学園祭2015~プールで涼しくアツく後夜祭~

    作者:夕狩こあら

     2015年、夏――。
     7月19日と20日の2日間にわたって開催され、多数のクラブ企画や水着コンテスト等で、大いに盛り上がった学園祭。
     然しその学園祭も、とうとう終わりを迎えてしまった。
     だが、学園祭の夜はこれから――。
     最後に打ち上げをせずに、この夜は終われそうもない。
     
     今夜は特別に武蔵坂学園の屋内プールが解放されている。
     屋根の一面を硝子で覆ったそこは見上げる空も美しく、プールサイドのベンチでゆったりと身体を預けるだけで癒されるだろう。
    「水着コンテストで着た水着で泳いだり、遊んだり、互いを鑑賞し合ったりするのもオイシ……いや、楽しいと思うッスよ!」
     当日は監視員として一同の安全を見守るという日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)は、すれ違う生徒らにそう声を掛けて回っていた。
     確かに、大いに盛り上がった学園祭の「熱」を冷ますにプールは最適だ。水に足を浸すだけでも心地よいし、水面に身体を預けて見上げる空は格別。泳ぎが得意であれば、競泳に汗を流して更にアツくなってしまうかもしれない。クールダウンとなるか、ヒートアップするかは各々の自由だ。
     なお、プールサイドに限った話だが、飲食も可能だ。普段とは違う顔を見せる学園のプールでならば、特別な語らいもできるだろう。
    「じゃ、プールで待ってるッス!」
     ノビルはそう言って敬礼すると、颯爽とプールへと走っていった。


    ■リプレイ

     プールサイドに爽涼なグラスの音が響く――。
    「……お疲れ様……でした」
     リヴィア・ソリチュードはパインジュースを、水着を揃えたくまーを片手に黙々飲む。
    「二人共お疲れ様。俺は演劇に水着と大慌てしてたよ」
     七海・莉緒はオレンジジュースを手に、未だ慣れきらぬ水着姿に恥じらいつつ、
    「七海さんは演劇も出てたんですね。来年、是非出てみたいです」
     アップルジュースを揺らすミシェル・メルキュールは、皆違う味を愉しみながら同じ時を過ごす喜びを花顔に湛えて歓談に浸った。
    「……二人共、素敵な、水着、おめでとう……です」
     そんな中、静かに口開いたリヴィアが取り出したのは、二人の水着に似せた格好のくまー。手製のぬいぐるみは努力の甲斐あって、両者を吃驚と感嘆に満たす。
    「凄いな、短期間でこんなに出来が良いなんて驚いたよ。ありがとう」
    「有難うございますソリチュードさん。大事にしますね」
     まるで兄弟、或いは姉妹なくまー。
    「七海さんもソリチュードさんも可愛らしい素敵な水着ですね」
    「うっ、見られると尚更恥ずかしいな……」
     くまーを抱えての水着談議は、思い出を一層彩った。

     プールの中央で水に親しむ【ベル乳】のメンバーも水着姿が眩しい。
    「樹咲楽さん、端壁までオレと勝負しようぜ!」
    「負けた方がジュースおごりね」
     今野・樹里は白星・樹咲楽とスタート台に並ぶと、白銀・つばさの発声を合図にイルカの如く波を分けていく。
    「みんな結構、得意そうだよねー?」
     猛烈な勢いで泳ぐ二人に手を振ったつばさは、、
    「つばさちゃんも樹咲楽お姉さんも素敵だねー。樹里先輩引き締まってるねー♪」
     と、目を細める一条・星と共に、ビーチボールを抱えて追いかけた。
    「青いネクタイもカワイイね~」
     樹咲楽が星の白いセーラー風ワンピース水着を愛でれば、
    「フリルも可愛いくてよく似合ってるよ!」
     続く樹里はつばさに微笑み、笑顔が返る。気になる相手を前に、胸元をカバーできるフレアトップが功を奏したようだ。
     一同の輪を巡るビーチボールも淡い恋を応援したか、
    「星ちゃん、ハイ!」
    「はいっ!」
     星の華麗なるトスに空を踊ったそれは、パスを繋いで絆を深めただけでなく、ハプニングも招いたよう。
    「ああーっと、樹里くん、そっちいったよ?」
     ボールを追いかけ様に樹里へと近付いたつばさは胸元に飛び込み、
    「おっと! ……へへへ、つばさちゃんキャッチだね」
     咄嗟に彼女を抱きとめた樹里は腕の中に笑みを注ぐ。
    「おおぅ、つばさちゃんが樹里さんの胸元に飛び込んだぁ」
     星は大胆な彼女に赤面し、
    (「これからの恋のアタックが実を結ぶといいね!」)
     樹咲楽は頬笑にエールを乗せ、恋の行方を見守った。

     互いに選び合った水着に水鉄砲を抱えて現れたのは、山田・霞と雨宮・音。
     甘い一時も悪くないが、二人が挑むのはアイスとドヤ顔を賭けた真剣勝負。
    「正々堂々、楽しくやろう」
    「ン、楽しく……ねっ」
     握手しつつ隠し持った銃の引き金を引く、騙し合いすら以心伝心。
     撃ち合いは白熱し、
    「うっわ、投げんのずりィ!」
     繊麗なる躯を水に沈ませた音はジト眼で睨むも、差し出された笑顔とサムズアップに悪戯心を起こせば、頬笑に彼を道連れる。
    「!」
    「へっへー、隙ありってやつ!」
     そんな音に笑みが零れるのは、惚れた弱みだ。
     その後仲良く水面に浮かび学園祭の思い出を語った二人は、
    「そーいや……どっちの勝ちだっけ?」
    「……帰り、コンビニ寄ってく?」
     笑顔を繋ぎ合った。

     鯱を想わせる水着は、その嫋やかな泳ぎも相俟って美しい――。八絡・リコと共にひと泳ぎした黒瀬・夏樹は、プールサイドに脚を浸した恋人に密かに雄性を擽られていた。
    「夏樹ー、昨日今日と賑やかだったね。お疲れだったら、膝枕したげよっか?」
    「、っ」
     彼女らしい悪戯な科白も、迸る魅力の前では冗談と引けず、
    「えっ、……わ!」
     誘いに乗った彼に、リコは慌てて脚をバタつかせた。
     照れ隠しに跳ね上がった水飛沫を越えて迫る夏樹は、可愛らしい抵抗を優しく抑え、魅惑の弾力に頭を預ける。
    「リコ」
     瑞々しい太腿に乗る、心地良い重み。
    「これ位は良いよね?」
     濡れた頬や髪に細指を遊ばせるリコ。その佳顔を上目見た夏樹は、
    「……極楽です!」
     と、笑顔を綻ばせた。

    「いやー、極楽極楽」
    「ほんと極楽だねぇーっ、お疲れ様だよぉー」
     学園祭中は殆どお化け衣装に熱さを強いられた藤平・晴汰は、水の冷たさと、華奢な手で風を送ってくれる朝山・千巻の優しさに心身癒されていた。
     晴汰は海月の様に水面に漂い、千巻は浮輪に揺られつつ、黄昏を過ぎて姿を現した星々を硝子越しに見上げる。
    「あ。ちぃちゃん見て! 夏の大三角だよ!」
    「えー? どれどれ?」
     同じ物を見る時間がなかった二人が伸ばした指先に視線を集め、星語りに冗談を交えながら笑い合う至福の時。
    「来年は一緒に回ろうね!」
    「ん、いいよぉ。どっちかに恋人が出来てなけりゃねー」
    「それ言っちゃう? 自分もでしょ!」
     恋人未満の会話は、擽ったい水撥ねと共に水鏡に零れた。

     星降る天蓋に甘い会話を煌かせるは炎導・淼と花衣・葵。
     出店に水着コンテスト、デートも楽しめた二人は、過ぎ行く時を名残惜しく想いながら、ふと去年と同じ場所に佇んでいる事に気付く。
    「そういや葵には後夜祭でヤラレたの思い出したぜ」
    「確かそんな事も……って、え?」
     横顔に見蕩れていたのも寸刻、淼の悪戯な微笑が瞳に飛び込み、葵は眼を瞠る。
    「今年は俺の番だな……ほら、目瞑れよ」
    「う、うん」
     熱い視線に抗える筈もなく、そっと瞼を閉じた葵は、水濡れた唇が頬に触れる感触に熱を燈す。
    「ん? 真っ赤だぞ? 口にした方が良かったか?」
    「それでも良かったけど、それは今度、ね?」
     淼は頬染める葵の頭をポンポンと撫で、息触れる距離で次の口付けの約束をした。

     邪聖・真魔と柏木・詠美は、互いに新調した水着に目を楽しませながら、持ち寄った軽食に舌鼓を打つ。
     チーズのせ肉巻きおにぎりにトマトと豆腐のごまマヨサラダ、飲物の麦茶も夏らしい。
    「わぁ、上手ねー?」
     好き嫌いのない詠美の食べっぷりは作り手を悦ばせ、真魔も負けじと頬張れば、両者は倖福に満たされる。
     水に浸り、四肢を泳がせ、見上げれば満天に星屑。
    「中々ムーディーな……って、いつの間にカメラ……」
    「詠美の素敵水着姿も目一杯楽しませて貰いますか」
     振り返る詠美に防水仕様のデジカメが照準を合わせる、その奥には真魔のしたり顔。
     詠美は苦笑を零しながら、思い出が1つでも多く素敵なものとなるように――その願いが彼と叶えられた至福を裡に噛み締めた。

    「冷たくて気持ち良いな。昼間の暑さが嘘みたいだ」
     星空を仰ぐ夜のプールに風情を味わいながら、九条・翼は傍らに肌を濡らす照葉・栞の水着姿を眺め、
    「あー、欲しい物が全部ある気がする」
     と倖福に吐息した。それ故にか彼は素直に感想を零し、
    「水着似合ってるな。綺麗だと思う」
    「照れますけどありがとうです。とても嬉しいです」
     栞は頬を染めつつ、笑顔を返した。
    「翼もとても格好良いですよ」
     偽らず、包み隠さず囁かれる言は斯くも甘く。
     波間に漂っていた翼はふと悪戯心を起こすと、
    「栞」
    「?」
     華奢な肩を叩いて振り向かせた瞬刻、無防備な唇にキスを被せた。
    「――!」
     栞は甘い不意打ちに驚きつつも、花顔を綻ばせて静かに受け止め、耽美なる夜を分かち合った。

     アラビア風水着が華麗なリュカ・シャリエールと、黒のチューブトップビキニが眩しい菊星・秋沙は、水に脚を遊ばせ語り合う。
    「初めての出店はどうでした?」
    「予想以上に来て貰えたわよね」
     濡れ髪を項に流して微笑む秋沙は、天に煌く星の如く綺麗だと魅入るリュカは、彼女の悪戯心を知らず。
    「見てるだけ? 触れてみる?」
    「、っ」
     雄性を煽られたか、蠱惑的に鼻頭を突かれた彼は水に飛び込んで熱を冷ますと、大丈夫? と笑みを混ぜた声が降り墜つ。
    「きゃっ」
     唯彼も仕返しに水に引き込めば、お相子かと思えば――落ちた弾みに水着がずれたらしい。
     慌てて背中に抱きつく秋沙と、その柔らかさに緊張するリュカ。
    「もう……大胆ね」
    「……ごかいです」
     共に僥倖に微笑んだ。

    「フィオナさん。今夜は一緒に……ゆっくりと水の中で過ごしてみませんか?」
     学園祭最後の夜、熱帯びた心身を鎮めるべく身を潜らせるは深夜白・樹とフィオナ・ドミネーター。
     フィオナは人魚の如く水中でくるりと一回りし、自らの水着姿を樹だけに魅せる。紫の生地の胸元に白い花の浮かぶ愛らしい姿は、下になった樹の胸をどきんと弾ませ、
    (「見て貰えて嬉しい……」)
     且つ樹の羽衣を纏った様な白い水着を見れば、彼女の胸もとくん、と波打つ。言葉に飾られずとも映える美しさは得も言われぬ。
     声無き瞳は言葉以上に想いを伝え、早打つ鼓動は水の波紋を伝って聞こえてしまいそう。
    (「樹さん……一緒に過ごしたいと思ってました」)
     二人だけの想いが――水底で交わった。

    「夜も暑いからプールで涼むのもまた一興ねん♪」
    「然し、夜宵の水着は何と言うか、直視できん。私には着れない水着だ」
     冷たさに浸ろうとプールに入ったヴァルケ・ファンゴラムは、スリングショットに色香を放つ高宮・夜宵を水中に誘ったのだが、
    「ん? どうしたんだ? 流石に入らないと暑いだろう?」
     仕方なしに水面へと躯を運んだ彼女に起きたハプニングに突如頬染める。
    「あーら、ずれちゃった♪」
    「す、すすす、すまん。そう言う水着だと知らなかったんだ」
     ヴァルケは只管謝りながら、盾となって視線を遮り、
    「顔真っ赤ねん♪」
     禁断の果実を暴いた夜宵はというと、熱る彼女の頬を突く余裕ぶり。
    「か、揶揄うな。全く」
     水に涼む筈が、尚更ヴァルケを熱くさせた。

     黒岩・いちごと緋薙・桐香は、ビハインドのアリカと共にビーチチェアに躯を預け、カットフルーツの美味を堪能していた。
     互いの水着に目を愉しませた後は、いちごがお代わりを取りに離れたのだが、
    「はい、あーん……ひゃんっ?!」
     桐香の胸の谷間に果実が落ちたのが悪戯な時の始まり。
    「ちょっ、アリカさん!? そんなに動かしたら……ひゃぅっ」
    「何でアリカさんが桐香さんの胸に手を突っ込んでいるんでしょう……?」
     いちごが慌てて戻った矢先、
    「あっ」
    「って何でこけますのー?!」
     時の悪戯が更に畳み掛けた。
    「……何故私とアリカさんの胸の間にいちごさんが居ますの?」
     転んだいちごは魅惑の弾力に挟まれて難を逃れたが、桐香は動揺に頬を染めるしかなかった。

     全員が新調した水着で水に親しむは【七天】のメンバー。
     色違いにデザインを揃えた七六名・鞠音と綾町・鈴乃は悪戯な姉妹のようで、
    「どーん、です」
    「どーん、なのです!」
     肩車に鈴を振るような声も合わせて長身の御神・白焔に迫る。
    「こうして見ると本当に姉妹だな」
    「お持ち帰りしたいですね」
     色射・緋頼が愛らしい二人に微笑むも瞬刻、
    「あまり危ない事しては……あっ」
     鞠音が足を滑らせたか、白焔を前に崩れ落ちた。
     素早く反応した精悍な腕は両者を抱き留めるも、皆揃って水飛沫に沈めば、緋頼も驚いて水に潜る。
    (「間近に見ると網目が妙に色っぽいな、二人の水着。感触も……いや落ち着け」)
     白焔の胸奥に困惑が過るも仕方ない。緋頼に「大丈夫」と手を振り水面に現れた彼は、
    「怪我はない様で一安心だが、遊ぶ時は気を付けてな」
    「助かりましたなのです」
     抱き付いたまま反省する鈴乃と、ぷかぁと仰向けに浮かんでくる鞠音に吐息した。
    「……緋頼さんも、肩車します?」
    「良いですから。危ない事は駄目ですよ、鞠音」
     本気気味に誘う鞠音にふわり微笑した緋頼は、
    「……遅くなりましたが、今年も楽しかったです」
    「学園祭お疲れ様」
     差し出された手を握ると、懐に導きながら頬にキスを落とした。
     鞠音は柔らかな唇に目を細め、微笑ましい光景を映した鈴乃と白焔は、
    「びゃくえんさま、重くないですか?」
    「鈴乃が落ち着くまで構わんさ」
    (「半ば忙殺されていたが、今年も楽しめた。皆に感謝だな」)
     と、笑い合った。

     皆楽しそうだな、と監視員席で灼滅者を見守っていた日下部・ノビルは、
    「ちと顔貸せや」
    「はわっ! 錠の兄貴!」
     万事・錠が親指に示した先に集まる【武蔵坂軽音部】の面子におったまげた。
     振り向き様に鼻腔を擽った馨香は、けいおんのびすとろこと夏川・理央お手製のピザ。
    「皆の期待に応えて渾身の出来のピザ、用意してみました!」
    「おおー」
     トマトベースのピザソースに、コーンやベーコン、ピーマンにアスパラ、仕上げのチーズが芳醇を漂わせる。
    「とってもおいしそうなのです……! 理央さんすごいのです!」
    「超良い感じじゃね? この匂いすっげーそそる」
     北南・朋恵は大きな瞳を煌々と輝かせ、北条・葉月は漂う香味に蒼眼を細める。
     卓に誘われたノビルも、屈託ない笑顔に緊張を解き、
    「音楽書房2015の大成功を祝して、カンパァァイ! お前らマジサイコーだぜ!!」
    「お疲れーからのーかんぱーい」
    「もう皆最高に素敵だったー!」
     錠の音頭で一斉に持ち上がる杯とピザに頬笑した。
    「がっつり食ってけよ。カリスマバイトの作るピザとか滅多に食えねぇぞ」
     瓶コーラを手にピザを頬張る一・葉も、
    「はい皆ー、遠慮してると食いっぱぐれますよー」
     チーズの芳香に食欲をそそらせる城守・千波耶も、ステージでは戦闘とは一味違った凛然を魅せた者達。
    「日下部が見に来たのは意外でした。音楽は好きなのですか?」
     興守・理利の声に先の軍服姿を思い出したノビルは、大きく頷くと、
    「聴き専なんで、兄貴と姉御を尊敬してるッス!」
     拍手に変えた想いを初めて伝えた。
    「学祭は、緊張して、オロオロしてた、けど……皆の、あの笑顔に助けられてたって、思……」
     言の途中で腹を鳴らした青和・イチに飛び込むは美食の嵐。美味と歓談を楽しむ仲間の手が一斉に伸びるのも清々しい光景だ。
    「おぉ? おもろい事してはりますなぁ」
     美食はピザのみに非ず、羽二重・まり花が嫋々と眺めた卓では果物が次々に変身し、
    「はい、特製フルーツポンチの完成! 夜空にカラフルお星様のイメージよ」
     東郷・時生が薄青の硝子器に星空を映せば、
    「じゃーん! なんてね」
     シリェーナ・アルシュネーウィンは音符型にカットしたフルーツを飾り付けてドリンクのサービス。ドヤ顔が直ぐに恥かみに変わるのも愛らしい。
    「忙しそうな理央の分も確保して、トッキーの横で特大パフェを作るわよ!」
    「え、私の分? ありがと千波耶! 私も混ぜて貰おっかな!」
     千波耶と理央は作る愉しみに笑顔を交え、まり花は初めて作る甘味に興味津々。
    「これ、とらいふる、って言いはるんて……どなたか、味見してみまへん?」
    「ぜひしてみたいのですっ」
     細身を乗り出して立候補する朋恵の破顔が眩しい。
    「それにしても、ほんとクオリティ高いし美味しいし凄いし。疲れも一気に吹っ飛びそ」
     料理の腕が壊滅的な鮫嶋・成海は、手元で粉砕されていく果物を哀れんだか、舌鼓を打つに徹したよう。シリェーナの特製ドリンクを一口含んだ彼女は、水音を立てるプールに目を遣った。
    「この豪快さやキラキラ感も俺等らしくていいだろ?」
     紹介するのも野暮だと、ノビルの肩を叩いてプールに飛び込んだ錠は、メンバーの悪戯心に火を点ける。
    「今だ突撃―!」
    「アイ・キャン・フラーイ! ほら皆も続けー!」
     時生が錠に向かってダイブすると、続く葉月が手を翻して後発を促す。
    「うし、んじゃ今年も殺るかぁ」
     すると徐に準備体操を始めた葉は鋭い声で指揮を執り、
    「くくろ、錠が動かねぇよう押さえつけとけよ」
    「うっすー、任せといて下さーい」
     九々路・理堕は指示通りにホールド。
    「時生とアオはちゃんと避けろよー」
    「え? 避けろ?」
     巻き添えを喰らったのはイチか。心地良い水の冷たさに身を預けていた彼は、頼みの眼鏡もなく拾った声に戸惑うも――遅い。
    「うそ、葉先輩? どこ……わー!」
     見上げた夜空は瞬く星が、否、殺意に瞳を輝かせた葉が踊り、
    「あれ、これオレも飛ばさ――」
    「死にさらせゴルァ!」
     理堕が全てを悟った瞬間、寝不足のストレスや準備期間の鬱憤を溜めた飛び蹴りが炸裂した。
    「俺はお前ら全員乗せたって沈みやしねェ。それが部長の……ッゴッフォ」
    「けいおんさいこー! 来年も頑張ろう!」
     葉月の声を餞に沈み行く錠と、歓声を上げる部員達。
    「あーもう! 楽しいからいっか!」
     傍観する筈の理央も水面にダイブし、相変わらずの通常運転に苦笑した成海は、
    「プールが赤くならないように気をつけて下さい」
     一応の回復を用意するあたり慣れたもの。サーヴァント達が救護に向かうのも何処か手際良く、シリェーナは一同が笑顔を揃えたこの瞬間を、大切な思い出にとカメラに収めた。
    「このノリと勢いが今日の成功を導いたのでしょう。本当に凄い人達だ」
     パフェを金平糖や果物で飾り付けていた理利は、激しく波打つプールに小さく噴き出すと、今宵の思い出を惜しむように目を細める。
     紫瞳に映る仲間達が、心に焼き付くように――彼の瞳の色に似た夜空が、後夜祭に沸く若者達を祝福するように星を輝かせていた。

     2015年、学園祭の思い出は、永遠に色褪せず――水面にたゆたう。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:簡単
    参加:44人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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