まりりんちゃんのファースト☆野外ライブ!

    作者:カンナミユ

     スポットライトの光を浴び、彼女は幸せでいっぱいだった。
     今までどんなにライブをしても誰も来てくれなかった。
     でも今は違う。私の歌を、踊りを見てくれる沢山のファンがいる。
    「まりりんちゃーん!」
    「今日もサイコーだったよー!!」
     小さなライブ会場とは違う、初めての野外ライブに彼女――まりりんだけではなく、ファンもとっても嬉しそう。
    「みんな! 今日は来てくれてありがとー!」
     マイクを手に目をうるませるまりりんの声にわあっと上がる歓声。
    「まりりんちゃーん! いつものアレやってー!」
    「まりりんちゃんの十八番がみたーい!」
     アンコールのコールと共に聞える声を聞き、まりりんは頷くが――、
    「まーりりーんちゃーん!!!」
     どどど、と響く地鳴りに大きな声。
    「ギャー!」
    「た、助けてくれー!」
     サイリウムを手に地鳴りを響かせる男はまりりんの為にやってきたファンを文字通り蹴散らしてしまうのだった。
      
    「皆知ってる? 最近、ラブリンスター配下の淫魔が頻繁にライブを行っているらしいの」
     灼滅者達を前に遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)はそう話を切り出した。
     今まではバベルの鎖がある為、ライブを開いても客が集まる事は無かったのだが、ラブリンスターの仲間になった七不思議使い達に噂としてライブ情報を流してもらう等の地道な努力の結果、一般人を集めるのに成功したらしい。
    「そんなにファンができたのか」
    「すごいな」
    「ううん、さすがにそれほど沢山は集まらないみたいだけどね」
     言葉を交わす灼滅者に鳴歌は応え、
    「目的は不明なんだけど、ライブ会場にダークネスがやって来て一般人が殺されてしまう事がわかったの」
     この事件を無事に解決して欲しいと鳴歌は告げ、持参したダイスと資料を机に置いた。
     ライブ会場に乱入してくるダークネスは佐賀・達也。がっしりとした体格だがまだ若い、20代半ばの青年羅刹だが――、
    「達也はMIXにコール、PPPHやOAD、ロマンス打ちからのササゲまでこなせるファンみたい」
     ダイスを振りながら言う鳴歌が何を言っているのか全く分からないのだが、要はこのダークネスがかなりのアイドルファンだという事。
     このアイドルファンはどこかで噂を聞いたのだろう。アイドル淫魔の事を知り、熱烈なファンになったようだ。
    「まあ、ただのファンだったらまだいいんだけど、達也はダークネス。アイドル淫魔・まりりんめがけて一般人を蹴散らし殺して突き進んでいくみたいなの」
     場所は郊外にある広い公園の一角にある野外ステージ。時間は夜ということもあり、ライブ目的以外の一般人はいないと鳴歌は話す。
     鮮やかな色のハッピにハチマキ、サイリウムを手にした達也は公園の入口から広場を通り、20人ほどのファンが集まるライブ会場へとやってくる。
    「達也はサイリウムを手にアイドルファンっぽく攻撃をしてくるみたい。接触できるタイミングは公園に入ってからで、戦闘能力はダークネスとしてはあまり強くないようだけど、あくまでも『ダークネスとして』だから甘く見ちゃ駄目だからね」
     ダイスの出目からの結果を伝える鳴歌だが、
    「そういえば、まりりんってどんな感じのアイドルなの?」
    「ええと、歌って踊って手品もできる19歳くらいの女の子だよ。パステルピンクのポニーテールに笑顔が可愛くて――」
     説明を聞く灼滅者の疑問に答えていると、ふと思い出したようにダイスをいくつか転がすとその出目をじっと見つめ、
    「……今回の事件を未然に防ぐ方法があるみたい」
     言いながらいくつか再びダイスを転がした。
    「ええと、今回の事件はライブを邪魔して解散させるって方法で防ぐ事ができるみたいなの。その場合だと怒ったまりりんと戦闘になっちゃうけど、これなら一般人を安全に避難させることができるよ」
     淫魔であるまりりんの戦闘能力は達也同様に高くないが、長引いてしまえば戦闘中にライブ会場にやってくるダークネスが戦いに乱入してくる可能性もあるという。
    「まりりんも達也と同じダークネスだし、一般人を守る為に彼女を灼滅するっていうのも手段の一つになると思うけど……」
     机に並ぶダイスを片付けながら、鳴歌はにこりと微笑んだ。
    「まりりんを倒すのもいいし、達也を倒してライブを楽しんだりライブ後に楽屋に行ってみるのもいいかもね。皆頑張ってね!」


    参加者
    東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)
    フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    日影・莉那(ハンター・d16285)
    多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)
    朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070)
    麻崎・沙耶々(舞踏会の魔女シンデレラ・d25180)

    ■リプレイ


    「みんなーっ! 初めての野外ライブ、楽しんでくれてるーっ?」
     おおおおおーっ!!
     スピーカーからの可愛らしい声と響く観客の声を日影・莉那(ハンター・d16285)は物陰に隠れ、霊犬・ライラプス共に耳にしていた。
     灼滅者達が訪れているこの場所では現在、淫魔・ラブリンスター配下のアイドル淫魔・まりりんの初めての野外ライブが行われている。
     そんなライブもいよいよ終盤。エクスブレインの予知によればこの会場に乱入してくるダーネスがいるというのだ。
     楽しそうな声を耳に莉那が視線を向ければ、
    (「……作戦だ。 断じて俺のキャラじゃねぇ。うん」)
     朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070)は鉢巻と襷をかけた自らにそう言い聞かせていた。
     相手はどこで知ったのか、まりりんのファンになったという羅刹。
     羅刹がアイドルのファンなら灼滅者は親衛隊でいこうという事で、皆で親衛隊ルックになったのだが……。
    「目的がはっきりしねえ奴ってのは気味悪いな……」
     多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)はまりりんの歌を聞きながら呟き、視線を落とせば足元でちょこんと座る霊犬・さんぽがとぼけた顔で見つめ返してくる。
     一般人の観客をなぎ倒し、まりりんの元へと向かうという羅刹だが、淫魔のアイドルではなく一般人のアイドルでも同じように人々をなぎ倒すのだろうか。
    「……佐賀は通さない」
    「そうね、必ず仕留めましょ」
     フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)とオタ芸に詳しい知り合いがいるという東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)が言葉を交わせば、
    「早く倒してライブを楽しみたいな!」
     麻崎・沙耶々(舞踏会の魔女シンデレラ・d25180)の言葉に仲間達は頷いた。
     それぞれの思いは多々あれど、今日は歌って踊って手品もできるアイドル淫魔・まりりんが地下を飛び出した、初めての野外ライブなのだ。
     一般人に被害を出さずにマナーの悪いダークネスを灼滅だ!
     動画を見たりと一夜漬けでオタ芸を習得した木元・明莉(楽天日和・d14267)はサイリウムを手に脳内で色々と反復しつつダークネスの登場を今か今と待ち侘びていたが――、
    「……来たみたいだな」
     スレイヤーカードを手に言う白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)の言葉に耳を澄ませば、どどど、という低い地鳴りが響き出していた。
     

    「まーりりーんちゃーん!!!」
     暗い中を駆けるその中でぼんやりと光るサイリウムが良く見えた。
     公園の外灯に照らされるのは鮮やかな蛍光色の法被に鉢巻、そしてサイリウムを手にするダークネス――佐賀・達也。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
     解除コードと共にまりりん親衛隊から伝説の戦士へと変身したジュンはポーズを決め、
    「希望の戦士ピュア・ホワイト、みんなの夢を守ります!」
     ビシッと達也の前に立ち塞がる。
    「ちょ! ちょっとそこのキミ、ジャマなんですけどー?」
     眉をひそめる達也の前に親衛隊ルックの仲間達も立ち塞がった。
    「……わたし達はまりりん親衛隊」
    「える! おー! ぶい! いー! まりりんちゃーんっ!!」
     ライドキャリバー・バイク王を隣にフィリアが言えば、ツインテールを揺らして沙耶々はジャンプ。
    「お前をまりりん……ちゃんの元へは向かわせない!」
     ファンアピールばっちりな様子を目にさんぽを伴い千幻も声を上げる。
    「……あれ、お前も親衛隊?」
    「あぁ!? 親衛隊だよ親衛隊! こんなナリだが親衛隊だよ!」
     そんな灼滅者達を目にする達也だが、ふと視線は草次郎へ。複数の腕があり、法被の袖に腕を通せない草次郎が言えば、
    「うそ、マジでー? わー感激だわー同志にファンがいるなんて俺、超感激ー!」
     何か感激された。
     どうやら現在の姿から草次郎がただの人間ではないと察したようだ。
    「あーでも半被って重要っすからねー! せっかくだし……あ、ちょっと待って」
     そんな達也はいきなり背負っていた大きなリュックサックを置き、何やらがさごそと探すと、
    「コレ布教用なんすよー! 良かったらコレ着てくださいよー!」
     差し出したのは袖のない半被。
     どうしようか迷ったが、親衛隊と名乗っている以上は袖を通すしかない。
    「わー! 超似合うじゃないっすかー!」
    「…………」
     蛍光ピンクが眩しい法被の背には気合の入った『LOVE☆まりりん』の刺繍。
     俺のキャラじゃねえ。
     再び自分に言い聞かせる中、スピーカーからのメロディが響き渡る。
    「むむっ! これはまりりんの『キミにせつなさ☆みだれうち』! しかもデビューライブバージョンじゃないっすかー!!」
     さすがファンというべきか、達也は詳しかった。
     会場へ向かおうとするダークネスの前に仲間達が立ち塞がっている。莉那はライラプスと共に見守り、じっと飛び出すタイミングを見計らう。
    「我等、親衛隊を倒さなければ彼女のライブは見させないぞ」
    「そうだ! まりりんに会いたけりゃ俺達親衛隊を倒してからだ!」
     腹の底から声を出し親衛隊になりきる由宇、そして明莉が構える銀色の大刀の刀身にデコレーションされた『まりりんLOVE☆』の文字を目に達也は少し残念そうな瞳になるが、それも一瞬。
    「まりりんちゃんを愛する同志であっても、通してくれないのなら力ずくで通してもらうからな!」
     サイリウムを両手にぎりっと握り、羅刹はすうっと息を吸う。
    「お~~~し、よっしゃいくぞー!!」
     

    「タイガー! ファイアー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!!」
     聞えるメロディーに合わせた、突然の怒号。
     声を枯らさんばかりのそれに灼滅者達は何事かと呆然なるが、この伴奏中に行われるコレはMIXというものらしい。
    「なんだかこいつ殴りたくないぞ……」
     とはいっても殴って灼滅しなければいけない。サウンドシャッターを展開させる千幻を目に霊犬を伴い莉那は飛び出し、縛霊撃を放てばライラプスも飛び掛る。
    「ボクらのアイドル、まりりん! まりりん!!」
     が、合いの手――コールをしながら素早く避けると明莉が放つ攻撃を防ぐのは浮かび上がる光。
     ぼんやりと光るサイリウムの流れを目にフィリアはバイク王へと視線を向け、共に地を駆ける。
    「……ライブをBGMに戦うのも悪くない」
     槍を振るい、ライドキャリバーも動けば、
    「伸びろ鉢巻!」
    「マジピュア・ハートブレイク!」
     由宇のレイザースラストとジュンのフォースブレイクが放たれる。
     真正面から受けた攻撃に顔をしかめるが、大きなダメージには至らなかったようだ。
    「夢の中でもラブラブ☆I Need You!!」
     気合十分なコールと共に沙耶々と草次郎の攻撃を立て続けにリズミカルに捌いていく。
     恐るべし、アイドルオタクのダークネス。
     聞える曲に耳を傾けながらも、
    「ボクのハートもロック☆オーン!!」
     ぐあっと腕を灼滅者達へと振るい上げた。
     こうしてマナーの悪いアイドルオタク(ダークネス)と親衛隊(灼滅者)との戦いがはじまった訳なのだが、敵の攻撃がとにかくウザかった。
    「オイ! オイ! オイ、オイ、オイ、オイ!!」
     リズミカルなコールを発しながら、立て続けに攻撃を捌き、
    「キミにせつなさ☆み・だ・れ・う・ちーYEAHー!!」
     まりりんの歌声に合わせたて攻撃を繰り出し、更には、
     パン、パ、パン!
    「Fu!」
     パン、パ、パン!
    「Fu!」
     リズミカルな拍手と掛け声――PPPFに合わせたダブル攻撃!
    「っ、ふざけたナリの割にはそれなりにやるのがまた腹が立つな」
     真正面からの攻撃を受け、莉那は眉をしかめて口にする。
     法被に鉢巻、サイリウム装備のこの男。あまり強くはないとの事だが、とはいえ相手はダークネス。パフォーマンスと言う名の攻撃が手強いのがまた辛い。
     サイリウムを手に腕を左右に激しく動かすパフォーマンス――ロマンスをしながら仲間達の攻撃を華麗に捌く達也の前に明莉も負けじと上半身を使った激しいロマンスを披露する。
    「俺だって負けないからな!」
    「むむ! なかなかじゃるじゃないか」
     ロマンスからの閃光百裂拳を受けつつニヤリとする達也。その動きは更にパワーアップしていく。
     その様子を目にふと莉那はある事に気が付いた。まりりんの曲を奏でながらの千幻とさんぽの癒しに回復する中でオタ芸を一夜漬けした明莉もそれを察する事ができた。
     ――コイツ、曲に合わせて動いている!!
     それは全てではないものの、大まかな行動は曲に合わせているので動きは読めたも同然だ。
    「その攻撃はもう見切ったぞ」
    「なにいっ?!」
     ぶん、と呻る腕をかわすとぎりっと拳を握り、莉那の鋼鉄拳が炸裂!
     曲のタイミングと外れたそれは思い切り直撃し、ぐらりと体はよろめいた。
    「こ、これくらい……」
    「くらえ、俺の華麗なるササゲ攻撃!!」
     激しいロマンスから両腕を下から持ち上げ、まるで何かを捧げるかの如く振り上げる激震。
     不意に受ける攻撃にフィリアとバイク王の攻撃。そこから畳み掛けるように由宇も動く。
     達也はダークネスとはいえどあまり強くはなく、回復も乏しい。8人の親衛隊との攻防に徐々に体力が削られ、回復を図るも受けるダメージの方が上回った。
    「マジピュア式フランケン・シュタイナー!」
     ジュンのダイナミックな攻撃によろめき、沙耶々と草次郎の攻撃に血を流す。
     体力は確実に削られ今にも消えてしまいそうだが、それでもまりりんへの愛は削られることはなかった。
    「ま……まりりん……!」
     残る力を振り絞っての行動。会場へと駆けるダークネスを防ごうと仲間達が動くが間に合わない。
    「……通さない」
     小さな言葉と共に動くのはフィリアのライドキャリバー。土煙を上げ、ライブを守るべく立ち塞がると流れるのは千幻が奏でる耳コピしたまりりんのライブ曲。
    「ファン活動ってのはアイドルに自分を見てもらうことじゃねえ! アイドルを輝かせる……空気を作ることを言うんだ!」
    「他のファンに迷惑をかけるなんて、あなたファン失格だよっ!」
     さんぽを隣に声を上げると、びしっと沙耶々も言い放つ。
     ――だが。
    「……まぁ、いくら講釈垂れようが、ダークネスのテメェには理解できねぇだろうよ」
     そう、草次郎が言うようにコアなファンほど自分の行動が迷惑行為だと理解はできないのだ。
    「俺は……俺は……!!」
    「人様の迷惑考えろ!」
     ごっ。
     得物を手に由宇が下から叩き上げる様に斬り上げ、そのまま横回転しつつ横っ腹に叩き込む!
    「そろそろ迷惑なファンにはご退場願おうか」
     ぽつりと莉那が口にし、灼滅者達は行動を再開されるが激しい攻撃にダークネスは耐え切れない。
    「さあ! 汚い花火でライブに華を添えよーう!!」
    「迷惑ファン強制退場キーック!」
     由宇とジュンの攻撃が炸裂!
    「く……くそ、う……」
     攻撃を受け、もはや限界と悟った達也はよろめき、だがそれでもしっかりと立ち、瞳はライブ会場へ。
     そして、
    「まりりんちゃあーん!!!」
     どーん! どん、どん、どーん!!
     見上げれば丁度良いタイミングで花火が上がる。
    「みんなーっ! ありがとーっ!!」
     ダークネスの灼滅と同時に響くのは、歌い終えたアイドルの声とファン達の歓声だった。
     

    「みんなー! アンコールも楽しんでくれてるかなー!」
     おおおおおおおおおー!!!
    「まりりんちゃーん!!」
     戦いを終え、サイリウムの光の中で沙耶々が手を振れば、ステージの上で踊るまりりんが満面の笑顔で応えてくれる。
     伴奏にあわせてくるりと回り、決めポーズ。沙耶々やジュンの周囲にいるファン達も同じように踊り、ポーズ。
    「うおおおっ! まりりんちゃんうおおおおおっ!」
     オタ芸を教わり損ねていたが、それとなく合わせれば由宇も立派な親衛隊!
     集まった観客は熱心なファンなのだろう。ライブを盛り上げるべく全員が一斉に踊り、息の合ったコールやMIX、そしてサイリウムの動きは感動すらしてしまいそうだ。
     典型的なアイドルソングではあるが、独創的な楽曲やパフォーマンスを目に千幻は様々な思いが胸によぎる。そんな様子をさんぽは見上げ、ちょこんと横に座って歌声に耳を傾けていると、続くのは手品ショー。
     トランプが舞い、シルクハットからは花や鳩が飛び出す様子を莉那が眺めれば、ふと風に吹かれた花がぽふりとライラプスの頭の上へ。
     そして手品は『まりりんのスーパー☆イリュージョン』へと突入!
    「じゃあ……そこのアナタ!」
     長剣を手にしたまりりんに指名された明莉は手招きされるままに、ステージ上に置かれた箱の中へ。
    「だ、大丈夫? コレ」
     ちょっと狭い箱の中を触ってみると、文字通り『タネも仕掛けもない』箱。
     手品というものはタネも仕掛けもないとはいわれているが、一応、仕掛けがどこかにあるはずなのだが……。
     照明の光を受けてぎらりと光る長剣どう見ても模造刃ではない。その証拠に大根がまりりんの手によってかつら剥きにされているではないか。
    「大丈夫、5回に3回はちゃんと成功するから♪」
     地味に失敗する確率が高いぞ、それ。
     囁かれる声につと一筋の汗が流れる中、くり抜かれた部分から顔を覗かせれば、
    「……グッドラック」
     視線が合ったフィリアがグッとサムズアップ。
     仲間達やファンの視線を受けた少年は箱の中で串刺しとなってしまうのか?!
    「いっくよー! すりー! つー! わーん!」
     まりりんはみんなでカウントダウン。そして――、
    「ぜろーっ☆」
     どすっ。
     
    「今日はどうもありがとう」
     ライブも終わり、楽屋に戻ったまりりんは挨拶に来てくれた灼滅者達を前に笑顔で礼を言う。
     顔は高潮し、汗もかきっぱなしだが、来てくれた武蔵坂の学生達を目にまりりんはそれとなくライブを守ってくれていた事に気付いていたのかもしれない。
    「そういやラブリンスター、今年は学園祭に来てなかったね。やっぱりそっちも忙しいんだ?」
    「まあ……色々ありますからね」
     人間形態へと戻った草次郎にまりりんは応え、こくりと水を一口。
    「もし良ければサインもらえないかしら」
    「いいですよ!」
     由宇からのお願いに、にこりと応えて鉢巻だけではなく法被にもサインをするとCDや限定グッズの数々を皆にプレゼント。
    「これからも頑張ってくれよ」
    「応援するからねっ」
    「ありがとう! またライブに来てくださいね!」
     沙耶々とジュンの応援ににっこり笑顔。

     こうして一般人に被害を出す事なく迷惑なダークネスは灼滅し、ライブはトラブルなく終了した。
     歌って踊って手品もできるアイドル淫魔・まりりんの笑顔に見送られ、灼滅者達は熱気覚めやらぬライブ会場を後にするのだった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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