夏の海、嵐を呼ぶ水着美女

     あおーいそら、しろーいくも。そしてうみ。
     空を見上げりゃカモメが飛ぶ。もしかしたらカモメじゃないかもしれない。
    「ん~……」
     ぐぅっと伸びをした途端、ぷるんとお胸が揺れる。
     フルカップなのにビキニトップからこぼれんばかりのお胸は健康的な小麦色。もちろんお肌も小麦色。
     ああ、夏の海の水着美女とはかくも素晴らしい。
     彼女がダークネスでなければ。
    「んっん~、暑いね! 暑いからみんな海に来るよね! その中には強い奴がいるかもしれないよね!」
     誰に言うともなく言いながら、シュシュシュシュシュ、とシャドーボクシングをする。
     そのたびにぷるぷるぷるぷると小刻みに胸が揺れた。
    「さあ~、このしじょーさいきょーのあんぶれっかぶる、あたこさんの相手になる奴は誰だぁ~!」
     ぽっきり折れて砂浜に突っ伏している『遊泳禁止区域』の看板を背に、アンブレイカブルはまだ見ぬ強敵に向けて吼えた。
     
    「海で巨乳が暴れようとしている」
    「よし、そこに居直れ」
     いたって真面目に告げた神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)に、白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)は手にする無敵斬艦刀を鞘から抜きかけ、場に集まった灼滅者のひとりに背後から取り押さえられた。
    「で、どういうことなんだ」
    「女のアンブレイカブルが、強敵を求めて海辺をうろついている。幸い遊泳禁止区域だから人はいないんだが、そこから移動して人の多い場所で暴れたら危険だからな」
    「あーなるほど」
     そのアンブレイカブルが巨乳なのか。
    「しかしまたなんで遊泳禁止区域に」
     問われてヤマトは資料を取り出しながら眉をひそめた。
    「どこかの誰かが勝手に入ろうとして看板が壊れたのを放置していて、それで気付かなかったようだ。それから、強敵を求めるとそいつはテンション上がりすぎて周囲が見えなくなるようだ」
     とはいえ、戦闘時に状況把握が疎かになるわけではないので、戦いに不利になることはないだろう。
    「敵の名前は嵐士・あたこ。栗色のショートボブに小麦色の肌が似合うビキニ美女だな。あと巨乳だが、これは戦闘に影響を与えない」
     彼女は徒手空拳のストリートファイトスタイルで戦うのを好み、他にバトルオーラに似た能力を使う。
     それは、戦うにはそれだけで充分という絶対的な自信から来るものだ。
    「灼滅できなくても、戦いで満足させれば去っていくだろう。周囲には障害物は一切ないから、奇襲や不意打ちは難しい。まあ段ボールとかに隠れて近付けば……」
    「何もない海辺に段ボールがあるってすごいシュールだな」
    「間違いなく目立つな」
     意味ないじゃん。
     まあ、小細工はしないで正々堂々と正面からぶつかっていけば間違いはない。
     恐らく相手もそれを望んでいるだろう。
    「ついでにお前たちも水着を持っていったらどうだ。さすがに遊泳禁止区域でとは言わないが、海開きも済んでいるし少しくらい遊んでもばちは当たらないだろ」
     遊泳可能区域を示した地図を取り出し、他の資料を片付ける。
     但し遊ぶのは構わないが、主目的を忘れないようにしてもらいたい。
    「本格的に暑くなってくると人出が多くなる。そうなるとダークネスの被害が増えてくるな」
     人々の被害を出さないためにも頼んだぞ、と言って、エクスブレインは灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    相良・太一(再戦の誓い・d01936)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)
    永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)
    一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)
    メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)
    風見・真人(狩人・d21550)
    今・日和(武装書架七一五号・d28000)

    ■リプレイ


     雲ひとつない空にはぴっかぴかの太陽。照らされる砂浜を波が行っては戻る。
     そして過激に体を動かす小麦色の巨乳美女。
    「大盛……いや、特盛か? あれ動きにくくないのか?」
     露出控えめに日焼け止めクリームで対策は万全。サングラスもキッチリ装備の一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)の言葉に、白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)が視線をそらした。
     彼女は決して豊かではないが、バンドゥビキニに包まれた箇所はそれなりにある。
    「わあ。あのお姉さん、水着姿で戦おうとしてるの? あのパンチ、プロレスラーっぽくないけど、まさかボクサーかな?」
     ギラギラと照りつける太陽を日傘の下から恨めしげに見上げているメリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)の隣で今・日和(武装書架七一五号・d28000)が感心するように声をもらす。
    「どっちでもいっか、ボク達はお姉さんが満足するような戦いをするだけだよね!」
    「青い空! 白い雲! そして巨乳水着美人! ……夏、最高だな! 相手がダークネスでガチ喧嘩じゃなけりゃだが!」
     気合を入れる日和の隣で、気勢を挙げる相良・太一(再戦の誓い・d01936)。
     そして「おっ姉さーん!」といい笑顔と弾む声で駆けていく。
     彼はおっぱいには無条件で向かう習性があるから仕方ない。そう、仕方ないのだ。
    「あ、こら! ひとりで突っ走ってんじゃねえ!」
     永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)が慌てて後を追いかけ、他の灼滅者たちも彼らを追う。
     転びながらも先走りすぎないように速度を調整しながら真正面から駆けてくる少年に、お姉さん――嵐士・あたこは両腕を差し伸べ、
    「え」
     土壇場で堪えようとした灼滅者の腕を掴み、軽く飛び上がるとその勢いで背中から砂浜に叩きつける!
    「太一!」
     ばさあっ!! と跳ね上がった砂に仲間たちの声が上がった。
    「おぅ?」
     ダークネスは今しがた投げた相手を見て、それから追いついた灼滅者たちを見回した。
     こくりと首を傾げるあたこに、風見・真人(狩人・d21550)がぐっと拳を掲げて見せる。
    「たのもー、俺たちは武蔵坂の灼滅者だ。お前が暴れてる情報が有ってな。悪いけど倒させてもらうぜ、おっぱいちゃん」
     名乗りながらも揺れる胸に目が行ってしまうのは本能的なことなので仕方がない。
     パーカーにサーフパンツの海を満喫する気満々な格好なのも仕方ない。夏の海は罪なヤツ。
    「それと、正直タイマンだと強すぎるからハンデもらうから!」
    「ええ~!?」
     こういうタイプはタイマンが好きだからと予想したとおり、アンブレイカブルは不満そうな声を上げた。
     と。
    「(何やらとてもお元気なアンブレイカブルさんですね)」
     また、何やら御遊泳が禁止されています区域におられますとの事ですが、この事は申し上げさせて頂きます方が宜しいのでしょうか……
     やや気圧されながら、星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)がおずおずと口を開く。
    「嵐士さん、少々申し上げ難い事ですが……こちらは御遊泳を禁止されています区域となっております」
     その言葉に視線をめぐらせると、桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)が不機嫌そうに新しい遊泳禁止区域の看板を設置して見せつけた。
     そのそばでぽっきり折れて砂浜に突っ伏している看板。
    「看板が折れていましては、お気付きになられません事も分かります……」
    「しょうがないよね!」
     みくるの言葉にあたこは笑い、紅鳥が渋い顔をした。
    「どっかネジが吹っ飛んでるのか……誰も来ない時点でおかしいと思わねぇのかよ……」
     彼の言葉に頷き、理彩がぎりと歯を軋らせる。
    「周りもロクに見えていないで、最強のアンブレイカブルとは聞いて笑わせるわ」
     殺気。否、武気。
    「……武だけでも。貴女より恐ろしい化物を私達は何人も見てきたわ」
     貴方の世界の狭さ、教えてあげる。
     すらりとしてスタイルのよい肢体に自信と敵意を満たす灼滅者に、ダークネスは不敵に笑った。
    「あたこさんの世界は狭いよぅ? だって、あたこさんより強いか弱いかだからね!」
     握った拳を軽く振るって言う彼女もまた自信に満ちている。
    「ところで太一は?」
     見ると、彼は仰向けになったまま下からのアングルを堪能、もとい敵の実力を計っていた。
    「こいつは強敵だぜ……!」
    「さっさと起きろっ!!」
     ごすっ!! もう一度砂が跳ね上がる。
     それはともかく、戦いだ!


     ――極限動作履行開始。邀撃行動に移行します。
     細い腕を異形と化し、日和は柔らかい砂を思いきり踏み込んでダークネスへと飛び掛かる。
    「鬼手召喚。対象を破砕します」
     大きく振るい、拳を交わすように打ち込む。ダークネスは明朗な笑みを変えず自身の拳をまっすぐに伸ばし、灼滅者の腕を掴むと横に受け流してその背を叩いた。
    「甘いね!」
     短く明確に言い、理彩が撃ち放った漆黒の弾丸には踊る足取りでかわしてみせる。
    「…………」
     メリッサはぼんやりした表情の中、眼光だけが不気味な迫力がある目を閉じ、バベルの鎖をその瞳に集中させる。
     色黒の腕を刃と成して斬りかかる真人の攻撃を受け止め、優しく抱き寄せるように距離を詰めた。
     何か柔らかい感触を感じたと思った次の瞬間あたこがすっと姿勢を低くし、
    「せい!」
    「!!」
     っだぁん!!
     三度砂が跳ね上がった。雷をまとう拳の一撃で下から突き上げられ、吹き飛ばされたその勢いで背中から叩き付けられる。
     激しい衝撃に真人は一瞬呼吸ができず、ひゅ、とか細い息が漏れた。
    「ノノ、お願い」
     みくるが告げて彼のナノナノ・ノノがふわふわと癒し、遥凪がダイダロスベルトを操り鎧って護る。
     礼を言いながら立ち上がった灼滅者に笑うあたこは、紅鳥が茜色の十文字槍をしごき繰り出す旋撃を跳躍で避けると、くるりとバック転で後ろに下がった。
     閃は魔力の霧を展開しながら口元に笑みを浮かべる。
    「わかりやすい性格の格闘娘ならば、正面から堂々と思いっきりぶつかってやろうかの。相手にとって不足なし!」
     愛らしい少女のような姿で言う彼に、彼がこんな感じになった元凶でもあるビハインド・麗子(毒舌系オネエ)がどこか艶めいた仕草で耳打ちする。
     その言葉に少し眉をひそめ、しかしぐっと気合を入れた。
    「とはいえ、手ごわい相手になりそうじゃな……他の人に被害が出ないようなんとかここで食い止めねば。力負けはせんぞ!」
    「ふっふーん、かかってきなさい!」
    「言われなくても!」
     手で招いて見せるアンブレイカブルへと太一が駆け、炎を得物に宿して激しい一撃を叩き込む。
     がっ! と掲げて防いだ腕に炎が舞い、小麦色の肌がじりと焼かれる。
     彼女の身体を守るのは水着とバベルの鎖のみ。そしてサイキックはバベルの鎖を越えてダメージを与えた。
    「どうだいあたこさん! 俺の炎は!」
     ばっとまとう炎を払って問う彼に、ダークネスはにっと笑って見せる。
    「だが夏も俺達の戦いもここからだ! もっと熱く燃え上がろうぜ!」
    「いいね、しびれるねえ!」
     灼滅者とアンブレイカブルの熱いやり取りに、メリッサがぐったりと溜息をついた。
    「(アンブレイカブルの中でも……あそこまで頭が緩そうなのは初めて見た……茹だっちゃったのかな……?)」
     だが、相手はこれでもダークネス。その実力を、今目の当たりにしている。
    「(……油断はしちゃいけないけど、負けないよ……)」
    「参ります」
     モップを手にみくるは小柄な身を躍らせる。一見武器とは思えないそれの正体を見極めようとダークネスの目が向けられ、柄の一部が一瞬ちらと日差しを反射するのに気付く。
     仕込みモップから抜き放たれた刃が閃き、上段から一息に振り下ろされ、だが切っ先は敵を捉えられず空を裂き数瞬前までそこにあった気配だけを斬る。
     身軽に跳躍して後方宙返りを決めて見せると、アンブレイカブルはふふんと笑った。
    「うーん、まだ準備運動だよね! 熱く激しくやろうよ!」
     両肘を脇に寄せるポーズをとると、ぐっと強調された胸がぷるんと揺れる。
     もちろん、灼滅者たちもまだまだ熱く激しくやるつもりだ。但し拳で。残念ながら拳で。
    「貴重なおっぱい……灼滅するのが惜しいぜ」
    「ああ……だが俺たちは灼滅者、ダークネスとは戦わなければならない……っ!」
    「何を言っているんだお前らは」
     汗とは違うしずくで頬を濡らす真人と太一に紅鳥がツッコミを入れる。
     と、そこへ激しい砂煙をあげて疾走する影が。
    「巨乳は滅べぇぇぇぇぇええええ!?」
     妖怪「胸置いてけ」と化した待宵・露香(野分の過ぎて・d04960)のドロップキックが炸裂!!
     だがあたこはひらりとかわす!!
     なおもドロップキックを食らわせようとする彼女の胸は、確かにあたこよりはないのだが。
    「あれでないなら全国の慎ましい胸の女性はどうなるんだ……」
    「いやもしかして、まさかの底上げか!?」
    「俺に訊くな」
     おっぱいマイスターたちから問われて視線を逸らした。ついでに遥凪が俯いてぷるぷるしていた。
    「そうだよ、大きさは重要じゃないよ! 大きすぎても困るんだよ!?」
    「お前も火に油を注ぐ発言を控えろ」
     胸を強調するように腕を組んで主張するダークネスにもツッコむ。
    「……本当にふざけた相手ね」
     手にした刀を構え直し、理彩はぎりと敵を睨んだ。
    「(撤退させればそれで十分という話だったけど……冗談じゃないわ。ちゃんと仕留めないと)」
     不死身の化物じゃないのだから、殺せば死ぬって事を教えてあげる。
     一見クールで冷静に見える彼女だが、その根底は『ダークネスはとにかく戦って斬って殺せばいい』という脳筋思考だ。
     故に。その太刀筋はひたすらにまっすぐだった。
    「腐らせるものは腐らせ、焼くものは焼く!」
     凛としたその身にたぎる炎を刀身へと宿し、半ば力任せに振り抜く。
     斬撃と共に襲う炎熱はダークネスを焼き焦がすが、すぐに払われてしまった。
    「とはいえ、アンブレイカブルの状態異常耐性はダークネス随一……焼け石に水か」
     相手もただの脳筋ではない。自身の実力に絶対の自信を持つアンブレイカブル。
     灼滅者たちがまったくの手加減なし、全力で攻撃を仕掛けても、その顔から笑みが消えることはない。
     そして凶悪な殺気をまとうこともない。彼女にとって、死んだとしてもそれはただ実力勝負の結果にしか過ぎない。
     純粋に、『死ぬまでぶつかり合おう』というだけだ。
     みくるの一閃を軽くかわし、闘気をその拳に込めて理彩へと急襲する。
     防ぐ、いや、避けられない。
    「銀!」
     真人の令に彼の霊犬・銀が素早く灼滅者とアンブレイカブルの間に割って入った。
     激しい連撃をその身で受け止めたサーヴァントが体勢を整えるために距離を取るのと入れ替えに、主が鋭い蹴りを放つ。
     腕を前に構えて蹴撃を受け、反撃しようと身をひるがえしたその時、紅鳥とメリッサが魔力を矢と成して狙い撃つ。
    「……逃がさない……」
     ガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!
     少女の言葉と共に爆煙と砂が派手に踊り、その中で人影が揺れるのが見えた。
     ざあっと煙幕を払ってダークネスは、炎と血にまみれた姿を灼滅者の前に見せる。
     胸を真横に走る傷から流れる血を拭うが、次から次へとあふれ出て意味を為さない。
    「あたこはほんとに強いね。その力、弱いものに振るうのは勿体無い」
     一瞬胸に目をやりかけ顔のほうへと目を向けて真人が言うと、
    「あたこさん、弱いって分かってる奴は狙わないよぅ。でも、自分は強いって言う奴ほど弱いんだ」
     残念ながらね、と肩をすくめた。
     その振る舞いは、決して軽微ではないダメージを負っているとは思えない。
     対面したばかりから微塵の陰りもないその元気にあてられ、メリッサはぐったりとした。
    「なんであんなに元気なの……太陽光発電でもしてるの……?」
     メリッサ、帰ってゲームしたい……
     溜息をつく少女の前に閃が躍り出て、自分の体ほどの巨斧を力いっぱい振り回す。
     ひゅぅ、と軽く口笛を吹いてあたこは重厚な一撃をかわし、
    「魔力増幅。対象に輻射します」
     日和の振るう渾身の強打には拳で受けて応え、地を蹴り素早く繰り出す太一の拳打をしたたかに受けかすかに眉を寄せた。
    「んん……っふ」
     笑い出しそうなのを堪えているようだ。
     理彩はふっと息を吐いて集中する。狙うのはただひとつ。
    「この一撃で決める。――心壊!」
     づぁんっ!!
     納刀からの神速の一閃が迸る。美しくも力強い攻撃に周囲の砂が舞い上がり視界を覆い隠した。
     獲った。その確信は、しかし衝撃に変わる。
     砂埃が収まり姿を見せたアンブレイカブルは、にっと不敵な笑みを浮かべて腕を掲げ、渾身の居合斬りを防いでいたのだ。
    「ふふっ、ハンデありとは言え強いねえ!」
     そっと切っ先を押して遠ざけるとあたこは声を上げて笑う。
     全身傷だらけながら、決して不利も敗北も感じていない。いっそ無邪気ですらあるその振る舞いに、灼滅者たちは戦慄を覚えた。
    「お強いですね……」
     みくるの溜息にぶいっと指を立てて応えた。
     決して屈することのないその強さに、真人が声をかける。
    「なあ、俺たち……武蔵坂と協力する気はないか? もっと強いダークネスと幾らでも戦えるぜ」
     申し出に、うーん。と首を傾げ、
    「ごめんねえ、強い相手と戦えるのは楽しそうだけどあたこさん今そういうの興味ないんだあ」
    「そうか……そうだよな」
    「でもさ、あたこさん以外に誰か困ってる人とかいるかもしれないし、そういう人に手を差し伸べてあげればいいと思うよぅ?」
     握った両手をぐっと上に伸ばして軽くジャンプしながら、ふぁいと! と応援する。跳ねた勢いで大きく胸が揺れた。
     ついうっかり視線が行ってしまったのは、潮騒のイタズラということにしておこう。
    「もし人寂しい時があったら……いつでも俺を呼んでくれていいんだぜ?」
     胸からようやく目を離し、太一がイケメンっぽく告げる。
    「ってか一般人とか弱いだろ! 俺とやろうぜ! もっと強くなっとくから!」
    「そうだねえ、次はもーっと強くなってねえ?」
     笑ってアンブレイカブルは足元に転がっていた拳大の巻貝の殻を拾い上げる。そしてにこやかな笑みとともに、乾いた音を立てて貝は粉々に砕け散った。
     次は確実に潰す――そういう意味ではないのだろうが。
    「それじゃ、またねえ!」
    「じゃあねあたこさん!」
     大きく手を振り去っていくあたこに太一も大きく手を振って返した。
     次に会う時は今よりも強くなり、次に会う時こそは必ず倒す。
     そう、灼滅者たちは誓って。


    「楽しかったーっ!」
     ぐーっと伸びをして日和が笑う。
    「よし!お前ら泳ごうぜ!」
     誰も来なかったら切ないけど孤独でも泳ぐよ! だって夏だから!
     太一の言葉に仲間たちは一度顔を合わせ、
    「じゃあパス」
    「私も」
    「何だとー!?」
     自分で言っておきながら予想外の言葉に声を上げる。
     そんな彼らに理彩は笑い、
    「ふ、ここまで来て泳いで行かないのも風情のない話ね。時間まで楽しんでいきましょうか」
     言って、長い黒髪をゆったりとかきあげさり気なーくポーズをとる。あたこに張り合ってみたのは秘密だ。
    「ボクも少々御遊泳させて頂きたいと思います」
     クリーニングのESPで自身とノノを綺麗にし周囲の掃除をしていたみくるもこっくり頷き、ノノも一緒に泳ぐ? と訊くと楽しそうに飛ぶ。
     お姉さんみたいに入ってきちゃうとマズイもんね、と日和が倒れていた看板を直してから、みんなで遊泳可能区域へと移動する。
     みんなが思い思いに泳いだりするのを真人は海岸線で見ていると、浮き輪に乗ってぷかぷか浮かぶ閃と紅鳥の姿が目に入った。
     そして学校指定の水着でのんびり浮かんでいる閃が、あんまりのんびりしすぎてひっくり返るのを目撃。
    「ちょっ……大丈夫か!?」
     慌てて助けに向かう仲間を、フリルたっぷりの水着で首まで水に浸かって浅瀬を漂っているメリッサはこちらもレースたっぷりの大きな帽子の下から眺める。
    「暑いの嫌い……せめて……水の中に……」
     とぷん。飛沫がひとつあがった。

     夏はまだ始まったばかり。
     たとえそれが、学生らしい安らぎばかりとは限らなくとも。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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