彼。
    「大丈夫ですよー。ここは危険ですから、私達と一緒に避難しましょうねー」
     と炬燵が少年に手を差し出し……彼を、先ほどメールで貰った部屋まで連れて行く。
     ……その他のフロアからも、一人、また一人……と、身を潜めて隠れていた学生達を連れ帰っていく。
     そして、四人目を部屋に入れた、その時。
    『キャァアーー!!』
     聞こえてきたのは、悲鳴。
     その悲鳴は、最上階、4階……そのフロアに居たクラウィスと優樹が、急いで声のした方へ急行。
     ……ゾンビに襲われかけている、学生。
     座り込んだ彼は、ゾンビにジリジリと距離を詰められている。
    「……全く、仕方ないですね」
     クラウィスの一言……それに優樹が。
    「まぁ、因果応報で片付けるのは楽だけど、助けない事には、ね? さっさと片付けるよ!」
     と言い、二人、学生とゾンビの間に割り込んでいく。
     ゾンビはウゥゥゥ、と邪魔するな、と言わんばかりの呻き声を上げて威嚇。
     無論、威嚇に対して灼滅者達が怯んだりする事は、全くない。
    「まあ、一体だけです。さっさと倒しましょう」
     とクラウィスがグラインドファイアの一閃を叩き込むと、続けて優樹が。
    「さぁ、キツイ一発お見舞いしちゃうよ!」
     と、フォースブレイク。更に彼女のライドキャリバー、ダディが機銃掃射で攻撃。
     ……無論ゾンビは、一人でも多く、被害に遭わせようと食らいついてくる。
     その攻撃に、学生は頭を抱えて、おびえるばかり。
    「大丈夫大丈夫。少しの間、目も耳も閉じておいてね?」
     と優樹が声を掛け、律儀に従う学生。
     数ターンの猛攻の後……ゾンビが崩れ墜ちて。
    「先ずはゾンビ一匹灼滅完了ですね……と」
     その旨、皆にメールを送信して知らせるクラウィス。
     まだ、残るゾンビは後5匹……学生も、5人。
    「これは本当、骨が折れるね……」
     と、軽く苦笑を浮かべる優樹に、そうですね、と肩を竦めるクラウィスなのであった。

     そして、その後も、確実にゾンビを一匹ずつ、学生を一人ずつ救出していく灼滅者達。
     残るはゾンビ2匹、学生一人……だが、中々学生の姿が見つからない。
     教室の他、トイレの個室一つ一つ、階段の近くの掃除用具入れ、等々。
     ……時々聞こえてくるゾンビの呻き声は、浮かんでは消えて、とまるで蜘蛛の如く、中々捕まらない。
     ……とは言えその声を追い詰めるように、相互に連絡を取り合いながら捜索範囲を狭めていく。
     光明、流希の二人が一階フロアの捜索を完了し、2階へ……翼と清和と合流。
     対し3階のジェノバイドと炬燵は、屋上と四階を担当するクラウィスと優樹に合流して、2階と3階でそれぞれくまなく捜索。
     すると……。
    『ウゥゥゥ……!!』
    『ガ、ウゥゥァアア……!』
     二体のゾンビの泣き声が、呼応するように響き渡ると……それに。
    『く、くるな、くるなぁあああ!!』
     一層大きな、少年の声。
     切羽詰まったその声と共に、タタタタ、と走る音も響いてくる。
     そんなゾンビと少年の声に気付いたのは、翼。
     廊下の先から、走ってくる少年の姿を発見し。
    「おうおう、どうやら最後のゾンビを引き連れてやってきた様だぜ」
     翼の言葉に、清和は。
    「うう……ひ、引き連れてこなくていいのに……」
     と、涙を零しながらも、他の仲間達にメールで、応援要請。
     そして少年を陣の内側に匿いながら、翼は。
    「おめぇら纏めて面倒みてやる。さぁ、来い!」
     と威勢良く、言い放つ。
     ……ただゾンビ達は、少年を殺そうと、一直線に向かってくる。
     しかしそんなゾンビの攻撃をカバーリングする翼。
    「おいおい、無視すんなや。おまえの相手はオレだぜ!」
     と翼はいなすように、螺穿槍を叩き込み、牽制。
     そしてメールを送付し終わった清和も、ちょっと迷宵ながらも螺穿槍のヒットアンドアウェイ攻撃。
     そして合流していた光明、流希も。
    「切り裂く、九頭竜……狭花水月」
    「全く……素敵な夏の思い出が、キツイ真夏のトラウマに早変わりってか? ……ここに忍び込んだ奴らもこんな所に本物の化け物が居るなんて思いも寄らないか。ある意味、このゾンビは空気を読んで現れたのかもな。全く、皮肉なもんだ」
     とティアーズリッパーや黒死斬で切り掛かっていく。
     更に数ターンすれば、3階、4階の仲間達も合流し、ゾンビを挟み撃ちにするように対峙する。
     流石に前後封鎖された状況では……ゾンビにほと勝ち目は無い。
     大量の攻撃をその身に受けて……ゾンビは次々と、灼滅されていくのであった。

    ●後悔先に立たずして
    「……ふぅ。何はともあれ、皆、お疲れ様」
     最後のゾンビを倒し、光明が息を吐きながら皆をねぎらう。
     無事にゾンビを倒し終えた安心感。そして……学生達を全員助け出せたという徒労感。
     ……ともあれ無事に終わった事を知らせに、学生達が待つ一部屋へ、皆、揃い向かう。
     そして学生達の無事を改めて確認すると共に、学生達の傷を簡単に手当。
     手当てしながらも、学生達には。
    「もう、あんまり危なさそうな所に行かないようにね?」
     と、学生達に忠告。
     ……それを彼らが聞いたかどうかは、正直言って良く解らない。
     とは言え、あんなに怖い目にあったのだから、かなりお灸は効いているはず……そう信じたい所。
     そして学生達を校舎外まで送り届けて、その姿が見えなくなった後……流希が。
    「いやはや、終わりましたし、最後の見回りもかねて、私達もこの旧校舎で肝試しとしゃれ込みませんかねぇ……? 怖さが足りないと言うのでしたら、その道中で古今東西の学校で起こった怪談を語ってあげますよ……ちょうどよい暑気払いですよねぇ……」
    「……うう、い、いいですよぉ……」
     流希の言葉に、耳を塞いでぶんぶんと首を振るう清和。
     でもまぁ……一応ゾンビが居ない事を改めて確認するのは大事な訳で……流希の提案に、他の仲間達も頷き……そして、他にゾンビなどの脅威が無いかを、改めて確認しに向かうのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ