学園祭2015~打ち上げだ! 花火大会だ!

    作者:夏雨

     多くのクラブ企画や水着コンテストで盛り上がった2日間。ついに学園祭本番も終わりを迎えるが、学園祭の夜はこれからだ。
     今夜限りは後夜祭の会場として、グラウンドが解放されている。グラウンドの一画には家庭用の花火セットが大量に用意され、皆で手持ち花火や、線香花火、打ち上げ花火、噴き上げ花火などを存分に楽しむことができる。火気の取り扱いにはくれぐれも注意し、打ち上げを楽しもう。
    「おお、スゲー大量にあるじゃん」
    「うわ……今日で使い切れるか、これ?」
     食べ物や飲み物を持ち寄ったときのための折り畳みテーブルや、消火用のバケツを用意してきた月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)と暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)。未光は大量の花火を見てわくわくした表情を見せる。
     最後の学園祭の夜を彩る準備は整っている。


    ■リプレイ

     かき氷に冷たい飲み物やお菓子、屋台の残り物、蚊取り線香などを用意し、グラウンドの一角で小さな花火大会が始まった。
     親密そうな男女の姿が目立ち、甚平や浴衣と夏らしい格好の2人もいる。
     薄灰色の甚平姿の水無月・飛鳥は、花火未経験の花守・黒絵に遊び方を説明する。
    「ここのヒラヒラした先端に火を着けるんだよ」
    「いろんな柄や形があるのね。どれからがいいかしら!」
     白地に紺の紫陽花柄の浴衣姿の黒絵は、説明を聞く間も終始わくわくした表情を見せる。
     飛鳥はまず見本を見せようと、手にしている花火にライターで着火する。火が燃え移る花火の先端からは、無数の火花がシャワーのように噴き出す。
    「わ、すごい……! 色まで変わるのね」
     炎の色が次々と変わるのを楽しそうに見守る黒絵。飛鳥はもう1本の花火を手に取り、花火の火を移して黒絵に手渡す。
    「こっちのはバチバチしてる!」
     花火の先端からスパークするように飛び散る火花を見て、黒絵はますますはしゃぐ。飛鳥も黒絵の新鮮な反応を楽しそうに眺めていた。

     それぞれの手持ち花火の煙がもくもくと上がる中、百合ヶ丘・リィザは空中に向かって燃え上がる花火の先端を動かす。リィザが煙で空中に書く字を街風・恭輔は当てようとするが、煙は風に流されてすぐに消えてしまう。
    「どうです? 読めましたか?」
     「きょうすけだいすき」と書いていたリィザは、にこにこしながら恭輔の反応を確かめる。
     恭輔は照れ臭そうに笑いながら、
    「まあ、順番と読めた文字で何となく察しは付いたよ……」
     恭輔も花火に火を着け、リィザと同じく煙で字を書こうとする。
    「これが読めるかな!」
     恭輔は流れるような筆記体で「I really enjoyed myself」の文字をつづる。
    「ちょ、ちょっと、早すぎ! 読めませんわよっ」
     案の定、リィザは恭輔が何を伝えようとしたのか判読できない。
    「来年も一緒に、こうやって楽しもうな……」
     恭輔はその一言をリィザの顔を直接見ては言わず、リィザは答えを確かめようと恭輔にせっつく。
    「え、え、なんて言ったんです? ねぇねぇっ」

    「後夜祭に花火とは、良いものですねぇ……。風流とは、このようなことを言うのでしょうねぇ……」
     手持ち花火の輝きを見つめながら、紅羽・流希はつぶやく。
    「風流……ええ、風流っすよ」
     流希の隣りで、暮森・結人は生気のない眼差しでキャッキャッウフフする男女の2人組に背を向け、ひたすら花火を眺める。
    「カップルに囲まれて花火とか、風流ッスヨネー」
     ひがみ根性が表に出る結人に、どこからか月白・未光が声をかける。
    「何をしけた顔してるんだい結人くん? カップルにも負けないで盛り上がれよぉぉ!」
     振り返ると、未光はいつの間にか皆から少し離れた場所にいた。未光は火花が噴射される花火を片手に3本ずつ手にし、計6本の花火を武器のように振り回す。
    「ふははははは! この俺の六刀流を見よおおおお!」
    「小学生かよっ!」
     無駄にはしゃぎまわる未光の様子を見て、結人は反射的につっこむ。
    「随分派手な遊び方ですねぇ……」
     流希の物言いは感心しているようにも聞こえるが、半分は呆れていた。
    「何あれ、すごい! 豪快だねえ!」
     守安・結衣奈は両手の2つの花火に火を着けて楽しんでいたが、その3倍の量の花火から火の粉を散らす未光に目を奪われる。
    「あれは、真似しない方がいいと思うな」
     秦・明彦も結衣奈に釣られて危なっかしい遊びをする未光を見守る。
    「うおおおおお! アァァチョー……あ!」
     しばらく未光の六刀流の演武が続いたが、振り回していた花火の火の粉が手の甲に降りかかる。
    「ああああっっつ! ああっつうぅぅぅ!」
     未光は大げさにも思えるほど熱がり、慌てて地面に花火を投げ出す。
     未光の行動に開いた口が塞がらない結人は、
    「お前、アホなの?」
     「すっげぇ! オレもやりたい!」と、イヴ・ハウディーンはいそいそと6本の花火を用意し始めるが、
    「イヴ……何をするつもりですか?」
     テーブルの上のかき氷機をガリガリと回していた手を止めて、鑢・泉は凍てつくような眼差しをイヴに向ける。
     イヴは泉の視線を感じ、ハッとして花火を取り落とす。
    「ま……まだ何もしてないよ! イ、イタズラしないから、おおおおお仕置きしないでっ!」
     涙目で脅えるイヴに対し、「どんだけ脅えてるんだよ!?」と、結人は泉とのやり取りを不信の目で見る。
     泉は笑ってごまかしながら、
    「うふふ……ちょっとコスプレしてもらうだけですよ」

    「わ、何これ楽しい!」
     黒絵は存分に花火を楽しみ、初めての体験に笑顔が絶えない。
     煙のら旋を描くように燃える花火をぐるぐると振っていた黒絵は、
    「ほら飛鳥も見て――」
     打ち上げ花火などの準備をする飛鳥の元へ駆け寄っていく。
    「聞くより見るのが1番で――」
     飛鳥は燃える穂先を向けてやって来る黒絵を見て慌てて逃げ出す。
    「ちょっと人に向けないで!?」
    「あああああごめん!?」
     2人はそれすらも楽しげにお互いに笑い合う。
    「手持ち花火もいっぱいやったし、他のもやってみようか」
     飛鳥は少し遠ざかった位置に打ち上げ花火、噴出花火を並べ、端から順番に着火していく。
     導火線に燃え移った火は、少しの時間を置いて花火の火薬を起爆させる。空高く上がった花火は、夜空に散る大輪の花となり消えていく。更に大きな筒からは無数の火花が噴き上がり、周囲をその輝きで明るく照らす。
    「おおー……すごい、すごいわねこれ……!」
     黒絵は狼の耳をピンと立たせ、ますます興奮する。
     結衣奈は大きく噴き上がる火の粉と、その光に照らされる明彦の顔を見合わせながら、
    「綺麗だね! やっぱりお祭りと言えば花火だよね」
     朗らかに笑う結衣奈の表情を見て、明彦はある決意をして「守安さん」と切り出す。
    「守安さんとクラブで話した時、聡明で元気な人だと感心した……ブレイズゲートでは勇ましくて頼りになった。水着姿はとても綺麗で可愛らしかった」
     唐突に褒め言葉を連ねる明彦に、結衣奈は笑いながらも熱く火照り出す顔を押さえる。
     結衣奈は表面上は平常心を装い、
    「そう見てくれているのは率直に嬉しいな」
     内心では照れ臭くてしょうがない気持ちをひた隠しにする。
    (「急にどうしたんだろう? 褒め殺しってこういう事なのかな?」)
     そう思いつつ、結衣奈は明彦に対し思っていることを口にする。
    「明彦くんだって水着姿は男らしくて頼もしいし。気さくで場を見て明るく盛り上げる姿勢とか、とても素敵で惹かれるよ」
     結衣奈に褒め返されて照れつつも、明彦は結衣奈の目をまっすぐ見つめる。明彦は、花火を楽しんでいたときとはどことなく違う空気を感じさせる真面目な表情を見せた。見つめ返す結衣奈に、明彦は自身の思いを伝える。
    「探求部で美味しいかき氷を食べながら守安さんと話した時は楽しくて、君をもっと知りたい、仲良くなりたいと思った」
     一層頬を染める結衣奈は、照れながらも暖かな気持ちになった。結衣奈は明彦の言葉に答える。
    「わたしだって同じ気持ちだよ。互いを知って気持ちや思い出、重ねていきたいね」
     照れ笑いを浮かべる結衣奈を見つめ、明彦は満面の笑みで返す。
    「ありがとう。同じ気持ちだと判って、凄くうれしい」
     結衣奈の隣りで、明彦は晴れやかな気分で花火の輝きを眺めていた。

    「よぉ~し、いくぜっ!」
     特製のトランプ型の花火に着火し、イヴはその3つを連続で投げ飛ばす。七色の炎を噴くトランプは、離れた場所に並べられた打ち上げ花火の導火線まで飛んでいく。
     トランプの花火が筒の根元で消えた直後、3つの筒から見事に花火が打ち上がる。イヴのトランプ投げは成功し、皆から歓声と拍手が起こる。未光は「俺もやってみたい!」とイヴからトランプ花火をもらうが、成功させるのは意外に難しかった。
     大半の花火を消費し、締めの線香花火が始まる。皆がしゃがんで輪を作る中、リィザは線香花火に火をつける恭輔の腕にくっつき、一緒に花火を見つめる。
    「ふふ、恭輔くん、動いたら落ちちゃいますよ♪」
    「ならこっちもくっつけてあげないと不公平だよね」
     と、恭輔は花火の火玉をリィザの火玉とくっつける。
     2人のように寄り添う火玉からは、次々と火花が起こった。リィザは恭輔の肩に頭を預け、満ち足りた笑顔で花火が燃える様子を眺めていた。

    「おい、何ぶつけてんだよ!?」
     未光は誰の線香花火が長く燃え続けるかを競おうと言い始め、スタートした途端に結人の花火を狙い、燃える先端同士をぶつけてくる。
    「はははは、この戦いを制するのは俺の――……ふぁ!?」
     妨害をしていた未光自身の火玉が地面に落ち、未光はすっとんきょうな声をあげる。
     結人は「自滅してやんの!」と心底ざまあみろと思い爆笑する。その様子を見ていた泉は、やれやれと言った表情でつぶやく。
    「落ち着きのない方はご主人様失格ですね」
     次々と花火が燃え尽きる中、未光は飽きずに花火対決を繰り返す。
    「最近人間形態をうまく維持できなくて、調子が悪いんだよな」
     イヴは線香花火を手にしながら、結人の隣りでため息をもらし、「どうしても注意散漫になるっていうか……」と結人に悩みを相談する。
     結人はイヴの話に耳を傾けながら、たびたびため息をこぼすイヴの横顔を見つめる。そして、ふと直感したことを口にする。
    「イヴって、好きなヤツでもできた?」
    「え!?」
     イヴは非常に驚いた様子で、花火が消えたことにも気づかず結人に聞き返す。
    「なんとなくそう思ったんだけど……前より可愛くなったような気がしたから」
     結人の何気ない一言に、イヴは動揺を隠せない。
     泉は興味津々でイヴに尋ねる。
    「あら……そうなのですか? 学園祭でいい方でも見つけましたか?」
    「そ、そそそそそんな奴いないよ!」
     必死に否定するイヴをよそに、流希は「青春ですねぇ……」とつぶやいた。

     皆で後片付けを進める最中、飛鳥は黒絵に尋ねる。
    「ところで、夏休みの宿題はちゃんとしてる?」
    「……ま、まだ手ぇつけてない。でも、夏休みはまだまだあるし――」
     言い訳する黒絵に飛鳥はじとついた視線を送る。
    「まだ大丈夫なんて思ってると、絶対に間に合わなくなるよ?」
     飛鳥の耳が痛い忠告に、黒絵は「うう……」と口籠る。
     飛鳥は困った表情を浮かべる黒絵に苦笑しながら、
    「必要なら頼っていいよ」
     飛鳥の救世主のような一言に、黒絵は拝むように手を合わせた。
    「頼らせてマジお願い」

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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