July。
カレンダーについた赤い丸印。19日、20日の部分に大きく書かれる学園祭の文字。
クラブ企画に水着コンテスト。盛り上がりを見せた学園祭も、終わりを迎える時間――。
賑わいの跡を残す教室の窓から見たグランウンドの花火。
学園祭の夜は、静謐溢れる不思議な雰囲気を漂わせるから。
最後に打ち上げを行おう。今年の学園祭に二度目は無いのだから。
伽藍堂の教室は、静けさが漂っていて。『あなた』は友人を探して学園の中を行く。
「どした?」
背後から掛けられた声に振り向けば、海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が折り曲った学園祭の案内を片手にへらりと笑っている。
グラウンドから聞こえる楽しげな声。グルメストリートは打ち上げためか料理が用意されており、芳しい香りがここまで届きそうだ。
「ちょっとだけ寄ってかね? 打ち上げ」
プールサイドで水着を纏い楽しげな学生達がはしゃいでいる。『あなた』は汐の言葉に耳を傾けて、彼の言葉を待った。
「ここ、使われてない空き教室だったんだって。でも、一寸は飾り付けられてるだろ。
こういう所とか、クラブ企画で使った場所でさ、今日だけは無礼講。食べ物とかジュースとか持ち込んで楽しく思い出も語らおうってな話し」
廊下の窓から見える花火。グラウンドで誰かが打ちあげたそれを指差して汐は『あなた』へと笑いかけた。
「夢の様な一時でした」
――だから、もう少しだけその夢に浸るのも悪かねぇだろ?
●
喧騒と静寂を分ける窓硝子へ視線を傾けて、アルコは本を抱え上げる。
微かな埃の香りに鼻先をすん、と鳴らした彼へと「ケーキ食べましょうか」と紫鳥は柔らかく微笑んだ。
ブックカフェ「水槽圖書館」の備品であるティーセットを持ち上げた彼の耳に届いた破裂音は窓一面を彩った。
「花火もいいなー、って言ってましたけれど全部終わった後に食べるケーキも美味しいでしょう?」
花火も良いけれど――二人きりもいい。紫鳥へと返した彼の言葉に柔らかく微笑んで、「あーん」とケーキを口元へと運んだ。
装飾を全て取り肩が凝ったと仕草を見せる祐一は椅子に腰かけた影薙に「影薙はさ、今日楽しかった?」と何気なく問い掛ける。
「……不思議な事を言うわね。貴方は楽しくないの?」
互いに「楽しかった」には一つも二つも含む。こうして影薙といるのだって楽しいのだと祐一は付け加えた。
「入賞おめでとう。それだけは凄いと思うわ。それだけは」
「うはは、もっと褒めてもいーんだぜ、ほらカッコよさとか」
今度は手料理をくれよと笑う祐一に影薙は気が向いたらねと何食わぬ顔で返して見せた。
このはの声音にちゆはゆっくりと顔を上げる。夏のはじまりが、終わりの様に感じてしまうのは静寂に花火の音だけが響くからか。
見ていて、と彼女の手に乗せた桔梗がゆっくりと花開く。姿を顕す指輪は彼の『三年間』を感じさせた。
「指輪……あの、」
「ちゃんとしたものはまた改めて。……受け取ってくれるかな?」
両親から受け継いだロマンチスト。このはの胸にぽすん、と頭を預けちゆは服その裾を握りしめた。
泣いていいですか――その涙の理由は、また、今度。
後夜祭位は一緒にと寄り添い花火を眺めるタシェラフェルと千尋は思い出を語り合う。
花園迷宮で出会えなかった事が惜しいと肩を竦める千尋にとって、気になるのは彼女の出すお題。
「下着を当てて貰うクイズだったの」
「それは是非挑戦してみたかったな」
正解は、と問い掛けるその声にすり、と肩へと頬を寄せるタシェラフェルの瞳が柔らかな色を帯びる。
二人きり、合わせた唇は――。
硝子越しの喧騒に囚われることなく静寂さに身をうずめ静香は椅子に腰かけた暦の背を見詰める。
「後夜祭、今日が終わる夜……明日はどうなるのでしょうね」
何となしに呟いた言葉に「楽しければそれでいいさー」とへらりと笑った暦は彼女の声に耳を傾ける。
『私を誘って下さい』とそんな我儘を謝罪する言葉が降ってくる。
目を伏せたまま暦は彼女の言葉の続きを待った。
「もっと、笑っていて」
ちりん、と鳴った音に誘われる様にひょこりと顔を出した真鶴へ「こんばんは」と玉緒は柔らかく微笑みかけた。
「貴女は学園祭を楽しめたかしら?」
「忍長さんの猫さん達とも楽しく遊んだの」
柔らかく微笑む真鶴に玉緒は「良かったわね」と笑みを浮かべる。猫達とあそんだ事が嬉しいならば、自分も嬉しいと玉緒は緩やかに微笑んで。
猫缶を嬉しそうに食べる猫達から顔を上げて玉緒は「お礼がしたかったの。夢の続きを楽しみましょうね」とひらりと手を振った。
七不思議のミルキーもいますよーと微笑む絢莉彩に灼滅者でないからサイキックを見れないのと拗ねる真鶴はクッキーを摘む。
「真鶴さんの好きなものはなんですかー? 食べ物とか、動物とかー」
「タルトや紅茶が好きかも。……動物は、うさぎかしら」
絢莉彩の思惑は誕生日のプレゼントに対するリサーチ。絢莉彩さんの好きなものはと問われた彼は悩ましげに「んー」と首を傾げた。
●
【くらげこや】の面々はラムネとくらげの玩具を机の上に並べ、乾杯の時を待っている。
「えと、学園祭お疲れ様でした……!」
海月の言葉にグラスを打ち鳴らし、朔眞はこうして後夜祭を行える事が嬉しいとはにかんだ。
ラムネ越しに透かして見た景色にはくらげの玩具にたこ焼き。何処か幻想的な夏を思わせて。
海月の用意したラムネの種類に迷うと海が指先をうろうろ、朔眞と乙彦が何を選ぶのかと彼女は首を傾げる。
さくらんぼ、ブドウ、リンゴ――海月は微笑みながら「ソーダ、オレンジ、レモン、桃がありますよ」と抱え上げた。
そんな彼女の背後で花開いた大輪に「わっ」と朔眞が瞳を煌めかせた。
「はいチーズ、です!」
わたわたと四人寄り添ってフレームの中で収まれば、背後の青い花火が柔らかに照らしていた
ぱぁん!
クラッカーの音に「わーいっ!」と両手を上げたららの緑色の瞳は煌めいて。
「学園祭お疲れさまでした!」
紙コップでこくりとジュースを飲みほしたこのとが膝の上にノノさんを乗せたまま柔らかに笑みを浮かべる。
乾杯の音頭にはしゃぐ後輩達を眺め「青春は良い物だ」と鉄は年長者として噛み締める。
花火の音をバックに静かな時間ではなく楽しい時間を、そう望んだ部長の匡は「成功だったね」と満面の笑みを浮かべる。
「二日目のお化け屋敷風セットは好評だったね。みんな怖がってくれる姿を見るのはどきどきそわそわにゃー」
匡の言葉に怖かったと肩を跳ねさせたメルは猫型シュークリームを机の上にセッティング。
果たして肝試しは何の呪いだったのだろうと思案する彼の元へとパレットが擦り寄って行く。
「そういえば、ガチャガチャの景品は誰に行き渡ったんでしょう……!」
硝子ペンを差し出すららにまぁ、とフィオナが嬉しそうにはにかんだ。
ミニキャンディポットへと視線をくべて明は「次の学園さいも待ち遠しいです」とはにかむ。
夏の星座を見つけたり、廃墟で肝試しをしたり、まさに『夏』の思い出は彼女にとって最高の思い出になったのだろう。
一方で、背筋も凍る匣庭双六に取りつかれていた林檎は「とても満足で満腹な学園祭になりましわね」と頷く。
「また来年もこうして楽しめたらわたくし大喜びですのよ」
思い出、と言えばとこのとが首から下げていたカメラを持ち上げる。
笑みを浮かべた鉄は「ほら、お前ら今日一番の笑顔で映れよ」と手招いた。
教室の一角、飾り付けられたままの場所。寄り添った八人の思い出話と共に、笑顔の花が咲き誇る。
「すっかり……静か」
休憩処で余った軽食を手に小夜と秋邏は静まり返った空き教室へと訪れた。
お互いにとって初めての学園祭。楽しかったと頷く彼へと小夜はこくん、と頷く。
「おみくじはイイ結果が多かったし、本当にご利益まで出て嬉しい報告が聞けたのはよかったよな」
恋人が出来た、そんな言葉が何よりもうれしくて。
これからも一緒に。過ごそうと約束する様に二人して笑いあった。
お化け屋敷に使われたという教室で椅子を引いて。りち子はかき氷を頬張った。
【百不思議】の面々にはぴったりの舞台なのだろう。そこそこ来客もあったなぁと振り返る巡は林檎飴や焼きそばを自作して机の上へと並べた。
「うん……オレは企画のネタ出しもやったけど友達と一緒にお客さんとしても楽しんだよ……」
百舌鳥の言葉にりち子は「怖かったよね~! でも、楽しかったし面白かった!」と満足そうに笑みを浮かべた。
百舌鳥は罰ゲームの残り物らしい危険な香りのする大福を手に「余り物貰って来たよ……」とそっと差し出した。
辛い、と口元を押さえて悶絶する尊に当たった『罰ゲーム』。劇で女優っぷりを発揮した彼女と掛け離れた様子に牡丹はくすくつと笑みを浮かべる。
「学園祭……大変でしたが、こんな楽しい物だと思いませんでしたねぇ」
演劇に性を出した宵は悶絶する尊も時間帯は違えど出ていたんですよねと小さく頷く。
「この大福食べても大丈夫でしょうかぁ」
不安げな宵に尊がふるりと首を振る。学園祭の思い出噺にはハプニングだって付き物だ。
ジェーンは「カニと闘ってるのを見たし、なんか色々やってたなー」と武蔵坂1のお祭り騒ぎの思い出を振り返る。
「でも、来年は、皆さんと一緒に回ってみたいな、なんて」
ちら、と視線を向ける歌護女。きっと、その気持ちは倶楽部の面々も同じだろう。
●
談笑の漏れる教室の前で一人、周囲を見回す桜はぱぁ、と笑みを咲かせて手招いた。
企画を折角一緒に遊んだのだから、誘うその声に頷いた真鶴を手招く仁奈は「マナちゃんと一緒わーい!」と楽しげに笑みを浮かべる。
プリンと生クリーム、スコーンにカップケーキ、ナタデココ入りのフルーツゼリー、スナック菓子と机の上は大盛況。
テーブルクロスを敷きつめて、紙皿を配るミユは「お菓子どれもおいしそう……!」とはにかんだ。
あまり学園祭に参加できなかったナタリアや花緒は後夜祭で精一杯楽しみたいと願う様で。
「それじゃ、オレ達の出会いと今日というステキな日に、乾杯」
かちん、となったコップ。茨の音頭に一斉に盛り上がりを見せる【銀庭】の面々は互いに談笑に花を咲かす。
「フリースペースの様子が気が気じゃ有りませんでしたが……」
ちら、と陽太が視線を零せば茨が意味深に唇へ笑みを浮かべた。
「ミユさん、烏龍茶のお代わりはいりませんか? 真鶴さんは今日、来て下さってありがとうございました」
柔らかに微笑むナタリアに照れ臭そうに真鶴は「お呼びいただけて嬉しいの」と微笑んで見せる。
「ばくちはマナちゃんの負けを恐れない勢いは驚いたよ」
仁奈がくすくすと笑みを浮かべれば、真鶴が胸を張る。彼女達の会話に桜は「なかなか五連勝はできなかったです……」とダイスを使用した博打の難易度をぐぬぬと思い返す。
「それじゃ、今日は皆でトランプでもやっておく?」
「延長戦を前に賭けですか? 望むところです、負けませんよ……!」
笑みを浮かべる茨へと「下心満載の顔です」とジト目で呟いたまほろ。
「意欲を燃やしているようです」と頷くナタリアも参戦を決める。ゲーマーとしての静かな闘志を見せつける花緒はゆっくりと椅子を引いて戦場へと赴いた。
「負けなければ、問題無いのです!」
ミユの決意と共に開戦されたトランプ大会、果たして勝者は――?
学園祭は賑やかで。窓から降り注ぐ月光を受けてこのははほう、と息を付く。
ゆっくりと椅子に腰をおろしたエリカは【サーカス小屋】の面々を見回した。膝の上に愛らしい人形を乗せた雛は「お集まりいただいて光栄よ、メルシー」と部員達を見回す。
「今回はのんびり静かに、にゃ~」
もきゅ、と鳴いたエステルは雛の準備したアイスティーとケーキを見詰め嬉しそうに瞳を輝かせる。
尻尾をゆらした花恋は「これ、ロジーのとこからくすねてきたにゃ」とお茶目に笑みを零した。
「美味しそう……それにしても、皆の水着、それぞれみんならしくてとても素敵だった……!」
思い出したように雨は視線をゆるりと向ける。その視線に気づいてか、ミニスコーンを口に含んでいた雛が柔らかに笑みを浮かべる。
「サーカス小屋の皆様はお洒落さん揃いですのね! フフ、旦那様の感想が気になる所だわね?」
「皆さんお洒落でしたし、雛さんも綺麗でかなり大人っぽい色気がでてましたよ」
雛の意図に気付いてか、くす、と笑みを浮かべた緋頼はほにゃ、としたエステルの方へと足を進めた。
お布団つ無理は眠たげに「ひよりん~」とぎゅ、と抱きしめながら舟を漕ぐ。
「あ、そ、そのだな……女の子らしい愛らしさと、レースのワンピースの合わせ技もいいし……」
もごもごと雨の感想を告げる薫へと、さ、と頬が赤くなる。唇を震わせて「他の野郎に見られるのは」とそこまでつげて、言葉を飲み込んだ。
恋の花咲くサーカス小屋のお茶会は優雅なまま進行される。
●
るる部の部室の机の上には沢山の料理が載せられている。「赤ずきんの狼さんみたいに太るよ……」と肩を竦めた遊太郎に括は頬を膨らませた。
学祭では共に在る時間が少なかったけれど、こうして部室で二人だけ。それだけが妙にくすぐったくて。
「わいわいするのもいいけど、こういう静かな時間もいいなぁ……」
一緒にいるのが『みーちゃんだからかな』と笑う括は頸をぶんぶんと振り静かに目を閉じる。
額に落ちた唇の温もりに、きゅと握った服の裾。今だけは許してと湧き出す恋情に甘く溺れた。
「きなこ、寝ちゃったね。いっぱい遊んで疲れたのかな」
ぐっすりと眠ったまん丸のきなこを眺め、体育館の床に広げたドリンク。
放りだしたままの水着コンテストの賞状に「びっくりした」と笑う壱は普段の落ちついた彼とは違うとからかうように笑う。
「お祝いしないとね、何がイイ?」
頑張ってする方も結果も嬉しいから。入賞おめでとうと笑ったその声にみをきは首を傾げてぐ、と腕に力を込めた。
眠るきなこに影が掛かる。軽く触れた指先に――耳元に囁いた小さな言葉。
「明日も、傍に居させて下さい」
「楽しいひと時はあっという間、というのは本当なのですね」
缶ジュースで乾杯一つ。さくらは凍路へと笑いかける。
「水着、よく似合ってたよ。可愛かった」
思わず頬を赤く染めた凍路にさくらも頬をかぁ、と染める。コンテストに出たいからではなくて、本当は貴方に見て欲しかったという言葉を飲みこんでさくらは首をふるりと振る。
「もし良かったら、夏休みの間に二人で何処か出かけない?」
「はい! 折角の長いお休みですもの。あちこち遊びにいきましょう」
海でも街中でもきっと楽しい。だから、二人でこの夏を満喫しよう。
机を寄せ、アロマキャンドルの焔が揺れるのを二人で眺める。紡と藍は静かな時間を楽しむ様に思い出をその唇に乗せた。
「二日間、これ以上ねェってくらい遊び倒せた」
くす、と笑った紡に藍は小さく頷いた。益体もない会話の一つ一つはレジンのビー玉の煌めきの中に閉じ込める様に。
「ひとつが終わりゃァまた次が始まる。また来年の今頃も」
同じ様にと願うのは二人同じだから。それだけでは留まらないと藍は顔を上げた。
「先の先まで、隣に居てくれ。楽しいコトもそうでないコトも分け合って抱えていける様に」
ずっと二人。嫌だと言われても離れないからと唇に笑みを乗せて。
8/23と8/28。付き合ってから八カ月。あっという間の時の流れは学園祭の今日も同じで。
「学園祭、一緒に回れて楽しかったな。この雰囲気は名残おしいがこれからも思い出作って行こうな」
あさきの声音に優希は小さく頷いた。思い出作るイベント盛り沢山と八月を思い笑う彼女はお互い不器用と言う言葉に何かを思い出したように小さく笑う。
「そうだね、お互い不器用で今みたいな距離とか言葉遣い……特に私の方は出来なかったや」
思い出に浸り、引き寄せられた身体に「これからも二人で」と降る約束に静かに頷いた。
名残惜しくて全然来なかったなーと呟いた郁は夜の校舎を探検する。
「お邪魔しまーす」と笑う修太郎は人気のない教室の机の上に食べ物を勢ぞろいさせた。
「焼きそばもたこ焼きもお祭りっぽい。あ、ラムネあるよ」
「学園祭っていいよね。美味しいもの沢山食べれるし面白い企画一杯やってるし、コンテストは華やか」
たこ焼きを頬張りながら笑う修太郎に郁は「凝ってるよね。二日じゃ回りきれない」と笑う。
夏休み前の一大イベント。笑う郁へ修太郎は「椿森さんの浴衣、可愛かったよ」と柔らかく笑う。
盛大に鳴った音。窓から花火は見えるかなと二人して笑い合い、手持ち花火を買って帰ろうかと約束を交わした。
●
「お片づけ、手伝って貰っちゃってすみません」
荷物を確認し、椅子を二つ窓辺に並べて美希は肩を竦める。優生は重なる手を握りしめ、窓の外で揺れるキャンプファイアーの焔を眺める。
祭りの賑わいに、空に咲いた花の灯りに色付く頬が何処か大人びて。
「ね、優生君。来年もこうして遊びましょう? ね――」
もちろんの言葉のように一つ落とした口付けに頬が熱を帯びていく。夏のせいじゃない、貴方の所為だと首を触れば優生は小さく笑う。
蝉時雨に、花火の音が。
「―――」
飲み込まれた声音の響きに瞬いて美希は知っていると赤くなった顔を伏せた。きっと、笑っているでしょう?
空き教室で思い出を語り合いながらシェリーと七狼は互いに笑い合う。
ガラス瓶に幸せを書いて詰め込めば、色とりどりのカードが幸福を思い出させてくれて。
「君ノ水着は可愛かった……はサテオき。二日間みまもって、瓶に沢山ノ思い出が来てクレた」
くす、と笑うシェリーに七狼は小さく頷く。話しあった計画の欠片すら、この瓶の中にあれば愛おしくなって。
ぎゅ、と抱きしめられたその腕を撫でシェリーは瞳を伏せる。
「君と一緒に学園祭を過ごせて幸せだった。これからも沢山、瓶から溢れるぐらいの幸福を二人で紡いでいこうね?」
シェリーの言葉に七狼は幸福そうに笑みを浮かべる。
こうしてカードを書けたのは君のおかげだと暖かさを噛み締める様に強く、抱いて。
ささやかな打ち上げ――そんな言葉では片付けられないと昭子は知っていた。
純也の偏食は多岐に渡る。今回のオーダーはミートスパゲティ攻略依頼。
「いただきます。……飲食店に入られたのが、意外です。どうして、また」
学園祭の空気に誘われたのですか、と問い掛ける昭子に知り合いが参加するから見学に行ったと付け加えた純也はぎこちなく皿を見下ろした。
「……あ、おいしい」
口に含み美味しいと笑う昭子へと美味しいなら良かったと胸を撫で下ろす純也。
「謝礼は後日戦術道具を、或は希望はあるか」
「……では、こんど、来年、わたしとも一緒に、遊んで下さい」
ぱちくり、と瞬く純也は体感速度を思えば案外近いその先を思い浮かべたのか「了解した」と頷いた。
机の上のケーキとキャンドル。二人だけのこっそりとした後夜祭。
薄明かりの中で話す思い出と、はい、と口元へ運んだケーキの甘さが夢乃の中に深く残る。
部屋の壁に反射する灯りに「綺麗ね……」と見とれる夢乃の横顔を見詰めた衛は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「二人で見れるから、綺麗に見れるのかもな?」
ケーキをぺろりと舐めて、頬の感触に肩を跳ねさせた夢乃はそっと彼の頬へと触れる。
「今日は、ずっと一緒だね?」
「……ねぇ、衛さん」
忘れられない夜にしてくれる?
その問い掛けに消えたキャンドルの光り。仄かに彼等を照らしたのは窓から見えた大輪の花だけ。
から、と戸を閉めて顔を上げれば仄暗い教室に立つ恢と視線が克ち合った。
何処か大人びた雰囲気の彼に胸が高鳴った莉奈は誘われるままにラムネを受け取る。
「お疲れ様、入賞おめでとう」
「ありがとっ、恢くんは1位おめでと!」
にんまりと笑った莉奈は恢の言葉に嬉しそうに頬を緩める。
ひゅるひゅると音を立てる火の花。水鉄砲の銃口を上げ、定めた狙いの侭引いた引き金を引いた。
「Bang」
空に咲いた花よりも彼の仕草が綺麗に見えて。明るくなった教室で銃口に吹きかけた息だけが、印象的で。
「次は海にでも出かけようか。二人で、水着でさ」
小指を立て、指きりを使用。甘く食むような強さで絡めたそれから伝わる体温が心地よくて、仕方ない。
祭りの熱が名残惜しくて、まだ共に居たいと二人して辿りついたのは静かな教室。
「一日付合うてくれてありがとさん。今年もお前さんと過ごせて楽しかった」
「此方こそ一日すっごく楽しかった。ありがと」
同じ景色を見たいから、写真を一枚一枚見せれば、惜しむ気持ちを何処かへ飛び――話す声と笑顔が嬉しくて。
碧の瞳越しに見詰めた空の華。白い髪に掛かった鮮やかな光りのいろ。
触れた指先を繋いだまま、指きりなら約束しないとと近づいた距離に鼓膜を叩いた愛情の音色。
「これから先、学生じゃなくなっても、ずっと一緒に」
繋いだ指先と共に溢れそうな熱を抱えて、夏のはじまりに咲いた花は静かに消えた。
今日はまたとない夢の様なひとときだから。
祭りの夜はまだ長い――忘れないように、ずっと、胸に抱いていよう。
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月4日
難度:簡単
参加:76人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 5
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