学園祭2015~Fireworks!!

    作者:中川沙智

    ●ending
     楽しい時間ほど過ぎるのが速い。
     鮮やかな水着コンテストの晴れ姿。話し合って工夫を凝らしたクラブ企画。きみと一緒に賑わいを分かち合った、瞬間。
     学園祭終了後の夜に。
     焼き付けるように。忘れないように。
     熱く激しく切なさ帯びる、きらきら眩い花が咲く。
     
    ●everlasting
    「……花火?」
     人気がすっかり減った校舎の、とある廊下にて。
     鴻崎・翔(高校生殺人鬼・dn0006)が首を傾げれば、小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)がとっておきの宝物を語るように続ける。
    「そ。校庭でぱーっと花火しましょ。手持ち花火だってたくさんあるし、打ち上げ花火も準備されてるんですって!」
     鞠花の情報によると、大勢で楽しんでも十分すぎるほどの量が用意されているらしい。そして打ち上げ花火は花火大会にも劣るとも勝らない、大輪の花が夜空を彩るという。
    「そうか……いいかもしれないな。俺は普段全然花火をしないから、尚更」
    「でしょ? お祭り気分を最後まで満喫するのもいいものよ、きっと」
     言って、鞠花は窓の外を眺める。そこからはとあるキャンパスのグラウンドが一望出来た。
     これだけ広ければどんなに大人数でも皆で楽しめるし、逆に隅でささやかに花火を楽しむ事も出来そうだ。学園祭の想い出を語り合ったり、ここでしか言えない感謝を伝えたり。
     最後の最後まで、味わい尽くす学園祭のひと時を大切に出来たなら。
     きっと幾年たっても胸裏に浮かび上がる、色鮮やかな記憶達。
    「……何で、花火って愛しさと切なさが一緒になって込み上げてくるのかしらね」
    「それだけ大切な思い出になったからじゃないかな」

     一人で、大切な誰かと、気心知れた仲間達と、焔と光で飾られたフィナーレを味わおう。
     熱く激しく切なさ帯びる、きらきら眩い花が咲く。


    ■リプレイ

    ●one
    「げに不可思議は人の縁かな、ってね」
     さくらえが、灯した線香花火を見つめながら笑みを刷く。想希も沢山の繋がった縁に感謝していると告げる。
     進めているかと問えば何とかと返る。
    「支えてくれる人が、信じてくれる人が、同じように頑張ってる人がいるから」
     互いにありがとうと言えばお互い様。打ち上げ花火の音に視線を上げれば飴を思い出し、大切な人への土産をと請えば否応もない。
     とりあえず色々、お疲れ様。
    「和葉、ちゃんと安全に花火をするんだぞ?」
    「え~? 疑ってるのぉ? 酷いなぁ♪」
     と言いつつ和葉は悪戯めいた色を表情に湛え、色とりどりの手持ち花火に視線を巡らせる。雅輝は慎重になりつつもこうして一緒に遊ぶのは嫌ではなくて、知らぬままねずみ花火に火をつけた途端、
    「わ、わわっ」
     勢いよく走りだした花火に驚く彼の様子に笑いが弾けた。
     共にいて心が和む、その感情の名前を彼女はまだ知らない。
     もっと遊ぼう。
     より近づきたいと願う事は、きっと我儘じゃないから。
    「後夜祭にリュカっちと参加できてよかったよ」
     サイドに流した髪と浴衣姿の愛華は嫋やかだ。学園祭が楽しかったかと問えば、リュカは楽しかったと頷く。
     曰く、去年攻略できなかったトラップ迷宮を踏破できたから。冒険映画の主人公になった心地でと高揚を声に乗せれば、応えるように花火が上がる。
     光の後に、音が鳴る。
     そっと寄りかかる、彼女の体温。
     跳ねる鼓動のままひと時に浸ろう。花火の熱で、頬が火照った気もするままに。
     虚の手元で火花が弾けるのは線香花火。賑やかさを分け合いながらも【夕鳥部】の面々からやや距離を取って、じっくり腰を落ち着けて集中する。さて今宵はどこまで持つか。
     その傍らで紅葉と影薙が手持ち花火と線香花火で緩やかな時間を楽しむ。たまきもほわりと笑顔を咲かせて見守っていた。
     だが。
    「ほーらほら、右九兵衛さん。ほらほら、綺麗でしょうー」
     椎菜が花火とにこやかな微笑みを右九兵衛に向け始めた頃から若干旗色が変わってきた。
    「ちょいちょい、火傷には気ィつけや、人に向けたらあかんで」
    「あ、人に向けて花火をするのはッメ――!! ロケット花火も危ないからッメ――!!」
     向日葵が参加面子の最年長たる頼もしさを見せるも、ロケット花火をふりふりしていたアリスが立ち止まっただけ。
    「大丈夫です、貴方以外には向けません。確か……そう『無礼講』って言うんですよね!」
    「あかんて、なァ、あかんて、あかんてー!!」
     断末魔にも似た叫びが夜空に響く。
     仕返しにと仕込み始めたのは、ねずみ花火だ。右九兵衛は独特な笑みを湛える。騒ぎまくるくらいのほうが面白いと走る火花を眺めながら嘯いた。
    「信頼と伝統の悪戯やしなこれな!」
    「右九兵衛ちゃんも仕返しにねずみ花火はなつのッメ――!!!!」
     飛び散る弾ける、ねずみ花火。優しく線香花火を見守っていた影薙が真顔になった。どうやら続いていた火花が落ちてしまったらしい。
    「今、結構長く持ちそうだったのにッ! 次やったら貴方の頭から花火を散らすわよ!?」
    「……痛い」
     虚の足元で、飛び回っていた――まるではしゃいでいた誰かさんのよう――ねずみ花火が無造作に踏み潰された。線香花火組のただごとではないオーラを敏感に感じ取ったたまきは震える声で袖を引く。
    「なんだかちょっと怖い……よ? り、リラックスだよ……っ」
    「まったく……いい年なのに大人気ないね。お子様共」
     一歩引き、ご機嫌斜めな紅葉はやれやれと肩を竦める。一方でアリスの興味はへび花火に向いて、執拗に観察しているようであった。
     まだまだ賑やかな時間は終わりそうにない。

    ●two
    「実は、学園祭、ちょっと遊び足りない感じなんだ、よね」
     肩を並べて、ゆずると鴻崎・翔(高校生殺人鬼・dn0006)は線香花火を見つめながら小さな会話。
    「俺もそうなんだ。来年はお互い満喫できるといいな」
     気が早いかな。くすぐったそうに翔が笑って、ゆずるも笑った。最後の一本が消えるまでのこの時間で、足りない思い出を埋められたら。
    「ふっふっふっ、何を隠そう僕は線香花火の達人! 長く保たせることで右に出る者あっ」
     陽太の手元からぽとり火の玉が落下する。けれどめげる様子もなくて、緋月はくすくすと笑みを零す。
     そうして緋月は身を寄せて、ふたりでひとつの線香花火を紡ぎ始める。
    「来年は学園祭を遊び尽くしたいな」
    「はい、私も来年はもっと遊びたいです! ……それに、皆となにかやりたいです! ……空月さんたちと、一緒に」
     ふたりだけの夕陽が、いつまでも心まで照らしていく。
     あんまり真面目な雰囲気で行くと、友達以上になってしまいそうだから。
     それが嫌というわけじゃないけれど、そういう気持ちになったことないから――。
     花火のさなかに、猫の道化じみた振る舞いで優夜が本音を零せば、風花が眦を緩める。
    「でも、こうして優夜さんと一緒にのんびりできるの、好きですよ」
     微妙な距離が空気を震わせる刹那、ウイングキャットのジュバルが優夜の背を押す。勢い余って風花に倒れ込む格好になり、鼓動が跳ねた。
     彼を支えながら、彼女が小さく囁く。
    「その、優夜さんと、友達以上になるのは、……嫌じゃありませんから」
     ふたりの鼓動が、重なる。
     花火を見ていると、学園祭で興奮した気持ちが落ち着きを取り戻すよう。流希は緩やかな時間の流れを噛みしめながら、眩い思い出を噛み締める。
     手持ち花火に絞ってみてもいろんな種類があるもので、隣は目移りしながら品定め。
    「ススキにスパークにー、お、絵形まであるゥ♪」
    「……色々と試してみるか、片っ端から!」
     亨が興味を湛えた瞳を輝かせるように、【赤の女王】の皆はおおはしゃぎだ。火花が特に強い二本を選び、六が光のしっぽを連れて走り回る。
    「ねーみてみてー!! 僕、なんか書くから……当てて?」
     くるくる動く光の花。それが描く文字を読み取ろうと目を凝らす。紅子が、スマホのシャッタースピードを調節して撮影を試みる。
     が。
    「さ……ん……ま? ……さんま?」
    「綺麗だから何でもいいと思うんだ!!」
     紅子が眉間に皺を寄せ、隣は首を大きく傾げる。享は潔く理解を放棄する。
     今日の花火も、学園祭の企画も、とっても楽しかった。だから六はにっこり笑顔で伝えるのだ。
    「おつかれさんまんま!」
     正解に吹き出したのは誰だったろう。でも誰もが納得で、抱えたいい思い出を噛み締める。
     打ち上げ花火の音に誘われて、元気な合図が聞こえる。
    「みんな好きな花火持って集合! 良い顔しや~よ!」
    「わーい! 記念写真だっ♪ いえーい」
     セルカ棒で花火を背に皆で一枚。今年は本当に楽しかった。
     また、大切が増える。
     右手には白地に青薔薇咲く水着姿のクラリーベル。左手には紅と白を基調とした牡丹柄の浴衣姿の琉衣。
     自身も紺地の浴衣姿は様になっているとはいえ、政道は二人と過ごす時間を味わえばこそ、将来に思いを馳せてしまう。
     夜空に輝く花火を見上げて誓う。
     二人と並び立つにふさわしい男として、大人として、大きく成長を遂げて見せると。
     その横顔を眺めながら、クラリーベルは何かを汲み取ったのか胸中で頷く。
     そう思えば琉衣はどことなく不安げな様子。それもまた可愛らしさを増していて、だからこそ『二人』まで欲張った彼に期待を寄せる。琉衣を安心させるように微笑んで、クラリーベルは囁いた。
    「さぁ魅せてくれよ少年」
    「二人と釣り合い取れる娘になりたいな、ってね♪」
     片や頬をぷにぷにし、片や手を握られては表情も緩んでしまう、政道の前途は如何に。
     緋色の羽織に走る金と白の条が、線香花火の光を弾く。
     火薬の上の部分をねじって硬くしてから傾けて火を着けると長持ちする――そう聞いたラルフのおかげか、火花は小さいが華やかで、儚くはない。とっても綺麗、と雅が眦を緩めた。
    「日本の花火はイイですよネェ。他の国にはなかなか無いものデス」
    「風流だよね。……らるふと花火出来るなんて、嬉しい」
     優しい沈黙に響く声。
     雅の呟きが花火より尚鮮やかな彩を宿す。
     なんか、とっても幸せ。

    ●three
    「どうかな……?」
     普段は避けがちな浴衣も、恋人のためと思えば頑張ってみるのが乙女心。
     黒虎の前でくうるり一回転してみせる銀河に、
    「お、よく似合ってるぜ!」
     と賛辞が返れば安堵と嬉しさで胸がいっぱいになる。
     花火が上がる。
     瞳を輝かせて眺めていれば、黒虎に寄り添っていた腰を引き寄せられた銀河が頬を染めたけれど。それ以上に幸せな想いで胸が満たされる。
     大切な人の、ぬくもり。
    「花火で乾杯! つってな」
    「カンパーイ!」
    「いえーい! かんぱーい!」
     初っ端から手持ち花火を一気に三本燈した允を皮切りに、綾乃も二刀流を披露するなどした【外国語学部1年】の面々で煌く花火の乾杯鳴らす。流石に八本もと欲張った冬崖は、全部続けて火をつける事が難しいようだったけれど。
     話題は大学に進学後初の夏休みについて。バイトや勉強色々あるけれど。
    「お家で未消化のご本を読んで、お家で未消化の録画を観て……」
    「早めに課題終わらせて、本読んだり図書館行ったり」
     マギと晴汰から語られたのは、潔くインドアな予定の数々。水着姿で夏満喫中の綾乃から皆で遊びに行きたいねと出された提案は、きっと近しい未来の形。インドア二人は強制連行とは冬崖の談だ。
     ふと允が思い立ち、スマホのアプリを起動し始める。
    「空中に一文字ずつ書いて単語作るアレやんねー?」
     選んだ言葉は『FOFLF』――Faculty Of Foreign Language First Graderだ。縁が繋がる所属の名前。
     最初のFは勿論允、Oは花火文字に憧れを抱くマギ、次のFはセンターを堅守した冬崖、Lはずばーっと勢いよく書き上げる綾乃、そして最後のFはLの勢いに心臓が跳ねた晴汰。
     それから。
    「あ、そうだ。その辺に落ちてた段ボールに『Grader』って書いて紐付けて……これで完璧!」
     ウイングキャットのカナフの首にも連なって、完成だ。
    「んじゃタイマーセットしたからな、行くぜー」
     綴られる物語は、まだこれから。
     学園祭のクラブ企画を通じて繰り広げられた戦いはどれもが十織の敗北。だから最後にリベンジかけて、喬市に挑むは線香花火三本勝負。
    「じゃ一回戦スター……、……今のはちょっと突風が、な?」
    「男の二言は聞き苦しいぞ」
     一本目は即座に終了、その後も十織に流れが行く事無く完結した。
    「完全無欠だ……」
    「お前が弱、もとい。勝った方は褒美要求できるといっても……」
     毎度この調子ではネタも尽きるというもの。頭を捻る喬市だったが。
    「なくなるまで延長戦お願いシマス」
     差し出されたのは十織の笑顔と、まだ残りがある花火の袋だ。
    「じゃあ、今回の褒美はそれにしよう。こういう時間は何にも代えがたいからな」
     ゆるり燈して、過ごす事こそ何よりの。
     チャイとチョコミルフィーユ、ダージリンと猫型クッキーを傍らに過ごすひと時。
     真魔と綺更は夜空に咲く大輪の花火を眺める。僅かな合間に、綺更は意を決して唇を開いた。
    「実は私、主より暇を出されてしまったのです」
     花火の音が響く。
     真魔はそうか、と呟き、思考を巡らせる。彼には大切な人も出来たのだし、これを機にゆっくり過ごすのもいいだろう。
     時間が空けば。
    「……もしよろしければまた遊んで頂けませんか?」
    「俺で良ければ、喜ンで遊びやお茶に付き合おう」
     自分を満たす事が周囲に笑顔を運ぶ。
    「生まれたからには幸せに大事な事、だで」
     軽く頭を撫でてやれば、綺更は返答のように眦を下げてみせた。
    「へえ、そんなのもあるのね。知らなかったわ」
     アビゲイルがロアーの手元を覗き込めば、線香花火の小さな火玉がささやかな音を立てていた。
     これが最後の一本と、ロアーは慎重に猫の手先に注意を払う。
     ――――閃く、光の環。響く音。
    「うわぁっ!?」
    「あ、あれもハナビって、」
     驚きに肩を揺らしたアビゲイルがふと気づくと、膝にふわふわの触感が。そしてそれがロビーだと気付いた瞬間、
    「きゃー!? ちょっとロアー大丈夫なの大丈夫だったら離れて恥ずかしいきゃー!」
     ノンブレスで言い切った。打ち上げ花火にびっくりしたロアーがアビゲイルの方向に倒れ込んでしまったのだ。慌てて急いで起き上がる。
     幼い二人に、不意に訪れた熱とぬくもり。
    「ご、ごめんね、だいじょうぶ? けがしてない??」
    「あ、あたしは大丈夫よ。驚いただけなんだから!」
     線香花火はさみしい感じと人は言うけれど、千明はそうは思わない。
    「どんな花火より、一緒にやる人の近くにいれるでしょ?」
     翔は成程なと得心したようだ。こうして話しながら楽しめるのも醍醐味の一つ。
     打ち上げ花火の、音が聞こえる。
     ちょっとしか回れなかったと言いつつも、千明は楽しかったと笑って見せた。だから、来年が楽しみだとも言う。
    「その時もまた、こうやって花火が見れるといいねー」
    「そうだな。その時も、また」
     じゃあね。
     また、明日。

    ●four
     櫟が鈴親の首筋にアイスの袋を当てれば、可愛い声と拗ねた視線で抗議が返る。とはいえ笑みが降れば空気は和らぎ、一緒に夜空の花を見る。
     食べかけのアイスを分け合って、そんな折に櫟がふと呟く。
    「去年と同じ事、言いたかっただけなんだよね」
     彼女の髪を緩やかに撫で、万感の思いで囁いた。
    「……これからもずっと、よろしくね」
     鈴親も柔い眼差しで想いを紡ぐ。来年も再来年もずっとあなたと。
    「櫟くんとキレイな花火、見れたら良いな」
     一緒に見てくれるでしょ? と悪戯っぽく微笑み向ければ、夏の熱に浮かされた極上のキスを捧げよう。
     白地に紫陽花の浴衣、紺色の甚平をそれぞれ着こなしたウルスラと圭。学園祭の短くも濃密な二日間、完全燃焼したと言い切る彼が彼女はと問う。
    「拙者は『待ち侘びて 風に過ぎ往く 大花火』デース」
    「風流だねえ。ホントにあの花火みてえな二日間だったな」
     笑み浮かべ、圭は喉から溢れ出る真摯な思いをかたちにする。
    「オレ、お前といられて良かった。これからもずっとそーだと思う。ラジオでも、こうやって遊ぶ時でもさ」
     照れ隠しに浴衣姿を付け足すように褒めても、ちゃんと真意は伝わっている。その証拠に一度視線を伏せた後ウルスラはふわり笑う。
    「拙者は、今がとても気に入ってる故。ケイがこれからも傍に居てくれればそれが一番嬉しいのでゴザルよ」
     いつしか【るる部】のメンバーは男女で分かれて花火を楽しむ事に。
     るる子が率いるは、何故か魔王になろうという企て。つい括は首を傾げる。
    「えっ、魔王ごっこで遊ぶってどうやるの?」
    「こうやるんだよ!」
     花火を持ちながらのとっても危ない魔王の実演。るる子が括をぎゅーっとキャッチもといゲットした模様。
    「この女はいただいていくー!」
     顔下から花火で照らして熱い思いをしていた魔王るる子の前に現れたのは、勇者柊!
    「わたしが来たからには安心です!」
     と言いつつ魔王の揃い踏みに苦戦する柊、ついにはグラウンドに膝をつく。そして訥々と意味深な台詞を語る。
    「人生は儚く一度きり。後悔しないよう、時に女の子には一歩踏み出す度胸も必要なのです……」
    「勇者の言葉、深いね……」
    「う、わかってていってマスよね……?」
     るる子がしんみり頷き、がんばりマスと小さく決意する括の視線の向こう、男子陣が花火を楽しんでいた。去年もるる部で花火したなと遊太郎がぼんやりと考える。
     霊犬のプルートが渉に非常に懐いたものの、実はオスと判明して愕然としてしまうのもご愛嬌。
    「……祭の余韻って人を大胆にさせることもあるよなぁ」
     イカルが誰ともなく呟く。もしかして先輩自身の事か……!? と渉がイカルをつついてみようとすればクールに流されたが。
     思い当たる節があるのか、遊太郎の心臓が跳ねる。
    「今年はちゃんと名前を呼んでから記念撮影すれば良いんじゃないか、とは思う」
     去年はそうではなかったらしい。読まれたかと遊太郎は動揺を隠せない。
    「振り返るのは後から出来ても……今日という日は今しかないからな」
     落ちる火花に、せめて後悔しない選択をと願う。
    「こうやっとると、夏って感じやなぁ……終わってしまうようで寂しいけど」
    「気が早いのね、白木先輩は」
     手持ち花火を手に残念そうな衛に、玉緒は火を分けてもらってから、くすり笑む。熱を分け合う。
     水着コンテストも各種企画も、この花火も。とても楽しめていると彼女は囁いた。
    「先輩は良い時間は過ごせたかしら」
    「今が一番いい時間かも知れんなぁ」
     打ち上げ花火も鮮やかに咲く。同じ景色を共有しよう。
     同じ朝顔柄、桃色と緑色のお揃い浴衣。潤子が持参した職人作の線香花火を、真琴と共にどちらが長く続けられるか競争しよう。
     長く続く、火雫。
     本当は勝ち負けはどちらでもいい。長く続けて、いろんな話をできたらいい。
     今年も一緒に花火が出来たね。
     たくさん楽しい事を見つけていきたいね。
    「また一緒にやりましょう」
    「もちろん! 来年はどんな事と出会って、どんな自分になってるかなとか。これからも色々話せていけたらいいね!」

     きみと紡ぐ想い出の花が咲く。
     熱く激しく切なさ帯びる、きらきら眩い花が咲く。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月7日
    難度:簡単
    参加:57人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 1
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